肌温度検出装置及び空気調和装置
【課題】測定対象者との間に衣服等の障害物があっても、測定対象者の肌温度を非接触に検出することのできる肌温度検出装置を提供する。
【解決手段】肌温度検出装置は、測定対象者から放射されるマイクロ波帯の熱雑音を受信し、増幅・検波する受信部として、受信周波数帯域がKaバンド、Kバンド、Xバンド、及びKuバンドの何れかに設定された複数の受信部2a〜2dと、この受信素子2a〜2dの一つを肌温度検出用の受信部として選択する選択スイッチ10を備える。この結果、衣服等の障害物の種類(厚み、材質等)に応じて、肌温度の検出に使用する受信部を選択できるようになり、その選択した受信部を用いて、測定対象者の肌温度(詳しくは皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある位置の温度)を検出することが可能となる。
【解決手段】肌温度検出装置は、測定対象者から放射されるマイクロ波帯の熱雑音を受信し、増幅・検波する受信部として、受信周波数帯域がKaバンド、Kバンド、Xバンド、及びKuバンドの何れかに設定された複数の受信部2a〜2dと、この受信素子2a〜2dの一つを肌温度検出用の受信部として選択する選択スイッチ10を備える。この結果、衣服等の障害物の種類(厚み、材質等)に応じて、肌温度の検出に使用する受信部を選択できるようになり、その選択した受信部を用いて、測定対象者の肌温度(詳しくは皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある位置の温度)を検出することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象者の肌温度を非接触で検出するのに好適な肌温度検出装置及びこの装置を備えた空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の肌温度を検出し、その検出した肌温度から温冷感を推定して、空調空気の温度や送風量を制御する空気調和装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
また、この種の空気調和装置において、肌温度の検出には、熱電対や抵抗温度計等からなる温度センサ、若しくは、サーモグラフィーやサーモパイル等からなる赤外線センサが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194540号公報
【特許文献2】特開2008−241135号公報
【特許文献3】特開2010−159887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように肌温度の検出に利用されるセンサの内、温度センサは、測定対象者の肌に直接接触させる必要があるため、測定対象者に負担を強いることになり、使い勝手が悪い。
【0005】
このため、肌温度の検出には、測定対象者の肌に接触させることなく温度測定を行うことのできる赤外線センサを用いることが望ましい。
しかしながら、赤外線センサは、測定対象者の肌温度を非接触に検出することはできるものの、測定対象者の肌(換言すれば皮膚)から放射(若しくは反射)される赤外線を検出するものであるため、測定対象者との間に衣服等の遮蔽物があると、肌温度を検出することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、測定対象者との間に衣服等の障害物があっても、測定対象者の肌温度を非接触に検出することのできる肌温度検出装置及びこの装置を備えた空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の肌温度検出装置は、
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、増幅・検波する受信手段と、
該受信手段からの出力を、測定対象者の肌温度を表す検出信号として処理する信号処理手段と、
を備え、前記受信手段の受信周波数帯域を、当該受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定してなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の肌温度検出装置において、
前記受信手段の受信周波数帯域は、前記マイクロ波帯のXバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置において、
前記受信手段は、
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信可能で、受信周波数帯域が互いに異なる複数の受信部と、
前記複数の受信部の中から、前記熱雑音の受信に用いる受信部を選択するための選択スイッチと、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
一方、請求項4に記載の空気調和装置は、
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の肌温度検出装置を備え、該肌温度検出装置にて検出された測定対象者の肌温度を一つのパラメータとして、空調空気の温度若しくは送風量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の肌温度検出装置によれば、受信手段が、測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、受信信号を増幅及び検波すると共に、信号処理手段が、受信手段からの出力を、測定対象者の肌温度を表す検出信号として処理する。
【0012】
そして、受信手段の受信周波数帯域は、受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定される。
以下、この理由について説明する。
【0013】
まず、人体からは赤外線だけでなく、マイクロ波帯の熱雑音も放射されており、マイクロ波帯の熱雑音は、赤外線のように衣服等の障害物で遮断されることはない。
