説明

耐腐食性粒子

本発明は、(a)錯化剤を含む流体;及び(b)多価金属イオンを含む表面変性無機粒子;を含む表面変性無機粒子の分散液に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐腐食性のサブミクロン粒子などの粒子の分散液に関する。本発明はまた、かかる分散液の製造方法及びこれから製造される被覆にも関する。
【背景技術】
【0002】
特定のカチオン及びアニオンは腐食抑制特性を有し、金属表面及び構造体に接着性及び腐食抑制特性を与える意図の保護フィルム及び被覆中にこれらを含む化合物を含ませることができることが公知である。代表例としては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、マンガン、亜鉛、セリウム、及び他の希土類元素のカチオン、並びにケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、ニトロフタル酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、亜リン酸塩、ホスホン酸塩、及びホスホノカルボン酸塩のようなアニオンが挙げられる。しかしながら、鉛化合物、並びにクロム及び亜鉛のような幾つかの他の重金属のカチオン及び化合物、例えばクロム酸塩をベースとする古典的な抑制剤は、今日では環境及び健康並びに安全性の理由のためにあまり興味が持たれていない。
【0003】
抑制性化合物は、難水溶性塩の形態であってよく、例えば必要なカチオン及びアニオンの存在下、好適な条件下における粒子成長及び沈殿のプロセスによって製造することができる。抑制性化合物は、また、更なる抑制性カチオン及びアニオンを含むシリカ、シリケート、アルミナ、及びアルミノシリケートのような無機酸化物の粒子の形態であってもよい。これらの抑制性化合物は、例えば必要なカチオン及びアニオンの存在下、好適な条件下における酸化物の沈殿又はゲル化のプロセスによって製造することができる。
【0004】
無機酸化物をベースとする抑制性化合物は、また、酸化物を、必要な抑制性カチオン及びアニオンを含む溶液と、これも好適な条件下において接触させることによって予め形成した酸化物の表面プロトン及びヒドロキシル基を置換するイオン交換プロセスによって製造することができる。いずれの場合においても、関与する無機酸化物は、しばしば特定の表面積及び多孔度、並びに粒子の内表面及び外表面に結合する腐食抑制性イオンを有して表面変性無機粒子を形成することを特徴とするが、イオンは製造方法によっては粒子のバルク中にも見ることができる。
【0005】
勿論、上記の記載から、難溶性塩をベースとする抑制性化合物と無機酸化物をベースとするものとの配合物を、それから抑制性化合物を製造する溶液又はスラリーの組成、及び処理経路に応じて種々の方法で同時に製造して、得られる抑制性化合物によって示される特性を大きく変化させることができる。
【0006】
多くの場合において、耐腐食において用いられるフィルム及び被覆は、水に対して一定の透過性を有しており、腐食抑制のメカニズムは、化合物を水中に徐々に溶解して活性腐食剤としてイオンを放出することを含むと考えられている。かかる系を長時間にわたって有効にするためには、化合物の溶解度が特に重要である。化合物が過度に可溶であると、被覆のブリスターが起こる可能性があり、化合物は速やかに消耗する。また、可溶性が不十分であると化合物は有効でない。抑制性化合物が難溶性塩であるか、或いは無機酸化物をベースとするか、或いはこれら2つの特定の配合物であるかに関わらず、フィルム及び被覆において用いるのに好適なかかる化合物の通常の溶解度は、約10−5M〜10−2Mの水性媒体中の抑制性イオンの濃度をもたらすものである。
【0007】
無機酸化物をベースとする抑制性化合物に関して、無機酸化物はそれ自体、腐食抑制性粒子を用いる雰囲気の性質(例えばシリカの場合には、ケイ酸は約10−3Mのバックグラウンド溶解度を有し、シリケートの濃度はpH依存性であり、例えば約10.5のpHにおいて10−2Mの値を有する)によって、供給抑制性物質に対して一定の溶解度を有する。しかしながら、これらのタイプの腐食抑制性粒子は、溶解に基づくものに対する更なる又は代わりの作用メカニズムとして、その雰囲気中に存在する攻撃性のイオンとのイオン交換によって抑制性のカチオン及びアニオンを溶液中に放出するように作用させることができると時には考えられている。腐食抑制性イオンの放出速度は、透過性水性雰囲気中への抑制性イオンの溶解に加えてか又はこれよりも、交換イオンに対するフィルム又は被覆の透過性によって影響を受けるであろう。この場合には、腐食抑制性イオンは、被覆の所望のバリヤ特性が最も弱い領域における無機酸化物からより多量に放出され、これによって改良された性能特性が導かれる。
【0008】
上記で引用した抑制性化合物は、通常は乾燥粉末の形態で提供されており、洗浄、乾燥、及び粉砕操作を用いることが更なるプロセス工程として必要であり、粉末の平均粒径は通常は約1〜2ミクロンより大きく、このためにこれらは厚さが数ミクロンより大きいフィルム及び被覆のために最も好適である。可溶性の基準に加えて、広範囲のフィルム及び被覆系中に含ませる適合性及び耐腐食性に関する適合性のためには、かかる抑制性化合物の水性スラリーのpHは、殆どの場合において通常は4〜10.5の範囲内であるが、問題となる被覆又はフィルムの実際の化学的性質及び金属物質の性質に応じて、より低いか又はより高い値が好適である可能性がある。例えば、多くの表面予備処理は非常に酸性で1〜4の範囲のpHを示す。
【0009】
耐腐食性粒子を分散液形態で提供することによって、粒子を被覆中に導入する操作がより簡便になり、ダストの生成を回避することができるであろう。しかしながら、乾燥粉末のような公知の耐腐食性粒子の分散液は、寸法が比較的大きく約1〜2ミクロンより大きい顔料粒子を含む。かかる分散液は、クロムを含まない表面処理のような小さい粒子寸法を必要とするフィルム形成及び被覆用途、或いはフィルムの厚さが数ミクロン未満でサブミクロン領域に至る可能性がある薄いフィルムプライマーにおいて用いるのには好適でない。更に、抑制性顔料の粒径及び分散状態の両方が、雰囲気曝露下でのフィルム又は被覆内における抑制性化合物から誘導される抑制性イオンの利用可能性及び移動性に影響を与える可能性があると考えられる。したがって、小粒子顔料によって、適用するフィルムの厚さに関係なく耐腐食性処理フィルム及び被覆において潜在的な利益が与えられる可能性がある。
【0010】
液体及び表面被覆中の無機及び有機着色顔料又は充填剤のような粒子の粉砕、分散の操作、及び分散液、並びにかかる懸濁液の特性をカバーする一般的な原理は勿論周知である。例えば、顔料分散液を製造及び安定化する手段としての表面活性剤、湿潤剤、及び分散剤の役割を含む包括的概説が、「特に顔料に関する液体中の粉末の分散液(Dispersion of Powders in Liquids with Special Reference to Pigment)」, 3版, G.D. Parfitt編, Applied Science Publishers, 1981に与えられている。コロイド状態の基礎及び製造に関する更なる詳細は、「コロイド科学の基礎(Foundations of Colloid Science)」, R.J. Hunter, vol.1-2, Academic Press, 1986において見ることができる。
