説明

耐酸性の水硬性材料

本発明の主題は、a)スラグサンド、b)1種以上のポゾラン、c)1種以上の充填剤、d)エチレン性不飽和モノマーをベースとする1種以上の重合体、及び水をベースとする耐酸性の水硬性材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸性の水硬性材料、その製造方法及びその使用に関する。
【0002】
下水プラントにおける金属腐食は既に以前から注目されていたが、コンクリート又はモルタルの腐食の重要性は、ここ数十年ではじめて関心が向けられるようになってきた。腐食損傷、特に硫黄化合物の微生物による物質代謝が原因の腐食損傷は、下水道で頻繁に生じる種類の損傷のひとつとみなされ;これにはポンプ装置で及び下水処理場(清澄設備)での損傷がある。生物学的に生成される(生物起源の)硫酸によるコンクリート表面又はモルタル表面の腐食性の破壊は、バイオガスプラント中でも観察される。この硫酸は、下水プラント又はバイオガスプラントの嫌気性領域で生息する、チオバチルス属の細菌により物質代謝産物として生成される。この硫酸により、セメント石及び石灰含有混和材は攻撃される(溶解性及び膨潤性の攻撃)。この影響は著しい:この腐食速度は、条件に応じて、6〜10mm/年である。結果として、損傷されたコンクリートの典型的な洗浄されたコンクリート表面が示される(岩石粒子の露出)。
【0003】
先行技術から、コンクリートとポゾラン混和材との組合せによりコンクリートの耐酸性を改善することは公知である:JP 2002160960 A2は、ポゾラン混和材、例えばフライアッシュを有するアルミン酸塩セメントからなる水硬性組成物を記載している。JP 2003055019 A2から、セメントと微細なポゾラン粉末とからなる組成物が記載されている。JP 2006327868 A2は、アルミン酸塩セメント、スラグサンド及び収縮低減剤とからなる組成物が記載されている。JP 2006-225221 A2の主題は、アルミン酸カルシウムセメント、ポゾラン及び鉄を含有しないスラグサンドを有し、場合により更にポリマー分散液又は繊維と混合されたモルタル組成物である。JP 2006/044958 A2では、アルミン酸塩セメント、スラグサンド、ポリマー分散液及び収縮低減剤からなる耐酸性モルタルが記載されている。KR 20040089995 Aからは、ポルトランドセメント、スラグサンド、他の無機結合剤、アクリラートポリマー又はスチレンブタジエン−ポリマーを有するモルタル組成物が公知である。EP 1614670 A2の主題は、ポルトランドセメントクリンカー、アルミン酸カルシウムセメント並びにポゾラン又は潜在水硬性の材料のグループからなる添加物をベースとするセメント状モルタル系である。JP 2007001802 A2は、ポルトランドセメント、ポゾラン、潜在水硬性結合剤、例えばスラグサンドを有し、場合により更にポリマー分散液、水溶性ポリマー又は膨張性粘土が添加されていてもよい同様の組成物が記載されている。
【0004】
この系は、セメント割合に基づき、確かに急硬性を有するが、しかしながら耐酸性はまだ満足できない。
【0005】
従って、高い耐酸性を有しかつ優れた機械特性を提供する、耐酸性の水硬性材料のための組成物を提供するという課題が生じた。
【0006】
上記課題は、スラグサンド及びポリマー成分からなり、更にポゾラン、及び場合によりわずかな割合の慣用のセメントを添加することができる結合剤組成物によって解決されることが見出された。
【0007】
本発明の主題は、
a) スラグサンド、
b) 1種以上のポゾラン、
c) 1種以上の充填剤、
d) エチレン性不飽和モノマーをベースとする1種以上の重合体、並びに水
をベースとする耐酸性の水硬性材料である。
【0008】
高炉サンド又はスラグサンドは、高炉スラグの粒状化によって得られる。スラグサンドは、一般に、CaO 30〜45質量%、SiO2 30〜45質量%、Al23 5〜15質量%、MgO 4〜17質量%、S 0.5〜1質量%及び微量の他の元素からなる。この組成物は、高炉の使用物質に依存して変化する。適切なスラグサンドは、例えばBaumitのSlagstar(登録商標)又はSSAB MeroxのMerit 5000の商品名で、市場で入手することができる。一般に、耐酸性の水硬性材料は、この材料の全体乾燥質量に対してそれぞれ、成分a) 10〜50質量%、有利に15〜30質量%、特に有利に20〜25質量%を含有する。
【0009】