このため、肌温度を非接触で検出する際には、従来のような赤外線センサを用いるよりも、本発明のように、マイクロ波帯の熱雑音を受信する受信手段を用いるとよい。
【0014】
一方、マイクロ波帯の熱雑音から肌温度を検出する場合、その検出に用いる熱雑音は、測定対象者の皮膚の内、温度受容体(温覚、冷覚)のある深さ300μm付近の部位(以下、最適部位という)から放射されたものがよい。
【0015】
これは、最適部位に温度変化に敏感な細胞があり、最適部位から放射された熱雑音の信号レベル(換言すれば、最適部位の温度)を測定できれば、測定対象者の温冷感を正確に推定できるからである。
【0016】
しかし、測定対象者から放射される熱雑音は、最適部位から放射された熱雑音だけではないし、測定対象者から放射された全熱雑音の中から、最適部位から放射された熱雑音を抽出するのは困難である。
【0017】
そこで、本願発明者らは、受信手段にて受信される全熱雑音中、最適部位からの熱雑音が含まれる割合が最も高くなる条件を見つけるために、後述の実験を行った。
その結果、受信手段の受信周波数帯域を調整すれば、最適部位からの熱雑音の割合が最も多くなる受信信号を得ることができ、しかも、その受信周波数帯域は、測定対象者の肌と受信手段との間の障害物の種類(特に厚み)によって変化することが分かった。
【0018】
このため、本発明では、その実験結果に基づき、受信手段の受信周波数帯域を、受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定するようにしているのである。
【0019】
従って、本発明の肌温度検出装置によれば、測定対象者の肌温度(詳しくは、皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある最適部位の温度)を、障害物の影響を受けることなく、正確に検出することができるようになる。
【0020】
次に、請求項2に記載の肌温度検出装置においては、受信手段の受信周波数帯域が、マイクロ波帯のXバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定される。
【0021】
これは、上記実験結果から、測定対象者の肌と受信手段との間の障害物(衣服等)が薄いほど、最適受信周波数帯域が高くなり、
a)厚みが0.2mm程度の薄手の衣服の場合、最適周波数帯域は26GHz〜40GHzのKaバンド、
b)厚みが1mm程度の厚手の衣服の場合、最適周波数帯域は18GHz〜26GHzのKバンド、
c)衣服と障害物とを合わせた厚みが5mm程度の障害物の場合、最適周波数帯域は12GHz〜18GHzのKuバンド若しくは8GHz〜12GHzのXバンド、
となることが分かったためである。
【0022】
従って、請求項2に記載の肌温度検出装置によれば、a)〜c)の使用条件に応じて、受信手段の受信周波数帯域を、Xバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定することで、測定対象者の肌温度(詳しくは、皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある最適部位の温度)を良好に検出することができるようになる。
【0023】
次に、請求項3に記載の肌温度検出装置においては、受信手段が、受信周波数帯域が互いに異なる複数の受信部と、その複数の受信部の中から、熱雑音の受信に用いる受信部を選択するための選択スイッチとが設けられている。
【0024】
このため、請求項3に記載の肌温度検出装置によれば、当該装置の使用条件(詳しくは、測定対象者の肌と受信手段との間の障害物の種類(特に厚み))に応じて、選択スイッチを介して熱雑音に用いる受信部を選択することで、測定対象者の肌温度(詳しくは、皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある最適部位の温度)を良好に検出することができるようになる。
【0025】
なお、選択スイッチは、当該装置の使用者が手動で切換可能な手動スイッチにて構成してもよく、或いは、切換信号に従い自動で切換可能な電子スイッチにて構成してもよい。
そして、選択スイッチを電子スイッチにて構成した場合、例えば、検出温度の変化等から当該装置の使用条件(つまり、障害物の種類)を特定して、電子スイッチを自動で切り替える切換制御手段を設けるようにしてもよい。
【0026】
一方、請求項4に記載の空気調和装置によれば、上述した本発明の肌温度検出装置を備え、肌温度検出装置にて検出された測定対象者の肌温度を一つのパラメータとして、空調空気の温度若しくは送風量を制御するように構成される。
【0027】
従って、この空気調和装置によれば、肌温度検出装置にて検出された肌温度から、測定対象者の温冷感を検知して、空調空気の温度や送風量を最適に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態の空気調和装置全体の構成を表す概略構成図である。
【図2】空調制御回路において肌温度の検出信号に基づき実行される空調制御処理を表すフローチャートである。
【図3】図2の空調制御処理による肌温度変化を表すタイムチャートである。
【図4】実験に利用した人体モデルを表す説明図である。
【図5】障害物がないときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図6】薄手の服があるときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図7】厚手の服があるときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図8】厚手の服と他の障害物があるときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図9】図5のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図10】図6のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図11】図7のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図12】図8のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図13】図9〜図12の比率計算に用いた肌温度変化の条件を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気調和装置には、測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、受信信号を増幅及び検波する受信部として、受信周波数帯域がKaバンド、Kバンド、Xバンド、及びKuバンドにそれぞれ設定された4種類の受信部2a〜2d(2b、2c:図示略)が備えられている。