【0011】
言うまでもないが、多数の特許において、粒子及び顔料の分散液の具体的な様相、並びに表面活性剤、湿潤剤、及び分散剤、並びに分散液の幾つかの特性を制御するようにデザインされている他の添加剤に関する粒状物及び顔料の懸濁液の特性が議論されている。例えば、US−4,186,028は、二酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化クロム、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、及び石英のような顔料及び充填剤の高濃縮水性懸濁液の粘度を低下させ、沈降を減少させるための分散剤として、顔料固形分を基準として0.01%〜1%の範囲のホスホノカルボン酸のレベルのホスホノカルボン酸を用いることに関する。懸濁液の好ましいpH範囲は6〜10である。
【0012】
多くの表面活性剤、湿潤剤、及び分散剤、並びに他の添加剤は、水中において一定の相溶性又は可溶性も示す可能性があり、それ自体、耐腐食性及び/又は接着促進性を与えるように意図されている被覆及びフィルム形成層の性能特性を損なう可能性がある。したがって、かかる物質のタイプ及び量を注意深く選択する必要がある可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US−4,186,028
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「特に顔料に関する液体中の粉末の分散液(Dispersion of Powders in Liquids with Special Reference to Pigment)」, 3版, G.D. Parfitt編, Applied Science Publishers, 1981
【非特許文献2】「コロイド科学の基礎(Foundations of Colloid Science)」, R.J. Hunter, vol.1-2, Academic Press, 1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
概観すると、使用における簡便性のため、薄いフィルムにおける適合性のため、及び性能向上のため故に、種々の処理フィルム、プライマー、及び被覆において用いることができる耐腐食性の小径粒子の分散液に関する興味及び必要性が産業において存在する。理想的には、これらの分散液は、鉛、クロム、及び幾つかの他の重金属、例えば亜鉛の化合物を含まない。したがって、本研究は、金属表面及び構造体に接着性及び腐食抑制特性を与えるように意図されている水性及び非水性の保護フィルム、表面処理剤、プライマー、被覆、接着剤、及びシーラントにおいて用いるのに好適な抑制性化合物の安定な小粒子分散液を製造する課題に関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、(a)流体;及び(b)多価金属イオンを含み、約10ミクロン以下の平均粒径を有する表面変性無機粒子;を含む表面変性無機粒子の1種類又は複数の分散液に関する。本発明はまた、上述の分散液を含む被覆組成物にも関する。
【0017】
本発明は更に、(a)錯化剤を含む流体;及び(b)多価金属イオンを含む表面変性無機粒子;を含む表面変性無機粒子の1種類又は複数の分散液に関する。ここでも、これらの分散液を含む被覆組成物も本発明の一部である。
【0018】
本発明の更なる態様は、(a)表面変性無機粒子を流体と混合し;そして(b)無機粒子を粉砕して約10ミクロン以下の平均直径を有する粒子を形成し、ここで無機酸化物粒子は更に多価金属イオンを含む;ことを含む、表面変性無機粒子の分散液の製造方法を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、金属表面及び構造体に接着性及び腐食抑制特性を与えるように意図されている保護フィルム、表面処理剤、プライマー、被覆、接着剤、及びシーラントにおいて用いるのに好適な腐食抑制剤に関する。ここで用いるように、これらの適用用途は全て「被覆」という単一の用語によって包含される。
【0020】
本発明によれば、腐食抑制剤は、粒子に化学結合している腐食抑制性イオンを有する無機酸化物の粒子を含む。ここで定義する「無機酸化物」という用語は、金属又はメタロイドの酸化物を意味する。金属としては、周期律表上においてホウ素からポロニウムへ引かれる対角線の左側の元素が挙げられる。メタロイド又は半金属としては、この線上の元素が挙げられ、ケイ素も含まれる。無機酸化物の例としては、シリカ、シリケート、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、ジルコニア、セリアなど、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
本明細書及び特許請求の範囲において用いる単数形「a」、「and」、及び「the」は、記載が他に明確に示さない限り複数の指示物を包含することに注意すべきである。したがって、例えば「酸化物」という記載は複数のかかる酸化物を包含し、「酸化物」という記載は1種類以上の酸化物及び当業者に公知のその均等物などの記載を包含する。
【0022】
例えば、本発明の幾つかの態様の記載において用いる組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、回収率又は収率、流速、及び同様の値、並びにその範囲を修飾する「約」は、例えば典型的な測定及び取り扱い手順を通して;これらの手順における偶然のエラーを通して;方法を行うために用いる成分における変動を通して;起こる可能性のある数量の変動;並びに同様の近似考慮事項を指す。また、「約」という用語は、特定の初期濃度を有する配合物又は混合物の熟成によって異なる量、並びに特定の初期濃度を有する配合物又は混合物の混合又は処理によって異なる量も包含する。「約」という用語によって修飾されているかどうかにかかわらず、特許請求の範囲はこれらの量の均等範囲を包含する。
【0023】
無機酸化物をベースとする抑制性化合物は、例えば、必要なカチオン及びアニオンの存在下、好適な条件下における酸化物の沈殿又はゲル化のプロセスによって製造することができる。無機酸化物をベースとする抑制性化合物は、また、酸化物をこれも好適な条件下において必要な抑制性カチオン及びアニオンを含む溶液と接触させることによって予め形成した酸化物の表面プロトン及びヒドロキシル基を置換するイオン交換プロセスによって製造することもできる。いずれの場合においても、関与する無機酸化物は、しばしば、特定の表面積及び多孔度、並びに粒子の内表面及び/又は外表面に結合する腐食抑制性イオンを有して表面変性無機粒子を形成することを特徴とするが、イオンは製造方法によっては粒子のバルク中にも見ることができる。
【0024】
本発明によれば、腐食抑制剤はまた、アニオンの難溶性金属塩の形態の抑制性カチオン及びアニオンの配合物を含んでいてもよい。難水溶性塩の形態の抑制性化合物は、例えば、必要なカチオン及びアニオンの存在下、好適な条件下でのスラリー又は溶液からの粒子成長及び沈殿のプロセスによって製造することができる。
【0025】
