説明

肉用食感改良剤、食肉の食感改良方法および改良食肉

【課題】畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良して向上させることができる肉用食感改良剤、食肉の食感改良方法および改良食肉を提供する。
【解決手段】高度分岐環状デキストリン(クラスターデキストリン)とアルカリ剤とを含んでいる。高度分岐環状デキストリンを0.01乃至1.5質量%含むことが好ましい。特に、高度分岐環状デキストリンを0.15乃至1.5質量%含むことがより好ましい。また、pHが8乃至13の溶液から成っていることが好ましい。この場合、その溶液に、食肉を所定の時間浸漬させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉用食感改良剤、食肉の食感改良方法および改良食肉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高度分岐環状デキストリン(クラスターデキストリン)を含む製剤として、食品の品質の劣化を抑制し、保存性を高めるものがある(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−208636号公報
【特許文献2】特開2007−116921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2記載の従来の高度分岐環状デキストリンを含む製剤は、食品の食感や風味等の品質の劣化を抑制するものであるが、食品の食感を改良して向上させるものではない。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良して向上させることができる肉用食感改良剤、食肉の食感改良方法および改良食肉を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る肉用食感改良剤は、高度分岐環状デキストリンを含むことを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る肉用食感改良剤は、畜肉や魚肉に練り込んだり、溶液から成る場合には畜肉や魚肉を浸漬させたりして使用される。本発明に係る肉用食感改良剤は、高度分岐環状デキストリンにより、食肉にやわらかさやしっとり感、旨みを付与したり、食肉の臭みを低減したりすることができ、畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良して向上させることができる。
【0008】
本発明に係る肉用食感改良剤は、さらにアルカリ剤を含むことが好ましい。この場合、アルカリ剤により、高度分岐環状デキストリンを食肉に浸透しやすくすることができる。このため、高度分岐環状デキストリンによる食感改良効果をより高めることができる。具体的には、食肉にしっとり感や繊維感を付与することができる。また、牛肉ジャーキーや廃鶏肉の焼き鳥、アカイカなど噛み切りにくい食肉に、やわらかさだけでなく、噛み切りやすさも付与することができる。魚肉の生臭さや畜肉臭など、肉特有の不快臭や不快味を低減することができる。アルカリ剤に高度分岐環状デキストリンを組み合わせることにより、アルカリ剤によるアルカリ味を低減することができる。
アルカリ剤としては、特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、炭酸カリウムが挙げられる。これらのアルカリ剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明に係る肉用食感改良剤は、調味料、保存料、着色料、増量剤その他の添加剤を含んでいてもよい。
【0009】
本発明に係る肉用食感改良剤は、前記高度分岐環状デキストリンを0.01乃至1.5質量%含むことが好ましい。本発明に係る肉用食感改良剤は、前記高度分岐環状デキストリンを0.15乃至1.5質量%含むことが、より好ましい。この場合、特に、やわらかさ、しっとり感、繊維感が増し、旨みの付与効果や、臭みやアルカリ味の低減効果に優れている。
【0010】
本発明に係る肉用食感改良剤は、pHが8乃至13の溶液から成ることが好ましい。この場合、溶液がアルカリ性であるため、溶液に食肉を浸漬させることにより、高度分岐環状デキストリンを食肉に浸透しやすくすることができる。このため、高度分岐環状デキストリンによる食感改良効果をより高めることができる。
【0011】
本発明に係る食肉の食感改良方法は、前述の本発明に係る肉用食感改良剤を食肉に浸透させることを、特徴とする。浸透させる方法としては、溶液から成る本発明に係る肉用食感改良剤に食肉を所定の時間浸漬させる方法または粉状の本発明に係る肉用食感改良剤を食肉に練り込む方法が好ましい。
本発明に係る食肉の食感改良方法によれば、高度分岐環状デキストリンにより、畜肉や魚肉などの食肉に、やわらかさやしっとり感、繊維感、旨みを付与し、臭みを低減することができ、畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良して向上させることができる。本発明に係る肉用食感改良剤がアルカリ性溶液から成る場合には、高度分岐環状デキストリンが食肉に浸透しやすく、高度分岐環状デキストリンによる食感改良効果をより高めることができる。
【0012】
本発明に係る改良食肉は、前述の本発明に係る肉用食感改良剤を含むことを、特徴とする。本発明に係る改良食肉は、本発明に係る肉用食感改良剤により、やわらかさやしっとり感、繊維感、旨みが付与され、臭みが低減され、また、食感が改良されている。さらに、本発明に係る肉用食感改良剤がアルカリ性溶液から成る場合には、高度分岐環状デキストリンが食肉によく浸透され、高度分岐環状デキストリンによる食感改良効果がより高められている。
