説明

肥満に関連するシステインジオキシゲナーゼ(CDO)発現調節因子のスクリーニング方法

【課題】アディポサイトカインと生活習慣病の発症との関係を解明し、生活習慣病の予防法/治療法に利用し得る新たな方法、手段を提供すること。
【解決手段】試験用動物に被試験物質を投与し、試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)mRNA量を測定し、被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定する、肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法。培養脂肪細胞を被試験物質の存在下で培養し、培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定し、被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定する、肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法。これらの方法を利用する肥満に関連するCDO発現調節因子のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満に関連するシステインジオキシゲナーゼ(以下、CDOという)発現調節因子の検査方法及びスクリーニング方法に関する。より具体的には、本発明は、肥満に関連するCDO発現増大因子及びCDO発現減少因子の検査方法及びスクリーニング方法を包含する。
【背景技術】
【0002】
肥満/糖尿病などの生活習慣病は発症の原因特定が難しく、予防法/治療法が完全に確立されていない。
【0003】
これまで、肥満/糖尿病の予防および治療には食事制限(エネルギー/カロリー制限)と運動療法が主として行なわれていた。しかし、それは過剰に蓄えられた脂肪を減らすという対処療法であり、根本的な解決ではなかった。肥満/糖尿病等の生活習慣病は遺伝性素因と環境因子(食事や運動)が複雑にからみ合い発症しており、その原因の特定が困難なため、個人個人に対応した処置が行なわれていないのが現状である。
【0004】
肥満/糖尿病患者に対して厳密な食事制限を行なっても、効果が得られない症例が存在する。その場合、この患者は食事制限や運動療法を適正に行なっていないと判断されて来た。しかし、実際には肥満/糖尿病の発症には、複雑な因子が関与しており、その原因によって個人別のオーダーメード、テーラーメードの治療法を考えなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、脂肪組織から分泌されるホルモン様物質であるアディポサイトカインがこれらの疾患を制御している事が明らかとなり、精力的な研究が進められている。しかし、現在知られているアディポサイトカインのみで生活習慣病の発症を説明するには不十分である。そのため、未だ決定的な改善策が得られていないのが現状である。
【0006】
そこで本発明は、アディポサイトカインと生活習慣病の発症との関係を解明し、生活習慣病の予防法/治療法に利用し得る新たな方法、手段を提供することも目的とするものである。
【0007】
本発明者らは、タウリンが新規のアディポサイトカインである事、肥満/糖尿病動物ではタウリンの合成能が低下しておりタウリンの潜在的欠乏が生じている事、食事へのタウリン添加が肥満/インスリン抵抗性を改善する事を見出した。さらに、タウリンが脂肪組織中に含まれる脂肪細胞に含まれるCDOにより合成され、脂肪組織中に含まれる脂肪細胞に含まれるCDOのmRNA量およびたんぱく質量とタウリンの生合成と肥満とが関連することを見出した。
【0008】
そして、本発明者らは、上記新たな知見に基づいて、生体内のタウリン合成を変化させる物質、例えば、促進または減退させる物質の検査、検索(スクリーニング)方法を完成させた。
この検査、検索方法により得られる物質は、新たな生活習慣病の予防法/治療法に有用であると期待される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明は以下の通りである。
[請求項1]試験用動物に被試験物質を投与し、上記試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)mRNA量を測定し、上記被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定することを含む、被試験物質が肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法。
[請求項2]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、被試験物質が肥満に関連するCDO発現増大因子であることを検査する方法である請求項1に記載の方法。
[請求項3]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、被試験物質が肥満に関連するCDO発現減少因子であること検査する方法である請求項1に記載の方法。
[請求項4]2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、各被試験物質を試験用動物に投与し、上記試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)mRNA量を測定し、上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択することを含む肥満に関連するCDO発現調節因子のスクリーニング方法。
