説明

胃酸及びガストリンの産生を抑制する乳酸菌

【課題】プロトンポンプ・インヒビターの継続的投与による副作用を緩和する方法の提供。
【解決手段】乳酸菌(例えばラクトバシラス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)No.1088)の生菌又は死菌を生体へ投与することによって、胃液中の酸濃度の減少およびピー・エイチの強酸性への傾きの抑制、ならびにガストリンの産生を抑制でき、該乳酸菌の生菌又は死菌を生体へ投与することで上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌の生菌又は死菌を生体へ投与することによって、胃液中の酸濃度の減少およびピー・エイチ(pH)の強酸性への傾きの抑制、ならびにガストリンの産生を抑制する方法に関する。また、乳酸菌の生菌又は死菌を投与することでプロトンポンプ・インヒビター(以下PPIと略記する)の継続的投与による副作用を緩和する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胃幽門部で産生されるガストリンは、胃液中の酸濃度の上昇およびpHを強酸性へと傾ける効果を有するホルモンである(Schubert ML,Peura DA.Gastroenterology,134:1842−1860,2008)。つまり、ガストリンの産生を抑制することで、胃液中の酸濃度の減少およびpHの強酸性への傾きを抑制することができる。
【0003】
ラットの胃において、ガストリンの産生が細菌の存在によって抑制されることが示唆される報告がある(Uribe A,et al.Gastroenterology,107:1258−1269,1994)。また、ヒトの胃はほぼ無菌の状態にあり、齧歯類の胃に比べ胃液中の酸濃度が高く、pHも強酸性である(Kabir AM,et al.Gut,41:49−55,1997)。ヒトの胃に常在できる細菌として、病原菌であるヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)が挙げらる。ヘリコバクター・ピロリ菌感染患者がその除菌を行うと、胃液中の酸濃度が上昇すること、また、逆流性食道炎への罹患率が高まることが報告されている(Labenz J,et al.Gastroenterology,112:1442−1447,1997)。
【0004】
ラクトバシラス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)No.1088(以下、No.1088と略記)は本発明者によって開発されたラクトバシラス属乳酸菌であり、ヒトの胃液より単離されたものであるため、非常に優れた耐酸性をもちヒトの胃内でも生存できる特性をもつ。また、病原菌(大腸菌O−157やヘリコバクター・ピロリ菌など)に対して強い増殖抑制効果があり、ラクトバシラス属の細菌の中でも非常に有用な菌株であることが示されている(受託番号NITE P−278)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
胃液中の酸濃度が高い、つまりは過酸症の状態にあると、胃液が食道に逆流した際に食道の上皮細胞に傷害を与え、炎症が起こる。これが軽度の場合は胸やけの症状を呈し、重症化すると逆流性食道炎を患う。さらに、これが進行すると食道組織の変性・癌化が起こり、バレット食道癌などに発展する。また近年、本国での食文化が欧米化してきたことなどによって、胃噴門部と食道の境に存在する括約筋の働きが弱まり、胃酸が逆流しやすくなっていることがある。実際に、現在の本国において逆流性食道炎やバレット食道癌の罹患率が増加傾向にある。
【0006】
ヘリコバクター・ピロリ菌感染患者がその除菌を行うと、胃液中の酸濃度が上昇すること、また、逆流性食道炎になるリスクが高まることが報告されている(Labenz J,et al.Gastroenterology,112:1442−1447,1997)。
【0007】
胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの消化性潰瘍などに対する治療として、胃酸の分泌を阻害するPPIを継続的に使用するが、この副作用としてガストリンの産生過多が知られている。またこれに伴って胃粘膜細胞の過剰な増殖や巨大化、胃組織の肥大化などが動物実験では実証されており、ヒトへの臨床試験でも同様のことが示唆される結果がある。さらには消化性潰瘍などの寛解によってPPIの使用を中止した際に、ガストリン過多状態にあることから胃酸の過剰分泌が起こるなどの症状が知られている(Schubert ML,Peura DA.Gastroenterology,134:1842−1860,2008)。
