説明

耐熱透明容器

【課題】 食品を収納して販売するための食品容器等において、電子レンジ加熱やレトルト殺菌に耐え得る耐熱性を有するとともに、優れた透明性を有する耐熱透明容器を効率よく製造できるようにする。
【解決手段】 A−PETの一次延伸熱固定工程と、熱成形機の二次延伸熱固定工程とを経て冷却されたものであって、該一次延伸熱固定工程に於いて、A−PETシートを、延伸温度90〜120℃でMD(縦方向)に2.0〜4.0倍に一軸一次延伸した後、延伸温度より5〜20℃高い温度で一次熱固定し、該二次延伸熱固定工程に於いて、一次延伸A−PETシートを80〜130℃で加熱成形して二次延伸し、容器の外側に接する金型を室温〜120℃に設定し、容器の内側を130℃〜200℃に加熱して二次熱固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンビニエンスストア等に於いて食品を収納して販売するための食品容器に関し、さらに詳しくは、油分を含む食品が電子レンジ加熱で上昇する150℃でも変形がない耐熱性を有するとともに、優れた透明性を有する耐熱透明容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンビニエンスストア、デパート、スーパー等の食品売場於いては、トレー、カップ、丼容器等の食品容器に、惣菜、麺類、サラダ等の食品が詰められて売られている。このような食品容器は、食品を収納する容器本体と、容器本体を密封する蓋体とで構成されており、一般に、容器本体は、ポリプロピレン、発泡ポリプロピレン、フィラー入りポリプロピレン、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、発泡ポリスチレン、耐熱発泡ポリスチレン、A−PET(Amorphous PET)等のシートを真空、圧空、真空・圧空成形機で熱成形して製造されている。また、蓋体は、A−PET、ニ軸延伸ポリスチレン(OPS)、ポリプロピレン(PP)等のシートで形成されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、一軸延伸されたPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムが、高透明で耐熱性があることからIT関連のタッチパネルや液晶表示素子として用いられてきている(特許文献2、3、4参照)。
【0004】
ところで、近年、コンビニエンスストア等で購入した食品を、食品容器に収納された状態でそのまま電子レンジで温めることが日常的に行なわれているが、このように食品を食品容器ごと電子レンジで温めると、油分を含む食品は150℃ぐらいまで温度が上昇するものであった。したがって、食品容器には、150℃まで耐え得る高耐熱性が要求されている。
【0005】
さらに、食品容器に於いては、中身食品が一目でクリアに認識でき、商品性を向上させるために、高透明性が要求されている。
【0006】
しかしながら、上述した従来使用されている各種シートに於いては、高耐熱性と高透明性との2つを同時に満足するものが存在しなかった。すなわち、これらの各種シートの内、高透明性を有するものとしては、A−PETシートとOPS(ニ軸延伸ポリスチレン)シートとがあるが、これらのシートは、70℃ぐらいで軟化し、高耐熱性を有するものではなかった。また、PPシートは、高耐熱性を有するが、透明性が劣るものであった。
【0007】
なお、タッチパネル等に用いられる一軸延伸されたPETフィルムは、高透明性かつ耐熱性であるが、特許文献2にも記載されているように、TD(横)一軸延伸後220℃で熱固定されており、加熱しても伸びがなく熱成形機で成形することは不可能である。
【0008】
以上のように、従来、電子レンジで直接加熱される食品容器に於いては、高耐熱性及び高透明性を要望されていたが、これら両者を同時に満足する食品容器は未だ提案されていなかった。
【0009】
