説明

耐衝撃性が改良された生分解性ポリマー組成物

本発明は、粒度の大きい耐衝撃性改良剤が生分解性ポリマーの連続相中に分散されている、耐衝撃性が改良された生分解性ポリマー組成物に関する。この耐衝撃性改良剤はコア−シェル型構造を有し、平均粒度が250nmを超える。この耐衝撃性が改良された組成物は耐衝撃特性が良好であり、かつヘイズが低い。生分解性ポリマーは、好ましくは、ポリ乳酸またはポリヒドロキシ酪酸である。この組成物は、分解性ポリマーを30〜99.9重量パーセントおよび1種以上の耐衝撃性改良剤を0.1〜15重量パーセント含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリマーの連続相中に粒度の大きな耐衝撃性改良剤が分散されている、耐衝撃性が改良された生分解性ポリマー組成物に関する。この耐衝撃性改良剤はコア−シェル型構造を有し、平均粒度が250nmを超える。この耐衝撃性が改良された組成物は耐衝撃特性が良好であり、かつヘイズが低い。
【背景技術】
【0002】
一向に減らないプラスチック廃棄物に対する世界的な関心が高まる中、日常使用に用いるための生分解性ポリマーが大きな注目を集めるようになった。トウモロコシ等の再生農業資源から容易に製造することができるポリ乳酸(PLA)をベースとする生分解性ポリマーはその候補として最も魅力的なものの1つである。最近になってこのポリマーを農業資源から経済的に製造することが発展したことにより、このポリマーの生分解性プラスチック製日用品市場への参入が加速された。
【0003】
ポリ乳酸等の生体高分子とのブレンド中に線状アクリル系共重合体を加工助剤として使用することが開示されている(米国特許出願公開第2007/0179218号明細書)。ここに開示されている線状アクリル系共重合体は、十分な耐衝撃特性を付与するものではない。耐衝撃性改良剤等の添加剤をこのポリ乳酸組成物中に使用することができる可能性がある。
【0004】
ポリ乳酸等の多くの生分解性ポリマーの問題点の1つは、ポリマー単体が非常に脆い性質を有することにある。この性質により、完成した物品の耐衝撃特性が非常に低いものとなり、これは、適当な製品性能に要求されるよりもはるかに低いものである。メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)やアクリル系のコア−シェル型またはブロック共重合体等の耐衝撃性改良剤がPVCおよびポリカーボネートのブレンドの耐衝撃特性を改善することが知られている。
【0005】
PCT/US07/84502には、生分解性ポリマー中に使用するためのブロック共重合体およびコア−シェル型ポリマーが記載されている。この出願には粒度に関することは一切述べられていない。
【0006】
国際公開第2008/051443号パンフレットには、耐衝撃性が改良された透明なポリ乳酸樹脂が記載されている。この樹脂は、二峰性分布を有するコア−シェル型耐衝撃性改良剤で改良されており、粒子および凝集体全体の数平均粒度は210ナノメートル未満である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0179218号明細書
【特許文献2】PCT/US07/84502(国際公開第2008/063988)
【特許文献3】国際公開第2008/051443号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
驚くべきことに、数平均粒度が250を超えるコア−シェル型耐衝撃性改良剤を生分解性プラスチック中に使用することが可能であり、依然として極めて優れた耐衝撃性改良および低ヘイズが達成されることが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
a)1種以上の生分解性ポリマーを30〜99.9重量パーセント、
b)1種以上の生体高分子を0〜69.9重量パーセント、および
c)1種以上のコア−シェル型耐衝撃性改良剤を0.1〜15重量パーセント
を含み、上記耐衝撃性改良剤の数平均粒度が250nmを超える、生分解性ポリマー組成物に関する。
【0010】
この生分解性ポリマー組成物は透明または半透明であってもよく、好ましくはヘイズが15未満である。
【0011】
本発明の生分解性ポリマーは、単一種の生分解性ポリマーであっても、生分解性ポリマーの混合物であってもよい。本発明に有用な生分解性ポリマーを数例挙げると、これらに限定されるものではないが、ポリ乳酸およびポリヒドロキシ酪酸が挙げられる。この生分解性組成物は、1種以上の生分解性ポリマーを30〜99.9重量パーセント含む。
【0012】
好ましいポリ乳酸およびポリヒドロキシ酪酸は、標準的(normal)または低分子量であってもよい。
【0013】
生分解性ポリマーに加えて、これらに限定されるものではないが、デンプン、セルロース、多糖等の他の生体高分子も存在してもよい。これらに限定されるものではないが、ポリカプロラクタム、ポリアミド11、および脂肪族または芳香族ポリエステル等のさらなる生体高分子も存在してもよい。この、他の生体高分子は、組成物中に0〜69.9重量パーセント存在してもよい。
【0014】
1種以上の耐衝撃性改良剤は、組成物の0.1〜15重量パーセント使用される。
【0015】
