胆管癌治療用薬学的組成物、胆管癌の成長または浸潤抑制方法、および胆管癌の治療方法
胆管癌でL1CAMが高発現して胆管癌の成長および転移に重要に作用し、L1CAMの発現率が高いほど胆管癌患者の死亡率が高く、L1CAMの活性を抑制する抗体、またはL1CAMの発現を抑制するsiRNAが胆管癌細胞の成長および浸潤を減少させることからみて、L1CAMが胆管癌治療の有用なターゲットになれることを解明することにより、これに着目して、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物およびこれを用いた治療方法が開示される。前記胆管癌細胞表面のL1CAMタンパク質を認識し、胆管癌の癌組織に特異的に結合するマウスモノクローナル抗体またはsiRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはshRNAは、胆管癌細胞の成長、浸潤または移動を抑制することにより、胆管癌の治療に有用に利用可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆管癌の細胞表面に存在するタンパク質L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物、およびこれを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胆管癌は、肝の胆管に生じる癌であって、肝癌などの幹細胞から発生するものと思われる(Sell and Dunsford Am J. Pathol. 134:1347-1363, 1989)。世界的に見て胆管癌の発生頻度は肝癌に比べて一層低いが、東南アジアにおける発生頻度はヨーロッパまたは北アメリカより一層高い。胆管癌は、高い再発率のため外科的切除術が非効果的であり、通常の化学療法または放射線療法がよく効かないという特徴を持つ(Pederson et al Cancer Res. 4325-4332, 1997)。しかも、胆管癌の診断が容易でなく、胆管のバクテリアまたは寄生虫の感染による慢性炎症に起因する胆管の慢性炎症が胆管癌を形成する傾向があるという所見がある(Roberts et al., Gastroenterology 112:269-279, 1997)。
【0003】
それにも拘らず、胆管癌の発生原因に対するメカニズムは未だよく知られておらず、胆管癌の治療のためのターゲット分子も知られていない。また、幾つかの胆管癌の細胞遺伝的研究が発表され、極めて少数の細胞株のみが確立されており(Yamaguchi et al., J. Natl Cancer Inst 75: 29-35, 1985; Ding et al., Br J Cancer 67: 1007-1010, 1993)、この細胞株を用いて胆管癌に特異的な抗体を製造する方法も知られていない。
【0004】
最近、韓国人の胆管癌患者から胆管癌細胞Choi−CKおよびSCKが確立された(Kim et al., Genes, chromosome & Cancer 30: 48-56, 2001)。これらの癌細胞をマウスに注射して癌細胞の表面抗原を認識するモノクローナル抗体を製造し、これらの抗体が胆管癌細胞の成長を抑制する効果があることさえ確認すれば、これらの抗体を用いて胆管癌の治療方法を開発することができるであろう。
【0005】
公知の癌予後因子(prognostic factor)としてよく知られている上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子は、ガン原遺伝子(proto-oncogene)であって、腫瘍形成(tumorigenesis)とaggressive growth behaviourに関与することが明らかになっており、EGFRは、乳癌、肺癌、大腸癌、腎臓癌、胆嚢癌、頭頸部癌、卵素癌、前立腺癌、子宮頸癌および胃癌などの様々な癌で過剰発現する(Modjtahedi, H. and Dean, C. The receptor for EGF and its ligands: expression, prognostic value and target for therapy in cancer. Int. J. Oncol. 4 : 277-296, 1994)。また、EGFRの発現と癌予後との関係は癌の種類によって異なる(Nicholson, R. I. et al. EGFR and cancer prognosis. Eur. J. Cancer 37, S9-S15, 2001)。例えば、EGFRは、膀胱癌、子宮頸癌、食道癌、頭頸部癌および卵素癌では強力な予後因子(strong prognosis factor)であるが、非小細胞肺癌(non small cell lung carcinoma、NSCLC)では弱い予後因子(weak prognostic indicator)であることが明らかになっている。ところが、胆管癌については全く知られていない。
【0006】
また、EGFRに対する治療用抗体の各癌細胞の成長に対する抑制効率も15〜50%の範囲内で異なる。また、同種の癌でも生体外および生体内成長阻害(in vitro and in vivo growth inhibition)効果が異なる(Dassonville, O. et al., EGFR targeting therapies: monoclonal antibodies versus tyrosine inhibitors similarities and differences. Critical Reviews in Oncology/Hematology 62, 53-61. 2007)。現在、EGFRに対する抗体は、大腸癌および頭頸部癌の治療剤として臨床的に用いられているばかりであり、前記に列挙したEGFRが過発現した全ての癌組織に対する治療剤として用いられてはいない。
【0007】
上述したように、タンパク質が癌細胞で発現するだけでは、前記タンパク質が癌の予後因子であることは容易に類推することが可能ではないうえ、このような発現および癌の予後との関連性は癌の種類によって異なることが従来からよく知られていた。癌において、強力で悪い(strong and poor)予後因子は、癌に対する治療効果および予後を容易に予測することを可能にするうえ、これらの因子をターゲットとする治療剤を開発して選択的且つ効果的な癌治療方法の開発を可能にする。よって、このような各癌の種類による予後因子の発掘は癌の診断および治療において非常に重要である。
【0008】
一方、L1CAM(L1 cell adhesion molecule)は、細胞表面で細胞間接着(cell-to-cell adhesion)を仲介する免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子(immunoglobulin superfamily cell adhesion molecules、CAMs)に属する内在性膜糖タンパク質(integral membrane glycoprotein)の一つであって、その分子量が220kDaにも達する。L1CAMは、元々ニューロンから発見され(Bateman, et al, EMBO J. 15:6050-6059; 1996)、ニューロンの移動、神経突起の成長および細胞移動などの機能を有するものとして知られている。ヒトのL1CAM遺伝子は、マウスとラットのL1CAM相同体(homolog)で縮退性オリゴヌクレオチド(degenerate oligonucleotide)をプローブとして用いてヒト胎児の脳cDNAライブラリーから分離した(Hlavin, M. L. & Lemmon, V. Genomics 11: 416-423, 1991;米国特許第5872225号、1999年2月16日に登録)。このL1CAMは、元々主に脳で発現するものと知られているが、幾つかの正常組織で発見されており、最近では様々な癌細胞でも発見され始めている。
【0009】
L1CAMと癌との連関性は、L1CAMが黒色腫(melanoma)、神経芽細胞腫(neuroblastoma)、卵素癌および大腸癌などの様々な癌で発現することが報告されている(Takeda, et al., J. Neurochem. 66:2338-2349, 1996; Thies et al, Eur. J. Caner, 38: 1708-1716, 2002; Arlt et al., Cancer Res. 66:936-943, 2006; Gavert et al., J. Cell Biol. 168:633-642, 2005)。L1CAMは、膜結合型(membrane bound form)の他にも、切断された産物(cleavage product)が細胞外に分泌されることが発見される(Gutwein et al., FASEP J. 17(2):292-4, 2003)。そして、最近、L1CAMは、癌細胞の成長に重要な役割を果たす分子の一つとして探索されることにより(Primiano, et al., Cancer Cell. 4(1);41-53, 2003)、癌治療の新しいターゲットとして浮き上がった(US2004/0115206 Al出願2004年6月17日)。最近、L1CAMが大腸癌のインベイシブフロント(invasive front)で発現し(Gavert, et al., J Cell boil. 14;168(4):633-42, 2005)、この分子に対する抗体が卵素癌細胞の成長および転移を抑制することが明らかになった(Arlt, et al., Cancer Res. 66:936-943. 2006)。
【0010】
ところが、L1CAMが胆管癌に発現するという事実は未だ知られておらず、胆管癌の成長および転移に重要に作用するか否かも知られていない。また、L1CAMが高発現している胆管癌患者の死亡率が、低発現している胆管癌患者の死亡率よりさらに高いか、すなわちL1CAMが胆管癌の悪い予後因子(poor prognostic factor)であることが未だ知られていない。しかも、L1CAMに対する抗体は胆管癌の増殖および転移を抑制することにより治療剤としての可能性があるという事実も未だ知られていない。
【0011】
ヨーロッパ特許出願EP1,172,654A1および米国特許出願US2004/0259084号は、L1CAMが卵素癌、子宮内膜癌またはそれらの癌の素因の存在に対する標識になるという前提の下に、卵素癌または子宮内膜癌の診断および予後のために患者のサンプルにおいてL1CAMの抗体によってL1CAMの水準を決定することを特徴とする手段、および細胞毒性薬とL1CAMまたはその断片とを結合させて十分な量で患者に投与して癌を治療する方法について開示している。ところが、これらの文献は、L1CAMタンパク質が体液または組織で卵素癌または子宮内膜癌の非常に特異的なマーカーであることを開示しているだけである。
【0012】
米国特許出願US2004/0115206号は、L1CAMに特異的に結合する抗体を用いて癌細胞死滅を誘導する製剤、細胞死滅のために前記抗体を使用する手段、およびL1CAM抗体の含まれた薬学的組成物について開示しているとともに、癌細胞で細胞成長を阻害し細胞死を誘導することが可能な有効量の抗L1CAM抗体を細胞に接触させることにより、細胞の成長を抑制し且つ細胞死滅を誘導することについて開示している。ところが、この文献も、L1CAMが発現する癌の例として乳癌、大腸癌および子宮頸癌についてのみ言及しており、in vitro試験のみを行ったばかりで、in vivo結果は裏付けられておらず、胆管癌との関連性については言及していない。また、この文献は、抗L1CAM抗体を癌細胞に接触させることにより細胞成長を抑制し且つ細胞死滅を誘導することについてのみ開示しているばかりで、癌細胞の移動、浸潤および転移を抑制することができることについては開示していない。
【0013】
また、国際出願PCT/EP2005/008148は、卵素癌および子宮内膜癌で過剰発現するL1CAMタンパク質、それらの発現を阻害する組成物、並びにこれを用いて卵素癌および子宮内膜癌を予防および治療する方法について開示している。この文献は、L1CAMタンパク質の機能を阻害するL1CAM抗体およびその誘導体を含む組成物が卵素癌および子宮内膜癌の機能を抑制して癌細胞の移動および進展を阻止することにより癌を治療し得ることを開示している。ところが、この文献も、卵素癌および子宮内膜癌で細胞表面または水溶性形態のL1CAMが癌細胞の移動を促進することについてのみ開示している。
【0014】
要するに、従来の公知の文献らには、L1CAMが胆管癌に高発現率で発現し、胆管癌に特異的な悪い予後因子(poor prognostic factor)として作用する。よって、L1CAMに対する抗体のようにL1CAMの活性を抑制する物質は、特に胆管癌に対する著しい診断または治療効果を持つことができることについては全く開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明らは、胆管癌の診断または治療に使用可能な抗体を開発しようと努力したところで、最近確立された胆管癌細胞株(Kim et al, Genes, chromosome & Cancer 30:48-56, 2001)をマウスに免疫注射して胆管癌の細胞表面に結合するモノクローナル抗体を得て、これをA10−A3抗体と命名し、A10−A3抗体がL1CAMを特異的に認識することを確認した。
【0016】
また、前記A10−A3抗体および公知のL1CAMに対する抗体を用いて、L1CAMが胆管癌の細胞株の表面に発現することを確認し、抹消血管リンパ球、肝細胞、血液内皮細胞などの正常細胞には発現しないことを確認した。これまで、L1CAMが乳癌、卵素癌、大腸癌、皮膚癌などで発現することは明らかになっているが、胆管癌で発現するという事実は明らかになっていない。本発明者らは、A10−A3抗体を用いて肝内胆管癌患者と肝外胆管癌患者の癌組織でL1CAMがどれほど発現するかを分析した結果、肝内胆管癌患者の45.2%および肝外胆管癌患者の39.8%がL1CAMを高発現することを確認し、特に胆管癌の転移の開始を知らせるインベイシブフロントでL1CAMが高発現することを確認した。そして、L1CAMの発現率と生存率との関係に対する統計学的分析結果より、高いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率が低いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率より確実に高いことを確認した。この結果は、L1CAMが胆管癌の悪い予後因子であることを証明することであり、L1CAMが胆管癌治療の重要ターゲットになれることを示唆する。これに対し、現在臨床的に使用中の癌治療剤(例えば、セテュキマブ(cetuximab)、EGFRに対するキメラ抗体)のターゲットであるEGFRが胆管癌で高発現するが、胆管癌における発現率と胆管癌患者の生存率との関係を分析したところ、統計的な有意性がないという結果が出て、EGFRが胆管癌の悪い予後因子ではないことを確認した。これは、癌細胞で過剰発現する分子が必ずしも悪い予後因子になるのではなく、重要な治療ターゲットになるのではないことを証明する。
【0017】
L1CAMが胆管癌の成長および転移に実際関与するかを確認するために、L1CAMを発現する胆管癌細胞株(Choi−CK、SCK)にL1CAMに対するsiRNAを導入させてL1CAMの発現を抑制させた後、胆管癌細胞の成長、移動、浸潤に影響を及ぼすかを分析したところ、L1CAMの発現が抑制された胆管癌細胞の成長、移動、浸潤が阻害されることを確認した。この結果はL1CAMが胆管癌細胞の成長および転移に重要に作用していることを証明する。
【0018】
L1CAMに対する抗体が胆管癌を治療することができるかを分析するために、胆管癌細胞株(Choi−CK、SCK)の培地にA10−A3抗体または公知のL1CAMに対する抗体(UJ127)を処理した結果、L1CAMに対する抗体が胆管癌細胞の成長、移動または浸潤を抑制する効果があることを確認した。また、動物実験で胆管癌細胞株をヌードマウスに注射して胆管癌を形成するとき、A10−A3抗体を注射すると、胆管癌の成長が阻害されることを確認した。また、ヒト胚芽幹細胞をマウスに免疫注射して得たハイブリドーマ(KCTC10966BP)が生産するモノクローナル抗体4−63も、癌細胞表面のL1CAMを認識し、胆管癌の成長を抑制した。よって、本発明者らは、L1CAMに対する抗体を胆管癌の診断および治療に利用可能であることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記薬学的組成物を用いて胆管癌を治療する方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、L1CAMの活性を抑制するL1CAMに対する抗体を提供することにある。
本発明の別の目的は、L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを提供することにある。
本発明の別の目的は、前記薬学的組成物を用いて胆管癌細胞の成長または転移を抑制する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1はマウスモノクローナル抗体A10−A3(A)と4−63(B)、および公知の抗体5G3(C)とUJ127(D)が胆管癌などの様々な癌細胞および正常細胞の表面に結合するか否かを、蛍光細胞染色およびフローサイトメトリーを用いて分析した結果を示す図である。
【図2】図2はA10−A3抗体に結合する抗原がL1CAMタンパク質であることを免疫沈降とウエスタンブロット方法によって証明した結果を示す図である。Aは胆管癌細胞Choi−CKの細胞表面をビオチン化させた後、抗体A10−A3または公知の抗−L1CAMモノクローナル抗体(UJ127)で免疫沈降させた後、沈降したタンパク質を10%SDS−PAGEとストレプトアビジン−HRPを用いたウエスタンブロットを行った結果である。Bは抗体A10−A3で免疫沈降させたタンパク質を10%SDS−PAGEで公知の抗L1CAM抗体(UJ127)を用いたウエスタンブロットを行った結果、L1CAMが検出されることを確認したものであり、ここで、preclearingは抗体を入れずに免疫沈降させた陰性対照群、IP with A10−A3は抗体A10−A3で免疫沈降させたもの、IP with anti−L1CAMはL1CAMに対する公知のモノクローナル抗体で免疫沈降させたもの、A10−A3 onlyは抗体自体のみをSDS−PAGEしたものをそれぞれ示す。Cは水溶性L1を発現させたHEK293T細胞培養液を公知の抗体であるUJ127、5G3、A10−A3抗体、または4−63抗体を用いてウエスタンブロットした結果を示したものであり、ここで、「−」はL1発現ベクターを入れていない細胞培養液、「+」は水溶性L1発現ベクターを入れて培養した細胞培養液をそれぞれ示す。
【図3】図3はQ−TOF分析した結果を示したものである。A10−A3抗体を用いて免疫沈降させたChoi−CK細胞からのタンパク質をSDS−PAGEで分離してトリプシンによって切断した後、Q−TOF分析によって、得られたペプチドがL1CAMであることを確認した図であって、下側のアミノ酸配列は全長L1CAMを示し、上側のアミノ酸配列は全長L1CAM配列の下線部分にそれぞれ相当する、分析されたペプチドのアミノ酸配列を示す。
【図4】図4は癌患者組織をA10−A3(A)、4−63(B)抗体を用いて免疫組織化学染色した結果であって、正常肝組織には結合せず、人体胆管癌組織には結合することを示す写真である。
