説明

能力判定装置

【課題】日常生活上の課題遂行能力を客観的に判定する。
【解決手段】提示された視覚−手足運動統合課題に基づいて被験者が視覚に応じた運動を行なっているときの被験者の脳活動部位及び脳活動部位における脳活動状態を計測するMRI装置12A、上記課題に基づいた運動を行なっているときの模範的な脳活動部位のデータを記憶したパソコン12B、及び記憶されている脳活動部位に対応するMRI装置で計測された脳活動部位における脳活動状態に基づいて、被験者の課題を行なう能力を判定するパソコン12Cを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、能力判定装置に係り、特に、被験者の課題遂行能力を判定することによりリハビリテーションや治療の効果を判定したり、自動車運転能力を判定することができる能力判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脳出血・脳梗塞等の疾患による失行・失認の評価を被験者の手書き軌跡に基づいて自動で行なう技術が知られている(特許文献1)。この技術により、検査官の作業負荷を軽減し、運動機能回復の定量的評価を行なうことができる。
【0003】
また、視覚刺激によるバイオフィードバックループを構成した自動運動により、運動療法を実施する技術が知られている(特許文献2)。この技術により、運動療法の提示と同時に運動機能回復の定量的評価を行なうことができる。
【0004】
また、認知リハビリテーションを対象とする技術として、脳波または脳磁データに基づく脳活動のパラメータから、脳活動、特に痴呆障害の程度の判定を行なう技術が知られている(特許文献3)。
【0005】
そして、視線・頭の動きから間接的に脳機能を推定し、推定した脳機能に関する疾患を早期に診断する技術も知られている(特許文献4)
また、一般に、脳内出血や脳梗塞等による運動麻痺からのリハビリテーションや治療の効果を判定する技術として、簡単な身体運動機能を検査官が判定する方法や、食事・更衣・排泄・入浴等の日常生活に必要な身の回り動作を行なわせ、その遂行能力を検査官が判断する方法等が医療施設等で行なわれている。これらの技術により、身体失認評価や構成力・運動失行評価等を行なうことができる。
【特許文献1】特開平9−135810号公報
【特許文献2】特開2003−79683号公報
【特許文献3】特開2002−248087号公報
【特許文献4】特開2002−248087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献に記載されている従来技術では、脳機能を間接的に推定したり、検査官の負担を軽減することはできるものの、運動性麻痺にかかる脳機能そのものの回復程度を評価することはできない。また、運動機能そのものの回復の程度を判定できても、視覚等の感覚−運動統合機能(感覚情報を元に運動を構成し、その運動により感覚情報が変化し、さらに変化した感覚情報に基づいて運動を構成するという機能)を評価することができない、という問題があった。
【0007】
また、医療施設で一般的に行なわれている方法では、日常生活を自立して営むためには自らの運動様態の影響を受ける外界の感覚情報を元に自らの運動を構成する機能、すなわち、感覚−運動統合機能や手足の協調動作の制御機能等が重要であるが、従来行なわれている身体運動機能検査では感覚情報とは殆ど関係しない運動機能、若しくは自らの運動様態により影響されない感覚情報だけを与えた運動機能を評価しているにすぎない。
【0008】
また、手と足との機能を別々に評価する等、複数の運動を協調させる能力を検査していない。さらに、日常生活に必要な身の回り動作による検査では、より実際の場面に即した検査ができるが、限られた環境での特定の動作の遂行を調べているだけで、脳の可塑性を含め、脳機能として回復しているか否かを調べることができないため、リハビリテーションや治療の効果を正しく判定することが困難である。さらに、検査官の主観評価によるところが大きく、検査官による評価のばらつきや見落としの可能性がある。
【0009】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、被験者に感覚に応じた感覚−運動統合課題を提示することによって、日常生活上の課題遂行能力を客観的に判定することができる能力判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために第1の発明の能力判定装置は、提示された感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた運動を行なっているときの前記被験者の脳活動部位及び該脳活動部位における脳活動状態を計測する脳機能計測手段と、前記感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの模範的な脳活動部位のデータを記憶した記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている脳活動部位に対応する前記脳機能計測手段で計測された脳活動部位における脳活動状態に基づいて、前記被験者の前記感覚−運動統合課題を行なう能力を判定する判定手段と、前記判定手段で判定された判定結果を出力する出力手段と、を含んで構成されている。
