説明

背当て部材およびその製造方法並びに背負い式バック

【課題】 表皮材を使用者の背中の凹凸形状に対応する3次元立体形状に形成することにより、背負い式バックを背負った使用者の歩行及び走行時の安定性を高める背当て部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 背負い式バックに使用される背当て部材4であり、バックを背負ったときに使用者の背中に当たるシート状の表皮材1と、表皮材1のバック側に配置される弾性芯材21〜24とを有してなる。表皮材1として、使用者の背中の凹凸形状に対応する三次元立体形状に成形されたものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背当て部材およびその製造方法並びに背負い式バックに関し、より詳しくは、背負い式バックに使用される背当て部材、その製造方法およびこの背当て部材を使用して構成される背負い式バックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ランドセルやリュックサック等の背負い式バックには、バック使用者の背中に当たる部分に背当て部材が設けられている。この種の背当て部材として、従来は例えば厚さ10〜30mm程度の平板状のポリウレタンフォーム等の発泡体を所定形状に裁断して一定の厚さに形成した弾性芯材を、合成樹脂材、厚紙などの芯材用途のボードである硬質ボード上に載置してこの弾性芯材の上に人工・合成・天然皮革等からなるシート状の表皮材を被せると共に、表皮材の周縁部を上記硬質ボードに縫製、接着して構成したものが使用されている(特許文献1、2参照)。その際、表皮材の周縁部以外の所定個所を硬質ボード(硬質芯材)に縫製や接着することで、バック使用者の背中の凹凸形状に対応する凹凸部を背当て部材に形成する方法が用いられており、該表皮材に設けた凸部はその裏面側(内部)にクッション材を収容してクッション性を付与し、該凸部の間に設けた凹部は表面に通気溝を付与している。
【特許文献1】実開平7−18623号
【特許文献2】特開平5−337005号
【0003】
人工皮革、合成皮革、天然皮革等を成形する技術として、圧縮成形加工、熱圧縮成形加工、超音波成形加工、高周波成形加工などが知られているが、前記表皮材に凹凸部を成形する場合、低融点の熱可塑性繊維または不織布あるいは同様の樹脂をコーティングまたは含浸したシート状のものを表皮材の裏面に張り合わせ、熱成形することにより凹凸形状を保持させると、低融点で成形すると表皮材の溶融及び表面意匠の損傷は生じない。
【0004】
即ち、人工・合成皮革に使用される表皮材であるポリエステル(軟化点240℃前後)、ナイロン(軟化点180℃前後)またはポリウレタン樹脂(軟化点150℃前後)の融点に比べ、表皮材の融点が低融点の繊維または樹脂は、軟化点が100℃前後のため低温領域で成形加工することが可能であった。さらに、該表皮材の裏面側に補強材として通常の織布物または不織布を張り合わせて成形するものもあるが、補強材は成形性を有しないため、前記した人工・合成皮革よりも高温で成形する必要があった。
【0005】
例えば、人工皮革の仕上面に使用されるポリウレタン樹脂などにプレス加工を行う場合の上下金型の温度は、該熱可塑性樹脂の融点以上の高温領域で上下金型の温度が略一定であるため、表皮材が溶融するおそれがあった。即ち、上下金型の内部に収容する表皮材の表面に上方金型が密着して該表皮材に設けた表面意匠が高熱で損傷が発生する可能性があった。それを防ぐために例えば融点温度の150℃以下の低温領域で成形加工すると、補強材などに含まれる熱可塑性樹脂は硬化せず、成形保持性が顕著に低下するという問題があった。その上、人工皮革などの伸びを阻害するため、複雑な3次元構造の成形には適さないという問題点があった。
【0006】