【図5】図5は肝内胆管癌(A)および肝外胆管癌(B)のL1CAM発現と臨床病理学的特徴との関連性を示す図である。
【図6】図6はL1CAMの発現率と胆管癌患者の生存率との関連性を肝外胆管癌患者(60ケース)を対象として分析した結果を、OS(overall survival)およびDFS(disease free survival)で示した資料である。
【図7】図7はL1CAMに対するsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞および非特異的なsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞のL1CAM発現水準(A)と、細胞増殖(proliferation)、浸潤(invasion)および移動(migration)の度合い(B)とを比較した資料である。
【図8】図8は抗体A10−A3(A)、抗体4−63(B)、または公知のL1CAMに対する抗体UJ127および5G3(C)によって胆管癌細胞Choi−CKおよびSCKの成長が抑制される効果を分析した図であって、細胞の陽性対照群として卵素癌細胞SK−OV3を使用し、陰性対照群としてはA10−A3抗体が結合していない腎臓癌細胞ACHNを使用し、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(control)、抗体を沸かして不活性化させた抗体(A10−A3bまたは4−63b)または正常マウスIgGを使用したものであり、培養中の細胞に抗体10μg/mLを入れて72時間培養した後、細胞の成長度合いを、抗体を入れていないcontrolに比べて百分率で表現したものである。
【図9】図9は抗体A10−A3、4−63および公知の抗体5G3によって胆管癌細胞(Choi−CK、SCK)の浸潤と移動が抑制される効果を分析したものであって、細胞の陰性対照群としてはA10−A3抗体が結合していない腎臓癌細胞ACHNを使用し、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(control)、または正常マウスIgGを使用し、培養中の細胞に抗体10μg/mLを入れて72時間培養した後、細胞の浸潤(A)と移動(B)の度合いを、抗体を入れていない対照群(control)に対する百分率で表現したものである。
【図10】図10は抗体A10−A3によって癌細胞の成長、浸潤および移動が抑制される細胞信号伝達メカニズムを分析した結果を示すもので、胆管癌細胞株Choi−CKまたはSCKの培地に抗体を入れないか、A10−A3抗体またはマウス免疫グロブリンIgGを添加して培養した後、収去した細胞抽出物の量を取ってβ−actinに対する抗体を用いて確認し、PCNA(A)、phospho−MAPK(A)、phospho−AKT(B)およびphospho−FAK(C)に対する抗体を用いてウエスタンブロットを行った写真である。
【図11】図11はA10−A3抗体による癌成長抑制効果を人体胆管癌異種移植(xenograft)モデルマウスで証明する実験結果を示すものである。Aは抗体を投与したマウス5匹(A10−A3群)と、抗体を投与していないマウス5匹(対照群)の癌の大きさを時間別に示す結果、Bは癌細胞移植3週後に測定した癌組織の重量を示す結果、Cは癌組織の写真、Dは体重を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一様態において、本発明は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌細胞の成長または転移を抑制する薬学的組成物に関する。
【0022】
具体的な一様態において、本発明の薬学的組成物は、L1CAMの活性を抑制する物質を含むことができる。好ましくは、前記活性抑制物質は胆管癌細胞の表面抗原または分泌された表面抗原(L1CAM)を特異的に認識する抗体である。このような抗体は、モノクローナル抗体、これらのキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を全て含み、新規の抗体以外にも、当該技術分野における公知の抗体も含んでもよい。さらに好ましくは、前記抗体は、新規のL1CAMに対するモノクローナル抗体であるA10−A3または4−63、公知の抗体UJ127およびこれらのキメラ抗体、ヒト化抗体並びにヒト抗体である。これらのA10−A3および4−63抗体はそれぞれ受託番号KCTC10909BPおよびKCTC10966BPによって分泌されて生産される。
【0023】
前記抗体は、L1CAMを特異的に認識する結合の特性を持つ限りは、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的断片も含む。抗体の分子の機能的断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどがある。
【0024】
別の具体的な一様態において、前記薬学的組成物は、L1CAMの発現を抑制する物質を含むことができる。L1CAMを発現する癌細胞でL1CAMの発現を抑制する物質を用いてL1CAMの発現を抑制させると、癌細胞の成長と転移の役割を果たすL1CAMの作用が減少して癌治療が可能である。前記L1CAMの発現を抑制する物質は、好ましくはsiRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドよりなる群から選択され、さらに好ましくは5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’または5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’の配列を含むsiRNAである。
【0025】
用語「siRNA」は、RNA干渉または遺伝子サイレンシング(silencing)を媒介することが可能な約20ヌクレオチドサイズの小さい核酸分子を意味し、「shRNA」は、siRNAターゲット配列のセンスおよびアンチセンス配列が5〜9個の塩基からなるループ(loop)を挟んで位置した短いヘアピンRNA(short hairpin RNA)を意味する。最近、遺伝子水準でタンパク質の発現を調節するための方法として、RNA干渉(RNAi)現象を用いた方法が研究されている。siRNAは、一般に、相補的な配列を有するmRNAに特異的に結合してタンパク質発現を抑制することが明らかになっている。
【0026】
本発明の組成物に含まれるsiRNAを製造する方法には、siRNAを直接化学的に合成する方法(Sui G et al., (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99:5515-5520)や、invitro転写を用いたsiRNAの合成法(Brummelkamp TR et al., (2002) Science296:550-553)などがあるが、これに限定されない。また、shRNAは、siRNAの高価の生合成費用や、低い細胞形質感染効率によるRNA干渉効果の短時間維持などの欠点を克服するためのもので、RNA合酵素IIIのプロモータからアデノウイルス、レンチウイルスおよびプラスミド発現ベクターシステムを用いてこれを細胞内に導入して発現させることができる。このようなshRNAは、細胞内に存在するsiRNAプロセシング酵素(Dicer or Rnase III)によって、正確な構造を持つsiRNAに転換され、目的遺伝子のサイレンシングを誘導することが広く知られている。
【0027】
用語「アンチセンス」は、アンチセンスオリゴマーがワトソン・クリック塩基対の形成によってRNA内の標的配列と混成化されて、標的配列内における、典型的にmRNAとRNA:オリゴマーへテロ二本鎖の形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間のバックボーンを有するオリゴマーを指す。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列相補性または近似相補性を持つことができる。このアンチセンスオリゴマーは、mRNAの翻訳を遮断または阻害し、mRNAのスプライス変異体を生産するmRNAのプロセシング過程を変化させることができる。よって、本発明のアンチセンスオリゴマーは、L1CAM遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスオリゴマーである。
【0028】
好ましくは、本発明の組成物には、公知の治療剤を直接的または間接的に結合させるか、あるいは一緒に含ませることができる。抗体と結合可能な治療剤には放射性核種、薬剤、リンフォカイン、毒素または二重特異的抗体などが含まれる。ところが、本発明の組成物に含まれる治療剤は、これに限定されず、抗体と結合させることができるか、あるいは抗体、siRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドと共に投与して癌治療効果を得ることが可能な公知の治療剤であれば可能である。
【0029】
前述した放射線核種には、3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131Iおよび186Reなどがあり、これに限定されない。
【0030】
前述した薬剤および毒素には、エトポシド、テニポシド、アドリアマイシン、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン類、シス−白金およびシス−白金同族体、ブレオマイシン類、エスペラマイシン類、5−フルオロウラシル、メルファラン、およびその他の窒素マスタードなどがあり、これに限定されない。
また、本発明に係る組成物は、投与方式によって許容可能な担体を含むことができる。
【0031】
投与方式に適した製剤は、当該分野に公知になっている。また、本発明の薬学的組成物は癌治療のために薬学的有効量で投与できる。典型的な投与量の水準は標準臨床的技術を用いて最適化することができる。
【0032】
別の様態において、本発明は、前記薬学的組成物を用いて胆管癌を治療する方法に関する。
具体的に、本発明の治療方法は、前記薬学的組成物を薬学的有効量で人体内に投与することを含む。前記薬学的組成物は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、および鼻腔内に投与でき、局部的免疫抑制治療のために、必要であれば病変内投与を含む適切な方法によって投与される。非経口注入には筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。好ましい投与方式は静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射および点滴注射である。
【0033】
本発明の薬学的組成物を人体内に投与し、これに含まれたL1CAMに特異的な抗体を癌細胞の表面抗原L1CAMに結合させて癌細胞の増殖または転移を抑制させることにより、胆管癌を治療することができる。
【0034】
また、本発明の薬学的組成物を人体内に投与し、抗体を分泌されたL1CAMと結合させて癌細胞の成長および転移を遮断させることにより、胆管癌を治療することができるうえ、これを人体内に投与して癌細胞の表面抗原L1CAMに結合させて、これを認知する免疫細胞が癌細胞を捕食、自殺および殺害させることにより、胆管癌を治療することができる。
【0035】
また、本発明の薬学的組成物に含まれたL1CAMの発現抑制物質を用いてL1CAMの発現を抑制させると、癌細胞の成長および転移の役割を果たすL1CAMの作用が減少して癌治療が可能である。
【0036】
別の様態において、本発明は、L1CAMの活性を抑制するL1CAMに対する抗体、またはL1CAMの発現を抑制するL1CAMに対するオリゴヌクレオチドに関する。
【0037】
具体的な一様態において、前記抗体は、本発明に係る組成物で言及したように、L1CAMに特異的に結合する特性を持つ限りは、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的断片も含む。抗体の分子の機能的断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、例えばFab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどがある。
【0038】
好ましくは、前記抗体は、胆管癌細胞の表面抗原または分泌された表面抗原(L1CAM)を認識する抗体である。前記抗体は、胆管癌細胞の表面タンパク質L1CAMと結合してその作用を抑制または中和(neutralization)させ、癌細胞と結合して癌細胞の成長および転移抑制を図り、癌細胞を捕食、自殺または殺害させることができることを特徴とする。
【0039】
前述したUS2004/0115206に開示されているように、L1CAMの抗体はL1CAMの作用を必ずしも抑制するのではない。本発明の抗体は、L1CAMの作用を促進する抗体ではなく、L1CAMの活性を抑制する抗体であることを特徴とする。
【0040】
さらに好ましくは、前記モノクローナル抗体は新規の抗体A10−A3または4−63である。
【0041】
具体的な別の一様態において、本発明のL1CAMの発現を抑制するL1CAMに対するオリゴヌクレオチドは、本発明の組成物で言及されたL1CAMに対するsiRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される。
【0042】
具体的な一実施例として、本発明者らは、胆管癌細胞を大量培養した後、マウスの足底に前記細胞を注入し、前記マウスのリンパ節(lymph node)からリンパ球を分離して骨髄腫(myeloma)癌細胞と細胞融合させることにより、胆管癌細胞に結合する抗体を生産するマウスハイブリドーマを製造した。
【0043】
より具体的に、本発明者らは、胆管癌細胞SCKとChoi−CKをマウスの足底に注射し、前記マウスのリンパ節からリンパ球を分離した。その後、前記リンパ球とFO骨髄腫細胞株とを細胞融合させた後、抗体が発現するクローンを選抜した。前記製造したクローンの中で、比較的安定的にモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ上澄み液の胆管癌細胞に対する結合能を調査し、これらのモノクローナル抗体、およびモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをハイブリドーマA10−A3と命名し、これを2006年2月20日付で韓国生命工学研究院の遺伝子銀行に寄託した(住宅番号:KCTC10909BP)。具体的に、前記モノクローナル抗体が認識する癌細胞は、胆管癌細胞株には結合するが(図1参照)、肝細胞、HUVEC(ヒト由来の臍帯静脈内皮細胞)および抹消血液リンパ球(peripheral blood lymphocyte)などの正常細胞には結合せず(図1参照)、これらの抗体を使用したときに胆管癌細胞の成長、移動または浸潤が抑制された。また、公知のL1CAMに対する抗体5G3は、胆管癌細胞に結合するが、癌の成長抑制効果が低かったが(図8参照)、他の公知の抗体UJ127は胆管癌細胞に結合してそれらの成長を抑制した。これにより、L1CAMの抗体が必ずしもL1CAMの作用を抑制するのではないことが分かった。
【0044】
具体的な別の一実施例において、本発明者らは、5−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3および5−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3の配列を有するsiRNAをそれぞれChoi−CKおよびSCKに形質感染させて非特異的なオリゴヌクレオチド配列を形質感染させたものと比較した結果、非特異的なオリゴヌクレオチドを処理した対照群とは異なり、L1CAMの量が減少しただけでなく、siRNAによってL1CAMがノックダウン(knock-down)された細胞群は正常的にL1CAMを発現する細胞群に比べて癌細胞の増殖、浸潤および移動の度合いが減少することを確認した。
【0045】
本発明の実施例(実施例5、6および7参照)から分かるように、L1CAMが胆管癌細胞で発現すること、L1CAMが胆管癌患者の約40%で過発現すること、L1CAMは胆管癌の進行に重要に作用して死亡危険率を高くする、胆管癌の悪い予後因子であること、これに反し、他の癌で悪い予後因子として知られているEGFRは胆管癌の悪い予後因子でないことは、本発明者らによって最初に明らかになった。よって、本発明に係るL1CAMの活性または発現を抑制する物質、これを含む癌の中でも胆管癌に特異的に著しい、癌の診断および治療が可能であるという効果を持つ。
【0046】
それだけでなく、本発明者らは、免疫組織化学染色方法によって非小細胞肺癌患者におけるL1CAM発現率が10%未満であることを確認し、A10−A3抗体を、L1CAMを発現する非小細胞肺癌細胞株A549とNCI−H522に処理したときに癌細胞の成長阻害率はそれぞれ14%および24%であることを確認した。ところが、これはA10−A3の胆管癌細胞成長阻害率である約40%に大きく及ばない。これにより、本発明の組成物が胆管癌に特異的な効果を持つことはさらに証明されるといえる。これに関連した事項は、本発明者らが本出願と同日付で出願する韓国特許出願の明細書(発明の名称:「肺癌の治療用薬学的組成物、並びにこれを用いた肺癌の成長、転移抑制および治療方法」)に具体的に記載されている。前記文献は本発明に対する参考文献として含まれる。
【0047】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。ところが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1:癌細胞の培養
癌細胞株は、全て10%牛胎児血清(Gibco社)を含有する次の培地を用いて、5%の二酸化炭素が維持される37℃の高温培養器で培養した。SH−J1(hepatocellular carcinoma)、SCK(cholangiocarcinoma)、Choi−CK(cholangiocarcinoma)およびACHN(Renal cell adenocarcinoma)細胞はMEM(Gibco社)培地を利用し、SK−OV3(ovary adenocarcinoma)細胞はMcCoy 5A Medium(Gibco社)培地を利用した。A549(non small cell lung carcinoma)は、Ham’s F12K培地で、NCI−H522(non small cell lung carcinoma)、DMS114(small cell lung carcinoma)、DMS53(small cell lung carcinoma)、NCI−H69(small cell lung carcinoma)はWaymouth’s(Gibco社)培地で培養した。SH−J1、SCKおよびChoi−CK細胞株は、キムデゴン博士(韓国の全北大学校医科大学)から得、その他の癌細胞株はATCCから購入した。
正常細胞である肝細胞(hepatocyte)はCambrax社から購入し、HUVEC細胞もCambrax社から購入した後、10%の牛胎児血清(Gibco社)を含有するEGM−2(Hyclone社)培地を用いて、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。抹消血液リンパ球(PBL)は、ヒトの血液からフィコール密度勾配で遠心分離により分離した後で収得した。
【0049】
