説明

背筋力補助装置

【課題】モータが停止したときにワイヤが伸びてユーザの姿勢が崩れないように、ワイヤを保持するフェイルセーフ機構を備えた背筋力補助装置を提供する。
【解決手段】背筋力補助装置100は、ユーザの腰に装着される腰ハーネス20と、腰ハーネス20に取り付けられているワイヤ巻き上げ器30と、ユーザの背中に装着される背ハーネス10と、ワイヤ巻き上げ器30から伸びて背ハーネス10に固定されているワイヤWaを備える。ワイヤ巻き上げ器30は、ワイヤWaを巻き取るプーリ22と、プーリ22を駆動するモータ34と、プーリ22とモータ34の間で回転力を伝達するウォームギア37とを備えている。ウォームギア37は、逆駆動され難いので、モータ34が停止してもワイヤWaが伸びてユーザの姿勢が崩れることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの背筋力を補助する装着型の背筋力補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重い荷物を持ち上げる作業、或いは、人を抱き上げる作業は重労働である。例えば、患者を抱き上げる介護者は相当な体力的負担を強いられる。作業者(介護者)のそのような負担を軽減するため、前屈姿勢から背屈する動作を補助する装置が例えば特許文献1や特許文献2に開示されている。そのような装置は、ユーザの主に背筋力を補助する。そのような装置を本明細書では背筋力補助装置と称する。
【0003】
特許文献1や特許文献2の背筋力補助装置は、ユーザの背と腰に取り付けられるベルトのような装着帯を有している。そして、腰の装着帯に取り付けられたワイヤ巻き上げ器から伸びているワイヤが背の上部で装着帯に結ばれており、ワイヤ巻き上げ器でワイヤを巻き上げることによって、前屈しているユーザが背中を起こす動作(背屈動作)を補助する。なお、本明細書では、ユーザの背に取り付けられる装着帯を背ハーネスと称し、腰に取り付けられる装着帯を腰ハーネスと称する。背ハーネスはジャケットのように着衣する態様であってよいし、腰ハーネスは下着のように履くものであってもよい。また、本明細書では、巻き上げることが可能な可撓体の総称として「ワイヤ」との用語を用いる。従って、本明細書における「ワイヤ」には、金属性の狭義のワイヤだけでなく、紐やベルトも含まれる。ワイヤ(紐やベルトを含む)は、金属以外、例えば樹脂や繊維で作られていてもよい。カーボン含有の繊維などは、引っ張り力に強く、背筋力補助装置には好適な材料である。また、以下では、「ワイヤ巻き上げ器」を単に「巻き上げ器」と称する。ウインチや電動リールは「巻き上げ器」の一種である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−339号公報
【特許文献2】特開2008−67762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書が開示する技術は、ワイヤを用いた背筋力補助装置のフェイルセーフ機構に関する。特に、モータが停止したときに巻き上げ器が逆回転し、ワイヤが伸びてユーザの姿勢が崩れないように、ワイヤを保持するフェイルセーフ機構を備えた背筋力補助装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する背筋力補助装置は、ユーザの腰に装着される腰ハーネスと、腰ハーネスに取り付けられているワイヤ巻き上げ器と、ユーザの背中に装着される背ハーネスと、ワイヤ巻き上げ器から伸びて背ハーネスに固定されているワイヤを備える。なお、背ハーネスに固定されるワイヤとは別のワイヤを後に導入するので、背ハーネスに固定されるワイヤを以下では背ワイヤと称することにする。
【0007】