[請求項5]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、肥満に関連するCDO発現増大因子をスクリーニングする方法である請求項4に記載の方法。
[請求項6]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、肥満に関連するCDO発現減少因子をスクリーニングする方法である請求項4に記載の方法。
[請求項7]培養脂肪細胞を被試験物質の存在下で培養し、培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)mRNA量を測定し、上記被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定することを含む、被試験物質が肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法。
[請求項8]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、被試験物質が肥満に関連するCDO発現増大因子であることを検査する方法である請求項7に記載の方法。
[請求項9]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、被試験物質が肥満に関連するCDO発現減少因子であること検査する方法である請求項7に記載の方法。
[請求項10]2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、各被試験物質存在下で培養脂肪細胞を培養し、培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)mRNA量を測定し、上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択することを含む肥満に関連するCDO発現調節因子のスクリーニング方法。
[請求項11]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、肥満に関連するCDO発現増大因子をスクリーニングする方法である請求項10に記載の方法。
[請求項12]上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、肥満に関連するCDO発現減少因子をスクリーニングする方法である請求項10に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
これまで、肥満/糖尿病の治療は食べる事の制限や運動による消費エネルギーの促進という手段で行なわれて来たが、個々人の対応には限度があり最良の治療法とは言えなかった。それぞれのヒトの発症原因を見極める事が重要であるが、それは非常に難しかった。
本発明者らは全く新しい視点から、タウリンの潜在的欠乏が肥満/糖尿病の発症原因の一つであり、タウリンがアディポサイトカインとして全く新しい機能を有していることを示した。
【0011】
本発明者らは既に、マウスの食事中にタウリンを添加する事で高脂肪食を摂取した場合に発症する肥満/インスリン抵抗性を防ぐ事を明らかにしている。しかし、タウリンは水溶性のアミノ酸であり、過剰に摂取しても尿中へ排泄されてしまう。そこで、内面からの治療法として、CDOの発現量を増加させる物質をスクリーニングし、得られた物質を用いて生体内でのタウリン合成能を促進させることにより、体質改善および生活習慣病の予防も含めた治療を提供することができる。CDOの発現調節は不明な点が多く、どのような因子により調節されているのか未知な部分も多い。しかし、本発明者らが既にクローニングしたCDO遺伝子の発現調節領域を用いて発現調節因子が特定出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法及び肥満に関連するCDO発現調節因子のスクリーニング方法に関し、(1)試験用動物を用いる方法、及び(2)培養脂肪細胞を用いる方法がある。以下、これらの方法について順に説明する。
【0013】
[試験用動物を用いるCDO発現調節因子の検査方法]
試験用動物を用いるCDO発現調節因子の検査方法は、試験用動物に被試験物質を投与し、上記試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定し、上記被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定することを含む。この方法により、被試験物質が肥満に関連するCDO発現調節因子であるかを検査することができる。
【0014】
まず、試験用動物に被試験物質を投与する。試験用動物は、再現性、操作性、利便性に優れ、人間のモデルになりうる動物という観点から適宜選択され、マウス、ラット、モルモット等であることが適当であり、特にマウスを好ましく用いることができる。マウスとしては、C57Bl/6マウス、BALBCマウス、KKAyマウス、ob/obマウス、db/dbマウス等を用いることができる。
【0015】
被試験物質は、公知の物質であっても、本発明完成時に未知の物質であっても良く、合成物質、半合成物質、天然物質のいずれであっても良い。
【0016】
被試験物質の投与形態は、被試験物質の種類及び試験用動物の種類等を考慮して適宜選択できるが、例えば、経口投与、混餌投与、皮下投与、腹腔投与、静脈投与等であることができる。
【0017】