そこで、本発明者らは、A−PET(非晶性ポリエチレンテレフタレート)シートを加熱して一次延伸後一次熱固定する一次延伸熱固定工程と、該一次延伸熱固定工程で作製された一次延伸A−PETシートを、熱成形機の金型で加熱成形し成形によるニ次延伸後同じ金型内で二次熱固定する二次延伸熱固定工程とを経て冷却されたものであって、該一次延伸熱固定工程に於いて、ロールによる延伸装置を用い、A−PETシートを、延伸温度90〜120℃でMD(縦方向)に2.6〜3.7倍に一軸一次延伸した後延伸温度より5〜20℃高い温度で一次熱固定し、該二次延伸熱固定工程に於いて、一次延伸A−PETシートを80〜130℃で加熱成形して二次延伸し、同じ金型内で160℃以上で二次熱固定し、一次延伸熱固定工程を経た一次延伸A−PETシートの下記の式で示される結晶化度が22%以上30%未満であり、前記二次延伸熱固定工程を経て冷却された容器の下記の式で示される結晶化度が30%以上であることを特徴とする耐熱透明容器を提案した(特許文献5参照)。
【0010】
【数1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−329972号公報
【特許文献2】特開2000−82335号公報
【特許文献3】特開2000−82336号公報
【特許文献4】特開平5−165035号公報
【特許文献5】特許4223520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記本発明者らが提案した耐熱透明容器は、優れた透明性があり、150℃の耐熱性を有する優れた容器であった。
【0013】
しかしながら、二次熱固定工程に於いて、成形金型内で160℃以上で熱固定するため、結晶化度が30%以上でも非晶部分が軟らかいものであり、容器全体としても軟らかく、離型時に無理な力が加わると変形し易いものであった。したがって、成形金型から成形品(耐熱透明容器)を離型する際、成形品に冷風を吹き付けて固化させる必要があり、生産性に改良の余地があった。
【0014】
本発明は、以上の問題点を解決し、成形金型から成形品を離型する際、成形品に冷風を吹きつける必要がなく、前記二次熱固定後、直ちに離型でき、生産性に優れた耐熱透明容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討し、耐熱透明容器の外側に接する金型(雌金型)の温度を上昇させずに冷却金型とするとともに、耐熱透明容器の内側をPETの最適結晶化温度である130℃〜200℃に加熱すれば、耐熱透明容器の外側部分において、離型の際に加わる力に耐え得るだけの剛性を付与することができるとともに、耐熱透明容器の内側部分において、PETの結晶化が進み150℃の耐熱性を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
請求項1に係る耐熱透明容器は、A−PET(非晶性ポリエチレンテレフタレート)シートを加熱して一次延伸後一次熱固定する一次延伸熱固定工程と、該一次延伸熱固定工程で作製された一次延伸A−PETシートを、熱成形機の金型で加熱成形し成形によるニ次延伸後同じ金型内で二次熱固定する二次延伸熱固定工程とを経て冷却されたものであって、該一次延伸熱固定工程に於いて、ロールによる延伸装置を用い、A−PETシートを、延伸温度90〜120℃でMD(縦方向)に2.0〜4.0倍に一軸一次延伸した後延伸温度より5〜20℃高い温度で一次熱固定し、該二次延伸熱固定工程に於いて、一次延伸A−PETシートを80〜130℃で加熱成形して二次延伸し、耐熱透明容器の外側に接する金型を室温〜120℃に設定するとともに、耐熱透明容器の内側を130℃〜200℃に加熱して二次熱固定し、一次延伸熱固定工程を経た一次延伸A−PETシートの下記の式で示される結晶化度が22%〜30%未満であり、前記二次延伸熱固定工程を経て冷却された耐熱透明容器の下記の式で示される結晶化度が30%以上であることを特徴として構成されている。
【0017】
【数1】

【0018】
請求項2に係る耐熱透明容器は、前記耐熱透明容器の内側の130℃〜200℃の加熱を、150℃以上の過熱水蒸気を吹き付けることにより行なうことを特長として構成されている。