本明細書が開示する背筋力補助装置の一つの形態は、ワイヤ巻き上げ器が、背ワイヤを巻き取るプーリと、プーリを駆動するモータと、プーリとモータの間で回転力を伝達するウォームギアとを備えていることを特徴とする。背ワイヤを巻き取るプーリを他のプーリと区別するため以下では巻取プーリと称する。ウォームギアとは、良く知られているように、ねじ歯車(ウォーム)とはす歯歯車(ウォームホイール)を組み合わせた機構である。通常、ねじ歯車(ウォーム)が駆動側に配置され、はす歯歯車(ウォームホイール)が被駆動側に配置される。別言すれば、ねじ歯車にモータのトルクが直接伝達され、はす歯歯車は、ねじ歯車からモータトルクを受ける。ウォームギアの特徴は、バックラッシが非常に小さいこと、及び、逆駆動されないこと(あるいは逆駆動に極めて大きなトルクが必要であること)である。従って、ウォームギアのはす歯歯車を巻取プーリ側に配置し、ねじ歯車をモータ側に配置することよって、モータが停止しても(即ち、モータ自体は逆駆動可能な状態となっても)、巻取プーリは逆駆動されない。即ち、ウォームギアを採用することによって、モータが停止しても巻取プーリは停止するだけで背ワイヤを伸ばしてしまうことがなく(巻取プーリが逆回転して背ワイヤを繰り出してしまうことがなく)、ユーザの姿勢は保持される。
【0008】
本明細書が開示する背筋力補助装置はさらに、背ワイヤに予め定められた閾値力以上の力が加わったときに、ウォームギアのねじ歯車とモータとの間のトルク伝達経路を遮断するトルクリミッタを備えていることが好ましい。トルクリミッタを備えていれば、何らかの要因でモータが予定以上のトルクを出力した場合であってもトルクリミッタが機能してトルク伝達が遮断され、ユーザの背が必要以上に引っ張られることがない。さらに、ウォームギア(ねじ歯車)とモータとの間のトルク伝達経路が遮断されてねじ歯車が自由になったとしても、ウォームギア(はす歯歯車)は逆駆動されないので、巻取プーリが逆回転することはなく、ユーザの姿勢が保持される。
【0009】
トルクリミッタは、多数のメーカーが様々なタイプのものを提供しているのでそれらのいずれかを用いればよい。しかし、本明細書は、背筋力補助装置に好適な新規なトルクリミッタも提供する。その具体的な構造は実施例にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(A)は、背筋力補助装置の側面図を示す。図1(B)は、ユーザの背面からみたときの背筋力補助装置を示す。
【図2】前屈した状態における背筋力補助装置の側面図を示す。
【図3】背筋力補助装置の効果を説明する図である。図3(A)は、ガイドプーリがない場合のワイヤ張力とサポートモーメントの関係を示す図である。図3(B)は、ガイドプーリがある場合のワイヤ張力とサポートモーメントの関係を示す図である。
【図4】巻き上げ器の構造を示す図である。図4(A)は、巻き上げ器の平面図を示しており、図4(B)は巻き上げ器の正面図を示している。
【図5】トルクリミッタの変形例の模式的斜視図である。
【図6】トルクリミッタの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、実施例の背筋力補助装置100の模式図を示す。図1は、ユーザが装着している状態での背筋力補助装置100を示している。図1(A)は、背筋力補助装置100の側面図を示す。図1(B)は、ユーザの背面から見たときの背筋力補助装置100を示す。背筋力補助装置100は、ユーザが装着する背ハーネス10と腰ハーネス20が背ワイヤWaで繋がれた構造を有している。背ハーネス10は、ユーザの上半身(主に背中)に装着される。腰ハーネス20は、ユーザの腰に装着される。なお、「ハーネス」とは、体に装着する装着帯一般を表す言葉である。背筋力補助装置100における腰ハーネス20は、巻き上げ器30を腰後方に固定する役割を有する。背ハーネス10は、巻き上げ器30から伸びる背ワイヤWaの張力を背の上部左右に伝達する役割を有する。背筋力補助装置100は、巻き上げ器30で背ワイヤWaを巻き上げることによって、ユーザの背屈動作(曲がった背すじを伸ばす動作)を補助する力、別言すれば、背屈方向に作用するサポートモーメントをユーザに付与する。
【0012】
背筋力補助装置100の構造を詳しく説明する。図1に示すように、腰ハーネス20には、ユーザの腰後部に相当する位置に巻き上げ器30が取り付けられている。巻き上げ器30のベースとなるのが腰プレート21である。巻き上げ器30は、幾つかのプーリ(24、22、31、33)、ウォームギア37、トルクリミッタ32、及び、モータ34などの部品から構成されており、それらは腰プレート21に配置されている。巻き上げ器30の構造については後に詳しく説明する。
【0013】