なお、本発明において、「食肉」の範疇には、畜肉、魚肉、鳥肉、その他の食肉が含まれ、また、生肉のほか、焙焼肉、湯煮肉、蒸煮肉、油ちょう肉などの加工肉も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良して向上させることができる肉用食感改良剤、食肉の食感改良方法および改良食肉を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態の肉用食感改良剤、食肉の食感改良方法および改良食肉について説明する。
本発明の実施の形態の肉用食感改良剤は、高度分岐環状デキストリンとアルカリ剤とを含んでいる。
【0015】
本発明に係る肉用食感改良剤は、畜肉や魚肉に練り込んだり、溶液から成る場合には畜肉や魚肉を浸漬させたりして使用される。本発明に係る肉用食感改良剤は、高度分岐環状デキストリンにより、食肉にやわらかさやしっとり感、旨みを付与したり、肉の臭みを低減したりすることができ、畜肉や魚肉などの食肉の食感を改良して向上させることができる。また、アルカリ剤により、高度分岐環状デキストリンを食肉に浸透しやすくすることができる。このため、高度分岐環状デキストリンによる食感改良効果をより高めることができる。
【0016】
本発明の実施の形態の肉用食感改良剤の、各成分の配合量などを検討するために、以下の試験を行った。試験試料の肉として、バナメイエビ、若鶏胸肉、鶏もも肉を使用した。
【0017】
[バナメイエビを使用した浸漬試験]
バナメイエビを使用して各種の試験を行った。試験は、まず、バナメイエビ原料を解凍して殻を剥き、溶液から成る5℃の肉用食感改良剤の試験試料に、原料:溶液=1:1の割合で2時間浸漬する。浸漬後、溶液を切り、90℃で2分間ボイルし、軽く水冷した後、pH、食感、歩留まりを確認した。なお、肉pHは、食肉を20%含む溶液に対して、ホモミキサーを6000rpmで1分間かけ、静置後測定を行った。
【0018】
食感は、しっとり感、および繊維感について評価を行った。
しっとり感の評価基準は、
4点:とてもしっとりする 3点:しっとりする
2点:ややぱさつく 1点:ぱさつく
繊維感の評価基準は、
4点:かなり繊維感あり 3点:繊維感あり
2点:繊維感あまりない 1点:繊維感全くない
である。
【0019】
臭みの低減、および旨みの付与についても評価を行った。
臭み低減の評価基準は、
4点:臭み全くなし 3点:臭みなし
2点:やや生臭みあり 1点:生臭みあり
旨味付与の評価基準は、
4点:旨味あり 3点:やや旨味あり
2点:旨味ほとんどなし 1点:旨味全くなし
である。
【0020】
なお、一部の試料については、食感のやわらかさについても評価を行った。
やわらかさの評価基準は、
4点:とてもやわらかい 3点:やわらかい
2点:やや固い 1点:固い
である。
また、アルカリ味がでるものに関しては、アルカリ特有の収れん味があるかどうかの評価を行った。
アルカリ味の評価基準は、
4点:アルカリ味全くなし 3点:アルカリ味なし
2点:アルカリ味ややある 1点:アルカリ味かなりある
である。
【0021】
クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)を含む試料と、クラスターデキストリンを含まない試料とについて試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表1に示す。なお、どちらの試料もアルカリ剤を含んでいない。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すように、クラスターデキストリンを含まない場合、繊維感はあるものの、ぱさつきがあり食感は悪い。これに対し、クラスターデキストリンを使用すると、しっとり感はあるが、やわらかさが付与されて繊維感を感じづらくなる。また、クラスターデキストリンを使用すると、呈味は若干改良されるが、まだ臭みは残る。
【0024】
次に、アルカリ剤を加えた場合について試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表2および表3に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウムを使用した。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
表2および表3に示すように、クラスターデキストリンを含まない場合には、pHが高いと繊維感のないぶりぶりした食感になるが、クラスターデキストリンを添加すると、繊維感が付与される。臭みは、アルカリ剤の添加によりある程度低減されるが、クラスターデキストリンを添加するとより低減される。呈味は、クラスターデキストリンとアルカリ剤との相乗効果により、かなり改良される。特に、アルカリ剤として炭酸塩およびリン酸塩を使用した場合に、旨味が増強される傾向がある。アルカリ味が感じられるものも、クラスターデキストリンを添加することにより、アルカリ味が低減され、旨味を感じる。
【0028】
次に、アルカリ剤を加えたときの、クラスターデキストリンの添加量について検討を行うため、クラスターデキストリンの添加量が異なる試料を用いて試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表4に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸ナトリウム無水物(ソーダ灰)を使用した。
【0029】
【表4】

