肉盛溶接材料及び肉盛溶接金属が溶接された機械部品
【課題】酸による腐食環境下で使用される肉盛金属用の溶接材料として、肉盛金属の耐食性及び耐摩耗性が優れ、割れの発生が防止された肉盛溶接材料及び肉盛溶接金属が溶接された機械部品を提供する。
【解決手段】肉盛溶接材料は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。肉盛溶接材料は、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延又は熱間加工される機械部品の肉盛溶接に使用される場合には、P及びSの含有量を、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有することが好ましく、肉盛溶接金属の健全性を損なわない範囲で、不純物成分を含有できる。
【解決手段】肉盛溶接材料は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。肉盛溶接材料は、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延又は熱間加工される機械部品の肉盛溶接に使用される場合には、P及びSの含有量を、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有することが好ましく、肉盛溶接金属の健全性を損なわない範囲で、不純物成分を含有できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性の土壌から出土した物の粉砕器及び反応塔等のように、耐食性及び耐摩耗性が優れていることが要求される用途に好適の肉盛溶接材料及び肉盛溶接金属が溶接された機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
粉砕器及び反応塔等のような処理装置において、処理の対象物中に、塩酸及び硫酸等の酸が含まれていたり、処理中に、処理対象物から酸が副次的に出てくることがある。この処理装置の処理対象物を収納する処理容器は通常鋼材で成型されており、このような酸が存在すると、容器の内壁が腐食してしまうという問題点がある。また、処理容器の内壁は、処理中の処理物により、損耗しやすいという問題点がある。
【0003】
そこで、この種の処理装置において、処理物が収納される処理容器の内壁には、耐食性及び耐摩耗性が要求される。このような耐食性及び耐摩耗性の向上を目的とする従来の肉盛溶接材料として、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1は、600℃以上の高温で優れた強度、耐酸化性及び耐摩耗性が要求される部材に使用される肉盛溶接材料であって、C:0.5〜3.0%、Si:3.0〜7.0%、Cr:25〜45%、Mn:0〜10%、Ni:0〜13%を含み、且つCr≧−1.6Si+37を満足し、残部がFe及び不可避不純物からなり、母材上に短繊維状の微細針状炭化物により強化された肉盛溶接金属を形成する肉盛溶接材料を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−226778号公報(特許第3343576号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に開示された従来技術は、肉盛り溶接材料に鋼材(Fe合金)が使用されており、その材料中におけるC、Si、Cuの各成分の濃度が高く、更に、4a〜5a族遷移元素(Ti、Zr、Nb、Ta)を多く含有しているという問題点がある。即ち、特許文献1に開示された従来技術においては、C濃度が0.5〜3.0%と高いことから、破壊靭性に対する耐性が小さく、更に4a〜5a族遷移元素(Ti、Zr、Nb、Ta)を多く含有していることから、硬度が大きすぎるといった問題点があり、このため腐食により脆性破壊を起こしやすいという問題点がある。
【0006】
また、特許文献1に開示された従来技術では、Si濃度が3.0〜7.0%と極めて高いことから、鋼材の製造工程である熱間圧延工程の後に赤スケールを発生しやすく、酸洗により赤スケールを除去したとしても表面品質が悪くなる(表面凹凸が大きくなり、表面ムラが発生する)という問題点がある。この赤スケールは高温(600℃以上)での使用においても発生する可能性があり、この場合は赤スケールの主体であるα−Fe2O3の粉末が被処理物に混入するという問題点も生じる。
【0007】
更に、特許文献1に開示された従来技術では、Cu濃度が0〜7.0%と極めて高いことから、鋼材の製造工程である熱間圧延工程において赤熱脆性が起こりやすく、熱間圧延工程を含む通常の鋼材の製法により鋼材を製造するのが難しく、肉盛溶接材料の製作・供給が難しいという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、酸による腐食環境下で使用される肉盛金属用の溶接材料として、肉盛金属の耐食性及び耐摩耗性が優れ、割れの発生が防止された肉盛溶接材料及び肉盛溶接金属が溶接された機械部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る肉盛溶接材料は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、この肉盛溶接材料の組成として、C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるものに組成範囲を減縮すると、更に好ましい。
【0011】
本発明に係る肉盛溶接材料は、例えば更に、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有する。また、肉盛溶接材料は、例えば更に、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Pd、Ag、Sn、Hf、Ta、Pt、Au及び/又はPbを総量で15質量%以下含有し、母材鋼材の表面上に溶接された際、得られる肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織を有する。
【0012】
本発明に係る肉盛溶接金属が溶接された機械部品は、母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る他の肉盛溶接金属が溶接された機械部品は、母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、例えば前記肉盛溶接金属の表層部は、更に、P:0.03質量%、S:0.02質量%以下に規制した組成を有する。
【0015】
本発明に係る肉盛溶接金属が溶接された機械部品においては、例えば、肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織を有し、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、フェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんだ状態の多結晶組織を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本発明の溶接材料を使用して肉盛溶接すると、得られる肉盛溶接金属は、セメンタイトが周囲をくるんでいるフェライト構造を有する金属組織となり、また、フェライトマトリックスにはCr、Mo、Niが含まれる。フェライトはオーステナイト及びマルテンサイトに比べて水素脆化に強く、Cr、Mo、Niにより耐食性が向上することから、肉盛溶接金属は、酸性雰囲気においても、水素脆化が抑制され、割れにくく、残留応力が低く安定しているという効果があり、酸に対する耐食性及び耐摩耗性が優れた肉盛溶接金属を得ることができる。また、本発明により、酸に対する耐食性及び耐摩耗性が優れ、かつ硬度と靭性のバランスのとれた機械部品材料として好適な肉盛溶接金属層及び肉盛溶接材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属のロックウェル硬度を示す図である。
【図2】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属のビッカース硬度を示す図である。
【図3】実施例及び比較例の土砂摩耗試験の原理を示す概念図である。
【図4】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性評価結果(摩耗減量)を示すグラフ図である。
【図5】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性評価結果(摩耗減量)を示すグラフ図である。
【図6】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性評価結果(摩耗減量)を示すグラフ図である。
【図7】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐食性評価結果(平均腐食速度)を示すグラフ図である。
【図8】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐食性評価結果(平均腐食速度)を示すグラフ図である。