被試験物質の投与量及び投与スケジュールは、被試験物質の溶解性、物理的性質、特性等を考慮して適宜選択できるが、例えば、以下の用にすることができる。
1)被試験物質を餌に5%の割合で混合し(重量%)、毎日新しい餌を与え、1週間摂取させる。
2)被試験物質を生理食塩水に20mg/ml濃度に溶解し、ゾンデで経口的に胃内に挿入する。
3)被試験物質を生理食塩水に50μg/ml濃度に溶解し、腹腔注射を一日2回(朝、夕)の反復投与を3日間行なう。
【0018】
また、複数の被試験物質の併用効果を本発明の方法を用いて検査することもできる。複数の被試験物質を用いる場合、各被試験物質の投与量及び投与スケジュールは、併用の狙い等を考慮して適宜決定できる。
【0019】
上記のように所定量の被試験物質を投与した試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出する。MRNAの抽出は、例えば、試験用動物から脂肪組織及び/又は脂肪細胞を常法により摘出し、次いで、摘出した脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出することで行うことができる。脂肪組織及び/又は脂肪細胞からのmRNAの抽出は、例えば、以下のように行うことができる。
【0020】
摘出した脂肪組織または脂肪細胞を5Mグアニジンチオシアネート溶液中でポリトロンホモジナイザーを用いてホモジナイズを行ない、フェノールを加えて混和し続いてクロロホルム/イソアミルアルコールを加えて混和した後、遠心分離して脂質及びたんぱく質を除去する。その後、イソブロパノールによりRNAを析出させ遠心分離により沈澱させる。沈澱したRNA中の塩を80%エタノールで洗浄した後DEPC水に溶解し、RNAサンプルとする。
【0021】
次いで抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定する。CDOのmRNA量測定は、例えば、抽出したmRNAを各mRNAに分離し、分離したmRNAの中から、標識したCDO cDNAをプローブとして用い、このCDO cDNAとハイブリダイズしたmRNA、即ちCDOのmRNAの量を、上記標識を用いて計測することで行うことができる。抽出したmRNAの各mRNA画分への分離は、例えば、アガロースゲル等を用いる電気泳動法で行うことができる。
【0022】
上記CDOのmRNA量の測定は、より具体的には、例えば、ノーザンブロット法で行うことができる。ノーザンブロット法は、分離したmRNAをナイロンメンブレンにブロッティングし、これを放射性同位元素32Pで標識したCDO cDNAをプローブとして用いて、ハイブリダイゼーションを行ない、メンブレンの放射活性を測定することで行うことができる。
【0023】
上記CDOのmRNA量測定によって被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定することができる。そして、上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大である場合、被試験物質が肥満に関連するCDO発現増大因子であることが分かる。また、上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少である場合、被試験物質が肥満に関連するCDO発現減少因子であることが分かる。
【0024】
[試験用動物を用いるCDO発現調節因子のスクリーニング方法]
試験用動物を用いるCDO発現調節因子のスクリーニング方法は、2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、各被試験物質を試験用動物に投与し、上記試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定し、上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択することを含む。
【0025】
即ち、試験用動物を用いるCDO発現調節因子のスクリーニング方法は、2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、各被試験物質について、上記CDO発現調節因子の検査方法を用いてCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定し、その結果に基づいて上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択する。この方法により、上記被試験物質からなる群から肥満に関連するCDO発現調節因子をスクリーニングすることができる。
【0026】
被試験物質の群を構成する被試験物質は特に制限されることはなく、前述の被試験物質を適宜含むことができる。また、被試験物質の群は、別の検査方法またはスクリーニング方法により選択された物質を含み、または選択された物質からなることもできる。
【0027】
CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大である被試験物質を選択することで、肥満に関連するCDO発現増大因子をスクリーニングすることができる。また、CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少である被試験物質を選択することで、肥満に関連するCDO発現減少因子をスクリーニングすることができる。
【0028】
[培養脂肪細胞を用いるCDO発現調節因子の検査方法]
