説明

胆汁酸分泌促進剤

【課題】新規な胆汁酸分泌促進剤を提供する。
【解決手段】胆汁酸分泌促進剤の有効成分として、イリドイド骨格を有する化合物、具体的にはオイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、アスペルロシド、アスペルロシド酸、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸、オークビン、オイコミシドA、オイコミシドB、及びオイコミシドCからなる群から選択される少なくとも1種を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆汁酸分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
胆汁酸は、胆液の主成分として小腸に分泌され、そこで脂質の消化吸収を助ける働きをする。腸内の胆汁酸の約95%は再吸収され、門脈を通って肝臓にもどる腸肝循環を1日4回から12回繰り返される。また。胆汁酸は最近ではMAPK経路、GPCR経路、及びFXR経路のシグナル伝達に関与していることが知られている(非特許文献1及び2)。
【0003】
胆汁酸としては、コレステロールを起原として分泌される一次胆汁酸〔コール酸、ケノデオキシコール酸およびこれらの抱合体(タウロコール酸、グリココール酸、タウロデオキシコール酸等)〕と、その後に腸内細菌などによる代謝の結果生じる二次胆汁酸(デオキシコール酸等)が挙げられる。このうち、コール酸、タウロコール酸、デオキシコール酸、タウロデオキシコール酸およびケノデオキシコール酸は、腸肝循環により再吸収されるが、これが血中胆汁酸として細胞膜表面GPCRに結合すると、TGR5を刺激して細胞内cAMPを増加させ、その結果、免疫機能の亢進等、TGR5が関与する病態や疾患の予防、治療及び/又は改善が可能となることが知られている(特許文献1)。
【0004】
このため、胆汁酸の分泌を促進させることによって、GPCR経路における細胞内cAMPの増加を誘導することができ、その結果、免疫機能亢進などといった種々の薬理効果を得ることが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Houten SM,Watanabe M,Auwerx J:Endocrine fonctions of bile acid. Embo J 25:1419-1425, 2006
【非特許文献2】Lu TT, Makishima M,Repa JJ, et al:Molecular basis for feedback regulation of bile acid synthesis by nuclear receptors. Mol Cell 6:507-515,2000
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−63064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な胆汁酸分泌促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、杜仲葉エキス及びそれに含まれているイリドイド骨格を有する化合物に胆汁酸、特にコール酸及びデオキシコール酸の分泌を促進する作用があることを見出した。かかる知見から、イリドイド骨格を有する化合物、または当該化合物を含む杜仲葉エキスによると、胆汁酸の分泌を促進させることができる結果、当該胆汁酸によりGCPR経路においてTGR5が刺激されて、細胞内cAMPの増加を介して生体の免疫機能の亢進等、TGR5が関与する病態や疾患の予防、治療及び/又は改善が可能になると考えられる。
【0009】
本願発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、次の実施態様を包含するものである。
【0010】
(I)胆汁酸分泌促進剤
(I-1)イリドイド骨格を有する化合物を有効成分とする胆汁酸分泌促進剤。
(I-2)オイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、アスペルロシド、アスペルロシド酸、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸、オークビン、オイコミシドA、オイコミシドB、及びオイコミシドCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する胆汁酸分泌促進剤。
【0011】