【0019】
請求項3に係る耐熱透明容器は、前記耐熱透明容器の内側の130℃〜200℃の加熱を、加熱した雄金型を接触させることにより行なうことを特徴として構成されている。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る耐熱透明容器に於いては、一次延伸熱固定工程に於いて、A−PETシートの結晶化度を熱成形できる範囲内で大きくし、さらに、二次延伸熱固定工程に於いて、一次延伸A−PETシートを容器の形状に成形すると同時に結晶化度を大きくし、耐熱性を向上させている。
【0021】
一次延伸熱固定工程に於いては、A−PETシートを延伸し、その後熱固定するだけでよいので、安価な装置を用いることができる。また、A−PETシートを、延伸温度90〜120℃でMD(縦方向)に2〜4倍に一軸一次延伸した後延伸温度より5〜20℃高い温度で一次熱固定することにより、透明性を維持しながら結晶化度を22%以上30%未満にコントロールでき、延伸A−PETシートの熱収縮をおさえることができる。
【0022】
さらに、一次延伸熱固定工程を経た一次延伸A−PETシートの下記の式で示される結晶化度を、22%以上30%未満とすることにより、熱成形できる結晶化度であり、次の二次延伸熱固定工程で高耐熱性が得られる結晶化度30%以上に近づけることができる。
【0023】
【数1】

【0024】
二次延伸熱固定工程に於いては、一次延伸A−PETシートを80〜130℃で加熱成形して二次延伸し、次いで、耐熱透明容器の外側に接する金型を室温〜120℃に設定するので、耐熱透明容器の外側部分において温度が上昇することが無く、非結晶部分においても十分な剛性を保持している。したがって、離型の際に加わる力で変形することが無いので、冷却等の工程を経ることなく、直ちに離型することができる。その結果、生産性を格段に向上させることができる。なお、容器の外側に接する冷却金型が120℃を超えると、結晶化していないPET樹脂が軟らかくなり、離型に耐えうるだけの剛性を得ることが出来ないものであった。
【0025】
また、一方、耐熱透明容器の内側を130℃〜200℃のPETの最適結晶化温度に加熱して二次固定するので、結晶化が進み、容器全体としての結晶化度を30%以上にすることができる。したがって、150℃の耐熱性を付与することができる。
【0026】
さらに、二次延伸熱固定工程を経た容器の下記の式で示される容器全体としての結晶化度を、30%以上とすることにより、高透明で150℃の高耐熱性を付与することができる。
【0027】
【数1】

【0028】
請求項2に係る耐熱透明容器に於いては、耐熱透明容器の内側に150℃以上の過熱水蒸気を吹き付けることにより加熱するので、耐熱透明容器の内側をPETの最適結晶化温度である130℃〜200℃に加熱することができる。また、過熱水蒸気は気体であるので、文字や溝、強度補強の為のリブ等を有する複雑な構造を持つ耐熱透明容器であっても、隙間に入り込んで加熱することができる。
【0029】
請求項3に係る耐熱透明容器に於いては、加熱した雄金型を接触させることにより耐熱透明容器の内側を加熱するので、耐熱透明容器の内側をPETの最適結晶化温度である130℃〜200℃に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】延伸A−PETシートの製造装置の概略図
【図2】延伸A−PETシートの加熱装置の概略図
【図3】過熱水蒸気を用いた熱成形機の概略図
【図4】過熱水蒸気発生装置の概略図
【図5】熱成形機の概略図
【図6】PETの結晶化速度を示す図
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の耐熱透明容器は、A−PETシートを用いるものであり、このA−PETは、非結晶状態であり、その結晶化度は大略5〜7%のものである。
【0032】
