説明

耐震ブレース及び耐震構造

【課題】木造軸組み工法による建築物に対して、筋交(ブレース材)を組み込んで耐震機能を高めるに際して、特に建物の耐崩壊性を高めるブレース材及び同ブレース材を使用した耐震構造を提供する。
【解決手段】土台、梁、柱で形成される矩形空間の内側隅部に固着される連結金具と連結する連結板部114,124を設け、他端にネジ部115,125を形成した2個のブレース体11,12と、両ブレース体のネジ部を連結するターンバックル13とで構成され、少なくとも一方のブレース体(短尺ブレース体11)をオーステナイト系ステンレス鋼で形成すると共に、軸部111の一部適宜長さを径小に形成して伸展部112としてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として新設及び既存の木造軸組構造の建築物に、耐震機能を備えさせるために取り付ける耐震ブレース及び前記耐震ブレースを使用した耐震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
木造軸組工法で建築された家屋に、耐震機能を備えさせるために、土台、梁及び柱で構成される矩形空間内に筋交を形成することが開示されている。この筋交(ブレース材)は、一般的に鉄筋、鉄板や木柱で形成されている。
【0003】
特にブレース材として鉄筋や鉄板を採用した場合には、直接土台、梁及び柱等に釘着することなく、柱と土台、柱と梁のコーナー内側に、矩形空間内周面となる固着面部と、矩形空間表裏面と平行な面を有するブレース材を軸連結する連結面部とを備えた連結金具を固着し、前記連結金具は、土台及び柱に釘着したり(特許文献1)、更に基礎と連結しているアンカーボルトと連結している(特許文献2)ものである。
【0004】
また地震に際して建物が受ける振動を吸収するために、筋交に振動吸収機構(バネのようなクッション機能を備えたり、塑性変形可能な金属を介在させる)を付設した構造も提案されている(特許文献3)。
【0005】
更に特許文献4には、強い地震に際して、建物の倒壊を防止して建物倒壊による人的被害を防止する手段として、筋交の構造材として破断することなく所定の塑性変形をなす材料を選択することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−150893号公報。
【特許文献2】特開2006−322278号公報。
【特許文献3】特開2005−171646号公報。
【特許文献4】登録実用新案3127214号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐震ブレース材に振動吸収機構を設けた場合には、振動吸収の機構の振幅限界によって耐久力(建物の倒壊を阻止する限界)の低下は当然に予測されるし、相応の耐久力を備えるには当然コスト高となる。
【0008】
建物倒壊防止を目的とした特許文献4に開示されている構造について、破断することなく所定の塑性変形をなす材料の具体的な選択が開示されておらず、且つ木軸構造の矩形空間の内側を囲繞する鋼材フレームとの共同で、所定の塑性変形耐力を定めているもので、鋼材フレームがない筋交単独採用では、建物倒壊防止の効果は低いと認められる。
【0009】
また筋交を装着する連結金具の前記矩形空間隅部への装着も、単なる釘着では、建物が崩壊する程の強い地震の場合には、十分な耐久力を備えているとはいえない。勿論特許文献2に開示されているとおりアンカーボルトと連結している場合には、十分な耐久力を備えることになるが、リフォームの場合には適用できない。
【0010】
そこで本発明は、筋交の採用で建物倒壊を効率的に防止する耐震ブレース及び前記ブレースを使用した耐震構造を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明(請求項1)に係る耐震ブレースは、家屋における土台、梁及び柱で構成される矩形空間内に筋交として組み込むものであって、軸部の一端に前記矩形空間の内側隅部に固着される連結金具と連結する連結板部を設け、他端にネジ部を形成した2個のブレース体と、両ブレース体のネジ部を連結するターンバックルとで構成され、少なくとも前記構成部材(2個のブレース体、ターンバツクル)の一つを、オーステナイト系ステンレス鋼で形成すると共に、当該構成部材の一部を適宜長さ径小に形成して伸展部としてなることを特徴とするものである。
【0012】
而して前記耐震ブレースを矩形空間に装着すると、他の筋交構造と同様に高倍率の耐力壁となるが、強い地震によって矩形空間が歪む際に、伸展部が塑性変形することで、矩形空間の崩壊(建物の崩壊)を防止するもので、特にオーステナイト系ステンレス鋼は伸展性を備えると共に、伸展後も十分な耐久力を備えるので、建物崩壊耐力は一般的な鋼材を採用した場合に比較して優れているものである。
【0013】