この耐衝撃性改良剤は、コア/シェル型耐衝撃性改良剤である。コア−シェル型(多層)耐衝撃性改良剤は、ソフト(ゴムまたはエラストマー)コアおよびハードシェル、ソフトエラストマー層で覆われたハードコア、ならびに当該技術分野において周知の他のコア−シェル形態のハードシェルを有し得る。ゴム層は、ガラス転移温度(Tg)の低いポリマーから構成され、これらに限定されるものではないが、ブチルアクリレート(BA)、エチルヘキシルアクリレート(EHA)、ブタジエン(BD)、ブチルアクリレート/スチレン、および他の多くの組合せが挙げられる。好ましくは、コアは、純アクリル系(all−acrylic)単独重合体または共重合体である。アクリル系コアを用いると、ジエン系コアポリマーよりも生分解性ポリマー組成物のヘイズが低くなることが見出された。
【0016】
エラストマー層の好ましいガラス転移温度(Tg)は、25℃未満であるべきである。エラストマーまたはゴム層は、エネルギー吸収を高めるために、通常、多官能性モノマーによって架橋される。コア/シェル型耐衝撃性改良剤の架橋剤として使用するのに好適な架橋モノマーは当業者に周知であり、通常、存在するモノ不飽和モノマーと共重合が可能な、反応性がほぼ同程度であるエチレン性多官能性基を有するモノマーである。その例としては、これらに限定されるものではないが、ジビニルベンゼン、ジ−およびトリメタクリレートおよびアクリレートのグリコール、トリオールトリアクリレート、メタクリレート、ならびにアリルメタクリレート等が挙げられる。耐衝撃性改良剤の層間グラフトおよびマトリックス/改良剤粒子のグラフトを向上させるためにグラフトモノマーも使用してもよい。グラフトモノマーは、任意の多官能性架橋モノマーであってもよい。
【0017】
ソフトコアを有する多層衝撃改良剤(modifies)の場合は、コアは耐衝撃性改良剤の30〜95重量パーセントの範囲内にあり、外側シェルは15〜70重量パーセントの範囲内にある。エラストマー層の架橋剤は0〜5.0%の範囲内にある。コア−シェル型耐衝撃性改良剤の合成は当該技術分野において周知であり、例えば、米国特許第3,793,402号明細書、米国特許第3,808,180号明細書、米国特許第3,971,835号明細書、および米国特許第3,671,610号明細書といった多くの参考文献が存在し、これらは参照により本明細書中に援用されるものとする。改良剤粒子および/またはマトリックスポリマーの屈折率は、異なる屈折率を有する共重合可能なモノマーを用いて互いに適合させることができる。好ましいモノマーとしては、これらに限定されるものではないが、スチレン、アルファメチルスチレン、およびエチレン性不飽和基を有するフッ化ビニリデンモノマーが挙げられる。
【0018】
コア/シェル型以外の他の耐衝撃性改良剤も、極めて高い透明性および清澄性が必要とされない可能性がある場合は、本発明に使用することが可能である。例えば、高い防弾性能(ballistic resistance property)を達成するために、アクリル系マトリックス中にブタジエンゴムを添加してもよい。
【0019】
好ましい実施形態においては、コア−シェル型ポリマーは、80〜90%がアクリル系コアであり、シェルは、メチルメタクリレート75〜100重量%、ブチルアクリレート0〜20重量パーセント、およびエチルアクリレート0〜25重量パーセントから構成される。このアクリル系コアは、好ましくは、ブチルアクリレート単独重合体およびエチルヘキシルアクリレート単独重合体またはブチルアクリレートおよびエチルヘキシルアクリレート共重合体(任意のモノマー比)から選択される。
【0020】
一実施形態においては、アクリル系共重合体耐衝撃性改良剤は、1,3−ジエン(ビニル芳香族化合物との共重合体も)またはアルキル基が4個以上の炭素を有するアルキルアクリレート等のゴム状コアを有するコア−シェル型ポリマーを有するアクリレートベースの共重合体であり、シェルがこのコア上にグラフトされており、かつビニル芳香族化合物(例えば、スチレン)、アルキルメタクリレート(アルキル基が1〜4個の炭素を有する)、アルキルアクリレート(アルキル基が1〜4個の炭素を有する)、アクリロニトリル等のモノマーから構成される。
【0021】
好ましいアクリル系樹脂型のコア/シェル型ポリマーは、0〜100重量%がブチルアクリレートであり、0〜100%が2−エチルヘキシルアクリレートであり、かつ0〜35%がブタジエンであるコアを70〜90%と、メチルメタクリレートを75〜100重量%、ブチルアクリレートを0〜20重量パーセント、およびエチルアクリレートを0〜25重量パーセントを含むシェルとを有するものである。
【0022】
本発明のコア−シェル型耐衝撃性改良剤の数平均粒度は250nmを超え、好ましくは250〜400nm、最も好ましくは280〜330nmである。コア−シェル型耐衝撃性改良剤は、2種以上の大きさまたは化学組成のものをブレンドしてもよいが、耐衝撃性改良剤粒子全体の数平均粒度は250nmを超える。
【0023】
本発明の生分解性ポリマー組成物は、生分解性ポリマーを30〜99.9重量パーセント、他の生体高分子を0〜69.9重量パーセント、およびアクリル系共重合体を0.1〜15重量パーセント含む。この構成成分は、加工前に混合してもよいし、あるいは、溶融混練作業等の1つ以上の加工ステップの最中に合一してもよい。これは、例えば、単軸押出機、二軸押出機、Buss混練機、二本ロールミル、撹拌翼混練によって実施してもよい。アクリル系−メタクリル系共重合体を生分解性ポリマー中に均一に分散させる任意の混合作業が許容される。ブレンドの形成は一段階形成に限られない。担体ポリマー1〜85%中にアクリル系−メタクリル系共重合体15〜99%を含むマスターバッチを形成した後、生分解性ポリマーを加えることによって最終ブレンドを得ることも想定される。この担体ポリマーは、これらに限定されるものではないが、ポリ乳酸、アクリル系−メタクリル系共重合体、およびメタクリル系単独重合体であってもよい。