ポゾランb)は、ケイ酸含有の又はケイ酸及びアルミナ含有の天然材料又は人工材料である。天然のポゾランと人工のポゾランとの間に差異はない。天然のポゾランには、ガラス富有の灰及び火山起源の岩石、例えば軽石(Bimsstein)、火山土(微粉砕された凝石灰)、サントリン土、ケイソウ土(Kieselgur)、角石(珪質岩石)、珪質頁岩及びケイソウ土(Molererde)が数えられる。人工ポゾランは、燃焼され、粉砕された粘土(レンガ粉末)、フライアッシュ、例えば石炭発電所の灰、シリカダスト、オイルシェール灰(オイルシェール=瀝青質の石灰含有頁岩)、並びに焼成カオリン(メタカオリン)である。人工ポゾラン、特に有利にフライアッシュ又はシリカダスト有利である。この使用量は、この材料は全体乾燥質量に対してそれぞれ、0.1〜50質量%、有利に0.5〜30質量%、特に有利に0.5〜20質量%である。
【0010】
適切な充填剤c)の例は、石英砂、石英粉、炭酸カルシウム、ドロマイト、ケイ酸アルミニウム、粘土、チョーク、消石灰、タルク又は雲母、又は軽質充填剤、例えば軽石、発泡ガラス、発泡コンクリート、パーライト、バーミキュライト、カーボンナノチューブ(CNT)である。記載された充填剤の任意の混合物も使用することができる。石英砂と石英粉が有利である。一般に、耐酸性の水硬性材料は、この材料の全体乾燥質量に対してそれぞれ、充填剤30〜90質量%、有利に40〜80質量%を含有する。
【0011】
適切な重合体d)は、1〜15個のC原子を有する非分枝又は分枝のアルキルカルボン酸のビニルエステル、1〜15個のC原子を有するアルコールのメタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル、ビニル芳香族化合物、オレフィン、ジエン又はビニルハロゲン化物を有するグループからなる1種以上のモノマーの単独重合体又は共重合体である。
【0012】
有利なビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ビニル−2−エチルヘキサノアート、ラウリン酸ビニル、1−メチルビニルアセタート、ピバル酸ビニル及び9〜13個のC原子を有するアルファ分枝モノカルボン酸のビニルエステル、例えばVeoVa9(登録商標)又はVeoV10(登録商標)(Resolution社の商品名)である。酢酸ビニルが特に有利である。有利なメタクリル酸エステル又はアクリル酸エステルは、メチルアクリラート、メチルメタクリラート、エチルアクリラート、エチルメタクリラート、プロピルアクリラート、プロピルメタクリラート、n−ブチルアクリラート、n−ブチルメタクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート、ノルボルニルアクリラートである。メチルアクリラート、メチルメタクリラート、n−ブチルアクリラート及び2−エチルヘキシルアクリラートが特に有利である。オレフィン及びジエンの例は、エチレン、プロピレン及び1,3−ブタジエンである。適切なビニル芳香族化合物は、スチレン及びビニルトルエンである。適切なビニルハロゲン化物は塩化ビニルである。
【0013】
酢酸ビニルとエチレンとの共重合体、酢酸ビニルとエチレンと1種以上の他のビニルエステルとの共重合体、酢酸ビニルと、エチレンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、酢酸ビニルと、エチレンと塩化ビニルとの共重合体、塩化ビニル−エチレン−共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−重合体、スチレン−アクリル酸エステル−共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体が有利である。
【0014】
特に有利に、酢酸ビニルと、エチレン1〜40質量%との共重合体、酢酸ビニル30〜90質量%と、エチレン1〜40質量%と、カルボン酸基中に1〜15個のC原子を有するビニルエステル、例えばプロピオン酸ビニル、ドデカン酸ビニル、9〜13個のC原子を有するアルファ−分枝カルボン酸のビニルエステルのグループからの1種以上の他のコモノマー5〜50質量%との共重合体、例えばVeoVa9(登録商標)、VeoVa10(登録商標)、VeoVa11(登録商標);酢酸ビニル30〜90質量%と、エチレン1〜40質量%と、有利に1〜15個のC原子を有する非分枝又は分枝のアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、特にメチルメタクリラート、ブチルアクリラート又は2−エチルヘキシルアクリラート5〜60質量%との共重合体;酢酸ビニル30〜75質量%と、ラウリル酸ビニル又は9〜13個のC原子を有するアルファ分枝したカルボン酸のビニルエステル1〜30質量%と、1〜15個のC原子を有する非分枝又は分枝のアルコール(メタ)アクリル酸エステル、特にメチルメタクリラート、n−ブチルアクリラート又は2−エチルヘキシルアクリラート(これはなおエチレン5〜40質量%を含有する)5〜30質量%との共重合体;酢酸ビニルと、エチレン10〜40質量%と、塩化ビニル1〜60質量%との共重合体;この場合、これらの質量%のデータはそれぞれ100質量%に加算される。
【0015】
特に有利に、(メタ)アクリル酸エステル−重合体、例えばn−ブチルアクリラート又は2−エチルヘキシルアクリラートの共重合体又はメチルメタクリラートとn−ブチルアクリラート及び/又は2−エチルヘキシルアクリラート及び場合によりエチレンとの共重合体;メチルアクリラート、エチルアクリラート、プロピルアクリラート、n−ブチルアクリラート、2−エチルヘキシルアクリラートのグループからの1種以上のモノマーを有するスチレン−アクリル酸エステル共重合体;メチルアクリラート、エチルアクリラート、プロピルアクリラート、n−ブチルアクリラート、2−エチルヘキシルアクリラート及び場合によりエチレンのグループからの1種以上のモノマーを有する酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体;スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体;並びにエチレン5〜30質量%を有する酢酸ビニル−エチレン重合体;この場合、これらの質量%のデータはそれぞれ100質量%に加算される。
【0016】
場合により、この重合体は、重合体の全体質量に対して、補助モノマー単位0.1〜5質量%を含有することができる。補助モノマーの例は、エチレン性不飽和のモノカルボン酸及びジカルボン酸、有利にアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸及びマレイン酸;エチレン性不飽和のカルボン酸アミド及び−ニトリル、有利にアクリルアミド及びアクリルニトリル;フマル酸及びマレイン酸のモノエステル及びジエステル、例えばジエチルエステル、ジイソプロピルエステル、及びマレイン酸無水物;エチレン性不飽和のスルホン酸又はその塩、有利にビニルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸である。エポキシ官能性コモノマー、例えばグリシジルメタクリラート及びグリシジルアクリラートも適している。他の例は、ケイ素官能性コモノマー、例え場アクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)−及びメタクリルオキシプロピルトリ(アルコキシ)−シラン、ビニルトリアルコキシシラン及びビニルメチルジアルコキシシランであり、この場合、アルコキシ基として、例えばエトキシ基及びエトキシプロピレングリコールエーテル基が含まれていてもよい。
【0017】
モノマーの選択又はコモノマーの質量割合の選択は、一般に−50℃〜+50℃のガラス転移温度Tgが生じるように行われる。この重合体のガラス転移温度Tgは、公知のように示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。このTgは、Fox式を用いても近似的に予め見積もることもできる。Fox T. G.r Bull. Am. Physics Soc. 1, 3, p. 123 (1956)によると次のことが通用する:1/Tg=x1/Tg1+x2/Tg2+…xn/Tgn、この場合、xnはモノマーnの質量分率(質量%/100)を表し、Tgnはモノマーの単独重合体のケルビンで示すガラス転移温度である。単独重合体のTg値は、Polymer Handbook 第2版, J. Wiley & Sons, New York (1975)に記載されている。
【0018】
疎水性に変性された重合体も有利である。上記重合体との混合物中で使用することができる適切な疎水化剤は、有機ケイ素化合物及び/又は脂肪酸(誘導体)である。
【0019】
