説明

胃上皮細胞保護剤

【課題】 胃上皮細胞保護作用に優れた安全性の高い組成物を提供する。
【解決手段】 グルクロン酸基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする胃上皮細胞保護剤。該保護剤は、優れた胃粘膜保護作用(ピロリ菌による細胞の空胞化抑制作用、ウレアーゼ抑制作用、胃上皮細胞へのピロリ菌付着抑制作用)をもつ。該保護剤は食品添加剤として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃潰瘍などの原因となるピロリ菌から胃粘膜を保護するための組成物であって、人体に対して安全性の高い胃上皮細胞保護作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori、以下、本明細書では「ピロリ菌」と称する)は、WarrenとMarshalにより1983年に胃潰瘍の原因菌として発見された胃内に棲むグラム陰性ラセン状桿菌である。日本人の60歳以上のピロリ菌保有率は70%(海外を含む場合:ピロリ菌陽性率65%)であり、胃潰瘍発症者のピロリ菌陽性率は85%程度で年齢に無関係である。また、十二指腸潰瘍発症者のピロリ菌陽性率はほぼ100%である。最近ではピロリ菌の感染は胃潰瘍だけでなく胃癌の発症に関与していることが報告されている。従来、胃内は強酸性のため微生物の生存は困難であると言われてきたが、ピロリ菌は、胃粘膜内で酸性ウレアーゼを分泌し、尿素を分解してアンモニアを生成することにより周囲の塩酸を中和して生存している事が証明された(非特許文献7)。ピロリ菌の持続感染による粘膜内での炎症や細胞空胞化などの発症による細胞毒性が胃潰瘍や胃癌の原因の一つと言われている。
【0003】
ピロリ菌は、ランソプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用により消化管内から除去が可能で、ピロリ菌の除去により胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃萎縮等の病的症状が軽快する事が報告されている(非特許文献1)。しかし、抗生物質の過剰な使用により耐性菌が出現する可能性があり、潰瘍の再発例も報告されおり必ずしも万能な方法とは言えない。また、抗生物質の長期服用による副作用が報告されている。一方、食品中にはピロリ菌の増殖を抑制する作用をもつ物質として、ヨーグルトに含まれる乳酸菌の一種(非特許文献2)、ビタミンC(非特許文献3)、茶のカテキン(非特許文献4、非特許文献5)、ラクトフェリン(非特許文献6)、プロポリス(非特許文献7、非特許文8)、ココア(非特許文献9)、クランベリー(非特許文献10)、鶏卵抗体(非特許文献11)等が報告されている。しかし、これらの食品中の物質には、例えば、ピロリ菌が生産する毒素が引き起こす胃上皮細胞の空胞化を抑制する作用、ウレアーゼ阻害作用等の胃潰瘍の発症の抑制に関与する他の生理作用は報告されていない。
【0004】
前記食品中の物質以外にも、天然物から抽出される物質、あるいはそれらを加水分解した物質が、ピロリ菌に対して効果を示す例が報告されている。例えば、特許文献1には、フコイダンがピロリ菌の胃粘膜への接着を阻害することが記載されており、特許文献2には、キシロオリゴ糖がピロリ菌に対して静菌効果を有することが記載されている。
また、非特許文献12には、酸性キシロオリゴ糖がピロリ菌に対して抗菌効果を有することが示唆されている。
【0005】
酸性キシロオリゴ糖は酸性オリゴ糖の一種であり、綿実殻、コーンコブ、木材パルプ、バガス、麦芽粕等植物の長鎖の構造多糖であるヘミセルロースの一種であるキシランを酸やキシラナーゼ等の酵素で分解したものから得られる。キシランはキシロースがβ−1,4結合を主鎖とし、側鎖に色々な糖が結合している。すなわち、キシロースの3位にアラビノフラノースがα−1,3結合、2位に4−O−methyl−D−glucronic acidがα−1,2結合、また同じくキシロースの2位にアセチル基がエステル結合をしている。
【0006】