表皮材にプレス加工で熱成形してすることにより凹凸部を設ける場合に、表皮材に熱可塑性プラスチック樹脂のフィルム・シート・発泡体、もしくは熱可塑性繊維を用いた織物・編物・不織布等を積層して熱成形を施しているが、成形後の風合いが硬くなってしまい、ソフトなクッション性を求めることが困難であるという問題点を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来手法では、表皮材の裏面側に一定の厚さに裁断して部材化した弾性芯材を位置させ、表皮材の周縁部を硬質ボードに縫製や接着して内部の弾性芯材を変形させることで背当て部材の表面に凹凸部を成形している。そして、背当て部材は多様なデザインや形状に対応させることができず、背負い式バック使用者の背中の凹凸形状に十分に対応させた形状の背当て部材を作ることは困難であるため、バック使用者へのバック重量をうまく背中全体に分散させることができず、バック使用者の背中と背当て部材との接触面に生じる摩擦抵抗が大きくなり、バック使用者の背中に擦れに伴う大きな痛みが生じ易く、また、体力のない学童にとって歩行や走行時の安定性が悪かった。
【0008】
上記した従来の方法では、表皮材を成形するのではなく、あくまでも張り合わせされた表皮材の裏面側に熱可塑性素材を成形してあるため、経時的変化によりゆがみが発生するという問題がある。その上、低融点熱可塑性の表皮材は成形時に樹脂化することで風合いが硬くなってしまい適度なクッション感を得ることが困難であった。
【0009】
上記した従来の成形方法に比べ、学童がランドセルを背負って歩行または走行する場合、ランドセルを背中に密着されるために、ランドセルの背板表面部分の形状を3次元立体形状にすることにより、表皮材の表面部分にそれを再現することを目的とする。即ち、表皮材の表面または裏面に取付ける補強材に樹脂を含浸させて成形後の保形性を有するためには、十分な熱を加えなければならない。
【0010】
本発明は、プレス加工に使用する上下のプレス金型の温度を相違させ、即ち、下方金型の温度領域は高くし、上方金型の温度領域を低くしてプレス加工時に該表皮材の表面に設けた意匠が熱で損傷するのを防ぐために、下方金型に比べて上方金型の温度を低い温度に設定して加工時に該表皮材の表面に損傷しないようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る背当て部材は、背負い式バックに使用される背当て部材であって、前記バックを背負ったときに、使用者の背中に当たるシート状の表皮材と、前記表皮材の裏面側に配置される弾性芯材とを有してなり、前記表皮材として前記使用者の背中の凹凸形状(湾曲形状)に対応する三次元立体形状に成形されたものを用いることを特徴とするものである。
【0012】
上記の弾性芯材は、前記表皮材の裏面側に形成される凹部に対応する凸部を有した成形品が使用される。1つの形態において、前記表皮材の裏面側には複数の凹部が形成されており、前記弾性芯材が前記複数の凹部に対応する凸部を有した複数の部材からなるものが使用される。他の形態において、前記表皮材の裏面側には複数の凹部が形成されており、前記弾性芯材が前記複数の凹部に対応する凸部を有した1つの部材からなるものが使用される。
【0013】
1つの好ましい形態において、前記表皮材の三次元立体形状の一部が通気溝を形成しており、前記背当て部材を備えた背負い式バックを背負ったときに、使用者の背中と前記表皮材との間に前記通気溝を通る空気の流れが形成されるように構成してある。
【0014】
本発明によれば、上記の構成を有する背当て部材を下地ボードに固着してなる、背負い式のバックが提供される。この種の背負い式バックは、例えば、ランドセルでもよいし、また、リュックサックでもよい。
【0015】
本願発明によれば、さらに、背負い式バックに使用される背当て部材の製造方法が提供される。この方法は、前記バックを背負ったときに使用者の背中に当接するシート状の表皮材の表面側を、前記使用者の背中の凹凸形状に対応する三次元立体形状に成形する工程、前記表皮材の裏面側(内側)に配置される弾性芯材として、前記表皮材の裏面側に形成される凹部に対応する凸部を有する形状に成形する工程、および前記表皮材の前記凹部に前記弾性芯材の凸部を嵌合する工程を有して構成される。
