説明

胎児ECGモニタリング

胎児モニタリング方法は、たとえば母体腹部に取り付けられた表面電極のセットのような電極のセットから電気信号を収集することを含む。胎児心電図信号の形態分析を実施することなどによって電気信号を分析し、この後、形態分析の実施結果から臨床指標を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2008年4月15日に出願された「胎児モニタリングシステム」と題する米国仮特許出願第61/045,055号、および2008年9月29日に出願された「胎児ECGモニタリング」と題する米国仮特許出願第61/100,807号の優先権を主張する。上記出願の内容は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書は、胎児ECG(fECG)モニタリングに関する。
【背景技術】
【0003】
心電図(ECG)モニタリングは、病状、たとえば、心臓に関する異常を検出するために成人患者に広く使用されている。患者の心臓活動を表わす信号は、患者の身体に配置された、たとえば、患者の胸部および手足に取り付けられた皮膚表面電極のセットからから収集できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
胎児ECGのモニタリングは、患者から収集した未加工信号の中に母体と胎児の信号が共存する上に、胎児信号レベルが母体信号などのノイズ源と比較して比較的低いために困難なことがある。胎児EGC信号の収集に対する従来のアプローチとして、胎児の頭皮にワイヤ電極を設置することが挙げられる。胎児頭皮電極は比較的ノイズの少ない胎児信号を提供し得るが、この手段は限られた臨床環境下(患者が分娩発作中であり、羊膜が破裂し、子宮頸部が拡張している等)での実施に限られる。したがって、妊娠患者および分娩患者の大多数にとって適当なものとはいえない。さらに、胎児頭皮電極の設置は、胎児頭皮膿瘍および新生児死亡といった稀な事例が報告されているように、胎児の安全性に何らかのリスクをもたらすおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、概して、胎児モニタリングシステムは、心臓活動の表面測定値を表わす信号を含む信号を収集するデータ収集システムを含む。信号アナライザは、データ収集システムに結合され、臨床症状を特徴付ける少なくとも臨床指標を有する出力を生成するために収集された信号を分析するように構成されている。信号アナライザは、収集された電気信号から胎児心電図信号を抽出する信号プロセッサと、抽出した胎児心電図信号の形態分析(morphological analysis)を実施し、形態分析の結果に基づいて臨床指標を決定する臨床症状検出器とを含む。臨床指標の表示を提示するための出力システムが設けられている。
【0006】
この態様の実施形態は、以下の特徴の一つ以上を含んでいてもよい。
出力システムは、信号アナライザの出力の視覚表示を生成する表示ユニットを含む。表示ユニットは、たとえば、コンピュータ画面および/または携帯機器を含む。信号アナライザの出力を携帯機器に伝送するために無線送信機を設けてもよい。
【0007】
データ収集システムは、母体腹部に取付け可能な少なくとも複数の電極を有する電極アレイを含む。電極アレイは、母体腰部に取付け可能な第2の複数の電極と、潜在的に母体側腹部に取付け可能な第3の複数の電極とをさらに含んでいてもよい。複数の電極は、所定の配置でガーメントに設置される。
【0008】
信号アナライザは、収集された信号から胎児心拍を決定する心拍検出器さらに含む。出力システムは、さらに、信号アナライザによって決定された胎児心拍の表示を提示するように構成されている。心拍検出器は、さらに、胎児心拍の不規則性の程度を判定するように構成されてもよい。
【0009】
出力システムは、さらに、胎児心電図信号の波形表示を提示するように構成されている。
臨床症状検出器は、さらに、抽出した胎児心電図信号の形態学的変化の尺度を決定するように構成されている。形態学的変化の尺度は、一連のセグメント分類のエントロピーを含む。
【0010】
臨床症状検出器によって決定された臨床指標は、胎児状態の指標を含む。臨床症状検出器によって決定された臨床指標は、絨毛羊膜炎、子癇前症、炎症、感染症、低酸素症、低酸素血症、代謝性アシドーシス、および胎児心不整脈の少なくとも一つの指標を含んでいてもよい。
【0011】
信号選択ユニットは、収集した信号の品質に基づいて収集された信号の一つ以上を選択的に拒否する信号アナライザに結合される。
別の態様において、概して、胎児モニタリングシステムは、心臓活動の表面測定値を表わす信号を含む信号を収集するデータ収集システムを含む。信号アナライザは、データ収集システムに結合され、心臓双極子モデルに従って胎児姿勢を特徴付ける情報を得ることと、得られた情報に基づいて胎児姿勢を決定することとを含む、収集された信号を分析するように構成されている。信号アナライザによって決定された胎児姿勢の表示を提示する出力システムが設けられる。
【0012】
別の態様において、概して、胎児モニタリングの方法は、電気信号を電極のセットから収集することを含む。これらの電極は、母体腹部に取り付けられる電極のセットを含む。電気信号は、胎児心電図信号の形態分析を実施するなどして分析される。この後、形態分析の実施結果から臨床指標が決定される。
【0013】
態様は以下の一つ以上を含みうる。
形態分析を実施することは、形態学的変化の定量的な尺度を決定することを含む。たとえば、形態学的変化の定量的な尺度を決定することは、クラスのグループに従って収集した電気信号から決定する信号のセグメントを特徴付けることと、一連のセグメント分類の変化の尺度を決定することとを含む。形態学的変化の定量的な尺度は、一連のセグメント分類のエントロピーを含んでいてもよい。
【0014】
臨床指標を決定することは、胎児状態の指標を決定することを含む。
臨床指標を決定することは、炎症状態の指標を決定することを含む。
臨床指標を決定することは、絨毛羊膜炎、子癇前症、炎症、および感染症の少なくとも一つの指標を決定することを含む。
【0015】
別の態様において、概して、胎児モニタリングの方法は、複数の電極から電気信号を収集することを含む。これらの電極は、母体腹部に取り付けられる複数の電極を含む。たとえば、心臓双極子モデルに従って、胎児姿勢を特徴付ける情報を得ることを含む、電気信号の分析がなされる。この後、得られた情報に基づいてたとえば胎動および胎位を含む胎児姿勢が決定される。
【0016】