酸性キシロオリゴ糖を木材パルプから製造する方法が報告されている(特許文献3)。また、コーンコブや綿実セリのアルカリ抽出物をキシラナーゼで分解したものからカラムクロマトグラフィーなどで大量に酸性キシロオリゴ糖を製造することも可能である。酸性キシロオリゴ糖は、キシロースがβ−1,4結合で結合し、側鎖にグルクロン酸が結合している。精製した酸性キシロオリゴ糖は白色粉末であり、爽やかな酸味を持っているため飲料用素材としても有用である。酸性キシロオリゴ糖の生理活性については、抗炎症作用(特許文献4)、保湿作用(特許文献5)等が報告されている。しかし、キシロオリゴ糖あるいは酸性キシロオリゴ糖について、ピロリ菌により引き起こされる胃上皮細胞の空胞化抑制作用、ピロリ菌の胃上皮細胞付着抑制作用、抗ウレアーゼ作用等の生理作用については記載がない。
【0007】
【特許文献1】特開平7−138166号公報
【特許文献2】特開2008−120789号公報
【特許文献3】特開2003−183303号公報
【特許文献4】特開2003−221339号公報
【特許文献5】特開2005−187388号公報
【非特許文献1】「Helicobacter pyloriの新知見」 中山書店 p.279-286 (1995)
【非特許文献2】日本農芸化学会誌 Vol.76, 824-826 (2002)
【非特許文献3】Cancer Nov 15; 80 (10) 1897-1903 (1997)
【非特許文献4】Proceedings of the International Conference on O-CHA (Tea) Culture and Science p212-213 (2001)
【非特許文献5】第4回静岡健康・長寿フォーラム要旨 「緑茶カテキンによるピロリ菌除菌効果の検討」 P.417 (2000)
【非特許文献6】Dig. Liver Dis. 35 (10) 706-710 (2003)
【非特許文献7】Phytomedicine Jan; 8 (1) 16-23 (2001)
【非特許文献8】J. Med. Microbiol. May 52 (Pt5) 417-419 (2003)
【非特許文献9】食の科学 No.300, 14-20 (2003)
【非特許文献10】FEMS Med. Microbial. Dec. 29 (4) 295-301 (2000)
【非特許文献11】日本消化器学会雑誌第98巻臨時増刊号大会 「抗H. pylori urease鶏卵抗体の除菌効果」 番号 「消p-135」 (平成13年9月20日発行)
【非特許文献12】Int.J.Biol.Macromol. 31,171-175(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の事情に鑑み、本発明は、長期間使用しても安全性が高く、ピロリ菌による胃上皮細胞への付着を防止する作用、胃上皮細胞の空胞化を抑制する作用、ウレアーゼ阻害作用を発揮することにより、優れた胃上皮細胞保護作用を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、グルクロン酸基を有する酸性キシロオリゴ糖にピロリ菌毒素による胃上皮細胞の空胞化抑制作用、ウレアーゼ阻害作用、並びに胃上皮細胞への付着防止作用があることを見いだした。また、酸性キシロオリゴ糖を摂取したピロリ菌保菌者が摂取期間中にウレアーゼ活性が低下することを確認した。以上の生理作用を基に酸性キシロオリゴ糖が食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品等へ応用可能であることを見いだした。また、プラスティックの表面へのピロリ菌の付着抑制作用を見出し、胃カメラ等の医療機器の洗浄剤として使用可能であることを明らかにした。
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、グルクロン酸基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする胃上皮細胞保護剤に関する。
また、本発明は、前記グルクロン酸残基がメチルグルクロン酸残基である胃上皮細胞保護剤に関する。
また、本発明は、上記胃上皮細胞保護剤を含有する食品添加剤に関する。
また、本発明は、上記胃上皮細胞保護剤を添加してなる食品に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、ピロリ菌により引き起こされる胃粘膜の障害を改善する作用をもつ、人体に対して安全性の高い胃上皮細胞保護作用を有する組成物が提供される。また、本発明の組成物は、食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品に含有させて予防的・治療的に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
