説明

肝炎ウイルス吸着剤

【課題】 水溶液、血液又は血漿中に存在する肝炎ウイルスを吸着する肝炎ウイルス吸着剤であって、ウイルス以外の他の成分を吸着させることが少なく、肝炎ウイルスを効率的に吸着する機能を有する肝炎ウイルス吸着剤を提供すること。
【解決手段】 ヘパリンの1級及び2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)又はヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を含有する肝炎ウイルス吸着剤により上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝炎ウイルスを選択的に吸着することができる肝炎ウイルス吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)の慢性的感染が原因であり、薬剤による治療法としてペグインターフェロン、リバビリンの併用療法が一般的である。ジェノタイプ1bかつ血液中のウイルス量の多い患者では、治療成績は50%程度であり、肝硬変、肝がんへの移行割合が高いことからより有効な治療法、薬剤の開発が望まれている(非特許文献1)。一般的に薬剤による治療では血中のウイルス量が低い場合、治療成績が高いことが知られている。血中のHCVウイルスを多孔性のフィルターで除去し、薬剤との併用療法を行うと、治療成績が向上するとの報告がある(非特許文献2)。即ち、体内のウイルス量を下げることで、治療成績が向上したものと推定される。
【0003】
また、一旦血球と血漿を分離した後、血漿成分からウイルスを除去することから、回路構成は複雑で、より簡便に血中からウイルスを除去する方法がさらに望ましいと考えられる。そこで、HCVに結合するリガンドを用いる事でより簡便にHCVを除去する可能性があり、このHCVの吸着する物質の一つにヘパリンが挙げられる(非特許文献3)。しかし、ヘパリンは、血中のアンチトロンビンIII(ATIII)やLDLの構成蛋白質であるアポリポ蛋白質B(ApoB)と結合することが知られており、ヘパリンを用いて血中からHCVを吸着除去する際、ATIIIやApoBも合わせて吸着するため、HCVの吸着効率は低下する。
【0004】
また、ATIIIやApoBは、ヘパリンの硫酸基と相互作用することで結合することから、硫酸化度を変更することで、選択性の向上が期待される。
【0005】
今までに、ヘパリンのN−硫酸やO−硫酸がATIIIの結合には必須であると報告されているが、残存する水酸基やアミノ基の硫酸化によるATIIIとの結合の影響については報告がない(非特許文献4)。LDLとの結合には、ヘパリンの硫酸化度が関与し、脱O−硫酸でLDLとの結合能が低下し、加O−硫酸でLDLとの結合能が上昇するが、残存するアミノ基の硫酸化によるLDLとの結合の影響については報告がない(非特許文献5)。
【0006】
ヘパリンの硫酸化度とHCV、あるいはその外殻蛋白質であるE1とE2の結合において、脱2−O−硫酸基や脱6−O−硫酸基より、脱N−硫酸基で結合能が低下することから、HCVとの結合にはN−硫酸基の重要性が報告されているが、誘導化されていないヘパリンとの比較や、ATIIIやLDLの吸着に関しての記載はない(非特許文献6)。
【0007】
特許文献1には、血液、血漿または血清からエンベロープ保有ウイルスを除去するための、少なくとも1種のポリアニオン、1種の沈殿物用のフィルターおよび1種のポリアニオン結合性吸着物質を含む組成物の使用が開示されており、ポリアニオンとして、ヘパリンまたはヘパリン誘導体の使用が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、生物医学的又は製薬生成物中の発熱原消滅又はウイルス不活性化方法において、該方法が、該生成物を固相に吸着させ、該固相に吸着した該生成物をウイルス不活性化又は発熱原消滅剤と接触させ、固相をウイルス不活性化又は発熱原消滅剤から分離し、固相から不純物及び残留不活性化又は発熱原消滅剤を除去し、且つ固相から生成物を回収する諸工程を有する方法が記載されており、該固相がリガンドを取り付けたアフィニティー樹脂であり、該リガンドがヘパリンであることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−334037
【特許文献2】特開昭61−275210
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ウイルス性肝炎−基礎・臨床研究の進歩−日本臨床62巻増刊号7(2004)
【非特許文献2】K.Fujiwara et al.Hepatol.Res.,37,701(2007)
【非特許文献3】A.Zahn,J.P.Allain,J.Gen.Virol.,86,677(2005)
【非特許文献4】U.Lindahl,J.Biol.Chem.,259,12368(1984)
【非特許文献5】M.Gigli,Biochem.,31,5996(1992)
【非特許文献6】H.Barth,J.Virol.,80,10579(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、水溶液、血液又は血漿中に存在する肝炎ウイルスを吸着する肝炎ウイルス吸着剤であって、ウイルス以外の他の成分を吸着させることが少なく、肝炎ウイルスを効率的に吸着する機能を有する肝炎ウイルス吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