別の態様において、概して、胎児モニタリングの方法は、複数の電極から電気信号を収集することを含む。これらの電極は、母体腹部に取り付けられる複数の電極を含む。子宮収縮に関連する筋肉の動きを特徴付ける情報を得ることを含む、電気信号の分析がなされる。子宮収縮の特性(収縮頻度または収縮強度等)が、この後、得られた情報に基づいて決定される。
【0017】
他の態様において、概して、医用装置は、複数の電極から信号を収集して先に示した方法のことを実施するように構成されている。
別の態様において、概して、コンピュータ可読媒体に格納されたソフトウェアは、複数の電極からの信号を表わすデータをコンピュータシステムに受信させて、上記の方法のステップを実施させる命令を含む。
【0018】
一部の実施形態は、以下の利点を一つ以上有していてもよい。
一部の実施形態において、胎児ECG信号における形態的エントロピーは、たとえば、新生児の脳性麻痺および敗血症のリスクの増加に関連する子宮内感染症などの疾患に起因する妊娠中の炎症およびニューロン損傷の早期検出のためのリスク指標として利用される。炎症の早期検出によって、新生児に不運な結果をもたらすリスクを減らすことができる治療介入が可能になるかもしれない。
【0019】
一部の実施例において、胎児ECG信号の形態的エントロピーは、形態学に基づいて心拍をまず種々のクラスの活動に分割してから、原信号における各心拍をその形態学的クラスに対応する標識で置き換えることによって得られるシンボルシーケンスのエントロピーを計算するために、監視されていないアルゴリズムを用いて測定される。形態的エントロピーは、胎児ECG記録に基づいて評価されるとき、臍帯血清におけるある生化学的マーカ(インターロイキン8等)のレベルと統計学的に有意な相関(実質的に線形連関等)を示す。これは、永久的な身体障害の発症前に炎症およびニューロン損傷を検出して臨床的介入を促進するための非侵襲的手段を提供する可能性がある。
【0020】
他の特徴および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】胎児モニタリングシステムの一実施形態のブロック図である。
【図2】図1のECGアナライザの一実施形態のブロック図である。
【図3】A−Cは妊娠中の胎位の変化を示す。
【図4】図1の胎児モニタリングシステムのデータディスプレイの実施例を示す。
【図5】電極構成の一例を示す。
【図6】図5の電極構成を用いて収集されたECG波形を示す。
【図7】電極構成の別の実施例を示す。
【図8】Aは胎児−母体複合信号の波形を示す。BはAの胎児−母体複合信号から抽出された胎児ECGの波形を示す。
【図9】A−CはECG波形の例示的なクラスを示す。Dは時間に対する一患者に発生した種々のクラスのECG波形を示す。
【図10】Aは発熱集団および正常集団の心拍変動性の分布を示す。Bは発熱集団および正常集団のECGエントロピーの分布を示す。
【図11】ECGエントロピーとIL−8レベルの相関を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
1 概要
図1を参照すると、一部の実施形態において、胎児モニタリングシステム100は、患者110から収集された胎児ECG(fECG)信号の特性を識別し、これらの特性に基づいて、たとえば、炎症性傷害、低酸素性傷害、または虚血性傷害によって生じる差し迫った胎児損傷を予測するなど、臨床的に重要な事象を検出するように構成されている。
【0023】
きわめて大まかに、胎児モニタリングシステム100は、胎児ECG信号を取得し、分析して臨床的に関連のあるデータを生成するためのECGモニタ120を含む。一部の実施形態において、ECGモニタ120は、心拍情報を単に決定することに加えてあるいは心拍情報を単に決定する代わりに、fECG信号内の形態学的情報を利用する。ECGモニタ120が生成するデータは、たとえば、ペーパーチャートへの印刷、表示ユニット160(コンピュータ画面等)への表示、携帯機器170(スマートフォンまたはPDA等)への無線信号による伝送など、様々な形式で医師に提示されうる。
【0024】
この実施例において、ECGモニタ120は、データ収集システム130、チャネル選択モジュール140(オプション)、およびECGアナライザ150を含む。
データ収集システム130は、電気信号、たとえば、胎児−母体複合形の電位を電極132のセットを通して収集する。これらの電極132は、母体腹部や、腰背部、側腹部に配置された電極のセットを含み、これらの電極から電気信号を生成するための一本以上のリード線が形成される。
【0025】
この説明において、リード線は、一般に、電極の組合せ(一対等)に関連して定められ、それら電極は体の想像線と関連付けられており、この想像線に沿って電気信号を測定する。リード線は、患者の体表の特定位置にそれぞれ設置された電極の組合せから、心臓によって生成された電気信号(電位差の形式等で)を記録する。二本の異なるリード線が一つ以上の共通電極に使用されてもよく、したがって、EGCシステムにおけるリード線の本数は患者の体表に設置される電極の数に必ずしも正比例しない。一部の実施例において、電極132は、胎児−母体複合信号における母体信号の影響を少なくするために母体の心臓から比較的遠くに設置される。一部の他の実施例において、電極132は心臓に近い母体胸部に設置される一つ以上の電極を含んでいてもよく、このことから母体の基準リード線が決定されうる。患者の体表の電極の配置およびリード線パターンの規定は、本明細書において後で議論するように、具体的な実施に応じて選択される。
【0026】
データ収集システム130によって収集された信号はECGアナライザ150に伝送され、そのECGアナライザ150は、その後の処理および分析のために未加工ECG信号をまずディジタル化する(1000Hzのサンプリングレートおよび16ビットの分解能等)。一部の実施例において、未加工信号は、たとえば、各々が異なるリード線に対応づけられた複数の独立したチャネルで伝送される。この実施例において、チャネル選択モジュール140は、「弱い」(低品質の)信号のチャネルを破棄して「強い」(高品質の)信号のみをECGアナライザ150に渡すことができるチャネル選択アルゴリズムを適用する。破棄されたチャネルの一部は、たとえば、胎位の変化や電極導電率の低下(初期の超音波検査において使用される非導電性ゲルによって生じる等)に起因するノイズを主に含む。これらのチャネルは、ノイズ特性がシステム用に設計されたフィルタ技術のタイプにとっては修正可能ではないかもしれないので拒否することが好ましい。チャネル選択アルゴリズムのさらなる議論は後述する。
【0027】