適切な有機ケイ素化合物は、ケイ酸エステルSi(OR′)4、シラン、例えばテトラオルガノシランSiR4及びオルガノオルガノオキシシランSiRn(OR′)4-n、式中、n=1〜3、有利に一般式R3Si(SiR2nSiR3のポリシラン、式中、n=0〜500、オルガノシラノールSiRn(OH)4-n、一般式RcdSi(OR′)e(OH)f(4-c-d-e-f)/2の単位からなるジ−、オリゴ−及びポリシロキサン、その際、c=0〜3、d=0〜1、e=0〜3、f=0〜3、及びその際、1つの単位当たりのc+d+e+fの合計は、最大でも3.5であり、その際、それぞれRは同じ又は異なり、1〜22個のC原子を有する分枝又は非分枝のアルキル基、3〜10個のC原子を有するシクロアルキル基、2〜4個のC原子を有するアルキレン基、並びに6〜18個のC原子を有するアリール基、アラルキル基、アルキルアリール基を表し、R′は、同じ又は異なる1〜4個のC原子を有するアルキル基及びアルコキシアルキレン基を表し、有利にメチル及びエチルを表し、その際、これらの基R及びR′は、ハロゲン、例えばCl、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、アミド基、ニトリル基、ヒドロキシ基、アミン基、カルボキシル基、スルホン酸基、カルボン酸無水物基及びカルボニル基で置換されていてもよく、その際、ポリシランの場合には、RはOR′を意味することもできる。
【0020】
オルガノオルガノオキシシランSiRn(OR′)4-n、式中、n=1〜3、特にイソオクチルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシランが有利である。
【0021】
上記有機ケイ素化合物の製造は、NoIl, Chemie und Technologie der Silicone, 第2版 1968, Weinheim及びHouben-Weyl, Methoden der organischen Chemie, E20巻, Georg Thieme Verlag, Stuttgart (1987)に記載されたような方法により行うことができる。
【0022】
疎水化のために、脂肪酸及び、アルカリ性条件下、有利にpH>8で、脂肪酸又は相応する脂肪酸アニオンを遊離する脂肪酸誘導体も適している。8〜22個のC原子を有する脂肪酸、その無水物、その金属セッケン、そのアミド、並びにそれと1〜14個のC原子を有する一価アルコール、例えば、グリコール、ポリグリコール、ポリアルキレングリコール、グリセリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン若しくはトリエタノールアミン、単糖とのエステルのグループからなる脂肪酸化合物が有利である。
【0023】
適切な脂肪酸は、それぞれ8〜22個のC原子を有する分枝及び非分枝の、飽和及び不飽和の脂肪酸である。この例は、ラウリン酸(n−ドデカン酸)、ミリスチン酸(n−テトラデカン酸)、パルミチン酸(n−ヘキサデカン酸)、ステアリン酸(n−オクタデカン酸)並びに油酸(9−ドデカン酸)である。脂肪酸無水物の例は、ラウリン酸無水物である。
【0024】
適切な金属セッケンは、元素周期表の第1〜第3主族又は第2副族の金属を有する上記脂肪酸、並びにアンモニウム化合物NX4+、その際、Xは同じ又は異なり、H、C1〜C8−アルキル基及びC1〜C8−ヒドロキシアルキル基を有する。リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛及びアンモニウム化合物を有する金属セッケンが有利である。
【0025】
適切な脂肪酸アミドは、モノエタノールアミン若しくはジエタノールアミンと、上述のC8〜C12−脂肪酸とを用いて得られた脂肪酸アミドである。
【0026】
適切な脂肪酸エステルは、いわゆるC8〜C22−脂肪酸のC1〜C14−アルキルエステル及び−アルキルアリールエステル、有利にメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、エチルヘキシルエステル並びにベンジルエステルである。
【0027】
適切な脂肪酸エステルは、C8〜C22−脂肪酸のモノグリコールエステル、ジグリコールエステル及びポリグリコールエステルでもある。
【0028】
他の適切な脂肪酸エステルは、20個までのオキシアルキレン単位を有するポリグリコール及び/又はポリアルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールのモノエステル及びジエステルである。
【0029】