【0030】
これら4種類の受信部2a〜2dからの出力の一つは、選択スイッチ10を介して、測定対象者の肌温度を表す検出信号として選択され、A/D変換回路12に入力される。
A/D変換回路12は、選択スイッチ10を介して入力される検出信号をA/D変換して、マイクロコンピュータからなる空調制御回路14に入力するためのものであり、空調制御回路14は、その入力された検出信号を一つのパラメータとして、空調空気生成・送出部16を制御する。
【0031】
つまり、空調制御回路14は、A/D変換回路12を介して入力される検出信号(肌温度)や、周囲の環境状態(温度、湿度等)を検出する各種環境センサ(図示せず)からの検出信号に基づき、空調空気生成・送出部16に生成させる空調空気の温度や送風量を演算し、その演算結果に従い、空調空気生成・送出部16を駆動制御する。
【0032】
なお、空調空気生成・送出部16は、外気を加熱・冷却するための熱交換器や、周囲の空気を熱交換器に導入し、熱交換器を通過した空調空気を排出させる送風器を備えた周知のものである。
【0033】
受信部2a〜2dは、受信、増幅及び検波する熱雑音の周波数帯域が異なるだけで、その構成要素は同じである。
すなわち、受信部2a〜2dは、それぞれ、測定対象者から放射された上記各周波数帯域(Kaバンド、Kバンド、Xバンド、Kuバンド)の熱雑音を受信する受信素子20と、受信素子20からの受信信号を増幅する入力増幅回路22と、入力増幅回路22にて増幅された受信信号を検波する検波回路24と、検波回路24からの出力(検波信号)を増幅する出力増幅回路26とから構成されている。
【0034】
このため、各受信部2a〜2dからは、上記各周波数帯域(Kaバンド、Kバンド、Xバンド、及びKuバンド)の熱雑音の信号レベルに対応した検波信号(電圧信号)が出力され、空調制御回路14には、選択スイッチ10及びA/D変換回路12を介して、その検波信号の一つが、測定対象者の肌温度を表す検出信号として入力される。
【0035】
選択スイッチ10は、測定対象者等の使用者が手動操作で切り換えるようになっており、その選択スイッチ10の操作部には、上記各受信部2〜8の選択位置毎に、測定対象者と受信素子20との間に存在する障害物(衣服等)の種類を表す文字若しくは図形が記載されている。
【0036】
これは、使用者が、測定対象者と受信素子20との間に存在する障害物(衣服等)の種類に応じて、肌温度の検出に用いる受信部を適性に選択できるようにするためである。
なお、文字や図形で標記する障害物の種類としては、例えば、測定対象者が着用している衣服の厚みや、その衣服とは別に他の障害物が存在するときの障害物の厚み若しくは材質が挙げられる。
【0037】
次に、図2は、空調制御回路14にて肌温度の検出信号に基づき実行される空調制御処理を表すフローチャートである。
この空調制御処理は、空調制御回路14において、他のセンサ信号に基づく空調制御処理と共に繰り返し実行される処理であり、処理が開始されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、A/D変換回路12を介して肌温度検出信号を取り込む。
【0038】
次に、続くS120では、その取り込んだ肌温度検出信号に基づき測定対象者の変化量を求め、その変化量は、予め設定された閾値を超えているか否かを判断する。
そして、S120にて、肌温度変化量は閾値を超えていないと判断すると、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0039】
一方、S120にて、肌温度変化量は閾値を超えたと判断すると、S130に移行して、肌温度は上昇しているか否かを判断する。
そして、S130にて、肌温度は上昇していると判断すると、S140にて、空調空気生成・送出部16に対し空調空気の冷却指令を出力し、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0040】
また、S130にて、肌温度は上昇していない(換言すれば、低下している)と判断すると、S150にて、空調空気生成・送出部16に対し空調空気の加熱指令を出力し、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0041】
このように構成された本実施形態の空気調和装置によれば、測定対象者の衣服や、測定対象者と受信部2a〜2dとの間の障害物の影響を受けることなく、測定対象者の肌温度を検出することができ、しかも、選択スイッチ10を介して、測定対象者と受信部2a〜2dとの間の障害物の種類に応じて、肌温度の検出に用いる受信部を選択することで、肌温度の検出精度を高めることができる。
【0042】
そして、肌温度による空量制御処理では、検出した肌温度の変化に応じて空調空気を冷却・加熱させることから、測定対象者の肌温度が図3に点線で示すように大きく変化するのを防止することができる。
【0043】
つまり、図3は、測定対象者が立っている状態からベッドに寝たときの肌温度変化を表しており、点線は、肌温度による空調制御を実施しないときの肌温度変化を表し、実線は、図2に示した本実施形態の空調制御を実施したときの肌温度変化を表す。
【0044】
この図から明らかなように、肌温度は、定常状態では0.5°C〜1.0°C程度の範囲で揺らいでいる。そして、測定対象者がベッドに寝ると、ベッドに熱を奪われるので、肌温度は、一時的に大きく低下し、その後、体温によるベッドの加熱に伴い、肌温度はベッド温と共に上昇する。