【0030】
表4に示すように、クラスターデキストリンの添加量が増えると、しっとり感、繊維感が増し、旨味の付与効果や、臭みの低減効果が向上している。クラスターデキストリンを0.02質量%添加しただけで、繊維感が付与される。クラスターデキストリンの添加量が0.5質量%、1質量%になると、しっとり感が急激に増すが、クラスターデキストリンを添加しないときのようなぶりぶりした食感ではなく、自然なエビらしい食感になる。
【0031】
次に、アルカリ剤を加えたときの、クラスターデキストリンを添加した場合と、クラスターデキストリン以外の糖類を添加した場合とを比較するための試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表5に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸ナトリウムを使用した。また、クラスターデキストリン以外の糖類として、ぶどう糖、オリゴ糖、デキストリン、でん粉、αサイクロデキストリン、トレハロースを使用した。
【0032】
【表5】

【0033】
表5に示すように、ぶどう糖およびオリゴ糖を添加した場合は、エビ表面の張りはあるため最初の歯触りは良いが、内部の繊維感はない。デキストリンおよびでん粉を添加した場合は、表面も内部も潰れるような食感で、歯触りが悪い。αサイクロデキストリンを添加した場合は、中心部はしっかりしているが、表面の張りはない。また、臭みはとれている。トレハロースを添加した場合は、全体的にやわらかく、張りがない。また、臭みはとれているが、エビの味も消えている。クラスターデキストリンを添加した場合は、表面の張りがあり、内部も繊維感ある。また、臭み低減だけでなく、エビの旨味を感じやすくする効果もある。
【0034】
[若鶏胸肉を使用した浸漬試験]
若鶏胸肉を使用して各種の試験を行った。試験は、まず、若鶏胸肉原料を解凍し、テンダリングして(表面に多数の針を刺して)から約20gの塊にカットし、溶液から成る5℃の肉用食感改良剤の試験試料に、原料:溶液=1:1の割合で16時間浸漬する。浸漬後、溶液を切り、衣を付けて、170℃で2分半油ちょうし、放冷後、pH、食感、歩留まりを確認した。なお、肉pHは、食肉を20%含む溶液に対して、ホモミキサーを6000rpmで1分間かけ、静置後測定を行った。
【0035】
食感は、柔らかさ、しっとり感、および肉繊維のふっくら感について評価を行った。
柔らかさの評価基準は、
4点:とても柔らかい 3点:柔らかい
2点:やや固い 1点:固い
しっとり感の評価基準は、
4点:とてもしっとりする 3点:しっとりする
2点:ややぱさつく 1点:ぱさつく
肉繊維のふっくら感の評価基準は、
4点:かなり繊維太くふっくら 3点:ややふっくら
2点:ふっくら感あまりない 1点ふっくら感全くない
である。
【0036】
臭みの低減、および旨みの付与についても評価を行った。
臭み低減の評価基準は、
4点:臭み全くなし 3点:臭みなし
2点:やや臭みあり 1点:臭みあり
旨味付与の評価基準は、
4点:旨味かなりあり 3点:旨味あり
2点:やや旨味あり 1点:旨味全くなし
である。
【0037】
また、アルカリ味がでるものに関しては、アルカリ特有の収れん味があるかどうかの評価を行った。
アルカリ味の評価基準は、
4点:アルカリ味全くなし 3点:アルカリ味なし
2点:アルカリ味ややある 1点:アルカリ味かなりある
である。
【0038】
クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)を含む試料と、クラスターデキストリンを含まない試料とについて試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表6に示す。なお、どちらの試料もアルカリ剤を含んでいない。
【0039】
【表6】

