説明

肝機能保護剤

【課題】
経口摂取により、肝機能低下の予防及び改善に優れた効果を有する肝機能保護剤、及び肝機能保護用飲食品又は飼料の提供。
【解決手段】
リン脂質を肝機能保護剤の有効成分とする。また、リン脂質を有効成分とする肝機能保護剤を配合して肝機能保護用飲食品又は飼料とする。本発明によると、経口摂取により肝機能低下の予防及び改善に優れた効果を有する肝機能保護剤、及び肝機能保護用飲食品又は飼料を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン脂質を有効成分とし、経口摂取により、肝機能低下の予防及び改善を容易かつ簡便にできる肝機能保護剤、及びこの肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飲食品又は飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、動物の臓器の中でも非常に重要な役割を持つものであり、その機能として代謝、解毒、消化、エネルギー貯蔵等の数多くの生体反応に関与している。また他の臓器と比べて再生能力も高く、手術等で一部を切り取ってもその後完全に再生する特徴を有する。しかし、軽い疾患が現れても自覚症状は現れず、症状を感じる頃には脂肪肝、肝硬変等生命に危機をもたらすほど非常に重篤な状態に陥っている場合が多く、沈黙の臓器とも呼ばれている。
【0003】
肝疾患の主な原因としてウイルスが挙げられるが、成人の場合、アルコール摂取による慢性肝炎が一般的に知られている。これまでの肝機能低下予防や改善の方法として、ほとんどが飲食制限や薬剤によるものであるが、飲食制限は精神的困難さを伴い、その方法を誤ると栄養障害を引き起こしたりする危険性がある。また、グルタチオン、インターフェロン等の各種医薬品の投与も行われているが、効能とともに副作用を考慮しなければならない。また、ローヤルゼリー(例えば、特許文献1参照)、オトコヨウゾメ等の植物体及びその抽出物(例えば、特許文献2参照)、ウコン含有組成物(例えば、特許文献3参照)、日本酒から調製される濃縮物(例えば、特許文献4参照)、等が知られている。
【特許文献1】特開2000-336038号公報
【特許文献2】特開2004-346065号公報
【特許文献3】特開2005-112846号公報
【特許文献4】特開2006-306792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように従来の肝機能低下の予防や改善は容易かつ簡便にできるものではなく、効果の面で必ずしも十分満足のいくものではなかった。従って、本発明は、安全性が高く、経口摂取により肝機能低下の予防及び改善を、容易かつ簡便にできる肝機能保護剤、及びこの肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飲食品又は飼料を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの課題を解決するために、本発明者らは、肝機能を保護する効果を有する肝機能保護剤について鋭意検討を進めたところ、リン脂質を経口摂取することにより、肝機能低下の予防及び改善効果が得られることを見出し、リン脂質を有効成分とすることで本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の通りである。
(1)リン脂質を有効成分とする肝機能保護剤。
(2)乳由来リン脂質を有効成分とする肝機能保護剤。
(3)乳又は乳素材から調製して得られる乳由来リン脂質含有組成物であって、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有する組成物を乳由来リン脂質として使用する(2)記載の肝機能保護剤。
(4)乳又は乳素材から調製して得られる乳由来リン脂質含有組成物であって、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有し、かつ、全固形中0.16重量%以上のラクトシルセラミドを含有する組成物を乳由来リン脂質として使用する(3)記載の肝機能保護剤。
(5)乳由来リン脂質含有組成物が、乳又は乳素材を酸性条件下で加熱処理し、ガングリオシドGD3及び/又はガングリオシドGMをラクトシルセラミドに変換することにより得られるものである(4)記載の肝機能保護剤。
(6)乳又は乳素材が、牛乳、バターセーラム又はバターミルクのいずれか1種であることを特徴とする(3)〜(5)に記載の肝機能保護剤。
