説明

肝機能改善剤およびその製造用ツール、ならびにこれらの利用

【課題】低下した肝機能を改善する新たな肝機能改善剤を提供すること。
【解決手段】ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を発酵原料の存在下で増殖させることによって肝機能改善剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能改善剤およびその製造用ツール、ならびにこれらの利用に関するものであり、より詳細には、特定の植物乳酸菌および/またはその発酵物を含有している肝機能改善剤およびその製造用ツール、ならびにこれらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肝臓の機能が正常でなくなった状態である肝機能障害は、肝炎ウイルス、アルコールの過剰摂取、免疫・代謝異常などによって生じることが知られている。肝機能障害は、急性肝炎から慢性肝炎、さらには肝硬変、肝臓癌へと進行する可能性があるが、軽度の肝機能障害には症状がほとんど現れない。また、生物の恒常性に不可欠な肝臓の機能が低下することは、種々の疾患の要因となり得る。よって、肝機能障害の早期発見および早期改善が必要とされている。
【0003】
肝機能の低下を改善するために種々の医薬が開発されている。また、近年では、種々の食品(例えば、青魚、魚介類、大豆製品、きのこ類、いも類など)もまた、肝障害改善の可能性が期待されている。
【0004】
乳酸菌は、古来よりチ−ズ、ヨ−グルト、発酵バタ−等の乳製品を始め、果汁、野菜汁等、多くの食品に用いられ、食品の風味、組織、栄養価の改善または保存性付与等に重要な役割を果たしている。近年、乳酸菌の生理的効果として、生きた乳酸菌の接種による腸内菌叢の改善効果または整腸作用等が明らかとなり、医薬品として乳酸菌製剤も開発されている。
【0005】
特許文献1には、特定の乳酸菌を用いて製造したヨーグルトをラットに2ヶ月間食餌させた後にガラクトサミンを投与した場合に、予めヨーグルトを食餌させておくことによりGOTおよびGPTの上昇を予防し得ることが開示されている。肝機能の指標として用いられているGOTやGPTは、元々細胞の中でアミノ酸の代謝に関与する酵素である。このような本来肝臓の細胞中にあるべき酵素が、細胞から漏出して血中に多く存在し続けることは、肝臓の破壊が持続している/進行していることを示す。
【特許文献1】特開2007−236227号公報(平成19年9月20日公開)
【特許文献2】特開2006−42796号公報(平成18年2月16日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乳酸菌には、動物から採取された動物乳酸菌および植物から採取された植物乳酸菌が存在する。発酵乳や発酵果汁等の発酵飲料を製造する際には、植物乳酸菌の増殖が著しく遅いかまたは増殖しないため、もっぱら動物乳酸菌が使われている。近年、植物乳酸菌を利用した発酵飲料に感心が集まり始めているが、植物乳酸菌による発酵飲料は、乳酸発酵がほとんど進んでいないため、その風味は一般の動物乳酸菌を用いた発酵乳製品とはほど遠い。
【0007】
本発明者らは、新たな植物乳酸菌を取得し、これらの乳酸菌を用いて新しい風味および機能を備えた発酵飲料を製造している(特許文献2参照)。本発明者らはまた、特許文献1にて用いられた菌株が低下した肝機能を改善する効果を有していないことを見出している。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低下した肝機能を改善する新たな肝機能改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、植物乳酸菌の研究を進める中で、特定の植物乳酸菌が肝機能改善効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る肝機能改善剤の製造方法は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を生存可能に含有している組成物を、発酵原料と混合する混合工程、および該発酵原料の存在下で該生菌を増殖させる増殖工程を包含することを特徴としている。
【0010】
本発明に係る製造方法において、上記発酵原料は、乳、果汁および野菜汁からなる群より選択されることが好ましい。また、本発明に係る製造方法において、上記混合工程は、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含むことが好ましい。
【0011】
上述した製造方法によって製造された肝機能改善剤もまた本発明の範囲内であり、本発明に係る肝機能改善剤は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌によって発酵させた、乳酸酸度が0.6〜1.5%の範囲内である発酵乳50〜200g相当の量を1日摂取量として少なくとも2週間連続して摂取するために処方されていることを特徴としてもよい。
【0012】
本発明に係る機能性食品は、上記肝機能改善剤を含んでいることを特徴としており、上記肝機能改善剤そのものが機能性食品であってもよい。
【0013】
また、本発明に係る肝機能を改善する機能性食品を製造するための使用方法は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌または該生菌によって発酵させた発酵物を用いることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る肝機能改善剤の評価方法は、評価されるべきサンプル中に、ラクトバシラス プランタラムSN13T株が含有されているか否かを検査する工程を包含することを特徴としている。
