説明

耐爆裂性高強度コンクリートと製造方法

【課題】流動性が低下せず、高い耐爆裂性を備えた高強度コンクリートとその製造方法を提供する。
【解決手段】高強度コンクリートである。そのコンクリートに、長さが5mm〜30mm、直径が5〜100μm、水分を含むと元の繊維の50%以上膨潤するセルロース繊維を0.1〜0.3容量%混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度コンクリートであって、かつ高温の加熱を受けた際の耐爆裂性の高いコンクリートと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高温を受けた際の爆裂に対する抵抗が高い、耐爆裂性コンクリートの製造方法として各種のものが開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3584171号公報。
【特許文献2】特許3878806号公報。
【特許文献3】特許3889946号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の耐爆裂性高強度コンクリートと製造方法にあっては、次のような問題点がある。
<1> 多くの従来技術が、加熱を受けた有機繊維が熱分解によってコンクリートに空隙を生じさせ、耐爆裂性能を得ようとするものである。特許文献3記載の技術は、融解しない無機繊維によって強度を付与するものである。
<2> ポリプロピレンおよびこれらに類する合成繊維を使用した場合に、耐爆裂性を向上させることはできるが、火災による加熱が発生した初期の段階では繊維が蒸発していない。
<3> そのためにコンクリートは水蒸気圧によるストレスを受けることになる。
<4> また上記のような繊維は水との親和性が低い。そのためにコンクリートは、繊維混入が原因となって打設時の流動性が著しく低下する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明の耐爆裂性高強度コンクリートは、高強度コンクリートであって、長さが5mm〜30mm、直径が5〜100μm、水分を含むと元の繊維の50%以上膨潤するセルロース繊維を、0.1〜0.3容量%混合してある、耐爆裂性を備えた高強度コンクリートを特徴としたものである。
また本発明の耐爆裂性高強度コンクリートは、高強度コンクリートであって、長さが5mm〜30mm、直径が5〜100μm、水分を含むと元の繊維の50%以上膨潤するセルロース繊維を、0.1〜0.3容量%を混合して製造する耐爆裂性を備えた高強度コンクリートの製造方法を特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の耐爆裂性高強度コンクリートとその製造方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> コンクリート硬化体が形成される過程で空隙が生まれることから、火災による加熱を受けた場合に、火災のごく初期段階から水蒸気圧による応力を緩和することができる。
<2> 繊維を混入しているにも関わらず、その影響としてのスランプフローのロスが少ない。そのために耐爆裂性を高めているにもかかわらず施工性の良い高強度コンクリートを得ることができる。
<3> コンクリートに混合したセルロース繊維は水との親和性が高く、分散性もよい。そのために従来のコンクリートよりも耐爆裂性の高い高強度コンクリートを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の耐爆裂性高強度コンクリートに混合するセルロース繊維のスランプフローへの影響を、従来のポリプロピレン繊維と比較した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の耐爆裂性コンクリートの好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>対象とするコンクリート
本発明の対象とするコンクリートは高強度コンクリートであり、例えばスランプフローが60cm以上の高強度コンクリート、あるいは水結合材比が25%以下の高強度コンクリートである。
【0010】
<2>高強度コンクリートである理由
本発明の対象が高強度コンクリートである理由は、高強度コンクリートは「水結合材比」が小さいことからである。
そのようなコンクリートはセメントの量に対し水の量が少ないから、通常のコンクリートと比較してコンクリート構造物の内部相対湿度が低い。
そのためにコンクリート硬化体を形成する過程において膨潤したセルロース繊維より水分が奪われる。
するとセルロース繊維が収縮して空隙が生じ、この空隙が水蒸気圧を逸散させるための通路として機能する。
このように、特に本発明の対象が高強度コンクリートであることによって、コンクリート硬化体を形成した段階から空隙を生じさせることができ、火災が発生した場合には直後から水蒸気の通る通路を提供して火災時のストレスを抑制できる、という効果がある。
【0011】
<3>混合する繊維
このコンクリートには次のようなセルロース繊維を混合する。
すなわち、水分を含むと元の繊維の50%以上膨潤する、長さが5mm〜30mm、直径が5〜100μmであるセルロース繊維である。
このような繊維の存在はすでに公知である。
【0012】
<4>混合比率
上記の繊維は、高強度コンクリートに0.1〜0.3容量%混合する。
混合率が0.1に満たないコンクリートであると、十分な耐爆裂性を呈することができないからである。
一方、0.3を超えるとスランプフローのロスが小さくなり、コンクリートの打設工程で流動性が大きく減少するからである。
【0013】
<4−1>爆裂性能
まず混合率と爆裂性について説明する。
特許3584171,特許3878806,特許3848282等の従来技術で言及されている有機繊維は加熱を受けた場合蒸発あるいは溶融することによって爆裂を防止している。
本発明によるセルロース繊維は融点がなく、加熱を受けると熱分解を起こすことから特許3584171に記されている500℃の加熱を受けたときの重量残存率が30%を超える繊維としたものを実験に使用した。
参考例1は繊維混入がないもの、参考例2〜3は全て500℃の加熱を受けたときの重量残存率が30%以下の繊維である。
一方本発明の実施例1〜4は本発明によるコンクリートで繊維の混入率を0.05〜0.3容量%としたものである。
繊維混入がない参考例1に関してはコンクリートが爆裂により剥がれ落ち約8.5%の質量減少率を示している。
本発明の実施例1については若干の爆裂が生じ有効な爆裂対策としては不十分であったが、実施例2〜4による質量減少率は6.6〜6.2%となり,従来技術による参考例2〜3よりも質量減少率が少なく抑えられ、加熱による負荷が参考例より少なかったことが示されている。
【0014】
【表1】

