説明

耐磨耗性を有する塗料用樹脂組成物及びその塗膜

【課題】外観や密着性を維持して耐摩耗性に優れた塗膜を得ることができる塗料用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体および(B)ポリイソシアネート化合物(B)を含む組成物であって、(A)が(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物を含む塗料用樹脂組成物。また、(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物との質量%が(a1)/(a2)=0.5/99.5〜20/80である塗料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部品、家電等の金属・プラスチック素材に対して、外観、密着性が良好であり、耐摩耗性に優れた塗料組成物及びその塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車部品、家電等の金属・プラスチック素材の摩耗や傷つきを防ぐため、それらの素材に塗膜を形成させ、摩耗や傷つきに対する耐久性を向上させている。従来、耐摩耗性を改良するためには、表面の滑り性を出すために添加剤を配合する方法や塗膜の表面硬度を硬くする方法などが考案されている。
例えば、コロイダルシリカを混合する方法(特許文献1)、フッ素系樹脂やポリオレフィン系ワックス等の潤滑剤成分を混合して耐摩耗性を向上させる方法(特許文献2)、表面のTgを高くする方法(特許文献3)などで耐摩耗性を向上させている。
しかし、それら添加剤を用いる方法やTgを高くする方法は、外観が悪くなったり、密着性が悪くなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開公報 2000−14049号
【特許文献2】特開公報 2004−51725号
【特許文献3】再公表報 2004−11564号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、外観や密着性を維持して、耐摩耗性に優れた塗料組成物及びその塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の耐磨耗性を有する塗料用樹脂組成物及びその塗膜は[1]〜[4]である。
[1](A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体および(B)ポリイソシアネート化合物(B)を含む組成物であって、(A)が(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物とを含む塗料用樹脂組成物。
[2]前記記載の(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物との質量%が(a1)/(a2)=0.5/99.5〜20/80である[1]に記載の塗料用樹脂組成物。
[3](A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)が10000以上である[1]に記載の塗料用樹脂組成物。
[4]テーパー摩耗試験法(JIS K5600−5−9)で測定した耐磨耗性が500回以上である[1]に記載の塗料用樹脂組成物を含む塗膜。
【発明の効果】
【0006】
本発明の塗料用樹脂組成物により、外観や密着性を維持して耐摩耗性に優れた塗膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に述べる。
【0008】
[(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体]
(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体は、(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物を含むものである。
【0009】
(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレート
本発明に使用する(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートタ)アクリレートとしては、例えばデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、パルミチルアクリレート、パルミチルアクリレート、ベヘニルアクリレート等のアルキルアクリレートまたは相当するメタクリレートである。塗膜の外観、耐磨耗性の点で炭素数は、好ましくは14〜24、更に好ましくは16〜22である。本発明ではこれ等を2種以上使用してもよい。
【0010】
(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物
(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物は特に限定されるものではないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸エステル、また、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、等の窒素含有反応性不飽和結合を有する化合物、また、官能基含有反応性不飽和結合を有する化合物としては、ヒドロキシル基含有反応性不飽和結合を有する化合物の2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有反応性不飽和結合を有する化合物、また、カルボキシル基含有反応性不飽和結合を有する化合物としてはアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、また、グリシジル基含有反応性不飽和結合を有する化合物としてはグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジル(メタ)アクリレート等がある。
(メタ)アクリル酸エステル単量体以外で、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等が挙げられる。これらの反応性不飽和結合を有する化合物を1種類以上用いて共重合される。