A−PETシートとしては、一般に市販されているA−PETシートを用いることができ、A−PETシートに用いる樹脂は、固有粘度(IV値)が高いものであることは必要ではないが、固有粘度が0.6dL/g以下の樹脂や、回収PETボトルのフレークを用いた樹脂から成形したシートだと表面性が良好でない場合があるので特別な前処理が必要である。
【0033】
一次延伸熱固定工程は、まず、A−PETシートを加熱して一次延伸する。このA−PETシートは、予め成形して得たものを用いても、Tダイ成形機で成形直後のA−PETシートをインラインで延伸手段に送り込んでもよい。
【0034】
一次延伸の延伸温度は、90〜120℃が好ましく、95〜110℃がより好ましい。延伸温度が90℃未満であると、A−PETシートが延伸される際に張力が掛かりすぎて延伸ムラを起こして、延伸A−PETシートの偏肉が起こり易くなり、また、120℃を超えると、シートが白濁気味となり表面肌あれも発生し、透明で良好な延伸A−PETシートが得られない。
【0035】
延伸倍率は、2〜4倍が好ましく、2.6〜3.7倍がより好ましい。延伸倍率が2倍未満であると、示差走査熱量計(DSC)測定から冷結晶化点が観測され、結晶化度が22%未満となって後述する熱成形で成形体が白化してしまう。また、4倍を超えると延伸時に延伸ロールでスベリが起こり易くなり、すべった部分とすべらない部分があるためシートに横波模様が発生したりして、良好な一軸一次延伸A−PETシートが得られない。
【0036】
延伸装置としては、例えば、加熱ロールを用いた延伸装置を用いることができるが、この加熱ロールの短区間の1段延伸でも、2段延伸以上の多段延伸であってもよい。
【0037】
一次熱固定の温度は、特に限定されないが、アニールによる配向緩和をさせる観点から延伸温度より5〜20℃高い温度が好ましく、熱固定温度が、延伸温度より5℃より高くないと、シートの熱収縮率が大きくなる。また、延伸温度より20℃より高いと、表面に肌荒れが起こり白化気味となる。
【0038】
なお、上記熱固定温度の範囲に於いて、延伸A−PETシートの加熱収縮率が小さくなり、熱成形体を製造する際に変形を少なくできるので、高めの熱固定温度とすることがより好ましい。
【0039】
また、熱固定ロールの速度はシートの配向緩和に合わせるため延伸ロール速度より0.5〜10%程度遅めにする。
【0040】
以上のような一次延伸熱固定工程を経た一次延伸A−PETシートは、下記の式で示される結晶化度が、22%以上30%未満であることが好ましい。結晶化度が22%未満であれば、冷結晶化点が存在するので、二次延伸に於いて加熱された際、白化する恐れがある。また、30%以上であると、熱成形が困難となり、金型の再現性が得にくくなる。
【0041】
【数1】

【0042】
二次延伸の延伸温度は、80℃〜130℃が好ましく、90℃〜120℃がより好ましい。延伸温度が80℃未満であると、成形体に波打ちが発生する、また、130℃を超えると、シートのドローダウンが大きくなり成形された時に成形体にシワが発生する。
【0043】
二次熱固定は、耐熱透明容器の外側に接する金型を室温〜120℃に設定するとともに、耐熱透明容器の内側を130℃〜200℃に加熱することにより行なう。耐熱透明容器の内側を130℃〜200℃に加熱することにより、好適かつ迅速に結晶化させることができる。すなわち、図5はPETの結晶化速度(不溶性触媒)を表わしたもので、横軸に結晶化温度、縦軸に半結晶時間を採ったものである。この図より、130℃〜200℃が最適な結晶化温度であることが判る。すなわち130℃未満では分子の自由度が小さくなり、また200℃以上では結晶化のドライビングフォースが小さくなるので、結晶化速度が遅くなるものである。以上のように、PETの最適結晶化温度である130℃〜200℃で熱固定する。
【0044】
耐熱透明容器の内側を加熱する手段としては、過熱水蒸気を用いる方法がある。すなわち、真空・圧空成形による熱成形おいて、圧空の変わりに過熱水蒸気を用いるもので、過熱水蒸気を吹き込むことにより、延伸A−PETシートを雌金型(冷却金型:室温〜120℃)に押し付けて成形すると同時に過熱水蒸気の熱で耐熱透明容器の内側を130℃〜200℃に加熱し二次熱固定するものである。