【図9】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属層の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【図10】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属層の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【図11】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属層の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明は、室温から200℃程度の温度範囲で使用される粉砕器及び反応塔のような処理装置に設置された処理物の処理容器であって、処理の対象物中に、塩酸及び硫酸等の酸が含まれていて、pHが中性〜4.2程度の酸性の腐食環境下で使用される収納容器に使用するのに好適の肉盛金属用の溶接材料である。この本発明の溶接材料を使用して前記収納容器の内壁に肉盛金属を形成することにより、この収納容器の耐食性及び耐摩耗性が向上し、寿命を延長させることができる。なお、本発明においては、得られた溶接金属の金属組織は、フェライト相である。
【0019】
以下、本発明の肉盛溶接材料の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0020】
「C:0.2乃至1.5質量%、より好ましくは、C:0.6乃至0.8質量%」
肉盛溶接金属の引張強度と伸びのバランスを保つために、溶接材料のC含有量は、0.2乃至1.5質量%とする。C含有量が0.8質量%を超えると、ハイテンという過共析鋼となり、靭性が低下して、加工しにくくなる。一方,C量が多いほど、上述のごとく、靭性が低下して脆化するため、アグレッシブ摩耗が増加する。このため、耐摩耗性は他の元素の添加で確保し、肉盛溶接金属としてのバランスをとるために、肉盛溶接材料のC含有量は0.2乃至1.5質量%、より好ましくは、C含有量は、0.6乃至0.8質量%とする。
【0021】
「Si:0.5乃至2.0質量%、より好ましくは、Si:0.7乃至1.5質量%」
Siは肉盛溶接金属の引張強度を向上させる元素である。この作用を得るためには、溶接材料のSi含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とすることが必要である。一方、Si含有量が2.0質量%を超えると、赤スケール(赤錆)が発生しやすくなる。赤スケールの主体はα−Fe2O3であるが、この赤スケールは微細な粉末状で発生し、鋼材表面に粉を吹いたような状態で発生するため、極めて脆いものである。この赤スケールは酸洗により除去できるが、酸洗後の鋼材は表面凹凸が大きくなり、酸洗による溶接金属の減肉が発生し、割れが生じやすくなる。このため、C含有量は、2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0022】
「Mn:0.5乃至2.0質量%、より好ましくは、Mn:0.7乃至1.5質量%」
Mnは肉盛溶接金属において、強度と靭性を確保するために必要な元素である。この作用を得るためには、溶接材料のMn含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とすることが必要である。一方、C含有量が2.0質量%を超えると、靭性及び溶接性が阻害されるという問題点が生じる。このため、C含有量は、2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0023】
「P:0.03質量%以下に規制」
Pは不純物として結晶粒界に偏析するが、鍛造及び圧延等により鍛伸方向に伸ばされると偏析帯を形成する。この偏析帯にはα−Feが形成され、Cはこの偏析帯から排除される。その結果、Pの偏析帯にはα−Feが帯状に形成され、他の部分はパーライトが帯状に形成される。通常、このようなPの偏析帯はフェライトバンドと呼ばれ、フェライトバンドが形成されると、帯の直角方向の延性が低下する。肉盛溶接金属中のPが0.03質量%を超えると、フェライトバンドによる延性の低下という問題点が生じる。よって、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延が施される機械部品の肉盛溶接に使用される場合においては、Pの添加量は0.03質量%以下に規制することが好ましい。
【0024】
「S:0.02質量%以下に規制」
Sは硫化物系介在物であるMnSを形成して鋼材の熱間加工時に偏析し、鋼材を脆化させる。肉盛溶接金属中のSが0.02質量%を超えると、鋼材が脆化することにより割れやすくなるという問題点が生じる。よって、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延が施される機械部品の肉盛溶接に使用される場合においては、Sの添加量は0.02質量%以下に規制することが好ましい。
【0025】
「Cr:20乃至40質量%、より好ましくは、Cr:24至36質量%」
Crは肉盛溶接金属の耐食性を向上させるために、必須の元素である。また、Crはカーバイド(炭化物)を形成する元素であって、結晶粒内でカーバイドが微細に析出して析出硬化する作用を有する元素であり、これにより、耐摩耗性を向上させる。溶接材料のCr含有量が20質量%未満であると、所望の耐食性が得られない。一方、溶接材料のCr含有量が40質量%を超えると、マルテンサイトが発生しやすくなるという問題点が生じる。このため、溶接材料のCr含有量は、20乃至40質量%、好ましくは、24乃至36質量%以下とする。
【0026】
「Mo:2.0乃至6.0質量%、より好ましくは、Mo:3.5乃至4.5質量%」
Moも肉盛溶接金属の耐食性を向上させる元素である。この作用を得るためには、溶接材料のMo含有量を、2.0質量%以上、好ましくは3.5質量%以上とすることが必要である。一方、溶接材料のMo含有量が6.0質量%を超えると、粒界偏析してFeとSiの酸化物であるファイヤライト(Fe2SiO4)が鋼中に浸潤することを促進するという問題点が生じる。このため、溶接材料のMo含有量は、6.0質量%以下、好ましくは4.5質量%以下とする。
【0027】
「Ni:0.5乃至6.0質量%、より好ましくは、Ni:0.7乃至1.5質量%」
Niも肉盛溶接金属の耐食性を向上させる元素である。この作用を得るためには、溶接材料のNi含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とすることが必要である。一方、Ni含有量が6.0質量%を超えると、オーステナイトが生成されやすくなるという問題点が生じる。このため、Ni含有量は、6.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0028】
「V:1.0乃至5.0質量%、より好ましくは、V:1.5乃至2.5質量%」
Vは肉盛溶接金属において、カーバイドを形成して析出硬化する作用を有する元素であり、Vの添加により、溶接金属の耐摩耗性を向上させる。この作用を得るためには、溶接材料のV含有量を、1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上とする。一方、V含有量が5.0質量%を超えると、VC(バナジウムの炭化物)が結晶粒内に析出して靭性を低下させる。このため、V含有量は、5.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下とする。
【0029】
「W:0.5乃至5.0質量%、より好ましくは、W:0.7乃至1.5質量%」
Wは肉盛溶接金属において、カーバイドを形成する析出硬化型の元素であり、Wの添加により、溶接金属の耐摩耗性を向上させる。この作用を得るためには、溶接材料のW含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とする。一方、W含有量が5.0質量%を超えると、WC(タングステンの炭化物)が結晶粒内に析出して靭性を低下させる。このため、W含有量は、5.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0030】
「残部」
本発明の肉盛溶接材料の残部は、実質的にFeからなり、肉盛溶接金属の健全性を損なわない範囲で、他の成分を含有することができる。即ち、溶接された肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、フェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織となることを妨げない範囲で、肉盛溶接材料は他の成分を含有することができる。肉盛溶接金属の健全性を損なわない他の成分としては、例えば、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Pd、Ag、Sn、Hf、Ta、Pt、Au及びPb等の元素が挙げられ、本発明の効果に加えて、更に他の効果を発現することを目的として添加される。但し、これらの成分の含有量が多いと、マトリックスであるフェライト相の結晶性が低下すると共に、フェライト結晶の周囲がセメンタイト相で覆われた理想的な多結晶組織を形成しにくくなる。そのため、上記他の成分を含有する場合には、その総量は15質量%以下であることが好ましい。また、本発明の肉盛溶接材料は、上記したように、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延又は熱間加工が施される機械部品の肉盛溶接に使用される場合には、フェライトバンドの生成による延性の低下及びMnSの偏析による鋼材の脆化を防止するために、P及びSの含有量を、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制することが好ましいが、それ以外の用途で使用される機械部品の肉盛溶接に使用される場合においては、肉盛溶接金属の健全性を損なわない不純物として取り扱うことができる。しかし、本発明においては、肉盛溶接材料の残部は、Fe及び不可避的不純物であることが最も望ましい。この不可避的不純物としては、例えばAl及びCa等のように、肉盛溶接材料の製造工程で不可避的に混入される成分が挙げられる。
【0031】
「金属組織」
本発明の溶接材料を使用して肉盛溶接した場合に得られる肉盛金属は、フェライト組織を有する。このフェライト組織は、セメンタイトが周囲をくるんでいる構造を有する。フェライト組織はオーステナイト組織及びマルテンサイト組織に比べて水素を安定に吸蔵しやすいため、酸性雰囲気においても、水素脆化しにくく、割れにくいという効果がある。即ち、フェライト組織の場合は、腐食により水素が発生して鋼材中に取り込まれても、フェライト中に水素が局所的に集積しないので、酸性雰囲気で耐水素脆性に有利である。また、セメンタイトがフェライトをくるんでいるので、割れにくいという利点がある。
【0032】
また、特許文献1に記載されている従来の肉盛溶接材料により肉盛溶接された溶接金属は、針状炭化物組織であるが、この針状炭化物組織の場合は、針状炭化物と地鉄との界面に水素が集結しやすい。このような水素が存在すると、割れやすく、特に、一方向に割れやすいという問題点がある。この針状炭化物組織に比して、本発明のようなフェライト組織の場合には、残留応力が少なく、組織が安定しているため、割れにくいという利点がある。
【0033】
「母材材料」
粉砕器及び反応塔等の容器を構成する材料、即ち、本発明の肉盛溶接材料を使用して肉盛溶接すべき部材の材料としては、例えば、種々のステンレス鋼、S25C鋼、SC49鋼、SS400鋼等がある。母材の希釈を抑制するためには、母材の材料も、本発明の肉盛溶接材料と同様の組成を有するものが好ましいが、母材には主に強度と靭性、肉盛溶接材料には主に硬度と耐摩耗性が求められることから、母材と肉盛溶接材料とを同様の成分組成にすることは現実には困難である。そこで、母材を垂直にした状態にし、可及的に肉盛溶接した材料の上に順次肉盛溶接を行うことが望ましい。これにより、重力及び対流による母材元素(主にFe)と肉盛溶接材料との相互拡散を一定程度抑制することができる。本発明では、肉盛溶接材料と肉盛溶接金属における溶接された機械部品との組成ずれは、Cr、Mo、Niの各濃度が若干希釈される程度であり、それ以外、ほとんど組成ずれは生じない。
【0034】
本発明の溶接材料を使用して、上述の所望の溶接金属(セメンタイトが周囲をくるんでいるフェライト構造で、Crによる耐食性をもたせた特徴を有する溶接金属)を得るためには、特段通常と異なる溶接条件は必要ではなく、通常の溶接条件で溶接することにより、上述の溶接金属を得ることができる。但し、溶接時に母材を加熱しておくことが望ましく、昇温速度が100〜300℃/h、保持温度が250〜350℃、冷却速度が15〜100℃/hで母材を加熱冷却し、250〜350℃の等温保持の状態で溶接を行うことが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の効果を実証するための実施例及び比較例について説明する。
【0036】
下記表1は、溶接材料の組成を示す。但し、残部はFe又はCo及び不可避的不純物である。なお、実施例2〜7は本発明の請求項1のみを満たす実施例、実施例1は請求項1と共により組成範囲が狭い請求項2も満たす実施例である。
【0037】
【表1】
【0038】
下記表2は、溶接対象の母材として使用した機械構造用炭素鋼(S25C鋼)の化学成分規格を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
溶接条件は以下のとおりである。即ち、表1に示す各種溶接材料を使用して、S25C鋼からなる母材表面上にこの溶接材料を肉盛り溶接し、平均厚さ:約3mmの肉盛り溶接層を形成した。溶接に際し、母材を室温から300℃まで、昇温速度が100℃/hの条件で加熱し、300℃に等温保持した状態で肉盛溶接を行い、溶接終了後は冷却速度が20℃/hの条件で室温まで冷却した。溶接は下向き姿勢で、電流が280A、電圧が30Vの条件で肉盛溶接し、この際の入熱量は2.0kJ/mmであった。
【0041】
下記表3は、上記溶接により得られた肉盛溶接金属の表層部の組成を示す。表層部とは、表面から1mm以内の領域である。肉盛溶接金属に対して、表層部から1mmの領域を機械的に削り取り、この削り取った部分を所定の酸に溶解させ、化学分析により定量分析し、この分析結果を、肉盛溶接金属の成分組成とした。化学分析では、C(炭素)は赤外線吸収法、N(窒素)は不活性ガス溶融法、Siは重量法、その他の元素はICP発光分光分析法を使用して、定量分析を行った。下記表3は、このようにして測定した肉盛溶接金属の定量分析結果である。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例1〜7及び比較例8〜17、20,21の溶接材料はいずれもFe合金であり、その構成元素は同一である。肉盛溶接金属では溶接材料(原材料)に比べて、Cr、Mo、Niの濃度が若干低下する傾向が認められる。これは母材の主構成元素であるFeが肉盛溶接金属部分に拡散し、Cr、Mo、Ni濃度が希釈されたためと考えられる。Cr、Mo、Niの濃度の低下量は約20%程度である。一方、Cr、Mo、Ni以外の元素(C、Si、Mn、P、S、V、W)については、溶接材料(原材料)とほぼ同じ濃度を維持している。
【0044】
比較例18、19の溶接材料はいずれもCo合金であるが、合金成分としてFeが検出される。比較例18,19の溶接材料にはもともとFeは含まれていないが、母材からのFeの拡散により、表3には記載していないが、Feが夫々9.57%、7.98%混入した。これにより、特に、比較例18では、CrとWの濃度低下が認められるが、CrとWの濃度の低下量は約30%程度であり、それほど大きいとはいえない。また、Cr、W以外の元素(C、P、S)については溶接材料(原材料)とほぼ同じ濃度を維持している。なお、比較例19では各含有元素の濃度に大きな変化は見られず、溶接材料と肉盛溶接金属との組成の相違は小さい。比較例20と比較例21の溶接材料はいずれもFe合金である。この場合も、Cr、Moの濃度低下が認められるが、その程度は小さく、Cr、Mo以外の元素(C、Si、Mn、P、S)については、溶接材料(原材料)とほぼ同じ濃度を維持している。以上の結果から、溶接材料と肉盛溶接金属との組成の相違は小さいといえる。
【0045】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、表面硬度を測定した結果について説明する。表面硬度として、ロックウェル硬度及びビッカース硬度を測定した。ロックウェル硬度はJIS G 0202に規定されているロックウェル試験に基づき、頂角120°円錐(先端0.3mm)を肉盛溶接金属表面から60kgfの荷重で押し込み、基準荷重である10kgfに戻した際の基準面からの永久窪みの深さを読み取り、ロックウェル硬度をその計算式により求めた。なお、ロックウェル硬度の算出に当たっては、Cスケールを用いた。ビッカース硬度は、アカシ社製MVK−E型ビッカース硬度試験器を用いて測定した。対面角α=136°の正四角錐ダイヤモンドで作られたピラミッド形の圧子を肉盛溶接金属表面に押し込み、荷重を除いた後に残ったへこみの対角線の長さd(mm)から表面積S(mm2)を算出し、試験荷重と表面積の関係から、所定の計算式によりビッカース硬度を算出した。
【0046】
図1は各種肉盛溶接金属のロックウェル硬度を示す。W濃度又はC濃度が高い比較例18、21は高い硬度を示す。これに対して、本発明の実施例の肉盛溶接金属(実施例1〜7)の硬度は、比較例18,21に比べると低いが、ロックウェル硬度が30以上であり、肉盛溶接金属として問題ないレベルにある。
【0047】
図2は各種肉盛溶接金属のビッカース硬度を示す。W濃度又はC濃度が高い比較例18,21は高い硬度を示す。これに対して、本発明の実施例1〜5の肉盛溶接金属の硬度は、比較例18,21に比べると低いが、ロックウェル硬度が300以上であり、肉盛溶接金属として問題ないレベルにある。また、硬度と靭性はトレードオフの関係にあり、本発明の実施例1〜5は、比較例18,21に比して靭性が高いといえる。
【0048】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、耐摩耗性を評価する試験を行った結果について説明する。耐摩耗性はASTM G 65に規定されている土砂摩耗試験により評価した。土砂摩耗試験装置の概念図を図3に示す。図3に示すように、試験片1にゴム被覆回転ドラム2を摺擦させ、試験片1とゴム被覆回転ドラム2との間にホッパ5から硅砂6を供給する。試験片1のゴム被覆回転ドラム2に対する押圧力は、錘4を自由端に垂下したレバーアーム3により与えた。肉盛溶接金属からなる試験片1を荷重:13.3kgfでゴム被覆回転ドラム2に押圧し、ドラム2を所定回数数まで(6000回転まで)回転させ、2000回転させた後、4000回転させた後及び試験後(6000回転させた後)の試験片1の摩耗減量を測定することにより、耐摩耗性を評価した。
【0049】