【0008】
以上の問題を解決するため、胃酸又はガストリンの産生を抑制する方法を開発することが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決する本発明は、病原性をもたず胃中で作用する細菌を用いることでガストリンの産生を抑制する方法を提供する。当該方法は、乳酸菌の生菌又は死菌を生体に投与することでガストリンの産生を抑制する方法である。
【0010】
課題を解決する本発明は、乳酸菌の生菌又は死菌を投与することでPPIの継続的投与による副作用の緩和をする方法である。
【実施例】
【0011】
本発明は、一部には以下の実験結果に基づいている。
【0012】
1.No.1088の生菌投与による胃酸及びガストリン産生の抑制
1−1)No1088生菌投与マウスの作製
8週齢のジャーム・フリー(GF)Balb/c雄マウス(東海大学医学部、アイソレーター内で飼育管理)を7匹ずつ2群用意した。片方の群にはNo.1088の生菌1x10CFUをリン酸緩衝液(PBS)に懸濁したものを経口投与し、もう一方の群には等量のPBSを経口投与した。
【0013】
1−2)胃組織切片の作製
投与より10日後にマウスを屠殺し、胃を摘出し、10%ホルマリン(和光純薬)−PBSに浸し、室温にて一晩置き固定した。次に、固定された胃組織をエタノールに浸し、キシレンに浸した後、パラフィンを用いて包埋した。これをミクロトームにて2μmの厚さで薄切し、シランコーティーングスライドグラス(MUTO PURE CHEMICALS社)に貼り付け、62℃下で一晩乾燥させ作製した。
【0014】
1−3)胃組織切片を用いたガストリンの免疫染色
作製した切片をキシレン及びエタノール処理にて脱パラフィンを行った後、ターゲット・レトリーバル・ソリューション(Target retrieval solution,Dako社)を用い98℃下10分間でマイクロウェーブを行い抗原を賦活化した。その組織切片に一次抗体としてラビット・ポリクローナル・抗ガストリン抗体(Rabbit polyclonal anti gastrin antibody,Dako社)を4℃下で一晩反応させた後、二次抗体としてゴート・抗ラビット・アイジージー・アレクサ488修飾抗体(Goat anti rabbit IgG Alexa488 antibody,Molecular Probe社)を室温下で2時間反応させ、細胞核を染色するダピ(DAPI)を加えた退色封入剤を用いて封入した。
【0015】
1−4)蛍光顕微鏡での観察
細胞のDNAに結合する蛍光色素DAPI、および抗ガストリン抗体で染色した組織切片を蛍光顕微鏡BZ−9000(Keyence社)にて観察、撮影した。その結果を図1に示す。図に示す通り、No.1088生菌を投与してもDAPI染色による胃粘膜組織中の細胞数に大きな変化は認められないが、抗ガストリン抗体染色によるガストリン陽性細胞数は減少していることを認めた。すなわち、No.1088の生菌の投与によってガストリンの産生を抑制していることが示唆された。
【0016】
1−5)ガストリン陽性細胞数の統計学的解析
各群のガストリン産生の変化を組織切片から統計学的に解析するため、組織写真中の胃幽門部の粘膜層の長さをアキシオヴィジョン(AxioVision,Zeiss社)にて計測し、その中のガストリン陽性細胞数を目視にて計測、単位長(1mm)あたりのガストリン陽性細胞数(個)に換算した。それらの数値をSPSS(SPSS社)を用いたマンホイットニー・ユー・テストで解析を行った結果を図2に示す。No.1088生菌投与群ではPBS投与群より有意差をもって50%以上の減少をしていることが認められた。すなわち、No.1088の生菌を投与することでガストリンの産生を抑制することが示された。また同様の現象がラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)JCM1187の生菌投与でも認められた。
【0017】
2.No.1088の生菌投与による胃液中の酸濃度の減少とpHの強酸性への傾きの抑制
2−1)No1088生菌投与マウスの作製
8週齢のGF−Balb/c雄マウスを5匹ずつ2群用意した。片方の群にはNo.1088の生菌1x10CFUをPBSに懸濁したものを経口投与し、もう一方の群には等量のPBSを経口投与した。
【0018】
2−2)胃液中の酸濃度とpHの測定
