説明

耐衝撃性複合体

【課題】耐衝撃性に優れ、衝撃を受けた場合であっても、材料の飛散を抑制する効果の高い複合体を提供する。
【解決手段】複合体は、引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維で構成された高強度繊維群とマトリックス樹脂とを含み、前記高強度繊維群は、少なくとも全芳香族ポリエステル繊維を含むとともに、前記マトリックス樹脂は、少なくともポリビニルブチラールを含んでいる。前記高強度繊維群は、全芳香族ポリエステル繊維に関して、一方向性織物、二方向性織物、三軸織物、多軸織物、またはノンクリンプトファブリックなどであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れる複合体、特に強い衝撃を受けた場合であっても、衝撃吸収に優れ、材料の飛散を抑制する効果の高い複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道、航空機などの高速移動物体は、その移動速度に由来した運動エネルギーによって、衝突の際には莫大な破壊力を発生し物体を破損させる。そして、物体の破損に伴って、破砕した破片が飛散し、その周囲に存在する物や人間などに甚大な被害を与える場合が少なくない。そのため、破壊に伴う物体の飛散を低減させることや、破損した破片などの飛来物の貫通を防ぐことは、安全上、重要な課題である。
【0003】
このような課題を解決するため、特許文献1には、布帛物に樹脂組成物を含浸してなる繊維補強樹脂成型品であって、該布帛物がフッ素化合物を0.01〜10wt%含有するものである衝撃板が開示されている。この文献では、フッ素化合物を布帛物に含有させることで、衝撃板、たとえば防弾板や防刃板として用いるFRPの補強効果をさらに向上させることができる旨の記載がされている。
【0004】
しかしながら、環境問題上、フッ素の使用は制約されており、フッ素を使用しない技術開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−316319号公報(特許請求の範囲、段落番号[0012])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フッ素化合物を用いなくても、高い耐衝撃性を有するだけでなく、破砕時の破片飛散防止効果に優れる耐衝撃性複合体を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、一体性に優れるだけでなく、軽量化が可能である複合体を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、このような耐衝撃性に優れる複合体から形成された耐衝撃材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、耐衝撃性を有する材料について検討したところ、全芳香族ポリエステル繊維とポリビニルブチラールとを組み合わせて複合体を形成すると、フッ素化合物を用いなくとも複合体の耐衝撃性を向上することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維で構成された高強度繊維群とマトリックス樹脂とを含む複合体であって、
前記高強度繊維群は、少なくとも全芳香族ポリエステル繊維を含むとともに、
前記マトリックス樹脂は、少なくともポリビニルブチラールを含む耐衝撃性複合体である。
【0011】
前記複合体において、高強度繊維群は、その少なくとも一部が布帛を形成していてもよく、また、布帛一枚当りの目付は50〜500g/m程度であるとともに、その厚みが0.1〜2mm程度であってもよい。
【0012】
また、前記高強度繊維群は、全芳香族ポリエステル繊維に関して、一方向性織物、二方向性織物、三軸織物、多軸織物、およびノンクリンプトファブリックからなる群から選択される少なくとも一種の布帛を含んでいてもよい。
【0013】
前記マトリックス樹脂は、ポリビニルブチラールとフェノール樹脂とで構成されていてもよい。また、複合体の目付は、1000〜7000g/m程度であってもよい。
なお、本発明の複合体では、高強度繊維群に対して、実質的にフッ素化合物を適用しなくてもよい。
【0014】
さらに、本発明は、前記複合体から形成される耐衝撃材をも包含する。
【0015】