(7)(1)〜(6)のいずれかに記載の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飲食品。
(8)(1)〜(6)のいずれかに記載の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飼料。
【発明の効果】
【0006】
本発明の肝機能保護剤は、肝機能低下の予防及び改善に優れた効果を有する。また、乳又は乳素材より調製するため、安全性にも優れている。さらに、本発明の肝機能保護剤を添加して調製したアルコール含有飼料により生育させたマウスは、本発明の肝機能保護剤を添加していない飼料により生育させたマウスに比べて、肝機能の低下を有意に抑えることができる。本発明は、食品、サプリメント等のあらゆる経口物に利用して肝機能保護に優れた効果を得ることができ、健康市場において肝機能保護剤として非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の特徴は、リン脂質を有効成分とすることにある。リン脂質としては、化学的合成品、大豆や卵黄由来品等も使用可能であるが、特に乳由来のものが好ましい。
本発明に用いることができる乳由来リン脂質は、ウシ、ヤギ、ヒツジやヒト等の哺乳類の乳から調製したものが挙げられる。
本発明における乳又は乳素材とは、特に限定されないが、牛乳、バターセーラム、バターミルク等が挙げられる。なお、バターセーラムとは、牛乳を遠心分離の操作により、脂肪分を40重量%以上としたクリーム画分を再度遠心分離等により脂肪分を上げて得られる脂肪分60重量%以上の高脂肪クリーム、あるいは、バターよりバターオイルを製造する際に得られる淡黄色の液体であり、前記高脂肪クリームあるいはバターを、遠心分離、加温あるいはせん断処理することにより得られる脂肪分51〜30重量%の水相画分をいう。また、バターミルクとは、脂肪分40重量%以上のクリームあるいは発酵クリームよりバターを製造する際に得られる液体であり、前記クリームあるいは発酵クリームに対してせん断処理を施すことによりバターを製造する際に排出される、脂肪分1〜15重量%の水相画分をいう。
【0008】
本発明における乳由来リン脂質とは、乳又は乳素材から調製して得られる乳由来リン脂質含有組成物であって、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有する組成物を乳由来リン脂質として使用可能であるが、以下のような方法等により調製することができる。
乳又は乳素材を精密濾過(MF)膜又は限外濾過(UF)膜処理することにより、本発明の乳由来リン脂質を含有する組成物を得ることができる。この際に用いる精密濾過(MF)膜は、孔径0.1μm〜2.0μmのものが好ましい。孔径が0.1μm未満となると、ホエータンパク質等の夾雑物が濃縮液側に残存するようになり、固形当たりの脂質含量が減少することにより肝機能保護剤としての効果が弱くなる。また、孔径が2.0μmを超えると、脂肪球が膜を通過して透過液側に漏れるようになるため、肝機能保護効果を持つ脂質画分が濃縮画分から減少するために、肝機能保護剤としての効果が弱くなる。混入するタンパク質の量やリン脂質の回収率を考慮すると、孔径0.1〜2.0μm程度の精密濾過(MF)膜が最も好ましい。この孔径0.1〜2.0μmの精密濾過(MF)膜としては、例えば、Membralox(SCT、Societie Ceramics Techniques社製)を使用することができる。また、限外濾過(UF)膜は、分画分子量5〜500kDaのものが好ましい。5kDa未満となると、乳糖も濃縮され、脂質の割合が高くならないため好ましくなく、500kDaは限外濾過(UF)膜の分画分子量の上限である。
なお、精密濾過(MF)膜処理又は限外濾過(UF)膜処理を行う前に、上記原料に対して酸を加えてpHを4.0〜5.0に調整し、カゼインタンパク質を等電点沈殿させて除去しておくことにより、膜処理における膜の汚れ付着を防止することができると同時に、得られる濃縮液中に含まれる固形当たりの脂質含量を高くすることが可能となり好ましい。
さらに、pHを4.0〜5.0に調整した後に塩化カルシウムを加えると、カゼインタンパク質の沈殿がより促進されるのでより好ましい。塩化カルシウムの添加量としては、全体の0.01〜0.05重量%が好ましい。また、pH調整の際に加える酸の種類は特に限定されないが、塩酸や硫酸等の無機酸等が好ましい。