投与より10日後にマウス及びPBS投与マウスにメンブタールにより麻酔し、手術台に固定し開腹、胃の噴門部に隣接した食道及び胃の幽門部に隣接した十二指腸を鉗子によってクリップし、2時間静置した後、胃内部に蓄積した胃液を採取した。採取した胃液を0.1N−水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬)により酸塩基滴定を行い、酸濃度を測定した。またpH測定器(Horiba社)を用いて、pHを測定した。それぞれのサンプルより得られた数値を、SPSSを用いたマンホイットニー・ユー・テストで解析を行った結果を表1に示す。No.1088投与群において、有意差をもって胃液中の酸濃度の減少及びpHが弱酸性になっていることが認められた。すなわち、No.1088がもつガストリンの産生抑制効果によって胃液中の酸濃度の減少及びpHの強酸性への傾きの抑制することが示された。
【0019】
3.No.1088の死菌投与によるガストリン産生の抑制
3−1)No1088死菌投与マウスの作製
8週齢のGF−Balb/c雄マウスを5匹ずつ2群用意した。片方の群にはNo.1088の死菌を生菌の1x10CFUに相当する量をPBSに懸濁したものを経口投与し、もう一方の群には等量のPBSを経口投与した。投与は1日1回、10日間連続で行った。
【0020】
3−2)胃組織切片の作製
最終の投与より24時間後にマウスを屠殺し、胃を摘出し、10%ホルマリン−PBSに浸し、室温にて一晩置き固定した。次に、固定された胃組織をエタノールに浸し、キシレンに浸した後、パラフィンを用いて包埋した。これをミクロトームにて2μmの厚さで薄切し、シランコーティーングスライドグラスに貼り付け、62℃下で一晩乾燥させ作製した。
【0021】
3−3)胃組織切片を用いたガストリンの免疫染色
作製した切片をキシレン及びエタノール処理にて脱パラフィンを行った後、ターゲット・レトリーバル・ソリューションを用い98℃下10分間でマイクロウェーブを行い抗原を賦活化した。その組織切片に一次抗体としてラビット・ポリクローナル・抗ガストリン抗体を4℃下で一晩反応させた後、二次抗体としてゴート・抗ラビット・アイジージー・アレクサ488修飾抗体を室温下で2時間反応させ、退色封入剤を用いて封入した。
【0022】
3−4)蛍光顕微鏡での観察
染色した組織切片を蛍光顕微鏡BZ−9000にて観察、撮影した。No.1088死菌投与群とPBS投与群を比較すると、No.1088死菌投与群においてガストリン陽性細胞の数が減少していることが示唆された。
【0023】
3−5)ガストリン陽性細胞数の統計学的解析
各群のガストリン産生の変化を組織切片から統計学的に解析するため、組織写真中の胃幽門部における粘膜層の長さをアキシオヴィジョンにて計測し、その中のガストリン陽性細胞数を目視にて計測、単位長(1mm)あたりのガストリン陽性細胞数(個)に換算した。それらの数値をSPSSを用いたマンホイットニー・ユー・テストで解析を行った結果を図3に示す。No.1088死菌投与群ではPBS投与群より有意差をもって40%以上の減少をしていることが認められた。すなわち、No.1088は生菌の投与だけでなく死菌を投与によってもガストリンの産生を抑制することが示された。また同様の現象がラクトバシラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)JCM1187の死菌投与でも認められた。
【0024】
4.ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌によるガストリン産生の促進とNo.1088の死菌投与による促進の抑制
4−1)ヘリコバクター・ピロリ保菌マウスの作製
4週齢のGF−Balb/c雄マウスを5匹ずつ6群用意した。そのうち5群にはヘリコバクター・ピロリ菌の生菌1x10CFUをPBSに懸濁したものを4日間連続で経口投与し、もう一方の群には等量のPBSを4日間連続で経口投与した。ヘリコバクター・ピロリ菌投与より4週間後にヘリコバクター・ピロリ保菌マウスのうちの1群及びPBS投与群を屠殺し、前記の操作によってパラフィン包埋を行った。残りのヘリコバクター・ピロリ保菌マウスのうちの3群にヒトのヘリコバクター・ピロリ菌の除菌と同様の処理化(Lind T,et al.Gastroenterology,116:248−253,1999)を行い、残りの1群には除菌しない対照群として抗生剤を加えていない溶液を投与した。この投与は2週間の連続投与によって行った。除菌処理が終了した2週間後に除菌処理群のうちの1群及び除菌していない対照群を屠殺し、前記の操作によってパラフィン包埋を行った。残りの除菌処理群のうち、片方の群には前記の操作と同様のNo.1088の死菌1x10CFU相当量をPBSに懸濁したものを経口投与し、もう一方の群には等量のPBSを経口投与した。投与は1日1回、10日間連続で行い、最終の投与より24時間後にマウスを屠殺し、前記の操作によってパラフィン包埋を行った。また、上記のマウスの作製過程は図4上段にも示した。