グルクロン酸基を有する酸性キシロオリゴ糖(以下、酸性キシロオリゴ糖と略する)は、例えば、木材パルプ製造工程で副生産物として得られるヘミセルロースの分解物、バガス、稲藁、麦藁、麦芽粕、コーン粕、コーンコブ、綿実セリ等のバイオマス由来の分解物を原料として製造することができる。ヘミセルロースの分解方法としては、酵素分解、アルカリ抽出後の酵素分解、爆砕、酸分解等が挙げられ、いずれの方法を用いることもできる。これらの分解物をイオン交換樹脂等で精製することにより酸性オリゴ糖画分を得ることができる。
【0013】
このような酸性キシロオリゴ糖の中で、キシロースがβ−1,4結合で結合しているオリゴ糖で、且つ側鎖にメチル化グルクロン酸残基を持つ酸性キシロオリゴ糖は爽やかな甘味・酸味をもつため飲料・食品素材としても好ましい性質を持つ。本発明は、このような酸性キシロオリゴ糖が優れた胃粘膜保護作用を有すること、具体的には、ピロリ菌毒素による胃上皮細胞の空胞化抑制作用、ウレアーゼ抑制作用等の生理作用を有することの知見に基づく発明である。
【0014】
本発明の酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする胃上皮細胞保護剤は、単独あるいは混合物として使用することができる。また、現在、使用されている抗生物質とは作用機構が異なるため、これらの抗生物質と併用することも可能である。胃上皮細胞保護剤の使用形態としては、例えば、粉末、液体、ゾル状、ゲル状等の形態で使用することができる。
【0015】
本発明の胃上皮細胞保護剤は、食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品に含有させて使用することもできるし、胃カメラ等の医療用機器の洗浄剤等に用いることができる。使用方法としては経口摂取してもよいし、外用剤として用いてもよい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、酸性キシロオリゴ糖の胃上皮細胞への効果を確認するために、胃上皮細胞のモデルとして、胃上皮由来の分化型胃癌由来の細胞株MKN28を培養して用いた。
【0017】
<酸性キシロオリゴ糖の作成例>
コーンコブ100gに水400mlを加え、希硫酸を用いてpH5に調整後、Xylanase Conc(樋口商会社製)を最終酵素力価50U/mlとなるように添加し、50℃にて30分反応させた。苛性ソーダを用いてpH10に調整後、オートクレーブ装置を用いて105℃、30分間加熱した。室温にまで冷却後、希硫酸を用いてpH5に調整後、Xylanase Conc(樋口商会社製)を最終酵素力価50U/mlとなるように添加し、50℃にて30分反応させた。遠心分離によって上清を得、イオン交換処理によって酸性キシロオリゴ糖組成物を精製した。この組成物中の酸性キシロオリゴ糖は平均重合度が約3であった。組成物中でグルクロノキシロビオースが約17%、グルクロノキシロトリオースが約34%、グルクロノキシロテトラオースが約29%であり、ほぼ、キシロースの2〜4量体を主成分とする混合物であった。上記混合組成物の胃上皮細胞保護剤としての性能を以下のように評価した。各評価試験では、この混合組成物を酸性キシロオリゴ糖として用いた。
【0018】
実施例1
<酸性キシロオリゴ糖による胃癌上皮細胞の空胞化抑制作用(1)>
胃上皮由来の胃癌細胞株(Adenocarcinoma)MKN28を用い、酸性キシロオリゴ糖(AX)の、ピロリ菌(HP)が誘導する胃癌細胞の空胞化抑制作用について評価した(図1)。前培養したMKN28細胞をPBS(−)で洗浄後、酸性キシロオリゴ糖の最終濃度が1000μg/mlになるように添加したRPMI1640培地(0.4%牛胎児血清含有、抗生物質不含)1.9mlに、ピロリ菌懸濁液(1.0×10/ml)0.1ミリリットルを添加し、22時間培養した。
その結果、酸性キシロオリゴ糖を添加しない培地で培養した細胞では細胞に空胞が生じた(図1−A)。
一方、酸性キシロオリゴ糖を1000μg/mlの濃度で添加した培地で培養した細胞では明らかに空胞数が減少した(図1−B)。
【0019】