乳由来リン脂質を含有する組成物の回収方法は特に限定されないが、フィルタープレス、デカンター等を用いることが望ましい。膜処理で得られた濃縮液に関しては、特に方法は限定しないが、凍結乾燥、噴霧乾燥等の操作により粉体あるいはペースト状の乳由来組成物にしておくことが保存上好ましい。
このようにして、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有する組成物を乳由来リン脂質として調製することができる。なお、この組成物中のその他の成分は特に限定されないが、上記したような方法によれば、全固形中、蛋白質を15〜50重量%、糖質10〜50重量%、灰分を5〜10重量%含有するものが得られる。また、組成物中の水分は5重量%以下である。
【0009】
また、本発明における乳由来リン脂質として、乳又は乳素材から調製して得られる乳由来リン脂質含有組成物であって、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有し、かつ、全固形中0.16重量%以上のラクトシルセラミドを含有する組成物を乳由来リン脂質として使用可能であるが、以下のような方法等により調製することができる。
乳又は乳素材を酸性条件下で加熱処理し、ガングリオシドGD3及び/又はガングリオシドGMをラクトシルセラミドに変換することにより本発明のラクトシルセラミドを含有する乳由来リン脂質含有組成物を得ることができる。
加熱処理時のpH及び温度の設定が非常に重要であり、pHが低ければ低い程、また、温度が高ければ高い程、ラクトシルセラミドの生成速度は大きくなるが、ラクトシルセラミドの分解速度も大きくなる。したがって、ラクトシルセラミドを高収率で製造するためには、酸性条件下、例えばpHを3.0〜5.0の範囲、好ましくは3.0〜4.0の範囲に調整し、温度を70℃〜 100℃の範囲に調整することが好ましい。そして、生成速度及び分解速度を考慮して、この加熱処理条件に応じた30分〜180分の処理時間を適宜、設定すればよい。
乳由来原料の場合、低pHの条件下、例えばpH3.0未満の状態で加熱処理を行った場合、主要蛋白質であるカゼインを沈殿させて除去する際に、沈殿が上清を抱きこんでしまい、十分に沈殿と上清を分離できないため、ラクトシルセラミドを含む画分の収率が下がってしまうことがある。これはカゼインがpH3.0未満であると、粒子径が小さく、また、タンパク質として安定なため沈殿が起こりにくく、上清を抱き込んだままの不完全な沈殿となってしまうからである。
また、乳又は乳素材を精密濾過(MF)膜又は限外濾過(UF)膜処理することにより、さらに高濃度のラクトシルセラミドを含有する乳由来リン脂質含有組成物を得ることができる。この際に用いる精密濾過(MF)膜は、孔径0.1μm〜2.0μmのものが好ましい。孔径が0.1μm未満となると、ホエータンパク質等の夾雑物が濃縮液側に残存するようになり、固形当たりの脂質含量が減少することにより肝機能保護剤としての効果が弱くなる。また、孔径が2.0μmを超えると、脂肪球が膜を通過して透過液側に漏れるようになるため、肝機能保護効果を持つ脂質画分が濃縮画分から減少するために、肝機能保護剤としての効果が弱くなる。混入するタンパク質の量やラクトシルセラミドの回収率を考慮すると、孔径0.1〜2.0μm程度の精密濾過(MF)膜が最も好ましい。この孔径0.1〜2.0μmの精密濾過(MF)膜としては、例えば、Membralox(SCT、Societie Ceramics Techniques社製)を使用することができる。また、限外濾過(UF)膜は、分画分子量5〜500kDaのものが好ましい。5kDa未満となると、乳糖も濃縮され、脂質の割合が高くならないため好ましくなく、500kDaは限外濾過(UF)膜の分画分子量の上限である。
なお、精密濾過(MF)膜処理又は限外濾過(UF)膜処理を行う前に、上記原料に対して酸を加えてpHを4.0〜5.0に調整し、カゼインタンパク質を等電点沈殿させて除去しておくことにより、膜処理における膜の汚れ付着を防止することができると同時に、得られる濃縮液中に含まれる固形当たりの脂質含量を高くすることが可能となるので好ましい。
さらに、pHを4.0〜5.0に調整した後に塩化カルシウムを加えると、カゼインタンパク質の沈殿がより促進されるのでより好ましい。塩化カルシウムの添加量としては、全体の0.01〜0.05重量%が好ましい。また、pH調整のこの際に加える酸の種類は特に限定されないが、塩酸や硫酸等の無機酸等が好ましい。