【0016】
また、前記表皮材は、上方金型と下方金型とを用いた熱プレス成型により製造され、前記熱プレス成型時の上方金型と下方金型とに温度差を設けてある。具体的には、前記熱プレス成型時の前記上方金型は、前記表皮材の表面側に施された表面意匠が溶融や損傷しない低温領域、具体的には、0〜40℃の低温の温度範囲に設定し、また前記下方金型は、前記表皮材の成型可能な温度領域、具体的には、130〜180℃の高温の温度範囲に設定して温度差を設けてある。
【0017】
前記熱プレス成型時の上方金型と下方金型との間に設けた間隙は、前記上方および下方金型内に収容される前記表皮材の厚さより広く設けてある。具体的には、前記上方金型および下方金型との間の間隔は、前記表皮材の厚さより0.2〜2.0mm程度広く形成して、下方金型の表面に押し付けられた該表皮材の表面と上方金型の内面との間に若干の遊び空間を有しながらプレス加工を行う。そのため、該表皮材の表面に傷を付けることがないし、該上方金型が加熱成型温度に比べて低温であるからプレス最終工程での熱により前記表皮材の仕上げ層に設けた表面意匠に対面する上方金型からの熱で溶融することなく美しく仕上げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、表皮材として使用者の背中の凹凸形状に対応する三次元立体形状に成形されたものを用いると共に、表皮材の裏面側に位置させる弾性芯材は、該表皮材の裏面側に設けた凹部に対応した凸部を有する成形品であるため、背当て部材の凹凸部の形状や高さを自由に設定して表皮材の表面に設けてある多様なデザインを損傷させることがなく、クッション性に優れて密着性を高めた背負い式バックの背当て部材とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明すると、図1は本発明に係る実施形態の製造方法により作られた表皮材の平面図、図2は図1のA−A線端面図、図3は本発明の実施形態の製造方法により作られた複数の弾性芯材をそれぞれ間隔を存して配した状態の平面図、図4は図3のB−B線断面図、図5は本発明に係る背当て部材の斜視図、図6は図5のC−C線矢視方向の断面図、図7は他の実施形態における弾性芯材が間隔を存して組み合わせた状態の裏面側からの斜視図、図8は複数の弾性芯材を一体に成形した状態の平面図、図9は図8のD−D線断面図、図10は本発明に係る背当て部材を用いたランドセルを示した説明図、図11は本発明に係る背当て部材の正面図、図12は背当て部材を用いたランドセルを背中に背負った状態のランドセルの前面(使用者の背中側)の高度差を濃淡で表した説明図、図13は図11のE―E線断面図、図14は図11のF−F線断面図、図15は図11のG―G線断面図である。
【0020】
以下の実施形態は、本発明に係るランドセル用の背当て部材を製造するためのもので、この実施形態の製造方法は次の通りである。図1に示したように、所要の三次元立体形状に成形した表皮材1を形成する。即ち、7/100デニール等の極細繊維を用いた不織布ベースいいかえれば不織布素材からなるものでポリウレタン樹脂を含浸させ、仕上げ層をポリウレタン樹脂で形成してなる人工皮革を熱プレス成型(熱圧縮成型)することで、任意形状をした複数の凸部11〜14を有する三次元立体形状の成型品であるシート状の表皮材1を得ることができる。なお、人工皮革に代えて、成型保持性のある材料、例えば、熱可塑性プラスチック樹脂などからなるフイルム、シート等を用いない合成皮革あるいは天然皮革を用いることはもちろん可能である。
【0021】
11a〜14aは、表布材1の仕上げ層である表面側に突出させて成型した凸部11〜14の各裏面、即ちバック側にそれぞれ形成された凹部である。この凸部は熱プレスにより加工するため、各凹部11a〜14aの頂上部は、必要に応じて平坦状、円弧状、凹入円弧状、さらには複雑な凹凸形状に成型することも可能である。