【0040】
表6に示すように、クラスターデキストリンを含む場合も含まない場合も、食感に関する部分での差はさほどない。クラスターデキストリンを含む場合には、臭みおよび旨味に対する効果がやや認められる。
【0041】
次に、アルカリ剤を加えた場合について試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表7および表8に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウムを使用した。
【0042】
【表7】

【0043】
【表8】

【0044】
表7および表8に示すように、肉のpHが高くなると、クラスターデキストリンによる食感改良効果が高くなる。このため、アルカリ剤として、溶液のpHが高く、肉のpHを上げることができる炭酸塩および正リン酸塩を使用した場合に、繊維のふっくら感が増し、特に食感改良効果が高くなる。臭みは、アルカリ剤の添加によりpHに関係なくある程度低減されるが、クラスターデキストリンを添加するとより低減される。旨味は、クラスターデキストリンとアルカリ剤との相乗効果により、かなり改良される。
【0045】
表7のアルカリ剤として炭酸ナトリウムを使用した場合について、クラスターデキストリンを添加したとき(試験区4)およびクラスターデキストリンを添加しないとき(試験区3)の、歯で噛み切った断面および食肉を包丁でカットした断面を、図1および図2に示す。図2に示すように、クラスターデキストリンを添加しないときは、肉の繊維が密で、なめらかな断面になっているのが確認できる。これに対し、図1に示すように、クラスターデキストリンを添加すると、肉の繊維がほぐれてそれぞれが離れた状態になっており、ふっくら感が付与されていることが確認できる。なお、この繊維が太くなる現象は、畜肉だけでなく、魚肉でも認められる。
【0046】
次に、アルカリ剤を加えたときの、クラスターデキストリンの添加量について検討を行うため、クラスターデキストリンの添加量が異なる試料を用いて試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表9に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸ナトリウム無水物(ソーダ灰)を使用した。
【0047】
【表9】

【0048】
表9に示すように、クラスターデキストリンの添加量が増えると、やわらかさ、しっとり感、ふっくら感が増し、旨味の付与効果や、臭みの低減効果が向上している。クラスターデキストリンを0.02質量%添加しただけで、しっとり感および繊維のふっくら感が付与される。クラスターデキストリンの添加量が0.2質量%から、さらに食感改良効果が高くなり、1質量%になると、さらに繊維がふっくらとしてくる。旨味の付与効果も、クラスターデキストリン0.02質量%添加から認められ、0.2質量%添加で高い効果が得られる。
【0049】
次に、アルカリ剤を加えたときの、クラスターデキストリンを添加した場合と、クラスターデキストリン以外の糖類を添加した場合とを比較するための試験を行った。このときの溶液の処方および試験結果を、表10に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸ナトリウムを使用した。また、クラスターデキストリン以外の糖類として、ぶどう糖、オリゴ糖、デキストリン、でん粉、αサイクロデキストリン、トレハロースを使用した。
【0050】
【表10】