このようにして、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有し、かつ、全固形中0.16重量%以上のラクトシルセラミドを含有する組成物を乳由来リン脂質として調製することができる。なお、この組成物中のその他の成分は特に限定されないが、上記したような方法によれば、全固形中、蛋白質を15〜50重量%、糖質10〜50重量%、灰分を5〜10重量%含有するものが得られる。また、組成物中の水分は5重量%以下である。
【0010】
本発明の肝機能保護剤は、上記したリン脂質をそのまま肝機能保護剤として用いる事も可能であるが、リン脂質の他に糖類、タンパク質、ビタミン類、ミネラル類やフレーバー等、他の飲食品や飼料に通常使用される原材料等を混合し、常法に従い、粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤等に製剤化して用いることもできる。さらに、これらを製剤化した後に、これを栄養剤やヨーグルト、乳飲料、ウエハース等の飲食品や飼料に配合することも可能である。
【0011】
本発明の肝機能保護剤の有効量としては、後述する肝障害モデル試験により、マウス体重1kg当たり、リン脂質を283mg以上、好ましくは350mg以上経口摂取することにより、肝機能保護効果を有する。従って、外挿法によると、通常、成人一日当たり、リン脂質を283mg以上、好ましくは350mg以上摂取することにより肝機能保護効果が期待できるので、この必要量を確保できるようにすればよい。
【0012】
また、本発明の肝機能保護用飲食品は、通常の飲食品、例えばヨーグルト、乳飲料、ウエハースやデザート等に本発明の肝機能保護剤を配合すればよい。これらの肝機能保護用飲食品については、成人一人一日当たり、リン脂質を283mg以上摂取させるためには、飲食品の形態にもよるが飲食品100g当たりリン脂質が50mg〜200mgとなるよう肝機能保護剤を配合することが好ましい。また、本発明の肝機能保護用飼料は、通常の飼料、例えば家畜用飼料やペットフード等に本発明の肝機能保護剤を配合すればよい。これらの飼料については、一日当たり、リン脂質を283mg以上摂取させるためには、飼料100g当たりリン脂質が30mg〜150mgとなるよう肝機能保護剤を配合することが好ましい。
【0013】
以下に実施例、及び試験例を示し、本発明について詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
バターセーラム粉(Tatua社製)の20%溶液を調製し、5M塩酸を添加してpHを4.5に調整した。この溶液を50℃で1時間静置させて、カゼインタンパク質を沈殿として凝集させた。この凝集物はフィルタープレスを用いて除去し、得られた水溶液を孔径1.4μmの精密濾過(MF)膜(SCT社製)で処理して濃縮液画分を得た。得られた濃縮液画分を凍結した後、凍結乾燥処理を行って水分を除去し、乳由来リン脂質含有組成物を得た。この乳由来リン脂質含有組成物は、全固形当たり脂質を56重量%、タンパク質を25重量%、糖質を13重量%、灰分を6重量%含有しており、全固形中30重量%がリン脂質であった。
【実施例2】
【0015】
バターミルク粉(雪印乳業社製)の15%溶液を調製し、1M塩酸を添加してpHを4.5に調整した。この溶液を40℃で30分間静置させて、カゼインタンパク質を沈殿として凝集させた。この凝集物をクラリファイヤーを用いて除去し、得られた上清を孔径0.1μmの精密濾過(MF)膜(SCT社製)で処理することにより濃縮液画分を得た。得られた濃縮液画分を凍結した後、凍結乾燥処理を行って水分を除去し、乳由来リン脂質含有組成物を得た。この乳由来リン脂質含有組成物は、固形当たり脂質を50重量%、タンパク質を27重量%、糖質を16重量%、灰分を7重量%含有しており、全固形中20重量%がリン脂質であった。
【実施例3】
【0016】
1リットル当たり230mgのガングリオシドGD3を含有する10重量%バターセーラム水溶液に15%塩酸を加えてpHを3.0に調整し、同時に塩化カルシウムを全体量の0.03重量%になるように添加し、88℃にて180分間加熱処理を行った。その後、pHを4.5〜5.0に調整し、原料中の主要蛋白質であるカゼインを凝集させた。生成したカゼインの沈殿は遠心分離機(Beckman社製)で処理する事により完全に除去して上清を得た。
この上清を10%水酸化カリウムにて中和し、孔径0.1μmの精密濾過膜(Milipore社製)処理を行ない、濃縮液を得た。得られた濃縮液を凍結乾燥処理により乾燥を行ない、ラクトシルセラミドを含有する乳由来リン脂質含有組成物を得た。
