説明

耐雷システムを備えた風力発電装置

【課題】ブレードに落雷した際の雷撃電流がブレードを貫通し難く、かつナセルを含む支柱側に侵入させずに地面に流すことができる耐雷システムを備えた、比較的小型で安価な風力発電装置を提供する。
【解決手段】ブレード2aの先端に金属より成るレセプタ(受雷部)を設け、レセプタと接続した金属製の棒導体をブレード2a内部の中空円筒内を通じてハブ5近傍まで導き、ブレード2a内部から外部に取り出して棒電極6aと接続し、また、ナセル4に配置されたリング電極7を棒電極6aと対向させ、レセプタへの落雷時に棒電極6a−リング電極7間で放電させ、放電電流をリング電極7から順にリード線9a、酸化亜鉛素子8、リード線9bにより大地へと導く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ブレードに対する落雷の影響を低減するための耐雷システムを備えた風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電システムとは、風がよく吹く地点に風車を設置し、その回転力で発電機を回すという発電システムである。
【0003】
近年、環境問題への意識の高まり等から、風力発電システムの需要が増えている。風力発電装置にはさまざまな形の風車が使われているが、大容量かつ発電効率の良い風車として、ブレード型風車が知られている。
【0004】
ブレード型風車は、支柱の頂部に、発電機の回転子や制御系装置・電子機器等を内蔵したナセルが設けられ、このナセル内の発電機の回転子がハブを介してナセル外部のブレード(羽根)と接続されている。この風車では、風を受けてブレードが回転し、その回転がハブを介して発電機の回転子に伝達され、発電される。
【0005】
ブレード型風車では、大型発電用の風車となると、支柱の高さは50メートルほどとなり、ブレードの長さも数十メートルと非常に大きいものとなる。この大きさのために、単に発電機というだけでなく、ランドマーク的な価値も生じ、観光の対象になることもある。
【0006】
ブレードとしては、これまで、風力発電装置の出力が小さい場合には木材が使用されていたが、大きな出力の風力発電装置が開発されるにつれて、長く風の当る面積を大きくすべく、繊維強化型プラスチック(Fiber Reinforced Plastics:FRP)が使用されるようになっている。FRPをブレードに使用することで、軽くても強度の強いものが作製できるようになり、250kWを超えるような大きな風力発電装置が製造可能になった。
【0007】
このように、ブレードは非常に大きく、高い位置にあるものであり、しかも風を受けやすいような広大な土地に設置されることが多い。このため、落雷による被害、例えば、落雷によりブレード等が破損したり、落雷により制御系装置が故障したりといった被害が多く、故障要因の四分の一を占めると言われている。
【0008】
このようなブレードの破損は、雷がブレードを貫通してブレード内部を大電流が流れることによりブレード内部の空気層が雷電流により発生する熱量で膨張し、短時間で高い圧力を発生してブレードが破裂することに起因するものである。
【0009】
上述した落雷によるブレードの破損を防ぐために、風力発電装置のナセル部分に避雷針を設置することも考えられているが、ブレードに落雷することなく避雷針に確実に落雷させることは著しく困難である。
【0010】
一方、避雷針を風力発電装置の近くで当該風力発電装置より高い位置に設置する方法もあるが、100mにもおよぶ非常に大型の風力発電装置よりも高い位置に避雷針を設置するには風力発電装置の設置にも匹敵する設置コストが発生する。
【0011】
また、ブレードを金属で製造することも考えられるが、金属で製造すると重量が増大してしまう。このため、ブレードを支えるハブ、支柱などの強度を高くしなければならなくなり、風力発電装置自体のコストが高くなる。
【0012】
さらに、ブレードに導体リングを設け、それと対向するようにナセル周囲にギャップと酸化亜鉛素子を配置し、落雷による異常電圧の発生を抑制することも考えられているが、雷撃電流がナセルを流れるため制御系装置等への雷撃電流の影響を充分に抑止することは困難である。
【0013】
このため、ブレード側と支柱側に対向するように導体リングを設け落雷時に導体リング同士のギャップ間で放電させ、更にナセルを含む支柱側に雷撃電流が進入しない構造も考えられているが、装置が大型化しコスト高になる難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−123934号公報
【特許文献2】特開2000−265938号公報
【特許文献3】特開2006−70879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このような問題に鑑みて、本発明の実施形態の目的とするところは、ブレードに落雷した際の雷撃電流がブレードを貫通し難く、かつナセルを含む支柱側に侵入させずに地面に流すことができる耐雷システムを備えた、比較的小型で安価な風力発電装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態の耐雷システムを備えた風力発電装置は、次の構成を特徴とする。