培養脂肪細胞を用いるCDO発現調節因子の検査方法は、培養脂肪細胞を被試験物質の存在下で培養し、培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定し、上記被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定することを含む。この方法により、被試験物質が肥満に関連するCDO発現調節因子であるかを検査することができる。
【0029】
培養脂肪細胞は、例えば、3T3-L1細胞、3T3-F442A細胞、HIB1B細胞、遊離脂肪細胞、遊離前駆脂肪細胞等であることができる。
【0030】
培養脂肪細胞を被試験物質の存在下で培養する。被試験物質の存在量(培養脂肪細胞への添加量)及び培養脂肪細胞への添加スケジュールは被試験物質の溶解性、物理的性質、特性等を考慮して適宜選択できる。例えば、以下のようにすることができる。被試験物質を培養液に40μmol/ml濃度に溶解させて、細胞培養上清に添加し(終濃度 100μM)、1〜3日間細胞を培養する。脂肪酸などの非水溶性物質は超音波処理により牛血清アルブミン(BSA)に懸濁した後、細胞培養上清に添加する。また、複数の被試験物質の併用効果を本発明の方法を用いて検査することもできる。複数の被試験物質を用いる場合、各被試験物質の添加量及び投与スケジュールは、併用の狙い等を考慮して適宜決定できる。
【0031】
被試験物質は、特に制限はなく、前述の試験用動物を用いた方法で説明した被試験物質等であることができる。
【0032】
培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定し、被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかの決定は、前述の試験用動物を用いた方法で説明と同様に行うことができる。
【0033】
このように、CDOのmRNA量測定によって被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定することができる。CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大である場合、被試験物質が肥満に関連するCDO発現増大因子であることが分かる。また、CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少である場合、被試験物質が肥満に関連するCDO発現減少因子であることが分かる。
【0034】
[培養脂肪細胞を用いるCDO発現調節因子のスクリーニング方法]
培養脂肪細胞を用いるCDO発現調節因子のスクリーニング方法は、2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、各被試験物質存在下で培養脂肪細胞を培養し、培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、抽出したmRNA中に含まれるCDOのmRNA量を測定し、上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択することを含む。
【0035】
即ち、培養脂肪細胞を用いるCDO発現調節因子のスクリーニング方法は、2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、各被試験物質について、上記CDO発現調節因子の検査方法を用いてCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定し、その結果に基づいて上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択する。この方法により、被試験物質からなる群から、肥満に関連するCDO発現調節因子をスクリーニングすることができる。
【0036】
被試験物質の群を構成する被試験物質は特に制限されることはなく、前述の被試験物質を適宜含むことができる。また、被試験物質の群は、別の検査方法またはスクリーニング方法により選択された物質を含み、または選択された物質からなることもできる。
【0037】
CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大である、肥満に関連するCDO発現増大因子をスクリーニングすることができる。また、CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少である被試験物質を選択することで、肥満に関連するCDO被試験物質を選択することで発現減少因子をスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例によりさらに詳細に説明する。
1)実験動物および培養細胞を用いた方法
実施例1
a)混餌による方法
マウス( C57BL/6J、BALB/C等)およびラット(SD系、Fisher系等)を紅花油ベースの高炭水化物食(脂肪エネルギー比10%)で1週間予備飼育する。気温25℃、12時間明期/暗期の明暗サイクル(7:00-19:00)とする。予備飼育終了後、コントロール群に紅花油ベース高脂肪食(脂肪エネルギー比60%)を与える。スクリーニング群には、高脂肪食に様々な食事成分(生理活性物質を含む)を添加した実験食を与える。添加量は重量%とし、0.1%〜5%まで、段階的に添加する。約1週間、実験食を毎日与えて飼育する。実験食飼育終了後、脂肪組織(子宮周囲および睾丸周囲脂肪組織、後腹壁脂肪組織、皮下脂肪組織)を摘出し、5Mグアニジンチオシアネート試薬でホモジナイズし、AGPC法によりメッセンジャーRNA(mRNA)を抽出する。ノーザンブロット法およびRT-PCR法等でシステインジオキシゲナーゼ(CDO) mRNA発現量を測定し、CDOの遺伝子発現を増減させる成分を同定する。