【0045】
過熱水蒸気を生成するには、例えば、ボイラーで発生した蒸気を過熱水蒸気発生装置を通すことにより行なうことができる。この過熱水蒸気発生装置としては、パイプ内部に金属からなる発熱体を配置するとともに、パイプ外部にコイルを巻回したもので、コイルにより発生した高周波磁束を発熱体に通過させることにより、発熱体内部に渦電流を発生させ、この渦電流により発熱体が発熱するようにしたもので、パイプ内を通過する水蒸気を発熱体で加熱し、加熱水蒸気とするものである。
【0046】
過熱水蒸気の温度は、高周波磁束の量、発熱体の量、ボイラーからの蒸気の流量等を変えることによって自由にコントロールできるが、PETの結晶化のためにはPETの最適結晶化温度の130℃以上とする必要があるので、装置による熱損失を考慮すると150℃以上が好ましい。
【0047】
耐熱透明容器の内側を加熱する他の手段としては、容器成形の際に用いる金型の雄金型を加熱(130℃〜200℃)して用いる方法がある。雄金型は、成形した際、耐熱透明容器の内側となる延伸A−PETシートの面に接触するので、耐熱透明容器の内側のみを加熱することができる。雄金型(加熱)と雌金型(冷却)とは同じ形状であるいわゆるマッチモールドであることが好ましく、雄金型と雌金型との間隔は、延伸A−PETシートの厚み以下であることが好ましい。
【0048】
このような加熱雄金型と冷却雌金型とで成形するには、80℃〜130℃に加熱した延伸A−PETシートを、雄金型で伸ばしながら雌金型に押込んだ後、雄金型に形成された真空・圧空口を真空にして雄金型と延伸A−PETシートとの間に存在する空気を吸引する。したがって、延伸A−PETシートは雄金型に密着して成形されるとともに、130℃〜200℃のPETの最適結晶化温度で一定時間保持され、熱固定される。次いで、雄金型の真空・圧空口から圧空を吹出すとともに、雌金型に加工された真空口を真空にして、成形された耐熱透明容器を雌金型に密着させる。したがって、耐熱透明容器の外側部分は冷却させることになるので、温度の上昇が防止され、剛性の低下を防止するので、その後直ちに取り出すことができる。
【0049】
以上のような二次延伸熱固定工程を経た二次延伸A−PETシート(熱成形体)は、下記の式で示される容器全体としての結晶化度が、30%以上であることが必要で、結晶化度が30%未満であると、十分な耐熱性を得ることができない。
【0050】
【数1】

【0051】
本発明の耐熱透明容器は、耐熱性と透明性とが要求される各種容器に適用することができる。例えば、食品容器、特に電子レンジで加熱する食品容器やレトルト食品容器に最適である。
【0052】
本発明による耐熱透明容器を製造する工程について図面を参照して説明する。
【0053】
図1は縦一軸延伸A−PETシートの製造装置の概略図、図2は延伸A−PETシートを加熱する装置の概略図、図3は過熱水蒸気を用いた熱成形機の概略図、図4は過熱水蒸気発生装置の概略図である。
【0054】
図1において、1はA−PETシート、2は予熱ロール、3はニップロール、4は加熱ロール、5は延伸ロール、6は熱固定ロール、7は縦一軸延伸A−PETシートであり、A−PETシート1を、まず予熱ロール2で70〜90℃に予熱した後、加熱ロール4で90〜120℃に加熱する。そして、この加熱されたA−PETシート1を延伸ロール5により、縦方向に2〜4倍延伸する。さらに、この一軸延伸されたA−PETシート1は熱固定ロール6で、加熱ロール4で加熱した温度より5〜20℃高い温度で加熱されて熱固定され、縦一軸延伸A−PETシート7が完成する。
【0055】
図2において、11は上部加熱ヒータ板、12は下部加熱ヒータ板であり、上記図1で示した縦一軸延伸A−PETシートの製造装置で製造した縦一軸延伸A−PETシートを加熱(80℃〜130℃)するためのものである。
【0056】