図4〜図6は、横軸にドラム2の摺動回転数をとり、縦軸に摩耗減量をとって、各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性の評価結果を示す。図4に示すように、各種肉盛溶接金属のうち、比較例21は最も高い耐摩耗性を示し、ドラム2を6000回転させた後の試験片1の摩耗減量は1g以下であった。一方、図4〜図6に示すように、本発明の実施例1〜5の摩耗減量は、比較例21に次ぐ高い耐摩耗性を示し、ドラムを6000回転させた後の摩耗減量は4g以下であった。これに対して、図4に示すように、比較例18〜20は耐摩耗性が劣る結果となり、ドラム2を6000回転させた後の試料減量は5g以上であった。
【0050】
図5はC濃度のみを変化させた実施例1〜3、6、7及び比較例8の摩耗減量を比較した図である。この図5に示すように、C濃度が高いほど耐摩耗性に劣る(摩耗減量が増加する)という結果が得られている。これはC濃度が高いほど、靭性が低下して、脆化するため、アグレッシブ摩耗が増加するためと考えられる。
【0051】
図6はSi濃度のみを変化させた実施例1,4,比較例9〜11の摩耗減量を比較した図である。この図6に示すように、Si濃度が高いほど耐摩耗性に劣る(摩耗減量が増加する)という結果が得られている。これはC濃度の場合と同様に、Si濃度が高いほど、靭性が低下して、脆化するため、アグレッシブ摩耗が増加するためと考えられる。なお、比較例11及び21は実施例1〜7よりも摩耗減量が少ないが、比較例11はSiが少ないため、現実の使用に適さず、比較例21はCが多すぎるため、同様に実用性がない。
【0052】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、耐食性を評価した。各種肉盛溶接金属から15×15×1.5mmの試験片(クーポン)を機械加工(ワイヤーカット)により採取し、試料とした。塩酸(HCl)と硫酸(H2SO4)のモル濃度比が2:1となるように混合した水溶液(混酸水溶液)をイオン交換水でpH=2.0になるように希釈し、調整したものを試験液とし、80℃の該試験液に試料を24時間浸漬し、試験後の腐食減量を測定することにより、耐食性を評価した。
【0053】
図7及び図8は腐食試験の結果を示す(なお、図7と図8では横軸のスケールが異なる)。試験はn=3で実施し、それぞれの試料の腐食原料から平均腐食速度を求めた。各種肉盛溶接金属に対する耐食性評価の結果、図7に示すように、比較例20,21の試料では、平均腐食速度が著しく大きく、比較例18では平均腐食速度が比較的大きく、耐食性が劣るのに対して、それ以外の試料では平均腐食速度が小さく、良好な耐食性を示した。図8に示すように、実施例1〜7及び比較例8〜17の試料においては、Si濃度が高い比較例9,10の試料と、Mn濃度が高い比較例12の試料と、Mo濃度が低い比較例17の試料では、平均腐食速度は若干増加したが、本発明の実施例1〜7の試料では、平均腐食速度は0.01mm/年(y)以下となり、優れた耐食性を示した。
【0054】
これらの結果を下記表4にまとめて示す。下記表4は、各実施例及び比較例のロックウェル硬度及びビッカース硬度と、平均腐食速度を示す。この表4において、ロックウェル硬度HRcは30以上の場合に○、ビッカース硬度は300以上の場合に○とし、それより低い場合に×とした。この表4に示すように、本発明の実施例1乃至7は、硬さが適度であると共に(全て○)、平均腐食速度がいずれも低いものであった。これに対し、比較例8乃至10、12,17,18,20,21は平均腐食速度が高く、耐食性が劣るものであった。また、比較例15,17はビッカース硬度が低いものであった。
【0055】
【表4】
【0056】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、その断面組織を光学顕微鏡にて観察した結果について説明する。S25C鋼からなる母材上に、平均厚さが約3mmになるように肉盛溶接金属層を形成し、この肉盛溶接金属層に対して、母材が一部接合された状態の試験片を機械加工により切り出し、この試験片を樹脂に埋め込み、研磨することにより、肉盛溶接金属層の断面が露出した試料を作成した。この試料を王水にてエッチングした後、肉盛溶接金属層の厚さ方向の中央部分を光学顕微鏡にて倍率:400倍にて観察した。この各種肉盛溶接金属の断面組織を示す光学顕微鏡写真を図9乃至図11に示す。
【0057】
実施例1は20〜40μmの結晶粒径を有する多結晶組織からなり、マトリックスはフェライト相である。多結晶組織の結晶粒界には炭化物(Fe3C:セメンタイト)が観察され、この炭化物はフェライト結晶粒をくるむように存在していることがわかる。実施例1に対してC濃度を増加させた実施例6及び実施例7並びに比較例8では、C濃度の増加に伴い多結晶組織に変化が認められる。C濃度が増加すると、結晶粒界に析出する炭化物(Fe3C:セメンタイト)層の厚みが厚くなるが、実施例7では実施例1と同様の多結晶組織を維持する。しかしながら、比較例8では実施例1に認められる多結晶組織は完全に崩壊することから、フェライト結晶の周囲を炭化物(セメンタイト)がくるんだ状態の多結晶組織とはならず、実施例7が本件発明に規定した金属組織のほぼ限界といえる。
【0058】
実施例2及び3は、実施例1と同様の多結晶組織を有する。マトリックスであるフェライト結晶の粒界には炭化物(Fe3C:セメンタイト)が観察されるが、C濃度が低いために炭化物の量が少なく、フェライト結晶粒を完全にくるむようには存在していない。実施例3は実施例2に比べてこの傾向がより顕著に表れており、実施例3が本発明にて規定した金属組織の限界といえる。
【0059】
実施例4は、実施例1と同様の多結晶組織を有する。実施例1に対してSi濃度を増加させた実施例4、比較例10及び比較例9では、Si濃度の増加に伴い多結晶組織に変化が認められる。Si濃度が増加すると、比較例10及び比較例9のように、結晶粒界に析出する炭化物(Fe3C:セメンタイト)層の厚さが厚くなり、この場合、結晶粒界にSiの酸化物(SiO2)又はSiの複合酸化物(Fe2SiO4)が同時析出している可能性もある。実施例1に対してSi濃度を3.0%まで増加させた比較例9でも、実施例1と同様の多結晶組織を有するが、結晶粒界析出物の凝集が起こり、フェライト結晶粒への包囲性が低下し、結晶粒内にも析出物が認められるようになる。
【0060】
実施例1に対してSi濃度を減少させた比較例11では、実施例1に認められる多結晶組織は完全に崩壊しており、フェライト結晶の周囲を炭化物(セメンタイト)がくるんだ状態の多結晶組織とはならず、比較例11は本件発明にて規定した金属組織の限界を超えているといえる。
【0061】
比較例15は微細で複雑な多結晶組織を有する。これは金属組織のほぼ全域がマルテンサイト相になっていることによる。
【0062】
実施例5は実施例1と同様の(類似の)多結晶組織を有する。実施例5のマトリックスはフェライト相である。多結晶組織の結晶粒界には炭化物(Fe3C:セメンタイト)が認められ、この炭化物はフェライト結晶粒をくるむように存在していることがわかる。比較例18,19はデンドライト組織を有する多結晶組織をとっている。この金属組織はほぼ全域がオーステナイト相になっている。比較例20は金属組織のほぼ全域がマルテンサイト相になっている。比較例20の金属組織の中で白く見える部分は炭化物(Fe3C:セメンタイト)である。また、比較例21はフェライト相、マルテンサイト相、及び炭化物の3相が混合した複雑な多結晶組織を有する。このように、比較例18,19,20及び21では、フェライト結晶の周囲を炭化物(セメンタイト)がくるんだ状態の多結晶組織とはなっていない。なお、比較例14では、溶接材料のCr含有量が50質量%であって40質量%を越えており、マルテンサイトが発生しやすいため、マトリックスをフェライト相とすることは困難である。比較例13はMn含有量が低いため、肉盛溶接金属の強度及び靭性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
このように、本発明の組成を満たす肉盛溶接金属は、フェライト結晶粒が炭化物(セメンタイト)でくるまれたような金属組織を有する。それゆえ、本発明の組成を満たす肉盛溶接金属は、酸性の物を処理する粉砕器や反応塔や各種機械装置等のように、耐食性及び耐摩耗性が優れていることが要求される用途に好適であり且つその用途に対する実用性がある。
【符号の説明】
【0064】
1:試験片、2,ゴム被覆回転ドラム、3:レバーアーム、4:錘、5:ホッパ、6:硅砂
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性の土壌から出土した物の粉砕器及び反応塔等のように、耐食性及び耐摩耗性が優れていることが要求される用途に好適の肉盛溶接材料及び肉盛溶接金属が溶接された機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
粉砕器及び反応塔等のような処理装置において、処理の対象物中に、塩酸及び硫酸等の酸が含まれていたり、処理中に、処理対象物から酸が副次的に出てくることがある。この処理装置の処理対象物を収納する処理容器は通常鋼材で成型されており、このような酸が存在すると、容器の内壁が腐食してしまうという問題点がある。また、処理容器の内壁は、処理中の処理物により、損耗しやすいという問題点がある。
【0003】