グリセリンと上記のC8〜C22−脂肪酸とのモノ−、ジ−及びトリ−脂肪酸エステル、並びにモノ−、ジ−及びトリエタノールアミンと上記のC8〜C22−脂肪酸とのモノ−、ジ−及びトリ−脂肪酸エステルも適している。ソルビット及びマンニットの脂肪酸エステルも適している。
【0030】
重合体d)の変性のための疎水化剤は、一般に、重合体d)に対して1〜20質量%の量で使用される。
【0031】
疎水性に変性されていない重合体と、疎水性に変性された重合体との組合せも特に有利である。この質量比は、一般に、1:10〜10:1である。
【0032】
この重合体d)は、その水性分散液の形で又は水中で再分散可能なポリマー粉末として使用することができる。水中で再分散可能なポリマー粉末として使用するのが有利である。この重合体の水性分散液の形での又は水中で再分散可能な粉末の形での製造は、水性媒体中で及び有利に乳化重合法により行う。この重合体は、この場合、水性分散液の形で生じ、場合により慣用の乾燥法により相応する水中で再分散可能な粉末(分散粉末)に変換することができる。疎水性に変性された重合体を得るために、疎水化剤は有利に重合の完了後にポリマー分散液に添加し、これを場合により乾燥させる。ポリマー分散液又は分散粉末の製造方法は、当業者に公知であり、例えばWO 2004/092094 A1に記載されていて、これに関する記載は、本願明細書の一部である(参照による組み入れ、incorporated here by reference)。
【0033】
耐酸性の水硬性材料中のこの重合体d)の割合は、一般に、この材料の全体乾燥質量に対してそれぞれ、0.5〜30質量%、有利に0.5〜10質量%である。水性分散液の形で重合体を使用する場合に、この割合は重合体の乾燥質量に関して算定される。
【0034】
場合により、この組成物は、なお僅かな割合の慣用のセメントを含有することができる。例えば標準セメントDIN EN 197-1、例えばポートランドセメントCEM I - CEM V、高炉セメントCEM IIIが含まれる。この割合は、この材料の全体乾燥質量に対してそれぞれ、有利に0〜20質量%未満、特に有利に0〜10質量%と算定される。大抵は、スラグサンドa)の他に慣用のセメントは含まれない。
【0035】
使用可能な材料を製造するために、成分a)〜d)を水と混合する。このために必要な水量は、耐酸性の水硬性材料の全体乾燥質量に対してそれぞれ、一般に10〜40質量%、有利に10〜20質量%である。
【0036】
この製造は、特別な手順又は混合装置に拘束されず、例えばコンクリートミキサ又はレディーミックスコンクリート混合装置中で行うことができる。この耐酸性の水硬性材料は、乾燥モルタル組成物としてレディーミックスして建築現場に供給することができる。この配合物の成分とは別に、まず、建築現場で混合物を製造し、水を添加して水硬性材料に変えることもできる。
【0037】
これにより得られたモルタルは、建造物の被覆のために、特に樋管建造において、又は耐酸性表面の製造のために適している。このモルタルは、例えば排水路中のレンガ壁の接合のための接合モルタルとしても適している。他の使用分野は、特に酸にさらされる表面用の、補修モルタルとしての使用分野である。このモルタルは、例えば排水領域中でのタイル及びプレートの接着のための、接着剤としても適している。
【0038】
次の実施例は、本発明のさらなる説明に用いられる:
基本配合:
スラグサンド(Slagstar 42.4 N) 225質量部
フライアッシュ(EFA-フィラー) 100質量部
シリカダスト(Elkem Micro-Silica 940 U-H) 15質量部
石英砂(AKW HR 0,7-1,2T, No. 5) 246質量部
石英砂(AKW HR 0,3-0,8T, No. 7) 366質量部
消泡剤(Agitan P 800) 2.5質量部
重合体 X質量部
【0039】
次に記載の重合体を、水中で再分散可能なポリマー粉末の形で、ここで記載された量で、上記基本配合に添加した。
【0040】
この基本配合(BR)は、水120質量部〜170質量部と共に撹拌し、その結果、DIN 18555 / EN 1015により測定して、10cmのスランプ(タンピングなし)を有するモルタルを実現した。
【0041】
比較配合:
比較配合(VR)を用いて、基本配合と同様に行うが、スラグサンドの代わりに同量のポートランドセメントCEM I 52, 5Tを使用した。
【0042】
適用技術的試験:
モルタル材料から、それぞれ4cm×4cm×8cmの寸法を有する角柱を製造し、標準条件(23℃、相対湿度50%)で14日間貯蔵した。
【0043】