図2を参照すると、未加工ECG信号から臨床的に重要なデータを得るために、一部の実施形態におけるECGアナライザ250は、処理されたECG信号を生成するために一つ以上のフィルタ技術(後述する)を適用するプリプロセッサ251を含む。当該処理されたECG信号は、たとえば、「ノイズの少ない」胎児ECG波形の形式で、または胎児−母体ECGモデルのメトリックス(すなわち、パラメータ)の形式で生成される。これらの処理された信号は、下述のように、一つ以上の分析モジュールによって使用される。
【0028】
1.1 臨床症状検出器
分析モジュールのタイプの一例は、臨床症状検出器252である。きわめて概略的に、臨床症状検出器252は、心拍変動性、ECG形態、ならびに形態分類およびエントロピーなど、ECG信号の特性を抽出して臨床評価を支援する特徴抽出器253を含む。これらの特性は、この後、臨床的に重要な事象と相関性がある特異的なECGパターンを識別する臨床症状評価器254に供給される。たとえば、臨床症状評価器254は、臨床モデル255を用いて、胎児と母親の一方又は両方の電気生理学的性状(ECGパターン等)と、絨毛羊膜炎、組織病理学的絨毛羊膜炎、および新生児院内感染症といった確立した病状に関わる大集団の統計的性状とを関連付けてもよい。得られる相関は、上記のような病状に対する患者(母親と胎児の一方又は両方)の感受性を判断するために利用される。具体的な実施に応じて、臨床症状評価器254は、個別のモジュール(絨毛羊膜炎評価装置、分娩時発熱評価装置等)を有していてもよく、各モジュールは胎児ジストレスや母体ジストレスの何らかの側面が存在する度合い表わす尺度を提供するものである。医師は、個々のモジュールの出力を、たとえば、「0」はジストレスがない(または最小である)ことを示し、「10」は最高レベルのジストレスを示す10点満点で表わされる信頼スコアで受け取ってもよい。また、個々のスコアは、胎児の全体的な健康状態を示す全体的な胎児ジストレスレベルの評価を形成するために組み合わせられうる。
【0029】
一部の実施形態において、臨床症状評価器254は、(エキスパートシステムや人の介入を利用する等)自動診断を実施して病状の識別や後続手順への勧告を行う。一部の実施例において、臨床症状評価器254は、他の臨床データ(臍帯からの血清試料の病理学的評価など)を妊娠中または分娩中の患者から収集して、差し迫った胎児/新生児損傷(脳損傷、脳性麻痺、死亡など)の可能性のさらなる判断に役立てるために、識別されたECG特性とともに当該他の臨床データを使用する。
【0030】
特徴抽出器253を採用すると、様々な臨床症状(妊娠または分娩等)下にある患者から高品質の胎児ECGデータが得られる。ECGデータの特性は、従来の技術を用いたのでは得られない臨床分析が可能となるような良い状態で保存されうる。特徴抽出器253の実施および臨床症状評価器254の実施例をさらに詳しく説明する。
【0031】
1.2 胎児姿勢検出器
分析モジュールの第2の例は、母体内の胎位を推定する胎児姿勢検出器256である。
図3A〜3Cを参照すると、様々な妊娠段階で胎位は変化することがあり、分娩前の胎児の胎位は母親の出産方法と何らかの警戒措置を取る必要があるかどうかに影響を与えることがある。一部の応用において、たとえば、連続出力を臨床医に提供するモニタリングシステムの出力として胎位の推測データを生成することが望ましい。
【0032】
一部の実施例において、上記のような胎位の推測データは、胎児と母体の両信号を含む未加工信号からfECG信号を抽出する多重双極子モデル化アプローチの一部として決定され、胎児心臓の推測した双極子の向きが母親の身体に対する胎児姿勢の推測データを提供する。
【0033】
一部の実施例において、胎位は特徴抽出法の一部として、あるいは臨床評価法の一部として使用される。たとえば、ある胎位での信号収集は、たとえば、比較的高い信号対ノイズ特性を示す特徴的に明確な信号をもたらすことがある。一部の実施例において、自動的な臨床的判断は、胎位に応じて行なわれ、たとえば、特定の胎位でのみ実施される。このような胎位の例は、母体腹壁に背を向けた胎児であり、この胎位では胎児の心臓と表面電極の距離が近いため特に高品質の信号をもたらす可能性がある。一部の例において、推測した胎位は、チャネル選択モジュール140の電極を選択するために使用される。一部の例において、推測した胎位は、様々な電極に関する信号および/またはモデルの特性、たとえば、信号源(胎児心臓等)と電極の間の信号伝送特性を決定するために使用される。
【0034】
ECGアナライザ250が実施する分析モジュールの他の例は、心拍追跡器258、胎児ECG波形抽出器(図示せず)、および場合により、ユーザにより決定された統計データを臨床分析と関連付ける他のモジュールを含む。心拍追跡器258は、経時的な胎児心拍を連続的に出力し、心拍の上昇と減少、および心不整脈などの重度の病状の早期兆候でありうる不規則性の発生を自動的に識別してもよい。
【0035】
プリプロセッサ250は様々な分析モジュールに種々の形で信号を供給してもよいことに留意されたい。換言すると、臨床症状検出器252への入力データは、姿勢検出器256または心拍追跡器258に供給するデータと必ずしも同じである必要はない。具体的な実施に応じて、一部の分析モジュールは「ノイズの少ない」胎児ECG波形を表わすデータを受信してもよく、他の分析モジュールは所定の胎児−母体ECGモデルのメトリックスを表わすデータを受信してもよい。
【0036】
図4は、データディスプレイの一例を示し、このデータディスプレイにより、様々な分析モジュールの出力が、たとえばコンピュータ画面または携帯機器上で医師に提示される。このディスプレイは、それぞれ、たとえば、観察される胎児心拍、胎児姿勢ポインタ、全体的な胎児ジストレスの指標、エントロピー指数、および、場合によっては、他の指標とともに、胎児ECG波形を示す複数の領域を含む。一部の実施例において、最近の検査以後の(あるいは、妊娠期間にわたる)胎位の変化も、たとえば、患者データベースから前の胎位データをロードすることによって提示される。一部の実施例において、各指標には所定の「警戒」レベル(10点満点中6点のスコア等)があり、このレベルを超えると特別な注意(後続手順等)が表示される。一部の実施例において、モニタリングシステム100では、必要なときに、医師が詳細データ、たとえば、具体的な指標値を決定するための統計データを見ることができる。
【0037】
2 電極構成
具体的な実施に応じて、様々な配置で取り付けられた電極132による侵襲的手段および/または非侵襲的手段を用いてECG信号を収集できる。以下に、図1のモニタリングシステム100の採用に適した電極構成の二つの実施例について説明する。