即ち、本発明は、上記課題を解決する肝炎ウイルス吸着剤であって、
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)又はヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を含有する肝炎ウイルス吸着剤を用いることに特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の肝炎ウイルス吸着剤によれば、アンチトロンビンIII(ATIII)やLDLの構成蛋白質であるアポリポ蛋白質B(ApoB)等の血液成分を吸着させること少なく、肝炎ウイルスの吸着能の高い肝炎ウイルス吸着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
即ち、本発明は、
1.ヘパリン誘導体を含有する肝炎ウイルス吸着剤であって、該ヘパリン誘導体が、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)、又は
ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)であることを特徴とする肝炎ウイルス吸着剤、
2.肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである1.に記載の肝炎ウイルス吸着剤、
3.1.又は2.に記載の肝炎ウイルス吸着剤を用いた肝炎ウイルスの除去方法、
に関する。
【0015】
本発明で使用されるヘパリンは、小腸、筋肉、肺、脾や肥満細胞など体内で幅広く存在し、化学的にはグリコサミノグリカンであるヘパラン硫酸の一種であり、β−D−グルクロン酸、或いはα−L−イズロン酸とD−グルコサミンが1,4−結合により重合した高分子であって、ヘパラン硫酸と比べて硫酸化の度合いが特に高いという特徴を有する。
本発明において用いられるヘパリンは、これらの通常公知のヘパリンでよい。
【0016】
本発明に用いられるヘパリン誘導体は、上記ヘパリンを、該ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)又は該ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)であることに特徴を有する。硫酸エステル化は通常公知の方法で行うことができる。
【0017】
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)を合成する場合には、例えば、ヘパリンのアルカリ塩類をイオン交換樹脂(H)等に通じ、アミン類と処理することによりヘパリンアミン塩を調整する。その後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体(A)とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・ピリジン等が好ましい。
【0018】
また、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を合成する場合には、例えば、ヘパリンN−アセチル基をヒドラジン等で脱アセチル化した後に、硫酸化剤で処理して目的とするヘパリン誘導体(B)とすることができる。硫酸化剤としては、公知慣用のSO・NMe等が好ましい。
【0019】
本発明のヘパリン誘導体(A)及び(B)は、肝炎ウイルスを効率よく吸着することができるが、血液成分であるアンチトロンビンIII(ATIII)やLDLの構成蛋白質であるアポリポ蛋白質B(ApoB)等の血液成分を吸着させることが少なく、肝炎ウイルスの吸着能の高い肝炎ウイルス吸着剤を提供することができ、本発明の肝炎ウイルス吸着剤は、肝炎患者に対して負荷が小さい特徴を有する。
【0020】
本発明のヘパリン誘導体のHCV吸着能を評価するため、HCV E2蛋白質(His−tag)に対する吸着能を評価した。E2蛋白質は脂質膜と共に、ウイルス粒子の外被(エンベロープ)を構成し、ウイルスのエントリーに重要な役割を果たす蛋白質であって、E2蛋白質への吸着能を評価することにより、HCVへの吸着能の評価が可能となる蛋白質である。
【0021】
また、本発明の肝炎ウイルス吸着剤の生理学的に許容される塩も本発明の範囲に含まれる。ここでいう生理学的に許容される塩とは、例えば上記に示される化合物のアルカリ付加塩であり、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等の無毒の塩が挙げられる。
【0022】
本発明の肝炎ウイルス吸着剤は、経口又は非経口投与(例えば静脈内投与、皮下投与、経皮投与又は直腸内投与等)することが出来、投与に際してはそれぞれの投与法に適した製剤形態に調製することができる。
【0023】
かかる製剤は、その用途に応じて錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、トローチ剤、舌下錠、坐剤、軟膏剤、注射剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤等の製剤形体に調製することができる。
【0024】
これらの調製に際しては、例えばこの種の薬剤に通常使用されている無毒の賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、保存剤、酸化防止剤、等張化剤、緩衝剤、コーティング剤、矯味剤、溶解補助剤、基剤、分散剤、安定化剤、着色剤等の添加剤を使用して公知の方法により製剤化することができる。