難溶性塩をベースとする抑制性化合物と無機酸化物をベースとするものとの配合物は、予め形成した物質、予め形成した無機酸化物、或いはその代わりに予め形成した抑制性カチオン及びアニオンを有する無機酸化物を、必要に応じて適当な抑制性カチオン及びアニオンと混合して、難溶性塩の粒子成長及び沈殿を無機酸化物の存在下で行うことによって製造することができ、この3つの場合の全てにおいて、無機酸化物は多価カチオンの存在下で存在させる。
【0026】
また、配合物は、難溶性の抑制性塩を、シリカ、アルミナ、及びアルミノシリケートの場合には、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸テトラエチルのようなケイ酸アルキル、塩化アルミニウム、ヒドロキシ塩化アルミニウム、又はアルミン酸ナトリウムなどの無機酸化物への前駆体と配合して、抑制性カチオン及びアニオンと密に会合した無機酸化物の沈殿又はゲル化或いは単純に形成を起こすようにして製造することもできる。同様に、抑制性カチオン及びアニオンと無機酸化物への前駆体の混合物は、難溶性化合物及び酸化物の粒子成長、沈殿、及び/又はゲル化を互いに密に会合して同時に起こすようにして製造することができる。
【0027】
明らかに、それから抑制性化合物を製造する溶液又はスラリーの組成、及び処理経路によって抑制性配合物を製造する数多くの方法が存在し、これにより得られる抑制性化合物によって多種多様の特性を示すことができる。
【0028】
好ましいカチオンは、カルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、亜鉛(Zn2+)、マンガン(Mg2+)のもの、及びセリウム(Ce3+/Ce4+)カチオンのような希土類元素のカチオンであるが、他の好適なカチオンは、コバルト(Co2+)、鉛(Pb2+)、ストロンチウム(Sr2+)、リチウム(Li)、バリウム(Ba2+)、及びアルミニウム(Al3+)であってよい。好ましいアニオンは、ケイ酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、リン酸水素塩、リン酸塩、亜リン酸塩、ニトロフタル酸塩、ホスホン酸塩、及びホスホノカルボン酸塩、並びにアゾール、及びそれらの誘導体、例えば1,2,3−ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、及び2−メルカプトベンゾオキサゾールから誘導されるものであるが、他の好適なアニオンは、過マンガン酸塩、マンガン酸塩、バナジウム酸塩、及びタングステン酸塩であってよい。上述のアニオンを与える成分に関しては、遊離酸形態、或いは任意の他の部分的中和又は完全中和形態、則ち共役種を、任意の特定の場合に必要に応じて用いることができると理解すべきである。
【0029】
一例として、無機酸化物によるカチオン交換プロセスを考えることができる。シリカ、アルミナ、及び他の酸化物のような無機酸化物の粒子は、一定割合のヒドロキシル基が粒子の表面上に存在するように製造することができる。粒子は、多孔度において非多孔質から高多孔質まで相違していてよく、球状から任意の非球状形状までの任意の形状であってよく、ゲル状、沈殿状、ゾル(コロイド)状、ヒューム状、又は当該技術において容易に認識される他の通常の形態であってよい。かかる酸化物粒子は、米国特許5,336,794;5,231,201;4,939,115;4,734,226;及び4,629,588;並びにDE−1,000,793;GB−1,263,945;DE−1,767332;US−5,123,964;US−5,827,363;US−5,968,470;US−2004/0249049、及び2005/0228106;(これらの主題の全てを参照として本明細書中に包含する)において示されているか又はこれらによって参照されているプロセスにしたがって製造することができる。これらの粒子を製造する方法に関する詳細は、また、「シリカの化学的性質(The Chemistry of Silica)」, R.K. Iler, John & Wiley & Sons, 1979、及び「ゾル−ゲルの科学(Sol-Gel Science)」, C.J. Brinker及びG.W. Sherer, Academic Press, 1990のようなテキストブックにおいて見ることができる。これらの種類の粒子はまた、例えばW.R. Grace & Co.-Conn.からSYLOID(登録商標)、PERKASIL(登録商標)、又はLUDOX(登録商標)の商品名などで商業的に入手することもできる。
【0030】
ヒドロキシル基のプロトンは、酸化物を必要なカチオンを含む溶液と接触させることによって置換することができる。交換を行うためには、酸化物を、室温及び計器によって監視されるpHにおいて水中で撹拌することができる。次に、pHを過度(例えばシリカに関しては約10.5、アルミナに関しては約12)に上昇させないようにしながら、交換する物質(例えば水酸化カルシウム又は塩基性炭酸亜鉛)をゆっくりと加える。pHは、プロトンを除去するのに十分に高いが、無機酸化物を溶解するほどは高くないものである必要がある。取り込みの後、塩基を添加した後に一定時間にわたってpHの下降を観察することができる。pHがもはや下降しない時点で交換が完了し、必要な場合には酸化物粒子を粉砕し、洗浄し、真空下で乾燥することができる。酸化物中へのカチオンの取り込みはXRF分光法によって測定することができる。かかる交換酸化物を製造するための方法は、米国特許4,687,595;4,643,769;4,419,137;及び5,041,241;(その全ての主題は参照として本明細書中に包含する)において見ることができるか、またはこれらによって参照されている。典型的には、無機酸化物抑制剤粒子は、約5m/g〜約750m/gの範囲のBET表面積を有し、平均多孔度は約0.1mL/g〜約3mL/gの範囲である。
【0031】
上述したように、例えば、必要なカチオン及びアニオンの存在下、好適な条件下における酸化物の沈殿又はゲル化のプロセスによって、無機酸化物をベースとする同様の化合物を製造することができ、かかる化合物の製造方法は、例えば、米国特許4,849,297及びGB特許918,802(その全ての主題は参照として本明細書中に包含する)において見ることができる。同様に、難溶性塩をベースとする抑制性化合物及びそれらの製造方法の例は、例えば、米国特許4,247,526;4,139,599;4,294,621;4,294,808;4,337,092;5,024,825;5,108,728;5,126,074;5,665,149;及び6,083,308;米国特許出願2007/0012220;並びにGB特許825,976;914,707;915,512;1,089,245;DE特許2,849,712;2,840,820;及び1,567,609、並びにEP特許522,678;(その全ての主題は参照として本明細書中に包含する)において見ることができる。
【0032】
多くの場合において、耐腐食において用いるフィルム及び被覆は水に対して限定された透過性を有し、腐食抑制のメカニズムは化合物が水中に徐々に溶解すること及び活性抑制剤としてのイオンが放出されることを伴うと考えられる。かかる系を長時間にわたって有効にするためには、化合物の溶解度が非常に重要である。化合物が過度に可溶であると、被覆のブリスターが起こる可能性があり、化合物は速やかに消耗する。また、可溶性が不十分であると、化合物は有効でない。抑制性化合物が純粋に難溶性塩であるか、或いは無機酸化物をベースとするか、或いはこれら2つの幾つかの配合物であるかに関わらず、フィルム及び被覆において用いるのに好適なかかる化合物の典型的な水溶解度は、約10−5M〜10−2Mの水性媒体中の抑制性イオンの濃度をもたらすものである。