(II)薬学的組成物
(II-1)(I-1)または(I-2)のいずれかに記載する胆汁酸分泌促進剤、及び薬学的に許容される担体または添加剤を含有する薬学的組成物。
(II-2)胆汁酸分泌促進するために用いられる(II-1)記載の薬学的組成物。
(II-3)免疫賦活するために用いられる(II-1)記載の薬学的組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明が有効成分とするイリドイド骨格を有する化合物、具体的には杜仲葉に含まれるオイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、アスペルロシド、アスペルロシド酸、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸、オークビン、オイコミシドA、オイコミシドB、及びオイコミシドCからなる群から選択される少なくとも1種、特にアスペルロシド及びゲニポシド酸には、胆汁酸、なかでもコール酸及びデオキシコール酸の分泌を促進し、その分泌量を増加させる作用がある。このため、これらの化合物またはこれらの化合物を含む組成物(例えば杜仲葉エキス等の植物抽出物)を摂取または服用することにより、胆汁酸の分泌促進を通じて、GCPR経路においてTGR5を刺激することができ、その結果、細胞内cAMPの増加を介して生体の免疫機能の亢進等、TGR5が関与する病態や疾患の予防、治療及び/又は改善が可能になる。このため、本願発明の胆汁酸分泌促進剤は、TGR5が関与する病態や疾患の予防、治療及び/又は改善剤、例えば、免疫賦活剤として、また免疫賦活を薬理効果とする薬学的組成物(免疫賦活用薬学的組成物)の有効成分として使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)胆汁酸分泌促進剤
本発明の胆汁酸分泌促進剤は、イリドイド骨格を有する化合物(以下、これらの化合物を総称して「イリドイド化合物」という)を有効成分とすることを特徴とする。
【0014】
ここでイリドイド化合物とは、1-イソプロピル-2,3-ジメチルシクロペンタンの骨格を有する化合物をいい、特に限定されないが、オイコミオール(eucommiol)、1-デオキシオイコミオール(1-deoxyeucommiol)、エピオイコミオール(epieucommiol)、アスペルロシド(asperuloside)、アスペルロシド酸(asperulosidic acid)、デアセチルアスペルロシド酸(deacetyl asperulosidic acid)、スキャンデシド 10-O-アセテート(scandoside 10-O-acetate)、ゲニポシド酸(geniposidic acid)、オークビン(aucubin)、オイコミシドA(eucomoside A)、オイコミシドB(eucomoside B)、及びオイコミシドシドC(eucomoside C)などが挙げられる。なかでも、胆汁酸分泌促進効果に優れることから、アスペルロシドおよびゲニポシド酸が好ましい。これらの化合物は1種単独で胆汁酸分泌促進剤の有効成分として用いてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて胆汁酸分泌促進剤の有効成分としてもよい。
【0015】
これらのイリドイド化合物の由来は特に制限されず、化学合成して製造されたものであってもよいし、天然物から単離精製して調製されたものであってもよい。例えばオイコミシドA、オイコミシドB、及びオイコミシドCの合成方法は、特開2008−106008号公報に記載されており、これに従って製造することができる。また、イリドイド化合物のうち、ゲニポシド酸、オークビンは商業的に入手することができ、例えば、和光純薬株式会社から、それぞれ購入することができる。
【0016】
上記イリドイド化合物を含む天然物としては、トチュウ(杜仲:Eucommia ulmoides)(トチュウ目トチュウ科)、オオバコ(オオバコ科)、ヤエヤマアオキ(八重山青木:Morinda citrifolia)(アカネ目アカネ科ヤエヤマアオキ属)(通常、「ノニ」と称される)等の植物を挙げることができる。
【0017】