【0025】
前記使用し得る無毒性の添加剤の具体例を列挙すると、以下のようである。
まず、賦形剤としては、でんぷん及びその誘導体(デキストリン、カルボキシメチルスターチ等)、セルロース及びその誘導体(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、糖類(乳糖、白等、ブドウ糖等)、ケイ酸及びケイ酸塩類(天然ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等)、水酸化アルミニウム・マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、ポリオキシエチレン誘導体、モノステアリン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0026】
結合剤としては、でんぷん及びその誘導体(アルファー化デンプン、デキストリン等)、セルロース及びその誘導体(エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、糖類(ブドウ糖、白糖等)、エタノール、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0027】
崩壊剤としては、でんぷん及びその誘導体(カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ等)、セルロース及びその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等)、トラガント、ゼラチン、寒天等が挙げられる。
【0028】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸及びその塩類(軽質無水ケイ酸、天然ケイ酸アルミニウム等)、酸化チタン、リン酸水素カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、マクロゴール等が挙げられる。
【0029】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、亜硫酸塩類(亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等)、リン酸塩類(リン酸ナトリウム、ポリリン酸カルシウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等)、アルコール類(クロロブタノール、ベンジルアルコール等)、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸グリセリン、糖類等が挙げられる。
【0030】
酸化防止剤としては、亜硫酸塩類(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等)、ロンガリット、エリソルビン酸、L−アスコルビン酸、システイン、チオグリセロール、ブチルヒドロキシアニゾール、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、アスコルビン酸パルミテート、dl−α−トコフェロール等が挙げられる。
【0031】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、デキストリン、グリセリン、ブドウ糖等が挙げられる。
緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、塩酸、ホウ酸、リン酸塩(リン酸水素ナトリウム等)等が挙げられる。
【0032】
コーティング剤としては、セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)、セラック、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン類(ポリ−2−ビニルピリジン、ポリ−2−ビニル−5−エチルピリジン等)、ポリビニルアセチルジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコールフタレート、メタアクリレート・メタアクリル酸共重合体等が挙げられる。
【0033】
矯味剤としては、糖類(ブドウ糖、白糖、乳糖等)、サッカリンナトリウム、糖アルコール類等が挙げられる。
【0034】
溶解補助剤としては、エチレンジアミン、ニコチン酸アミド、サッカリンナトリウム、クエン酸、クエン酸塩類、安息香酸ナトリウム、石鹸類、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート類、ソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン、ポリプレングリコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0035】
基剤としては、脂肪類(豚脂等)、植物油(オリーブ油、ゴマ油等)、動物油、ラノリン酸、ワセリン、パラフィン、ロウ、樹脂、ベントナイト、グリセリン、グリコール油、高級アルコール類(ステアリルアルコール、セタノール等)等が挙げられる。
【0036】
分散剤として、アラビアゴム、トラガント、セルロース誘導体(メチルセルロース等)、ステアリン酸ポリエステル類、セスキオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸アルミニウム、アルギン酸ナトリウム、ポリソルベート類、ソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0037】