【0033】
無機酸化物をベースとする抑制性化合物に関し、無機酸化物それ自体は、腐食抑制性粒子がその中で用いられる雰囲気の性質(例えば、シリカの場合には、ケイ酸は約10−3Mのバックグラウンド溶解度を有し、シリケートの濃度はpH依存性であり、例えば約10.5のpHにおいて10−2Mの値を有する)によって、供給抑制性物質に対して一定の溶解度を有する。
【0034】
無機酸化物をベースとする抑制剤は、抑制性粒子をその中で用いる雰囲気中に存在する攻撃性のイオンとのイオン交換によって抑制性カチオン及びアニオンを溶液中に放出するように作用させることができると時には考えられている。腐食抑制性イオンの放出速度に影響を与えるものは、透過性水性雰囲気中への抑制性イオンの可溶化を伴うメカニズムに加えてか又はこれよりもむしろ、交換イオンに対するフィルム又は被覆の透過性である。この場合には、腐食抑制性イオンは、被覆の所望のバリヤ特性が最も弱い領域における無機酸化物から優先的に放出され、これによって改良された性能特性が導かれる。
【0035】
広範囲のフィルム及び被覆系中に腐食抑制剤を含ませる能力、並びに可溶性の基準に加えて耐腐食性についての適合性に関する理由のために、抑制性化合物の水性スラリーのpHは、殆どの場合において通常は4〜10.5の範囲内であるが、問題となる被覆又はフィルムの実際の化学的性質及び金属物質の性質に応じてより低いか又はより高い値が好適である可能性がある。
【0036】
一例として、無機酸化物による単純なカチオン交換の場合においては、無機酸化物上のヒドロキシル基の割合に応じて、溶解度及びpHの基準を満足させながら、2.5ミリモル/g以下のカチオンを酸化物と配合することができることが分かった。上記に示すようにイオン交換技術は比較的単純であるので、好ましい無機酸化物の選択、及び腐食抑制性カチオンの最大の取り込みを与えるための処理は、単純な比較実験によって決定することができる。溶解度及びpHの要件と合致する下限は、0.05ミリモル/gである。
【0037】
腐食抑制性粒子は被覆用の充填剤として作用させることができ、適用する組成物を基準として40重量%以下、乾燥フィルム重量を基準として80重量%以下の比較的多量に含ませることができる。
【0038】
再び無機酸化物による単純なカチオン交換の場合を参照し、上記で議論した酸化物と配合することのできるカチオンの量を考慮すると、この場合には被覆には乾燥フィルム重量を基準として2ミリモル/g以下の腐食抑制性カチオンを含ませることができることが明らかになる。
【0039】
実際の溶解度値及びpH値に対する制御は、上記で検討した腐食抑制剤の化学的性質の範囲内の広範囲の組成、並びに、腐食抑制剤及び複数の腐食抑制剤の配合物を上記で概説したようにして製造することのできる種々の方法に応じて得られ、ここでは配合するイオンの性質、無機酸化物が含まれる孔の構造、並びに無機酸化物の性質が重要な考慮事項である。
【0040】
本発明によれば、多価金属イオンの存在下で無機酸化物粒子を数ミクロン未満にまで粉砕する試み、或いは多価金属イオンの存在下で小さな無機酸化物粒子を混合することによって、特定の被覆組成物において用いるのに好適でない可能性がある分散液が得られることが見出された。
【0041】
多価カチオンは、イオン交換酸化物の場合などにおいては抑制性カチオンと無機酸化物との予め存在する会合物から、或いは沈殿又は共ゲル化によって製造されるものから、或いは粉砕中に多価カチオンを可溶性又は難溶性化合物の形態で加えることによって発生させることができ、或いは抑制性化合物の配合物を上記で議論したように製造することができる任意の種々の方法にしたがって存在させることができる。
【0042】
多価金属イオンは、かかる小さな無機粒子を粉砕によって製造することを試みる場合においては、小さな無機酸化物粒子の大きな凝集を引き起こす可能性があり、或いは凝集、凝塊、高粘性、又は沈降に関する不安定性を引き起こす可能性がある。
【0043】
本発明は、pHを制御し及び/又はカチオンを錯化して、それによって過剰の粘度上昇、粒子の再凝集、及び粉砕中又は粉砕後に他の形態で起こる可能性のある分散粒子の激しい沈降を回避又は最小にすることによって小さな粒子の安定な分散液を形成するのに好適な酸性又は塩基性試薬を用いることによってこの問題を軽減する。
【0044】
したがって、本発明の一態様は、表面変性無機粒子が多価金属イオンによって変性されており、約10ミクロン以下の平均粒径を有する、流体又は液体を有する表面変性無機粒子の分散液を包含する。
【0045】
ここで用いる「表面変性無機粒子」という用語は、多価カチオンの存在下での無機酸化物粒子に関し、ここで多価カチオンは、無機酸化物をベースとする腐食抑制剤の製造において関与するもののようなプロセスから、難溶性塩をベースとする腐食抑制剤の製造において関与するもののような可溶性及び難溶性化合物を存在させることから、及び/又は上記で詳細に説明したような腐食抑制性の種又は化合物の他のタイプの配合物から、無機酸化物によるカチオンの取り込みを期待することができるような条件下で生成させることができる。
【0046】
平均粒径は、約10ミクロン、約9ミクロン、約8ミクロン、約7ミクロン、6ミクロン、約5ミクロン、約4ミクロン、約3ミクロン、約2ミクロンより小さく、又は約1ミクロンより小さくてよい。より代表的な態様においては、平均粒径は約1ミクロン未満である。
【0047】
多価金属イオンとしては、カルシウム、亜鉛、コバルト、鉛、ストロンチウム、リチウム、バリウム、マグネシウム、マンガン、並びにセリウムのような希土類元素のカチオン、或いはこれらの混合物を挙げることができる。より代表的な態様においては、多価金属イオンとしては、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、及びセリウムのような希土類元素のものが挙げられる。
【0048】
粒子は、シリカ及びアルミナのような無機酸化物をベースとする、他の無機酸化物と別々か又は配合して粉砕した腐食抑制剤であってよい。他の例としては、リン酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホスホン酸塩、ホスホノカルボン酸塩、ホウ酸塩、モリブデン酸塩、ニトロフタル酸塩、アゾール誘導体、過マンガン酸塩、マンガン酸塩、バナジウム酸塩、及びタングステン酸塩、並びにこれらの任意の好適な組み合わせをベースとするもののような上記で説明した部分可溶性又は難溶性の金属塩と組み合わせて粉砕した無機酸化物及び無機酸化物をベースとする腐食抑制剤が挙げられる。また、難溶性塩をベースとする抑制性化合物の配合物、並びに上記記載の抑制性化合物がそれから製造される溶液又はスラリーの組成及び処理経路にしたがって種々の方法で同時に製造することができる無機酸化物をベースとするもののような、異なる粒子タイプの混合物も含まれる。
【0049】