使用するこれら植物の部位は、イリドイド化合物を含む部位であれば特に制限されず、全草、花、果実、葉、枝、樹皮、根茎、種子をいずれも使用することができ、トチュウの場合、好ましくは葉である。例えば、トチュウの葉である杜仲葉には、イリドイド化合物として、上記オイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、アスペルロシド、アスペルロシド酸、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸、オークビン、オイコミシドA、B及びCが含まれていることが知られている(T. Nakamura et al., Natural Medicines 51(3), 275-277(1997);C.Takamura et al., J Nat Med (2007) 61:220-221;C.Takamura et al., J Nat Med (2007) 70:1312-1316等参照)。
【0018】
本発明の胆汁酸分泌促進剤は、上記イリドイド化合物を精製した状態で含むものであってもよいし、粗精製の状態で含むものであってもよい。
【0019】
後者の粗精製物の例としては、例えば、杜仲葉、オオバコ種子、ノニ葉などのイリドイド化合物を含有する天然物の加工処理物を挙げることができる。ここで加工処理物としては、例えば上記杜仲葉、オオバコ種子、ノニ葉などの乾燥物、粉砕物(生及び乾燥物を含む)、搾汁(濃縮物及び乾燥物を含む)、溶媒抽出物(濃縮物及び乾燥物を含む)、及びイリドイド化合物を含む分画物を挙げることができる。好ましくは杜仲葉の乾燥物(未裁断物、裁断物、粉砕物を含む)、溶媒抽出物、及び溶媒抽出物の分画物である。
【0020】
杜仲葉乾燥物
杜仲葉乾燥物は、好ましくは杜仲葉を乾燥させる工程を経ることにより得ることができる。ここで乾燥は天日乾燥、遠赤外線照射、乾燥機(熱風乾燥、冷風乾燥、真空凍結乾燥)等の従来公知の方法に従って行うことができる。斯くして得られる杜仲葉乾燥物中の水分量は、制限されないが、通常12重量%以下であり、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0021】
好ましくは、杜仲葉乾燥物は、上記乾燥工程に加えて、その前に杜仲葉を蒸す工程を経ることにより得ることができる。また、これらの工程に葉打ちや柔捻等の工程を組み合わせてもよい。このため、例えば杜仲葉乾燥物は、杜仲葉を蒸す工程、葉打ちする工程、柔捻する工程及び乾燥する工程を経て得ることができる。また、従来どおり、これらの工程に焙煎工程を組み合わせてもよいが、アスペルロシド、アスペルロシド酸、オークビン及びオイコミシドA、オイコミシドB、及びオイコミシドCを多く含む杜仲葉乾燥物を調製する目的からは、焙煎工程を経ることなく杜仲葉乾燥物を得ることが好ましい。
【0022】
当該乾燥物は、粉砕処理されたものであっても良い。粉砕物は粗粉状及び細粉状のいずれの形状を有するものであってもよい。粉砕物は、例えば上記方法で得られた乾燥物を慣用の粉砕機(ジェットミル等)などに供して調製することができる。
【0023】
杜仲葉抽出物
杜仲葉抽出物は、例えば、杜仲葉をそのまま若しくは乾燥し、さらに必要に応じてこれらを裁断若しくは粉砕した後、慣用の抽出方法(溶媒抽出、超臨界抽出など)に従って調製することができる。
【0024】
溶媒抽出を行う場合、使用する溶媒としては、例えば水(温水及び熱水を含む)、有機溶媒(メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール及びn−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;プロピレングリコールや1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;アセトン等のケトン類;ジエチルエーテル、ジオキサン、アセトニトリル、酢酸エチルエステル等のエステル類;キシレン、ベンゼン、クロロホルム等)、またはこれらの混合物を挙げることができる。好ましくは水、低級アルコールまたはこれらの混合物であり、より好ましくは水(温水及び熱水を含む。好ましくは熱水)である。
【0025】
抽出条件は、イリドイド化合物が抽出できる条件であればよく、特に限定されない。例えば、杜仲葉乾燥物を水に浸漬させる方法が挙げられる。この際、必要に応じて攪拌してもよい。例えば、水を使用する場合、杜仲葉乾燥物1重量部に対して、10〜800重量部、好ましくは100〜700重量部、より好ましくは200〜500重量部の割合になるように水の量を調整し、50〜100℃程度、好ましくは70〜90℃程度で、1〜60分、好ましくは5〜40分、より好ましくは10〜40分浸漬する方法が例示される。この温度および時間の範囲内であれば、杜仲葉に含まれるアスペルロシド、ゲニポシド酸、オークビンなどのイリドイド化合物を効率よく抽出することができる。
【0026】