そこで、この種の処理装置において、処理物が収納される処理容器の内壁には、耐食性及び耐摩耗性が要求される。このような耐食性及び耐摩耗性の向上を目的とする従来の肉盛溶接材料として、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1は、600℃以上の高温で優れた強度、耐酸化性及び耐摩耗性が要求される部材に使用される肉盛溶接材料であって、C:0.5〜3.0%、Si:3.0〜7.0%、Cr:25〜45%、Mn:0〜10%、Ni:0〜13%を含み、且つCr≧−1.6Si+37を満足し、残部がFe及び不可避不純物からなり、母材上に短繊維状の微細針状炭化物により強化された肉盛溶接金属を形成する肉盛溶接材料を開示するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−226778号公報(特許第3343576号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1に開示された従来技術は、肉盛り溶接材料に鋼材(Fe合金)が使用されており、その材料中におけるC、Si、Cuの各成分の濃度が高く、更に、4a〜5a族遷移元素(Ti、Zr、Nb、Ta)を多く含有しているという問題点がある。即ち、特許文献1に開示された従来技術においては、C濃度が0.5〜3.0%と高いことから、破壊靭性に対する耐性が小さく、更に4a〜5a族遷移元素(Ti、Zr、Nb、Ta)を多く含有していることから、硬度が大きすぎるといった問題点があり、このため腐食により脆性破壊を起こしやすいという問題点がある。
【0006】
また、特許文献1に開示された従来技術では、Si濃度が3.0〜7.0%と極めて高いことから、鋼材の製造工程である熱間圧延工程の後に赤スケールを発生しやすく、酸洗により赤スケールを除去したとしても表面品質が悪くなる(表面凹凸が大きくなり、表面ムラが発生する)という問題点がある。この赤スケールは高温(600℃以上)での使用においても発生する可能性があり、この場合は赤スケールの主体であるα−Fe2O3の粉末が被処理物に混入するという問題点も生じる。
【0007】
更に、特許文献1に開示された従来技術では、Cu濃度が0〜7.0%と極めて高いことから、鋼材の製造工程である熱間圧延工程において赤熱脆性が起こりやすく、熱間圧延工程を含む通常の鋼材の製法により鋼材を製造するのが難しく、肉盛溶接材料の製作・供給が難しいという問題がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、酸による腐食環境下で使用される肉盛金属用の溶接材料として、肉盛金属の耐食性及び耐摩耗性が優れ、割れの発生が防止された肉盛溶接材料及び肉盛溶接金属が溶接された機械部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る肉盛溶接材料は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、この肉盛溶接材料の組成として、C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるものに組成範囲を減縮すると、更に好ましい。
【0011】
本発明に係る肉盛溶接材料は、例えば更に、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有する。また、肉盛溶接材料は、例えば更に、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Pd、Ag、Sn、Hf、Ta、Pt、Au及び/又はPbを総量で15質量%以下含有し、母材鋼材の表面上に溶接された際、得られる肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織を有する。
【0012】
本発明に係る肉盛溶接金属が溶接された機械部品は、母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る他の肉盛溶接金属が溶接された機械部品は、母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、例えば前記肉盛溶接金属の表層部は、更に、P:0.03質量%、S:0.02質量%以下に規制した組成を有する。
【0015】
本発明に係る肉盛溶接金属が溶接された機械部品においては、例えば、肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織を有し、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、フェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんだ状態の多結晶組織を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、本発明の溶接材料を使用して肉盛溶接すると、得られる肉盛溶接金属は、セメンタイトが周囲をくるんでいるフェライト構造を有する金属組織となり、また、フェライトマトリックスにはCr、Mo、Niが含まれる。フェライトはオーステナイト及びマルテンサイトに比べて水素脆化に強く、Cr、Mo、Niにより耐食性が向上することから、肉盛溶接金属は、酸性雰囲気においても、水素脆化が抑制され、割れにくく、残留応力が低く安定しているという効果があり、酸に対する耐食性及び耐摩耗性が優れた肉盛溶接金属を得ることができる。また、本発明により、酸に対する耐食性及び耐摩耗性が優れ、かつ硬度と靭性のバランスのとれた機械部品材料として好適な肉盛溶接金属層及び肉盛溶接材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属のロックウェル硬度を示す図である。
【図2】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属のビッカース硬度を示す図である。
【図3】実施例及び比較例の土砂摩耗試験の原理を示す概念図である。
【図4】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性評価結果(摩耗減量)を示すグラフ図である。
【図5】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性評価結果(摩耗減量)を示すグラフ図である。
【図6】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性評価結果(摩耗減量)を示すグラフ図である。
【図7】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐食性評価結果(平均腐食速度)を示すグラフ図である。
【図8】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属に対する耐食性評価結果(平均腐食速度)を示すグラフ図である。
【図9】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属層の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【図10】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属層の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【図11】実施例及び比較例の各種肉盛溶接金属層の断面組織を示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明は、室温から200℃程度の温度範囲で使用される粉砕器及び反応塔のような処理装置に設置された処理物の処理容器であって、処理の対象物中に、塩酸及び硫酸等の酸が含まれていて、pHが中性〜4.2程度の酸性の腐食環境下で使用される収納容器に使用するのに好適の肉盛金属用の溶接材料である。この本発明の溶接材料を使用して前記収納容器の内壁に肉盛金属を形成することにより、この収納容器の耐食性及び耐摩耗性が向上し、寿命を延長させることができる。なお、本発明においては、得られた溶接金属の金属組織は、フェライト相である。
【0019】
以下、本発明の肉盛溶接材料の成分添加理由及び組成限定理由について説明する。
【0020】
「C:0.2乃至1.5質量%、より好ましくは、C:0.6乃至0.8質量%」
肉盛溶接金属の引張強度と伸びのバランスを保つために、溶接材料のC含有量は、0.2乃至1.5質量%とする。C含有量が0.8質量%を超えると、ハイテンという過共析鋼となり、靭性が低下して、加工しにくくなる。一方,C量が多いほど、上述のごとく、靭性が低下して脆化するため、アグレッシブ摩耗が増加する。このため、耐摩耗性は他の元素の添加で確保し、肉盛溶接金属としてのバランスをとるために、肉盛溶接材料のC含有量は0.2乃至1.5質量%、より好ましくは、C含有量は、0.6乃至0.8質量%とする。
【0021】
「Si:0.5乃至2.0質量%、より好ましくは、Si:0.7乃至1.5質量%」
Siは肉盛溶接金属の引張強度を向上させる元素である。この作用を得るためには、溶接材料のSi含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とすることが必要である。一方、Si含有量が2.0質量%を超えると、赤スケール(赤錆)が発生しやすくなる。赤スケールの主体はα−Fe2O3であるが、この赤スケールは微細な粉末状で発生し、鋼材表面に粉を吹いたような状態で発生するため、極めて脆いものである。この赤スケールは酸洗により除去できるが、酸洗後の鋼材は表面凹凸が大きくなり、酸洗による溶接金属の減肉が発生し、割れが生じやすくなる。このため、C含有量は、2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0022】
「Mn:0.5乃至2.0質量%、より好ましくは、Mn:0.7乃至1.5質量%」