また、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能モノマー等、その他のラジカル重合性のモノマーを共重合しても良い。
【0011】
(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物との質量%割合は、塗膜の外観、耐磨耗性の点で、通常(a1)/(a2)=0.5/99.5〜20/80、好ましくは3/97〜10/97〜90、更に好ましくは5/95〜10/90質量%である。ここで、(a1)、(a2)、の合計量は100質量%である。
【0012】
(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)は1万〜10万であり、好ましくは2万〜4万である。1万未満では、塗膜として脆くなり硬度,耐摩耗性が不足し20万を超えると塗膜形成が不十分となり艶がひけたり濁りといった外観が不良となる。
ここで重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレンを標準としたゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られる。
また、(A)の水酸基価は通常50〜200、好ましくは90〜200、更に好ましくは120〜180mgKOH/g(固形分)である。水酸基価が50mgKOH/g未満では、塗膜の架橋密度が低いために塗膜の強度及び硬度が不十分であり、一方、水酸基価が200mgKOH/gを超えると塗膜の可撓性が劣るため耐衝撃性に問題が生じるほか、外観が悪化する可能性がある。
【0013】
更に(A)の計算上のガラス転移温度(Tg)は20〜80℃、好ましくは30〜50℃である。20℃未満であると十分な耐摩耗性が発現しない。80℃を超えると塗膜が硬く脆くなってかえって耐摩擦性は低下する。
アクリル共重合体の組成から計算されるガラス転移温度Tgは、公知の方法フォックス(Fox)の式により求めることができる。フォックスの式とは、共重合体を形成する個々の単量体について、その単量体の単独重合体のTgに基づいて、共重合体のTgを算出するためのものであり、その詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー、シリーズ2(Bulletin of the American Physical Society、Series 2)1巻・3号・123項(1956年)に記載されている。フォックスの式による共重合体のTgを算出するための基礎となる各種反応性不飽和結合を有する化合物についてのTgは、例えば、新高分子文庫・第7巻・塗料用合成樹脂入門(北岡協三著、高分子刊行会、京都、1974年)168〜169項の表10−2(塗料用アクリル樹脂の主な原料単量体)に記載されている数値を用いることができる。
【0014】
本発明の(A)アクリル共重合体に用いるラジカル重合開始剤としては以下の様な開始剤を用いることができる。例えば有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルハイドロパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等が挙げられ、アゾ系としては、N,N−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタ酸)等があげられ、また、必要に応じて連鎖移動剤として、ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、α−メチルスチレンダイマー等を用いることができる。
【0015】
本発明の(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体を溶解・分散させるために用いる溶剤は、重合体を完全に溶解し、蒸発除去できる限り特に制限はないが塗液として利用するに際しての好ましい粘度、蒸発速度、塗膜の白化の程度を改善するため2種以上の溶剤を混合することができる。
例えば、ベンゼン,トルエン,キシレン等のアルキルベンゼン系溶剤、酢酸エチル,酢酸プロピル,酢酸ブチル,酢酸アミル,アセト酢酸メチル等の酢酸エステル系溶剤、ジオキサン,アセトン,メチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤があげられる。また(A)と有機溶剤は塗膜形成に際し、さらに塗装機器や塗装方法に準じた塗料固形分と粘度等に調整して塗料化されても良い。
【0016】
[(B)ポリイソシアネート化合物]
(B)ポリイソシアネート化合物としては、一般的製法で得られるポリイソシアネート化合物を用いることができる。これらの中で好ましいポリイソシアネート化合物として、無黄変性のヘキサメチレンジイソシアネートおよびその誘導体、トリレンジイソシアネートおよびその誘導体、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートおよびその誘導体、キシリレンジイソシアネートおよびその誘導体、イソホロンジイソシアネートおよびその誘導体などがあげられる。特にこれらのイソシアヌレート体、もしくはビュレット体が反応性及び塗膜の耐摩耗性の点で好ましい。
(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体と(B)ポリイソシアネート化合物のNCO/OHのモル比率は、塗膜の外観・耐磨耗性の点で0.8〜1.8、好ましくは、1.2〜1.5である。
本発明の塗料用樹脂組成物には、さらに必要に応じて顔料類、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤,微粒子等の添加剤をすることができ、得られた塗料組成物は、上塗り、中塗り塗料として使用できるだけでなく、クリヤー塗料,着色塗料としても使用できる。
この塗料組成物に更に耐摩耗性を向上させるために、潤滑剤成分や2エチルヘキシルアルコールやラウリルアルコール等の高級アルコール(C8〜C30)を混合しても良い。
【0017】
[塗膜作成方法]