(1)大地に固定して設けられる支柱と、少なくとも発電機の回転子を内蔵して前記支柱の頂部に載置されるナセルと、当該ナセル内に設けられた前記回転子を風力により回転させるためのブレードと、当該ブレード及び前記回転子を接続するハブと、を有する。
(2)前記ブレードの先端に導体より成るレセプタが設けられている。
(3)当該レセプタと電気的に接続された導体が前記ブレードの外面に設けられた電極へと接続されている。
(4)リング電極が前記電極と対向して、かつ落雷時に前記電極と放電可能な放電ギャップを設けて前記ナセルに配置されている。
(5)前記リング電極がリード線を介して、大地と接地された避雷素子に接続されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の耐雷システムを備えた風力発電装置の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1のブレードの一部の拡大図である。
【図3】図1のリング電極近傍の構造の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0019】
[第1の実施形態]
(全体構成)
図1は本発明の一実施形態の耐雷システムを備えた風力発電装置の全体構成を示す側面図である。
【0020】
本実施形態の風力発電装置1は、大地に固定して設けられる支柱3と、発電機の回転子や制御系装置・電子機器等を内蔵して支柱3の頂部に載置されるナセル4と、このナセル4内に設けられた発電機の回転子を風力により回転させるためのブレード(羽根)2と、ブレード2及び回転軸(図示せず)を接続するハブ5と、を有する。
【0021】
この風力発電装置1では、ブレード2が風を受けて回転し、その回転がハブ5等を介して発電機の回転子に伝達され、発電される。
【0022】
ブレード2においては、その中心部となるハブ5付近に棒電極6a、6b、6c(6cは図示せず)が設けられている。また、ナセル4には、これらの棒電極6a、6b、6cと対向した位置にリング電極7が配置され、このリング電極7はリード線9aを通じて、酸化亜鉛素子8に接続されている。酸化亜鉛素子8は、更にリード線9bを通じて大地へと繋がれており、雷撃電流の経路となっている。なお、酸化亜鉛素子8は、支え10により支柱3に固定されている。
【0023】
(ブレード2)
本実施形態の風力発電装置1におけるブレード2は、3枚のブレード2a、2b、2c(2cは図示せず)で形成されている。
【0024】
図2は、ブレード2aの拡大図である。ブレード2aの本体部は上述したようにFRPで製作されているが、先端には金属導体より成るレセプタ13が設けられ、レセプタ13と電気的に接続された棒導体12aがブレード2a内の中空円筒11aの中を支持絶縁物(図示せず)により支持されて配置され、棒電極6aへと接続されている。
【0025】
(棒電極6、リング電極7)
図3は、風力発電装置1のリング電極7近傍の構造の拡大図である。棒電極6a、6b、6cとリング電極7とは、ブレード2a、2b、2cの位置にかかわりなく、一定の間隔(d)で対向する構成となっている。
【0026】
棒電極6a、6b、6cの大きさは、直径10mm〜50mmが望ましい。10mm未満では強度的に問題となるし、50mmを超えると放電がしにくくなる可能性がある。
【0027】
リング電極7のリングの太さは、棒電極6a、6b、6cと同様、直径10mm〜50mmが望ましい。10mm未満では強度的に問題となるし、50mmを超えると取り付けが容易でなくなるだけでなく、雷の極性にもよるが放電がしにくくなる可能性がある。
【0028】
棒電極6a、6bとリング電極7の間隔(d)であるが、ブレードの回転により両者が接触しなければ良く、50mm〜200mmが望ましい。50mm未満では振動などで電極同士の接触が考えられ、200mmを超えると放電がしにくくなる可能性がある。
【0029】
(作用)
このように、本実施形態の風力発電装置1は、ブレード2aの先端に形成されたレセプタ(受雷部)13と接続された棒導体12aを、ブレード2a内部を通じてハブ5近傍まで導き、ブレード2a外部の棒電極6aと接続している。また、棒電極6aはナセル4に配置されたリング電極7と対向させている。これより、レセプタ13への落雷時に棒電極6a−リング電極7間で放電させ、放電電流をリング電極7から酸化亜鉛素子8を介してリード線9bで大地へと導く構造とされている。
【0030】
いま、ブレード2aに落雷したとする。この場合、かなりの確率でブレード2aの先端に設けられたレセプタ13に落雷することが実験・経験的に知られている。
【0031】
レセプタ13への雷撃により、レセプタ13と電気的に接続された棒導体12a及びレセプタ13と棒導体12aを通じ電気的に接続された棒電極6aの電位は急上昇し、対向して配置された大地とほぼ同電位のリング電極7との間で放電が生じる。この場合、雷撃電流が、レセプタ13→棒導体12a→棒電極6a→リング電極7→リード線9a→酸化亜鉛素子8→リード線9bの経路で大地へと流れる。この電流径路は、ブレード2aの本体(FRP)部を通過することは無いので、ブレードの破壊を防ぐことができる。また、ハブ5、ナセル4、支柱3も通過することは無いので、風力発電装置1の破壊を防ぐことが可能になる。