【0038】
2.1 実施例I
図5を参照すると、データ収集システム130の一部の実施形態の第1の電極構成が示される。この例の構成は、母体腹部から胎児頭皮電極ECGデータ(「最も信頼できる(gold-standard)」胎児データ)、母体ECGデータ(「最も信頼できる」母体データ)、および複合データ(胎児−母体複合信号)を同時に収集することができる。胎児ECGデータは、最も信頼できる母体データを用いることで複合データから分離できるし、最も信頼できる胎児データとさらに比較することもできる。
【0039】
この実施例において、ECG信号は32個の接着電極を用いて得られ、その電極には、(健全な母体の究極の標準的基準を生成する)3個の母体胸部電極、(母体/胎児複合信号の過完全集合を生成する)28個の腹部および背部電極、および子宮内プローブを用いて挿入される単一の胎児頭皮電極が含まれる。単一の子宮内プローブは適応症状がなければ採用されないが、オプションとして多数の患者(分娩患者等)に使用されうる。このプローブは、強く低ノイズの胎児ECG信号を生成するので、腹部プローブから抽出した胎児ECGと比較される「最も信頼できる基準」である。3個の胸部電極は、胎児汚染のない(またはごく僅かの)強い母体ECG値を生成する。胸部電極および頭皮電極を使用すると、母体ECU信号の除去と胎児ECU信号の抽出の両方の品質が評価できる。実施に応じて、これらの電極は、乾式電極(たとえばオハイオ州、クリーブランド、Orbital Research社)または市販のゲル接着電極(たとえばミネソタ州、セントポール、Red Dot,3M社)のいずれでもよい。一部の実施例において、電極は、検査中に電極を安定化して電極−皮膚の接触を改善しうるメッシュ(またはガーメント)を用いて母体表面に取り付けられる。
【0040】
図6は、上記のデータ収集システムを用いて検出される例示的なECG波形を示す。これらの波形は、胎児頭皮電極、腹部電極、および胸部電極からそれぞれ得られた胎児ECG、胎児−母体ECG、および母体ECGを含む。
【0041】
2.2 実施例II
図7を参照すると、データ収集システム130の一部の実施形態の第2の電極構成が示される。ここでは、患者の腹部、背部、および側腹部に電極が所定の配置で分布されうるように母体腹部の回りに巻かれた便利な弾力性のあるモニタリングガーメントに(たとえば32個の)乾式電極のセットが取り付けられている。この構成では胎児頭皮電極は不要である。この構成は、fECG信号をモニタするための非侵襲的手段となるが、それでもなお、胎児の状態に関わらず十分なセットの有用なfECG信号を生成することができる。
【0042】
一部の実施形態において、電極配置および電気信号を収集するリード線パターンには、成人患者に対して開発された従来の規格を採用することができる。このような従来の規格の一例では、定評のある12本のリード線パターンを利用しており、各リード線は異なる視点から成人心臓の電気的活動を記録する。各リード線の信号は、心臓の異なる解剖学的領域と関連付けられており、たとえば、急性冠動脈虚血症または虚血傷害の識別に役立ちうる。胎児ECG信号は、リード線信号の一部または全部に含まれており、様々なデータ抽出法およびフィルタ処理法を用いて抽出されてもよい(後述のように)。一部の事例において、従来の規格は胎児存在の影響を明らかにせずに成人モデルに基づいて開発され、得られる胎児−母体複合信号が十分に明らかにされていないまたは主たる母体信号に比べて非常に小さい胎児成分を含んでいる場合があるので、胎児−母体複合信号からの胎児信号を分離することは困難なことがある。
【0043】
一部の他の実施形態において、電極配置およびリード線パターンには、胎児ECGモニタリングの個別の要求に合った設計が採用される。設計の一例が図7に示されており、電極の配置が患者身体の側面図、背面図、および断面図で示されている。この例において、電極のセット全体は身体を横断する少なくとも一群のリード線を形成し、各群は、身体を横断する想像線に沿って、たとえば、後ろから前に、または左側から右側に電気信号を生成する。これらのリード線の一部は各々が一対の電極によって形成され、一対の電極のうちの一方は集電極/正電極(E1等)と呼ばれ、他方は基準電極/負電極(R1等)と呼ばれる。対応するリード線信号(L1等)は、たとえば、集電極と基準電極の電位差を表わす増幅信号を形成するバイオメディカル計装用増幅器を用いて得られる。これらのリード線の一部では、基準電極は、集電極が取り付けられる身体の反対側に設置される。たとえば、集電極の一部は腹部に設置されるが、対応する基準電極は腰部に設置される。同様に、集電極の一部は身体の左側に設置されうるが、対応する基準電極は身体の右側に設置されられる。
【0044】
上記のようなリード線パターンを使用すると、収集された信号の一部は、比較的強い胎児成分を示すかまたは従来の成人規格を用いて収集したリード線信号に比べてノイズの少ないものであり得る。具体的な実施に応じて、リード線毎に必ずしも異なる基準電極を使用する必要はない。換言すると、一部のリード線は、腰部の単一基準電極に対して腹部の様々な位置に集電極を用いて形成されてもよい。一部の実施例において、基準電極および集電極は、異なる特性の電極でありうるし(異なる材料から作られ、異なるサイズを有し、または信号感度レベルが異なる等)、異なる取り付け機構(乾式および湿式等)を用いて身体に取り付けられうる。一部の実施例において、電極のセットは、たとえば、胎位変化、電極接触不良、および電極またはリード線信号に突変を生じ得るその他の事象を明らかにするためにECGアナライザ150によって供給されたフィードバック信号に基づいて、電極ペアリングや、リード線選択、ガーメント位置決めを動的に調整しうるリード線再配置モジュールに結合されてもよい。
【0045】
3 チャネル選択
図5および7に示される例示的な電極構成において、前述の多数の腹部信号および背部信号を記録する一つの理由は、胎児ECGがこれらのリード線の一部のみに現われる傾向があり、さらに、実際の組合せが胎児の状態、妊娠中の時期、電気的接触の程度、ならびに胎位および胎児姿勢に左右されることである。したがって、チャネル選択モジュール140は、「強い」(高品質の)信号のチャネルを適応的に選択するように構成され、「弱い」信号のチャネルを破棄する。腹部信号の一部は主にノイズを含むので、好ましくは、これらのチャネルの処理は破棄される。
【0046】