なお、本明細書において、「高強度繊維群に対して、実質的にフッ素化合物を適用しない」とは、高強度繊維群がフッ素化合物を0.01重量%以上含有していないことを意味している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、全芳香族ポリエステル繊維とポリビニルブチラールを含むマトリックス樹脂とを組み合わせて複合体を形成しているため、フッ素化合物を用いなくても、複合体の耐衝撃性を向上し、強い衝撃を与えた場合であっても、物体の耐破損性を向上して、破砕物の飛散を防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の複合体は、軽量であっても耐衝撃性に優れているため、複合体の軽量化が求められる様々な用途に対して用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の耐衝撃性複合体は、高強度繊維群とマトリックス樹脂とを含む複合体であって、耐衝撃性に優れている。
【0019】
[高強度繊維群]
高強度繊維群は、引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維で構成されており、少なくとも全芳香族ポリエステル繊維を含んでいる。高強度繊維は、引張強度が10cN/dtex以上であることが必要であり、好ましくは10〜100cN/dtex程度、より好ましくは15〜80cN/dtex程度であってもよい。
【0020】
(全芳香族ポリエステル繊維)
本発明で用いられる全芳香族ポリエステル系繊維は、全芳香族ポリエステル系ポリマーから形成される。
前記全芳香族ポリエステル系ポリマーは、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等より重合されて得られ、その中でも、溶融時に光学的異方性を示す溶融異方性ポリエステルが好ましい。本発明にいう溶融異方性ポリエステルとは、溶融相において光学的異方性(液晶性)を示す芳香族ポリエステルであり、例えば試料をホットステージに載せ窒素雰囲気下で加熱し、試料の透過光を観察することにより認定できる。
【0021】
例えば、本発明で用いられる全芳香族ポリエステル系ポリマーは、例えば、下記化1及び化2に示す構成単位の組合せで構成される。
【0022】
【化1】

【0023】
【化2】

【0024】
これらのうち、好ましくは、化1および化2に示される反復構成単位の組合せのうち(5)、(6)、(7)および(9)からなるポリマーである。
【0025】
より好ましくは、下記化3に示す(A)および(B)の反復構成単位からなる部分が、50モル%以上(例えば、55〜95モル%程度、好ましくは60〜90モル%)である全芳香族ポリエステルが好ましい。
さらに、(A)の反復単位に対する(B)の反復単位のモル比は、(A):(B)=100:1〜50、好ましくは(A):(B)=100:1〜45、さらに好ましくは(A):(B)=100:1〜40程度であってもよい。
【0026】
【化3】

【0027】
本発明で好適に用いる全芳香族ポリエステル系ポリマーの融点は250〜360℃であることが好ましく、より好ましくは260〜320℃である。なお、ここでいう融点とは、JIS K7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。
【0028】
なお、前記全芳香族ポリエステル系ポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲内で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。
例えば、このような全芳香族ポリエステル系繊維は、(株)クラレから「ベクトラン(登録商標)」として上市されている。
【0029】
(その他の繊維)
高強度繊維群を形成するその他の繊維としては、引張強度が10cN/dtex以上である限り特に限定されないが、例えば、その他の高強度繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維などの無機高強度繊維;アラミド繊維、PBO繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、高強度PVA繊維などの有機高強度繊維などが例示できる。これらの高強度繊維うち、有機繊維である全芳香族ポリエステル繊維と相補的な効果を有する観点から、無機高強度繊維が好ましい。
【0030】
(高強度繊維群の形状)
本発明で用いられる高強度繊維群は、長繊維または短繊維等のいずれも用いることができる。例えば、チョップドストランドとして、直接マトリックス樹脂に混ぜ合わせて適用してもよいし、または、一旦織編物、不織布、ステッチングシート(例えば、ノンクリンプドファブリック)などの布帛を形成し、その後布帛に対してマトリックス樹脂を含浸などして適用してもよい。
【0031】
これらのうち、強度や弾性率を高める観点から、高強度繊維群の少なくとも一部が布帛を形成するのが好ましく、布帛の中でも、織編物やステッチングシートであるのがより好ましい。