Mnは肉盛溶接金属において、強度と靭性を確保するために必要な元素である。この作用を得るためには、溶接材料のMn含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とすることが必要である。一方、C含有量が2.0質量%を超えると、靭性及び溶接性が阻害されるという問題点が生じる。このため、C含有量は、2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0023】
「P:0.03質量%以下に規制」
Pは不純物として結晶粒界に偏析するが、鍛造及び圧延等により鍛伸方向に伸ばされると偏析帯を形成する。この偏析帯にはα−Feが形成され、Cはこの偏析帯から排除される。その結果、Pの偏析帯にはα−Feが帯状に形成され、他の部分はパーライトが帯状に形成される。通常、このようなPの偏析帯はフェライトバンドと呼ばれ、フェライトバンドが形成されると、帯の直角方向の延性が低下する。肉盛溶接金属中のPが0.03質量%を超えると、フェライトバンドによる延性の低下という問題点が生じる。よって、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延が施される機械部品の肉盛溶接に使用される場合においては、Pの添加量は0.03質量%以下に規制することが好ましい。
【0024】
「S:0.02質量%以下に規制」
Sは硫化物系介在物であるMnSを形成して鋼材の熱間加工時に偏析し、鋼材を脆化させる。肉盛溶接金属中のSが0.02質量%を超えると、鋼材が脆化することにより割れやすくなるという問題点が生じる。よって、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延が施される機械部品の肉盛溶接に使用される場合においては、Sの添加量は0.02質量%以下に規制することが好ましい。
【0025】
「Cr:20乃至40質量%、より好ましくは、Cr:24至36質量%」
Crは肉盛溶接金属の耐食性を向上させるために、必須の元素である。また、Crはカーバイド(炭化物)を形成する元素であって、結晶粒内でカーバイドが微細に析出して析出硬化する作用を有する元素であり、これにより、耐摩耗性を向上させる。溶接材料のCr含有量が20質量%未満であると、所望の耐食性が得られない。一方、溶接材料のCr含有量が40質量%を超えると、マルテンサイトが発生しやすくなるという問題点が生じる。このため、溶接材料のCr含有量は、20乃至40質量%、好ましくは、24乃至36質量%以下とする。
【0026】
「Mo:2.0乃至6.0質量%、より好ましくは、Mo:3.5乃至4.5質量%」
Moも肉盛溶接金属の耐食性を向上させる元素である。この作用を得るためには、溶接材料のMo含有量を、2.0質量%以上、好ましくは3.5質量%以上とすることが必要である。一方、溶接材料のMo含有量が6.0質量%を超えると、粒界偏析してFeとSiの酸化物であるファイヤライト(Fe2SiO4)が鋼中に浸潤することを促進するという問題点が生じる。このため、溶接材料のMo含有量は、6.0質量%以下、好ましくは4.5質量%以下とする。
【0027】
「Ni:0.5乃至6.0質量%、より好ましくは、Ni:0.7乃至1.5質量%」
Niも肉盛溶接金属の耐食性を向上させる元素である。この作用を得るためには、溶接材料のNi含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とすることが必要である。一方、Ni含有量が6.0質量%を超えると、オーステナイトが生成されやすくなるという問題点が生じる。このため、Ni含有量は、6.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0028】
「V:1.0乃至5.0質量%、より好ましくは、V:1.5乃至2.5質量%」
Vは肉盛溶接金属において、カーバイドを形成して析出硬化する作用を有する元素であり、Vの添加により、溶接金属の耐摩耗性を向上させる。この作用を得るためには、溶接材料のV含有量を、1.0質量%以上、好ましくは1.5質量%以上とする。一方、V含有量が5.0質量%を超えると、VC(バナジウムの炭化物)が結晶粒内に析出して靭性を低下させる。このため、V含有量は、5.0質量%以下、好ましくは2.5質量%以下とする。
【0029】
「W:0.5乃至5.0質量%、より好ましくは、W:0.7乃至1.5質量%」
Wは肉盛溶接金属において、カーバイドを形成する析出硬化型の元素であり、Wの添加により、溶接金属の耐摩耗性を向上させる。この作用を得るためには、溶接材料のW含有量を、0.5質量%以上、好ましくは0.7質量%以上とする。一方、W含有量が5.0質量%を超えると、WC(タングステンの炭化物)が結晶粒内に析出して靭性を低下させる。このため、W含有量は、5.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0030】
「残部」
本発明の肉盛溶接材料の残部は、実質的にFeからなり、肉盛溶接金属の健全性を損なわない範囲で、他の成分を含有することができる。即ち、溶接された肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、フェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織となることを妨げない範囲で、肉盛溶接材料は他の成分を含有することができる。肉盛溶接金属の健全性を損なわない他の成分としては、例えば、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Pd、Ag、Sn、Hf、Ta、Pt、Au及びPb等の元素が挙げられ、本発明の効果に加えて、更に他の効果を発現することを目的として添加される。但し、これらの成分の含有量が多いと、マトリックスであるフェライト相の結晶性が低下すると共に、フェライト結晶の周囲がセメンタイト相で覆われた理想的な多結晶組織を形成しにくくなる。そのため、上記他の成分を含有する場合には、その総量は15質量%以下であることが好ましい。また、本発明の肉盛溶接材料は、上記したように、鋼材を母材とし、鍛造及び圧延又は熱間加工が施される機械部品の肉盛溶接に使用される場合には、フェライトバンドの生成による延性の低下及びMnSの偏析による鋼材の脆化を防止するために、P及びSの含有量を、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制することが好ましいが、それ以外の用途で使用される機械部品の肉盛溶接に使用される場合においては、肉盛溶接金属の健全性を損なわない不純物として取り扱うことができる。しかし、本発明においては、肉盛溶接材料の残部は、Fe及び不可避的不純物であることが最も望ましい。この不可避的不純物としては、例えばAl及びCa等のように、肉盛溶接材料の製造工程で不可避的に混入される成分が挙げられる。
【0031】
「金属組織」
本発明の溶接材料を使用して肉盛溶接した場合に得られる肉盛金属は、フェライト組織を有する。このフェライト組織は、セメンタイトが周囲をくるんでいる構造を有する。フェライト組織はオーステナイト組織及びマルテンサイト組織に比べて水素を安定に吸蔵しやすいため、酸性雰囲気においても、水素脆化しにくく、割れにくいという効果がある。即ち、フェライト組織の場合は、腐食により水素が発生して鋼材中に取り込まれても、フェライト中に水素が局所的に集積しないので、酸性雰囲気で耐水素脆性に有利である。また、セメンタイトがフェライトをくるんでいるので、割れにくいという利点がある。
【0032】
また、特許文献1に記載されている従来の肉盛溶接材料により肉盛溶接された溶接金属は、針状炭化物組織であるが、この針状炭化物組織の場合は、針状炭化物と地鉄との界面に水素が集結しやすい。このような水素が存在すると、割れやすく、特に、一方向に割れやすいという問題点がある。この針状炭化物組織に比して、本発明のようなフェライト組織の場合には、残留応力が少なく、組織が安定しているため、割れにくいという利点がある。
【0033】
「母材材料」
粉砕器及び反応塔等の容器を構成する材料、即ち、本発明の肉盛溶接材料を使用して肉盛溶接すべき部材の材料としては、例えば、種々のステンレス鋼、S25C鋼、SC49鋼、SS400鋼等がある。母材の希釈を抑制するためには、母材の材料も、本発明の肉盛溶接材料と同様の組成を有するものが好ましいが、母材には主に強度と靭性、肉盛溶接材料には主に硬度と耐摩耗性が求められることから、母材と肉盛溶接材料とを同様の成分組成にすることは現実には困難である。そこで、母材を垂直にした状態にし、可及的に肉盛溶接した材料の上に順次肉盛溶接を行うことが望ましい。これにより、重力及び対流による母材元素(主にFe)と肉盛溶接材料との相互拡散を一定程度抑制することができる。本発明では、肉盛溶接材料と肉盛溶接金属における溶接された機械部品との組成ずれは、Cr、Mo、Niの各濃度が若干希釈される程度であり、それ以外、ほとんど組成ずれは生じない。
【0034】
本発明の溶接材料を使用して、上述の所望の溶接金属(セメンタイトが周囲をくるんでいるフェライト構造で、Crによる耐食性をもたせた特徴を有する溶接金属)を得るためには、特段通常と異なる溶接条件は必要ではなく、通常の溶接条件で溶接することにより、上述の溶接金属を得ることができる。但し、溶接時に母材を加熱しておくことが望ましく、昇温速度が100〜300℃/h、保持温度が250〜350℃、冷却速度が15〜100℃/hで母材を加熱冷却し、250〜350℃の等温保持の状態で溶接を行うことが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の効果を実証するための実施例及び比較例について説明する。