図3において、20は過熱水蒸気を用いた熱成形機本体、30は熱成形機本体20に過熱水蒸気を供給する過熱水蒸気発生装置、40は過熱水蒸気発生装置に水蒸気を供給するボイラーである。熱成形機本体20は、雌金型21と、上金型22と、上下方向に移動自在に設けられたプラグ23とで構成されており、これら雌金型21、上金型22及びプラグ23の内部には、加熱するためのヒーター24が埋設されている。プラグ23内部には、過熱水蒸気を通すための過熱水蒸気孔(図示せず)が多数形成されており、その先端は表面において開口し吹出し口25となっている。この過熱水蒸気孔は過熱水蒸気発生装置30に連結されており、過熱水蒸気発生装置30から送られてきた過熱水蒸気を吹出し口25から吹出すようになっている。
【0057】
前記過熱水蒸気発生装置30は、図4に示すように、パイプ31の内部には、金属片を多数積層させた発熱体32が収納されており、パイプ31の外部には、ワークコイル33が巻回されている。このような加熱水蒸気発生装置において、ワークコイル33に高周波電流を流して高周波磁束34を発生させ、この高周波磁束を発熱体に貫通させると発熱体は渦電流35が発生し、発熱体の表面が電気抵抗でジュール熱が発生し自己発熱する。したがって、パイプ31の内部を通る水蒸気は発熱体により加熱され、過熱水蒸気になるものです。
【0058】
上述したような過熱水蒸気を用いた熱成形機で耐熱透明容器を成形するには、まず、図2に示す加熱装置で、延伸A−PETシートaを加熱(80℃〜130℃)した後、この加熱した延伸A−PETシートaを図3に示す熱成形機20に導入し、プラグ23で延伸A−PETシートaを雌金型21方向に押込む。そして、吹出し口25より過熱水蒸気を吹出して延伸A−PETシートaを雌金型21に押し付けて密着させ容器状に形成し、容器の内側を過熱水蒸気で熱固定するとともに、容器の外側を雌金型21で冷却する。
【0059】
図5は雄金型と雌金型とを用いた熱成形機の概略図である。図5において、51は雌金型、52は雄金型であり、これらの雌金型51及び雄金型52にはヒーター53が埋設されている。雌金型51には真空口(図示せず)が多数形成されているとともに、雄金型52には真空・圧空口(図示せず)が多数形成されている。
【0060】
このような熱成形機で耐熱透明容器を製造するには、過熱水蒸気を用いる場合と同様に、図1に示す加熱装置で加熱した延伸A−PETシートaを熱成形機に導入し、雄金型52の真空・圧空口から吸引して延伸A−PETシートaを雄金型52に吸着して容器状に形成する。この状態でしばらく保持して熱固定した後、真空・圧空口から圧空を吹出して容器を雌金型51に圧接させ、容器の外側を冷却する。
【0061】
[実施例1]
<延伸A−PETシート>
アテナ工業(株)製0.4mm厚みのA−PETシート(結晶化度6.1%)を日本製鋼所(株)製T−17型ロール延伸装置で延伸A−PETシートを製造した。すなわち、予熱ロール温度80℃、加熱ロール温度(延伸温度)95℃、延伸ロール温度80℃、熱固定ロール温度100℃に設定し、A−PETシートを25m/分で繰り出して、加熱ロールと延伸ロールとの間で2.6倍に1段で延伸し、0.15mm厚みの延伸A−PETシートを得た。
【0062】
<延伸A−PETシートの結晶化度>
延伸A−PETシートは、シワも無く透明であり、DSC測定値から求めた結晶化度は26.7%で冷結晶化ピークは消えており、高結晶化されていた。結晶化度は、セイコー電子DSC220示差走査熱量計で延伸A−PETシートの融解挙動を測定し、下記式に基づいて得た。融解挙動の測定は、測定サンプル(10mg)に窒素50mL/minを流しながら昇温速度10℃/minで20〜300℃まで昇温して測定した。
【0063】
【数1】

【0064】
<熱成形機>
(株)脇坂エンジニアリング製「FVS−500P」真空・圧空成形機を改造した。すなわち雄金型となるプラグを金属アルミニウムで作製し、このプラグに、ヒーターとセンサーを埋め込んで温度を調節できるようにするとともに、径1mmΦの穴を多数設け過熱水蒸気の噴出口を形成した。雌金型としては、上部径11.0cm×下部径9.5cm×高さ1.8cmの角型、コーナー5.0cmRのアルミ金型を用いた。