実施例2:癌細胞Choi−CKおよびSCKに結合するモノクローナル抗体A10−A3の製造
培養した癌細胞Choi−CKとSCKを細胞分離緩衝液(Cell dissociation buffer)(Invitrogen)を用いて取り外し、約5×105の細胞を30μLのPBSに浮遊させた後、Balb/cマウスの右足底にChoi−CKを注射し、3日後に左足底にはSCKを注射した。これを3〜4日間隔で6回反復投与し、細胞融合1日の前にさらに注射した。リンパ節細胞と融合させるFO骨髄腫細胞株(ATCC、USA)は、10%の牛胎児血清を含有したDMEM(Gibco社)培地で2週前から培養して準備した。
【0050】
癌細胞Choi−CKとSCKで免疫させたマウスの膝窩リンパ節をそれぞれ取り出してDMEM(Gibco社)培地でよく洗浄し、培養皿でよく粉砕して細胞浮遊物を15mLのチューブに移しておいた。FO骨髄腫細胞を遠心分離して収去し、10mLのDMEM培地に懸濁して前記リンパ節細胞と共に細胞数を計数した。その後、106個の骨髄腫細胞FOと107個のリンパ節細胞を50mLのチューブに移して混ぜた後、200×gで5分間遠心分離して上澄み液を除去し、しかる後に、37℃の水が充填されたビーカーに2分間放置した。チューブを軽く叩いて細胞を柔らかくし、37℃の水に浸漬した状態でゆっくり振とうしながら、1mLのPEG溶液(Gibco社)を1分間徐々に添加した。100×gで2分間遠心分離し、5mLのDMEM培地を3分にわたって徐々に添加し、さらに5mLのDMEM培地を2分間ゆっくり添加した後、200×gで遠心分離して細胞を回収した。そして、細胞融合効率および生存率を高めるために、ハイブリドーマクローニング因子(Hybridoma Cloning Factor)(BioVeris社、USA)を予め10%で正常培地(DMEM+20%の牛胎児血清)に混ぜておいた。回収した細胞を、ハイブリドーマクローニング因子を混ぜた30mLの正常培地(DMEM+20%の牛胎児血清)に丁寧に懸濁した。37℃のCO2培養器で30分間放置した後、96ウェルプレートにウェル当り70μLずつ105個の細胞となるように分注して37℃のCO2培養器で培養した。翌日70μLのHATを加え、3日間隔でHAT培地で2週以上成長させながら、成長するコロニーを観察した。このようにChoi−CK細胞を免疫注射したリンパ節、およびSCK細胞を免疫注射したリンパ節から分離したリンパ球を骨髄腫細胞と融合させて得たハイブリドーマコロニーの上澄み液を用いて、次の実験を行った。
【0051】
抗体が発現するクローンを選抜するために、サンドイッチELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法を使用した。抗マウスIgGまたはIgM抗体を2μg/mLでコートしたプレートに100μLのハイブリドーマ培養液を添加して37℃で1時間反応させ、さらに抗−マウスIgGまたはIgMのHRP(horseradish peroxidase、Sigma社)の1/5000希釈液と1時間さらに反応させた。0.05%のツイン20を添加したリン酸緩衝液で培養容器を洗浄し、OPD(Sigma社)および過酸化水素(H2O2)の含有される基質溶液を添加し、波長492nmの吸光分析器で吸光度を測定することにより、抗体を生産するクローンを選別した。
【0052】
これらの製造したクローンの中で、比較的安定的に抗体を分泌するハイブリドーマ上澄み液のSCKとChoi−CK細胞に対する結合能を調査した。具体的に、培養されたChoi−CK細胞を細胞分離緩衝液(Gibco)を用いて20分間37℃で処理して単一細胞に分離した後、40μmのストレイナー(strainer)を通過させて5×105細胞をフローサイトメトリー(Flow cytometry)に使用した。まず、単一細胞化されたSCKおよびChoi−CK細胞をPBA(1%のBSAをPBSに溶解)に浮遊させ、抗体上澄み液を4℃で30分間反応させた。4℃で1200rpmにて5分間遠心分離して100μLの上澄み液を除去し、ここに抗マウスIg−FTC(BD)を200倍希釈して4℃で30分間反応させた後、PBAで2回洗浄し、ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodide、PI)陰性である細胞のみを選んでフローサイトメトリー(FACS caliber)でSCKおよびChoi−CK細胞に対する結合能を分析した。
【0053】
その結果、SCKおよびChoi−CKに結合する抗体を分泌する様々なハイブリドーマを選別し、持続的な継代培養によって安定化を維持させた後、サブクローニングした。前記サブクローニングによって確実に安定性を維持させたSCKおよびChoi−CK細胞に対する特異性を維持した抗体A10−A3を分泌するハイブリドーマを選別した。
【0054】
前記モノクローナル抗体A10−A3を分泌するハイブリドーマをハイブリドーマA10−A3(受託番号:KCTC10909BP)と命名し、これらを2006年2月20日付でKCTC(Korean Collection for Type Cultures、韓国大田市儒城区魚隠洞52番地韓国生命工学研究院)に寄託した。
【0055】
実施例3:モノクローナル抗体A10−A3の癌細胞結合特異性の分析
A10−A3ハイブリドーマ細胞株を無血清培地(PFHM、Invitrogen社)で培養した後、培養液からタンパク質G−セファロースカラム(Pharmacia、スウェーデン)を用いて精製した(Fike et al., Focus 12:79, 1990)。精製されたA10−A3抗体の胆管癌細胞に対する結合能を蛍光細胞染色によって実施例3と同様の方法によって調査した(図1)。図1において、実線部分はモノクローナル抗体A10−A3、4−63、およびL1CAMに対する公知の抗体5G3(Pharmingen、San Diego、USA)とUJ127(Chemicon)であり、陰影部分は2次抗体のみを含んだものである。様々な癌細胞に対するA10−A3、4−63、5G3およびUJ127の結合能力を測定するために、フローサイトメトリーを用いた。その結果、前記モノクローナル抗体が癌細胞の中でもSCK、Choi−CKおよびSK−OV3などの癌細胞に結合することを観察することができた(図1のパネルA、B、CおよびD)。ところが、ACHN癌細胞、肝細胞、HUVEC、抹消血液リンパ球(PBL)とは結合しない結果を示した。
【0056】
実施例4:モノクローナル抗体A10−A3が認識する抗原の分離および同定
実施例4−1:抗原の分離
モノクローナル抗体A10−A3が認識する細胞表面認識因子を分離するために、まず、培養したChoi−CK細胞をPBS緩衝溶液で洗浄し、EZ−Link Sulfo−NHS−LC−Biotin(Pierce、Rockford、IL)でビオチン化させた後、細胞を溶解溶液(25mM Tris−HCl、pH7.5、250mM NaCl、5mM EDTA、1%Nonidet P−40、2μg/mLのアプロチニン、100μg/mLのフェニルメチルフルホニルフッ化物、5μg/mLのロイペプチン)を用いて4℃で20分間反応させた後、細胞残骸(debris)を除去するために遠心分離を行った。上澄み液のみを回収してBCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した。
【0057】
タンパク質Gプラス−セファロース(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz)に非特異的に結合するタンパク質は、細胞溶解液を20μLのタンパク質Gプラス−セファロースと4℃で2時間反応させた後、遠心分離して上澄み液のみを回収して準備し、回収した上澄み液はさらに約1μgの抗体と4℃で12時間反応させた。ここに20μLのタンパク質Gプラス−セファロースを添加して4℃で2時間反応させた後、遠心分離して沈殿物を回収した。
【0058】
回収した沈殿物を細胞溶解液で10回以上洗浄し、残っているタンパク質を10%SDS−PAGEで分離した。このタンパク質をニトロセルロース膜に移してウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のPBST(PBS+0.1%Tween20)緩衝溶液で1時間反応させてから、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応されたニトロセルロース膜をストレプトアビジン−HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)コンジュゲート(1:1500、Amersham biosciences)を添加して1時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ビオチン化タンパク質をECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。
【0059】
その結果、約200kDaサイズのタンパク質にA10−A3抗体が結合することを確認した( 図2のパネルA)。抗体A10−A3によって免疫沈降するタンパク質を集めるために、1×108Choi−CK細胞から得た細胞溶解液を前述の方法で免疫沈降させた後、SDS−PAGEを用いて分離した。このゲルをCoomassie G250(Biorad)で染色した。
【0060】
実施例4−2:質量分析器(Mass Spectrometry)による抗原の同定
A10−A3によって免疫沈降したタンパク質を含むSDSゲルをCoomassie G250(BIO−RAD)で供給者のプロトコール通りに染色した。タンパク質含有部分を切り出し、30%のメタノールで5分間洗浄し、細かく粉砕した。ゲル切片を30%メタノールによって染色が完全に脱色するまで反応させてから、100%のアセトニトリルによって10分間水分を除去し、30分間真空遠心分離器によって乾燥させた。乾燥したゲル切片は50mMの重炭酸アンモニウム溶液で300ngのトリプシン(Promega)と16時間37℃で反応させた。切断されたペプチドは3回100μLの50mM重炭酸アンモニウムで抽出し、真空遠心分離器で乾燥させた。ペプチド混合物はQ−TOF micro(MicroMass)でESI Q−TOF MS/MS(electrospray quadrupole time of flight tandem mass spectrometry)によって分析した。その結果、このタンパク質がL1CAM(L1 Cell Adhesion molecule)であることを確認した(図3)。図3における下線部分は、実際アミノ酸配列がQ−TOFで解明されたことを表示する。よって、実際L1CAMに対する抗モノクローナル抗体UJ27.11をChemicon(USA)社から購入してビオチン標識付きChoi−CK細胞溶解液を用いて実施例4−1のように免疫沈降させ、ECLで確認した。図2のパネルAに示すように、A10−A3と抗−L1CAM抗体が約200kDAの同一位置にタンパク質を免疫沈降させることが分かる。
【0061】
実施例4−3:ウエスタンブロット(Western blotting)によるL1CAM抗原の確認
A10−A3抗体が本当にL1CAMを認識するかを再確認するために、Choi−CKの細胞溶解液を用いてこの抗体でまず免疫沈降を行った。タンパク質Gプラス−セファロース(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz)に非特異的に結合するタンパク質は、細胞溶解液を20μLのタンパク質Gプラス−セファロースと4℃で2時間反応させた後、遠心分離して上澄み液のみを回収して準備し(図2のpreclearing)、回収した上澄み液はさらに約1μgの抗体と4℃で12時間反応させた。ここに20μLのタンパク質Gプラス−セファロースを添加して4℃で2時間反応させた後、遠心分離して沈殿物を回収した。回収した沈殿物を細胞溶解液で10回以上洗浄し、残っているタンパク質を10%SDS−PAGEで2−メルカプトエタノールなしに分離した。このタンパク質をニトロセルロース膜に移してウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のPBST(PBS+0.1%Tween20)緩衝溶液で1時間反応させてから、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応されたニトロセルロース膜を公知の抗−L1CAM抗体UJ127(Chemicon)を1次抗体として添加して1時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回洗浄した後、抗−マウスIgGのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000、Sigma)で1時間反応させた。さらにPBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、A10−A3によって免疫沈降した約200kDaサイズのタンパク質にL1CAM抗体が結合することを確認した(図2のパネルB)。これはさらにA10−A3抗体がL1CAMを認識することを示す。
【0062】
実施例4−4:水溶性L1CAMの発現
水溶性L1CAMを発現させるための発現ベクターを製作するために、培養された癌細胞Choi−CKからRNA抽出キット(Roche co.)を用いてtotal RNAを分離した。分離されたtotal RNAを鋳型としてRT−PCRキット(Roche co.)を用いて、2つの両末端プライマーIg−dom−F(5’−gAg gAg gAA TTC Cgg CgC Cgg gAA AgA Tgg TCg Tgg Cg−3’、38mer)とL1−Fn−Stop−R(5’−CTC TAg AgT TCT CgA gTC AgA gCC TCA CgC ggC C−3’、34mer)とpfu重合酵素(Solgent co.)を用いて95℃で5分間前処理反応させた後、95℃、30秒/58℃、30秒/72℃、2分間25回連鎖重合反応を行い、72℃で10分間重合反応を行って増幅した。増幅された水溶性L1 DNA断片をpJK−dhfr2発現ベクター(Aprogen)に挿入するために、ベクターと増幅されたDNA断片をEcoRIとXhoI酵素でそれぞれ切断して1%アガロースゲルに電気泳動して当該断片を切り取ってGel purification kit(Intron co.)を用いて回収した。回収された2つのDNA断片をT4 DNAリガーゼ(Roche co.)を用いて16℃で30分間反応させて大腸菌(E.coli DH5α)にヒートショック(heat shock)法によって形質転換させた。形質転換された細胞からプラスミドDNAを分離して塩基配列を分析することにより、水溶性L1CAMのcDNAがクローニングされていることを確認した。製造された発現ベクターはpJK−dhfr2−L1−monomerと命名した。
【0063】
水溶性L1CAMを発現させるために、pJK−dhfr2−L1−monomer DNAをHEK293T(ATCC CRL11268、以下「293T」という)に形質転換してL1−monomerを発現させた。500μLのOpti−MEM培地(Gibco BRL)にリポフェクタミン2000(Invitrogen co.)と前記発現ベクター10μgをそれぞれ混入して5分間常温で反応させる。2つの反応液を合わせた後、15分間常温でさらに反応させた。2つの反応液を常温で反応させる間、293T細胞をPBS緩衝溶液(pH7.4)で丁寧に洗浄して除去し、Opti−MEM培地を入れた後、さらに除去する。リポフェクタミン2000とDNAとを反応させた溶液にOpti−MEM培地4mLを入れて攪拌した後、これを293T細胞のある培養容器に注意深く仕込み、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。6時間の培養後、5mLのOpti−MEM培地をさらに添加し、3日間培養した。
【0064】
実施例4−5:抗体の水溶性L1CAMに対する結合特異性の確認
293T細胞で水溶性L1CAMを発現させた細胞培養液と、水溶性L1CAMを発現させていない細胞培養液に対して10%SDS−PAGEとウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のTBST(TBS+0.05%Tween20)緩衝溶液を用いて4℃で12時間反応させてから、前記TBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。公知の抗−L1CAM抗体UJ127(Chemicon)および5G3(Pharmingen)と前記A10−A3および4−63抗体を、5%脱脂乳含有のTBST緩衝溶液に1:10000で希釈された1次抗体と1時間反応させた。前記TBST緩衝溶液で5回洗浄した後、抗マウスIgGのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000、Sigma)で1時間反応させた。さらにTBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、前記各抗体は約200kDaサイズの水溶性L1CAMに結合することを確認した(図2のパネルC)。また、前記L1発現細胞培養液に対して前記抗体を用いてELISAを行った結果、各抗体は発現した水溶性L1CAMに対する結合特異性があることを確認した。
【0065】
実施例5:胆管癌組織に対する免疫組織化学的染色
胆管癌の免疫組織化学染色のために、癌から厚さ3μmの切片を準備した。この切片を、それぞれポリ−L−リジンを塗布したスライドに接着させた。まず、60℃のオーブンで3時間乾燥させた後、キシレンによって室温で5分間3回脱パラフィン化させた。100%、90%、80%および70%のアルコールでそれぞれ1分間処理し、抗原性回復のためにtarget retrieval solution(DAKO、Carpinteria、CA)にスライドを浸漬した後、圧力釜を用いて4分間沸かしたTBST(Tris-buffered saline-Tween 20)緩衝溶液で水洗した。高感度の免疫組織化学染色のために、Biotin−free Tyramide Signal Amplification SystemであるCSAIIkit(DAKO、Carpinteria、CA)を用いた。非特異抗原を除去するために、3%の過酸化水素に5分間反応させた後、緩衝溶液で5分間2回洗浄し、非特異タンパクの結合を除去するために十分な無血清蛋白質ブロック(serum-free protein block)で5分間反応させた。1次抗体(A10−A3、4−63、1:50希釈)を塗布して15分間反応させ、抗−マウス免疫グロブリン−HRPに15分間処理した。その後、増幅剤(Amplification reagent)に15分間放置した後、抗−フルオレセイン−HRPに15分間反応させた。DABを用いて5分間発色させた後、Meyer’s hematoxylin で対照染色を行った。それぞれの段階が終わると、TBST緩衝溶液で5分間2回洗浄した。陰性対照群は染色の際に1次抗体を除外して正常羊血清を添加するか、あるいは1次抗体の代わりに正常マウスIgG1血清を添加し、残りの全ての過程は同様にした。その結果、正常組織には結合せず、胆管癌組織にはA10−A3および4−63抗体がよく結合することが分かった(図4)。
前記結果は胆管癌組織でL1CAMが発現することを意味する。
【0066】