3個のプーリ24a、24b、及び、24cは、テンショナ25を構成する。テンショナ25は、背ワイヤWaが緩まないように最低限の張力を背ワイヤWに付与するデバイスである。テンショナ25を構成する3個のプーリ24a、24b、及び24cのうち、中央のプーリ24bがバネ(不図示)で付勢されている。背ワイヤWaは、3個のプーリ24a、24b、及び、24cに交互に巻き掛けられており、バネによって最低限の張力が背ワイヤWaに付与される。
【0014】
背ハーネス10には、ユーザの背中に相当する位置に背プレート12が取り付けられている。背プレート12からユーザの後方に向かって支柱14が伸びている。支柱14の先端にガイドプーリ16が回転自在に取り付けられている。別言すると、ユーザの背中後方にガイドプーリ16が配置されている。ガイドプーリ16の回転軸は、ピッチ軸方向に伸びている。別言すると、ガイドプーリ16はピッチ軸周りに自在に回転する。「ピッチ軸方向」とはユーザの左右方向に相当する。「ピッチ軸」はロボットの技術分野で良く用いる技術用語であり、ロボット(本実施例の場合はユーザの身体)の左右方向に伸びる軸を表す。
【0015】
巻き上げ器30から伸びている背ワイヤWaは、ユーザの背中から後方へ離れた位置でガイドプーリ16を通り、ユーザの背の上部に相当する位置で背ハーネス10に連結されている。より詳しくは、図1(B)に示されているように、巻き上げ器30から伸びる背ワイヤWaは、ガイドプーリ16を介して上方へと(腰から頭部へ向かう方向へ)伸びており、ガイドプーリ16よりも上方でカラビナ19bを介して2方向に別れ、それぞれがユーザの背上部の左右で背ハーネス10に結ばれている。背ワイヤWaの先端はカラビナ19aを介して背ハーネス10に結ばれている。
【0016】
支柱14は、ユーザの体幹中心線に沿ってスライド可能に背プレート12に取り付けられている。支柱14は、外部から加わる力(背ワイヤWaの張力)によって受動的にスライドする。支柱14がスライドすることによる効果を説明する。図2は、ユーザが前屈したときの背筋力補助装置100の側面図を示している。ユーザが前屈すると、巻き上げ器30と背上部ワイヤ連結位置との位置関係が変化する。ユーザが前屈する前は、支柱14はポジションP1で背プレート12に連結していたが、ユーザが前屈すると支柱14の連結点はポジションP2へ移動する。支柱14は、巻き上げ器30から伸びている背ワイヤWaの長さが最も小さくなるポジションP2に受動的に移動する。このとき、背ワイヤWaがガイドプーリ16の両側で作用する張力の合力の方向が支柱の長手方向に一致する。すなわち、背ワイヤWaに作用する張力が支柱14を倒すようには作用しない。支柱14をスライド可能に構成することによって、背ワイヤWaの張力が支柱14を倒す方向に作用しないようにすることできる。
【0017】
背筋力補助装置100の機能を説明する。最初、巻き上げ器30は、背ワイヤWaの張力が第1閾値に一致するように制御される。第1閾値は小さい値に設定されている。ユーザが前屈しようとすると、巻き上げ器30は張力を一定に維持するように背ワイヤWaを繰り出す。ユーザは、背屈しようとするときにコントローラ(不図示)を操作し、巻き上げ器30を作動させる。巻き上げ器30が背ワイヤWaを巻き上げることによって、ユーザの背屈動作を補助する。なお、このとき巻き上げ器30は、背ワイヤWaの張力が第1閾値よりも顕著に大きい第2閾値に一致するように制御される。そのような制御によって、ユーザを背屈させる向きにほぼ一定のトルク(サポートモーメント)をユーザに加えることができる。
【0018】
ガイドプーリ16の効果について説明する。図1(A)によく示されているように、腰後部の巻き取り器30から伸びている背ワイヤWaは、ガイドプーリ16によって背の後方へと導かれてから背の上部へ向かう。この状態を模式的に示したのが図3である。図3は、背筋力補助装置100を装着したユーザを線画で模式的に表した図である。図3(A)はガイドプーリ16がない場合を示しており、図3(B)はガイドプーリ16がある場合を示している。なお、符号22は、巻き取り器30の部品であって背ワイヤWaを巻き取る巻取プーリを示している。巻取プーリ22を含む巻き取り器30の構造については後に詳しく説明する。記号s1はユーザの背の上部後方のワイヤ連結点を示している。図3(A)では、背ワイヤWaは巻取プーリ22(巻き上げ器30)からワイヤ連結点s1へ一直線に伸びている。図3(B)では、背ワイヤWaは巻取プーリ22からガイドプーリ16を通って連結点s1へ伸びている。