【0045】
このような肌温度の変化に対し、本実施形態では、上記空調制御処理により、肌温度の変化に応じて空量空気を冷却・加熱するので、測定対象者の肌温度変化を抑制して、測定対象者の快適性を向上することができる。
【0046】
次に、本実施形態において、肌温度を検出するための受信部として、受信周波数帯域が互いに異なる4種類の受信部2a〜2dを用意し、選択スイッチ10にて、その内の何れか一つを選択するようにしている理由について、説明する。
【0047】
まず、マイクロ波帯の熱雑音から肌温度を検出する場合、その検出に用いる熱雑音は、測定対象者の皮膚の内、温度受容体(温覚、冷覚)のある深さ300μm付近の部位(最適部位)から放射されたものがよいが、測定対象者から放射された全熱雑音の中から、最適部位から放射された熱雑音を抽出するのは困難である。
【0048】
そこで、受信手段にて受信される全熱雑音中、最適部位からの熱雑音が含まれる割合が最も高くなる条件を見つけるために、図4に示す人体モデルを構築し、以下の実験(シミュレーション)を行った。
【0049】
すなわち、まず、図4に示す人体モデルに対し、1GHz〜100GHzの周波数で実験用に設定した23種類の周波数の平面波を入射し、各周波数の平面波が、人体の皮膚・脂肪・筋肉を通って減衰して行く様子をシミュレーションし、人体の深さ位置毎の電力密度を求めた。
【0050】
なお、この電力密度は、人体モデルから10mm手前の空気中での平面波の電力を1としたとき、空気と皮膚の間、皮膚と脂肪の間、脂肪と筋肉の間、の各境界点で生じる反射を考慮した。
【0051】
その測定結果を、図5に示す。なお、図5において、右上欄に記載の数値は、1GHz〜100GHzの平面波の周波数を表す。
また、皮膚と空気との間に、下記a)〜c)の障害物があることを想定して、上記と同様の測定を行った。
【0052】
a)厚みが0.2mmの薄手の衣服がある場合。
b)厚みが1mmの厚手の衣服がある場合。
c)厚手の衣服と障害物があり、その厚みが5mmである場合。
【0053】
その測定結果を、図6〜図8に示す。
次に、上記各条件下でのシミュレーション結果を利用し、上記周波数毎に、人体モデルから放射される理論上の熱雑音Ttotalと、皮膚表面から300μmの位置(詳しくは250μm〜350μmの位置)から放射される理論上の熱雑音T300 との比を求めた。
【0054】
なお、この演算は、アンテナ(受信素子)等で受信可能な熱雑音(電力)Pは、放射率をe、受信帯域幅をB、皮膚表面からの深さzに対する絶対温度をT(z)、ボルツマン定数をkとすると、次式(1)のように記述できることから、
【0055】
【数1】
【0056】
次式(2)のように、人体モデルから放射される理論上の熱雑音Ttotalと、皮膚表面から300μmの位置から放射される理論上の熱雑音T300 とをそれぞれ求め、その比を求めることにより行った。
【0057】
【数2】
【0058】
また、上記比の演算は、外気の影響により肌温度(皮膚温度)が変化することを考慮し、皮膚温度が一定(36°C)であるときと、図13に丸数字で示す1〜6の条件で皮膚温度が変化するときの、合計7つの条件下で行った。
【0059】
その結果を、図9〜図12に示す。なお、図9〜図12は、図5〜図8のシミュレーション結果に対応する。
そして、図9〜図12の演算結果から、人体から放射される熱雑音において、温度受容体(温覚、冷覚)のある深さ300μm付近の部位(最適部位)から放射される熱雑音の比率が最も多くなる周波数は、衣服等の障害物が厚くなるほど低くなり、
a)薄手の服を想定した場合は、マイクロ波の内でも、Kaバンド(26GHz〜40GHz)で比率が最も高くなり、
b)厚手の服を想定した場合は、Kバンド(18GHz〜26GHz)で比率が最も高くなり、
c)厚手の服と遮蔽物を想定した場合は、Xバンド(8GHz〜12GHz)若しくはKuバンド(12GHz〜18GHz)で比率が最も高くなることがわかった。
【0060】
従って、上記実施形態のように、肌温度を検出するための受信部として、選択スイッチ10を利用して上記4つの受信部2a〜2dの中から任意のものを選択できるようにすれば、使用者は、測定対象者の衣服や障害物の有無に応じて、肌温度を検出するのに最も適した受信部を設定できるようになり、肌温度の検出精度を高め、延いては、空調制御をより最適に実施することができることになる。
【0061】
なお、本実施形態においては、受信部2a〜2d及び選択スイッチが、本発明の受信手段に相当し、A/D変換回路12及び空調制御回路14が、本発明の信号処理手段に相当する。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施形態では、4つの受信部2a〜2dを備えた空気調和装置について説明したが、この受信部の数や、各受信部の受信周波数帯域は、肌温度検出装置としての受信部の使用条件に応じて、適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0063】
2a〜2d…受信部、10…選択スイッチ、12…A/D変換回路、14…空調制御回路、16…空調空気生成・送出部、20…受信素子、22…入力増幅回路、24…検波回路、26…出力増幅回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象者の肌温度を非接触で検出するのに好適な肌温度検出装置及びこの装置を備えた空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の肌温度を検出し、その検出した肌温度から温冷感を推定して、空調空気の温度や送風量を制御する空気調和装置が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
また、この種の空気調和装置において、肌温度の検出には、熱電対や抵抗温度計等からなる温度センサ、若しくは、サーモグラフィーやサーモパイル等からなる赤外線センサが利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194540号公報