また、1度抽出に使用した杜仲葉を再度抽出に供してもよい。このように同じ葉を繰り返して抽出に供することで、葉に含まれるイリドイド化合物をより多く抽出することができる。さらに、抽出物は1つの温度条件下で得られるものだけではなく、例えば、50〜60℃程度で低温抽出した杜仲葉抽出液と70〜100℃程度で高温抽出した杜仲葉抽出液とを混合することもできる。こうすることで、葉に含まれる複数のイリドイド化合物を含む杜仲葉抽出液を得ることができる。
【0027】
なお、水以外の溶媒を使用して抽出する場合は、上記条件を参考にして適宜設定することができる。
【0028】
杜仲葉抽出物は、上記抽出処理後、濾過や遠心分離等の定法の固液分離法により固形分を取り除くことにより取得、調製することができる。得られた抽出液はそのままの状態で使用することもできるが、その後濃縮したり、または乾燥処理(スプレードライ処理、凍結乾燥処理を含む)することもできる。また必要に応じて、乾燥後粉砕して粉末物として使用することもできる。
【0029】
また必要に応じて、得られた抽出物をさらに分画または精製処理してもよい。分画または精製処理は、杜仲葉抽出物中に含まれるイリドイド化合物を分画し、またその精製度を高める方法であればよく、定法に従って濾過処理またはイオン交換樹脂や活性炭カラム等を用いた吸脱着処理等を行うことができる。なお、かかる処理により、不純物に起因する色や臭いの除去(脱色や脱臭)をすることも可能になる。
【0030】
本発明の胆汁酸分泌促進剤は、ヒトに投与(摂取)する場合、1日投与量中にイリドイド化合物が総量で5〜5000mg程度含まれることが好ましい。胆汁酸分泌促進剤の望ましい実施態様としては、その1日投与量中にアスペルロシドを10〜300mg程度、好ましくは10〜150mg程度、より好ましくは10〜100mg程度の割合で含むものである。また他の望ましい実施態様としては、その1日投与量中にゲニポシド酸を50〜450mg程度、好ましくは50〜300mg程度、より好ましくは50〜150mg程度の割合で含むものである。
【0031】
本発明の胆汁酸分泌促進剤を用いることにより、1日あたり上記の割合でイリドイド化合物、特にアスペルロシド及び/またはゲニポシド酸を投与(摂取)することにより、より効率よく胆汁酸の分泌を促進させることができる。
【0032】
胆汁酸は、肝臓の肝細胞でコレステロールから生成され、胆汁として胆嚢に蓄えられ、脂肪等の食事を摂取すると十二指腸に分泌される成分である。本発明が対象とする胆汁酸には、肝臓で合成される一次胆汁酸(コール酸及びその抱合体、ケノデオキシコール酸及びその抱合体)に加えて、当該一次胆汁酸が小腸の腸内細菌により代謝され生成される二次胆汁酸(デオキシコール酸)が含まれる。なお、上記コール酸の抱合体としては、コール酸のタウリン抱合体であるタウロコール酸、コール酸のグリシン抱合体であるグリココール酸が挙げられる。また上記ケノデオキシコール酸の抱合体としては、ケノデオキシコール酸のタウリン抱合体であるタウロケノデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸のグリシン抱合体であるグリコケノデオキシコール酸が挙げられる。本発明が対象とする胆汁酸は、好ましくはコール酸、ケノデオキシコール酸及びデオキシコール酸である。
【0033】
これらの胆汁酸は、腸肝循環により再吸収したものが、血中胆汁酸として細胞膜表面GPCRに結合すると、TGR5を刺激して細胞内cAMPを増加させ、その結果、免疫機能の亢進等、TGR5が関与する病態や疾患の予防、治療及び/又は改善に効果的である。
【0034】
本発明の胆汁酸分泌促進剤は、医薬品や医薬部外品(本発明ではこれらを総称して「薬学的組成物」という)、または食品や特定保健用食品の有効成分として使用することもできるし、また胆汁酸分泌促進剤を有効成分として含む医薬品や医薬部外品(薬学的組成物)として提供することもできる。
【0035】
(II)薬学的組成物
本発明の薬学的組成物は、上記本発明の胆汁酸分泌促進剤を有効成分とし、胆汁酸の分泌を促進すること若しくは胆汁酸の分泌量を増加することを、直接または間接的な目的として用いられるものである。当該目的には、胆汁酸の分泌を促進するか胆汁酸の分泌量を増加させることによって免疫機能を亢進若しくは賦活化すること等、TGR5が関与する病態や疾患の予防、治療及び/又は改善することも含まれる。
【0036】