【0025】
4−2)胃組織切片の作製
上記の操作によって得られたパラフィン包埋ブロックをミクロトームにて2μmの厚さで薄切し、シランコーティーングスライドグラスに貼り付け、62℃下で一晩乾燥させ作製した。
【0026】
4−3)胃組織切片を用いたガストリンの免疫染色
作製した切片をキシレン及びエタノール処理にて脱パラフィンを行った後、ターゲット・レトリーバル・ソリューションを用い98℃下10分間でマイクロウェーブを行い抗原を賦活化した。その組織切片に一次抗体としてラビット・ポリクローナル・抗ガストリン抗体を4℃下で一晩反応させた後、二次抗体としてゴート・抗ラビット・アイジージー・アレクサ488修飾抗体を室温下で2時間反応させ、退色封入剤を用いて封入した。
【0027】
4−4)蛍光顕微鏡での観察
染色した組織切片を蛍光顕微鏡BZ−9000にて観察、撮影した。その結果、まずヘリコバクター・ピロリ保菌マウスとヘリコバクター・ピロリ非感染マウス(PBS投与群)を比較すると、ヘリコバクター・ピロリ保菌マウスにおいてガストリン陽性細胞の数が減少していることが認められた。次に、ヘリコバクター・ピロリを除菌したマウスでは、除菌していないマウスと比較してガストリン陽性細胞の数が増加していることが認められた。さらに、除菌後にNo.1088の死菌を投与した群とPBSを投与した群を比較すると、No.1088死菌投与群においてガストリン陽性細胞の数が減少していることが認められた。
【0028】
4−5)ガストリン陽性細胞数の統計学的解析
上記のサンプルにおいて、各群のガストリン産生の変化を組織切片から統計学的に解析するため、組織写真中の胃幽門部における粘膜層の長さをアキシオヴィジョンにて計測し、その中のガストリン陽性細胞数を目視にて計測、単位長(1mm)あたりのガストリン陽性細胞数(個)に換算した。それらの数値をSPSSを用いたマンホイットニー・ユー・テストでそれぞれのサンプルを採取した週齢間で行った結果を図4に示す。まずヘリコバクター・ピロリ保菌マウスとヘリコバクター・ピロリ非感染マウス(PBS投与群)を比較すると、ヘリコバクター・ピロリ保菌マウスにおいてガストリン陽性細胞の数が減少していることが有意に認められた。次に、ヘリコバクター・ピロリを除菌したマウスでは、除菌していないマウスと比較してガストリン陽性細胞の数が増加していることが有意に認められた。さらに、除菌後にNo.1088の死菌を投与した群とPBSを投与した群を比較すると、No.1088死菌投与群においてガストリン陽性細胞の数が約40%減少していることが有意に認められた。すなわち、ヒトにおけるヘリコバクター・ピロリ除菌の際に胃酸過多になり、逆流性食道炎のリスクが高まることがガストリンの産生亢進によるものであることが示唆され、またNo.1088の死菌を投与することによってガストリンの産生促進を抑制できることが示された。
【0029】
次に本発明のPPIの継続的投与による副作用の緩和法の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例のNo.1088に限定されるものではなく、乳酸菌の生菌又は死菌によるものである。
【0030】
5.PPIの継続的投与による副作用とNo.1088の投与によるその緩和
5−1)No1088生菌投与マウスの作製
4週齢のGF−Balb/c雄マウスを5匹ずつ6群用意した。そのうちの3群にはNo.1088の生菌1x10CFUをPBSに懸濁したものを経口投与し、残りの3群には等量のPBSを経口投与した。
【0031】
5−2)PPIの継続的投与
マウスが8週齢に達した時点で、No.1088投与マウス及びPBS投与マウスのうち1群ずつにPPIであるオメプラゾール(アストラゼネカ社)200μgをPBS200μLに溶解したものを一日おきに皮下に投与する処置を開始し(PPIの8週間の連続投与)、12週齢に達した時点で各投与マウス1群ずつに同様の処置を開始(PPIの4週間の連続投与)、残りの各投与マウス1群ずつはオメプラゾールの処置は行わず対照群とした。
【0032】
5−3)胃重量の測定ならびに胃組織切片の作製
各群のマウスが16週齢になった時点でマウスを屠殺し、体重を量った後、胃を摘出、胃内容物(飼育飼料など)をPBSで洗浄し除去した後、胃重量を計測した。次に採取した胃組織を10%ホルマリン−PBSに浸し、室温にて一晩置き固定した。次に、固定された胃組織をエタノールに浸し、キシレンに浸した後、パラフィンを用いて包埋した。これをミクロトームにて2μmの厚さで薄切し、シランコーティーングスライドグラスに貼り付け、62℃下で一晩乾燥させ作製した。