【0065】
一方、ボイラーと、第一高周波工業(株)製「SuperHi−10S」過熱水蒸気発生装置とを用意し、ボイラーで発生した飽和水蒸気を過熱水蒸気発生装置を介して過熱水蒸気とした後、プラグの導入口に導くようにした。途中の配管・設備は保温材で保温するとともに、帯状のヒーター等で過熱水蒸気の温度が下がらないようにした。
【0066】
<耐熱透明容器の成形>
延伸A−PETシートを、加熱ヒーターで表面温度が130℃になるように加熱して軟化させた後、前記改造した真空・圧空成形機を用い、雌金型温度を110℃、プラグ温度を220℃に設定し、230℃、0.2MPaの過熱水蒸気を8.0秒間吹き込み成形・熱固定した。成形品(耐熱透明容器)は、雌金型からの離型が良く、しわ、変形等がなく透明であり、完全に雌金型形状を再現していた。
【0067】
<成形品の結晶化度>
成形品の底部の一部を切り取りその10.0mgをサンプルとし、前記延伸A−PETシートの結晶化度の測定と全く同様に行ない、容器の内側(内壁)と外側(外壁)全体としての結晶化度を求めた。この結晶化度は、32.1%であった。
【0068】
<成形品の耐熱性>
容器をオイルバス中に入れ(PETの比重が約1.3であるのでオイルの中に沈む)、オイルの温度を上げながらその様子を観察した。130℃までは何の変形もなかったが、130℃を超えるとフランジ部がよじれて変形を始めた。従って130℃までの耐熱性があることが確認された。
【0069】
<成形サイクル時間>
過熱水蒸気の吹き込み時間が8.0秒、実生産に於ける加熱ステージから成形ステージへのシートの移動1.0秒、型の開閉に1.0秒とすると、合わせて計10秒間/1サイクルで生産可能である。後述する比較例1の実生産サイクルは27秒/1サイクルであるので、2.7倍生産性に優れている。
【0070】
[実施例2]
<延伸A−PETシート>
実施例1と同じアテナ工業(株)製0.6mm厚みのA−PETシート(結晶化度6.3%)を用い、実施例1と同じ延伸装置と同じ延伸条件で0.23mm厚みの延伸A−PETシートを得た。
【0071】
<延伸A−PETシートの結晶化度>
この延伸A−PETシートはしわもなく透明であり、DSC測定値から求めた結晶化度は27.1%であり、冷結晶ピークも消えており、高結晶化されていた。
【0072】
<熱成形機>
実施例1で用いた(株)脇坂エンジニアリング製「FVS−500P」真空・圧空成形機を改造した。すなわち雄型を、雌金型と雄型の金型間隔が1.5mmになるように相似形に作製するとともに、0.7mmΦの真空・圧空口を形成し、真空と圧空を切り替えて吸引と圧空吹込みができるようにした。雌金型としては、実施例1と同様に、上部径11.0cm×下部径9.5cm×高さ1.8cmの角型、コーナー5.0cmRのアルミ金型を用いた。
【0073】
<耐熱透明容器の成形>
延伸A−PETシートを、加熱ヒーターで表面温度が130℃になるように加熱して軟化させた後、前記改造した真空・圧空成形機を用い、雌金型(冷却金型)を100℃に設定するとともに、雄金型を180℃に設定した。この状態で、雄金型の真空・圧空口を真空にして5.0秒間延伸A−PETシートを雄金型に吸引密着させ、次いで真空・圧空口を圧空に切り替えて0.5MPaの圧空を3.0秒間吹き込み成形品を雌金型に密着させて成形・熱固定した。成形品(耐熱透明容器)は、雌金型からの離型が良く、しわ、変形等がなく透明であり、完全に雌金型形状を再現していた。
【0074】
<成形品の結晶化度>
成形品の底部の一部を切り取り、その10.0mgを実施例1と全く同様に行なって結晶化度を測定した。結晶化度は、37.2%であった。
【0075】
<成形品の耐熱性>
実施例1と同様に行なって耐熱性を測定した。オイルバスの温度が150℃を超えると実施例1と同様にフランジ部がよじれて変形を始めた。従って150℃までの耐熱性があることが確認された。
【0076】
<成形サイクル時間>