【0015】
本発明に係る組成物は、肝機能改善剤を製造するために、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を生存可能に含有していることを特徴としている。本発明に係る組成物は、上記生菌によって発酵する発酵原料をさらに含有していてもよい。この場合、上記発酵原料は、乳、果汁および野菜汁からなる群より選択されることが好ましい。また、本発明に係る組成物は、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明を用いれば、肝機能改善を実現し得る肝機能改善剤を製造することができる。よって、本発明を用いれば、肝機能改善という新たな機能を実現し得る機能性食品を提供することができる。また、本発明を用いれば、肝機能改善剤の評価が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
〔1〕肝機能改善剤を製造するための組成物
本発明は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を生存可能に含有している組成物を提供する。本発明に係る組成物を用いれば、肝機能改善剤を製造することができる。
【0018】
ラクトバシラス プランタラムSN13T株は、本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターへ、受託番号NITE P−7として寄託されており、以下の菌学的性質を有する:タイ国産のナムというソーセージからの分離株、グラム陽性乳酸桿菌、ホモ型発酵、カタラーゼ陰性、芽胞形成能なし、好気条件下でも培養可、分類学上の位置はLactobacillus plantarum。
【0019】
本発明者らは、植物乳酸菌として、ラクトバシラス プランタラムSN13T株以外に、ラクトバシラス プランタラムSN26T株、ラクトバシラス プランタラムSN35N株、ラクトバシラス プランタラムSN35M株、ラクトコッカス ラクティス サブスペシース ラクティス SN26N株、エンテロコッカス スペシースSN21I株、およびエンテロコッカス ムンヅティSN29N株などをこれまでに分離している。また、他にも多くの植物乳酸菌が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。しかし、このような多種多様な植物乳酸菌の中で、ラクトバシラス プランタラムSN13T株が肝機能改善という優れた効果を有していることは、全く知られていなかった。また、特許文献1には、特定の乳酸菌を用いて製造したヨーグルトを予めラットに2ヶ月間食餌させることにより、ガラクトサミン誘導性の肝機能不全(GOTおよびGPTの上昇)を予防し得ることが開示されているが、このような機能を有するとして実証されている乳酸菌Streptococcus thermophilusは、肝機能改善効果を示さなかった。
【0020】
本発明に係る組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株によって発酵する発酵原料をさらに含有していてもよい。また、本発明に係る組成物は、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していてもよい。
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「組成物」はその含有成分を単一組成物中に含有する態様と、単一キット中に別個に備えている態様であってもよい。すなわち、本発明に係る組成物は発酵原料をさらに含んでいてもよいが、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を生存可能に含有している組成物と発酵原料とを別々に備えているキットの形態であってもよい。また、本発明に係る組成物は酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含んでいてもよいが、本発明に係る組成物と酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物とを別々に備えているキットの形態であってもよい。
【0022】
本発明に用いられる発酵原料は、乳、果汁および野菜汁からなる群より選択されることが好ましい。乳としては、動物乳(例えば、牛乳、ヤギ乳、めん羊乳等)が挙げられ、特に牛乳が好ましい。乳は、未殺菌乳および殺菌乳の何れであってもよく、また、これらの乳から調製した濃縮乳もしくは練乳、これらの脱脂乳、部分脱脂乳またはこれらを乾燥して粉末にした粉乳等であってもよい。果汁としては、例えば、モモ、りんご、イチゴ等の汁液が挙げられるがこれらに限定されない。また、野菜汁としては、例えば、ニンジン、トマト、キャベツ等の汁液が挙げられるがこれらに限定されない。果汁および野菜汁は、果物または野菜をミキサー等で摩砕し、必要に応じて更に搾汁することにより得られる。このような果汁および野菜汁は、適宜濃縮されてもよく、濃縮液は、そのままであっても、蒸留水等で適当な濃度に希釈して用いられてもよい。
【0023】
なお、上述した乳、果汁および野菜汁は、それぞれを単独で用いられても、目的に応じて組み合わせて用いられてもよい。