【0011】
第1の発明によれば、被験者が、被験者に感覚に応じた運動を行なわせるための感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの被験者の脳活動部位及びこの脳活動部位における脳活動状態が計測される。そして、記憶手段に記憶されている脳活動部位に対応する脳機能計測手段で計測された脳活動部位における脳活動状態に基づいて、被験者の感覚−運動統合課題を行なう能力が判定される。
【0012】
この能力を判定する場合、健常・正常者の脳活動状態を表す賦活状態を基準とした感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの賦活状態を表す値が、閾値より大きい場合に、被験者が課題を遂行することができる、例えば、リハビリテーションの治療に対して能力回復効果があると判定することができる。
【0013】
また、第2の発明の能力判定装置は、提示された感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた第1の運動を行なっているときの前記被験者の脳活動部位及び該脳活動部位における脳活動状態を計測すると共に、予め定められた条件が付加された状態で前記感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた第2の運動を行なっているときの前記被験者の脳活動部位及び該脳活動部位における脳活動状態を計測する脳機能計測手段と、前記感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの模範的な脳活動部位のデータを記憶した記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている脳活動部位に対応する前記脳機能計測手段で計測された脳活動部位における第1の運動を行なっているときの脳活動状態と第2の運動を行なっているときの脳活動状態との比較結果に基づいて、予め定められた条件が付加された状態での前記被験者の前記感覚−運動統合課題を行なう能力を判定する判定手段と、前記判定手段で判定された判定結果を出力する出力手段と、を含んで構成したものである。
【0014】
第2の発明によれば、提示された感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた第1の運動を行なっているときの被験者の脳活動部位及びこの脳活動部位における脳活動状態、及び予め定められた条件が付加された状態で感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた第2の運動を行なっているときの被験者の脳活動部位及びこの脳活動部位における脳活動状態が計測される。そして、記憶手段に記憶されている脳活動部位に対応する脳機能計測手段で計測された脳活動部位における第1の運動を行なっているときの脳活動状態と第2の運動を行なっているときの脳活動状態とを比較した比較結果に基づいて、予め定められた条件が付加された状態での被験者の感覚−運動統合課題を行なう能力が判定される。
【0015】
この能力を判定する場合、第1の運動を行なっているときの脳活動状態を表す値と第2の運動を行なっているときの脳活動状態を表す値とを比較することにより、付加した条件によって被験者の能力が変化したことを判断することができる。
【0016】
上記感覚−運動統合課題としては、被験者に視覚に応じた手及び足の少なくとも一方の運動を行なわせるための視覚−手足運動統合課題を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように第1の発明によれば、日常生活を自立して営むために運動態様の影響を受ける外界の感覚情報(特に、視覚情報)に基づいて、被験者の運動を構成する機能、すなわち感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なうことにより被験者の能力を判定しているため、日常生活上の課題遂行能力を客観的に判定することができる、という効果が得られる。
【0018】