【0032】
織編物やステッチングシートを形成する場合、高強度繊維群を形成する高強度繊維は、通常、フィラメント糸(モノフィラメント、マルチフィラメント)や紡績糸などであり、これらのうち、耐衝撃性を高める観点から、マルチフィラメント糸が好ましい。
【0033】
高強度繊維は、例えば、単繊維繊度が0.1〜600dtex程度、好ましくは0.25〜500dtex程度であってもよく、総繊維繊度が100〜5000dtex程度、好ましくは500〜3000dtex程度であってもよい。
【0034】
高強度繊維を織編糸や繊維束とする織編物やステッチングシートの構造は、高強度繊維に関して、一方向性織物、二方向性織物、三軸織物、多軸織物、ノンクリンプドファブリックなどのいずれであってもよい。
【0035】
より詳細には、高強度繊維を織編糸や繊維束として用いた織編物やステッチングシートとしては、高強度繊維が、経糸または緯糸のいずれか一方向に配列した一方向性織物;高強度繊維が、経糸および緯糸の双方に配列した二方向性織物;高強度繊維が縦、横、斜めの三方向に配列した三軸織物;高強度繊維を四方向以上の多方向に配列した多軸織物;高強度繊維を編糸として用いた編物(たて編物、よこ編物など);高強度繊維を繊維束として用い、一方向に揃えられた繊維束を別の糸で留める一方向性ノンクリンプドファブリック;高強度繊維を繊維束として用い、複数の方向(例えば二方向)に揃えられた繊維束をそれぞれ積層して別の糸で留める多方向性ノンクリンプドファブリックなどのいずれであってもよい。
【0036】
これらのうち、軽量化と耐衝撃性とを両立させる観点から、一方向性織物、二方向性織物、一方向性ノンクリンプドファブリック、および二方向性ノンクリンプドファブリックが好ましい。なお、本発明の複合体は、単数または複数の布帛を用いて形成してもよく、複数の布帛を用いる場合、それぞれの布帛の形状は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0037】
また、一方向性織物および二方向性織物である場合、織物密度としては、緯糸密度および/または経糸密度が、8〜50本/2.5cm程度、10〜45本/2.5cm程度であってもよい。
【0038】
高強度繊維で形成した布帛(織編物、ステッチングシートなど)の一枚当りの目付は、例えば50〜500g/m程度であってもよく、100〜400g/m程度が好ましい。また、布帛の一枚当りの厚みは、例えば、0.1〜2mm程度であってもよく、0.15〜1.5mm程度が好ましい。
【0039】
本発明で用いられる高強度繊維群は、少なくとも全芳香族ポリエステル繊維を含んでおり、高強度繊維群のすべてを全芳香族ポリエステル繊維で形成してもよいし、全芳香族ポリエステル繊維とその他の繊維とを組み合わせて高強度繊維群を形成してもよい。
【0040】
その他の繊維を含む場合、全芳香族ポリエステル繊維とその他の繊維とは、公知又は慣用の手法により、様々な混合方法で組み合わせることが可能であり、例えば、(i)全芳香族ポリエステル繊維およびその他の繊維から形成したチョップドストランドなどとして樹脂と混練する段階での混合、(ii)全芳香族ポリエステル繊維とその他の繊維とを用いてフィラメント糸(モノフィラメント、マルチフィラメント)や紡績糸などの糸条を形成する段階での混合、(iii)糸条から各種布帛を形成する段階での混合、(iv)複数の布帛を組み合わせる段階での混合など、様々な態様が挙げられる。なお、これらの混合方法は、各種組み合わせて行なってもよい。
【0041】
これらのうち、高強度繊維群は、(iii)または(iv)の形態であるのが好ましく、特に、全芳香族ポリエステル繊維に関して、一方向性織物、二方向性織物、三軸織物、多軸織物、およびノンクリンプトファブリックからなる群から選択される少なくとも一種の布帛を含んでいるのが好ましい。
【0042】
具体的には、例えば、(iii)としては、全芳香族ポリエステル繊維から形成された糸条と、その他の繊維から形成された糸条とを織り合わせるなどして布帛を形成することが挙げられる。また、(iv)としては、全芳香族ポリエステル繊維から形成された布帛と、その他の繊維から形成された布帛とを重ね合わせ、樹脂に含浸するなどして複合化することが挙げられる。
【0043】
高強度繊維群が全芳香族ポリエステル繊維とその他の高強度繊維との双方を含む場合、全芳香族ポリエステル繊維とその他の高強度繊維との割合は、全芳香族ポリエステル繊維100重量部に対して、その他の高強度繊維は、10〜300重量部程度であってもよく、好ましくは20〜200重量部程度、さらに好ましくは30〜150重量部程度であってもよい。
【0044】
(マトリックス樹脂)