【0024】
本明細書中において、用語「生菌を生存可能に含有している」は、目的の菌株が死滅することなく組成物中に維持されている態様であれば特に限定されない。すなわち、上記組成物中では、目的の生菌が増殖していても休眠していてもよい。一実施形態において、本発明に係る組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株によって発酵する発酵原料をさらに含有していることが好ましく、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していることが好ましい。このような形態であれば、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌の酵素活性を高く保つことができるので、この生菌を組成物中で生存可能に含有し得る。他の実施形態において、本発明に係る組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を、適切な賦形剤とともに含んでいる。乳酸菌の生存に影響を与えない賦形剤は当該分野において周知であり、例えば、デンプン、乾燥酵母、乳糖、白糖などが挙げられ、また、組成物を錠剤に加工するためのもの(例えば、コーンペプチド、麦芽糖など)であってもよい。
【0025】
本発明に係る肝機能改善剤を製造するための組成物は、いわゆる「発酵種」であることが意図されるが、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌(およびその発酵物)を肝機能改善剤として機能し得る程度に含有する態様であってもよい。この場合は、「肝機能改善剤」として以下に詳述する。また、本発明に係る組成物は、溶液形態、固体形態(例えば、錠剤、カプセルなど)などの任意の形態で提供され得る。
【0026】
〔2〕肝機能改善剤およびその製造方法
本発明は、植物乳酸菌を用いて製造した肝機能改善剤を提供する。本発明に係る肝機能改善剤は、医薬組成物または食用組成物であり得る。一実施形態において、本発明に係る肝機能改善剤は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を生存可能に含有している組成物を用いて製造されることを特徴としている。すなわち、本発明に係る肝機能改善剤の製造方法は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌を生存可能に含有している組成物を、発酵原料と混合する混合工程、および該発酵原料の存在下で該生菌を増殖させる増殖工程を包含し、これらの工程を経て得られた「ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物」を含有していることを特徴としている。
【0027】
本発明の混合工程において用いられる発酵原料は、上述したものであれば特に限定されない。また、本発明の混合工程は、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含むことが好ましい。なお、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物については、本明細書中において参考として援用される特許文献2にその詳細が記載されており、当業者は容易に理解し得る。
【0028】
本発明の増殖工程は、発酵原料を上記生菌で発酵させる発酵工程であり得、発酵工程は、酸度が0.6〜1.5%の範囲内になるまで発酵原料を発酵させることが好ましい。発酵は、乳、果汁または野菜汁を発酵原料として当該分野において公知の手法を用いて行われればよい。また、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはそれらの抽出物を添加する場合も同様である。
【0029】
なお、実施例では発酵原料として乳を用いたが、果汁または野菜汁を用いる場合、果汁または野菜汁、あるいはこれらに他の原料を添加した溶液を65〜130℃で1秒間〜30分間加熱殺菌し、次いで30〜45℃まで冷却し、続いて、この溶液に植物乳酸菌を0.1〜6重量%接種した後、30〜45℃の温度で12〜72時間発酵させ、発酵終了後に冷却したものを発酵物(発酵果汁または発酵野菜汁)として用いればよい。これら発酵果汁または発酵野菜汁は、そのまま飲料としてもよく、さらには希釈または殺菌を行い発酵果汁飲料または発酵野菜汁飲料とすることができる。
【0030】
なお、発酵物を得る際には、発酵原料以外に、ゼラチン、寒天、糖類、香料、果肉などのような発酵飲料の製造に通常使用されている原料を添加することもできる。例えば、蔗糖、グルコース、フラクトース、パラチノース、トレハロース、等の糖類、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、還元水飴等の糖アルコール類、アスパルテーム、アセスルファムカリウム等の高甘味度甘味料、蔗糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤、カラギーナン、キサンタンガム、グァーガム等の増粘剤、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等の酸味料、レモン果汁、オレンジ果汁等の果汁類の他、ビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類、更には甘草、桂枝、生姜のような生薬、あるいは香草、グルタミン酸ナトリウム、クチナシ色素、シリコーン、リン酸塩等の食品添加物等を添加することが可能である。