次に、培地中の酸性キシロオリゴ糖濃度と空胞化抑制作用の関係について評価した。前記と同様の方法で培養したMKN28細胞を顕微鏡下(倍率:800倍)で無作為に6箇所を選択し、0.45mm当りの空胞数を計数した。
図2に示すように酸性キシロオリゴ糖は濃度依存的に細胞空胞化抑制作用を示した。
この結果から、空胞化現象を50%抑制するのに必要なオリゴ糖濃度は、約150μg/mlである。
【0020】
実施例2
<酸性キシロオリゴ糖による胃癌上皮細胞の空胞化抑制作用(2)>
実施例1と同様の方法で培養細胞(MKN28)へ、
(1)最初にピロリ菌を添加し、次に酸性キシロオリゴ糖を添加した場合(HP→AX)、
(2)最初に酸性キシロオリゴ糖を添加し、次にピロリ菌を添加した場合(AH→HP)の酸性キシロオリゴ糖による空胞化抑制作用について比較した。
(1)は、治療的作用を評価したものであり、(2)は、予防的作用を評価したものである。
図3に示すように、酸性キシロオリゴ糖をピロリ菌より先に添加した場合の作用(予防的作用)の方が、酸性キシロオリゴ糖をピロリ菌より後に添加した場合の作用(治療的作用)と比較して優れていた〔(1)が(2)に対して有意差あり:p=0.006〕。
【0021】
実施例3
<酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用(1)>
酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用について胃上皮由来の胃癌細胞(Adenocarcinoma)MKN28株を用いて検討した。10%牛胎児血清及び抗生物質を添加したRPMI1640培地で培養したMKN28株をプラスティックプレート(直径3.5cm)でセミコンフルエント状態で培養した(5%CO、37℃)。細胞の培養上清を除去し、PBS(−)で3回洗浄後、酸性キシロオリゴ糖の最終濃度が1000、2000、3000、4000、5000μg/mlとなるように添加したRPMI1640培地(0.4%牛胎児血清含有)1.9mlに交換した。次に、1時間後にピロリ菌懸濁液(1.0×10/ml)0.1mlを添加し約16時間培養した。培養液を除去し、PHS(−)溶液で3回洗浄してMKN28株に付着していないピロリ菌を除去した後、ギムザ染色で細胞の核とともにピロリ菌を染色した(濃い紫色)。酸性キシロオリゴ糖を予め添加してからピロリ菌を接種した試験区では、ピロリ菌のMKN28株への付着数は無添加区と比較して減少していた。酸性キシロオリゴ糖はピロリ菌の胃上皮細胞への付着抑制作用(予防効果)を持つことが示された(図4A、B、C参照)。
【0022】
実施例4
<酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用(2)>
実施例3と同様の条件で培養した胃癌上皮細胞(MKN28)に酸性キシロオリゴ糖の最終濃度が8、40、120、160、200、1000、5000μg/mlとなるように添加したRPMI1640培地(0.4%牛胎児血清含有)1.9mlを添加し1時間培養した。1時間後にピロリ菌懸濁液(1.0×10/ml)0.1mlを添加し約16時間培養した。培養液を除去し、PHS(−)溶液で3回洗浄してMKN28株に付着していないピロリ菌を除去した後、プレート(細胞組織)の6箇所(0.45mm)をランダムに選択し、光学顕微鏡(倍率:400倍)で細胞表面に付着したピロリ菌数を計測し、平均値を細胞付着数とした。図5に示すように、MKN株へのピロリ菌の付着菌数は酸性キシロオリゴ糖の濃度が高い程低下した(50%抑制濃度:約160μg/ml)。
【0023】
実施例5
<酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用(3)>
実施例3と同様の方法で培養細胞(MKN28)へ、
(1)最初にピロリ菌を添加し、次に酸性キシロオリゴ糖(最終濃度:1000μg/ml)を添加した場合(HP→AX)、
(2)最初に酸性キシロオリゴ糖(最終濃度:1000μg/ml)を添加し、次にピロリ菌を添加した場合(AH→HP)、
の酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌のMKN28細胞への付着抑制作用を比較した〔(1)治療的効果の検討、(2)予防的効果の検討〕。