マトリックス樹脂は、全芳香族ポリエステル繊維と組み合わせて、耐衝撃性を発揮できる観点から、少なくともポリビニルブチラールを含んでいる。
【0045】
(ポリビニルブチラール)
ポリビニルブチラールは、公知又は慣用の方法で製造することができる。例えば、まず、ポリ酢酸ビニルなどをけん化することによりポリビニルアルコール(PVA)樹脂を作製し、次いで、得られたポリビニルアルコール樹脂に対して、酸触媒の存在下水及び/又は有機溶剤中でブチルアルデヒドを反応させて、ポリビニルブチラールを得てもよい。
【0046】
ポリビニルブチラールは、ビニルブチラールユニットと、ビニルアルコールユニットとで少なくとも構成され、PVAのけん化度に応じて、酢酸ビニルユニットを含んでいていてもよい。
【0047】
また、ブチルアルデヒドを反応させるPVA樹脂としては、PVAのホモポリマーだけでなく、エチレン−ビニルアルコール共重合体、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコールと、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとの共重合体も用いてもよく、一部にカルボン酸等が導入された、変性ポリビニルアルコールも用いてもよい。PVA樹脂は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
なお、PVA樹脂は完全にけん化されたものであっても、部分的にけん化されたものであってもよい。けん化度は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
ポリビニルブチラールの水酸基含有量は、例えば、5〜40モル%であってもよく、好ましくは10〜30モル%であってもよい。
【0050】
ポリビニルブチラールのDIN 53015に準じて測定された溶液粘度、すなわち、樹脂濃度10重量%のエタノール溶液を、ヘプラー粘度計を用いて20℃で測定した粘度は、2〜500mPa×s程度、より好ましくは2〜200mPa×s程度、さらに好ましくは2〜125mPa×s程度、特に好ましくは2〜75mPa×s程度であってもよい。
【0051】
(その他の樹脂)
本発明のマトリックス樹脂は、ポリビニルブチラールと相溶性を有する限り、他の樹脂を含んでいてもよい。このような樹脂としては、フェノール系樹脂(ノボラック型、レゾール型)、エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ノボラック型、臭素化型、脂環式型など)、ビニルエステル系樹脂(ビスフェノールA型、ノボラック型、臭素化型など)、不飽和ポリエステル樹脂、架橋メタクリル系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、シリコーン系樹脂などの熱硬化性樹脂;オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体など)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなど)、ポリアミド系樹脂(例えば、ポリアミド6、ポリアミド66などの脂肪族ポリアミド、脂環族ポリアミド、芳香族ポリアミドなど)、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレンなど)、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー樹脂(例えば、オレフィン系アイオノマー、フッ素系アイオノマーなど)、熱可塑性エラストマー(スチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなど)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0052】
これらの樹脂は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの樹脂のうち、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、架橋メタクリル系樹脂などの熱硬化性樹脂が好ましく、特にフェノール系樹脂が好ましい。
【0053】
複合体中の樹脂付着量は、高強度繊維群の形状に応じて適宜選択することが可能であるが、例えば、高強度繊維群が布帛を形成している場合、樹脂付着量は、軽量化の観点から、樹脂固形分に関して、例えば、10〜60重量%、好ましくは20〜55重量%程度であってもよい。
【0054】
ポリビニルブチラールとその他の樹脂(たとえば、フェノール系樹脂など)との割合は、ポリビニルブチラール100重量部に対して、その他の樹脂が0〜500重量部程度、好ましくは20〜400重量部程度、さらに好ましくは40〜300重量部程度であってもよい。