得られた乳由来リン脂質含有組成物に含まれる脂質含量をレーゼゴットリーブ法により測定した結果、50重量%の脂質が含まれていた。HPLCを用いた定量によると、乳由来リン脂質含有組成物1g当たり36mgのラクトシルセラミドが含まれていた。
この乳由来リン脂質含有組成物は、全固形当たり脂質を56重量%、タンパク質を25重量%、糖質を13重量%、灰分を6重量%、全固形中リン脂質を33重量%、ラクトシルセラミドを3.6重量%含有していた。
【実施例4】
【0017】
ガングリオシドGD3を酸加水分解してガングリオシドGM3を製造する方法(特開平5−279379号公報)に従い、バターセーラムから1リットル当たり360mgのガングリオシドGM3を含有するガングリオシド素材を調製した。ガングリオシド素材10%水溶液に、15%塩酸を加えてpHを3.0に調整し、同時に塩化カルシウムを全体量の0.03重量%になるように添加し、88℃にて180分間加熱処理を行った。その後、pHを4.5〜5.0に調整し、原料中の主要蛋白質であるカゼインを凝集させた。生成したカゼインの沈殿は遠心分離機(Beckman社製)で処理する事により完全に除去して上清を得た。
この上清を10%水酸化カリウムにて中和し、孔径0.1μmの精密濾過膜(Milipore社製)処理を行ない、濃縮液を得た。得られた濃縮液を凍結乾燥処理により乾燥を行ない、ラクトシルセラミドを含有する乳由来リン脂質含有組成物を得た。
得られた乳由来リン脂質含有組成物に含まれる脂質含量をレーゼゴットリーブ法により測定した結果、50重量%の脂質が含まれていた。HPLCを用いた定量によると、乳由来リン脂質含有組成物1g当たり39mgのラクトシルセラミドが含まれていた。
この乳由来リン脂質含有組成物は、全固形当たり脂質を56重量%、タンパク質を25重量%、糖質を13重量%、灰分を6重量%、全固形中リン脂質を29重量%、ラクトシルセラミドを3.9重量%含有していた。
【0018】
(試験例1)
(動物実験)
実施例1〜4で得られた乳由来リン脂質含有組成物、市販の大豆由来リン脂質(LP−20P 日清オイリオ社製)を使用して、リン脂質の肝機能保護作用について評価した。実験には、C57BL/6雄性マウスを使用した。1週間予備飼育後、7週齢より、表1に示すアルコール含有液体飼料を投与する群(コントロール群)、表1に示すアルコール含有液体飼料に、実施例1の乳由来リン脂質組成物を乳由来リン脂質としてマウス体重1kg当たり283mg加えた飼料を投与する群(A群)、表1に示すアルコール含有液体飼料に実施例2の乳由来リン脂質組成物を乳由来リン脂質としてマウス体重1kg当たり350mg加えた飼料を投与する群(B群)、表1に示すアルコール含有液体飼料に実施例3の乳由来リン脂質組成物を乳由来リン脂質としてマウス体重1kg当たり500mg加えた飼料を投与する群(C群)、表1に示すアルコール含有液体飼料に実施例4の乳由来リン脂質組成物を乳由来リン脂質としてマウス体重1kg当たり800mg加えた飼料を投与する群(D群)、表1に示すアルコール含有液体飼料に市販の大豆由来リン脂質をマウス体重1kg当たり600mg加えた飼料を投与する群(E群)を1週間自由摂取させた。なお、水は各群とも自由に与えた。飼料摂取1週間後に採血を行い、採取した血液からは常法により血清を採取し、富士フィルム社製測定キットを用いて、グルタチオン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(以下GOTと略す)、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(以下GTPと略す)量を測定した。なお、GOTはアミノ酸の合成に必要な酵素であり、主に心筋、肝臓、骨格筋や腎臓等に多く含まれ、このGOTが高値な場合、肝疾患(急性・慢性肝炎、脂肪肝等)が疑われる。GPTはGOTと同じくトランスアミナーゼというアミノ酸の合成に必要な酵素であり、肝臓に多く含まれ、このGPTが高値の場合、肝臓病(急性・慢性肝炎・脂肪肝・アルコール性肝炎等)が疑われる。その結果を表2に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
飼料摂取量はA〜E群間で有意差は認められなかった。しかし、血清中のGOT量及び、GTP量においては、コントロール群とA〜E群間で有意な差が認められた。実施例1〜4の乳由来リン脂質組成物を乳由来脂質として含有するA〜D群及び大豆由来リン脂質を含有するE群では、コントロール群と比較してGOT量、GTP量共に顕著に低い値を示し、肝機能保護効果が認められた。
【実施例5】
【0022】