【特許文献2】特開2008−241135号公報
【特許文献3】特開2010−159887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように肌温度の検出に利用されるセンサの内、温度センサは、測定対象者の肌に直接接触させる必要があるため、測定対象者に負担を強いることになり、使い勝手が悪い。
【0005】
このため、肌温度の検出には、測定対象者の肌に接触させることなく温度測定を行うことのできる赤外線センサを用いることが望ましい。
しかしながら、赤外線センサは、測定対象者の肌温度を非接触に検出することはできるものの、測定対象者の肌(換言すれば皮膚)から放射(若しくは反射)される赤外線を検出するものであるため、測定対象者との間に衣服等の遮蔽物があると、肌温度を検出することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、測定対象者との間に衣服等の障害物があっても、測定対象者の肌温度を非接触に検出することのできる肌温度検出装置及びこの装置を備えた空気調和装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の肌温度検出装置は、
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、増幅・検波する受信手段と、
該受信手段からの出力を、測定対象者の肌温度を表す検出信号として処理する信号処理手段と、
を備え、前記受信手段の受信周波数帯域を、当該受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定してなることを特徴とする。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の肌温度検出装置において、
前記受信手段の受信周波数帯域は、前記マイクロ波帯のXバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定されていることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置において、
前記受信手段は、
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信可能で、受信周波数帯域が互いに異なる複数の受信部と、
前記複数の受信部の中から、前記熱雑音の受信に用いる受信部を選択するための選択スイッチと、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
一方、請求項4に記載の空気調和装置は、
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の肌温度検出装置を備え、該肌温度検出装置にて検出された測定対象者の肌温度を一つのパラメータとして、空調空気の温度若しくは送風量を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の肌温度検出装置によれば、受信手段が、測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、受信信号を増幅及び検波すると共に、信号処理手段が、受信手段からの出力を、測定対象者の肌温度を表す検出信号として処理する。
【0012】
そして、受信手段の受信周波数帯域は、受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定される。
以下、この理由について説明する。
【0013】
まず、人体からは赤外線だけでなく、マイクロ波帯の熱雑音も放射されており、マイクロ波帯の熱雑音は、赤外線のように衣服等の障害物で遮断されることはない。
このため、肌温度を非接触で検出する際には、従来のような赤外線センサを用いるよりも、本発明のように、マイクロ波帯の熱雑音を受信する受信手段を用いるとよい。
【0014】
一方、マイクロ波帯の熱雑音から肌温度を検出する場合、その検出に用いる熱雑音は、測定対象者の皮膚の内、温度受容体(温覚、冷覚)のある深さ300μm付近の部位(以下、最適部位という)から放射されたものがよい。
【0015】
これは、最適部位に温度変化に敏感な細胞があり、最適部位から放射された熱雑音の信号レベル(換言すれば、最適部位の温度)を測定できれば、測定対象者の温冷感を正確に推定できるからである。
【0016】
しかし、測定対象者から放射される熱雑音は、最適部位から放射された熱雑音だけではないし、測定対象者から放射された全熱雑音の中から、最適部位から放射された熱雑音を抽出するのは困難である。
【0017】
そこで、本願発明者らは、受信手段にて受信される全熱雑音中、最適部位からの熱雑音が含まれる割合が最も高くなる条件を見つけるために、後述の実験を行った。
その結果、受信手段の受信周波数帯域を調整すれば、最適部位からの熱雑音の割合が最も多くなる受信信号を得ることができ、しかも、その受信周波数帯域は、測定対象者の肌と受信手段との間の障害物の種類(特に厚み)によって変化することが分かった。
【0018】
このため、本発明では、その実験結果に基づき、受信手段の受信周波数帯域を、受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定するようにしているのである。
【0019】
従って、本発明の肌温度検出装置によれば、測定対象者の肌温度(詳しくは、皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある最適部位の温度)を、障害物の影響を受けることなく、正確に検出することができるようになる。
【0020】
次に、請求項2に記載の肌温度検出装置においては、受信手段の受信周波数帯域が、マイクロ波帯のXバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定される。
【0021】
これは、上記実験結果から、測定対象者の肌と受信手段との間の障害物(衣服等)が薄いほど、最適受信周波数帯域が高くなり、