【0039】
上記方法に基づいて、以下のクリーニングを実施した。
7週齢のC57BL/6J雌性マウスに紅花油ベースの高炭水化物食(脂肪エネルギー比10%)を与え1週間予備飼育した。予備飼育終了後、コントロール群に高炭水化物食、高脂肪食群に紅花油ベース高脂肪食(脂肪エネルギー比60%)を与えた。スクリーニング群として、脂肪源に魚油を用いた高脂肪食(脂肪エネルギー比60%)を与えた。1週間、実験食を毎日摂取させて飼育した後、子宮周囲脂肪組織を摘出し、5Mグアニジンチオシアネート試薬でホモジナイズし、AGPC法によりmRNAを抽出し、ノーザンブロット法でCDO mRNA発現量を測定した。CDO mRNA発現量は図1Aに示すように、高脂肪食摂取により有意に減少し、魚油摂取で増加した。魚油は脂肪組織のCDO mRNA発現量を有意に増加させ、体内のタウリン合成能を高める可能性が示唆された。
【0040】
実際に、上記の方法によりCDO発現増加因子としてスクリーニングされた魚油を3ヵ月間C57BL/6Jマウスに摂取させたところ、体重増加抑制(図1B)、体脂肪の増加抑制(図1C)および血糖の改善(図1D)が認められ肥満の有意な改善が認められた。以上の結果から、魚油はCDOの発現増加を介した抗肥満因子である可能性が示唆された。
【0041】
実施例2
b)腹腔投与および皮下投与による方法
マウス( C57BL/6J、BALB/C等)およびラット(SD系、Fisher系等)を繁殖用固形飼料(CE2、日本クレア社)で1週間予備飼育する。気温25℃、12時間明期/暗期の明暗サイクル(7:00-19:00)とする。予備飼育終了後、マウス腹腔に様々な生理活性物質(ホルモン等も含む)を投与する。物質投与は生理食塩水に溶解した後、腹腔内注射または浸透圧ポンプを皮下挿入して行い、1日2回(朝夕)、3日〜1週間の連続投与とする。投与終了後、脂肪組織(子宮周囲および睾丸周囲脂肪組織、後腹壁脂肪組織、皮下脂肪組織)を摘出し、5Mグアニジンチオシアネート試薬でホモジナイズし、AGPC法によりmRNAを抽出する。ノーザンブロット法およびRT-PCR法等でCDO mRNA発現量を測定し、CDOの遺伝子発現を増減させる成分を同定する。
【0042】
上記の方法に基づいて、以下のスクリーニングを実施した。
7週齢のC57BL/6J雌性マウスに繁殖用固形飼料を与え1週間予備飼育した。予備飼育終了後、エストロジェン、レプチン、β3アドレナリン受容体アゴニスト(BRL37344)、をマウス腹腔および皮下投与した。エストロゲンはマイクロポンプを用いて皮下に挿入し、一日当たり0.03μg注入されるよう設定し6週間投与した。レプチンはマイクロポンプを用いて皮下に挿入し、一日当たり5μg注入されるよう設定し12日間投与した。β3アドレナリン受容体アゴニスト(BRL37344)は体重1g当り1μg量を腹腔注射により2回(朝夕)投与し、5時間後に解剖した。投与終了後、子宮周囲脂肪組織を摘出し、5Mグアニジンチオシアネート試薬でホモジナイズし、AGPC法によりmRNAを抽出し、ノーザンブロット法でCDO mRNA発現量を測定した。CDO mRNA発現量は図2Aに示すように、エストロジェンの投与により軽度に減少する傾向が認められた。レプチンの投与は脂肪組織のCDO mRNA発現量に影響を及ぼさなかった(図2B)。β3アドレナリン受容体アゴニスト(BRL37344)投与においても脂肪組織のCDO mRNA発現量は変動しなかった(図2C)。以上の結果から、エストロジェンはCDOの発現を減少させる物質である可能性が示唆され、肥満に関連する因子である可能性が示唆された。
【0043】
実施例3
c)培養細胞の培地への添加による方法
培養脂肪細胞(3T3-L1細胞、3T3-F442A細胞、HIB1B細胞、遊離脂肪細胞、等)(American Type Culture Collection, 米国)をDMEM液体培地(4500 mg glucose/L、10% 牛胎児血清、2 mM グルタミン, 100 units/ml ペニシリン, 100 ug/ml ストレプトマイシン)で5%CO2濃度、37℃温度条件下で培養する。細胞がコンフルエントに達した2日後、培養液中に10 μM デキサメサゾン 0.5 mM イソブチルメチルキサンチンおよび10 μg/ml インスリンを添加し、脂肪細胞に分化誘導する(遊離脂肪細胞のみ分化誘導は必要なし)。分化誘導後8日目に、様々な生理活性物質を液体培地に添加し、さらに2日間培養する。その後、培養細胞を回収し、5Mグアニジンチオシアネート試薬でホモジナイズし、AGPC法によりmRNAを抽出する。ノーザンブロット法およびRT-PCR法等でCDO mRNA発現量を測定し、CDOの遺伝子発現を増減させる成分を同定する。
【0044】
ノーザンブロット法によるCDO mRNA発現量の測定は、抽出したmRNAをグリオキサール法で変性し、アガロースゲル電気泳動法で分離した後、ナイロンメンブレンにブロッティングし、放射性同位元素32Pまたは蛍光物質で標識したCDO cDNAをプローブとしてハイブリダイゼーションを行い、イメージングアナライザーを用いてCDO mRNAの遺伝子発現量を定量する。
【0045】
RT-PCR法では、抽出したmRNAを鋳型としてcDNAを合成し、これをテンプレートとしてCDO cDNA配列のプライマーで増幅させ、アガロース電気泳動によりCDO mRNA発現量を定量する。
【0046】
上記の方法に基づいて、以下のスクリーニングを実施した。