【0019】
図3における他の記号の意味を説明する。記号s2は、腰の中心を示している。記号Lは、腰中心s2とワイヤ連結点s1までの長さを示している。記号Tはワイヤ張力を示している。記号A1とA2は、ユーザの体幹から後方へ伸びる垂線と背ワイヤWaがなす角度を示している。Mgはユーザに作用する重力を示している。Mt1とMt2は張力Tによってユーザに作用する腰中心s2回りのモーメントを示している。モーメントMt1とMt2が、背筋力補助装置がユーザに与えるサポートモーメントに相当する。Mt1はガイドプーリ16がない場合のサポートモーメントを表し、Mt2はガイドプーリ16がある場合のサポートモーメントを表している。図3から明らかなとおり、Mt1=L・TcosA1であり、Mt2=L・TcosA2である。腰から伸びる背ワイヤWaがガイドプーリ16を介することによって角度A2が角度A1よりも小さくなる。その結果、張力Tが同じであるならガイドプーリ16がある方がない場合よりもサポートモーメントが大きくなる。すなわち、ガイドプーリ16が、腰から伸びる背ワイヤWaを背の後方へ一旦導いてから背の上部の連結点s1へ向かわせることによって、大きなサポートモーメントを発生させている。
【0020】
ガイドプーリ16が背から伸びている支柱14によって支えられていることは、次の利点も与える。図3(B)に示すように、背ワイヤWaの張力Tに起因して、ガイドプーリ16には背へ向かう力T2が発生する。この力T2は、ユーザの背のほぼ中央を押す。ユーザが前屈状態から背屈する際、この力T2がユーザの背を押す。この力T2は、上半身の姿勢が真っ直ぐになるように作用する。この力T2が背屈時に背すじを伸ばすように作用するので、背筋力補助装置100はユーザの腰に加わる負担をより一層低減する。
【0021】
図4を参照して、巻き上げ器30の構造を詳しく説明する。巻取プーリ22は、モータ34によって駆動される。モータ34から巻取プーリ22までのトルク伝達経路は、駆動プーリ33、ワイヤW1、W2、被駆動プーリ31、ウォームギア37(ねじ歯車35とはす歯歯車36)によって構成されている。
【0022】
駆動プーリ33は、モータ34のシャフトに固定されている。駆動プーリ33には第2ワイヤW2が巻き掛けられている。被駆動プーリ31は、駆動プーリ33と対をなすプーリであり、駆動プーリ33から被駆動プーリ31へモータトルクが伝達される。被駆動プーリ31には第1ワイヤW1が巻き掛けられている。駆動プーリ33から伸びる第2ワイヤW2の先端と被駆動プーリ31から伸びる第1ワイヤW1の先端はトルクリミッタ32で連結されている。トルクリミッタ32は、第1ワイヤW1と第2ワイヤW2と束ねて圧着している単純な金属環である。トルクリミッタ32は、第1ワイヤW1(第2ワイヤW2)に作用する張力が予め定められた閾値張力を超えると第1ワイヤW1と第2ワイヤW2のいずれかが抜ける程度の圧力で両者を圧着している。即ち、トルクリミッタ32は、モータ34から巻取プーリ22へ加わるトルクが所定の閾値トルクを超えるとトルク伝達経路を遮断する。
【0023】
被駆動プーリ31の回転軸にはねじ歯車35(ウォーム)が固定されている。ねじ歯車35にははす歯歯車36(ウォームホイール)が噛み合っている。はす歯歯車36の回転軸には巻取プーリ22が固定されている。ねじ歯車35とはす歯歯車36はウォームギア37を構成する。ねじ歯車35はモータ34の側に配置されておりモータ34のトルクが直接に伝達される。はす歯歯車36は巻取プーリ22の側に配置されている。良く知られているように、ウォームギアはバックラッシが非常に小さいうえ、はす歯歯車側からの逆駆動には極めて大きなトルクが必要とされる。巻き上げ器30では、事実上、はす歯歯車側からの、即ち巻取プーリ22からの、逆駆動は不可能である。
【0024】
背筋力補助装置100の巻き上げ器30は、モータ34から巻取プーリ22の間にウォームギア37とトルクリミッタ32が介在している。さらに詳細には、トルクリミッタ32は、ウォームギア37よりもトルク伝達経路上モータよりに配置されている。そのような構成により次の利点が得られる。
【0025】