【0031】
〔2−1〕医薬組成物
本発明は、「ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物」を含有している、肝機能を改善するための医薬組成物を提供する。一実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物からなり得る。本明細書中で使用される場合、用語「医薬組成物」は、下述する食用組成物として提供される組成物以外の形態を有する組成物が意図される。
【0032】
本発明に係る医薬組成物は、製薬分野における公知の方法により製造することができる。本発明に係る医薬組成物における「ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物」の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、この医薬組成物を用いて「ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物」を適切な量にて投与できるような量であれば特に限定されない。一実施形態において、本発明に係る医薬組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌によって発酵させた、酸度が0.6〜1.5%の範囲内である発酵乳50〜200g相当の量を1日摂取量として少なくとも2週間連続して摂取するように処方されている。
【0033】
本発明に係る医薬組成物は経口投与されることが好ましく、経口投与に好ましい錠剤、カプセルなどの形態として調製され得る。経口投与される態様(すなわち経口剤)の場合、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが医薬用担体として利用される。また経口剤を調製する際、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合してもよい。安定化剤、抗酸化剤などのような補助物質もまた、本発明に係る医薬組成物中に存在し得る。
【0034】
本発明に係る医薬組成物はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。投与および摂取は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。
【0035】
〔2−2〕食用組成物
本発明は、「ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物」を含有している、肝機能を改善するための食用組成物(すなわち、食品、飲料など)を提供する。一実施形態において、本発明に係る食用組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物からなり得る。
【0036】
本発明に係る食用組成物の製造法は特に限定されず、調理、加工および一般に用いられている食品または飲料の製造法による製造を挙げることができ、製造された食品または飲料に「ラクトバシラス プランタラムSN13T株および/またはその発酵物」が含有されていればよい。一実施形態において、本発明に係る食用組成物は、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌によって発酵させた、酸度が0.6〜1.5%の範囲内である発酵乳50〜200g相当の量を1日摂取量として少なくとも2週間連続して摂取するように処方されている。
【0037】
本発明に係る食用組成物としては、例えば、乳製品(例えば、ヨーグルト)、健康食品(例えば、カプセル、タブレット、粉末)、飲料(例えば、乳飲料、野菜飲料など)、ドリンク剤などが挙げられるがこれらに限定されない。なお、本発明に係る食品または飲料は、肝機能を改善するための健康食品(機能性食品)として極めて有用である。
【0038】
〔3〕ラクトバシラス プランタラムSN13T株の利用
上述したように、ラクトバシラス プランタラムSN13T株は肝機能改善効果を示すことが新たに見出された。このような知見に基づけば、肝機能を改善する機能性食品を製造するために、ラクトバシラス プランタラムSN13T株の生菌または該生菌によって発酵させた発酵物を用いる方法や、ラクトバシラス プランタラムSN13T株が含有されているか否かを検査することに基づいて、そのサンプルが肝機能改善剤として機能し得るか否かを評価する方法もまた本発明として提供されることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。また、当業者は、これらの方法を規定する工程もまた、本明細書の記載に基づいて容易に理解する。
【0039】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0040】
乳の無脂乳固形分の濃度を8.0%以上に調整した。この溶液を、65〜130℃で1秒間〜30分間加熱殺菌し、30〜45℃まで冷却した。この溶液に乳酸菌を0.1〜6重量%接種した。接種後、30〜45℃で乳酸菌量が1000万個/ml以上になるまで発酵させた(3〜72時間)。発酵終了後、10℃以下まで冷却したものをサンプルAおよびBとして用いた。なお、サンプルAの調製に用いた乳酸菌は、植物乳酸菌(ラクトバシラス プランタラムSN13T株)であり、サンプルBの調製に用いた乳酸菌は動物乳酸菌(Lactococcus lactis(86.1%)、Streptococcus thermophilus(13.8%)、Lactobacillus bugaricus(0.1%))である。