前記L1CAMが発現した癌のうち、胆管癌におけるL1CAMの発現率を調べるために、A10−A3抗体を用いた免疫組織化学染色法を用いて肝内胆管癌患者(42ケース)と肝外胆管癌患者(103ケース)の癌組織でL1CAMがどれほど発現するかを分析した結果、肝内胆管癌患者の45.2%および肝外胆管癌患者の39.8%でL1CAMが高発現することを確認した(図5)。特に胆管癌の転移の開始を知らせるインベイシブフロントでL1CAMが高発現することを確認した(図4)。
【0067】
実施例6:胆管癌におけるL1CAMの発現率と患者生存率との関係に対する統計学的分析
L1CAMの発現率と胆管癌患者の生存率との関連性を肝外胆管癌患者(60ケース)を対象として分析した結果、高いL1CAM発現率を有するグループが、低いL1CAM発現率を有するグループよりOS(overall survival)およびDFS(disease free survival)が統計学的に有意的に低い、すなわち死亡危険性が高いことを確認した(図6)。生存グラフにおいて、L1CAMの過発現と低発現は胆管癌患者の2年間の総生存率(OS)に多くの差異を示し、統計学的に最も有効性があるものと確認された。また、生存グラフにおいて、L1CAMの過発現および低発現は胆管癌患者の2年間再発せずに生存することが可能な確率(DFS)が統計学的に有意性を持つものと確認された。
【0068】
これに対し、胆管癌または他の腫瘍で過発現するものと知られているEGFR(epidermal growth factor receptor)の発現率と生存率との相関関係は、統計学的に有意性があるものとは確認されなかった(図6)。これはL1CAMに対する抗体を胆管癌の診断および治療に利用可能であることを示唆し、特に死亡率が高い胆管癌の転移を早期に診断および治療して治療効果を高めることができることを示唆する。L1CAMの発現率と生存率との関係に対する統計学的分析結果より、高いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率が、低いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率より確実に高いことを確認した。
【0069】
この結果は、L1CAMが胆管癌の悪い予後因子であることを証明するもので、L1CAMが胆管癌治療の重要ターゲットになれることを示唆する。これに対し、現在臨床的に使用中の癌治療剤(例えば、セテュキマブ(cetuximab)、EGFRに対するキメラ抗体のターゲットであるEGFRが胆管癌で高発現するが、胆管癌における発現率と胆管癌患者の生存率との関係を分析した結果、統計的な有意性がないものと確認した。また、EGFRは胆管癌の悪い予後因子でないことを確認した。これは癌細胞で過剰発現する分子が必ずしも悪い予後因子になるのではなく、重要な治療ターゲットになるものではないことを証明する。
【0070】
実施例7:L1CAM発現抑制の胆管癌細胞機能に対する効果
実施例7−1:胆管癌細胞におけるsiRNAを用いたL1CAMの発現抑制
Choi−CKとSCKでL1CAMの発現をノックダウンさせるために、L1CAMに対するsiRNAオリゴヌクレオチド(5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’および5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’)と非特異的なオリゴヌクレオチド(5’−CAGTCGCGTTTGCGACTGGdtdt−3’)をそれぞれ形質感染させた後、72時間培養した。L1CAMのノックダウン(knock down)はA10−A3を用いたフローサイトメトリー(flow cytometry)、RT−PCRおよびウエスタンブロットによって確認した。その結果、L1CAMに対するsiRNAをChoi−CKとSCKに処理したところ、非特異的なsiRNAを処理した対照群と比較したとき、L1CAMの全体発現量と細胞表面に存在するL1CAMの量が減少することを確認した(図7のパネルA)。
【0071】
実施例7−2:L1CAMに対するsiRNAを処理した胆管癌細胞の活性分析
L1CAMに対するsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞と非特異的なsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞の増殖(proliferation)、浸潤(invasion)および移動(migration)の度合いを比較した。増殖の度合いは、それぞれ同数の細胞を計数して72時間後の細胞をトリファンブルー(Tryphan Blue)溶液を用いて測定した。また、浸潤および移動の度合いはQCM24−well cell invasion assay kit(Chemicon)とQCM 24−well colorimetric cell migration assay kit(Chemicon)を用いて分析した。L1CAMがノックダウンされた細胞群は、L1CAMが正常的に発現する細胞群に比べて増殖、浸潤および移動の度合いが減少することを確認した。これはL1CAMが胆管癌細胞の成長、移動および浸潤に作用していることを示唆する(図7のパネルB)。
【0072】
実施例8:L1CAM特異的抗体による胆管癌細胞の成長抑制
L1CAMに対する抗体が胆管癌細胞の成長を阻害するかを実験するために、A10−A3抗体が結合するChoi−CKおよびSCKと、陽性対照群としての卵素癌細胞株SK−OV−3と、陰性対照群としてのACHN細胞を3mLの培地内に2×105cellsずつ計数して6ウェルプレートで培養し、前記モノクローナル抗体を10μg/mLの濃度で添加した後、細胞を37℃のCO2反応器で72時間反応させた。そして、細胞を回収して0.2%トリファンブルー溶液で死細胞と生細胞を数え、全体細胞中の生細胞の百分率を求めた。その結果、A10−A3抗体によってChoi−CKおよびSCK細胞の成長はSK−OV3細胞のように著しく減少し、ACHNは何の影響も受けなかった(図8のパネルA)。一方、4−63抗体も胆管癌の成長を抑制した(図8のパネルB)。
L1CAMに特異的に結合するものと知られている公知の抗体UJ127(Chemicon)と5G3(Pharmingen)を前記胆管癌細胞に処理したとき、UJ127抗体は前記癌細胞の成長を阻害したが、5G3抗体の場合には胆管癌細胞(Choi−CK)の成長を若干阻害した(図8のパネルC)。5G3抗体はChoi−CK細胞には結合した(図1のパネルC)。この結果は、モノクローナル抗体が癌細胞に結合するとしても、必ずしも癌細胞の成長を阻害するのではないことを示唆する。
【0073】
実施例9:L1CAM特異的抗体による胆管癌細胞の浸潤および移動抑制
インベイションアッセイ(Invasion assay)を行うために、CHEMICON社のQCM 24−well cell invasion assay kitを使用した。インサート(insert)のECM層を再水和するために、予め温め直した300μLの無血清培地(RPMI、10mM HEPES、pH7.4)をインサートに入れ、常温で30分間放置しておいた。Choi−CK、SCK、SK−OV3およびACHNをPBSによって2回洗浄した後、3mLのトリプシン−EDTAを添加し、37℃の培養器に入れた。インベイジョン培地(RPMI、10mM HEPES pH7.4、0.5%BSA)から取り外した細胞を収去し、細胞数を1×105/200μLのインベイジョン培地に合わせた後、それぞれのインサートに細胞を仕込み、抗体A10−A3、4−63または公知の抗体5G3(10μg/mL)と正常マウスIgG(10μg/mL)を処理した。Lower chamberに10%FBSを入れたインベイジョン培地を仕込み、72時間37℃の培養器で培養した。培養が終わった後、インサートに残った細胞と培地を除去し、インサートを新規のウェルに移した。予め温め直した細胞分離溶液225μLにインサートを乗せ、37℃の培養器で30分間培養した。残った細胞を完全に取り外すためにインサートを振とうし、細胞分離溶液と細胞入り溶液に75μLのLysis buffer/Dye solutionを仕込み、常温で15分間放置した。200μLの溶液を96ウェルに移して480nm/520nmのfluorescenceで読み取った。その結果、A10−A3はACHAでは抑制作用がないが、Choi−CK、SCKおよびSK−OV3では癌細胞の浸潤を抑制することが分かった(図9のパネルA)。4−63抗体もChoi−CK細胞の浸潤を抑制した(図9のパネルA)。ところが、5G3抗体はChoi−CK細胞の浸潤抑制作用がA10−A3および4−63抗体より良くなかった(図9のパネルA)。
【0074】
マイグレーションアッセイ(Migration assay)の際には、インサートの底部に別途にコラーゲンタイプIを10μg/mLでコートした以外は前記方法と同様にして実験した。その結果、抗体A10−A3はACHNでは抑制作用がないが、Choi−CK、SCKおよびSK−OV−3では癌細胞の移動を抑制することが分かる(図9)。
【0075】
実施例10:A10−A3抗体による癌細胞信号伝達抑制
実施例10−1:A10−A3抗体による癌細胞のPCNA発現抑制
細胞の増殖を表現するPCNA(Proliferating cell nuclear antigen)の発現がA10−A3抗体によって低下するかをウエスタンブロットによって検証するために、Choi−CK細胞に抗体A10−A3、マウスIgG10をそれぞれ72時間処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を8%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファー(Western transfer)した。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、マウスモノクローナル抗−PCNA(Novocastra Laboratories、1:500)抗体および抗−βアクチン(Oncogene、1:4000)抗体と1時間反応させた。そして、抗−マウスホースラディシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体(Cell Signaling、1:1000)と反応させ、PBSTで洗浄した後、ECL(Enhanced Chemiluminescence Reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でPCNAとβ−actinを検出した。抗体A10−A3で処理したChoi−CKでのみPCNAの発現が著しく減少することを観察することができた(図10のパネルA)。
【0076】
実施例10−2:MAPKリン酸化(phosphorylation)の抑制
癌細胞の成長、浸潤および生存に関与するMAPK(mitogen-activated protein kinase)リン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって検証するために、Choi−CK細胞に抗体A10−A3およびマウスIgGを10μg/mLでそれぞれ72時間処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を12%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂牛で一晩4℃でブロッキングし、Rabbit polyclonal anti−phospho MAPK(Ab Cam、1:1000)抗体と1%脱脂乳で一晩反応させた。リン酸化していないMAPKの発現を調査するためには、同量のタンパク質を前述のように同様に処理し、ブロッキングしたニトロセルロース膜とanti−MAPK(Ab Cam、1:1000)抗体を1時間反応させた。そして、抗−ウサギホースラディッシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体(Cell Sgnaling、1:10000)と1時間反応させ、PBSTで洗浄した後、ECL(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho MAPKとMAPKを検出した。同一のMAPKが発現するChoi−CK癌細胞で抗体A10−A3を処理したChoi−CKでのみphospho−MAPKの量が著しく減少することを観察することができた(図10のA)。
【0077】
実施例10−3:A10−A3抗体によるAKTリン酸化抑制
癌細胞の生存に関与するAktリン酸化(phosphorylation)がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって検証するために、Choi−CK細胞に抗体A10−A3とマウスIgG10をそれぞれ30分、1時間、1時間30分および2時間ずつ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を12%SDS−PAGEで展開した後、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂牛で一晩4℃でブロッキングし、rabbit polyclonal anti−phospho Akt(Ab cam、1:1000)抗体およびrabbit polyclonal anti−Akt(Ab cam、1:1000)と1%脱脂乳で一晩反応させ、抗−ウサギIgG HRP(Santa Cruz、1:10000)抗体と1時間反応させた。PBSTで洗浄した後、ECL(enhanced chemiluminescence reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho Aktと全体Aktを検出した。抗体A10−A3を処理したChoi−CK細胞でphospho Aktの量が減少することを観察することができた(図10のB)。
【0078】
実施例10−4:A10−A3抗体によるFAKリン酸化抑制
癌細胞の成長および移動に重要に作用するFAK(focal adhesion kinase)のリン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって分析するために、Choi−CKおよびSCK細胞に抗体A10−A3を30分、1時間、1時間30分、2時間ずつ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を7.5%SDS−PAGEで展開した後、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、rabbit polyclonal anti−phospho FAK(Ab cam、1:1000)抗体と1%脱脂乳で一晩反応させ、anti−β actin(Oncogene、1:4000)抗体と1時間反応させた。そして、抗−ウサギホースラディシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体(Cell Signaling、1:10000)と1時間反応させ、TBSTで洗浄した後、ECL(enhanced chemiluminescence reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho FAKとβ−actinを検出した。抗体A10−A3で処理したChoi−CKおよびSCKでphospho−FAKの量が著しく減少することを観察することができた(図10のC)。
【0079】
実施例11:マウスモデルにおける抗体A10−A3の癌細胞成長抑制実験
ヌードマウスBalb/c nu/nuを中央実験動物社を介してSLC(日本)から購入した。週齢および体重は6〜8週齢および18〜22gであって、韓国生命工学研究院で1週間馴化させた。その後、皮下に3×106cellsのChoi−CK細胞を利殖し、20日目に390mm3の大きさに成長した(図10のA)。腫瘍容積(Tumor volume)は横(mm)×縦(mm)×高さ(mm)/2で測定した。実験最終日にヌードマウスをCO2を用いて犠牲にした後、腫瘍を分離し、その重量を測定した。動物に対する毒性を検証するために、動物の体重を測定した。標準偏差(SDs)およびp−valueはANOVA(Prisim、GraphPad software、USA)およびStudent t testを用いて算出した。
A10−A3を1日目(day 1)から毎週3回ずつ10mg/kgの濃度で尾静脈に注射したとき、20日目(day 20)まで強い抗癌効果が観察された(図10のA)。対照群(control)としてはマウスIgG抗体を同量で尾静脈に注射した。20日目の腫瘍のサイズは232mm3であって、対照群と比較して約40%の抗癌効果が観察された(図11のA)。実験最終日(20日目)に腫瘍を分離した後、その重量を測定した(図11のB、C)。対照群の平均腫瘍重量は872mgであり、A10−A3投与群の平均腫瘍重量は516mgであって、約40%の抗癌効果が観察された。
【0080】
A10−A3の毒性を予測するために、ヌードマウスの体重変化を20日間測定し、肉眼で行動の変化を検証した(図11のD)。20日目に対照群と比較したとき、体重減少および異常行動も観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
上述したように、本発明者らは、胆管癌の細胞表面にL1CAMが発現して胆管癌の増殖および浸潤に関与し、このようなL1CAMが胆管癌に特異的な悪い予後因子(poor prognostic factor)であることを解明したところ、本発明に係る胆管癌細胞表面のL1CAMタンパク質を認識し、胆管癌組織に特異的に結合する抗体またはsiRNA、shRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド、およびこれを含む薬学的組成物は、胆管癌の成長、浸潤および移動を抑制し且つ細胞死滅を誘導することにより、胆管癌の治療に有用に利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆管癌の細胞表面に存在するタンパク質L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物、およびこれを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胆管癌は、肝の胆管に生じる癌であって、肝癌などの幹細胞から発生するものと思われる(Sell and Dunsford Am J. Pathol. 134:1347-1363, 1989)。世界的に見て胆管癌の発生頻度は肝癌に比べて一層低いが、東南アジアにおける発生頻度はヨーロッパまたは北アメリカより一層高い。胆管癌は、高い再発率のため外科的切除術が非効果的であり、通常の化学療法または放射線療法がよく効かないという特徴を持つ(Pederson et al Cancer Res. 4325-4332, 1997)。しかも、胆管癌の診断が容易でなく、胆管のバクテリアまたは寄生虫の感染による慢性炎症に起因する胆管の慢性炎症が胆管癌を形成する傾向があるという所見がある(Roberts et al., Gastroenterology 112:269-279, 1997)。
【0003】
それにも拘らず、胆管癌の発生原因に対するメカニズムは未だよく知られておらず、胆管癌の治療のためのターゲット分子も知られていない。また、幾つかの胆管癌の細胞遺伝的研究が発表され、極めて少数の細胞株のみが確立されており(Yamaguchi et al., J. Natl Cancer Inst 75: 29-35, 1985; Ding et al., Br J Cancer 67: 1007-1010, 1993)、この細胞株を用いて胆管癌に特異的な抗体を製造する方法も知られていない。