【0036】
下記表1は、溶接材料の組成を示す。但し、残部はFe又はCo及び不可避的不純物である。なお、実施例2〜7は本発明の請求項1のみを満たす実施例、実施例1は請求項1と共により組成範囲が狭い請求項2も満たす実施例である。
【0037】
【表1】
【0038】
下記表2は、溶接対象の母材として使用した機械構造用炭素鋼(S25C鋼)の化学成分規格を示す。
【0039】
【表2】
【0040】
溶接条件は以下のとおりである。即ち、表1に示す各種溶接材料を使用して、S25C鋼からなる母材表面上にこの溶接材料を肉盛り溶接し、平均厚さ:約3mmの肉盛り溶接層を形成した。溶接に際し、母材を室温から300℃まで、昇温速度が100℃/hの条件で加熱し、300℃に等温保持した状態で肉盛溶接を行い、溶接終了後は冷却速度が20℃/hの条件で室温まで冷却した。溶接は下向き姿勢で、電流が280A、電圧が30Vの条件で肉盛溶接し、この際の入熱量は2.0kJ/mmであった。
【0041】
下記表3は、上記溶接により得られた肉盛溶接金属の表層部の組成を示す。表層部とは、表面から1mm以内の領域である。肉盛溶接金属に対して、表層部から1mmの領域を機械的に削り取り、この削り取った部分を所定の酸に溶解させ、化学分析により定量分析し、この分析結果を、肉盛溶接金属の成分組成とした。化学分析では、C(炭素)は赤外線吸収法、N(窒素)は不活性ガス溶融法、Siは重量法、その他の元素はICP発光分光分析法を使用して、定量分析を行った。下記表3は、このようにして測定した肉盛溶接金属の定量分析結果である。
【0042】
【表3】
【0043】
実施例1〜7及び比較例8〜17、20,21の溶接材料はいずれもFe合金であり、その構成元素は同一である。肉盛溶接金属では溶接材料(原材料)に比べて、Cr、Mo、Niの濃度が若干低下する傾向が認められる。これは母材の主構成元素であるFeが肉盛溶接金属部分に拡散し、Cr、Mo、Ni濃度が希釈されたためと考えられる。Cr、Mo、Niの濃度の低下量は約20%程度である。一方、Cr、Mo、Ni以外の元素(C、Si、Mn、P、S、V、W)については、溶接材料(原材料)とほぼ同じ濃度を維持している。
【0044】
比較例18、19の溶接材料はいずれもCo合金であるが、合金成分としてFeが検出される。比較例18,19の溶接材料にはもともとFeは含まれていないが、母材からのFeの拡散により、表3には記載していないが、Feが夫々9.57%、7.98%混入した。これにより、特に、比較例18では、CrとWの濃度低下が認められるが、CrとWの濃度の低下量は約30%程度であり、それほど大きいとはいえない。また、Cr、W以外の元素(C、P、S)については溶接材料(原材料)とほぼ同じ濃度を維持している。なお、比較例19では各含有元素の濃度に大きな変化は見られず、溶接材料と肉盛溶接金属との組成の相違は小さい。比較例20と比較例21の溶接材料はいずれもFe合金である。この場合も、Cr、Moの濃度低下が認められるが、その程度は小さく、Cr、Mo以外の元素(C、Si、Mn、P、S)については、溶接材料(原材料)とほぼ同じ濃度を維持している。以上の結果から、溶接材料と肉盛溶接金属との組成の相違は小さいといえる。
【0045】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、表面硬度を測定した結果について説明する。表面硬度として、ロックウェル硬度及びビッカース硬度を測定した。ロックウェル硬度はJIS G 0202に規定されているロックウェル試験に基づき、頂角120°円錐(先端0.3mm)を肉盛溶接金属表面から60kgfの荷重で押し込み、基準荷重である10kgfに戻した際の基準面からの永久窪みの深さを読み取り、ロックウェル硬度をその計算式により求めた。なお、ロックウェル硬度の算出に当たっては、Cスケールを用いた。ビッカース硬度は、アカシ社製MVK−E型ビッカース硬度試験器を用いて測定した。対面角α=136°の正四角錐ダイヤモンドで作られたピラミッド形の圧子を肉盛溶接金属表面に押し込み、荷重を除いた後に残ったへこみの対角線の長さd(mm)から表面積S(mm2)を算出し、試験荷重と表面積の関係から、所定の計算式によりビッカース硬度を算出した。
【0046】
図1は各種肉盛溶接金属のロックウェル硬度を示す。W濃度又はC濃度が高い比較例18、21は高い硬度を示す。これに対して、本発明の実施例の肉盛溶接金属(実施例1〜7)の硬度は、比較例18,21に比べると低いが、ロックウェル硬度が30以上であり、肉盛溶接金属として問題ないレベルにある。
【0047】
図2は各種肉盛溶接金属のビッカース硬度を示す。W濃度又はC濃度が高い比較例18,21は高い硬度を示す。これに対して、本発明の実施例1〜5の肉盛溶接金属の硬度は、比較例18,21に比べると低いが、ロックウェル硬度が300以上であり、肉盛溶接金属として問題ないレベルにある。また、硬度と靭性はトレードオフの関係にあり、本発明の実施例1〜5は、比較例18,21に比して靭性が高いといえる。
【0048】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、耐摩耗性を評価する試験を行った結果について説明する。耐摩耗性はASTM G 65に規定されている土砂摩耗試験により評価した。土砂摩耗試験装置の概念図を図3に示す。図3に示すように、試験片1にゴム被覆回転ドラム2を摺擦させ、試験片1とゴム被覆回転ドラム2との間にホッパ5から硅砂6を供給する。試験片1のゴム被覆回転ドラム2に対する押圧力は、錘4を自由端に垂下したレバーアーム3により与えた。肉盛溶接金属からなる試験片1を荷重:13.3kgfでゴム被覆回転ドラム2に押圧し、ドラム2を所定回数数まで(6000回転まで)回転させ、2000回転させた後、4000回転させた後及び試験後(6000回転させた後)の試験片1の摩耗減量を測定することにより、耐摩耗性を評価した。
【0049】
図4〜図6は、横軸にドラム2の摺動回転数をとり、縦軸に摩耗減量をとって、各種肉盛溶接金属に対する耐摩耗性の評価結果を示す。図4に示すように、各種肉盛溶接金属のうち、比較例21は最も高い耐摩耗性を示し、ドラム2を6000回転させた後の試験片1の摩耗減量は1g以下であった。一方、図4〜図6に示すように、本発明の実施例1〜5の摩耗減量は、比較例21に次ぐ高い耐摩耗性を示し、ドラムを6000回転させた後の摩耗減量は4g以下であった。これに対して、図4に示すように、比較例18〜20は耐摩耗性が劣る結果となり、ドラム2を6000回転させた後の試料減量は5g以上であった。
【0050】
図5はC濃度のみを変化させた実施例1〜3、6、7及び比較例8の摩耗減量を比較した図である。この図5に示すように、C濃度が高いほど耐摩耗性に劣る(摩耗減量が増加する)という結果が得られている。これはC濃度が高いほど、靭性が低下して、脆化するため、アグレッシブ摩耗が増加するためと考えられる。
【0051】
図6はSi濃度のみを変化させた実施例1,4,比較例9〜11の摩耗減量を比較した図である。この図6に示すように、Si濃度が高いほど耐摩耗性に劣る(摩耗減量が増加する)という結果が得られている。これはC濃度の場合と同様に、Si濃度が高いほど、靭性が低下して、脆化するため、アグレッシブ摩耗が増加するためと考えられる。なお、比較例11及び21は実施例1〜7よりも摩耗減量が少ないが、比較例11はSiが少ないため、現実の使用に適さず、比較例21はCが多すぎるため、同様に実用性がない。
【0052】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、耐食性を評価した。各種肉盛溶接金属から15×15×1.5mmの試験片(クーポン)を機械加工(ワイヤーカット)により採取し、試料とした。塩酸(HCl)と硫酸(H2SO4)のモル濃度比が2:1となるように混合した水溶液(混酸水溶液)をイオン交換水でpH=2.0になるように希釈し、調整したものを試験液とし、80℃の該試験液に試料を24時間浸漬し、試験後の腐食減量を測定することにより、耐食性を評価した。
【0053】
図7及び図8は腐食試験の結果を示す(なお、図7と図8では横軸のスケールが異なる)。試験はn=3で実施し、それぞれの試料の腐食原料から平均腐食速度を求めた。各種肉盛溶接金属に対する耐食性評価の結果、図7に示すように、比較例20,21の試料では、平均腐食速度が著しく大きく、比較例18では平均腐食速度が比較的大きく、耐食性が劣るのに対して、それ以外の試料では平均腐食速度が小さく、良好な耐食性を示した。図8に示すように、実施例1〜7及び比較例8〜17の試料においては、Si濃度が高い比較例9,10の試料と、Mn濃度が高い比較例12の試料と、Mo濃度が低い比較例17の試料では、平均腐食速度は若干増加したが、本発明の実施例1〜7の試料では、平均腐食速度は0.01mm/年(y)以下となり、優れた耐食性を示した。
【0054】
これらの結果を下記表4にまとめて示す。下記表4は、各実施例及び比較例のロックウェル硬度及びビッカース硬度と、平均腐食速度を示す。この表4において、ロックウェル硬度HRcは30以上の場合に○、ビッカース硬度は300以上の場合に○とし、それより低い場合に×とした。この表4に示すように、本発明の実施例1乃至7は、硬さが適度であると共に(全て○)、平均腐食速度がいずれも低いものであった。これに対し、比較例8乃至10、12,17,18,20,21は平均腐食速度が高く、耐食性が劣るものであった。また、比較例15,17はビッカース硬度が低いものであった。