培養脂肪細胞(3T3-L1細胞、American Type Culture Collection, 米国)をDMEM液体培地(4500 mg glucose/L、10% 牛胎児血清、2 mM グルタミン, 100 units/ml ペニシリン, 100 ug/ml ストレプトマイシン)で5%CO2濃度、37℃温度条件下で培養した。細胞がコンフルエントに達した2日後、培養液中に10 μM デキサメサゾン 0.5 mM イソブチルメチルキサンチンおよび10 μg/ml インスリンを添加し、脂肪細胞に分化誘導した。分化誘導後8日目に、トログリタゾン、共役リノール酸(CLA)を液体培地に添加し、さらに2日間培養した。共役リノール酸(CLA)は超音波処理により牛血清アルブミン(BSA)に懸濁した後、細胞培養上清に添加した。培養終了後、培養細胞を回収し、5Mグアニジンチオシアネート試薬でホモジナイズし、AGPC法によりmRNAを抽出し、ノーザンブロット法でCDO mRNA発現量を測定した。図3Aに示すように、3T3-L1細胞のCDO mRNA発現量はトログリタゾンの添加により増加した。一方、共役リノール酸(CLA)の添加により3T3-L1細胞のCDO mRNA発現量は減少した(図3B)。トログリタゾンおよび共役リノール酸はCDOの発現変化を介して肥満の発症を制御している可能性が示唆された。
【0047】
参考例
CDO発現量と肥満の関連性に関する検討
肥満/糖尿病とタウリンの関連を調べるため、C57BL/6J雌性マウスに紅花油ベースの高炭水化物食および高脂肪食を与えて5ヵ月飼育した。高脂肪食群では体重の増加(図4A)、体脂肪重量の増加(図4B)、脂肪細胞サイズが増大(図4C)し明らかな肥満を発症した。血中のタウリンレベルを測定したところ、血中タウリンレベルは明らかに減少していた(図4D、P<0.01)。同時に、タウリン合成の律速酵素であるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)のmRNA発現量も脂肪組織で減少していた(図4E)。脂肪組織切片を用いた免疫染色法により測定したCDOたんぱく質量も減少しており(図4F)、肥満と脂肪組織のCDO発現量が逆相関することが示唆された。
【0048】
その他の肥満モデルである遺伝性肥満KKAyマウスについても調べたところ、同様に血中のタウリンレベルの低下(図5A)と脂肪組織のCDOmRNA発現量の減少(図5B)を認めた。この傾向はKKAyマウスに高脂肪食を与えるとさらに顕著に認められた。KKAyマウスでは体重の増加(図5C)、インスリン抵抗性(図5D)が認められた。
【0049】
食事性肥満マウス、遺伝性肥満マウスのどちらにおいても脂肪組織のCDO発現量減少によるタウリン合成能の低下が認められる事から、脂肪組織のCDOに焦点を絞りさらに検討した。CDO mRNA発現量は内臓脂肪組織で強く発現していた(図6A)。これは、生体内のタウリン合成の中心であると考えられていた肝臓とほぼ同程度の高発現であった。この脂肪組織でのCDO mRNA発現は大部分が脂肪細胞に由来しており(図6B)、非脂肪細胞では発現していなかった。3T3-L1細胞を用いて前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化過程でのCDO発現量を調べたところ、CDO mRNAは脂肪細胞への分化にともない発現量が増加していた(図6C)。
【0050】
脂肪細胞がタウリンを合成する組織である事は証明されていないため、3T3-L1細胞を用いてCDOを強制的に過剰発現させ、脂肪細胞でタウリンが合成されるか否か調べた。その結果、CDOの強制発現により、培養液中のタウリン量が増加し、タウリン合成の基質であるシステイン量が減少した(図6D)。つまり、脂肪組織でCDOはシステインを原料としてタウリンを合成している事、さらにそのタウリンを細胞外に分泌している可能性が示唆された。この事からタウリンが新規のアディポサイトカイン(脂肪細胞から分泌されるホルモン様物質)であり、タウリンが肥満/糖尿病の発症に関与している可能性が考えられた。
【0051】
そこで、高脂肪食にタウリンを添加して(紅花油ベース高脂肪食に5%タウリン添加)、高脂肪食誘導性肥満に対するタウリンの影響を検討した。タウリン添加群では体重の減少(図7A)、脂肪組織重量の減少(図7B)、体脂肪率の減少(図7C)、インスリン抵抗性の改善(図7D)を部分的に認めた。食事由来のタウリンも部分的に肥満/インスリン抵抗性を改善したが、根本的な解決ではないため、体の内面から改善する事を目指し、CDOの発現増加因子をスクリーニングし、生体内のタウリン合成を増加させる事による生活習慣病の新規予防法/治療法を考案した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明により、生体内のタウリン合成を変化させる物質を検査または検索(スクリーニング)することで、生活習慣病の予防法/治療法に有用な、新たな機能を有する物質を効率的に探索することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例1で得られたCDOを指標とした抗肥満成分(魚油)のスクリーニング結果を示す。(A) 脂肪組織におけるCDO mRNA発現量、(B) 体重、(C) 内臓脂肪重量、(D) 血糖。
【図2】実施例2で得られた、CDOを指標とした抗肥満成分のスクリーニング結果を示す。(A) マウスへのエストロジェン投与、(B) マウスへのレプチン投与、(C) マウスへのβ3アドレナリン受容体アゴニスト投与
【図3】実施例3で得られたCDOを指標とした抗肥満成分のスクリーニング結果を示す。(A) 3T3-L1 細胞へのトログリタゾン添加、(B) 3T3-L1 細胞への共役リノール酸添加