本発明が対象とする薬学的組成物は、その形態は特に制限されず、経口投与形態及び非経口投与形態(注射剤、点滴剤、点鼻剤、経皮吸収剤、坐剤など)のいずれもが含まれるが、好ましくは経口投与形態である。かかる経口投与形態としては、慣用の形態がいずれも含まれ、特に制限されないが、通常、液剤(シロップ等を含む)等の液状製剤(懸濁剤含む);及び錠剤、丸剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)等の固形製剤が含まれる。
【0037】
本発明の薬学的組成物を固形剤の形態とする場合、例えば、錠剤の場合であれば、胆汁酸分泌促進剤とともに用いる、薬学的に許容される担体として当該分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。また、前記胆汁酸分泌促進剤と薬学的に許容される担体を含有する組成物を、さらにゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒプロメロース等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0038】
また、丸剤の形態とする場合も、薬学的に許容される担体として当該分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0039】
上記以外に、添加剤として、例えば、薬学的に許容される界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節する塩を、調製する形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0040】
本発明の薬学的組成物は、胆汁酸の分泌を促進するか若しくは胆汁酸の分泌量を増加するために用いられる。このため、投与形態中に、胆汁酸の分泌を促進する作用を発揮する量の胆汁酸分泌促進剤を含むことが好ましい。この限りにおいて特に制限されないが、具体的には、ヒトに投与(摂取)する場合、1日投与形態中にイリドイド化合物を総量として5〜5000mg程度含むことが好ましい。望ましい実施態様としては、その1日投与形態中にアスペルロシドを10〜300mg程度、好ましくは10〜150mg程度、より好ましくは10〜100mg程度の割合で含むものである。また他の望ましい実施態様としては、その1日投与形態中にゲニポシド酸を50〜450mg程度、好ましくは50〜300mg程度、より好ましくは50〜150mg程度の割合で含むものである。
【0041】
本発明の薬学的組成物は、胆汁酸の分泌を促進する必要がある患者に対して用いることができる。また、本発明の薬学的組成物は、胆汁酸の分泌促進を通じて免疫機能の亢進・賦活化が必要な患者に対して用いることができる。さらに、本発明の薬学的組成物は、胆汁酸分泌促進を通じて、GCPR経路における細胞内cAMPの増加を介して生じる種々の機能の亢進(または抑制)が必要な患者に対しても用いることができる。これらの場合、本発明の薬学的組成物の投与方法は特に制限されず、1日1回または複数回、経口または非経口的に投与される。好ましくは1日1回または2〜3回程度、経口的に投与する方法である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0043】
実施例1 胆汁酸分泌確認試験
ラットに、各被験物(アスペルロシド(ASP)、ゲニポシド酸(GEA)、杜仲葉抽出物(ELE)、アネトールトリチオン(AT))を強制経口投与させて、胆汁酸分泌に及ぼす影響を調べた。
【0044】
なお、アネトールトリチオン(5-(4-Methoxyphenyl)-3H-1,2-dithiole-3-thione)は、胆汁とともに胆汁の成分である胆汁酸の分泌を促進し、胆汁酸濃度を増加する作用のある、いわゆるcholanereticaタイプの利胆作用を有している薬物であり(Halpern, B.N. et al.: Arch. int. Pharmacodyn., 83(1), 49(1950);宮原了ほか:広島大医誌, 14(3/4), 261(1966))、本実験では陽性コントロールとして使用した。
【0045】
(1)被験物の調製
(1-1)杜仲葉抽出物(ELE)の調製
(1-1-1)杜仲葉乾燥物の製造
杜仲葉乾燥物の製造は、特開平8−173110号公報の実施例2の記載に準じて行った。杜仲の生葉5kgを、日本茶製造用の送帯蒸機(宮村鉄工株式会社製の給葉機(地上型1500)およびネットコンベア(送帯式1000))により110℃で90秒間蒸熱した。具体的には、生葉を送帯蒸機の投入口から機内に投入し、コンベヤ上を移動する間に上下スチーム供給装置からスチームを当て、110℃で90秒間蒸熱した。次にこの蒸熱後の杜仲葉を、揉捻機を用いて30分間揉捻した後、得られた揉捻物を乾燥機を用いて80℃で水分量を5%以下に乾燥させた(以下、これを「杜仲葉乾燥物」という)。