雄金型への吸引時間5.0秒、圧空の吹き込み時間3.0秒、実生産に於けるシートの移動時間に1.0秒、型の開閉に1.0秒とすると、合わせて計10秒間/1サイクルで生産可能である。後述する比較例1の実生産サイクルは27秒/1サイクルであるので、2.7倍生産性に優れている。
【0077】
[比較例1]
<延伸A−PETシート>
実施例2と同一の延伸A−PETシートを用いた。
【0078】
<熱成形機>
(株)浅野研究所製FKC型真空・圧空成形機を用い、雌金型としては、上部径180mm×95mm、底部165mm×75mm、深さ15mmのアルミ金型を用いた。
【0079】
<耐熱透明容器の成形>
延伸A−PETシートを、加熱ヒーターで表面温度が130℃になるように加熱して軟化させた後、真空・圧空成形機を用い、雌金型の温度を180℃に設定し、0.5MPaで圧空をかけながら10秒間真空・圧空成形及び熱固定を行なった。成型品は、そのまま取り出すと型離れが悪く変形を起こすため、成形品を型に収めたまま冷風(室温)を15秒間吹き付け、冷却固化した後取り出す必要があった。
【0080】
<成型品の結晶化度>
成形品の底部の一部を切り取り、その10.0mgを実施例1と全く同様に行なって結晶化度を測定した。結晶化度は、38.5%であった。
【0081】
<成形品の耐熱性>
実施例1と同様に行なって耐熱性を測定した。オイルバスの温度が160℃を超えると実施例1と同様にフランジ部がよじれて変形を始めた。従って160℃までの耐熱性があることが確認された。
【0082】
<成形サイクル時間>
雌金型への真空・圧空成形時間10秒、冷風吹き付け時間15秒、実生産に於けるシートの移動時間に1.0秒、型の開閉に1.0秒とすると、合わせて計27秒/1サイクルであった。
【符号の説明】
【0083】
11 上部加熱ヒータ板
12 下部加熱ヒータ板
20 過熱水蒸気を用いた熱成形機本体
21 雌金型
22 上金型
23 プラグ
24 ヒーター
25 過熱水蒸気の吹出し口
30 過熱水蒸気発生装置
40 ボイラー
51 雌金型
52 雄金型
53 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A−PET(非晶性ポリエチレンテレフタレート)シートを加熱して一次延伸後一次熱固定する一次延伸熱固定工程と、該一次延伸熱固定工程で作製された一次延伸A−PETシートを、熱成形機の金型で加熱成形し、成形による二次延伸後同じ金型内で二次熱固定する二次延伸熱固定工程とを経て冷却されたものであって、該一次延伸熱固定工程に於いて、ロールによる延伸装置を用い、A−PETシートを、延伸温度90〜120℃でMD(縦方向)に2.0〜4.0倍に一軸一次延伸した後、延伸温度より5〜20℃高い温度で一次熱固定し、該二次延伸熱固定工程に於いて、一次延伸A−PETシートを80〜130℃で加熱成形して二次延伸し、容器の外側に接する金型を室温〜120℃に設定し、容器の内側を130℃〜200℃に加熱して二次熱固定し、一次延伸熱固定工程を経た一次延伸A−PETシートの下記の式に示される結晶化度が22%〜30%未満であり、前記二次延伸熱固定工程を経て冷却された容器の下記の式で示される結晶化度が30%以上であることを特徴とする耐熱透明容器。
【請求項2】
前記容器の内側の130〜200℃の加熱が150℃以上の過熱水蒸気を吹き込むことによって成形すると同時に容器の内側を加熱することを特徴とする請求項1記載の耐熱透明容器。
【請求項3】
前記容器の内側の130〜200℃の加熱が加熱された雄金型を用いて容器の内側を加熱することを特徴とする請求項1記載の耐熱透明容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245700(P2012−245700A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119346(P2011−119346)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(594146180)中本パックス株式会社 (40)
【Fターム(参考)】