【0055】
また、マトリックス樹脂は、必要に応じて熱硬化性樹脂に対応する硬化剤、硬化促進剤、硬化触媒、さらに必要に応じて、相溶化剤、フィラー、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種添加剤などを含有してもよい。
【0056】
[複合体]
本発明の耐衝撃性複合体は、上述したように、(i)マトリックス樹脂にチョップドストランドなどの高強度繊維群が混ぜ合わせられた複合体であってもよいし、または、(ii)溶融または溶解したマトリックス樹脂プレポリマーに、高強度繊維布帛を含浸することにより複合化した複合体であってもよいし、(iii)高強度繊維布帛と、布帛状またはシート状のマトリックス樹脂とを積層し、加熱して複合化した複合体であってもよいし、または(iv)マトリックス樹脂プレポリマーを含むエマルジョンを高強度繊維布帛に含浸、乾燥後、積層して加熱により複合化した複合体であってもよい。
【0057】
例えば、その他の樹脂として、熱硬化性樹脂を用いる場合、簡便に複合体を製造するためには、前記(i)、(ii)または(iv)の手法が好ましく、特に(ii)または(iv)の手法が好ましい。
【0058】
本発明では、全芳香族ポリエステル繊維を補強繊維として用いているため、耐衝撃性を有しつつも複合体全体の軽量化を行なうことが可能であり、面積当りの密度、すなわち、目付は、1000〜7000g/m程度であってもよく、好ましくは1500〜5000g/m程度であってもよい。
【0059】
また、複合体の厚みは、用途に応じて幅広い範囲とすることが可能であるが、例えば、軽量化の観点からは、0.5mm〜10mm程度であってもよく、好ましくは1〜8mm程度であってもよい。
【0060】
このようにして得られた複合体では、全体としての形状は特に限定されず、2次元形状であっても、3次元形状であってもよい。
【0061】
また、本発明は、前記複合体を一部または全体に適用した耐衝撃材も包含し、このような耐衝撃材は、衝撃板、高速移動物体や各種建造物などへの付加装甲として、またはヘルメットや防弾衣類などとして、有効に利用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお、実施例中における各種物性は、以下の方法によって求めたものである。
【0063】
[対数粘度]
ポリマー試料をペンタフルオロフェノールに0.1重量%溶解し(60〜80℃)、60℃の恒温槽中で、ウベローデ型粘度計で相対粘度(ηrel)を測定し、次式によって計算した。
ηinh=ln(ηrel)/c
ここでcはポリマー濃度(g/dl)である。
【0064】
[融点]
示差走査熱量計(メトラー社製DSC)で観察される主吸熱ピークのピーク温度を融点Mp(℃)とした。
【0065】
[溶液粘度]
DIN 53015に準じ、樹脂濃度10重量%のエタノール溶液の粘度を、ヘプラー粘度計を用いて20℃で測定した。
【0066】
[繊維強度、伸度、初期弾性率]
JIS L 1013に準拠して測定した。
【0067】
[面衝撃試験方法]
落錘グラフィックインパクトテスター((株)東洋精機製作所製)を用い、JIS K−7211 プラスチック−硬質プラスチック パンクチャー衝撃試験方法に基づき、測定を実施した。測定条件としては、ストライカー径12.7mm、ホルダー径76mm、落下高さ100cm、ウェイト14.5kg、衝撃速度4.4m/秒にて実施した。また、試験後における実施例および比較例の積層体の状態を、目視により評価した。
【0068】
(実施例1)
(1)構成単位(A)と(B)が73/27(モル比)である全芳香族ポリエステルポリマーを用いた。このポリマーの物性は、ηinh=4.6dl/g、融点Mp=280℃であった。このポリマーを通常の溶融紡糸装置を用いて紡糸し、1670dtex/300フィラメントのマルチフィラメントを得た。このマルチフィラメントを窒素雰囲気中で280℃、20時間熱処理し、全芳香族ポリエステルポリマーフィラメント(強度23cN/dtex)を得た。
【0069】
(2)このフィラメントを用いて、緯糸密度12本/2.5cm、経糸密度12本/2.5cmの平織物を作製した。この織物の目付は、167g/mであり、厚みは0.31mmであった。
【0070】