【0046】
(1-1-2)杜仲葉抽出物(ELE)の調製
上記(1-1-1)の製造方法に従って調製した杜仲葉乾燥物を、炒葉機(IR−10SP型:寺田製作所)を用いて110℃で30分間焙煎し、焙煎杜仲葉乾燥物を得た。このうち1kgを90℃の熱水15kgに投入し、90℃で30分間抽出し、抽出物14kgを得た。その後、これを150メッシュのフィルターを用いて濾過し、濾液を5℃に冷却し一晩放置した。上澄み液を取り出し、減圧下50℃で濾液を濃縮し、1kgの濃縮液を得た。得られた濃縮液を、遠心分離器(クボタ株式会社製、KS8000)で回転速度1800rpmで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた上澄み液を加熱殺菌(85℃、2時間)し、杜仲葉水抽出液を得た。これをスプレードライ法により乾燥し、杜仲葉抽出物(ELE)(300g)を得た。当該杜仲葉抽出物(ELE)1000mg中には、アスペルロシド20mg、ゲニポシド酸55mg、アスペルロシド酸0.5mg、デアセチルアスペルロシド酸0.3mg、スキャンデシド10−O−アセテート0.2mg、オークビン68mg、オイコミシA0.01mg、オイコミシB0.05mg、オイコミシC0.02mg含有されていた。
【0047】
(1-2)アスペルロシド(ASP)の調製
上記(1-1-1)の製造方法に従って調製した杜仲葉乾燥物を微粉砕化し、杜仲葉粉末とした。これを水に溶解し、これをDiaion HP20(三菱化学株式会社製)を充填したカラムに注入した。次いで、これに溶出液として水を注入して、水により溶出される成分を除去した。その後、30容積%メタノール水溶液を注入し、溶出画分を得たのち、これを濃縮し固形物にした。これをメタノール水溶液(メタノール:水=1:2(容積比))に溶解し、ODSカラム(充填剤:YMC S-15/30 120A ODS)に導入した。かかるカラムに移動層としてメタノール水溶液(メタノール:水=1:2(容積比))を流速500mL/分で送液し、UV215nmでの吸光度を指標にしながらピーク分画した。得られた分画物はメタノールを減圧留去し、粗アスペルロシド水溶液を得た。粗アスペルロシド水溶液をさらに同様の方法でODS処理し、純度97%以上の画分のみ集め、メタノールを減圧留去し、高純度のアスペルロシド(ASP)を得た(純度97%以上)。
【0048】
(1-3)ゲニポシド酸(GEA)の調製
精製水に48%濃度になるように水酸化ナトリウムを加え50℃まで昇温した。6分間かけてゲニポシド(四川双子叶生物科技有限公司より購入)を加えて50℃にて2時間撹拌した。原料の消失を確認した後、25℃付近まで冷却し、4N塩酸で中和して粗ゲニポシド酸溶液を得た。粗ゲニポシド酸溶液を希塩酸でpH3.5に調整し、水で平衡化したODS(Daisogel SP-120-40/60 ODS-B、ダイソー株式会社製)に吸着させた。次いで、脱塩のため精製水で洗浄し、50容量%メタノール水溶液にて溶出し、高純度のゲニポシド酸を得た(純度99.5%以上)。
【0049】
(1-4)アネトールトリチオン(AT)
日本新薬株式会社から「アテネントール錠12.5mg」(アネトールトリチオン含有量12.5mg/錠)として販売されている製剤を粉砕して必要量を使用した。
【0050】
(2)被験餌の調製
ベースとなる餌として、精製飼料(D12492 エルエスジー株式会社製)に30重量%のラードを添加した高脂肪餌(HFD)を使用した。
【0051】
(3)試験方法
無作為に選択したSD雄性ラット(6週齢、体重約180g)を各群8匹になるように4つの群(ASP投与群、GEA投与群、ELE投与群、AT投与群)に群分けした。各群のラットに3日間予備飼育した後、7日間各被験物を投与した。全飼育期間中、ラットにはHFDを自由摂取させた。
【0052】
なお、各群(ASP投与群、GEA投与群、ELE投与群、AT投与群)には、ASPの摂取量が36mg/kg、GEAの摂取量が122mg/kg、ELEの摂取量が2000mg/kg、ATの摂取量が75mg/kgになるように、1日1回ゾンデにて強制経口投与した。飼育期間終了後に15時間の絶食を行い、再度同量の被験物を強制経口投与し、その30分後にカニューレ挿入し胆汁の採取を5時間かけて行った。
【0053】
(4)胆汁酸の分析方法
(4-1)サンプル溶液の調製