有用な信号のチャネルを選択するためにチャネル選択ユニット140が使用する一つの技術は、複数のECGリード線から導かれる複数の信号品質指標(SQI)の融合に基づく。一部の実施例において、生理学的SQIは各チャネルの統計的特性およびそれらの相互関係を分析することによって得られる。たとえば、スペクトルコヒーレンス、ガウス的性質からの統計的なずれ、および異なる感度の事象検出器の性能を計算することによって、この技術は有用な信号を含むチャネルを自動的に探して主にノイズを含むチャネルを破棄することができる。さらに、種々の応用に対して種々のチャネルを選択できる品質のスライディングスケールが利用されうる。この技術は、Physiological Measurement 29 (2008)15−32で公開された、Liら著、「Robust Heart Rate Estimation from Multiple Asynchronous Noisy Sources Using Signal Quality Indices and a Kalman Filter」によって更に議論されており、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0047】
4 胎児−母体複合信号からの胎児信号の抽出
胎児ECG信号の波形を胎児−母体複合信号から抽出するための一部の技術は、適応フィルタリング(AF)、非線形射影フィルタリング(NLPF)、神経回路網、独立成分分析(ICA)、および結合時間−周波数分析(JTFA)などの信号処理およびフィルタリング技術を含む。これらの技術の一つの限界は、fECG収集中に現われるデータの信号対ノイズ比(SNR)および頻出するアーチファクトに対する感度への依存にある。各技術は、「帯域内」フィルタリング(胎児信号に存在する周波数信号の除去)を実施することがあり、またfECG形態に未知の影響をもたらす信号に位相歪みを生じることがある。これらの問題は、fECGから抽出したい臨床パラメータに重要な変化をもたらす可能性がある。
【0048】
胎児ECG記録および分析におけるもう1つ問題は、母親の腹部を通る胎児信号の伝達に起因する信号歪みに関する。fECG信号は、表面電極に達するまでに、複数の媒質層(胎脂等)を通過するが、媒質層の各々は非常に異なる電気特性を有することがあり、一部は表面電極に収集される胎児ECG信号に著しい減衰をもたらすことがある。ECGの有効周波数範囲は1〜2kHz以下であるので、体表面電極と心臓信号源の距離を考えると、母体の伝播媒質は線形的な瞬間媒質(linear instantaneous medium)であると見なすことができる。したがって、体表面の記録は、心臓信号源とアーチファクトを記録電極対の軸に瞬間的に線形投影したものである。しかし、身体容積導体の電気インピーダンスは呼吸によって変化することが知られている。したがって、その線形性にもかかわらず、伝播媒質は時間的に変化し、体表面記録はむしろ非定常的である。
【0049】
誘電率が変化する媒質中の伝送による胎児ECG歪みの問題に対処するための一つの方法は、胎児心臓信号源のモデルを使用してフィルタリングおよび特徴抽出プロセスを制限することである。たとえば、一つの技術は、心臓の電気的活動を表わすために三次元動的モデルを適用する。具体的には、このモデルは、心臓の一つの双極子モデルに基づいており、現実的なECGノイズモデルとともに心臓双極子の時間的な移動および回転を明らかにする線形モデルによって体表面電位に後で関係付けられる。この技術の詳細は、EURASIP Journal on Advances in Signal Processing,Volume 2007,Article ID 43407で公開された、Sameniら著、「Multichannel ECG and Noise Modeling:Application to Maternal and Fetal ECG Signals」にさらに記載されており、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0050】
図8Aは、母体および胎児のECGの典型的な複合信号を示す。母体の拍動は負のスパイク(HR=90bpm)として現われており、胎児の拍動は比較的小さい正のスパイク(HR=138bpm)として現われている。胎児および母体のピーク高さは、いずれもある低周波成分(たとえば呼吸を含む)によって変調されているように見える。胎児は、誕生前に呼吸を「練習」しており、このことが胸腔内圧の変化を招くことがある。
【0051】
図8Bは、前述のモデルベースのカルマンフィルタ追跡法を用いた母体拍動信号除去後の同じ信号を示す。Rピークの呼吸変調およびfECGの他の特徴は波形の中に保存される。これらの繊細な特徴は、Rピーク位置(たとえば敗血症の心拍変動性評価に対する)、ST上昇分析(たとえば虚血症に対する)、およびQT間隔分析(不整脈兆候に対する)など、正確な特徴分析を実施する際に不可欠である。
【0052】
これらの「ノイズの少ない」胎児ECG波形を使用すると、図2の特徴抽出器253は、臨床的に関係のある活動に関連する波形の特性を識別することができる。例えばECG特性には、心拍変動性、ECG形態、およびエントロピーが含まれる。たとえば、fECG信号は、種々の形態学的クラスに分類されてもよく、各クラスは繊細な形態学的特性に基づいてさらに分類されてもよく、これに基づいて臨床的に関連のあるパターンが識別されてもよい。特徴抽出の技術は後節でさらに詳しく説明する。
【0053】
一部の実施例において、特徴抽出器253は、関心のある特徴を得るために「ノイズの少ない」胎児ECG波形を必要としない。たとえば、プリプロセッサ251は、ECGモデルのメトリックスまたはECG分類の記号を得るために未加工ECGデータを処理してもよく、これに基づいて、特徴抽出器150は関心のある特徴を抽出してもよい。
【0054】
5 特徴抽出および臨床分析
5.1 心拍変動性分析
心拍変動性(HRV)は、自律神経系による心臓血管調節の重要な定量的マーカでありうる。心拍は、心臓内の洞房結節の固有調律によって発生するが、自律神経系におけるフィードバックループを介する脳幹からの一定入力がこの心拍を厳密に変調する。安静時、心拍の変動は、主に、迷走神経核によって支配される迷走神経緊張から生じる。しかし、この変動は、迷走神経活動と交感神経活動の相互作用だけでなく、中枢性呼吸、運動中枢、ならびに血圧および呼吸の末梢振動によっても影響される。
【0055】