本発明の他の態様は、(a)安定化又は錯化剤を含む流体;及び(b)多価金属イオンを含む表面変性無機粒子;を含む表面変性無機粒子の分散液に関する。本発明はまた、上述の分散液を含む被覆組成物にも関する。
【0050】
幾つかの場合においては、分散液を安定化させ及び/又は多価カチオンを錯化するために用いる添加物質は、腐食抑制性の化合物、粒子、又は粒子の混合物の可溶性又は部分的に可溶性の成分であってよい。複数の添加物質は別々の化合物であってもよく、或いは事実上オリゴマー又はポリマーであってもよい。
【0051】
安定化及び錯化剤としては、リンを含むか及びリンを含まない種々の酸性物質、並びにアミン及びアルカノールアミンのような塩基性物質を挙げることができる。勿論、存在する実際の種及びイオン化状態は、使用時点におけるpH及び/又は酸性又は塩基性の状態によって定まる。リン含有酸性物質の例としては、亜リン酸、リン酸、トリ及びポリリン酸、分子あたり1つのホスホン酸基を含む有機ホスホン酸、例えば2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、マレイン酸及びアクリル酸のホスホン化オリゴマー及びポリマー、並びにこれらのコオリゴマー及びコポリマーが挙げられる。他の例としては、ジホスホン酸などの分子あたり2つ以上のホスホン酸基を含む有機ホスホン酸、例えばアルキルメタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸(ここではアルキル基は置換であっても又は非置換であってもよく、1〜12個の炭素原子を含んでいてもよい)、例えばメチル−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸、又はプロピル−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸が挙げられる。また、アルキルアミノジ(アルキレンホスホン酸)のような分子あたり2つ以上のN−アルキレンホスホン酸基を含むアミノ化合物(ここではアルキル基は置換であっても又は非置換であってもよく、1〜12個の炭素原子を有していてもよく、例えばプロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、又は2−ヒドロキシエチルであってよく、アルキレン基は1〜5個の炭素原子を有していてもよい)、並びにニトリロトリス(メチレンホスホン酸)及びニトリロトリス(プロピレンホスホン酸)のようなアミノトリ(アルキレンホスホン酸)も好適である。アミノ化合物からの他の好適なアミノ誘導体は、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)のようなアルキレンジアミンテトラ(アルキレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)のようなジアルキレントリアミンペンタ(アルキレンホスホン酸などである。
【0052】
リンを含まない酸性物質としては、1以上のヒドロキシル基を有するモノカルボン酸、例えばグリコール酸、乳酸、マンデル酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸、2,2,2−トリス(ヒドロキシメチル)酢酸、及び3,5−ジヒドロキシ安息香酸;1以上のヒドロキシル基を有するジカルボン酸、例えば酒石酸;並びに1以上のヒドロキシル基を有するトリカルボン酸、例えばクエン酸;であってよいヒドロキシ酸が挙げられる。また、リンを含まない酸性物質としては、メタクリル酸、アクリル酸、及び無水マレイン酸又はマレイン酸のポリマー、並びにそのコポリマー、例えばアクリレート−アクリル酸コポリマー、オレフィン−無水マレイン酸コポリマー、例えばイソブチレン−無水マレイン酸コポリマー、スチレン−マレイン酸コポリマー、及びビニルアルキルエーテル−マレイン酸コポリマー、例えばポリ(ビニルメチルエーテル−co−マレイン酸)も挙げられる。リンを含まない酸性物質としては、2以上のヘテロ原子を含むアゾール及びそれらの誘導体、例えば1,2,3−ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、ベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、及び(2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸が更に挙げられる。
【0053】
塩基性物質としては、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミンであってよいアルカノールアミンが挙げられ、これらは主として、エタノールアミン及びそれらのN−アルキル化誘導体、1−アミノ−2−プロパノール及びそれらのN−アルキル化誘導体、2−アミノ−1−プロパノール及びそれらのN−アルキル化誘導体、並びに3−アミノ−1−プロパノール及びそれらのN−アルキル化誘導体、或いはこれらの混合物である。好適なモノアルカノールアミンの例としては、2−アミノエタノール(エタノールアミン)、2−(メチルアミノ)エタノール、2−(エチルアミノ)エタノール、2−(ブチルアミノ)エタノール、1−メチルエタノールアミン(イソプロパノールアミン)、1−エチルエタノールアミン、1−エチル(又はメチル)イソプロパノールアミン、n−ブチルエタノールアミン、シクロヘキサノールアミン、シクロヘキシルイソプロパノールアミン、n−ブチルイソプロパノールアミン、1−(2−ヒドロキシプロピル)ピペラジン、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、及び2−アミノ−1−プロパノールが挙げられる。好適なジアルカノールアミンの例は、ジエタノールアミン(2,2’−イミノジエタノール)、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、ジイソブタノールアミン(ビス−2−ヒドロキシ−1−ブチル)アミン)、ジシクロヘキサノールアミン、及びジイソプロパノールアミン(ビス−2−ヒドロキシ−1−プロピル)アミン)である。好適なトリアルカノールアミンの例はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンである。また、モルホリン、ピペラジン、及びそれらのN−アルキル誘導体、並びに脂肪アミンのような環式脂肪族アミンを用いることもできる。任意の上記のリン含有、リン非含有、又はアミン物質の混合物もまた好適である。また、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールのようなアミン官能基を有するアゾール誘導体も挙げられる。
【0054】
好ましい安定化又は錯化剤としては、亜リン酸、リン酸、トリ及びポリリン酸、並びに分子あたり1以上のホスホン酸基を含む有機ホスホン酸、例えば2−ヒドロキシホスホノ酢酸、並びに分子あたり1以上のヒドロキシル基を有するモノカルボン酸及びジカルボン酸、例えばグリコール酸が挙げられる。好ましい安定化又は錯化剤としては、アゾール誘導体、例えば1,2,3−ベンゾトリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、及び(2−ベンゾチアゾリルチオ)コハク酸が挙げられる。
【0055】