硫酸に対する耐性に関する試験は、ハンブルグ市の樋管建設ガイドラインに従って行った(Franke et al著, Pruefrichtlinie fuer Moertel im Sielbau, Tiefbau-Ingenieurbau, Strassenbau (TIS), 4/97)。
【0044】
1バッチ当たり5個の試験体(角柱)を使用した。
【0045】
この試験体は、それぞれ水中で14日間貯蔵し(水貯蔵、対照)、その後でpH=0で14日間貯蔵した(酸貯蔵)。
【0046】
このpH値を毎日監視し、場合により後滴定を用いて一定に保持した。この水相は試験の間に交換しなかった。この貯蔵時間の経過後に、全てのゆるい構成成分は試験体から溶け出し、これを水で洗浄した。
【0047】
この角柱の質量を、水貯蔵(mw)後及び酸貯蔵(ms)後で測定した。水貯蔵と酸貯蔵との間の質量減量Δmが大きければそれだけ、より多くの材料が腐食により除去された。正のΔmは、試験体が損傷されないことを示す。この質量増加は、未損傷の試験体の後水和に起因する。
【0048】
次の重合体を試験した:
重合体P1:
Tg=−7℃を有する酢酸ビニル−エチレン−コポリマー(Vinnapas 5044N)
重合体P2:
塩化ビニル−エチレン−コポリマー(Vinnapas V 8062)
重合体P3:
重合体P1 47質量部及びシランで疎水性に変性された塩化ビニル−エチレン−コポリマー(Vinnapas A 7172)3質量部の混合物
重合体P4:
Tg=+20℃を有するスチレン−アクリラート−コポリマー(Vinnapas 2012N)
【0049】
表中のこの試験結果は、本発明による材料を用いて腐食が有効に抑制されるが(正のΔm)、比較材料(粉末なし=比較例1、粉末なし及びスラグサンドなし=比較例2)の場合には、試験体の質量は、コンクリート腐食が原因で、低減することが示された。
【0050】
表:
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)スラグサンド、
b)1種以上のポゾラン、
c)1種以上の充填剤、
d)エチレン性不飽和モノマーをベースとする1種以上の重合体、
及び水をベースとする耐酸性の水硬性材料。
【請求項2】
重合体d)として、酢酸ビニルとエチレンとの共重合体、酢酸ビニルと、エチレンと、1種以上の他のビニルエステルとの共重合体、酢酸ビニルと、エチレンと、(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体、酢酸ビニルと、エチレンと、塩化ビニルとの共重合体、塩化ビニル−エチレン−共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−重合体、スチレン−アクリル酸エステル−共重合体、スチレン−1,3−ブタジエン−共重合体を有するグループからなる1種以上の重合体を含有することを特徴とする、請求項1記載の材料。
【請求項3】
重合体d)として、有機ケイ素化合物及び/又は脂肪酸(誘導体)で疎水性に変性された重合体を含有していることを特徴とする、請求項1から2までに記載の材料。
【請求項4】
重合体d)を水性分散液の形で又は水中で再分散可能なポリマー粉末として含有していることを特徴とする、請求項1から3までに記載の材料
【請求項5】
疎水性に変性されていない重合体を、疎水性に変性された重合体との組合せを含有していることを特徴とする、請求項1から4までに記載の材料。
【請求項6】
前記材料の全体乾燥質量に対して、標準セメントDIN EN 197-1<20質量%を含有していることを特徴とする、請求項1から5までに記載の材料。
【請求項7】
建造物の被覆のための、請求項1から6までに記載の材料の使用。
【請求項8】
接合モルタルとしての、請求項1から6までに記載の材料の使用。
【請求項9】
補修モルタルとしての、請求項1から6までに記載の材料の使用。
【請求項10】
接着剤としての、請求項1から6までに記載の材料の使用。

【公表番号】特表2012−513366(P2012−513366A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542768(P2011−542768)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067163
【国際公開番号】WO2010/072618
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】