【図4】C57BL/6J雌性マウスにおける、高脂肪食摂取による肥満と脂肪組織におけるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)発現量の関連性についての実験結果を示す。
【図5】遺伝性肥満マウス(KKAy)と脂肪組織におけるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)発現量の関連性についての実験結果を示す。
【図6】脂肪組織および脂肪細胞におけるシステインジオキシゲナーゼ(CDO)mRNA発現とタウリン合成との関係についての実験結果を示す。
【図7】タウリン添加食による抗肥満作用についての実験結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験用動物に被試験物質を投与し、
上記試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、
抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(以下、CDOという)mRNA量を測定し、
上記被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定する
ことを含む、被試験物質が肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法。
【請求項2】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、
被試験物質が肥満に関連するCDO発現増大因子であることを検査する方法である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、
被試験物質が肥満に関連するCDO発現減少因子であること検査する方法である
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、
各被試験物質を試験用動物に投与し、
上記試験用動物の脂肪組織及び/又は脂肪細胞からmRNAを抽出し、
抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(以下、CDOという)mRNA量を測定し、
上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択する
ことを含む肥満に関連するCDO発現調節因子のスクリーニング方法。
【請求項5】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、
肥満に関連するCDO発現増大因子をスクリーニングする方法である
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、
肥満に関連するCDO発現減少因子をスクリーニングする方法である
請求項4に記載の方法。
【請求項7】
培養脂肪細胞を被試験物質の存在下で培養し、
培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、
抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(以下、CDOという)mRNA量を測定し、
上記被試験物質がCDOのmRNA発現量を変化させる物質であるかを決定する
ことを含む、被試験物質が肥満に関連するCDO発現調節因子の検査方法。
【請求項8】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、
被試験物質が肥満に関連するCDO発現増大因子であることを検査する方法である
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、
被試験物質が肥満に関連するCDO発現減少因子であること検査する方法である
請求項7に記載の方法。
【請求項10】
2つ以上の被試験物質からなる群を用意し、
各被試験物質存在下で培養脂肪細胞を培養し、
培養した脂肪細胞からmRNAを抽出し、
抽出したmRNA中に含まれるシステインジオキシゲナーゼ(以下、CDOという)mRNA量を測定し、
上記群からCDOのmRNA発現量を変化させる被試験物質を選択する
ことを含む肥満に関連するCDO発現調節因子のスクリーニング方法。
【請求項11】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の増大であり、
肥満に関連するCDO発現増大因子をスクリーニングする方法である
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記CDOのmRNA発現量の変化が、CDOのmRNA発現量の減少であり、
肥満に関連するCDO発現減少因子をスクリーニングする方法である
請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−6231(P2006−6231A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189385(P2004−189385)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年4月1日 日本栄養・食糧学会発行の「第58回 日本栄養・食糧学会大会講演要旨集」に発表
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】