【0055】
【表4】
【0056】
次に、表3に示す各種肉盛溶接金属に対して、その断面組織を光学顕微鏡にて観察した結果について説明する。S25C鋼からなる母材上に、平均厚さが約3mmになるように肉盛溶接金属層を形成し、この肉盛溶接金属層に対して、母材が一部接合された状態の試験片を機械加工により切り出し、この試験片を樹脂に埋め込み、研磨することにより、肉盛溶接金属層の断面が露出した試料を作成した。この試料を王水にてエッチングした後、肉盛溶接金属層の厚さ方向の中央部分を光学顕微鏡にて倍率:400倍にて観察した。この各種肉盛溶接金属の断面組織を示す光学顕微鏡写真を図9乃至図11に示す。
【0057】
実施例1は20〜40μmの結晶粒径を有する多結晶組織からなり、マトリックスはフェライト相である。多結晶組織の結晶粒界には炭化物(Fe3C:セメンタイト)が観察され、この炭化物はフェライト結晶粒をくるむように存在していることがわかる。実施例1に対してC濃度を増加させた実施例6及び実施例7並びに比較例8では、C濃度の増加に伴い多結晶組織に変化が認められる。C濃度が増加すると、結晶粒界に析出する炭化物(Fe3C:セメンタイト)層の厚みが厚くなるが、実施例7では実施例1と同様の多結晶組織を維持する。しかしながら、比較例8では実施例1に認められる多結晶組織は完全に崩壊することから、フェライト結晶の周囲を炭化物(セメンタイト)がくるんだ状態の多結晶組織とはならず、実施例7が本件発明に規定した金属組織のほぼ限界といえる。
【0058】
実施例2及び3は、実施例1と同様の多結晶組織を有する。マトリックスであるフェライト結晶の粒界には炭化物(Fe3C:セメンタイト)が観察されるが、C濃度が低いために炭化物の量が少なく、フェライト結晶粒を完全にくるむようには存在していない。実施例3は実施例2に比べてこの傾向がより顕著に表れており、実施例3が本発明にて規定した金属組織の限界といえる。
【0059】
実施例4は、実施例1と同様の多結晶組織を有する。実施例1に対してSi濃度を増加させた実施例4、比較例10及び比較例9では、Si濃度の増加に伴い多結晶組織に変化が認められる。Si濃度が増加すると、比較例10及び比較例9のように、結晶粒界に析出する炭化物(Fe3C:セメンタイト)層の厚さが厚くなり、この場合、結晶粒界にSiの酸化物(SiO2)又はSiの複合酸化物(Fe2SiO4)が同時析出している可能性もある。実施例1に対してSi濃度を3.0%まで増加させた比較例9でも、実施例1と同様の多結晶組織を有するが、結晶粒界析出物の凝集が起こり、フェライト結晶粒への包囲性が低下し、結晶粒内にも析出物が認められるようになる。
【0060】
実施例1に対してSi濃度を減少させた比較例11では、実施例1に認められる多結晶組織は完全に崩壊しており、フェライト結晶の周囲を炭化物(セメンタイト)がくるんだ状態の多結晶組織とはならず、比較例11は本件発明にて規定した金属組織の限界を超えているといえる。
【0061】
比較例15は微細で複雑な多結晶組織を有する。これは金属組織のほぼ全域がマルテンサイト相になっていることによる。
【0062】
実施例5は実施例1と同様の(類似の)多結晶組織を有する。実施例5のマトリックスはフェライト相である。多結晶組織の結晶粒界には炭化物(Fe3C:セメンタイト)が認められ、この炭化物はフェライト結晶粒をくるむように存在していることがわかる。比較例18,19はデンドライト組織を有する多結晶組織をとっている。この金属組織はほぼ全域がオーステナイト相になっている。比較例20は金属組織のほぼ全域がマルテンサイト相になっている。比較例20の金属組織の中で白く見える部分は炭化物(Fe3C:セメンタイト)である。また、比較例21はフェライト相、マルテンサイト相、及び炭化物の3相が混合した複雑な多結晶組織を有する。このように、比較例18,19,20及び21では、フェライト結晶の周囲を炭化物(セメンタイト)がくるんだ状態の多結晶組織とはなっていない。なお、比較例14では、溶接材料のCr含有量が50質量%であって40質量%を越えており、マルテンサイトが発生しやすいため、マトリックスをフェライト相とすることは困難である。比較例13はMn含有量が低いため、肉盛溶接金属の強度及び靭性が低かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
このように、本発明の組成を満たす肉盛溶接金属は、フェライト結晶粒が炭化物(セメンタイト)でくるまれたような金属組織を有する。それゆえ、本発明の組成を満たす肉盛溶接金属は、酸性の物を処理する粉砕器や反応塔や各種機械装置等のように、耐食性及び耐摩耗性が優れていることが要求される用途に好適であり且つその用途に対する実用性がある。
【符号の説明】
【0064】
1:試験片、2,ゴム被覆回転ドラム、3:レバーアーム、4:錘、5:ホッパ、6:硅砂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする肉盛溶接材料。
【請求項2】
C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする肉盛溶接材料。
【請求項3】
更に、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の肉盛溶接材料。
【請求項4】
更に、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Pd、Ag、Sn、Hf、Ta、Pt、Au及び/又はPbを総量で15質量%以下含有し、母材鋼材の表面上に溶接された際、得られる肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の肉盛溶接材料。
【請求項5】
母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項6】
母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項7】
前記肉盛溶接金属の表層部は、更に、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項8】
前記肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織を有することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項1】
C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする肉盛溶接材料。
【請求項2】
C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする肉盛溶接材料。
【請求項3】
更に、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の肉盛溶接材料。
【請求項4】
更に、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Pd、Ag、Sn、Hf、Ta、Pt、Au及び/又はPbを総量で15質量%以下含有し、母材鋼材の表面上に溶接された際、得られる肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の肉盛溶接材料。
【請求項5】
母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.2乃至1.5質量%、Si:0.5乃至2.0質量%、Mn:0.5乃至2.0質量%、Cr:20乃至40質量%、Mo:2.0乃至6.0質量%、Ni:0.5乃至6.0質量%、V:1.0乃至5.0質量%、W:0.5乃至5.0質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項6】
母材鋼材の表面上に、肉盛溶接金属が溶接された機械部品において、前記肉盛溶接金属の表層部は、C:0.6乃至0.8質量%、Si:0.7乃至1.5質量%、Mn:0.7乃至1.5質量%、Cr:24至36質量%、Mo:3.5乃至4.5質量%、Ni:0.7乃至1.5質量%、V:1.5乃至2.5質量%、W:0.7乃至1.5質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項7】
前記肉盛溶接金属の表層部は、更に、P:0.03質量%以下、S:0.02質量%以下に規制した組成を有することを特徴とする請求項5又は6に記載の肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【請求項8】
前記肉盛溶接金属がフェライト相をマトリックスとする多結晶組織であって、このフェライト結晶の結晶粒界にセメンタイトが存在し、このフェライト結晶の周囲をセメンタイトがくるんでいる状態の多結晶組織を有することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の肉盛溶接金属が溶接された機械部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−91225(P2012−91225A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136461(P2011−136461)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】
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