図6に示すように、酸性キシロオリゴ糖をピロリ菌より先に添加した場合、及び酸性キシロオリゴ糖をピロリ菌より後に添加した場合のいずれの場合においても付着抑制作用が認められた。
【0024】
実施例6
<酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用(4)>
実施例3と同様の条件で培養した胃癌上皮細胞(MKN28)に、酸性キシロオリゴ糖の最終濃度が200、800、2000、2500、5000μg/mlとなるように添加したRPMI1640培地(0.4%牛胎児血清含有)1.9mlを添加し培養した。1時間後、ピロリ菌懸濁液(1.0×10/ml)0.1mlを添加し約16時間培養した。培養液を除去し、ハンクス液でMKN28細胞を5回洗浄してからメタノールで30分間固定した。メタノールを除去後、3%BSAを含むPHS(−)溶液に交換し、さらに1%BSAを含むPBS(−)に2回交換した後、FITC標識した抗H.pyloriウサギ抗体溶液(32倍希釈液)を添加し、5℃、暗所で一晩静置した。抗体溶液を除去し、ハンクス液で2回洗浄後、1%BSAを含むPBS(−)で洗浄し、蛍光実体顕微鏡(倍率:160倍)で観察した。ランダムに選択した接眼ミクロメーターの枠内のピロリ菌の数(緑色の数)を測定した。図7に示すように、酸性キシロオリゴ糖は濃度依存的にピロリ菌のMKN28細胞への付着を抑制した(50%抑制濃度:約200μg/ml)。
【0025】
実施例7
<酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌のプラスティック表面への付着抑制作用>
酸性キシロオリゴ糖の最終濃度が200μg/mlとなるようPBS(−)溶液に溶解した。この酸性キシロオリゴ糖水溶液をプラスティックシャーレに添加後、ピロリ菌の最終密度が1.0×10/mlとなるように添加した。22時間後、上清を除去しPHS(−)溶液でシャーレを洗浄後、プレートの6箇所(0.45mm)をランダムに選択し、光学顕微鏡(倍率:800倍)でプラスティック表面に付着したピロリ菌数を計測し、平均値を細胞付着数とした。図8に示すように、酸性キシロオリゴ糖は200μg/mlの濃度においてプラスティック表面へのピロリ菌の付着を抑制した。
【0026】
実施例8
<酸性キシロオリゴ糖の酸性ウレアーゼ阻害作用>
酸性キシロオリゴ糖のウレアーゼ阻害活性を下記の方法で測定した。ウレアーゼ(ナガセケムテック社:38,000U/g)を0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)に溶解し、ウレアーゼ溶液(0.8U/ml)を調製した。
ウレアーゼ溶液0.4mlと10%濃度の酸性キロオリゴ糖溶液0.1ml及び0.1M酢酸緩衝液(pH4.0)2.5mlを混合後、37℃で5分間保持した(酸性キシロオリゴ糖の最終濃度:0.25%)。次に、予め37℃、5分間保持しておいた0.6%尿素溶液1mlを混合液に添加し、37℃で保持した。30分経過後、10%TCA溶液4mlを添加して反応を停止した。反応終了後の上澄液1mlを蒸留水で10倍希釈した。希釈液4mlに発色液A(フェノール及びニトロプルシドナトリウム混合液)2ml、次に発色液B(水酸化ナトリウムとジ亜塩素酸ナトリムの混合液)2mlを添加し混合した。混合液を37℃で30分間保持後氷冷し、640nmの吸光度を測定した。尚、コントロールとして蒸留水を用いた。表1に結果を示す。酸性キシロオリゴ糖にはウレアーゼ阻害活性が認められた(阻害率5.9%)。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例9
<ヒトでの有効性試験>
成人男子のボランティア4名(ピロリ菌感染者1名を含む)に、30%酸性キシロオリゴ糖水溶液を1日2回(朝5ml、晩5ml)を14日間連続飲用させた。摂取前及び摂取期間終了後、呼気の迅速ウレアーゼ試験にてピロリ菌の感染をモニターした。
また、一般の血液生化学試験を実施した。摂取者全員に異常は全く観察されなかった。感染者1名については、酸性キシロオリゴ糖により迅速ウレアーゼ試験の陰性化傾向(数値の減少:摂取前30→摂取後8)が観察された。摂取終了から4週間後、再度迅速ウレアーゼ試験を実施した結果、迅速ウレアーゼ試験の数値は上昇していた。以上の結果から、酸性キシロオリゴ糖の摂取によりウレアーゼ活性が低下したと推定される。
【0029】
実施例10