採取した胆汁を1mLを取り、4mLメタノールを加えて均一にし、4℃条件下で保存した。これを均一化し、200μL内標準溶液(ラウリン酸 濃度4.18μg/mL)を加えて均一化し、10分間遠心分離(6200rpm)した。上清液を60℃のウォーターバスに置き、窒素で乾燥後、200μLメタノールで溶解し、3分間遠心分離(6200rpm)した。上清液を取り、サンプル溶液とし、以下のLC−MS分析条件により胆汁酸(コール酸、デオキシコール酸)の分析を行った。
【0054】
(4-2)LC-MS分析条件
サンプル溶液を下記条件のLC−MSにかけて、分析(定量と定性)を行った。
[LC-MS分析条件]
カラム:Phenomenex 100×4.6mm 2.6u C18 100A
移動相:(A)アセトニトリル(CH3CN)
(B)10mmol/L酢酸アンモニウム(CH3COONH4)−0.04%アンモニア水(pH8.0)
グラジエント条件:B% 80%(0 min) → 75%(7 min) → 70%(10 min) → 70%(13 min)→60%(15 min) → 10%(17 min) → 10%(22 min) → 80%(25 min)→80%(30 min)
流速:0.8mL/min
温度:25℃
検出:質量分析計(LCQ DUO),ESI, negaitive
乾燥気流速:12L/min
噴霧圧:20 psi
乾燥ガス温度:350℃
電圧:3000(Negative)
注入量 :20μL。
【0055】
(5)分析結果
胆汁酸(コール酸、デオキシコール酸)の分泌総量(μg)と分泌増加率(%)のそれぞれの平均値を表1に示す。ここで、分泌増加率(%)は、陽性コントロール群であるAT投与群の胆汁酸(コール酸及びデオキシコール酸)の分泌量をそれぞれ100%とし、それに対する各群(ASP投与群、GEA投与群、ELE投与群)の胆汁酸分泌量の相対比(%)として算出した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、公知の胆汁酸分泌促進剤であるアネトールトリチオン(陽性コントロール)を投与した場合(AT投与群)と比較して、ELE、ASPおよびGEAを投与した群では、いずれも胆汁酸(コール酸およびデオキシコール酸)の分泌量が有意に増加することが確認された。このことから、イリドイド化合物であるASPおよびGEA、並びに多くのイリドイド化合物(オイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、アスペルロシド、アスペルロシド酸、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸、オークビン、オイコミシドA、B及びC)を含む杜仲葉抽出物に胆汁酸分泌促進作用があることが確認された。
【0058】
実施例の結果から、「CRCテキストブック 日本臨床薬理学会認定CRCのための研修ガイドライン」に基づき、ヒトへの投与量を換算した場合、ELEを2000mg/body/day、ASPを36mg/body/day、GEAを122mg/body/day投与することで、ヒトにおいても同様に胆汁酸分泌促進作用を発揮されると考えられた。
【0059】
(処方例)
1日投与量として、表2〜4に示す量のイリドイド化合物を含有する医薬品又は食品を調製した。これらの各組成物をヒトへ投与したところ、実施例1と同様に一定の胆汁酸分泌促進作用が確認された。
【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリドイド骨格を有する化合物を有効成分とする胆汁酸分泌促進剤。
【請求項2】
オイコミオール、1-デオキシオイコミオール、エピオイコミオール、アスペルロシド、アスペルロシド酸、デアセチルアスペルロシド酸、スキャンデシド 10-O-アセテート、ゲニポシド酸、オークビン、オイコミシドA、オイコミシドB、及びオイコミシドCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する胆汁酸分泌促進剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載する胆汁酸分泌促進剤、及び薬学的に許容される担体または添加剤を含有する、胆汁酸分泌促進用の薬学的組成物。

【公開番号】特開2012−20945(P2012−20945A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158361(P2010−158361)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】