まず、ウォームギア37によって、背ワイヤWa側からの逆駆動を防止できる。このことは、次の2点で有用である。一つは、背筋力補助装置100は、モータ34の出力に頼ることなく、ユーザの背を曲げる方向にどんなに大きな力加わってもこれに耐えることができる。他の一つは、何らかの原因でモータ34の出力が低下した場合であっても、背ワイヤWaを繰り出す方向に巻取プーリ22が逆駆動されることがない。このことは、トルクリミッタ32が作動してモータ34から巻取プーリ22までのトルク伝達経路が遮断されたときであっても、巻取プーリ22が逆回転して背ワイヤWaが伸びてしまってユーザの姿勢が崩れることがないことを保証する。
【0026】
トルクリミッタ32の可動範囲は駆動プーリ33と被駆動プーリ31の間の距離Laである(図4(B)参照)。発明者らの検討によれば、トルクリミッタ32の可動範囲、即ち距離Laは、約20cm程度あれば、ユーザの背筋の曲がりをサポートするのに実用上十分な背ワイヤWa巻き上げ距離を確保できる。
【0027】
図5と図6を参照して、背筋力補助装置100に好適なトルクリミッタ40の構造を説明する。なお、図5では、ウォームギアのねじ歯車35と対をなすはす歯歯車36、及び、巻取プーリ22の図示は省略していることに留意されたい。
【0028】
トルクリミッタ40は、モータ34の回転力が伝達される駆動プーリ33と、駆動プーリ33と対をなしておりねじ歯車35と連動して回転する被駆動プーリ31との間に配置される。トルクリミッタ40は、直動ガイド(42、43)、第1ワイヤW1、第2ワイヤW2、フック48、回転軸46、バネ47、小片45で構成される。第2ワイヤW2は駆動プーリ33に巻き掛けられており、その先端にフック48が結ばれている。第1ワイヤW1は被駆動プーリ31に巻き掛けられており、その先端に小片45が結ばれている。
【0029】
フック48と小片45はいずれも直動ガイド(42、43)にスライド可能に支持されている。直動ガイド(42、43)は、ワイヤ巻き上げ器30の腰プレート21に固定されており、小片45とフック48を、駆動プーリ33と被駆動プーリ31を結ぶ方向と平行に個別にスライド可能に支持する。直動ガイド(42、43)は、一対の側壁43と、両端を側壁43に固定されているロッド42を備える。側壁43とロッド42はいずれも、腰プレート21に固定されており、駆動プーリ33と被駆動プーリ31を結ぶ方向に伸びている。ロッド42は小片45を貫通している。小片45は、ロッド42に沿って移動することができる。一対の側壁43のそれぞれにはスリット44が設けられており、そのスリット44に、回転軸46がスライド可能に係合している。回転軸46は、フック48を軸支している。回転軸46とフック48の間にはネジリバネ47が取り付けられている。別言すれば、回転軸46は、直動ガイドとフック48の間に介在しており、直動ガイドにスライド可能に支持されているとともにフック48を回転可能に支持している。
【0030】
図5、図6に示すようにフック48は一部が切り欠かれた円板であり、その切欠部に小片45が係合する。ネジリバネ47は、フック48を、小片45との係合を維持する回転方向に付勢している。直動ガイド(42、43)は、フック48と小片45の動きをスライドの一方向に限定し、その一方向と交差する方向ではフック48と小片45が外れないようにそれらの動きを規制する。
【0031】
トルクリミッタ40の動作を、図6を参照して説明する。図6(A)は、小片45がフック48に係合している状態を示しており、図6(B)は、小片45がフック48から外れた状態を示している。フック48と回転軸46の間にネジリバネ47が配置されている。ネジリバネ47の一端はフック48の突起49bに固定されており、他端は回転軸46の突起49aに固定されている。図6において、ネジリバネ47は、フック48を時計方向に付勢しており、その付勢力によって、フック48と小片45との係合が維持される。第1ワイヤW1と第2ワイヤW2に作用する張力Tsが小さい間は、ネジリバネ47の付勢力が張力Tsに勝り、小片45の係合が維持される(図6(A))。小片45が係合している間は、第2ワイヤW2から第1ワイヤW1へ、即ち駆動プーリ33から被駆動プーリ31へモータトルクが伝達される。何らかの要因で張力Tsが大きくなり、張力Tsがネジリバネ47の付勢力に勝ると、フック48が反時計方向に回転し、フック48と小片45の係合が解かれ、トルク伝達経路が遮断される(図6(B))。別言すると、このトルクリミッタ40は、小片45とフック48が係合している間は駆動プーリ33から被駆動プーリ31へトルクを伝達するが、第1ワイヤW1に閾値力以上の力が加わるとネジリバネ47の弾性力に抗してフック48が回転して小片45がフック48から外れる。