【0022】
ここで、熱プレス成型により三次元立体形状を有する成型品である表皮材を成形する場合、成型時に加える温度が高すぎると表皮材は硬化したり、成型品の表面意匠が高温により溶融したり、あるいは該表皮材の表面部分にプレスすることによって損傷を発生させる場合がある。一方、熱プレス時の温度を抑えた場合には成型が不十分となり、成型保持性が悪化して所要の形状を維持することができなくなってしまう。
【0023】
一般的な熱プレス成型により、狭い面積内において高低差のある複雑な三次元の凹凸形状を仕上げ層である表面側に成型する場合、上方及び下方の金型の内部に表皮材を収容して熱プレスするため、その材料の伸び率および成型保形性が必要であり、また、プレス時に表皮材は上方及び下方の金型によって仕上げ層である表面側及び裏面側から押圧されるため、成型時の高熱により表皮材の表面に加工されている任意形状の表面意匠が、溶融や押圧などによって損傷する場合がある。
【0024】
このため、本願発明においては次の方法が用いられる。
まず、熱プレス成型時において、表皮材の仕上げ層側である表面側(表面意匠が施される面側)に対応する上側に位置する上方金型と、該表皮材の裏面側に対応する下側に位置する下方金型とに温度差を設けてある。具体的には、下方金型は主として用いられるポリウレタン樹脂などからなる表皮材の成型可能な温度領域、例えば130〜180℃、好ましくは140〜160℃の高温の温度領域に設定すると共に、上方金型は表皮材の仕上げ層側である表面側に施された表面意匠が溶融や熱プレスによる損傷しない低温領域、例えば0〜40℃、好ましくは25〜30℃程度の室温の温度範囲に設定して、上方金型と前記下方金型との間に温度差を設けた点に特徴を有している。この場合、表皮材の材質や厚さなどによっては上下の金型は必要に応じて加熱あるいは冷却温度を調整できるように温度調整機能を有するものが好ましい。
【0025】
さらに上方及び下方金型の間には、表皮材の厚みよりさらに適宜な間隔、例えば0.2〜2.0mmの隙間(表皮材の成型前の厚さに応じて両金型の間に設ける隙間の広さ(距離)は、表皮材の材質や厚さにプラスし、且つ、前記間隔の範囲で増減する)を設けて熱プレス成型を行う。即ち、上方及び下方の金型の間に設ける間隔は、表皮材に厚み分とさらに0.2〜2.0mmの隙間の分を広く設けてある。この0.2〜2.0mmの隙間は、発明者が表紙材を用いて数多くの熱プレス加工による実験を行った実験結果から得た数値である。
【0026】
このように、下方金型の上面に配した表皮材を上方から熱プレスする上方金型は、表皮材との間に前記した若干の隙間を設けるようにすると、プレス加工を行う際に柔軟である表皮材の表面部分にプレスする中間状態及び最終状態でも若干の隙間が残っていて一定時間以上密着した状態にはならない。即ち、両金型が互いに密着しても、該表皮材の厚みのほかに0.2〜2.0mmの間隙を有するため、該表皮材の表面側に施された表面意匠が熱で溶融したり、押圧により破損することなく美しく仕上げることができる作用を有するものである。
【0027】
本発明においては、上下の金型に温度差を設けて熱プレス成型を行うこと、さらに、上下の金型の間に、両金型内に収容する表皮材の厚みよりさらに余分の間隔(遊び間隔)を設け、プレス加工の際に上方金型の下面全体が、該表皮材に密着した状態にならないようにして、上記した従来技術の欠点を解消し、所定形状をした三次元立体形状をした凸部を形成するものである。
【0028】
この製造方法のプレス加工において、上下の金型の内部には表皮材と、該表皮材より0.2〜2.0mm程度広くした間隙(遊び間隙)を有しているため、プレス工程における最終状態において、該表皮材は上下の金型の間に密着せず、下方金型上に載置された表皮材は該下方金型の高熱によって、該表皮材の表面側に設けた表面意匠が溶融や破損するのを防止することができる。即ち、表皮材の表面側は、0〜40℃の低温領域の温度に設定された上方金型に面しているため前記表面意匠が上方金型の熱で溶融することがない。