多くの臨床背景では、HRVの評価は、胎児心拍が時間の関数としてプロットされた紙印刷物を用いて、この変数の臨床医による主観的解釈に基づいて行なわれる。一部の実施形態において、心拍は、心臓信号と、胎児ECGを用いて記録されたデータからの基準心拍トレースとの相互相関をとることよって検出されてもよい。相互相関ピークの高さ(正規化されていない場合)は、基準に対する信号の強度およびその類似性の尺度を提供する。ピークの位置は、心拍が生じた正確な時間の正確な尺度を提供する。これらの尺度は、胎児心拍でない信号を拒否することだけでなく心拍(胎児心拍)間の時間を正確に測定する方法にも利用できる。このアプローチにより、心拍およびHRVに基づく分析に使用されうるデータが得られる。
【0056】
相互相関はデータ内の胎児心拍を探すために使用され、この後、データは一連の個々の心拍として「完全にウィンドウ表示」されうる。データは、この後、多変量統計分析を受け、結果は心拍の集合体の変動に従って心拍をグループ化するために使用される。これらのデータは、後で波形形態の分析に使用されうる。
【0057】
5.2 形態分析
一部の実施形態において、特徴抽出器253はfECG信号に対して形態分析を実施する。胎児ECG形態に対する一つのアプローチでは、医学的に関連したパターンを見つけるためにECG信号のクラスタリングおよび記号分析を採用する。きわめて概略的に、ECG信号は、信号波形の類似性尺度に従って形態学的に類似しているグループに分類される。一部の実施例において、fECG波形の連続するセグメントは、一心拍当たり一セグメントで形成され、この後、最小−最大クラスタリングが使用されて、波形セグメント間のペアワイズ距離に従ってグループを形成する。一部の実施例において、波形セグメント間のペアワイズ距離には、ダイナミック・タイム・ワーピング(DTW)尺度が採用される。他の実施例において、各セグメントはパラメータモデル(置換されたガウス成分の和を用いる等)を用いてモデル化され、セグメント間距離はセグメントのモデルパラメータ間の距離に基づく。識別されたグループの特性は、形態学的変化の尺度を決定するために使用される。一部の実施例において、fECGのセグメントは、たとえば、アルファベット記号からなる離散的なラベル(5つの任意のラベル等)で標識される。この後、統計的尺度が、たとえば、信号のスライドウィンドウにおける一連のラベルから決定される。
【0058】
形態学的変化の一つの尺度は、ラベルのサンプル分布のエントロピーである。一部の実施例において、一連のラベルの有限状態モデルのエントロピーが使用される。一部の実施例において、セグメントは必ずしも確定的に標識されず(各隠れクラスにおける心拍の確率尺度に依存する)、基本的な(たとえば隠れた)一連のセグメントクラスのエントロピーが計算されて正確な一連のクラスラベルを最初に決定する必要性がなくなり、このことによって、「ノイズの少ない」fECG信号の推測を必要とすることがある。これらのアプローチの一部の態様は、EURASIP Journal on Advances in Signal Processing,Volume 2007,Article ID 67938で公開された、Syedら著、「Clustering and Symbolic Analysis Cardiovascular Signals:Discovery and Visualization of Medically Relevant Patterns in Long−Term Data Using Limited Prior Knowledge」に記載されており、その開示が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0059】
観察した現象を、病態生理学的状態(心室性頻拍症またはST低下等)を表わす標準化パターンと比較するECGモニタおよびICUモニタリングデバイスに組み込まれる技術とは異なり、前述のタイプの一部のエントロピーベースのアプローチは、ECG形態に関する先見的情報を必ずしも仮定していない。各形態学的クラスは記号によって表わされ、連続記号の様々なパターンには臨床的重要性がある可能性がある。この分析的アプローチは、STセグメント分析を除いて胎児ECG評価用の正式なシステムがないので、現在のシステム100において収集された胎児ECGデータに適している。先見的情報に依存しないことは、情報が得られないかもしれない胎児適用あるいは胎齢などの要因に基づくきわめて変化しがちな胎児適用に有用でありうる。
【0060】
一部の実施例において、モデルベースのフィルタリングが、たとえば、エントロピーベースの分析に先立ってfECG信号に適用される。たとえば、International Journal of Bioelectromagnetism Vol.7,No.1,pp 158−161,2005の、Cliffordら著、「Model−based filtering,compression and classification of ECG」および2007年11月8日に公開された「Method and Device for Filtering,Segmenting,Compressing and Classifying Oscillatory Signals」と題する、Liら著、「Robust Heart Rate Estimation from Multiple Asynchronous Noisy Sources Using Signal Quality Indices and a Kalman Filter」に記載されたようなガウスベースのモデリングは、fECG信号の処理に使用される。これらの文献は、参照により本明細書に組み込まれる。一部の実施例において、これらの技術に基づく分類は、Syedの文献に記載されたように、エントロピー尺度を決定する際に採用される。たとえば、各クラスは、そのクラス(パラメータ値の空間を分割することによる等)のモデルパラメータの範囲によって特徴付けられてもよく、また各クラスはそのクラスのモデルパラメータの分布と関連していてもよい。
【0061】
6 臨床応用の実施例
一部の実施形態において、ECGパターンの特性は、臨床活動事象と関連する。このような臨床応用の一部の実施例は、炎症状態の指標として、または炎症状態の原因の指標、たとえば、炎症の感染症に基づく原因の指標としてfECG信号のエントロピー尺度を使用することを含む。
【0062】
前述の信号処理および分析技術の実験的な応用において、30のfECG記録波形に、絨毛羊膜炎の発症に先立って生じる心拍の形態変化が見つかった。
図9A〜9Cは、分娩中に絨毛羊膜炎を発症した女性から収集された7時間のデータセットから分類された3つのクラスのQRS群を示す。図9Dは、同じ患者である母親の発熱の発現にタイミングを合わせた10分ごとの各心拍の発生を示す。発熱1時間前にクラス1のECG信号が確実に現われていることに留意されたい。