【0004】
最近、韓国人の胆管癌患者から胆管癌細胞Choi−CKおよびSCKが確立された(Kim et al., Genes, chromosome & Cancer 30: 48-56, 2001)。これらの癌細胞をマウスに注射して癌細胞の表面抗原を認識するモノクローナル抗体を製造し、これらの抗体が胆管癌細胞の成長を抑制する効果があることさえ確認すれば、これらの抗体を用いて胆管癌の治療方法を開発することができるであろう。
【0005】
公知の癌予後因子(prognostic factor)としてよく知られている上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子は、ガン原遺伝子(proto-oncogene)であって、腫瘍形成(tumorigenesis)とaggressive growth behaviourに関与することが明らかになっており、EGFRは、乳癌、肺癌、大腸癌、腎臓癌、胆嚢癌、頭頸部癌、卵素癌、前立腺癌、子宮頸癌および胃癌などの様々な癌で過剰発現する(Modjtahedi, H. and Dean, C. The receptor for EGF and its ligands: expression, prognostic value and target for therapy in cancer. Int. J. Oncol. 4 : 277-296, 1994)。また、EGFRの発現と癌予後との関係は癌の種類によって異なる(Nicholson, R. I. et al. EGFR and cancer prognosis. Eur. J. Cancer 37, S9-S15, 2001)。例えば、EGFRは、膀胱癌、子宮頸癌、食道癌、頭頸部癌および卵素癌では強力な予後因子(strong prognosis factor)であるが、非小細胞肺癌(non small cell lung carcinoma、NSCLC)では弱い予後因子(weak prognostic indicator)であることが明らかになっている。ところが、胆管癌については全く知られていない。
【0006】
また、EGFRに対する治療用抗体の各癌細胞の成長に対する抑制効率も15〜50%の範囲内で異なる。また、同種の癌でも生体外および生体内成長阻害(in vitro and in vivo growth inhibition)効果が異なる(Dassonville, O. et al., EGFR targeting therapies: monoclonal antibodies versus tyrosine inhibitors similarities and differences. Critical Reviews in Oncology/Hematology 62, 53-61. 2007)。現在、EGFRに対する抗体は、大腸癌および頭頸部癌の治療剤として臨床的に用いられているばかりであり、前記に列挙したEGFRが過発現した全ての癌組織に対する治療剤として用いられてはいない。
【0007】
上述したように、タンパク質が癌細胞で発現するだけでは、前記タンパク質が癌の予後因子であることは容易に類推することが可能ではないうえ、このような発現および癌の予後との関連性は癌の種類によって異なることが従来からよく知られていた。癌において、強力で悪い(strong and poor)予後因子は、癌に対する治療効果および予後を容易に予測することを可能にするうえ、これらの因子をターゲットとする治療剤を開発して選択的且つ効果的な癌治療方法の開発を可能にする。よって、このような各癌の種類による予後因子の発掘は癌の診断および治療において非常に重要である。
【0008】
一方、L1CAM(L1 cell adhesion molecule)は、細胞表面で細胞間接着(cell-to-cell adhesion)を仲介する免疫グロブリンスーパーファミリー細胞接着分子(immunoglobulin superfamily cell adhesion molecules、CAMs)に属する内在性膜糖タンパク質(integral membrane glycoprotein)の一つであって、その分子量が220kDaにも達する。L1CAMは、元々ニューロンから発見され(Bateman, et al, EMBO J. 15:6050-6059; 1996)、ニューロンの移動、神経突起の成長および細胞移動などの機能を有するものとして知られている。ヒトのL1CAM遺伝子は、マウスとラットのL1CAM相同体(homolog)で縮退性オリゴヌクレオチド(degenerate oligonucleotide)をプローブとして用いてヒト胎児の脳cDNAライブラリーから分離した(Hlavin, M. L. & Lemmon, V. Genomics 11: 416-423, 1991;米国特許第5872225号、1999年2月16日に登録)。このL1CAMは、元々主に脳で発現するものと知られているが、幾つかの正常組織で発見されており、最近では様々な癌細胞でも発見され始めている。
【0009】
L1CAMと癌との連関性は、L1CAMが黒色腫(melanoma)、神経芽細胞腫(neuroblastoma)、卵素癌および大腸癌などの様々な癌で発現することが報告されている(Takeda, et al., J. Neurochem. 66:2338-2349, 1996; Thies et al, Eur. J. Caner, 38: 1708-1716, 2002; Arlt et al., Cancer Res. 66:936-943, 2006; Gavert et al., J. Cell Biol. 168:633-642, 2005)。L1CAMは、膜結合型(membrane bound form)の他にも、切断された産物(cleavage product)が細胞外に分泌されることが発見される(Gutwein et al., FASEP J. 17(2):292-4, 2003)。そして、最近、L1CAMは、癌細胞の成長に重要な役割を果たす分子の一つとして探索されることにより(Primiano, et al., Cancer Cell. 4(1);41-53, 2003)、癌治療の新しいターゲットとして浮き上がった(US2004/0115206 Al出願2004年6月17日)。最近、L1CAMが大腸癌のインベイシブフロント(invasive front)で発現し(Gavert, et al., J Cell boil. 14;168(4):633-42, 2005)、この分子に対する抗体が卵素癌細胞の成長および転移を抑制することが明らかになった(Arlt, et al., Cancer Res. 66:936-943. 2006)。
【0010】
ところが、L1CAMが胆管癌に発現するという事実は未だ知られておらず、胆管癌の成長および転移に重要に作用するか否かも知られていない。また、L1CAMが高発現している胆管癌患者の死亡率が、低発現している胆管癌患者の死亡率よりさらに高いか、すなわちL1CAMが胆管癌の悪い予後因子(poor prognostic factor)であることが未だ知られていない。しかも、L1CAMに対する抗体は胆管癌の増殖および転移を抑制することにより治療剤としての可能性があるという事実も未だ知られていない。
【0011】
ヨーロッパ特許出願EP1,172,654A1および米国特許出願US2004/0259084号は、L1CAMが卵素癌、子宮内膜癌またはそれらの癌の素因の存在に対する標識になるという前提の下に、卵素癌または子宮内膜癌の診断および予後のために患者のサンプルにおいてL1CAMの抗体によってL1CAMの水準を決定することを特徴とする手段、および細胞毒性薬とL1CAMまたはその断片とを結合させて十分な量で患者に投与して癌を治療する方法について開示している。ところが、これらの文献は、L1CAMタンパク質が体液または組織で卵素癌または子宮内膜癌の非常に特異的なマーカーであることを開示しているだけである。
【0012】
米国特許出願US2004/0115206号は、L1CAMに特異的に結合する抗体を用いて癌細胞死滅を誘導する製剤、細胞死滅のために前記抗体を使用する手段、およびL1CAM抗体の含まれた薬学的組成物について開示しているとともに、癌細胞で細胞成長を阻害し細胞死を誘導することが可能な有効量の抗L1CAM抗体を細胞に接触させることにより、細胞の成長を抑制し且つ細胞死滅を誘導することについて開示している。ところが、この文献も、L1CAMが発現する癌の例として乳癌、大腸癌および子宮頸癌についてのみ言及しており、in vitro試験のみを行ったばかりで、in vivo結果は裏付けられておらず、胆管癌との関連性については言及していない。また、この文献は、抗L1CAM抗体を癌細胞に接触させることにより細胞成長を抑制し且つ細胞死滅を誘導することについてのみ開示しているばかりで、癌細胞の移動、浸潤および転移を抑制することができることについては開示していない。
【0013】
また、国際出願PCT/EP2005/008148は、卵素癌および子宮内膜癌で過剰発現するL1CAMタンパク質、それらの発現を阻害する組成物、並びにこれを用いて卵素癌および子宮内膜癌を予防および治療する方法について開示している。この文献は、L1CAMタンパク質の機能を阻害するL1CAM抗体およびその誘導体を含む組成物が卵素癌および子宮内膜癌の機能を抑制して癌細胞の移動および進展を阻止することにより癌を治療し得ることを開示している。ところが、この文献も、卵素癌および子宮内膜癌で細胞表面または水溶性形態のL1CAMが癌細胞の移動を促進することについてのみ開示している。
【0014】
要するに、従来の公知の文献らには、L1CAMが胆管癌に高発現率で発現し、胆管癌に特異的な悪い予後因子(poor prognostic factor)として作用する。よって、L1CAMに対する抗体のようにL1CAMの活性を抑制する物質は、特に胆管癌に対する著しい診断または治療効果を持つことができることについては全く開示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明らは、胆管癌の診断または治療に使用可能な抗体を開発しようと努力したところで、最近確立された胆管癌細胞株(Kim et al, Genes, chromosome & Cancer 30:48-56, 2001)をマウスに免疫注射して胆管癌の細胞表面に結合するモノクローナル抗体を得て、これをA10−A3抗体と命名し、A10−A3抗体がL1CAMを特異的に認識することを確認した。
【0016】
また、前記A10−A3抗体および公知のL1CAMに対する抗体を用いて、L1CAMが胆管癌の細胞株の表面に発現することを確認し、抹消血管リンパ球、肝細胞、血液内皮細胞などの正常細胞には発現しないことを確認した。これまで、L1CAMが乳癌、卵素癌、大腸癌、皮膚癌などで発現することは明らかになっているが、胆管癌で発現するという事実は明らかになっていない。本発明者らは、A10−A3抗体を用いて肝内胆管癌患者と肝外胆管癌患者の癌組織でL1CAMがどれほど発現するかを分析した結果、肝内胆管癌患者の45.2%および肝外胆管癌患者の39.8%がL1CAMを高発現することを確認し、特に胆管癌の転移の開始を知らせるインベイシブフロントでL1CAMが高発現することを確認した。そして、L1CAMの発現率と生存率との関係に対する統計学的分析結果より、高いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率が低いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率より確実に高いことを確認した。この結果は、L1CAMが胆管癌の悪い予後因子であることを証明することであり、L1CAMが胆管癌治療の重要ターゲットになれることを示唆する。これに対し、現在臨床的に使用中の癌治療剤(例えば、セテュキマブ(cetuximab)、EGFRに対するキメラ抗体)のターゲットであるEGFRが胆管癌で高発現するが、胆管癌における発現率と胆管癌患者の生存率との関係を分析したところ、統計的な有意性がないという結果が出て、EGFRが胆管癌の悪い予後因子ではないことを確認した。これは、癌細胞で過剰発現する分子が必ずしも悪い予後因子になるのではなく、重要な治療ターゲットになるのではないことを証明する。
【0017】
L1CAMが胆管癌の成長および転移に実際関与するかを確認するために、L1CAMを発現する胆管癌細胞株(Choi−CK、SCK)にL1CAMに対するsiRNAを導入させてL1CAMの発現を抑制させた後、胆管癌細胞の成長、移動、浸潤に影響を及ぼすかを分析したところ、L1CAMの発現が抑制された胆管癌細胞の成長、移動、浸潤が阻害されることを確認した。この結果はL1CAMが胆管癌細胞の成長および転移に重要に作用していることを証明する。
【0018】
L1CAMに対する抗体が胆管癌を治療することができるかを分析するために、胆管癌細胞株(Choi−CK、SCK)の培地にA10−A3抗体または公知のL1CAMに対する抗体(UJ127)を処理した結果、L1CAMに対する抗体が胆管癌細胞の成長、移動または浸潤を抑制する効果があることを確認した。また、動物実験で胆管癌細胞株をヌードマウスに注射して胆管癌を形成するとき、A10−A3抗体を注射すると、胆管癌の成長が阻害されることを確認した。また、ヒト胚芽幹細胞をマウスに免疫注射して得たハイブリドーマ(KCTC10966BP)が生産するモノクローナル抗体4−63も、癌細胞表面のL1CAMを認識し、胆管癌の成長を抑制した。よって、本発明者らは、L1CAMに対する抗体を胆管癌の診断および治療に利用可能であることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記薬学的組成物を用いて胆管癌を治療する方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、L1CAMの活性を抑制するL1CAMに対する抗体を提供することにある。
本発明の別の目的は、L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドを提供することにある。
本発明の別の目的は、前記薬学的組成物を用いて胆管癌細胞の成長または転移を抑制する方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1はマウスモノクローナル抗体A10−A3(A)と4−63(B)、および公知の抗体5G3(C)とUJ127(D)が胆管癌などの様々な癌細胞および正常細胞の表面に結合するか否かを、蛍光細胞染色およびフローサイトメトリーを用いて分析した結果を示す図である。
【図2】図2はA10−A3抗体に結合する抗原がL1CAMタンパク質であることを免疫沈降とウエスタンブロット方法によって証明した結果を示す図である。Aは胆管癌細胞Choi−CKの細胞表面をビオチン化させた後、抗体A10−A3または公知の抗−L1CAMモノクローナル抗体(UJ127)で免疫沈降させた後、沈降したタンパク質を10%SDS−PAGEとストレプトアビジン−HRPを用いたウエスタンブロットを行った結果である。Bは抗体A10−A3で免疫沈降させたタンパク質を10%SDS−PAGEで公知の抗L1CAM抗体(UJ127)を用いたウエスタンブロットを行った結果、L1CAMが検出されることを確認したものであり、ここで、preclearingは抗体を入れずに免疫沈降させた陰性対照群、IP with A10−A3は抗体A10−A3で免疫沈降させたもの、IP with anti−L1CAMはL1CAMに対する公知のモノクローナル抗体で免疫沈降させたもの、A10−A3 onlyは抗体自体のみをSDS−PAGEしたものをそれぞれ示す。Cは水溶性L1を発現させたHEK293T細胞培養液を公知の抗体であるUJ127、5G3、A10−A3抗体、または4−63抗体を用いてウエスタンブロットした結果を示したものであり、ここで、「−」はL1発現ベクターを入れていない細胞培養液、「+」は水溶性L1発現ベクターを入れて培養した細胞培養液をそれぞれ示す。
【図3】図3はQ−TOF分析した結果を示したものである。A10−A3抗体を用いて免疫沈降させたChoi−CK細胞からのタンパク質をSDS−PAGEで分離してトリプシンによって切断した後、Q−TOF分析によって、得られたペプチドがL1CAMであることを確認した図であって、下側のアミノ酸配列は全長L1CAMを示し、上側のアミノ酸配列は全長L1CAM配列の下線部分にそれぞれ相当する、分析されたペプチドのアミノ酸配列を示す。
【図4】図4は癌患者組織をA10−A3(A)、4−63(B)抗体を用いて免疫組織化学染色した結果であって、正常肝組織には結合せず、人体胆管癌組織には結合することを示す写真である。
【図5】図5は肝内胆管癌(A)および肝外胆管癌(B)のL1CAM発現と臨床病理学的特徴との関連性を示す図である。
【図6】図6はL1CAMの発現率と胆管癌患者の生存率との関連性を肝外胆管癌患者(60ケース)を対象として分析した結果を、OS(overall survival)およびDFS(disease free survival)で示した資料である。
【図7】図7はL1CAMに対するsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞および非特異的なsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞のL1CAM発現水準(A)と、細胞増殖(proliferation)、浸潤(invasion)および移動(migration)の度合い(B)とを比較した資料である。
【図8】図8は抗体A10−A3(A)、抗体4−63(B)、または公知のL1CAMに対する抗体UJ127および5G3(C)によって胆管癌細胞Choi−CKおよびSCKの成長が抑制される効果を分析した図であって、細胞の陽性対照群として卵素癌細胞SK−OV3を使用し、陰性対照群としてはA10−A3抗体が結合していない腎臓癌細胞ACHNを使用し、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(control)、抗体を沸かして不活性化させた抗体(A10−A3bまたは4−63b)または正常マウスIgGを使用したものであり、培養中の細胞に抗体10μg/mLを入れて72時間培養した後、細胞の成長度合いを、抗体を入れていないcontrolに比べて百分率で表現したものである。
【図9】図9は抗体A10−A3、4−63および公知の抗体5G3によって胆管癌細胞(Choi−CK、SCK)の浸潤と移動が抑制される効果を分析したものであって、細胞の陰性対照群としてはA10−A3抗体が結合していない腎臓癌細胞ACHNを使用し、抗体の陰性対照群としては抗体を入れないか(control)、または正常マウスIgGを使用し、培養中の細胞に抗体10μg/mLを入れて72時間培養した後、細胞の浸潤(A)と移動(B)の度合いを、抗体を入れていない対照群(control)に対する百分率で表現したものである。
【図10】図10は抗体A10−A3によって癌細胞の成長、浸潤および移動が抑制される細胞信号伝達メカニズムを分析した結果を示すもので、胆管癌細胞株Choi−CKまたはSCKの培地に抗体を入れないか、A10−A3抗体またはマウス免疫グロブリンIgGを添加して培養した後、収去した細胞抽出物の量を取ってβ−actinに対する抗体を用いて確認し、PCNA(A)、phospho−MAPK(A)、phospho−AKT(B)およびphospho−FAK(C)に対する抗体を用いてウエスタンブロットを行った写真である。