【0029】
本発明の実施形態における背当て部材の製造方法で、図3に示したように成型した発泡体などからなる弾性芯材を製造する。図3、4は、前記表皮材1の表面側に設けた任意形状をした複数の凸部11〜14の裏面側(完成品の背当て部材をランドセルに装着した状態ではランドセル側)に形成された複数の凹部11a〜14a(上記した凸部11〜14の裏側に形成される凹部)に対応する凸部21b〜24bを有した複数のパーツからなる弾性芯材21〜24をそれぞれ成形した例を示したものである。
【0030】
具体的には、各弾性芯材21〜24は、ポリウレタン、EVA、ポリエチレン等の発泡体を原料とし、これらの原料をプロファイル加工、くり貫き加工、熱圧縮加工、発泡成型加工などによって所定の形状に加熱成形加工する。
【0031】
上記のようにして成型された各弾性芯材21〜24は、図1に示した表皮材1の仕上げ層である表面側に設けた凸部11〜14の裏側に形成された凹部11a〜14a内にそれぞれ嵌合される。その際、接着や溶着により弾性芯材21〜24の表面は対応する表皮材1の凹部11a、12a、13a,14aの内面に固着される。
【0032】
表皮材として人工皮革を用いる場合は、仕上げ層の裏面に成型保持性のある材料からなる補強材、例えば熱可塑性プラスチック樹脂などを含浸させたり、貼着させて熱プレスにより成型した凸部は成型保持性を有している。之に対し、表皮材として合成皮革や天然皮革を用いて成型した場合、成型した凸部自体の成型保持性は短期であるが、この凸部の裏面には、同じく熱プレスにより、該凸部の裏面に設けた凹部に合致する形状の凸部に形成した弾性芯材を、前記凹部内に嵌合させると共に、該凹部の内面に接着などにより密着固定するため、該表皮材の凸部の成型保持性は向上し、背当て部材4として十分に機能する作用を有する。
【0033】
ここで、弾性芯材21と22は、背当て部材4をランドセルに装着した状態において、ランドセル着用者の肩甲骨付近に接する部分であり(図11、12、15)、また弾性芯材23は図13、15に示すように、同じく背骨付近に、さらに、弾性芯材24は図12,13,14に示すように、背骨から腰骨付近に接する部分である。そして、各弾性芯材21〜24は、装着される個所に応じて適宜な硬度とし、適切な衝撃吸収性やクッション性を持たせてある。
【0034】
具体的には、ランドセル着用者の左右の肩甲骨付近に接する背当て部材の凸部11、12の内側に嵌合させる弾性芯材21と22は、ランドセル着用者の身体硬度に近い20〜30°(JIS−C)の発泡体となるように設定される(図11、15)。またランドセル着用者が歩行する際に、ランドセルの荷重や衝撃が与えられる腰部付近に接する背当て部材4を構成する表皮材1の凸部14の内側に設けた凹部14a内に嵌合する弾性芯材24は、衝撃吸収性の優れた発泡体となるように設定される(図13、14)。
【0035】
この弾性芯材21〜24は、ウレタンフォーム等の発泡体を前記表皮材1の前記裏面側に形成される凹部11a〜14aに対応する凸部21b〜24bになるように成形するため均一のクッション性を有している。しかし、該弾性芯材のクッション性を部分的に調整する必要がある場合、例えば、図7に示すように、弾性芯材21〜24の中のいずれかの弾性芯材、例えば成型加工した弾性芯材21、22の裏面に盲状の穴部26、26を後加工によって形成してクッション性を微妙に調整することも可能である。前記穴部26を弾性芯材の裏面側に設けても、該弾性芯材の外形は不変であるので外形を変形することはない。
【0036】
上記の手順で複数の凸部11〜14を製造した表皮材1と弾性芯材21〜24とを組み合わせた中間製品が図5に示したものである。そして、その裏面に硬質ボードである下地ボード3を位置させて接着や融着することで完成品の背当て部材4となる。その際、表皮材1と下地ボード3の周辺部は必要に応じて縫製される。また、表皮材の周囲部分を長く形成して、該下地ボード3を包み込むようにしてもよい。この完成品の背当て部材4は、図10に示すように、ランドセル5に縫製により組み付けられる。