a)厚みが0.2mm程度の薄手の衣服の場合、最適周波数帯域は26GHz〜40GHzのKaバンド、
b)厚みが1mm程度の厚手の衣服の場合、最適周波数帯域は18GHz〜26GHzのKバンド、
c)衣服と障害物とを合わせた厚みが5mm程度の障害物の場合、最適周波数帯域は12GHz〜18GHzのKuバンド若しくは8GHz〜12GHzのXバンド、
となることが分かったためである。
【0022】
従って、請求項2に記載の肌温度検出装置によれば、a)〜c)の使用条件に応じて、受信手段の受信周波数帯域を、Xバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定することで、測定対象者の肌温度(詳しくは、皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある最適部位の温度)を良好に検出することができるようになる。
【0023】
次に、請求項3に記載の肌温度検出装置においては、受信手段が、受信周波数帯域が互いに異なる複数の受信部と、その複数の受信部の中から、熱雑音の受信に用いる受信部を選択するための選択スイッチとが設けられている。
【0024】
このため、請求項3に記載の肌温度検出装置によれば、当該装置の使用条件(詳しくは、測定対象者の肌と受信手段との間の障害物の種類(特に厚み))に応じて、選択スイッチを介して熱雑音に用いる受信部を選択することで、測定対象者の肌温度(詳しくは、皮膚の内部で温度受容体(温覚、冷覚)のある最適部位の温度)を良好に検出することができるようになる。
【0025】
なお、選択スイッチは、当該装置の使用者が手動で切換可能な手動スイッチにて構成してもよく、或いは、切換信号に従い自動で切換可能な電子スイッチにて構成してもよい。
そして、選択スイッチを電子スイッチにて構成した場合、例えば、検出温度の変化等から当該装置の使用条件(つまり、障害物の種類)を特定して、電子スイッチを自動で切り替える切換制御手段を設けるようにしてもよい。
【0026】
一方、請求項4に記載の空気調和装置によれば、上述した本発明の肌温度検出装置を備え、肌温度検出装置にて検出された測定対象者の肌温度を一つのパラメータとして、空調空気の温度若しくは送風量を制御するように構成される。
【0027】
従って、この空気調和装置によれば、肌温度検出装置にて検出された肌温度から、測定対象者の温冷感を検知して、空調空気の温度や送風量を最適に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態の空気調和装置全体の構成を表す概略構成図である。
【図2】空調制御回路において肌温度の検出信号に基づき実行される空調制御処理を表すフローチャートである。
【図3】図2の空調制御処理による肌温度変化を表すタイムチャートである。
【図4】実験に利用した人体モデルを表す説明図である。
【図5】障害物がないときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図6】薄手の服があるときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図7】厚手の服があるときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図8】厚手の服と他の障害物があるときに人体モデル内で熱雑音が減衰してゆく様子をシミュレーションした結果を表す説明図である。
【図9】図5のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図10】図6のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図11】図7のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図12】図8のシミュレーション結果に基づく熱雑音の比率計算結果を表す説明図である。
【図13】図9〜図12の比率計算に用いた肌温度変化の条件を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気調和装置には、測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、受信信号を増幅及び検波する受信部として、受信周波数帯域がKaバンド、Kバンド、Xバンド、及びKuバンドにそれぞれ設定された4種類の受信部2a〜2d(2b、2c:図示略)が備えられている。
【0030】
これら4種類の受信部2a〜2dからの出力の一つは、選択スイッチ10を介して、測定対象者の肌温度を表す検出信号として選択され、A/D変換回路12に入力される。
A/D変換回路12は、選択スイッチ10を介して入力される検出信号をA/D変換して、マイクロコンピュータからなる空調制御回路14に入力するためのものであり、空調制御回路14は、その入力された検出信号を一つのパラメータとして、空調空気生成・送出部16を制御する。
【0031】
つまり、空調制御回路14は、A/D変換回路12を介して入力される検出信号(肌温度)や、周囲の環境状態(温度、湿度等)を検出する各種環境センサ(図示せず)からの検出信号に基づき、空調空気生成・送出部16に生成させる空調空気の温度や送風量を演算し、その演算結果に従い、空調空気生成・送出部16を駆動制御する。
【0032】
なお、空調空気生成・送出部16は、外気を加熱・冷却するための熱交換器や、周囲の空気を熱交換器に導入し、熱交換器を通過した空調空気を排出させる送風器を備えた周知のものである。
【0033】
受信部2a〜2dは、受信、増幅及び検波する熱雑音の周波数帯域が異なるだけで、その構成要素は同じである。
すなわち、受信部2a〜2dは、それぞれ、測定対象者から放射された上記各周波数帯域(Kaバンド、Kバンド、Xバンド、Kuバンド)の熱雑音を受信する受信素子20と、受信素子20からの受信信号を増幅する入力増幅回路22と、入力増幅回路22にて増幅された受信信号を検波する検波回路24と、検波回路24からの出力(検波信号)を増幅する出力増幅回路26とから構成されている。
【0034】