【0033】
5−4)胃組織切片を用いたガストリンの免疫染色
作製した切片をキシレン及びエタノール処理にて脱パラフィンを行った後、ターゲット・レトリーバル・ソリューションを用い98℃下10分間でマイクロウェーブを行い抗原を賦活化した。その組織切片に一次抗体としてラビット・ポリクローナル・抗ガストリン抗体を4℃下で一晩反応させた後、二次抗体としてゴート・抗ラビット・アイジージー・アレクサ488修飾抗体を室温下で2時間反応させ、退色封入剤を用いて封入した。
【0034】
5−5)蛍光顕微鏡での観察
染色した組織切片を蛍光顕微鏡BZ−9000にて観察、撮影した。PBS投与マウスではPPIの投与によってガストリン産生細胞の増加が認められた。一方で、No.1088生菌投与マウスではPPIによるガストリン陽性細胞の数の増減はないことが認められた。すなわち、No.1088の生菌の投与によってPPIによるガストリンの産生促進を抑制していることが示唆された。
【0035】
5−6)胃重量比及びガストリン陽性細胞数の統計学的解析
各群のサンプルより胃を摘出する際に計測した体重及び胃重量を用い、胃重量の体重比(%)を算出した。また、各群のガストリン産生の変化を組織切片から統計学的に解析するため、組織写真中の胃幽門部の粘膜層の長さをアキシオヴィジョンにて計測し、その中のガストリン陽性細胞数を目視にて計測、単位長(1mm)あたりのガストリン陽性細胞数(個)に換算した。それらの数値をSPSSを用いたクラスカル・ワリス・ティー・テストで解析を行った結果、胃重量の体重比については図5aに、ガストリン陽性細胞数については図5bに示す。PBS投与マウスではPPIの投与によって、胃重量比ならびにガストリン産生細胞数が投与期間に比例して有意に増加していた。一方で、No.1088投与マウスではPPIによる胃重量比ならびにガストリン産生細胞数の増減はなかった。すなわち、PPIの継続的投与による副作用であるガストリンの産生過多、胃粘膜細胞の過剰な増殖や巨大化、胃組織の肥大化などをNo.1088に代表される乳酸菌の投与によって緩和できると示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
以上記載したとおり、乳酸菌の生菌又は死菌を投与することで、胃酸及びガストリンの産生を抑制することが示された。すなわち、乳酸菌の生菌又は死菌を摂取することでの胃液中の酸濃度の制御ならびにpHの安定化を可能にする医薬品や機能性食品、健康食品などへの利用が可能である。また、乳酸菌の生菌又は死菌を投与することでPPIに代表される胃酸分泌抑制剤の副作用を緩和する医薬品などに利用することが可能である。
【表1】
No.1088の生菌投与による胃液中の酸濃度の減少とpHの強酸性への傾きの抑制
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】蛍光顕微鏡を用いた免疫染色による胃組織中のガストリン陽性細胞像とNo.1088の生菌投与によるガストリン陽性細胞数の減少
【図2】No.1088の生菌投与によるガストリン産生の抑制
【図3】No.1088の死菌投与によるガストリン産生の抑制
【図4】ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌によるガストリン産生の促進とNo.1088の死菌投与による促進の抑制
【図5】胃重量比及びガストリン陽性細胞数の統計学的解析

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌の生菌又は死菌を投与することで胃酸又はガストリンの産生を抑制する方法及びその方法を利用した医薬品、健康食品など各種製品
【請求項2】
乳酸菌の生菌又は死菌を投与することで胃酸分泌抑制剤(例えばプロトンポンプ・インヒビター)の副作用を緩和する方法及びその方法を利用した医薬品、健康食品など各種製品
【請求項3】
請求項1及び請求項2の特徴を有する乳酸菌がラクトバシラス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)No.1088(受託番号NITE P−278)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−144506(P2012−144506A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13451(P2011−13451)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(593206894)スノーデン株式会社 (10)
【Fターム(参考)】