【0032】
フック48と小片45はともに直動ガイド(42、43)にスライド可能に支持されているので、それらの係合が解かれた後に、再び係合するのが容易である。即ち、このトルクリミッタ40は、トルク伝達経路が遮断された後の復旧が容易であるという利点を有する。
【0033】
背筋力補助装置の留意点について述べる。ガイドプーリ16は、背ハーネス10ではなく、腰ハーネス20に支持されていてもよい。即ち、ガイドプーリ16は、腰ハーネス20と背ハーネス10の一方に支持されていればよい。いずれに支持されているとしても、ガイドプーリ16はユーザの背中後方に配置される。背ワイヤWaは、ワイヤ巻き上げ器30から伸びており、ガイドプーリ16を介してユーザの背中上部に相当する位置で背ハーネス10に固定されている。第1ワイヤW1と第2ワイヤW2は駆動プーリ33と被駆動プーリ31に巻き掛けられた同一のベルトであってもよい。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0035】
10:背ハーネス
12:背プレート
14:支柱
16:ガイドプーリ
19a、19b:カラビナ
20:腰ハーネス
21:腰プレート
22:巻取プーリ
25:テンショナ
30:巻き上げ器
31:被駆動プーリ
32、40:トルクリミッタ
33:駆動プーリ
34:モータ
35:ウォーム
36:ウォームホイール
37:ウォームギア
42、43:直動ガイド
44:スリット
45:小片
46:回転軸
47:ネジリバネ
48:フック
100:背筋力補助装置
Wa、W1、W2:ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの腰に装着される腰ハーネスと、
腰ハーネスに取り付けられているワイヤ巻き上げ器と、
ユーザの背中に装着される背ハーネスと、
ワイヤ巻き上げ器から伸びており、背ハーネスに固定されているワイヤと、
を備えており、
ワイヤ巻き上げ器は、
ワイヤを巻き取るプーリと、
プーリを駆動するモータと、
プーリとモータの間で回転力を伝達するウォームギアと、
を備えていることを特徴とする背筋力補助装置。
【請求項2】
ワイヤに予め定められた閾値力以上の力が加わったときに、ウォームギアのねじ歯車とモータの間のトルク伝達経路を遮断するトルクリミッタを備えていることを特徴とする請求項1に記載の背筋力補助装置。
【請求項3】
トルクリミッタは、モータの回転力が伝達される駆動プーリと、駆動プーリと対をなしておりウォームギアと連動して回転する被駆動プーリとの間に配置されており、
以下の構成部品、即ち、
駆動プーリと被駆動プーリの一方に巻き掛けられた第1ワイヤの先端に固定されているフックと、
駆動プーリと被駆動プーリの他方に巻き掛けられた第2ワイヤの先端に固定されており、フックと係合する小片と、
小片とフックを、駆動プーリと被駆動プーリを結ぶ方向と平行に個別にスライド可能に支持する直動ガイドと、
直動ガイドとフックの間に介在しており、直動ガイドにスライド可能に支持されているとともにフックを回転可能に支持している回転軸と、
フックを、小片との係合を維持する回転方向に付勢するバネと、
を備えており、
小片とフックが係合している間は駆動プーリから被駆動プーリへトルクが伝達され、第1ワイヤに前記閾値力以上の力が加わるとバネに抗してフックが回転して小片がフックから外れることを特徴とする請求項2に記載の背筋力補助装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−213543(P2012−213543A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81509(P2011−81509)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】