【0032】
また、雷撃電流は急峻なため、過大な電流が流れた場合、リード線9a、リード線9bのインダクタンス分の存在により、リング電極7が高電位となり、リング電極7とナセル4間で放電が生じ、ナセル4内部の制御系装置等へ悪影響を及ぼすことも考えられるが、酸化亜鉛素子8の存在によりリング電極7の電位は一定値に抑制される。このため、リング電極7とナセル4間で放電が生じる可能性は極めて低くなるので、リング電極7を必要以上に大きくする必要は無く小型化が可能となる。
【0033】
(効果)
(1)レセプタ13からの金属導体をブレード2a内部の中空円筒11a内を通じてハブ5近傍まで導くことにより、ブレード2aに落雷した際の落雷電流は、ブレード2a自体を貫通することがないため、ブレード2aの破壊を防止することができる。
【0034】
(2)棒電極6a−リング電極7間で放電させ、放電電流をリング電極7からリード線9a、酸化亜鉛素子8、リード線9bで大地へ導くことにより、ナセル4内部やその他の装置の破壊を抑制することができる。
【0035】
(3)リング電極7とナセル4間の電圧は酸化亜鉛素子8によって抑制されるため、リング電極7とナセル4間の放電により支柱3へ電流が流れることを防止できる。
【0036】
(4)酸化亜鉛素子8の存在によりリング電極7の電位は一定値に抑制されるため、リング電極7とナセル4間で放電が生じる可能性は極めて低く、リング電極7を必要以上に大きくする必要はなくなり、小型化が可能となる。
【0037】
(5)ブレード2aに落雷した際の雷撃電流がブレード2aを貫通し難く、かつナセル4を含む支柱3側に侵入させずに地面に流すことができる耐雷システムを備えた、比較的小型で安価な風力発電装置1を提供することが可能になる。
【0038】
以上、ブレード2のうち特にブレード2aを取り上げて作用・効果を説明したが、他のブレード2b、2cにおいても同様の作用・効果を奏することができる。
【0039】
[他の実施形態]
本発明は、次のような他の実施形態も含有する。
(1)風力発電装置1では、3枚のブレード2a、2b、2c(2cは図示せず)でブレード2を形成したが、ブレード2として1〜2枚のブレードを有するものでも良く、また4枚以上を有しても良い。
【0040】
(2)図2の実施形態においては、レセプタ13と電気的に接続するために棒導体12aを用いたが、棒状のみならず他の形状の導体を用いても良く、ワイヤ等の導体を用いても良い。
【0041】
(3)図2の実施形態においては、棒導体12aをブレード2a内の中空円筒11aの中に配置したが、ブレード2aの表面に配置しても良い。
【0042】
(4)図1の実施形態においては、ブレード2のハブ5付近に棒電極6a、6b、6cを形成したが、棒状のみならず円柱状、矩形上等の他の形状の導体を用いても良い。
【0043】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0044】
1…風力発電装置
2…ブレード
2a,2b…ブレード
3…支柱
4…ナセル
5…ハブ
6a,6b…棒電極
7…リング電極
8…酸化亜鉛素子
9a,9b…リード線
11a,11b…中空円筒
12a,12b…棒導体
13…レセプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大地に固定して設けられる支柱と、少なくとも発電機の回転子を内蔵して前記支柱の頂部に載置されるナセルと、当該ナセル内に設けられた前記回転子を風力により回転させるためのブレードと、当該ブレード及び前記回転子を接続するハブと、を有し、前記ブレードの先端に導体より成るレセプタが設けられ、当該レセプタと電気的に接続された導体が前記ブレードの外面に設けられた電極へと接続され、さらにリング電極が前記電極と対向して、かつ落雷時に前記電極と放電可能な放電ギャップを設けて前記ナセルに配置され、前記リング電極がリード線を介して、大地と接地された避雷素子に接続されていることを特徴とする耐雷システムを備えた風力発電装置。
【請求項2】
前記電極の大きさを直径10mmから50mmとしたことを特徴とする請求項1記載の耐雷システムを備えた風力発電装置。
【請求項3】
前記リング電極のリングの太さを直径10mmから50mmとしたことを特徴とする請求項1記載の耐雷システムを備えた風力発電装置。
【請求項4】
前記電極と前記リング電極との間隔を50mmから200mmとしたことを特徴とする請求項1記載の耐雷システムを備えた風力発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−92072(P2013−92072A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233302(P2011−233302)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】