【0063】
また、胎児ECG波形の分析は、エントロピーの尺度、すなわち、一連の胎児心拍の形態の類似性における無秩序の度合によって、羊膜内の感染症の影響を受けやすい胎児と感染症に暴露されない胎児とが見分けられることを示す。
【0064】
図10Aおよび10Bは、絨毛羊膜炎の女性および感染のない女性からの30の胎児ECGデータセットの、それぞれ、HRV分析およびエントロピー分析を示す。図10Aに示すように、絨毛羊膜炎(たとえば母親の発熱兆候を示す)の影響を受けやすい胎児に関する胎児HRVの分布は、感染していない子宮内環境内の胎児の分布と容易に見分けられない。相対的に、図10Bは、胎児ECGのエントロピーが同じ一組の胎児ECGデータに対して計算されるとき、絨毛羊膜炎の影響を受けやすい胎児はエントロピーに関して二峰性に分布するが、感染していない環境内の胎児は基本的に正常に分布する。換言すると、非常に低いエントロピー(たとえば0)または非常に高いエントロピー(たとえば4)を有するECG波形は、絨毛羊膜炎の比較的高い発症確率を示す。一部の実施例において、二つの既知のクラスの患者において観察されるエントロピー尺度の分布は、観察されたエントロピーに基づいて患者(疾患存在および正常)を分類するための尤度比検定を作るために使用される。
【0065】
一部の実施例において、種々のパターンの電気生理学的性状はこのような病状に特異的な生化学的マーカ、たとえば、患者から収集された胎児臍帯から測定した炎症および脳損傷のマーカを用いて病状と相関がとられうる。たとえば、臍帯血インターロイキン6は、敗血症を発症する胎児では敗血症を発症しない胎児と比較して著しく増加する。108.5pg/mlより上のIL−6の臍帯血レベルは、新生児敗血症に対する感度が95%で特異度が100%であると考えられる。
【0066】
図11は、胎児ECGの形態的エントロピーと胎児臍帯血清インターロイキン(IL−8)レベルとの関連性を示す。IL−8の増加レベルは、胎児ECG形態における進行性疾患と相関性がある(たとえば実質的に直線関係を有する)。この相関関係について考えられる一つの理由は、子宮内胎児炎症/感染症が胎児ECGの定量的変化と関連しており、胎児の脳幹、胎児の心筋、またはこの両方のレベルでの電気生理学的信号伝達の変化を反映しているということである。
【0067】
関係のある別の応用は、病状について考えられる種々の原因を区別するためにECG信号の特性を採用することに関する。疾病の様々な原因は、種々のメカニズムによりECG形態に変化をもたらす可能性があり、ひいては、ECG形態に識別可能なパターンをもたらす可能性がある。たとえば、炎症の一つの原因である感染症は、脳幹および心筋レベルを通じて胎児ECG信号に形態変化をもたらす可能性があり、子癇前症(妊娠高血圧症)は胎盤不全のメカニズムを通じてECG形態に影響を及ぼす可能性がある。したがって、ある疾病の種々の原因を区別するための根拠として、ECG形態の様々な提示が採用されうる。
【0068】
一部の実施形態において、特徴抽出器253は、ECG信号に必ずしも関係しない信号分析を実施する。たとえば、筋肉信号は表面電極または従来の子宮収縮用圧力センサーを用いて検出され、子宮収縮のタイミングおよび強度を推測する。このアプローチは、単一のモニタ装置を母体に取り付けることで臨床的に意義のある複数の信号を提供するという利点を有する。
【0069】
一部の実施形態において、胎児モニタリングシステム100は胎児ECG検出を強化しかつ/または臨床評価を支援するために、他の医療診断ツールの機能を組み入れていてもよい。たとえば、胎児ECG抽出を容易にするために、超音波、画像化、および血圧検出などの他の検出モードを用いて母体基準信号が得られうる。また、永久的な能力喪失状態の発症前に炎症およびニューロン損傷を検出するために、患者の組織学的データおよび病理学的なデータがECGデータとともに評価されうる。
【0070】
前述の説明は添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲を示すものであって制限するものでないことを理解されたい。他の実施形態は添付の特許請求の範囲内ある。
【図3A】

【図3B】

【図3C】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓活動の表面測定値を表わす信号を含む信号を収集するデータ収集システムと、
前記データ収集システムに結合され、臨床症状を特徴付ける少なくとも臨床指標を有する出力を生成するために、前記収集した信号を分析するように構成された信号アナライザであって、
前記収集した電気信号から胎児心電図信号を抽出する信号プロセッサと、
前記抽出した胎児心電図信号の形態分析を実施し、該形態分析の結果に基づいて臨床指標を決定する臨床症状検出器と、
を含む前記信号アナライザと、
前記臨床指標の表示を提示する出力システムと、
を備える胎児モニタリングシステム。
【請求項2】
前記出力システムは、前記信号アナライザの出力の視覚表示を生成する表示ユニットを含む請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項3】
前記データ収集システムは、母体腹部に取付け可能な少なくとも複数の電極を有する電極アレイを含む請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項4】
前記電極アレイは、母体腰部に取付け可能な第2の複数の電極をさらに含む請求項3に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項5】
前記電極アレイは、母体側腹部に取付け可能な第3の複数の電極をさらに含む請求項4に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項6】
前記第1乃至第3の複数の電極は、所定の配置でガーメントに設置されている請求項5に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項7】
前記信号アナライザは、前記収集した信号から胎児心拍を決定する心拍検出器をさらに含む請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項8】
前記出力システムは、前記信号アナライザによって決定した前記胎児心拍の表示を提示するようにさらに構成されている請求項7に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項9】