【0037】
上記では弾性芯材として、表皮材1の凸部11〜14の裏側に形成された凹部11a〜14aに対応する凸部21b〜24bを有した形状の複数のパーツからなるものを用いたが、これら複数の凸部を一体に形成したものを用いることもできる。図8、9はその例を示したもので、前記弾性芯材21〜24と同形であってそれぞれ介在する間隙27の部分を薄肉状の連結部36、36で連結して複数の弾性芯材31〜34を一体に形成して弾性芯材体30を形成してもよい。各弾性芯材31〜34はそれぞれ連結部36、36で一体に形成してあるので、前記表皮材1の裏面にそれぞれ設けた凹部11a〜14aに嵌合して装着する場合に一回の組み込みで収容できるため作業性が向上する利点がある。
【0038】
ランドセル使用者が背中7にランドセル5を背負って歩行および走行する場合の安定性を高めるためには、ランドセルの背当て部材4の形状を使用者の背中を包み込むようにフィットさせる(図12)ことで、歩行及び走行する際のランドセルの振動及び振幅を抑える必要がある。このようなフィット性を向上させるには、ランドセルの背当て部材4がランドセル使用者の背中に接した状態において、ランドセル使用者の背中の湾曲した形状に、背当て部材4の形状を合わせる必要がある(図13〜15)。このためには、表皮材1や弾性芯材21〜24を0mm〜50mmの高さを有する凹凸形状に成型することが必要となる。具体的には、この高さの範囲で着用者の背中の湾曲形状に沿った高低差のある複雑な三次元の凹凸形状を有するように、表皮材1や弾性芯材21〜24を成型することになる。
【0039】
また、従来構造の背当て部材の場合、ランドセル使用者がランドセルを背中7に装着した状態において、ランドセル使用者の背中と背当て部材は平面状に大きな面積で接することから、ランドセル使用者の背中からの発汗によるベトツキで不快感が生じる場合が多かった。このため、本発明の背当て部材4では、図11〜15に示すように、ランドセル使用者がランドセルを装着した状態で、ランドセル使用者の背中7と背当て部材4との間に通気部分が形成されるように、表皮材1の表面側に設けた複数の凸部11〜14の間には各凸部の区切り部分となる裏面が平坦状をした通気溝6を設けてあって、前記弾性芯材21〜24を内部に嵌合させた凸部11〜14の各間に介在させて間隙を設けてある。具体的には、凹入状をした通気溝6は、表皮材1の表面側から該表面側に突出させて設けた凸部11〜14の頂部までの高さが、0〜50mmの範囲の深さで表皮材1の表面に設けてある。
【0040】
またランドセル着用時の圧着が大きく快適性を高めたい部分では、該通気溝6を深く形成することが好ましい。このように、表皮材の表面側を凹入状にした通気溝6の底面部分(裏面部分)の高さを高くしたり低くしたりすることも可能である。なお、この通気溝を高めの位置、即ち下地ボードの表面から上方に位置させた場合は、必要に応じて、該表皮材の通気溝の裏面側に充填素材を取り付けてもよい。この場合、該通気溝に隣接する弾性芯材はそれぞれ下地ボードに接着固定しているので、充填素材は必ずしも必要ではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る実施形態の製造方法により作られた表皮材の平面図である。
【図2】図1のA−A線端面図である。
【図3】本発明の実施形態の製造方法により作られた複数の弾性芯材をそれぞれ間隔を存して配した状態の平面図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】本発明に係る背当て部材の斜視図である。
【図6】図5のC−C線矢視方向の断面図である。
【図7】他の実施形態において弾性芯材が間隔をおいて組み合わせた状態の裏面側からの斜視図である。
【図8】複数の弾性芯材を一体に成形した状態の平面図である。