実施例1で得られた乳由来リン脂質含有組成物250gを4,750gの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6,000rpmで30分間撹拌混合して乳由来リン脂質2,500g/100gの乳由来リン脂質溶液を得た。この乳由来リン脂質含有組成物4.0kgに、カゼイン5.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS-4CRTGN、日阪製作所社製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用栄養組成物50kgを製造した。なお、この肝機能保護用液状栄養組成物には、100gあたり、肝機能保護剤の有効成分である乳由来リン脂質が100mg含まれていた。
【実施例6】
【0023】
酸味料2gを700gの脱イオン水に溶解した後、実施例2で得られた乳由来リン脂質含有組成物10gを溶解し、50℃まで加熱後、ウルトラディスパーサー(ULTRA-TURRAX t-25;IKAジャパン社製)にて、9,500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、90℃、15分間殺菌後、密栓し、本発明の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飲料10本(100ml入り)を調製した。なお、この肝機能保護用飲料には、100gあたり、肝機能保護剤の有効成分である乳由来リン脂質が200mg含まれていた。
【実施例7】
【0024】
実施例4で得られた乳由来リン脂質含有組成物2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、50℃まで加熱後、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、3,600rpmで40分間撹拌混合して乳由来リン脂質510mg/100gの乳由来リン脂質溶液を得た。この乳由来リン脂質溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用イヌ飼育飼料100kgを製造した。なお、この肝機能保護用イヌ飼育飼料には、100g当たり、肝機能保護剤の有効成分である乳由来リン脂質が51mg含まれていた。
【実施例8】
【0025】
表3に示す配合で原料を混合後、常法に従って1gに成型、打錠して本発明の肝機能保護剤を製造した。なお、この肝機能保護剤1g中には、有効成分である乳由来リン脂質が55mg含まれていた。
【0026】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質を有効成分とする肝機能保護剤。
【請求項2】
乳由来リン脂質を有効成分とする肝機能保護剤。
【請求項3】
乳又は乳素材から調製して得られる乳由来リン脂質含有組成物であって、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有する組成物を乳由来リン脂質として使用する請求項2記載の肝機能保護剤。
【請求項4】
乳又は乳素材から調製して得られる乳由来リン脂質含有組成物であって、全固形中10重量%以上のリン脂質を含有し、かつ、全固形中0.16重量%以上のラクトシルセラミドを含有する組成物を乳由来リン脂質として使用する請求項3記載の肝機能保護剤。
【請求項5】
乳由来リン脂質含有組成物が、乳又は乳素材を酸性条件下で加熱処理し、ガングリオシドGD3及び/又はガングリオシドGMをラクトシルセラミドに変換することにより得られるものである請求項4記載の肝機能保護剤。
【請求項6】
乳又は乳素材が、牛乳、バターセーラム又はバターミルクのいずれか1種であることを特徴とする請求項3乃至5に記載の肝機能保護剤。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飲食品。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれかに記載の肝機能保護剤を配合した肝機能保護用飼料。

【公開番号】特開2009−167646(P2009−167646A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5162(P2008−5162)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000006699)雪印乳業株式会社 (155)
【Fターム(参考)】