このため、各受信部2a〜2dからは、上記各周波数帯域(Kaバンド、Kバンド、Xバンド、及びKuバンド)の熱雑音の信号レベルに対応した検波信号(電圧信号)が出力され、空調制御回路14には、選択スイッチ10及びA/D変換回路12を介して、その検波信号の一つが、測定対象者の肌温度を表す検出信号として入力される。
【0035】
選択スイッチ10は、測定対象者等の使用者が手動操作で切り換えるようになっており、その選択スイッチ10の操作部には、上記各受信部2〜8の選択位置毎に、測定対象者と受信素子20との間に存在する障害物(衣服等)の種類を表す文字若しくは図形が記載されている。
【0036】
これは、使用者が、測定対象者と受信素子20との間に存在する障害物(衣服等)の種類に応じて、肌温度の検出に用いる受信部を適性に選択できるようにするためである。
なお、文字や図形で標記する障害物の種類としては、例えば、測定対象者が着用している衣服の厚みや、その衣服とは別に他の障害物が存在するときの障害物の厚み若しくは材質が挙げられる。
【0037】
次に、図2は、空調制御回路14にて肌温度の検出信号に基づき実行される空調制御処理を表すフローチャートである。
この空調制御処理は、空調制御回路14において、他のセンサ信号に基づく空調制御処理と共に繰り返し実行される処理であり、処理が開始されると、まずS110(Sはステップを表す)にて、A/D変換回路12を介して肌温度検出信号を取り込む。
【0038】
次に、続くS120では、その取り込んだ肌温度検出信号に基づき測定対象者の変化量を求め、その変化量は、予め設定された閾値を超えているか否かを判断する。
そして、S120にて、肌温度変化量は閾値を超えていないと判断すると、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0039】
一方、S120にて、肌温度変化量は閾値を超えたと判断すると、S130に移行して、肌温度は上昇しているか否かを判断する。
そして、S130にて、肌温度は上昇していると判断すると、S140にて、空調空気生成・送出部16に対し空調空気の冷却指令を出力し、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0040】
また、S130にて、肌温度は上昇していない(換言すれば、低下している)と判断すると、S150にて、空調空気生成・送出部16に対し空調空気の加熱指令を出力し、当該空調制御処理を一旦終了する。
【0041】
このように構成された本実施形態の空気調和装置によれば、測定対象者の衣服や、測定対象者と受信部2a〜2dとの間の障害物の影響を受けることなく、測定対象者の肌温度を検出することができ、しかも、選択スイッチ10を介して、測定対象者と受信部2a〜2dとの間の障害物の種類に応じて、肌温度の検出に用いる受信部を選択することで、肌温度の検出精度を高めることができる。
【0042】
そして、肌温度による空量制御処理では、検出した肌温度の変化に応じて空調空気を冷却・加熱させることから、測定対象者の肌温度が図3に点線で示すように大きく変化するのを防止することができる。
【0043】
つまり、図3は、測定対象者が立っている状態からベッドに寝たときの肌温度変化を表しており、点線は、肌温度による空調制御を実施しないときの肌温度変化を表し、実線は、図2に示した本実施形態の空調制御を実施したときの肌温度変化を表す。
【0044】
この図から明らかなように、肌温度は、定常状態では0.5°C〜1.0°C程度の範囲で揺らいでいる。そして、測定対象者がベッドに寝ると、ベッドに熱を奪われるので、肌温度は、一時的に大きく低下し、その後、体温によるベッドの加熱に伴い、肌温度はベッド温と共に上昇する。
【0045】
このような肌温度の変化に対し、本実施形態では、上記空調制御処理により、肌温度の変化に応じて空量空気を冷却・加熱するので、測定対象者の肌温度変化を抑制して、測定対象者の快適性を向上することができる。
【0046】
次に、本実施形態において、肌温度を検出するための受信部として、受信周波数帯域が互いに異なる4種類の受信部2a〜2dを用意し、選択スイッチ10にて、その内の何れか一つを選択するようにしている理由について、説明する。
【0047】
まず、マイクロ波帯の熱雑音から肌温度を検出する場合、その検出に用いる熱雑音は、測定対象者の皮膚の内、温度受容体(温覚、冷覚)のある深さ300μm付近の部位(最適部位)から放射されたものがよいが、測定対象者から放射された全熱雑音の中から、最適部位から放射された熱雑音を抽出するのは困難である。
【0048】
そこで、受信手段にて受信される全熱雑音中、最適部位からの熱雑音が含まれる割合が最も高くなる条件を見つけるために、図4に示す人体モデルを構築し、以下の実験(シミュレーション)を行った。
【0049】
すなわち、まず、図4に示す人体モデルに対し、1GHz〜100GHzの周波数で実験用に設定した23種類の周波数の平面波を入射し、各周波数の平面波が、人体の皮膚・脂肪・筋肉を通って減衰して行く様子をシミュレーションし、人体の深さ位置毎の電力密度を求めた。
【0050】
なお、この電力密度は、人体モデルから10mm手前の空気中での平面波の電力を1としたとき、空気と皮膚の間、皮膚と脂肪の間、脂肪と筋肉の間、の各境界点で生じる反射を考慮した。
【0051】
その測定結果を、図5に示す。なお、図5において、右上欄に記載の数値は、1GHz〜100GHzの平面波の周波数を表す。
また、皮膚と空気との間に、下記a)〜c)の障害物があることを想定して、上記と同様の測定を行った。
【0052】
a)厚みが0.2mmの薄手の衣服がある場合。
b)厚みが1mmの厚手の衣服がある場合。
c)厚手の衣服と障害物があり、その厚みが5mmである場合。
【0053】
その測定結果を、図6〜図8に示す。
次に、上記各条件下でのシミュレーション結果を利用し、上記周波数毎に、人体モデルから放射される理論上の熱雑音Ttotalと、皮膚表面から300μmの位置(詳しくは250μm〜350μmの位置)から放射される理論上の熱雑音T300 との比を求めた。
【0054】