前記心拍検出器は、前記胎児心拍の不規則性の程度を決定するようにさらに構成されている請求項7に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項10】
前記出力システムは、前記胎児心電図信号の波形表示を提示するようにさらに構成されている請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項11】
前記臨床症状検出器は、前記抽出した前記胎児心電図信号の形態学的変化の尺度を決定するようにさらに構成されている請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項12】
前記形態学的変化の尺度は、一連のセグメント分類のエントロピーを含む請求項11に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項13】
前記臨床症状検出器によって決定される前記臨床指標は、胎児状態の指標を含む請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項14】
前記臨床症状検出器によって決定される前記臨床指標は、絨毛羊膜炎、子癇前症、炎症、感染症、低酸素症、低酸素血症、代謝性アシドーシス、および胎児心不整脈の少なくとも一つの指標を含む請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項15】
前記収集した信号の品質に基づいて前記収集した信号の一つ以上を選択的に拒否するために、前記信号アナライザに結合された信号選択ユニットをさらに備える請求項1に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項16】
前記表示ユニットは、コンピュータ画面を含む請求項2に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項17】
前記表示ユニットは、携帯機器を含む請求項2に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項18】
前記信号アナライザの出力を前記携帯機器に伝送する無線送信機をさらに備える請求項17に記載の胎児モニタリングシステム。
【請求項19】
母体腹部に取付け可能な複数の電極を有する電極アレイを含む、電気信号を収集するデータ収集システムと、
前記収集した電気信号を分析する信号アナライザであって、
心臓双極子モデルに従って胎児姿勢を特徴付ける情報を得ることと、
前記得られた情報に基づいて前記胎児姿勢を決定することと、
を含む、前記信号アナライザと、
前記信号アナライザによって決定された前記胎児姿勢の視覚表示を生成する表示ユニットと、
を備える、胎児モニタリングシステム。
【請求項20】
母体腹部に取り付けられる複数の電極を含む、複数の電極から電気信号を収集する工程と、
胎児心電図信号の形態分析を実施することを含む、前記電気信号を分析する工程と、
前記形態分析の実施結果から臨床指標を決定する工程と、
を備える、胎児モニタリング方法。
【請求項21】
前記形態分析を実施することは、形態学的変化の定量的な尺度を決定することを含む請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記形態学的変化の定量的な尺度を決定することは、前記収集した電気信号から決定した信号のセグメントをクラスのグループに従って特徴付けることと、一連のセグメント分類の変化の尺度を決定することとを含む請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記形態学的変化の定量的な尺度は、一連のセグメント分類のエントロピーを含む請求項21に記載の方法。
【請求項24】
臨床指標を決定することは、胎児状態の指標を決定することを含む請求項20に記載の方法。
【請求項25】
臨床指標を決定することは、炎症状態の指標を決定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
臨床指標を決定することは、絨毛羊膜炎、子癇前症、炎症、および感染症の少なくとも一つの指標を決定することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
母体腹部に取り付けられる複数の電極を含む、複数の電極から電気信号を収集する工程と、
心臓双極子モデルに従って胎児姿勢を特徴付ける情報を得ることを含む、前記電気信号を分析する工程と、
前記得られた情報に基づいて前記胎児姿勢を決定する工程と、
を備える、胎児モニタリング方法。
【請求項28】
母体腹部に取り付けられる複数の電極を含む、複数の電極から電気信号を収集する工程と、
子宮収縮に関連する筋肉の動きを特徴付ける情報を得ることを含む、前記電気信号を分析する工程と、
前記得られた情報に基づいて前記子宮収縮の特性を決定する工程と、
を備える、胎児モニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2011−516238(P2011−516238A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505159(P2011−505159)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2009/040624
【国際公開番号】WO2009/146181
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(510273581)タフツ メディカル センター インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】TUFTS MEDICAL CENTER,INC.
【出願人】(500219537)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (25)
【氏名又は名称原語表記】MASSACHUSETTS INSTITUTE OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】77 Massachusetts Avenue, Cambridge, Massachussetts 02139,U.S.A
【出願人】(510273721)イー−トロールズ インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】E−TROLZ,INC.
【Fターム(参考)】