【図9】図8のD−D線断面図である。
【図10】本発明に係る背当て部材を用いたランドセルを示した説明図である。
【図11】本発明に係る背当て部材の正面図である。
【図12】背当て部材を用いたランドセルを背中に背負った状態のランドセルの前面(使用者の背中側)の高度差を濃淡で表した説明図である。
【図13】図11のE―E線断面図である。
【図14】図11のF−F線断面図である。
【図15】図11のG―G線断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 表皮材
3 下地ボード
4 背当て部材
5 ランドセル
6 通気溝
11 凸部
12 凸部
13 凸部
14 凸部
11a 凹部
12a 凹部
13a 凹部
14a 凹部
21 弾性芯材
22 弾性芯材
23 弾性芯材
24 弾性芯材
21b 凸部
22b 凸部
23b 凸部
24b 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背負い式バックに使用される背当て部材であって、前記バックを背負ったときに使用者の背中に当たるシート状の表皮材と、前記表皮材の裏面側に配置される弾性芯材とを有してなり、
前記表皮材として、前記使用者の背中の凹凸形状に対応する三次元立体形状に成形されたものを用いる、ことを特徴とする背当て部材。
【請求項2】
前記弾性芯材が、前記表皮材の裏面側に形成される凹部に対応する凸部を有した成形品である、ことを特徴とする請求項1記載の背当て部材。
【請求項3】
前記表皮材の裏面側には複数の凹部が形成されており、前記弾性芯材が前記複数の凹部に対応する凸部を有した部材からなる、ことを特徴とする請求項2記載の背当て部材。
【請求項4】
前記表皮材の三次元立体形状の一部が通気溝を形成しており、
前記背当て部材を備えた背負い式バックを背負ったときに使用者の背中と前記表皮材との間に前記通気溝を通る空気の流れが形成される、ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1に記載の背当て部材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1に記載の背当て部材が、下地ボードに固着してなる、ことを特徴とする背負い式バック。
【請求項6】
背負い式バックに使用される背当て部材の製造方法であって、
前記バックを背負ったときに使用者の背中に当たるシート状の表皮材の表面側を、前記使用者の背中の凹凸形状に対応する三次元立体形状に成形し、
前記表皮材の裏面側に配置される弾性芯材として、前記表皮材の裏面側に形成される凹部に対応する凸部を有する形状に成形し、
前記表皮材の凹部に前記弾性芯材の凸部を嵌合する、ことを特徴とする背当て部材の製造方法。
【請求項7】
前記表皮材の裏面側には複数の凹部が形成されており、前記弾性芯材が前記複数の凹部に対応する凸部を有する部材からなる、ことを特徴とする請求項6記載の背当て部材の製造方法。
【請求項8】
前記表皮材は、上方金型と下方金型とを用いた熱プレス成型により製造され、前記熱プレス成型時の上方金型と下方金型とに温度差を設けてある、ことを特徴とする請求項6又は7記載の背当て部材の製造方法。
【請求項9】
前記熱プレス成型時の上方金型は、前記表皮材の表面側に施された表面意匠が溶融により損傷しない低温領域、前記下方金型は前記表皮材の成型可能な高温領域の温度にそれぞれ設定して温度差を設けてある、ことを特徴とする請求項8記載の背当て部材の製造方法。
【請求項10】
前記熱プレス成型時の上方金型と下方金型との間に設ける間隙が、前記上方および下方金型内に収容される前記表皮材の厚さより広く設けてある、ことを特徴とする請求項8記載の背当て部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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