【0015】
<4−2>スランプフローの維持
次にスランプフローについて説明する。
下表に実験で使用したコンクリート配合を示す。
セメントは中庸熱ポルトランドセメント、混和剤は高性能AE減水剤を使用した。
【0016】
【表2】

次に繊維混入率によるスランプフローへの影響を示す。
一般的に爆裂防止繊維として使用するポリプロピレン繊維のスランプフローのロスは0.2(容量%)以上となると顕著になり、この混入率を実現するためには多量の減水剤の添加が必要となる。
それに対して図1に示すように、本発明のコンクリートに混合するセルロース繊維は、従来の耐爆裂性コンクリートで使用されているポリプロピレン繊維と比較して著しくスランプフローのロスを低減することができる。
このように、本発明の耐爆裂性コンクリートであれば、耐爆裂性を向上させながら、施工性は低下させないコンクリートを得ることができる。
【0017】
<5>本発明の耐爆裂性の機能
コンクリートに混合した膨潤したセルロース繊維は、コンクリートの水和作用の過程で水分を奪われ水を失う。
水分を奪われる過程で、セルロース繊維はその体積が収縮して空隙を生み出す。
同時に、コンクリートに混合した繊維は分散しているから、コンクリート部材の全体にわたって内部から表面までに、ほぼ連続した十分な空隙、空気通路を形成することができる。
そのために火災時に高温を受けた際に、このようにコンクリートの内部から表面に至るまでほぼ連通した空気通路がすでに形成されているので、この通路によって内部水蒸気圧を効率よく逸散させることができる。
したがって火災の初期から高い耐爆裂性を提供することができる。
これに反して従来の耐爆裂性コンクリートは、繊維が火災時の高温によって蒸発する機構であるから、火災の初期には空隙が生まれておらず、空隙を生じるまでに時間差があり、本発明のように火災の初期から耐爆裂性を発揮することができない。
【0018】
<6>繊維によるスランプフローの維持
一般にコンクリートの内部に繊維を混入させれば、コンクリートの流動性は低下し、スランプ試験における広がりの範囲、すなわちスランプフローが低下する。
このようにコンクリートの流動性が低下すれば、コンクリート打設の際の施工性が低下することが知られている。
しかし本発明では親水性の高いセルロース繊維を採用した。
そのために高混入率の場合もスランプフローの低下が少なく、良好なワーカビリティを維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度コンクリートであって、
長さが5mm〜30mm、
直径が5〜100μm、
水分を含むと元の繊維の50%以上膨潤するセルロース繊維を、
0.1〜0.3容量%混合してある、
耐爆裂性を備えた高強度コンクリート。
【請求項2】
高強度コンクリートの製造方法であって、
長さが5mm〜30mm、
直径が5〜100μm、
水分を含むと元の繊維の50%以上膨潤するセルロース繊維を、
0.1〜0.3容量%を混合して製造する、
耐爆裂性を備えた高強度コンクリートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−232861(P2012−232861A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100785(P2011−100785)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(303056368)東急建設株式会社 (225)
【Fターム(参考)】