最後に安定化剤としては、亜硫酸塩類(亜硫酸水素ナトリウム等)、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。また、かかる製剤中における本発明による吸着剤の含有量は、その剤型に応じて異なるが、一般に0.01〜100重量%の濃度で含有している事が望ましい。
【実施例】
【0038】
以下、具体例により、本発明を更に詳しく説明する。
【0039】
(製造例1)硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)の調整例
ヘパリンナトリウム塩1gをイオン交換樹脂(H)50mLに通し、溶出液をトリブチルアミン−エタノール溶液で中和した。過剰なトリブチルアミンをEtOで抽出除去し、残った水層を凍結乾燥し、ヘパリンのトリブチルアンモニウム塩1.7gを調製した。
次に、SO・Py 2.8gの無水DMF100mL溶液を、上記調製したヘパリンのn−トリブチルアンモニウム塩(800mg)を溶解したDMF60mLに滴下したのち、混合液を40℃で1時間反応させた。反応液を冷水に入れ、1M−NaOHで中和後、限外ろ過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)を470mg得た。
【0040】
(製造例2)N−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)の調整例
ヘパリン400mgと硫酸ヒドラジン60mgをヒドラジン1水和物6mLに溶解し、90℃で24時間反応させた。反応液をEtOHに滴下し、生じた沈殿をろ取した。得られた白色固体を水に溶解し、0.5M−HIO水溶液で処理し、生じたヨウ素をEtOで抽出して取り除いた。水層を1M−NaOHで中和後、限外ろ過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、200mg得た。
次に、脱NAc体40mg、炭酸ナトリウム40mg、SO・NMe40mgをHO 8mLに溶解し、55℃で24h反応させた。限外ろ過により脱塩、精製し、凍結乾燥を行い、N−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を25mg得た。
【0041】
(実施例1)ATIIIの結合活性
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)を50mMトリス塩酸緩衝液pH8.4 240μLに溶解し、正常ヒト血漿30μLとATIII液(1単位/mL)30μLを添加し、37℃で3分間加温する。ファクターXa液(7.1nkat S−2222/mL)75μLを添加し、37℃で30秒間加温する。基質液(S−2222、積水メディカル製)150μLを添加し、37℃で3分間加温する。50%酢酸液225μLで反応を停止し、405nmで吸光度を測定する。ATIIIの結合活性が既知のヘパリンと吸光度を比較して結合活性を算出する。
【0042】
(実施例2)
実施例1において、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)の替わりに、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を用いた他は、実施例1と同様にして、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)におけるATIIIの結合活性を算出した。
【0043】
(実施例3)E2吸着能(E2吸着阻害活性)
ヘパリン固定化プレート(BD社製)にヘパリン25μg/mL、100μLをプレートのウエルに分注する。4℃で一晩放置し、0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。1%BSA−PBS 200μLをウエルに分注し、室温で1時間放置する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。
次に、適宜希釈したヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)と5μg/mL HCV E2蛋白質(His−tag)(Abcam製)液を等量混合し、室温で1時間放置したものをウエルに100μL分注し、室温で1時間攪拌する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。ペルオキシダーゼ標識化抗His−tag抗体溶液(Roche製)をウエルに100μL分注し、室温で1時間攪拌する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。TMB基質液(PIERCE社)をウエルに100μL分注し、室温で10分間攪拌する。0.5mol/L硫酸をウエルに100μL添加して、450nmで吸光度を測定する。
【0044】
ヘパリン誘導体溶液の代わりにPBSとHCV E2蛋白質(His−tag)溶液を混合したものを同様に測定する。下記の式からヘパリン誘導体がHCV E2蛋白質(His−tag)の吸着を阻害した割合を算出する。さらに、50%阻害した濃度からE2吸着阻害活性を算出する。この値は小さいほどヘパリン誘導体のE2結合能が高い。