【図11】図11はA10−A3抗体による癌成長抑制効果を人体胆管癌異種移植(xenograft)モデルマウスで証明する実験結果を示すものである。Aは抗体を投与したマウス5匹(A10−A3群)と、抗体を投与していないマウス5匹(対照群)の癌の大きさを時間別に示す結果、Bは癌細胞移植3週後に測定した癌組織の重量を示す結果、Cは癌組織の写真、Dは体重を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一様態において、本発明は、L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含む、胆管癌細胞の成長または転移を抑制する薬学的組成物に関する。
【0022】
具体的な一様態において、本発明の薬学的組成物は、L1CAMの活性を抑制する物質を含むことができる。好ましくは、前記活性抑制物質は胆管癌細胞の表面抗原または分泌された表面抗原(L1CAM)を特異的に認識する抗体である。このような抗体は、モノクローナル抗体、これらのキメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を全て含み、新規の抗体以外にも、当該技術分野における公知の抗体も含んでもよい。さらに好ましくは、前記抗体は、新規のL1CAMに対するモノクローナル抗体であるA10−A3または4−63、公知の抗体UJ127およびこれらのキメラ抗体、ヒト化抗体並びにヒト抗体である。これらのA10−A3および4−63抗体はそれぞれ受託番号KCTC10909BPおよびKCTC10966BPによって分泌されて生産される。
【0023】
前記抗体は、L1CAMを特異的に認識する結合の特性を持つ限りは、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的断片も含む。抗体の分子の機能的断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどがある。
【0024】
別の具体的な一様態において、前記薬学的組成物は、L1CAMの発現を抑制する物質を含むことができる。L1CAMを発現する癌細胞でL1CAMの発現を抑制する物質を用いてL1CAMの発現を抑制させると、癌細胞の成長と転移の役割を果たすL1CAMの作用が減少して癌治療が可能である。前記L1CAMの発現を抑制する物質は、好ましくはsiRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドよりなる群から選択され、さらに好ましくは5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’または5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’の配列を含むsiRNAである。
【0025】
用語「siRNA」は、RNA干渉または遺伝子サイレンシング(silencing)を媒介することが可能な約20ヌクレオチドサイズの小さい核酸分子を意味し、「shRNA」は、siRNAターゲット配列のセンスおよびアンチセンス配列が5〜9個の塩基からなるループ(loop)を挟んで位置した短いヘアピンRNA(short hairpin RNA)を意味する。最近、遺伝子水準でタンパク質の発現を調節するための方法として、RNA干渉(RNAi)現象を用いた方法が研究されている。siRNAは、一般に、相補的な配列を有するmRNAに特異的に結合してタンパク質発現を抑制することが明らかになっている。
【0026】
本発明の組成物に含まれるsiRNAを製造する方法には、siRNAを直接化学的に合成する方法(Sui G et al., (2002) Proc Natl Acad Sci USA 99:5515-5520)や、invitro転写を用いたsiRNAの合成法(Brummelkamp TR et al., (2002) Science296:550-553)などがあるが、これに限定されない。また、shRNAは、siRNAの高価の生合成費用や、低い細胞形質感染効率によるRNA干渉効果の短時間維持などの欠点を克服するためのもので、RNA合酵素IIIのプロモータからアデノウイルス、レンチウイルスおよびプラスミド発現ベクターシステムを用いてこれを細胞内に導入して発現させることができる。このようなshRNAは、細胞内に存在するsiRNAプロセシング酵素(Dicer or Rnase III)によって、正確な構造を持つsiRNAに転換され、目的遺伝子のサイレンシングを誘導することが広く知られている。
【0027】
用語「アンチセンス」は、アンチセンスオリゴマーがワトソン・クリック塩基対の形成によってRNA内の標的配列と混成化されて、標的配列内における、典型的にmRNAとRNA:オリゴマーへテロ二本鎖の形成を許容する、ヌクレオチド塩基の配列およびサブユニット間のバックボーンを有するオリゴマーを指す。オリゴマーは、標的配列に対する正確な配列相補性または近似相補性を持つことができる。このアンチセンスオリゴマーは、mRNAの翻訳を遮断または阻害し、mRNAのスプライス変異体を生産するmRNAのプロセシング過程を変化させることができる。よって、本発明のアンチセンスオリゴマーは、L1CAM遺伝子のmRNAに相補的なアンチセンスオリゴマーである。
【0028】
好ましくは、本発明の組成物には、公知の治療剤を直接的または間接的に結合させるか、あるいは一緒に含ませることができる。抗体と結合可能な治療剤には放射性核種、薬剤、リンフォカイン、毒素または二重特異的抗体などが含まれる。ところが、本発明の組成物に含まれる治療剤は、これに限定されず、抗体と結合させることができるか、あるいは抗体、siRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドと共に投与して癌治療効果を得ることが可能な公知の治療剤であれば可能である。
【0029】
前述した放射線核種には、3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131Iおよび186Reなどがあり、これに限定されない。
【0030】
前述した薬剤および毒素には、エトポシド、テニポシド、アドリアマイシン、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン類、シス−白金およびシス−白金同族体、ブレオマイシン類、エスペラマイシン類、5−フルオロウラシル、メルファラン、およびその他の窒素マスタードなどがあり、これに限定されない。
また、本発明に係る組成物は、投与方式によって許容可能な担体を含むことができる。
【0031】
投与方式に適した製剤は、当該分野に公知になっている。また、本発明の薬学的組成物は癌治療のために薬学的有効量で投与できる。典型的な投与量の水準は標準臨床的技術を用いて最適化することができる。
【0032】
別の様態において、本発明は、前記薬学的組成物を用いて胆管癌を治療する方法に関する。
具体的に、本発明の治療方法は、前記薬学的組成物を薬学的有効量で人体内に投与することを含む。前記薬学的組成物は、非経口、皮下、腹腔内、肺内、および鼻腔内に投与でき、局部的免疫抑制治療のために、必要であれば病変内投与を含む適切な方法によって投与される。非経口注入には筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内または皮下投与が含まれる。好ましい投与方式は静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射および点滴注射である。
【0033】
本発明の薬学的組成物を人体内に投与し、これに含まれたL1CAMに特異的な抗体を癌細胞の表面抗原L1CAMに結合させて癌細胞の増殖または転移を抑制させることにより、胆管癌を治療することができる。
【0034】
また、本発明の薬学的組成物を人体内に投与し、抗体を分泌されたL1CAMと結合させて癌細胞の成長および転移を遮断させることにより、胆管癌を治療することができるうえ、これを人体内に投与して癌細胞の表面抗原L1CAMに結合させて、これを認知する免疫細胞が癌細胞を捕食、自殺および殺害させることにより、胆管癌を治療することができる。
【0035】
また、本発明の薬学的組成物に含まれたL1CAMの発現抑制物質を用いてL1CAMの発現を抑制させると、癌細胞の成長および転移の役割を果たすL1CAMの作用が減少して癌治療が可能である。
【0036】
別の様態において、本発明は、L1CAMの活性を抑制するL1CAMに対する抗体、またはL1CAMの発現を抑制するL1CAMに対するオリゴヌクレオチドに関する。
【0037】
具体的な一様態において、前記抗体は、本発明に係る組成物で言及したように、L1CAMに特異的に結合する特性を持つ限りは、2つの重鎖と2つの軽鎖の全長を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的断片も含む。抗体の分子の機能的断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、例えばFab、F(ab’)、F(ab’)2およびFvなどがある。
【0038】
好ましくは、前記抗体は、胆管癌細胞の表面抗原または分泌された表面抗原(L1CAM)を認識する抗体である。前記抗体は、胆管癌細胞の表面タンパク質L1CAMと結合してその作用を抑制または中和(neutralization)させ、癌細胞と結合して癌細胞の成長および転移抑制を図り、癌細胞を捕食、自殺または殺害させることができることを特徴とする。
【0039】
前述したUS2004/0115206に開示されているように、L1CAMの抗体はL1CAMの作用を必ずしも抑制するのではない。本発明の抗体は、L1CAMの作用を促進する抗体ではなく、L1CAMの活性を抑制する抗体であることを特徴とする。
【0040】
さらに好ましくは、前記モノクローナル抗体は新規の抗体A10−A3または4−63である。
【0041】
具体的な別の一様態において、本発明のL1CAMの発現を抑制するL1CAMに対するオリゴヌクレオチドは、本発明の組成物で言及されたL1CAMに対するsiRNA、shRNAおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドから選択される。
【0042】
具体的な一実施例として、本発明者らは、胆管癌細胞を大量培養した後、マウスの足底に前記細胞を注入し、前記マウスのリンパ節(lymph node)からリンパ球を分離して骨髄腫(myeloma)癌細胞と細胞融合させることにより、胆管癌細胞に結合する抗体を生産するマウスハイブリドーマを製造した。
【0043】
より具体的に、本発明者らは、胆管癌細胞SCKとChoi−CKをマウスの足底に注射し、前記マウスのリンパ節からリンパ球を分離した。その後、前記リンパ球とFO骨髄腫細胞株とを細胞融合させた後、抗体が発現するクローンを選抜した。前記製造したクローンの中で、比較的安定的にモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ上澄み液の胆管癌細胞に対する結合能を調査し、これらのモノクローナル抗体、およびモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマをハイブリドーマA10−A3と命名し、これを2006年2月20日付で韓国生命工学研究院の遺伝子銀行に寄託した(住宅番号:KCTC10909BP)。具体的に、前記モノクローナル抗体が認識する癌細胞は、胆管癌細胞株には結合するが(図1参照)、肝細胞、HUVEC(ヒト由来の臍帯静脈内皮細胞)および抹消血液リンパ球(peripheral blood lymphocyte)などの正常細胞には結合せず(図1参照)、これらの抗体を使用したときに胆管癌細胞の成長、移動または浸潤が抑制された。また、公知のL1CAMに対する抗体5G3は、胆管癌細胞に結合するが、癌の成長抑制効果が低かったが(図8参照)、他の公知の抗体UJ127は胆管癌細胞に結合してそれらの成長を抑制した。これにより、L1CAMの抗体が必ずしもL1CAMの作用を抑制するのではないことが分かった。
【0044】
具体的な別の一実施例において、本発明者らは、5−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3および5−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3の配列を有するsiRNAをそれぞれChoi−CKおよびSCKに形質感染させて非特異的なオリゴヌクレオチド配列を形質感染させたものと比較した結果、非特異的なオリゴヌクレオチドを処理した対照群とは異なり、L1CAMの量が減少しただけでなく、siRNAによってL1CAMがノックダウン(knock-down)された細胞群は正常的にL1CAMを発現する細胞群に比べて癌細胞の増殖、浸潤および移動の度合いが減少することを確認した。
【0045】
本発明の実施例(実施例5、6および7参照)から分かるように、L1CAMが胆管癌細胞で発現すること、L1CAMが胆管癌患者の約40%で過発現すること、L1CAMは胆管癌の進行に重要に作用して死亡危険率を高くする、胆管癌の悪い予後因子であること、これに反し、他の癌で悪い予後因子として知られているEGFRは胆管癌の悪い予後因子でないことは、本発明者らによって最初に明らかになった。よって、本発明に係るL1CAMの活性または発現を抑制する物質、これを含む癌の中でも胆管癌に特異的に著しい、癌の診断および治療が可能であるという効果を持つ。
【0046】
それだけでなく、本発明者らは、免疫組織化学染色方法によって非小細胞肺癌患者におけるL1CAM発現率が10%未満であることを確認し、A10−A3抗体を、L1CAMを発現する非小細胞肺癌細胞株A549とNCI−H522に処理したときに癌細胞の成長阻害率はそれぞれ14%および24%であることを確認した。ところが、これはA10−A3の胆管癌細胞成長阻害率である約40%に大きく及ばない。これにより、本発明の組成物が胆管癌に特異的な効果を持つことはさらに証明されるといえる。これに関連した事項は、本発明者らが本出願と同日付で出願する韓国特許出願の明細書(発明の名称:「肺癌の治療用薬学的組成物、並びにこれを用いた肺癌の成長、転移抑制および治療方法」)に具体的に記載されている。前記文献は本発明に対する参考文献として含まれる。
【0047】
以下、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。ところが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【実施例】
【0048】
実施例1:癌細胞の培養
癌細胞株は、全て10%牛胎児血清(Gibco社)を含有する次の培地を用いて、5%の二酸化炭素が維持される37℃の高温培養器で培養した。SH−J1(hepatocellular carcinoma)、SCK(cholangiocarcinoma)、Choi−CK(cholangiocarcinoma)およびACHN(Renal cell adenocarcinoma)細胞はMEM(Gibco社)培地を利用し、SK−OV3(ovary adenocarcinoma)細胞はMcCoy 5A Medium(Gibco社)培地を利用した。A549(non small cell lung carcinoma)は、Ham’s F12K培地で、NCI−H522(non small cell lung carcinoma)、DMS114(small cell lung carcinoma)、DMS53(small cell lung carcinoma)、NCI−H69(small cell lung carcinoma)はWaymouth’s(Gibco社)培地で培養した。SH−J1、SCKおよびChoi−CK細胞株は、キムデゴン博士(韓国の全北大学校医科大学)から得、その他の癌細胞株はATCCから購入した。
正常細胞である肝細胞(hepatocyte)はCambrax社から購入し、HUVEC細胞もCambrax社から購入した後、10%の牛胎児血清(Gibco社)を含有するEGM−2(Hyclone社)培地を用いて、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。抹消血液リンパ球(PBL)は、ヒトの血液からフィコール密度勾配で遠心分離により分離した後で収得した。
【0049】
実施例2:癌細胞Choi−CKおよびSCKに結合するモノクローナル抗体A10−A3の製造
培養した癌細胞Choi−CKとSCKを細胞分離緩衝液(Cell dissociation buffer)(Invitrogen)を用いて取り外し、約5×105の細胞を30μLのPBSに浮遊させた後、Balb/cマウスの右足底にChoi−CKを注射し、3日後に左足底にはSCKを注射した。これを3〜4日間隔で6回反復投与し、細胞融合1日の前にさらに注射した。リンパ節細胞と融合させるFO骨髄腫細胞株(ATCC、USA)は、10%の牛胎児血清を含有したDMEM(Gibco社)培地で2週前から培養して準備した。
【0050】
癌細胞Choi−CKとSCKで免疫させたマウスの膝窩リンパ節をそれぞれ取り出してDMEM(Gibco社)培地でよく洗浄し、培養皿でよく粉砕して細胞浮遊物を15mLのチューブに移しておいた。FO骨髄腫細胞を遠心分離して収去し、10mLのDMEM培地に懸濁して前記リンパ節細胞と共に細胞数を計数した。その後、106個の骨髄腫細胞FOと107個のリンパ節細胞を50mLのチューブに移して混ぜた後、200×gで5分間遠心分離して上澄み液を除去し、しかる後に、37℃の水が充填されたビーカーに2分間放置した。チューブを軽く叩いて細胞を柔らかくし、37℃の水に浸漬した状態でゆっくり振とうしながら、1mLのPEG溶液(Gibco社)を1分間徐々に添加した。100×gで2分間遠心分離し、5mLのDMEM培地を3分にわたって徐々に添加し、さらに5mLのDMEM培地を2分間ゆっくり添加した後、200×gで遠心分離して細胞を回収した。そして、細胞融合効率および生存率を高めるために、ハイブリドーマクローニング因子(Hybridoma Cloning Factor)(BioVeris社、USA)を予め10%で正常培地(DMEM+20%の牛胎児血清)に混ぜておいた。回収した細胞を、ハイブリドーマクローニング因子を混ぜた30mLの正常培地(DMEM+20%の牛胎児血清)に丁寧に懸濁した。37℃のCO2培養器で30分間放置した後、96ウェルプレートにウェル当り70μLずつ105個の細胞となるように分注して37℃のCO2培養器で培養した。翌日70μLのHATを加え、3日間隔でHAT培地で2週以上成長させながら、成長するコロニーを観察した。このようにChoi−CK細胞を免疫注射したリンパ節、およびSCK細胞を免疫注射したリンパ節から分離したリンパ球を骨髄腫細胞と融合させて得たハイブリドーマコロニーの上澄み液を用いて、次の実験を行った。
【0051】
抗体が発現するクローンを選抜するために、サンドイッチELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)法を使用した。抗マウスIgGまたはIgM抗体を2μg/mLでコートしたプレートに100μLのハイブリドーマ培養液を添加して37℃で1時間反応させ、さらに抗−マウスIgGまたはIgMのHRP(horseradish peroxidase、Sigma社)の1/5000希釈液と1時間さらに反応させた。0.05%のツイン20を添加したリン酸緩衝液で培養容器を洗浄し、OPD(Sigma社)および過酸化水素(H2O2)の含有される基質溶液を添加し、波長492nmの吸光分析器で吸光度を測定することにより、抗体を生産するクローンを選別した。