本発明の他の態様は、表面変性無機粒子と流体とを混合し;そして無機粒子を粉砕して約10ミクロン以下の平均直径を有する粒子を形成する;ことを含み、ここで無機酸化物粒子は多価金属イオンによって表面変性されていることを特徴とする、表面変性無機粒子の分散液の製造方法に関する。
【0056】
この態様においては、粉砕の前に上記記載の好適な酸性、塩基性、又は錯化物質を加えて、それによってpHを調節し及び/又はカチオンを錯化することを伴う湿潤粉砕法によって、無機粒子を含む小さな粒子の分散液を多価カチオンの存在下で得る。カチオンは、意図的に存在させるか、又は予備製造方法の結果として存在する。幾つかの場合においては、添加物質は、粉砕する腐食抑制性組成物の可溶性又は部分的に可溶性の成分であってよく、物質を特別に加えることは必要でない可能性がある。これにより、過剰の粘度上昇、粒子の再凝集、及び湿潤粉砕中又は湿潤粉砕後に他の形態で起こる可能性のある激しい沈降を回避又は最小にして安定な分散液が得られる。
【0057】
製造される平均粒径は約10ミクロン以下であり、分散液中の粒子の全て又は殆どは1ミクロン未満であってよい。粒子は、プロセス中において用いるか又は抑制剤を製造するプロセス全体中に製造される無機酸化物の性質によって、非多孔質、実質的に非多孔質、又は多孔質にすることができる。上記の議論を踏まえると、多孔度はしたがって約3mL/g以下で変化させることができる。粉砕は、通常は水性相中で行うことができるが、非水性相中で行うこともできる。非水性の態様に関しては、好適な溶媒は、アルコール、エステル、ケトン、グリコールエーテル、芳香族及び脂肪族炭化水素のような被覆用途において通常用いられる任意の公知の溶媒、並びにN−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、及びN,N−ジメチルアセトアミドのような非プロトン性溶媒であってよい。上記で説明した態様に包含される状況である相中の粒子形成及び成長の結果か、或いは大きな粒子を水相中で粉砕する結果のいずれかとして、粒子が好適に小さな粒子として、しかしながら水相中に既に存在する場合に関しては、無機酸化物を、従来技術において公知の技術によって上述した任意の種類の溶媒に移すことができる。この例が、Journal of Colloidal & Interface Science, 197, 360-369, 1998, A. Kasseh及びE. Keh, 「水から中間程度の極性の有機溶媒中へのコロイダルシリカの移送(Transfer of Colloidal Silica from water into organic solvents of intermediate polarities)」、及びJournal of Colloidal & Interface Science, 208, 162-166, 1998, A. Kasseh及びE. Keh, 「水から非混和性弱極性溶媒中へのコロイダルシリカの界面活性剤を媒介とする移送(Surfactant mediated transfer of Colloidal Silica from water to an immiscible weakly polar solvent)」において議論されており、或いは米国特許2,657,149;2,692,863;2,974,105;5,651,921;6,025,455;6,051,672;6,376,559;及びGB特許988,330;(これらの全ての主題は参照として本明細書中に包含する)において説明されている。多価カチオン、安定化及び錯化成分、及び/又は難溶性塩との配合物の導入は、溶媒移動の前又は溶媒移動の後に行うことができる。
【0058】
腐食抑制性粒子は、保護及び接着促進被覆及び層、例えば表面予備処理剤、表面フィルム、耐腐食性プライマー、接着剤、及びシーラント中に含ませることができ、本発明は、上記記載の腐食抑制性粒子を含む保護被覆及び接着促進被覆並びに層を包含する。保護被覆及び接着促進被覆並びに層は、耐腐食において用いる任意の公知のタイプの有機及び無機化学物質、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、例えばメラミン−ホルムアルデヒド、尿素−ホルムアルデヒド、又はベンゾグアナミン樹脂、ビニル樹脂、アルキド樹脂、塩素化ラバー又は環化ラバー、アクリル及びスチレン−アクリル化学物質、スチレンブタジエン樹脂、エポキシ−エステル、シリケートベースの被覆、例えば亜鉛に富むシリケート、アルキルシリケート及び/又はコロイダルシリカをベースとするゾルゲル被覆、有機官能性シランから誘導されるフィルム、処理剤、及び被覆、並びに酸性又はアルカリ性金属予備処理溶液並びにプライマー予備処理溶液をベースとするものであってよい。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、特許請求されている発明の特定の例示として与える。しかしながら、本発明は実施例において示される特定の詳細に限定されないことを理解すべきである。
実施例1:
10LのDrais実験用パールミル(Draiswerke, Inc.から入手できる)に、1.2kgのZrOビーズ(直径0.6〜1mm)を充填した。少量の2−ヒドロキシホスホノ酢酸を加えた3〜4μmの平均粒径を有するShieldex(登録商標)C303顔料(W.R. Grace & Co.から入手できる)の水性スラリーを、2800rpmのローター速度(低速設定)及び最大値の40%のポンプ速度において6時間循環させた。続いて、0.2重量%のActicide 1206
殺バクテリア剤(Thor Chemicalsから入手できる)をその中に混合した。Shieldex(登録商標)C303顔料及び水の懸濁液を室温において1時間撹拌し、その後、混合下で2−ヒドロキシホスホノ酢酸の溶液を加えた。これにより、pHが8.42から8.04に低下した。スラリーの組成(重量%)は、Shieldex(登録商標)C303顔料−16.21%;水−72.93%;2−ヒドロキシホスホノ酢酸の5%水溶液−10.66%;及びActicide(登録商標)1206殺バクテリア剤−0.2%;であった。
【0060】
粉砕の後、約0.3μmの平均粒径を有するCa/SiO粒子の自由流動分散液が得られ、これは90日以上保存しても安定のままであった。粒子の98%は1μm未満であった。粒径は、Malvern Instrumentsから入手できるMastersizer(登録商標)2000光散乱装置を用いて測定した。
【0061】
実施例2(比較例):
2−ヒドロキシホスホノ酢酸を混合物に加えなかった他は上記の実施例を繰り返した。これにより、粒子が粉砕によって再凝集した極めて粘稠の分散液が得られ、再凝集のピークは約10μmの平均寸法において見られた。
【0062】
実施例3(比較例):
ここでも2−ヒドロキシホスホノ酢酸を加えず、異なる粉砕条件を採用した。ZrOビーズ(直径0.6〜1mm)を半分充填した2Lの縦型実験用パールミル(Draiswerke, Inc.から入手できる)を2000rpmのローター速度で用いた。粉砕を6時間行った。得られた分散液は、再凝集する大きな傾向を有して、より粘稠になり、ピークは約10〜100μmの寸法において見られた。
【0063】
実施例4:
3〜4μmの粒径を有するシリカゲル(W.R. Grace & Co.-Conn.から入手できる)、Ca(OH)、及び2−ヒドロキシホスホノ酢酸を一緒に反応させることによって、耐腐食性顔料をその場で製造した。得られた混合物を次に、実験用Dispermat(登録商標)ミル(DISPERMATから入手できる)内において、1mmのガラスビーズを用いて、1800rpmのローター速度において約30分間パールミルにかけた。これにより、約2μmの平均粒径を有するCa/SiO/HPA粒子の自由流動分散液が得られた。スラリーの組成(重量%)は、シリカゲル−5.60%;水−81.12%;Ca(OH)−5.52%;及び2−ヒドロキシホスホノ酢酸の50%水溶液−7.76%;であった。水中のシリカの懸濁液にCa(OH)を加えた後、混合物を40℃において16時間熟成し、その後2−ヒドロキシホスホノ酢酸の溶液を、pHが9より下に降下しないような速度で加えた。反応混合物を90℃において1時間熟成し、その後冷却及び粉砕した。粉砕した分散液中の粒子は90日以上静置した後に再凝集せず、分散液は種々の保護被覆配合物に加えることができた。
【0064】
実施例5:
実施例2及び3の分散液は安定でなかったので、実施例1について耐腐食性試験を行い、Shieldex(登録商標)C303顔料単独と比較した。1ミクロン程度の厚さまで薄くした被覆を適用することはできなかったので、Shieldex(登録商標)C303顔料単独と比較して耐腐食特性の向上を分散液が与えるかどうかを評価するために、約40μmの乾燥フィルム厚さを得るように、塗布棒によってSendzimir(登録商標)亜鉛メッキ鋼(則ち、Chemetall試験パネル)に適用した水性アクリル被覆において試験を行った。用いた配合物を下表3に示す。ここで、分散液は単純な撹拌によって導入し、一方、Shieldex(登録商標)C303顔料は通常の方法でガラスビーズを用いて導入した。
【0065】
室温において7日間乾燥した後、被覆したパネルを擦過し、240時間塩水噴霧(ASTM−B117を用いた)にかけ、その後パネルを簡単にすすぎ、乾燥し、塩水噴霧キャビネットから取り出してから30分以内に評価した。結果を表1に与える。ここでは、等級は0〜5のスケールで与え、0は破損がなかったことを表し、5は完全に破損したことを表す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の結果は、本発明の分散液に関して、より単純な導入と組み合わせた商業的な製品と比較して耐腐食特性の向上が見られたことを示す。
実施例6:
実施例4についても耐腐食性試験を行った。この場合においては、本発明の亜鉛を含まない分散液を、水性アクリル被覆において通常用いられている商業的に入手できる亜鉛ベースの耐腐食性顔料(Heubach GmbHから入手できるHeucophos(登録商標)ZPO耐腐食性顔料)に対して比較した。また、商業的に入手できる亜鉛を含まない耐腐食性顔料であるShieldex(登録商標)AC5も、参照として試験に含ませた。被覆は、塗布棒によって冷延鋼(Q-Panel Co.から入手できるQ-Panels S412)に、約40μmの乾燥フィルム厚さを得るように適用した。用いた配合物を下表3に与える。ここでも、分散液は単純な撹拌によって導入したが、Heucophos(登録商標)ZPO顔料はガラスビーズを用いてここで示すように導入した。
【0068】
実施例5と同様に、被覆されたパネルを擦過し、240時間塩水噴霧(試験ASTM−B117を用いた)にかけ、その後室温において7日間乾燥した。続いて、パネルを簡単にすすぎ、乾燥し、塩水噴霧キャビネットから取り出してから30分以内に評価した。結果を表2に与える。ここでも、等級は0〜5のスケールで与え、0は破損がなかったことを表し、5は完全に破損したことを表す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2における結果は、本発明による亜鉛を含まない分散液によって、商業的に入手できる重金属及び亜鉛を含まない被覆を凌ぐ優れた耐腐食特性が与えられたことを示す。
【0071】
【表3】

【0072】
実施例7:
モル比1:5の水酸化カルシウム(3.1g)及び1,2,3−ベンゾトリアゾール(BTA)(26.9g)を撹拌下で水(70g)に加え、30重量%の固形分含量を有する溶液を得た。100gのLUDOX(登録商標)AMシリカ(W.R. Grace & Co.-Conn.から得られる、34重量%の固形分含量を有するアルミン酸塩変性コロイダルシリカ)に、20gのBTA含有溶液を撹拌下でゆっくりと加えて、0.25ミリモル/g−シリカのカルシウム含量及び0.15g/g−シリカのBTA含量(或いは分散液の全含水量を基準として6.3重量%のBTAとして表される)を有する微粒子分散液を製造した。分散液のpHは8.5であった。BTAを用いずに水酸化カルシウムを加えると、速やかなゲル化が導かれた。
【0073】
実施例8:
実施例7の耐腐食特性を以下のようにして求めた。100gの実施例7の分散液に、0.39gの塩化ナトリウムを撹拌下で加え、溶解後に、分散液の全含水量を基準とする塩化ナトリウムの濃度を約0.1Mとした。飽和Ag/AgCl参照電極、及び白金カウンター電極を用い、塩化ナトリウム含有分散液を電解質として用いる3電極構成における試験電極としてアルミニウム合金2024-T3を用いた。試験電極を電解質と接触させて4時間後に、Gill8AC電気化学腐食試験装置(ACM Instrumentsから入手できる)を用いて動電位条件下でそれぞれの側で250mVの静止電圧を掃引することによって電流−電圧曲線を作成した。それぞれの側の10mVの静止電圧の曲線の傾きを腐食抑制の指標として用いた。ここで、傾きは抵抗の単位を有する。3つの比較を用いた。第1は、0.39gのNaClを撹拌下で100gのLUDOX(登録商標)AMシリカに加えてカルシウム又はBTAを用いないNaCl中約0.1Mの分散液を製造することを含んでいた。第2は、0.1M−NaCl中のモル比1:5の水酸化カルシウム(0.767g)及びBTA(6.684g)の溶液を製造して、得られるBTAの濃度が溶液の全含水量を基準として6.3重量%のBTAとなるようにすることを含んでいた。第3は、単純に0.1Mの塩化ナトリウム溶液であった。結果を表4に示す。
【0074】
【表4】

【0075】
明らかなように、実施例7及びLUDOX(登録商標)AMシリカは両方とも、BTA単独及びブランクと比較して2034-T3に関する腐食抑制の兆候を与えたが、高い傾き及び滑らかな曲線によって示されるような安定な抑制は実施例7しか与えなかった。ここで、ジグザグ状の曲線は表面の破損及び補修が交互に行われたことを示す。
【0076】