(3)この織物を8枚積層し、ポリビニルブチラール((株)クラレ製、「Mowital B30H」、水酸基含量20重量%、DIN53015に準じて測定した溶液粘度48mPa×s)の10wt%メチルエチルケトン溶液と、レゾール型フェノール樹脂(住友ベークライト(株)製、「PR−51406」、数平均分子量300、樹脂分50重量%)とを、樹脂分の重量比で1対1の割合で配合したワニスを作製した。このワニスに(2)の平織物を含浸せしめた後、150℃で乾燥してプリプレグを形成し、これを8枚積層した後熱プレスすることで積層成形板(目付2720g/m、厚み2.8mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は50.9重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0071】
(実施例2)
(1)カーボン繊維(東邦テナックス(株)製、「ベスファイトHTS40 3K」、強度28cN/dtex)を用いて、緯糸密度12本/2.5cm、経糸密度12本/2.5cmの平織物を作製した。この織物の目付は、200g/mであり、厚みは0.25mmであった。
【0072】
(2)上記(1)で作製したカーボン繊維平織物4枚を重ね合わせ、さらに、その上下に実施例1の(2)で得られた平織物2枚をそれぞれ重ね合わせて、合計8枚の織物を積層した。この積層した織物に対して、実施例1の(3)と同様にしてマトリックス樹脂を含浸し、積層成形板(目付2840g/m、厚み2.8mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は48.3重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0073】
(実施例3)
(1)ガラス繊維平織物(日東紡(株)製、「WF 230 100 BS6」、緯糸密度19本/2.5cm、経糸密度18本/2.5cm、目付200g/m、厚み0.25mm)を用意した。
【0074】
(2)上記(1)で作製したガラス繊維平織物4枚を重ね合わせ、さらに、その上下に実施例1の(2)で得られた平織物2枚をそれぞれ重ね合わせて、合計8枚の織物を積層した。この積層した織物に対して、実施例1の(3)と同様にしてマトリックス樹脂を含浸し、積層成形板(目付2840g/m、厚み2.8mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は50.6重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0075】
(実施例4)
(1)カーボン繊維(東邦テナックス(株)製、「ベスファイトHTS40 3K」、強度28cN/dtex)と、実施例1の(1)で得られた全芳香族ポリエステルポリマーフィラメント(強度23cN/dtex)とを、それぞれ緯糸、経糸として用いて、緯糸密度12本/2.5cm、経糸密度12本/2.5cmの平織物を作製した。この織物の目付は、184g/mであり、厚みは0.28mmであった。
【0076】
(2)上記(1)で作製した全芳香族ポリエステル繊維とカーボン繊維との混合平織物8枚を積層し、この積層した織物に対して、実施例1の(3)と同様にしてマトリックス樹脂を含浸し、積層成形板(目付2970g/m、厚み2.8mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は47.1重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
マトリックス樹脂として、(1)多官能エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、「YL6046B80」)130重量部、(2)ノボラック型硬化剤(ジャパンエポキシレジン(株)製、「YLH129B65」)70重量部、(3)イミダゾール型硬化促進剤(ジャパンエポキシレジン(株)製、「EMI24」)0.3重量部、および(4)メチルエチルケトン130重量部を混合し、ワニスを調製する以外は、実施例1と同様にして成形板(目付2680g/m、厚み2.7mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は50.1重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
(1)高強度繊維群として、アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製、「ケブラー49」、強度19cN/dtex)を用いて、緯糸密度13本/2.5cm、経糸密度13本/2.5cmの平織物を作製した。この織物の目付は、175g/mであり、厚みは0.26mmであった。
【0079】
(2)上記(1)で作製したアラミド平織物8枚を積層し、この積層した織物に対して、実施例1の(3)と同様にしてマトリックス樹脂を含浸し、成形板(目付2760g/m、厚み2.8mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は49.3重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0080】