【0052】
これらの製造したクローンの中で、比較的安定的に抗体を分泌するハイブリドーマ上澄み液のSCKとChoi−CK細胞に対する結合能を調査した。具体的に、培養されたChoi−CK細胞を細胞分離緩衝液(Gibco)を用いて20分間37℃で処理して単一細胞に分離した後、40μmのストレイナー(strainer)を通過させて5×105細胞をフローサイトメトリー(Flow cytometry)に使用した。まず、単一細胞化されたSCKおよびChoi−CK細胞をPBA(1%のBSAをPBSに溶解)に浮遊させ、抗体上澄み液を4℃で30分間反応させた。4℃で1200rpmにて5分間遠心分離して100μLの上澄み液を除去し、ここに抗マウスIg−FTC(BD)を200倍希釈して4℃で30分間反応させた後、PBAで2回洗浄し、ヨウ化プロピジウム(Propidium Iodide、PI)陰性である細胞のみを選んでフローサイトメトリー(FACS caliber)でSCKおよびChoi−CK細胞に対する結合能を分析した。
【0053】
その結果、SCKおよびChoi−CKに結合する抗体を分泌する様々なハイブリドーマを選別し、持続的な継代培養によって安定化を維持させた後、サブクローニングした。前記サブクローニングによって確実に安定性を維持させたSCKおよびChoi−CK細胞に対する特異性を維持した抗体A10−A3を分泌するハイブリドーマを選別した。
【0054】
前記モノクローナル抗体A10−A3を分泌するハイブリドーマをハイブリドーマA10−A3(受託番号:KCTC10909BP)と命名し、これらを2006年2月20日付でKCTC(Korean Collection for Type Cultures、韓国大田市儒城区魚隠洞52番地韓国生命工学研究院)に寄託した。
【0055】
実施例3:モノクローナル抗体A10−A3の癌細胞結合特異性の分析
A10−A3ハイブリドーマ細胞株を無血清培地(PFHM、Invitrogen社)で培養した後、培養液からタンパク質G−セファロースカラム(Pharmacia、スウェーデン)を用いて精製した(Fike et al., Focus 12:79, 1990)。精製されたA10−A3抗体の胆管癌細胞に対する結合能を蛍光細胞染色によって実施例3と同様の方法によって調査した(図1)。図1において、実線部分はモノクローナル抗体A10−A3、4−63、およびL1CAMに対する公知の抗体5G3(Pharmingen、San Diego、USA)とUJ127(Chemicon)であり、陰影部分は2次抗体のみを含んだものである。様々な癌細胞に対するA10−A3、4−63、5G3およびUJ127の結合能力を測定するために、フローサイトメトリーを用いた。その結果、前記モノクローナル抗体が癌細胞の中でもSCK、Choi−CKおよびSK−OV3などの癌細胞に結合することを観察することができた(図1のパネルA、B、CおよびD)。ところが、ACHN癌細胞、肝細胞、HUVEC、抹消血液リンパ球(PBL)とは結合しない結果を示した。
【0056】
実施例4:モノクローナル抗体A10−A3が認識する抗原の分離および同定
実施例4−1:抗原の分離
モノクローナル抗体A10−A3が認識する細胞表面認識因子を分離するために、まず、培養したChoi−CK細胞をPBS緩衝溶液で洗浄し、EZ−Link Sulfo−NHS−LC−Biotin(Pierce、Rockford、IL)でビオチン化させた後、細胞を溶解溶液(25mM Tris−HCl、pH7.5、250mM NaCl、5mM EDTA、1%Nonidet P−40、2μg/mLのアプロチニン、100μg/mLのフェニルメチルフルホニルフッ化物、5μg/mLのロイペプチン)を用いて4℃で20分間反応させた後、細胞残骸(debris)を除去するために遠心分離を行った。上澄み液のみを回収してBCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した。
【0057】
タンパク質Gプラス−セファロース(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz)に非特異的に結合するタンパク質は、細胞溶解液を20μLのタンパク質Gプラス−セファロースと4℃で2時間反応させた後、遠心分離して上澄み液のみを回収して準備し、回収した上澄み液はさらに約1μgの抗体と4℃で12時間反応させた。ここに20μLのタンパク質Gプラス−セファロースを添加して4℃で2時間反応させた後、遠心分離して沈殿物を回収した。
【0058】
回収した沈殿物を細胞溶解液で10回以上洗浄し、残っているタンパク質を10%SDS−PAGEで分離した。このタンパク質をニトロセルロース膜に移してウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のPBST(PBS+0.1%Tween20)緩衝溶液で1時間反応させてから、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応されたニトロセルロース膜をストレプトアビジン−HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)コンジュゲート(1:1500、Amersham biosciences)を添加して1時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ビオチン化タンパク質をECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。
【0059】
その結果、約200kDaサイズのタンパク質にA10−A3抗体が結合することを確認した( 図2のパネルA)。抗体A10−A3によって免疫沈降するタンパク質を集めるために、1×108Choi−CK細胞から得た細胞溶解液を前述の方法で免疫沈降させた後、SDS−PAGEを用いて分離した。このゲルをCoomassie G250(Biorad)で染色した。
【0060】
実施例4−2:質量分析器(Mass Spectrometry)による抗原の同定
A10−A3によって免疫沈降したタンパク質を含むSDSゲルをCoomassie G250(BIO−RAD)で供給者のプロトコール通りに染色した。タンパク質含有部分を切り出し、30%のメタノールで5分間洗浄し、細かく粉砕した。ゲル切片を30%メタノールによって染色が完全に脱色するまで反応させてから、100%のアセトニトリルによって10分間水分を除去し、30分間真空遠心分離器によって乾燥させた。乾燥したゲル切片は50mMの重炭酸アンモニウム溶液で300ngのトリプシン(Promega)と16時間37℃で反応させた。切断されたペプチドは3回100μLの50mM重炭酸アンモニウムで抽出し、真空遠心分離器で乾燥させた。ペプチド混合物はQ−TOF micro(MicroMass)でESI Q−TOF MS/MS(electrospray quadrupole time of flight tandem mass spectrometry)によって分析した。その結果、このタンパク質がL1CAM(L1 Cell Adhesion molecule)であることを確認した(図3)。図3における下線部分は、実際アミノ酸配列がQ−TOFで解明されたことを表示する。よって、実際L1CAMに対する抗モノクローナル抗体UJ27.11をChemicon(USA)社から購入してビオチン標識付きChoi−CK細胞溶解液を用いて実施例4−1のように免疫沈降させ、ECLで確認した。図2のパネルAに示すように、A10−A3と抗−L1CAM抗体が約200kDAの同一位置にタンパク質を免疫沈降させることが分かる。
【0061】
実施例4−3:ウエスタンブロット(Western blotting)によるL1CAM抗原の確認
A10−A3抗体が本当にL1CAMを認識するかを再確認するために、Choi−CKの細胞溶解液を用いてこの抗体でまず免疫沈降を行った。タンパク質Gプラス−セファロース(Santa Cruz Biotechnology;Santa Cruz)に非特異的に結合するタンパク質は、細胞溶解液を20μLのタンパク質Gプラス−セファロースと4℃で2時間反応させた後、遠心分離して上澄み液のみを回収して準備し(図2のpreclearing)、回収した上澄み液はさらに約1μgの抗体と4℃で12時間反応させた。ここに20μLのタンパク質Gプラス−セファロースを添加して4℃で2時間反応させた後、遠心分離して沈殿物を回収した。回収した沈殿物を細胞溶解液で10回以上洗浄し、残っているタンパク質を10%SDS−PAGEで2−メルカプトエタノールなしに分離した。このタンパク質をニトロセルロース膜に移してウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のPBST(PBS+0.1%Tween20)緩衝溶液で1時間反応させてから、前記PBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。前記反応されたニトロセルロース膜を公知の抗−L1CAM抗体UJ127(Chemicon)を1次抗体として添加して1時間反応させた。前記PBST緩衝溶液で5回洗浄した後、抗−マウスIgGのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000、Sigma)で1時間反応させた。さらにPBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、A10−A3によって免疫沈降した約200kDaサイズのタンパク質にL1CAM抗体が結合することを確認した(図2のパネルB)。これはさらにA10−A3抗体がL1CAMを認識することを示す。
【0062】
実施例4−4:水溶性L1CAMの発現
水溶性L1CAMを発現させるための発現ベクターを製作するために、培養された癌細胞Choi−CKからRNA抽出キット(Roche co.)を用いてtotal RNAを分離した。分離されたtotal RNAを鋳型としてRT−PCRキット(Roche co.)を用いて、2つの両末端プライマーIg−dom−F(5’−gAg gAg gAA TTC Cgg CgC Cgg gAA AgA Tgg TCg Tgg Cg−3’、38mer)とL1−Fn−Stop−R(5’−CTC TAg AgT TCT CgA gTC AgA gCC TCA CgC ggC C−3’、34mer)とpfu重合酵素(Solgent co.)を用いて95℃で5分間前処理反応させた後、95℃、30秒/58℃、30秒/72℃、2分間25回連鎖重合反応を行い、72℃で10分間重合反応を行って増幅した。増幅された水溶性L1 DNA断片をpJK−dhfr2発現ベクター(Aprogen)に挿入するために、ベクターと増幅されたDNA断片をEcoRIとXhoI酵素でそれぞれ切断して1%アガロースゲルに電気泳動して当該断片を切り取ってGel purification kit(Intron co.)を用いて回収した。回収された2つのDNA断片をT4 DNAリガーゼ(Roche co.)を用いて16℃で30分間反応させて大腸菌(E.coli DH5α)にヒートショック(heat shock)法によって形質転換させた。形質転換された細胞からプラスミドDNAを分離して塩基配列を分析することにより、水溶性L1CAMのcDNAがクローニングされていることを確認した。製造された発現ベクターはpJK−dhfr2−L1−monomerと命名した。
【0063】
水溶性L1CAMを発現させるために、pJK−dhfr2−L1−monomer DNAをHEK293T(ATCC CRL11268、以下「293T」という)に形質転換してL1−monomerを発現させた。500μLのOpti−MEM培地(Gibco BRL)にリポフェクタミン2000(Invitrogen co.)と前記発現ベクター10μgをそれぞれ混入して5分間常温で反応させる。2つの反応液を合わせた後、15分間常温でさらに反応させた。2つの反応液を常温で反応させる間、293T細胞をPBS緩衝溶液(pH7.4)で丁寧に洗浄して除去し、Opti−MEM培地を入れた後、さらに除去する。リポフェクタミン2000とDNAとを反応させた溶液にOpti−MEM培地4mLを入れて攪拌した後、これを293T細胞のある培養容器に注意深く仕込み、5%の二酸化炭素が維持される37℃の恒温培養器で培養した。6時間の培養後、5mLのOpti−MEM培地をさらに添加し、3日間培養した。
【0064】
実施例4−5:抗体の水溶性L1CAMに対する結合特異性の確認
293T細胞で水溶性L1CAMを発現させた細胞培養液と、水溶性L1CAMを発現させていない細胞培養液に対して10%SDS−PAGEとウエスタンブロットを行った。ニトロセルロース膜を5%脱脂乳含有のTBST(TBS+0.05%Tween20)緩衝溶液を用いて4℃で12時間反応させてから、前記TBST緩衝溶液で2回以上洗浄した。公知の抗−L1CAM抗体UJ127(Chemicon)および5G3(Pharmingen)と前記A10−A3および4−63抗体を、5%脱脂乳含有のTBST緩衝溶液に1:10000で希釈された1次抗体と1時間反応させた。前記TBST緩衝溶液で5回洗浄した後、抗マウスIgGのホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート(1:5000、Sigma)で1時間反応させた。さらにTBST緩衝溶液で5回洗浄した後、ECL検出試薬(Amersham biosciences)で発色させた。その結果、前記各抗体は約200kDaサイズの水溶性L1CAMに結合することを確認した(図2のパネルC)。また、前記L1発現細胞培養液に対して前記抗体を用いてELISAを行った結果、各抗体は発現した水溶性L1CAMに対する結合特異性があることを確認した。
【0065】
実施例5:胆管癌組織に対する免疫組織化学的染色
胆管癌の免疫組織化学染色のために、癌から厚さ3μmの切片を準備した。この切片を、それぞれポリ−L−リジンを塗布したスライドに接着させた。まず、60℃のオーブンで3時間乾燥させた後、キシレンによって室温で5分間3回脱パラフィン化させた。100%、90%、80%および70%のアルコールでそれぞれ1分間処理し、抗原性回復のためにtarget retrieval solution(DAKO、Carpinteria、CA)にスライドを浸漬した後、圧力釜を用いて4分間沸かしたTBST(Tris-buffered saline-Tween 20)緩衝溶液で水洗した。高感度の免疫組織化学染色のために、Biotin−free Tyramide Signal Amplification SystemであるCSAIIkit(DAKO、Carpinteria、CA)を用いた。非特異抗原を除去するために、3%の過酸化水素に5分間反応させた後、緩衝溶液で5分間2回洗浄し、非特異タンパクの結合を除去するために十分な無血清蛋白質ブロック(serum-free protein block)で5分間反応させた。1次抗体(A10−A3、4−63、1:50希釈)を塗布して15分間反応させ、抗−マウス免疫グロブリン−HRPに15分間処理した。その後、増幅剤(Amplification reagent)に15分間放置した後、抗−フルオレセイン−HRPに15分間反応させた。DABを用いて5分間発色させた後、Meyer’s hematoxylin で対照染色を行った。それぞれの段階が終わると、TBST緩衝溶液で5分間2回洗浄した。陰性対照群は染色の際に1次抗体を除外して正常羊血清を添加するか、あるいは1次抗体の代わりに正常マウスIgG1血清を添加し、残りの全ての過程は同様にした。その結果、正常組織には結合せず、胆管癌組織にはA10−A3および4−63抗体がよく結合することが分かった(図4)。
前記結果は胆管癌組織でL1CAMが発現することを意味する。
【0066】
前記L1CAMが発現した癌のうち、胆管癌におけるL1CAMの発現率を調べるために、A10−A3抗体を用いた免疫組織化学染色法を用いて肝内胆管癌患者(42ケース)と肝外胆管癌患者(103ケース)の癌組織でL1CAMがどれほど発現するかを分析した結果、肝内胆管癌患者の45.2%および肝外胆管癌患者の39.8%でL1CAMが高発現することを確認した(図5)。特に胆管癌の転移の開始を知らせるインベイシブフロントでL1CAMが高発現することを確認した(図4)。
【0067】
実施例6:胆管癌におけるL1CAMの発現率と患者生存率との関係に対する統計学的分析
L1CAMの発現率と胆管癌患者の生存率との関連性を肝外胆管癌患者(60ケース)を対象として分析した結果、高いL1CAM発現率を有するグループが、低いL1CAM発現率を有するグループよりOS(overall survival)およびDFS(disease free survival)が統計学的に有意的に低い、すなわち死亡危険性が高いことを確認した(図6)。生存グラフにおいて、L1CAMの過発現と低発現は胆管癌患者の2年間の総生存率(OS)に多くの差異を示し、統計学的に最も有効性があるものと確認された。また、生存グラフにおいて、L1CAMの過発現および低発現は胆管癌患者の2年間再発せずに生存することが可能な確率(DFS)が統計学的に有意性を持つものと確認された。
【0068】
これに対し、胆管癌または他の腫瘍で過発現するものと知られているEGFR(epidermal growth factor receptor)の発現率と生存率との相関関係は、統計学的に有意性があるものとは確認されなかった(図6)。これはL1CAMに対する抗体を胆管癌の診断および治療に利用可能であることを示唆し、特に死亡率が高い胆管癌の転移を早期に診断および治療して治療効果を高めることができることを示唆する。L1CAMの発現率と生存率との関係に対する統計学的分析結果より、高いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率が、低いL1CAM発現率を有するグループの胆管癌患者の死亡率より確実に高いことを確認した。
【0069】
この結果は、L1CAMが胆管癌の悪い予後因子であることを証明するもので、L1CAMが胆管癌治療の重要ターゲットになれることを示唆する。これに対し、現在臨床的に使用中の癌治療剤(例えば、セテュキマブ(cetuximab)、EGFRに対するキメラ抗体のターゲットであるEGFRが胆管癌で高発現するが、胆管癌における発現率と胆管癌患者の生存率との関係を分析した結果、統計的な有意性がないものと確認した。また、EGFRは胆管癌の悪い予後因子でないことを確認した。これは癌細胞で過剰発現する分子が必ずしも悪い予後因子になるのではなく、重要な治療ターゲットになるものではないことを証明する。
【0070】
実施例7:L1CAM発現抑制の胆管癌細胞機能に対する効果
実施例7−1:胆管癌細胞におけるsiRNAを用いたL1CAMの発現抑制
Choi−CKとSCKでL1CAMの発現をノックダウンさせるために、L1CAMに対するsiRNAオリゴヌクレオチド(5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’および5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’)と非特異的なオリゴヌクレオチド(5’−CAGTCGCGTTTGCGACTGGdtdt−3’)をそれぞれ形質感染させた後、72時間培養した。L1CAMのノックダウン(knock down)はA10−A3を用いたフローサイトメトリー(flow cytometry)、RT−PCRおよびウエスタンブロットによって確認した。その結果、L1CAMに対するsiRNAをChoi−CKとSCKに処理したところ、非特異的なsiRNAを処理した対照群と比較したとき、L1CAMの全体発現量と細胞表面に存在するL1CAMの量が減少することを確認した(図7のパネルA)。