【0024】
合計して100パーセントまでの生分解性ポリマー、生体高分子、および耐衝撃性改良剤に加えて、本発明の組成物は、様々な添加剤もさらに含んでいてもよく、これらに限定されるものではないが、熱安定剤、内部および外部潤滑剤、他の耐衝撃性改良剤、加工助剤、溶融強度調整剤(melt strength additive)、フィラー、および顔料が挙げられる。
【0025】
本発明の組成物は、ポリ乳酸単独の場合よりも耐衝撃特性が大幅に改善されていることが見出された。このコア−シェル型ポリマー耐衝撃性改良剤は、耐衝撃性改良が極めて優れていると同時に依然として低いヘイズを付与する。
【0026】
耐衝撃性が改良された生分解性ポリマー組成物は、組成および耐衝撃性の改良度合いに応じて、ほぼ透明または半透明から不透明の範囲で変化してもよい。一実施形態においては、耐衝撃性が改良された生分解性ポリマーのASTM 1003−00により測定されたヘイズレベルは15パーセント未満、好ましくは12パーセント未満である。
【0027】
本発明の組成物は任意の周知の方法を用いて加工することができ、これらに限定されるものではないが、射出成形、押出成形、カレンダー成形、ブロー成形、発泡、および熱成形が挙げられる。生分解性組成物を用いて作製することができる有用な物品としては、これらに限定されるものではないが、包装材、フィルム、およびボトルが挙げられる。当業者は、本明細書における開示内容および実施例に基づき、他の様々な有用な物品およびこれらの物品を形成するための方法を推測できるであろう。
【実施例】
【0028】
実施例1
アクリル系−メタクリル系共重合体耐衝撃性改良剤を5および7.5重量%含むポリ乳酸95および93.5%のブレンドを、二軸押出機を用いた溶融押出によって形成した。溶融物が確実に均質になるように、押出時の加工温度および溶融温度をポリ乳酸の融点を超える(>152℃)ように維持した。3本ポリッシングロール(three roll stack)および引取装置を用いて押出物をシート(17〜22mil)に成形した。カラーメーターを用いてシートのヘイズ測定を実施し、半球状の頭部を有する2lbの衝撃子を備えたガードナー衝撃試験機を用いてダート落下耐衝撃性測定を実施した。観測されたデータを以下の表1に示す。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1種以上の生分解性ポリマーを30〜99.9重量パーセント、
b)1種以上の生体高分子を0〜69.9重量パーセント、および
c)1種以上のコア−シェル型耐衝撃性改良剤を0.1〜15重量パーセント
を含み、前記耐衝撃性改良剤の数平均粒度が250nmを超える、生分解性ポリマー組成物。
【請求項2】
前記生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項3】
前記耐衝撃性改良剤の数平均粒度が150〜400nmである、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項4】
前記耐衝撃性改良剤の数平均粒度が280〜330nmである、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリ乳酸の重量平均分子量が10000〜3000000g/molである、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項6】
前記コア−シェル型耐衝撃性改良剤が、2種以上の共重合体のブレンドである、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項7】
前記組成物のASTM 1003−00により測定されたヘイズが15パーセント未満である、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項8】
前記生体高分子が、デンプン、セルロース、多糖、脂肪族または芳香族ポリエステル、およびポリカプロラクトンからなる群から選択される1種以上のポリマーを含む、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項9】
前記コア/シェル型耐衝撃性改良剤が、純アクリル系コア/シェル型ポリマーである、請求項11に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項10】
前記コア−シェル型耐衝撃性改良剤のコアが、ブチルアクリレートおよびエチルヘキシルアクリレートからなる群から選択される1種以上のモノマー単位を含む、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項11】
前記コア−シェル型耐衝撃性改良剤のコアが、ポリブチルアクリレートである、請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の生分解性ポリマー組成物を含む成形品。

【公表番号】特表2011−523973(P2011−523973A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513553(P2011−513553)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【国際出願番号】PCT/US2009/045568
【国際公開番号】WO2009/151977
【国際公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】