【0051】
表10に示すように、αサイクロデキストリンおよびトレハロースを添加した場合には、臭みを改良することができるが、クラスターデキストリンを添加した場合には、さらに旨味も付与することができる。デキストリンを添加した場合には、しっとり感や繊維のふっくら感についてある程度効果があったが、クラスターデキストリンを添加した場合には、繊維の太さが特に際だっていた。他の糖類を添加した場合には、食感および呈味のどちらかしか改良できないが、クラスターデキストリンを添加した場合には、食感も呈味も両方とも改良することができる。
【0052】
[鶏もも肉を使用した練り込み試験]
鶏もも肉を使用して各種の試験を行った。試験は、まず、鶏もも肉を、目が5mmφのチョッパーで挽き、肉用食感改良剤の試験試料を添加して、練り込むように2分間混合する。混合後、1個25gで成型し、200℃で10分間、中心温度が85℃までで焼成した後、pH、食感、歩留まりを確認した。なお、加熱歩留まりは、焼成後粗熱がとれたところで測定した。また、肉pHは、食肉を20%含む溶液に対して、ホモミキサーを6000rpmで1分間かけ、静置後測定を行った。
【0053】
食感は、やわらかさ、しっとり感、ほぐれ感について評価を行った。
やわらかさの評価基準は、
4点:とてもやわらかい 3点:やわらかい
2点:やや固い 1点:固い
しっとり感の評価基準は、
4点:とてもしっとりする 3点:しっとりする
2点:ややぱさつく 1点:ぱさつく
ほぐれ感の評価基準は、
4点:かなりほぐれる 3点:ほぐれる
2点:ややほぐれる 1点:全くほぐれない
である。
【0054】
臭みの低減、および旨みの付与についても評価を行った。
臭み低減の評価基準は、
4点:臭み全くなし 3点:臭みなし
2点:やや獣臭あり 1点:獣臭あり
旨味付与の評価基準は、
4点:旨味かなりあり 3点:旨味あり
2点:やや旨味あり 1点:旨味全くなし
である。
【0055】
また、アルカリ味がでるものに関しては、アルカリ特有の収れん味があるかどうかの評価を行った。
アルカリ味の評価基準は、
4点:アルカリ味全くなし 3点:アルカリ味なし
2点:アルカリ味ややある 1点:アルカリ味かなりある
である。
【0056】
クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)を含む試料と、クラスターデキストリンを含まない試料とについて試験を行った。このときの処方および試験結果を、表11に示す。なお、どちらの試料もアルカリ剤を含んでいない。
【0057】
【表11】

【0058】
表11に示すように、クラスターデキストリンを含む場合、クラスターデキストリンを含まない場合に比べて、やわらかさとしっとり感が増し、ぱさぱさした食感が改良される。また、臭みも低減され、旨味も付与される。
【0059】
次に、アルカリ剤を加えた場合について試験を行った。このときの処方および試験結果を、表12に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)を使用した。
【0060】
【表12】

【0061】
表12に示すように、クラスターデキストリンを含まない場合には、アルカリ剤を使用すると、肉が密になり固く感じるようになる。しかし、クラスターデキストリンを併用することにより、しっとり感およびほぐれ感が増し、呈味もさらに改良される。
【0062】
次に、アルカリ剤の添加量を変えて、肉のpHを変えた場合について試験を行った。このときの処方および試験結果を、表13および表14に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸ナトリウムを使用した。
【0063】
【表13】

【0064】
【表14】

【0065】
表13および表14に示すように、肉のpHが高すぎると、クラスターデキストリンの効果は出ない。肉のpHが6.5〜8.7(炭酸ナトリウムの添加量が0.25質量%〜1.0質量%)のとき、クラスターデキストリンによる効果が認められる。特に、肉のpHが7.1〜8.7(炭酸ナトリウムの添加量が0.5質量%〜1.0質量%)のときに、クラスターデキストリンによる効果が高くなる。
【0066】
次に、アルカリ剤を含まないときの、クラスターデキストリンの添加量について検討を行うため、クラスターデキストリンの添加量が異なる試料を用いて試験を行った。このときの処方および試験結果を、表15に示す。
【0067】
【表15】

【0068】
表15に示すように、クラスターデキストリンの添加量が増えると、やわらかさ、しっとり感、ほぐれ感が増し、旨味の付与効果や、臭みの低減効果が向上している。クラスターデキストリンの添加量が0.05質量%から食感改良効果が出はじめ、0.2質量%の添加でしっとり感がかなり付与される。また、クラスターデキストリンの添加量が1質量%では、やわらかく、畜肉練り製品に好ましいほぐれ感が増す。呈味に関しては、クラスターデキストリンの添加量が0.02質量%でも効果が見られ、0.05質量%の添加からは旨味も付与される。1.0質量%の添加で、香ばしいような好ましい風味が付与される。
【0069】
次に、アルカリ剤を加えたときの、クラスターデキストリンの添加量について検討を行うため、クラスターデキストリンの添加量が異なる試料を用いて試験を行った。このときの処方および試験結果を、表16に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)を使用した。
【0070】
【表16】

【0071】
表16に示すように、クラスターデキストリンの添加量が増えると、やわらかさ、しっとり感、ほぐれ感が増し、旨味の付与効果や、臭みの低減効果が向上している。アルカリ剤を使用すると、弾力あり、固く感じるが、クラスターデキストリンを添加することにより、しっとり感およびほぐれ感が向上する。クラスターデキストリンを1.0質量%添加すると、ほぐれ感がますます向上する。アルカリ剤の添加により、若干臭みを低減することができるが、クラスターデキストリンを添加することにより、さらに臭みを低減することができる。クラスターデキストリンを1.0質量%添加すると、旨味および甘味が増すような呈味改良効果がみられる。
【0072】
次に、様々なアルカリ剤を加えた場合について試験を行った。このときの処方および試験結果を、表17および表18に示す。なお、アルカリ剤は、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、水酸化ナトリウム、貝殻焼成カルシウムを使用した。
【0073】
【表17】

【0074】
【表18】

【0075】
表17および表18に示すように、ナトリウム塩は、広いpH域で食感改良効果がある。カリウムは、ナトリウムよりも効果が弱く、肉のpHが低くてもアルカリ味を感じる。カルシウムは、食感が悪くなる。アルカリ剤を加え肉のpHが高くなることによって身質が密になった分、臭みが中にとじこめられやすくなっているが、クラスターデキストリンを添加することにより改良される。リン酸三K程度では、アルカリ臭を若干低減できるが、焼成Caぐらいに肉のpHが高いと、改良できない。練り込み試験では、肉のpHが高くなりすぎるとクラスターデキストリンによる効果が出てこない。
【0076】
次に、アルカリ剤を含まないときの、クラスターデキストリンを添加した場合と、クラスターデキストリン以外の糖類を添加した場合とを比較するための試験を行った。このときの処方および試験結果を、表19に示す。なお、クラスターデキストリン以外の糖類として、ぶどう糖、オリゴ糖、デキストリン、でん粉、αサイクロデキストリン、トレハロースを使用した。
【0077】
【表19】

【0078】
表19に示すように、ぶどう糖を添加した場合は、しっとり感がなく、臭みもとれていない。オリゴ糖を添加した場合は、若干食感改良効果がみられるが、呈味改良効果はない。デキストリンを添加した場合は、多少ほぐれ効果がみられたが、呈味改良効果はない。でん粉を添加した場合は、ゲル化して組織が固くなり、食感が固く感じられ、呈味改良効果もない。αサイクロデキストリンおよびトレハを添加した場合は、臭み低減効果がみられたが、食感改良効果はない。クラスターデキストリンを添加した場合は、食感改良および呈味改良の両方の効果がみられる。
【0079】
以上の試験結果から、クラスターデキストリンとアルカリ剤とを組み合わせたとき、アルカリ剤により、クラスターデキストリンを食肉に浸透しやすくすることができるため、以下に示す効果が得られることが確認された。アルカリ剤単独では、ただ保水しただけの水っぽい食感になるが、クラスターデキストリンを併用すると、しっとりした食感になる。アルカリ剤単独では、アルカリ特有の収れん味およびえぐ味が感じられるが、クラスターデキストリンを併用すると、それが低減される。アルカリ剤単独では、凍結解凍時に離水するが、クラスターデキストリンを併用すると、それが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施の形態において、クラスターデキストリンとアルカリ剤とを併用した溶液に浸漬した若鶏胸肉の(a)歯で噛み切ったときの断面を示す顕微鏡写真、(b)包丁でカットしたときの断面を示す顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施の形態において、クラスターデキストリンを添加せず、アルカリ剤のみを使用した溶液に浸漬した若鶏胸肉の(a)歯で噛み切ったときの断面を示す顕微鏡写真、(b)包丁でカットしたときの断面を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高度分岐環状デキストリンを含むことを、特徴とする肉用食感改良剤。
【請求項2】
さらにアルカリ剤を含むことを、特徴とする請求項1記載の肉用食感改良剤。
【請求項3】
前記高度分岐環状デキストリンを0.01乃至1.5質量%含む溶液から成ることを、特徴とする請求項1または2記載の肉用食感改良剤。
【請求項4】
前記高度分岐環状デキストリンを0.15乃至1.5質量%含む溶液から成ることを、特徴とする請求項1または2記載の肉用食感改良剤。
【請求項5】
pHが8乃至13の溶液から成ることを、特徴とする請求項1、2、3または4記載の肉用食感改良剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の肉用食感改良剤を食肉に浸透させることを、特徴とする食肉の食感改良方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか1項記載の肉用食感改良剤を含むことを、特徴とする改良食肉。



【図1】
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【図2】
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