【0041】
二重盲検法による無作為化対照比較試験を行った。それぞれのサンプルを毎日100gずつ6週間摂取した被験者について、摂取開始時および摂取開始から2週間毎に血液生化学検査を行った。なお、本試験の主検討項目が整腸作用の評価であったため、被験者を1週間の排便回数によって3層に分け、サンプルAおよびサンプルBに対して層別ランダム化割付を行っている。
【0042】
サンプルA摂取群とサンプルB摂取群のGOT、GPTおよびγ−GTPの平均値の推移、および試験食摂取前を1とした場合の変化率の推移を図1〜図3に示した。図1〜3に示すように、評価した血液生化学パラメータのうち、肝機能の指標であるGOT、GPTおよびγ−GTPは、サンプルBの連続摂取によっても3つのパラメータ値で低下傾向が見られたが、サンプルAの連続摂取によってGOT、GPTおよびγ−GTPの全てが有意に低下し、特にγ−GTPでは低下が著しかった。
【0043】
このように、サンプルAは肝機能改善能を有していることがわかった。なお、整腸作用を考慮して被験者割付を行ったため、試験食摂取前の肝機能の数値の平均は群間で差が生じている。しかし、サンプル摂取前からの変化率によって解析した場合においても、サンプルA摂取群では明らかに検査値の低下(改善)が認められた。また、摂取後6週間での測定値が上昇しているのは、年末のために飲酒の機会が増えたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、肝機能を改善するための新たな技術が提供される。このように、本発明は、医薬や食品などに関連する分野における産業の発達に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係る肝機能改善剤(サンプルA)およびコントロール(サンプルB)を摂取した被験者における、血中GOT値の変動を示す図である。
【図2】本発明に係る肝機能改善剤(サンプルA)およびコントロール(サンプルB)を摂取した被験者における、血中GPT値の変動を示す図である。
【図3】本発明に係る肝機能改善剤(サンプルA)およびコントロール(サンプルB)を摂取した被験者における、血中γ−GTP値の変動を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝機能改善剤の製造方法であって、
ラクトバシラス プランタラムSN13T株(受託番号:NITE P−7)の生菌を生存可能に含有している組成物を、発酵原料と混合する混合工程;および
該発酵原料の存在下で該生菌を増殖させる増殖工程
を包含することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
上記発酵原料が、乳、果汁および野菜汁からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記混合工程が、酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物を添加することをさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の製造方法によって製造された肝機能改善剤。
【請求項5】
ラクトバシラス プランタラムSN13T株(受託番号:NITE P−7)の生菌によって発酵させた、酸度が0.6〜1.5%の範囲内である発酵乳50〜200g相当の量を1日摂取量として少なくとも2週間連続して摂取するために処方されていることを特徴とする肝機能改善剤。
【請求項6】
請求項4または5に記載の肝機能改善剤を含んでいることを特徴とする機能性食品。
【請求項7】
ラクトバシラス プランタラムSN13T株(受託番号:NITE P−7)の生菌または該生菌によって発酵させた発酵物の、肝機能を改善する機能性食品を製造するための使用方法。
【請求項8】
肝機能改善剤の評価方法であって、
評価されるべきサンプル中に、ラクトバシラス プランタラムSN13T株(受託番号:NITE P−7)が含有されているか否かを検査する工程を包含することを特徴とする評価方法。
【請求項9】
ラクトバシラス プランタラムSN13T株(受託番号:NITE P−7)の生菌を生存可能に含有していることを特徴とする肝機能改善剤を製造するための組成物。
【請求項10】
上記生菌によって発酵する発酵原料をさらに含有していることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
上記発酵原料が、乳、果汁および野菜汁からなる群より選択されることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
酒粕もしくは焼酎蒸留残渣またはこれらの抽出物をさらに含有していることを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−184998(P2009−184998A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28919(P2008−28919)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(504064803)野村乳業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】