なお、この演算は、アンテナ(受信素子)等で受信可能な熱雑音(電力)Pは、放射率をe、受信帯域幅をB、皮膚表面からの深さzに対する絶対温度をT(z)、ボルツマン定数をkとすると、次式(1)のように記述できることから、
【0055】
【数1】
【0056】
次式(2)のように、人体モデルから放射される理論上の熱雑音Ttotalと、皮膚表面から300μmの位置から放射される理論上の熱雑音T300 とをそれぞれ求め、その比を求めることにより行った。
【0057】
【数2】
【0058】
また、上記比の演算は、外気の影響により肌温度(皮膚温度)が変化することを考慮し、皮膚温度が一定(36°C)であるときと、図13に丸数字で示す1〜6の条件で皮膚温度が変化するときの、合計7つの条件下で行った。
【0059】
その結果を、図9〜図12に示す。なお、図9〜図12は、図5〜図8のシミュレーション結果に対応する。
そして、図9〜図12の演算結果から、人体から放射される熱雑音において、温度受容体(温覚、冷覚)のある深さ300μm付近の部位(最適部位)から放射される熱雑音の比率が最も多くなる周波数は、衣服等の障害物が厚くなるほど低くなり、
a)薄手の服を想定した場合は、マイクロ波の内でも、Kaバンド(26GHz〜40GHz)で比率が最も高くなり、
b)厚手の服を想定した場合は、Kバンド(18GHz〜26GHz)で比率が最も高くなり、
c)厚手の服と遮蔽物を想定した場合は、Xバンド(8GHz〜12GHz)若しくはKuバンド(12GHz〜18GHz)で比率が最も高くなることがわかった。
【0060】
従って、上記実施形態のように、肌温度を検出するための受信部として、選択スイッチ10を利用して上記4つの受信部2a〜2dの中から任意のものを選択できるようにすれば、使用者は、測定対象者の衣服や障害物の有無に応じて、肌温度を検出するのに最も適した受信部を設定できるようになり、肌温度の検出精度を高め、延いては、空調制御をより最適に実施することができることになる。
【0061】
なお、本実施形態においては、受信部2a〜2d及び選択スイッチが、本発明の受信手段に相当し、A/D変換回路12及び空調制御回路14が、本発明の信号処理手段に相当する。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて、種々の態様を採ることができる。
例えば、上記実施形態では、4つの受信部2a〜2dを備えた空気調和装置について説明したが、この受信部の数や、各受信部の受信周波数帯域は、肌温度検出装置としての受信部の使用条件に応じて、適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0063】
2a〜2d…受信部、10…選択スイッチ、12…A/D変換回路、14…空調制御回路、16…空調空気生成・送出部、20…受信素子、22…入力増幅回路、24…検波回路、26…出力増幅回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、増幅・検波する受信手段と、
該受信手段からの出力を、測定対象者の肌温度を表す検出信号として処理する信号処理手段と、
を備え、前記受信手段の受信周波数帯域を、当該受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定してなることを特徴とする肌温度検出装置。
【請求項2】
前記受信手段の受信周波数帯域は、前記マイクロ波帯のXバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の肌温度検出装置。
【請求項3】
前記受信手段は、
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信可能で、受信周波数帯域が互いに異なる複数の受信部と、
前記複数の受信部の中から、前記熱雑音の受信に用いる受信部を選択するための選択スイッチと、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の肌温度検出装置を備え、
該肌温度検出装置にて検出された測定対象者の肌温度を一つのパラメータとして、空調空気の温度若しくは送風量を制御することを特徴とする空気調和装置。
【請求項1】
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信し、増幅・検波する受信手段と、
該受信手段からの出力を、測定対象者の肌温度を表す検出信号として処理する信号処理手段と、
を備え、前記受信手段の受信周波数帯域を、当該受信手段と測定対象者の肌との間に配置される障害物の種類に応じて設定してなることを特徴とする肌温度検出装置。
【請求項2】
前記受信手段の受信周波数帯域は、前記マイクロ波帯のXバンド、Kuバンド、Kバンド、及びKaバンドの中の一つに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の肌温度検出装置。
【請求項3】
前記受信手段は、
測定対象者から放射されたマイクロ波帯の熱雑音を受信可能で、受信周波数帯域が互いに異なる複数の受信部と、
前記複数の受信部の中から、前記熱雑音の受信に用いる受信部を選択するための選択スイッチと、
を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の肌温度検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の肌温度検出装置を備え、
該肌温度検出装置にて検出された測定対象者の肌温度を一つのパラメータとして、空調空気の温度若しくは送風量を制御することを特徴とする空気調和装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−44476(P2013−44476A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182785(P2011−182785)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【Fターム(参考)】
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