また本発明(請求項2)に係る耐震ブレースは、ブレース体を、短尺ブレース体と長尺ブレース体とで構成し、短尺ブレース体をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、長尺ブレース体を一般構造用圧延鋼で形成してなるもので、安価な一般構造用圧延鋼を採用し、高価なステンレス鋼の使用量を抑えることで、全体のコストダウンが実現するものである。尚前記の耐震ブレースの取付対象は、主として木造軸組構造の家屋に適するものであるが、鉄鋼構造(S造)に対しても適用できるものである。
【0014】
また本発明(請求項3)に係る耐震構造は、木造軸組工法で建築された家屋における土台、梁及び柱で構成される矩形空間の内側隅部に、一方が土台面或いは梁面と当接し他方が柱面と当接する釘着面部、及び両釘着面部と直交する連結面部を備えた連結金具と、前記連結金具と交差連結する前記のオーステナイト系ステンレス鋼を採用した耐震ブレースを備え、連結金具を、土台から基礎に穿設した固定穴に差し入れ固定した固定ボルトに装着固定してなることを特徴とするものである。
【0015】
従って連結金具の耐震構造は、連結金具の固定手法(基礎に固定した固定ボルトの採用)によって矩形空間の初期剛性が強化され、矩形空間の傾斜変形初期の伸展部の塑性変形を抑えることができ、また大きく矩形空間が傾斜変形しても所定の剛性を備えて崩壊(ブレースの破壊)を防止するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のとおり耐震ブレースの一部にオーステナイト系ステンレス鋼を採用することで、同材が備えている伸展特性並びに伸展後の耐力性によって、建物の崩壊防止が他の部材を採用した場合に比較して優れたものとなるものであり、同時に連結金具を基礎に固定した固定ボルトに装着固定することで、初期傾斜時の剛性を高めて、耐震ブレースの伸展を抑え、建物の耐震機能(耐崩壊性)を高めたものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態の使用状態の全体説明図。
【図2】同耐震ブレースの説明図。
【図3】同連結金具の説明図。
【図4】同連結金具の固定時の説明図。
【図5】同耐震ブレースの性能対比グラフ。
【図6】同連結金具の固定性能の対比グラフ。
【図7】同ターンバックルの別例図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に本発明の実施形態について説明する。耐震構造の実施形態に使用する部材は、耐震ブレース1、連結金具2、固定ボルト3及びナット4、更に釘着用の釘等の固定部材5である。
【0019】
耐震ブレース1は、短尺ブレース体11と長尺ブレース体12とターンバックル13とで構成される。
【0020】
短尺ブレース体11は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)で形成すると共に、Φ16で500mm長の軸部111の中間部分に230mm前後にわたってφ13の伸展部112を形成し、軸部111の一方の端部に後述する連結金具2と連結するための軸孔113を穿設した連結板部114を設け、軸部他端には適宜長さネジを刻設してネジ部115を形成したものである。
【0021】
長尺ブレース体12は、一般構造用圧延鋼(SS400)で形成すると共に、前記短尺ブレース体11と同様に、Φ16で約1900mm長の軸部121の一方の端部に軸孔123を穿設した連結板部124を設け、軸部他端には適宜長さネジを刻設してネジ部125を形成したものである。
【0022】
ターンバックル13は、ネジ部115,125を螺合連結する周知構造のもので、前記長尺ブレース体12と同様に一般構造用圧延鋼(SS400)や建築構造用圧延棒鋼(SNR400A等)で形成したものである。
【0023】
連結金具2は、基本的には従前の筋交に採用されている連結金具と同様に、L状面の釘着面部21と両釘着面部21と直交する連結面部22を溶接などで一体に形成したもので、釘着面部21には適宜な釘穴23及び必要に応じて形成したボルト孔24を設け、連結面部22には、前記耐震ブレース1の軸孔113,123と対応する軸孔25を設けてなり、更に軸孔25にはピン体26を挿着するものである。
【0024】
本発明の主たる目的は、既存の木造軸組工法で建築された家屋に耐震機能を補強するための耐震構造であり、特に前記の耐震ブレース1及び連結金具2を前記家屋における土台A、梁B及び柱Cで形成される矩形空間Dに装着するものである。
【0025】
連結金具2は、前記矩形空間Dの各内側隅部に固着されるもので、特に土台Aにおいては、連結金具2のボルト孔24と対応する位置に予めボルト孔aを穿設し、更に前記ボルト孔aと連続して基礎Eにもボルト穴bを穿設する。
【0026】
そして前記ボルト孔a及びボルト穴bには、予め接着剤などを充填して固定ボルト3を植立し、固定ボルト3を少なくとも基礎Eと一体化させて固定しておく。
【0027】