【0071】
実施例7−2:L1CAMに対するsiRNAを処理した胆管癌細胞の活性分析
L1CAMに対するsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞と非特異的なsiRNAを形質感染させた胆管癌細胞の増殖(proliferation)、浸潤(invasion)および移動(migration)の度合いを比較した。増殖の度合いは、それぞれ同数の細胞を計数して72時間後の細胞をトリファンブルー(Tryphan Blue)溶液を用いて測定した。また、浸潤および移動の度合いはQCM24−well cell invasion assay kit(Chemicon)とQCM 24−well colorimetric cell migration assay kit(Chemicon)を用いて分析した。L1CAMがノックダウンされた細胞群は、L1CAMが正常的に発現する細胞群に比べて増殖、浸潤および移動の度合いが減少することを確認した。これはL1CAMが胆管癌細胞の成長、移動および浸潤に作用していることを示唆する(図7のパネルB)。
【0072】
実施例8:L1CAM特異的抗体による胆管癌細胞の成長抑制
L1CAMに対する抗体が胆管癌細胞の成長を阻害するかを実験するために、A10−A3抗体が結合するChoi−CKおよびSCKと、陽性対照群としての卵素癌細胞株SK−OV−3と、陰性対照群としてのACHN細胞を3mLの培地内に2×105cellsずつ計数して6ウェルプレートで培養し、前記モノクローナル抗体を10μg/mLの濃度で添加した後、細胞を37℃のCO2反応器で72時間反応させた。そして、細胞を回収して0.2%トリファンブルー溶液で死細胞と生細胞を数え、全体細胞中の生細胞の百分率を求めた。その結果、A10−A3抗体によってChoi−CKおよびSCK細胞の成長はSK−OV3細胞のように著しく減少し、ACHNは何の影響も受けなかった(図8のパネルA)。一方、4−63抗体も胆管癌の成長を抑制した(図8のパネルB)。
L1CAMに特異的に結合するものと知られている公知の抗体UJ127(Chemicon)と5G3(Pharmingen)を前記胆管癌細胞に処理したとき、UJ127抗体は前記癌細胞の成長を阻害したが、5G3抗体の場合には胆管癌細胞(Choi−CK)の成長を若干阻害した(図8のパネルC)。5G3抗体はChoi−CK細胞には結合した(図1のパネルC)。この結果は、モノクローナル抗体が癌細胞に結合するとしても、必ずしも癌細胞の成長を阻害するのではないことを示唆する。
【0073】
実施例9:L1CAM特異的抗体による胆管癌細胞の浸潤および移動抑制
インベイションアッセイ(Invasion assay)を行うために、CHEMICON社のQCM 24−well cell invasion assay kitを使用した。インサート(insert)のECM層を再水和するために、予め温め直した300μLの無血清培地(RPMI、10mM HEPES、pH7.4)をインサートに入れ、常温で30分間放置しておいた。Choi−CK、SCK、SK−OV3およびACHNをPBSによって2回洗浄した後、3mLのトリプシン−EDTAを添加し、37℃の培養器に入れた。インベイジョン培地(RPMI、10mM HEPES pH7.4、0.5%BSA)から取り外した細胞を収去し、細胞数を1×105/200μLのインベイジョン培地に合わせた後、それぞれのインサートに細胞を仕込み、抗体A10−A3、4−63または公知の抗体5G3(10μg/mL)と正常マウスIgG(10μg/mL)を処理した。Lower chamberに10%FBSを入れたインベイジョン培地を仕込み、72時間37℃の培養器で培養した。培養が終わった後、インサートに残った細胞と培地を除去し、インサートを新規のウェルに移した。予め温め直した細胞分離溶液225μLにインサートを乗せ、37℃の培養器で30分間培養した。残った細胞を完全に取り外すためにインサートを振とうし、細胞分離溶液と細胞入り溶液に75μLのLysis buffer/Dye solutionを仕込み、常温で15分間放置した。200μLの溶液を96ウェルに移して480nm/520nmのfluorescenceで読み取った。その結果、A10−A3はACHAでは抑制作用がないが、Choi−CK、SCKおよびSK−OV3では癌細胞の浸潤を抑制することが分かった(図9のパネルA)。4−63抗体もChoi−CK細胞の浸潤を抑制した(図9のパネルA)。ところが、5G3抗体はChoi−CK細胞の浸潤抑制作用がA10−A3および4−63抗体より良くなかった(図9のパネルA)。
【0074】
マイグレーションアッセイ(Migration assay)の際には、インサートの底部に別途にコラーゲンタイプIを10μg/mLでコートした以外は前記方法と同様にして実験した。その結果、抗体A10−A3はACHNでは抑制作用がないが、Choi−CK、SCKおよびSK−OV−3では癌細胞の移動を抑制することが分かる(図9)。
【0075】
実施例10:A10−A3抗体による癌細胞信号伝達抑制
実施例10−1:A10−A3抗体による癌細胞のPCNA発現抑制
細胞の増殖を表現するPCNA(Proliferating cell nuclear antigen)の発現がA10−A3抗体によって低下するかをウエスタンブロットによって検証するために、Choi−CK細胞に抗体A10−A3、マウスIgG10をそれぞれ72時間処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を8%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファー(Western transfer)した。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、マウスモノクローナル抗−PCNA(Novocastra Laboratories、1:500)抗体および抗−βアクチン(Oncogene、1:4000)抗体と1時間反応させた。そして、抗−マウスホースラディシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体(Cell Signaling、1:1000)と反応させ、PBSTで洗浄した後、ECL(Enhanced Chemiluminescence Reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でPCNAとβ−actinを検出した。抗体A10−A3で処理したChoi−CKでのみPCNAの発現が著しく減少することを観察することができた(図10のパネルA)。
【0076】
実施例10−2:MAPKリン酸化(phosphorylation)の抑制
癌細胞の成長、浸潤および生存に関与するMAPK(mitogen-activated protein kinase)リン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって検証するために、Choi−CK細胞に抗体A10−A3およびマウスIgGを10μg/mLでそれぞれ72時間処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を12%SDS−PAGEで展開し、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂牛で一晩4℃でブロッキングし、Rabbit polyclonal anti−phospho MAPK(Ab Cam、1:1000)抗体と1%脱脂乳で一晩反応させた。リン酸化していないMAPKの発現を調査するためには、同量のタンパク質を前述のように同様に処理し、ブロッキングしたニトロセルロース膜とanti−MAPK(Ab Cam、1:1000)抗体を1時間反応させた。そして、抗−ウサギホースラディッシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体(Cell Sgnaling、1:10000)と1時間反応させ、PBSTで洗浄した後、ECL(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho MAPKとMAPKを検出した。同一のMAPKが発現するChoi−CK癌細胞で抗体A10−A3を処理したChoi−CKでのみphospho−MAPKの量が著しく減少することを観察することができた(図10のA)。
【0077】
実施例10−3:A10−A3抗体によるAKTリン酸化抑制
癌細胞の生存に関与するAktリン酸化(phosphorylation)がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって検証するために、Choi−CK細胞に抗体A10−A3とマウスIgG10をそれぞれ30分、1時間、1時間30分および2時間ずつ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を12%SDS−PAGEで展開した後、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂牛で一晩4℃でブロッキングし、rabbit polyclonal anti−phospho Akt(Ab cam、1:1000)抗体およびrabbit polyclonal anti−Akt(Ab cam、1:1000)と1%脱脂乳で一晩反応させ、抗−ウサギIgG HRP(Santa Cruz、1:10000)抗体と1時間反応させた。PBSTで洗浄した後、ECL(enhanced chemiluminescence reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho Aktと全体Aktを検出した。抗体A10−A3を処理したChoi−CK細胞でphospho Aktの量が減少することを観察することができた(図10のB)。
【0078】
実施例10−4:A10−A3抗体によるFAKリン酸化抑制
癌細胞の成長および移動に重要に作用するFAK(focal adhesion kinase)のリン酸化がA10−A3抗体によって減少するかをウエスタンブロットによって分析するために、Choi−CKおよびSCK細胞に抗体A10−A3を30分、1時間、1時間30分、2時間ずつ処理した後、細胞を収去して細胞溶解液に溶かした。BCA(bicinchoninic acid)タンパク質検定キット(Pierce)を用いてタンパク質の濃度を決定した後、40μgのタンパク質を7.5%SDS−PAGEで展開した後、ニトロセルロース膜に25Vで90分間ウエスタントランスファーした。膜を5%脱脂乳で一晩4℃でブロッキングし、rabbit polyclonal anti−phospho FAK(Ab cam、1:1000)抗体と1%脱脂乳で一晩反応させ、anti−β actin(Oncogene、1:4000)抗体と1時間反応させた。そして、抗−ウサギホースラディシュペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗体(Cell Signaling、1:10000)と1時間反応させ、TBSTで洗浄した後、ECL(enhanced chemiluminescence reagent)(Amersham Pharmacia Biotech)でphospho FAKとβ−actinを検出した。抗体A10−A3で処理したChoi−CKおよびSCKでphospho−FAKの量が著しく減少することを観察することができた(図10のC)。
【0079】
実施例11:マウスモデルにおける抗体A10−A3の癌細胞成長抑制実験
ヌードマウスBalb/c nu/nuを中央実験動物社を介してSLC(日本)から購入した。週齢および体重は6〜8週齢および18〜22gであって、韓国生命工学研究院で1週間馴化させた。その後、皮下に3×106cellsのChoi−CK細胞を利殖し、20日目に390mm3の大きさに成長した(図10のA)。腫瘍容積(Tumor volume)は横(mm)×縦(mm)×高さ(mm)/2で測定した。実験最終日にヌードマウスをCO2を用いて犠牲にした後、腫瘍を分離し、その重量を測定した。動物に対する毒性を検証するために、動物の体重を測定した。標準偏差(SDs)およびp−valueはANOVA(Prisim、GraphPad software、USA)およびStudent t testを用いて算出した。
A10−A3を1日目(day 1)から毎週3回ずつ10mg/kgの濃度で尾静脈に注射したとき、20日目(day 20)まで強い抗癌効果が観察された(図10のA)。対照群(control)としてはマウスIgG抗体を同量で尾静脈に注射した。20日目の腫瘍のサイズは232mm3であって、対照群と比較して約40%の抗癌効果が観察された(図11のA)。実験最終日(20日目)に腫瘍を分離した後、その重量を測定した(図11のB、C)。対照群の平均腫瘍重量は872mgであり、A10−A3投与群の平均腫瘍重量は516mgであって、約40%の抗癌効果が観察された。
【0080】
A10−A3の毒性を予測するために、ヌードマウスの体重変化を20日間測定し、肉眼で行動の変化を検証した(図11のD)。20日目に対照群と比較したとき、体重減少および異常行動も観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
上述したように、本発明者らは、胆管癌の細胞表面にL1CAMが発現して胆管癌の増殖および浸潤に関与し、このようなL1CAMが胆管癌に特異的な悪い予後因子(poor prognostic factor)であることを解明したところ、本発明に係る胆管癌細胞表面のL1CAMタンパク質を認識し、胆管癌組織に特異的に結合する抗体またはsiRNA、shRNAまたはアンチセンスオリゴヌクレオチド、およびこれを含む薬学的組成物は、胆管癌の成長、浸潤および移動を抑制し且つ細胞死滅を誘導することにより、胆管癌の治療に有用に利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含んでなり、
前記L1CAMの活性を抑制する物質はL1CAMの活性を抑制するL1CAM特異的な抗−L1CAM抗体、その抗−L1CAM抗体の抗原結合断片および抗−L1CAM抗体またはその抗原結合断片の変異体から選ばれるものであり、
前記L1CAMの発現を抑制する物質はL1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物。
【請求項2】
前記L1CAMの活性を抑制する物質が、細胞膜結合形態または細胞膜から遊離された形態を認識することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドが、L1CAMをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAおよびshRNAよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体が、受託番号KCTC10966BPのハイブリドーマによって分泌される4−63、またはUJ127であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記siRNAが5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’または5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’の配列を有することを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1の組成物を投与する段階を含む、胆管癌の治療方法。
【請求項7】
L1CAMの発現または活性を抑制することにより胆管癌の成長または転移を抑制する方法。
【請求項8】
L1CAMに特異的な抗−L1CAM抗体を用いて胆管癌を診断する方法。
【請求項1】
L1CAMの活性または発現を抑制する物質を含んでなり、
前記L1CAMの活性を抑制する物質はL1CAMの活性を抑制するL1CAM特異的な抗−L1CAM抗体、その抗−L1CAM抗体の抗原結合断片および抗−L1CAM抗体またはその抗原結合断片の変異体から選ばれるものであり、
前記L1CAMの発現を抑制する物質はL1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドであることを特徴とする、胆管癌の成長または転移を抑制する薬学的組成物。
【請求項2】
前記L1CAMの活性を抑制する物質が、細胞膜結合形態または細胞膜から遊離された形態を認識することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記L1CAMの発現を抑制するオリゴヌクレオチドが、L1CAMをコードする遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAおよびshRNAよりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記抗体が、受託番号KCTC10966BPのハイブリドーマによって分泌される4−63、またはUJ127であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記siRNAが5’−TGGTACAGTCTGGGdtdt−3’または5’−CAGCAACTTTGCTCAGAGGdtdt−3’の配列を有することを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1の組成物を投与する段階を含む、胆管癌の治療方法。
【請求項7】
L1CAMの発現または活性を抑制することにより胆管癌の成長または転移を抑制する方法。
【請求項8】
L1CAMに特異的な抗−L1CAM抗体を用いて胆管癌を診断する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−501549(P2010−501549A)
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−525498(P2009−525498)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004046
【国際公開番号】WO2008/023947
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(501245997)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (15)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際出願番号】PCT/KR2007/004046
【国際公開番号】WO2008/023947
【国際公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(501245997)コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー (15)
【Fターム(参考)】
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