本発明を限られた数の態様によって説明したが、これらの特定の態様は本明細書において記載され特許請求されている発明の範囲を制限することを意図するものではない。更なる修正及び変更が可能であることは、本明細書中の代表的な態様及び記載を検討することにより当業者に明らかである。実施例及び明細書の残りの部分における全ての部及びパーセントは、他に特定しない限り重量基準である。更に、明細書又は特許請求の範囲において示す全ての数値範囲、例えば特定の特性の組、測定値の単位、条件、物理的状態、又は割合を示すものは、明らかに、言及するか又は他の方法で示すかかる範囲内に含まれる全ての数、並びにそのように示されている任意の範囲内の数の任意の部分集合を文字通り含むものであると意図される。例えば、下限R及び上限Rを有する数値範囲が開示されている場合には常に、この範囲内に含まれる任意の数Rが具体的に開示されている。特に、この範囲内の次式の数R:R=R+k(R−R)(式中、kは1%の増分で1%〜100%の範囲の変数であり、例えばkは、1%、2%、3%、4%、5%、・・・50%、51%、52%、・・・95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である)が具体的に開示されている。更に、上記で算出されるRの任意の二つの値によって表される任意の数値範囲も、具体的に開示されている。本明細書において示し記載したものに加えて、本発明の任意の修正は、上記の記載から当業者に明らかとなろう。かかる修正は、特許請求の範囲内に包含されると意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)流体;及び
(b)多価金属イオンを含み、約10ミクロン以下の平均粒径を有する表面変性無機粒子;
を含む表面変性無機粒子の分散液。
【請求項2】
平均粒径が約5ミクロン未満である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
平均粒径が約1ミクロン未満である、請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
多価金属イオンが、カルシウム、亜鉛、コバルト、鉛、ストロンチウム、リチウム、バリウム、マグネシウム、マンガン、セリウム、アルミニウム、又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項5】
多価金属イオンが、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、マンガン、セリウム、又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項6】
無機酸化物が、シリカ、シリケート、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、ジルコニア、セリア、又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項7】
無機酸化物が、ゲル状、コロイド状、沈殿状、ヒューム状、又はこれらの混合物である、請求項1に記載の分散液。
【請求項8】
流体が、水、錯化剤、バインダー、フィルム形成剤、殺バクテリア剤、又はポリマーを含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項9】
錯化剤が酸性又は塩基性物質を含む、請求項8に記載の分散液。
【請求項10】
錯化剤が、亜リン酸、リン酸、トリ及びポリリン酸、有機ホスホン酸、又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載の分散液。
【請求項11】
請求項1に記載の分散液を含む被覆。
【請求項12】
(a)錯化剤を含む流体;及び
(b)多価金属イオンを含む表面変性無機粒子;
を含む表面変性無機粒子の分散液。
【請求項13】
平均粒径が約10ミクロン未満である、請求項12に記載の分散液。
【請求項14】
平均粒径が約5ミクロン未満である、請求項12に記載の分散液。
【請求項15】
多価金属イオンが、カルシウム、亜鉛、コバルト、鉛、ストロンチウム、リチウム、バリウム、マグネシウム、マンガン、セリウム、又はこれらの混合物を含む、請求項12に記載の分散液。
【請求項16】
多価金属イオンが、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、セリウム、又はこれらの混合物を含む、請求項12に記載の分散液。
【請求項17】
無機酸化物が、シリカ、シリケート、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、ジルコニア、セリア、又はこれらの混合物を含む、請求項12に記載の分散液。
【請求項18】
無機酸化物が、ゲル状、コロイド状、沈殿状、ヒューム状、又はこれらの混合物である、請求項12に記載の分散液。
【請求項19】
流体が、水、錯化剤、バインダー、フィルム形成剤、殺バクテリア剤、又はポリマーを含む、請求項12に記載の分散液。
【請求項20】
錯化剤が、亜リン酸、リン酸、トリ及びポリリン酸、有機ホスホン酸、又はこれらの混合物を含む、請求項12に記載の分散液。
【請求項21】
請求項12に記載の分散液を含む被覆。
【請求項22】
錯化剤の存在下において分散液を粉砕するプロセスによって製造される、請求項12に記載の分散液。
【請求項23】
(a)表面変性無機粒子を、錯化剤を含む流体と混合し;そして
(b)無機粒子を粉砕し、ここで無機酸化物粒子は多価金属イオンによって表面変性されている;
ことを含む、表面変性無機粒子の分散液の製造方法。
【請求項24】
表面変性無機酸化物粒子の平均直径が約10ミクロン未満である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
平均粒径が約5ミクロン未満である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
多価金属イオンが、カルシウム、亜鉛、コバルト、鉛、ストロンチウム、リチウム、バリウム、マグネシウム、マンガン、セリウム、又はこれらの混合物を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
多価金属イオンが、カルシウム、マグネシウム、マンガン、亜鉛、セリウム、又はこれらの混合物を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
無機酸化物が、シリカ、シリケート、アルミナ、アルミノシリケート、チタニア、ジルコニア、セリア、又はこれらの混合物を含む、請求項23に記載の方法
【請求項29】
無機酸化物が、ゲル状、コロイド状、沈殿状、ヒューム状、又はこれらの混合物である、請求項23に記載の方法。
【請求項30】
流体が、水、錯化剤、バインダー、フィルム形成剤、殺バクテリア剤、又はポリマーを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項31】
錯化剤が、亜リン酸、リン酸、トリ及びポリリン酸、有機ホスホン酸、又はこれらの混合物を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項32】
請求項23に記載の方法によって製造される無機酸化物分散液。

【公表番号】特表2011−505233(P2011−505233A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533514(P2010−533514)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/EP2008/009777
【国際公開番号】WO2009/065569
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(500445446)グレース・ゲーエムベーハー・ウント・コムパニー・カーゲー (12)
【Fターム(参考)】