以下に、飲みやすい健康飲料及び液剤としての配合を例示する。
〔配合例1(飲料)〕
酸性キシロオリゴ糖を添加した飲料の配合例を示す。酸性キシロオリゴ糖を200μg/ml以上を含有することが望ましい。
酸性キシロオリゴ糖 200mg
果糖・ぶどう糖液 20ml
グレープフルーツ果汁 100ml
ビタミンC 10mg
水 880ml
合計 1000ml
【0030】
〔配合例2(液剤)〕
ピロリ菌除菌後の再発予防あるいは感染予防を目的とした医薬品あるいは医薬部外品としての液剤の配合例を示す。本溶液はそのまま飲用される。
酸性キシロオリゴ糖100〜1000μg/ml溶液からなる液剤。
【0031】
嚥下困難者用に、トロ味を付加したり、糖分を添加したドライシロップを調製することも可能である。
【0032】
〔配合例3(濃厚液剤)〕
酸性キシロオリゴ糖100〜1000mg/ml(濃厚溶液)からなる液剤。
本濃縮溶液は、スポイト付の蓋を持つ容器やポリエチレン容器に封入し、少量ずつ分取し、水100ml程度を入れたグラスや紙コップに数滴滴下することにより飲用される。
【0033】
〔配合例4〕
胃カメラの処理を目的とした酸性キシロオリゴ糖溶液の配合例と使用方法。
酸性キシロオリゴ糖を100mg/mlを含む保存溶液を水あるいは殺菌剤を含む溶液で希釈し、酸性キシロオリゴ糖を200μg/ml以上含有する処理溶液を調製する。胃カメラの体内挿入部が十分処理液に浸るようにして、一定時間放置した後、使用する。酸性キシロオリゴ糖は安全性が確認されており、残存していても害はない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の胃上皮細胞保護剤は、食品、食品添加物、医薬品、医薬部外品に含有させて予防的・治療的に用いることができる。
また、医療機器を経由したピロリ菌の感染ルートの一つとして問題となっている胃カメラの殺菌方法として、70%アルコールやグルタールアルデヒドなどの汎用殺菌剤や消毒剤が用いられているが、本発明の溶液型の胃上皮細胞保護剤の使用により効率的にこの感染を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】酸性キシロオリゴ糖による胃癌上皮細胞の空胞化抑制作用を示す図。
【図2】酸性キシロオリゴ糖の胃癌上皮細胞空胞化抑制作用の濃度依存性を示す図。
【図3】酸性キシロオリゴ糖の予防的作用と治療的作用を示す図。
【図4】酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用を示す図。
【図5】酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用を示す図。
【図6】酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用を示す図。
【図7】酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌の胃癌上皮細胞への付着抑制作用を示す図。
【図8】酸性キシロオリゴ糖によるピロリ菌のプラスティック表面への付着抑制作用を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルクロン酸残基を有する酸性キシロオリゴ糖を有効成分とする胃上皮細胞保護剤。
【請求項2】
前記グルクロン酸残基がメチルグルクロン酸残基である請求項1記載の胃上皮細胞保護剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の胃上皮細胞保護剤からなる食品添加剤。
【請求項4】
請求項3記載の食品添加剤を添加してなる食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−77044(P2010−77044A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245156(P2008−245156)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本農芸化学会主催 「日本農芸化学会2008年度(平成20年度)大会」(於:名城大学)にて、平成20年3月27日に発表した文書
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】