本発明の塗料用樹脂組成物は、基材等に各方法により塗装され80℃で30分程度の加熱乾燥により塗膜を形成する事ができる。また基材としては、例えば鉄、アルミ、亜鉛、ステンレス及びこれらに表面処理をされたもの等の金属素材、塩化ビニル,ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート及びこれらに表面処理をされたもの等のプラスチック素材等があげられる。また、これらの基材に必要に応じてプライマー、中塗り、上塗り塗料が塗装された基材も使用することができる。
本発明の塗料用樹脂の塗装方法は、例えばスプレー、刷毛、ローラー、浸積、バーコーター等の公知の塗装方法で行うことができる。塗膜厚としては、通常1〜50μm好ましくは15〜20μmの範囲が好ましい。
【0018】
[塗膜]
本発明において塗膜のテーパー摩耗試験法で測定した耐磨耗性は500回以上であるが、好ましくは1000回以上である。尚、テーパー摩耗試験は摩耗試験法(JIS K5600−5−9)に従って測定し、その測定方法は、摩耗輪法(CS10P,荷重500g)にて摩耗試験を行い目視で塗膜が削り取られたり、塗膜が基材から脱落する等変化が起こるまでの回転数を読み取った。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に説明するために実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
撹拌機、温度計、窒素導入管、還流コンデンサーを備えた5リッタ4ツ口フラスコに酢酸ブチル1350g、メチルイソブチルケトン570gを仕込み、窒素パージを行ないながら100℃まで昇温した。次に昇温後ただちにラウリルメタクリレート75g、メチルメタクリレート750g、エチルアクリレート330g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート345g及び重合開始剤t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを定量ポンプにて5時間かけて連続滴下し、その後100℃にて重合開始剤t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを更に加え3時間保ちメタアクリル共重合体1を得た。メタアクリル共重合体1とHDIヌレートと希釈シンナー(酢酸ブチル/酢酸エチル/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=4/4/2)を用いて固形分45%に希釈調整した。希釈調整された組成物を溶融亜鉛めっき鋼板(板厚0.5mm)の基材にバーコーターにて、乾燥膜厚で15〜20μmとなるように塗装し、熱風乾燥機にて雰囲気80℃で30分程度乾燥し各試験片を作成した。得られた試験片を各項目の塗膜評価を行った。その結果を表2に示す。
【0020】
実施例2〜8、比較例1
表1に示す長鎖アルキル(メタ)アクリレート、反応性不飽和結合を有する化合物等を変更した以外は実施例1と同様に塗膜評価を行い、その結果を表2に示す。
尚、表1中の略号の意味は、以下の通りである。LMA;ラウリルメタクリレート、StMA;ステアリルメタクリレート、MMA;メチルメタクリレート、EA;エチルアクリレート、HEMA;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、MIBK;メチルイソブチルケトン
また、各配合量は(a1)と(a2)との総重量が100になるように表記し、希釈剤量もこれに対応した。
【0021】
[塗膜評価方法]
塗膜状態
(1)外観;作成された試験片塗膜を目視観察し、下記の方法により評価した。
○:透明
△:若干曇り
×:不透明(白濁)
塗膜物性
(2)密着性(碁盤目付着性);作成された試験片塗膜を碁盤目法(JIS K5600−5−6)に従い密着試験を行い観察し、下記の方法により評価した。
残ったマス目の数/カット時のマス目の数。
(3)耐摩耗性;作成された試験片塗膜をテーパー摩耗試験法(JIS K5600−5−9)の摩耗輪法(CS10P,荷重500g)にて、摩耗試験を行い目視で塗膜が削り取られたり、塗膜が基材から脱落する等の変化が起こるまでの回転数を読み取った。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
以上、表2に記載した結果によれば、実施例においては、塗膜外観を始め密着性も良好な塗膜が得られ、耐摩耗性でも優れた性能を示している。一方、比較例においては耐摩耗性が非常に悪く、実施例との比較で明確に劣っていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
自動車部品、家電、等の金属・プラスチック素材の摩耗や傷つきを防ぐために塗膜を被覆させる場合、塗膜の摩耗や傷つきに対する耐久性が要求される用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体および(B)ポリイソシアネート化合物(B)を含む組成物であって、(A)が(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物とを含む塗料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記記載の(a1)アルキル鎖の炭素数10〜30のアルキル(メタ)アクリレートと(a2)(a1)以外の反応性不飽和結合を含有する化合物との質量%が(a1)/(a2)=0.5/99.5〜20/80である請求項1に記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)水酸基含有(メタ)アクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)が10000以上である請求項1に記載の塗料用樹脂組成物。
【請求項4】
テーパー摩耗試験法(JIS K5600−5−9)で測定した耐磨耗性が500回以上である請求項1に記載の塗料用樹脂組成物を含む塗膜。

【公開番号】特開2009−191257(P2009−191257A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4470(P2009−4470)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】