E2吸着阻害活性(%)=100−(ヘパリン誘導体液+HCV E2蛋白質(His−tag)液)の吸光度/HCV E2蛋白質(His−tag)液の吸光度
【0045】
(実施例4)
実施例3において、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)の替わりに、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を用いた他は、実施例3と同様にして、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)におけるE2吸着阻害活性を測定した。
【0046】
(実施例5)ApoB吸着能(ApoBによるE2吸着阻害活性)
ヘパリン固定化プレート(BD社製)にヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)25μg/mL、100μLをプレートのウエルに分注する。4℃で一晩放置し、0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。1%BSA−PBS 200μLをウエルに分注し、室温で1時間放置する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。次に、5μg/mL HCV E2蛋白質(His−tag)(Abcam製)液とApoB溶液(5μg/mL、または50μg/mL)を等量混合したものをウエルに100μL分注し、室温で1時間攪拌する。0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。ペルオキシダーゼ標識化抗His−tag抗体溶液(Roche製)をウエルに100μL分注し、室温で1時間攪拌する。
【0047】
0.1%ツイーン20−PBS400μLで3回洗浄する。TMB基質液(PIERCE社)をウエルに100μL分注し、室温で10分間攪拌する。0.5mol/L硫酸をウエルに100μL添加して、450nmで吸光度を測定する。ApoB溶液の代わりにPBSとHCV E2蛋白質(His−tag)溶液を混合したものを同様に測定する。下記の式からApoBがHCV E2蛋白質(His−tag)の吸着を阻害した割合を算出する。この値は小さいほどヘパリン誘導体とApoBの結合が低い。
ApoBによるE2吸着阻害活性(%)=100−(ApoB液+HCV E2蛋白質(His−tag)液)の吸光度/HCV E2蛋白質(His−tag)液の吸光度
【0048】
(実施例6)
実施例5において、ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)の替わりに、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)を用いた他は、実施例5と同様にして、ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)におけるApoBによるE2吸着阻害活性を測定した。
【0049】
(比較例1)〜(比較例15)
下記表1に示すヘパリン誘導体について、上記実施例1〜6に準じて、比較試験を行った。
結果を、表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
本実施例及び比較例に記載のヘパリン誘導体は以下の通りである。
・ヘパリン誘導体(A):水酸基残基を硫酸化(Neoparin社製)
・ヘパリン誘導体(B):アセチル化アミノ基を硫酸化アミノ基に変換(Neoparin社製)
・ヘパリン:ブタ腸粘膜由来(LDO社製)
・2−O−Desulfated ヘパリン:脱2−O−硫酸基(Neoparin社製)
・6−O−Desulfated ヘパリン:脱6−O−硫酸基(Neoparin社製)
・De−N−sulfated ヘパリン:硫酸化アミノ基を脱硫酸(Neoparin社製)
・アセチル化ヘパリン:ヘパリンの遊離アミノ基を、無水酢酸/酢酸ナトリウムでアセチル化
【0052】
本結果より、本発明のヘパリン誘導体(A)及び(B)は、比較例の何れのヘパリン又はヘパリン誘導体より、E2に対する高い吸着効果を有し、また効率的にE2を吸着することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の肝炎ウイルス吸着剤は、肝炎ウイルスを効率的に吸着する機能を有する肝炎ウイルス吸着する機能を有し肝炎ウイルス治療剤への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘパリン誘導体を含有する肝炎ウイルス吸着剤であって、該ヘパリン誘導体が、
ヘパリンの1級又は2級水酸基を硫酸エステル化したヘパリン誘導体(A)、又は
ヘパリンのN−アセチル基のアセチル基脱離体をN−硫酸エステル化したヘパリン誘導体(B)であることを特徴とする肝炎ウイルス吸着剤。
【請求項2】
肝炎ウイルスがC型肝炎ウイルスである請求項1に記載の肝炎ウイルス吸着剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の肝炎ウイルス吸着剤を用いた肝炎ウイルスの除去方法。

【公開番号】特開2011−195464(P2011−195464A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60682(P2010−60682)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】