然る後従前の筋交と同様に矩形空間Dの内隅部分において、連結金具2の釘着面部21を土台A、梁B及び柱Cに固定部材5で固定すると共に、土台Aとの当接箇所では、固定ボルト3とナット4で連結金具2を固定装着するものである。尚固定部材5としては、一般的な釘の他、コーチスクリュー(コーチネジ)や、柱に穿設した貫通孔に装着する貫通ボルト等が採用される。
【0028】
固定された連結金具2には、短尺ブレース体11と長尺ブレース体12をターンバックル13で連結した耐震ブレース1を対角線に配置して連結するもので、連結手段は、耐震ブレース1の軸孔113,123と軸孔25を一致させ、ピン体26を貫通装着して連結する。
【0029】
而して前記の耐震構造を組み込んだ家屋は、耐震ブレースを組み込んだ矩形空間が、地震から受ける水平方向の力に対する耐力壁として作用し、矩形空間の傾斜に対して伸展部112の伸長並びに曲がりによって連結金具2の抜けを防止して、耐震ブレース1によって傾斜状態でも耐力壁として作用し、建物の倒壊を防止するものである。
【0030】
特に本発明の短尺ブレース体11にステンレス鋼を採用した耐震ブレース(ステンレス耐震ブレース)と、一般的な鋼材を採用した同様構造の耐震ブレース(一般耐震ブレース)との対比実験の結果を図5で示した。
【0031】
実験は耐震ブレースを組み込んだ矩形空間に対して水平荷重を印加し、矩形空間Dの傾斜(せん断変形角)と水平荷重の関係を測定したもので、最大耐力が略一致している一般耐震ブレースとステンレス耐震ブレースを比較実験したもので、前記結果は、一般耐震ブレースが、最大が1/30rad付近をピークに耐力が低下し、ステンレス耐震ブレース(本発明)が、所定の耐力を維持しながら変形対応できることを示している。
【0032】
即ち図5で示されるようにせん断変形角1/15radまで耐力が上昇する傾向にあり、優れた建物の耐崩壊性を備えることになる。
【0033】
次に前記ステンレス耐震ブレースを採用して固定ボルト3を採用した場合と、採用しない場合について同様の実験を行った結果が図6のとおりである。
【0034】
この実験結果から初期剛性が改善されることが確認できたものである。
【0035】
また本発明は、前記の短尺ブレース体11をステンレス鋼で形成せずに、図7に示すように、ターンバックル13a,13bをステンレス鋼で形成すると共に、両端のネジ孔の中間部分を径小として伸展部131a,131bを形成し、前記のターンバックル13a,13bを採用して耐震ブレースを構成するようにしても良い。
【0036】
以上の様に本発明は、耐震ブレースとして、一部にオーステナイト系ステンレス鋼を採用すると共に、ステンレス鋼部分に径小の伸展部を設けることで、ステンレス鋼が備えている優れた靭性及び延性によって、当該耐震ブレースを建物に組み込むことで、強い地震に際しての建物倒壊を出来るだけ防止して、未然に人的災害の発生を抑えるものである。
【符号の説明】
【0037】
1 耐震ブレース
11 短尺ブレース体
12 長尺ブレース体
111,121 軸部
112 伸展部
113,123 軸孔
114,124 連結板部
115,125 ネジ部
13,13a,13b ターンバックル
131a,131b 伸展部
2 連結金具
21 釘着面部
22 連結面部
23 釘穴
24 ボルト孔
25 軸孔
26 ピン体
3 固定ボルト
4 ナット
5 固定部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家屋における土台、梁及び柱で構成される矩形空間内に筋交として組み込むものであって、軸部の一端に前記矩形空間の内側隅部に固着される連結金具と連結する連結板部を設け、他端にネジ部を形成した2個のブレース体と、両ブレース体のネジ部を連結するターンバックルとで構成され、少なくとも前記構成部材の一つをオーステナイト系ステンレス鋼で形成すると共に、当該構成部材の一部を適宜長さ径小に形成して伸展部としてなることを特徴とする耐震ブレース。
【請求項2】
ブレース体を、短尺ブレース体と長尺ブレース体とで構成し、短尺ブレース体をオーステナイト系ステンレス鋼で形成し、長尺ブレース体を一般構造用圧延鋼で形成してなる請求項1記載の耐震ブレース。
【請求項3】
木造軸組工法で建築された家屋における土台、梁及び柱で構成される矩形空間の内側隅部に、一方が土台面或いは梁面と当接し他方が柱面と当接する釘着面部、及び両釘着面部と直交する連結面部を備えた連結金具と、前記連結金具と交差連結する請求項1又は2記載の耐震ブレースとを備え、前記連結金具を、土台から基礎に穿設した固定穴に差し入れて固定した固定ボルトに装着固定してなることを特徴とする耐震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−222802(P2010−222802A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69329(P2009−69329)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(591197633)明和工業株式会社 (10)
【Fターム(参考)】