(比較例3)
(1)高強度繊維群として、アラミド繊維(東レ・デュポン(株)製、「ケブラー49」、強度19cN/dtex)を用い、この繊維表面に対してフッ素化合物処理を施した。具体的には、まず、ダイキン工業(株)製、ユニダインTG510(8重量%)、京絹化成(株)EC243(6重量%)、住友3M(株)製スミテックスレジンM3(0.8重量%)、キャタリストACX(0.5重量%)、イソプロピルアルコール(6重量%)、水(78.7重量%)のフッ素化合物水溶液を調製した。そして、この水溶液にアラミド繊維を約30秒間浸漬し、その後120℃の乾燥炉中でアラミド繊維に対して3分間乾燥を施した。さらに160℃のベーキング炉で1分間熱処理を行った。この処理繊維を用い、緯糸密度13本/2.5cm、経糸密度13本/2.5cmの平織物を作製した。この織物の目付は、180g/mであり、厚みは0.26mmであった。
【0081】
(2)上記(1)で作製したアラミド平織物8枚を積層し、この積層した織物に対して、実施例1の(3)と同様にしてマトリックス樹脂を含浸し、成形板(目付2760g/m、厚み2.8mm)を作製した。この成形板の樹脂付着量は
48.0重量%であった。この複合体の面衝撃試験性能を表1に示す。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すように、全芳香族ポリエステル繊維に対してポリビニルブチラールをマトリックス樹脂として適用した実施例1〜4では、面衝撃試験において高い耐衝撃性を示し、衝撃による貫通は発生しなかった。
【0084】
一方、全芳香族ポリエステル繊維に対してエポキシ樹脂をマトリックス樹脂として適用した比較例1では、面衝撃試験における耐衝撃性が低く、衝撃試験後の複合体は衝撃により貫通した。
【0085】
また、全芳香族ポリエステル繊維に代えて、アラミド繊維を用いた比較例2では、マトリックス樹脂としてポリビニルブチラールを用いても、面衝撃試験における耐衝撃性が低く、衝撃試験後の複合体は衝撃により貫通した。
【0086】
なお、比較例3では、衝撃試験後の複合体は衝撃により貫通していなかったが、この比較例では、アラミド繊維に対するフッ素化合物の表面処理が必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の耐衝撃性複合体は、耐衝撃性に優れているため、衝撃板、自動車、鉄道、航空機などの高速移動物体や各種建造物などへ付加される耐衝撃材料として、またはヘルメットや防弾衣類などの構成材料として、有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が10cN/dtex以上の高強度繊維で構成された高強度繊維群とマトリックス樹脂とを含む複合体であって、
前記高強度繊維群は、少なくとも全芳香族ポリエステル繊維を含むとともに、
前記マトリックス樹脂は、少なくともポリビニルブチラールを含む耐衝撃性複合体。
【請求項2】
請求項1の複合体において、高強度繊維群の少なくとも一部が布帛を形成している複合体。
【請求項3】
請求項2の複合体において、布帛一枚当りの目付が50〜500g/mであるとともに、その厚みが0.1〜2mmである複合体。
【請求項4】
請求項2または3の複合体において、高強度繊維群は、全芳香族ポリエステル繊維に関して、一方向性織物、二方向性織物、三軸織物、多軸織物、およびノンクリンプトファブリックからなる群から選択される少なくとも一種の布帛を含む複合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の複合体において、マトリックス樹脂が、ポリビニルブチラールとフェノール樹脂とで構成されている複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項の複合体において、目付が1000〜7000g/mである複合体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項の複合体において、高強度繊維群に対して、実質的にフッ素化合物を適用していない複合体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項の複合体から形成される耐衝撃材。

【公開番号】特開2011−63636(P2011−63636A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212806(P2009−212806)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】