また、第2の発明によれば、条件が付加されていない状態で課題を行なっているときの脳活動状態と条件が付加された状態で課題を行なっているときの脳活動状態とを比較しているため、付加した条件によって被験者の能力が損なわれたか否かを客観的に判定することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の能力判定装置について詳細に説明する。本実施の形態は、被験者に感覚−運動統合課題として視覚−手足運動統合課題を提示して被験者の課題遂行能力を判定するようにしたものである。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態は、被験者に視覚−手足運動統合課題として単純追従運転課題を提示する簡易ドライビングシミュレータ10と、被験者が視覚−手足運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの被験者の脳機能を計測し、計測した脳機能に基づいて被験者の課題を行なう能力(課題遂行能力)を判定する能力判定装置12とから構成されている。
【0021】
図2に示すように、簡易ドライビングシミュレータ10には、画像表示用のヘッドマウントディスプレイ(HMD)10A、ドライビングシミュレータ用ステアリング(DSステアリング)10B、及びドライビングシミュレータ用ベダル(DSペダル)10Cが設けられている。このDSペダルには、アクセルペダルとブレーキペダルとが設けられている。HMD10Aは、ノイズ除去用のフィルタ10Dを介して画像生成用パソコン(パーソナルコンピュータ)10Eに接続されている。
【0022】
また、DSステアリング10B及びDSベダル10Cは、ノイズ除去用の導波管10F及び専用回路10Gを介してDSステアリング及びDSペダルの操作に応じた画像表示制御を行なうと共に、DSステアリング及びDSペダルの操作の時系列データ等の記録を行なうパソコン10Hに接続されている。パソコン10Hは、画像生成用パソコン10Eに接続されている。ここでの構成はあくまでも一例であり、パソコン10Eとパソコン10Hは一台で構成してもよい。
【0023】
簡易ドライビングシミュレータ10のHMD10A、DSステアリング10B、及びDSベダル10Cは、電気的なシールドが施されたMR室に設置され、専用回路10G、画像生成用パソコン10E、及びパソコン10Hは、オペレータ室に設置されている。そして、フィルタ10D及び導波管10Fは、MR室の壁等に埋設されている。
【0024】
能力判定装置12には、脳血流中の脱酸素化ヘモグロビン量の相対変化を磁気的に捉えることにより、脳機能、すなわち脳の活動部位及びこの活動部位の脳活動状態を計測する機能的核磁気共鳴イメージング装置(fMRI)12Aが設けられている。fMRI装置12Aは、MR室内に設置されている。
【0025】
また、能力判定装置12には、規範データ記憶用パソコン12Bが設けられている。規範データ記憶用パソコン12Bには、健常者に上記の簡易ドライビングシミュレータを用いた単純追従運転課題を与え、健常者がこの運動課題に従った運動を行なったときの模範的な脳機能の状態をfMRI装置で計測したときのデータが規範データとして記憶されている。
【0026】
上記の簡易ドライビングシミュレータを用いた単純追従運転課題の場合には、手足の運動野の他に、図4に示す両側の補足運動野、運動前野、及び右頭頂連合野が活動するため、この規範データとして、手足の運動野、両側の補足運動野、運動前野、及び右頭頂連合野の脳の活動部位と、これらの脳の活動部位の各々に対応する賦活状態とが用いられ、規範データ記憶用パソコン12Bには、これらの脳の活動部位と活動部位各々に対応する賦活状態とが関係付けて記憶されている。
【0027】
なお、脳賦活状態を記憶せずに、健常者がこの運動課題に従った運動を行なったときの所定値以上の脳賦活状態を表す脳の活動部位のデータ、すなわち、手足の運動野、両側の補足運動野、運動前野、及び右頭頂連合野を表すデータのみを記憶するようにしてもよい。
【0028】
fMRI装置12A、及び規範データ記憶用パソコン12Bは、課題遂行能力判定用パソコン12Cに接続されている。課題遂行能力判定用パソコン12Cは、規範データ記憶用パソコン12Bに記憶されている脳の活動部位に対応するfMRI装置12Aで計測された脳の活動部位における賦活状態を表す値と所定の閾値とを比較して、被験者の課題遂行能力を判定し、提示した課題の遂行がリハビリテーションや治療に効果があるか否を判定する。
【0029】
課題遂行能力判定用パソコン12Cには、判定結果を出力する出力手段としてのLCDまたはCRT等で構成された判定結果出力用モニタ12Dが接続されている。なお、モニタに代えてプリンタ、外部装置等に判定結果を出力する出力装置を出力手段として用いてもよい。また、課題遂行能力判定用パソコン12Cは、簡易ドライビングシミュレータ10のパソコン10Hに接続されている。
【0030】
以下、本実施の形態の課題遂行能力判定用パソコンで実行される能力判定ルーチンを図5を参照して説明する。ステップ100では、事前にMR室内で課題遂行時の脳の活動部位毎の脳の賦活状態をfMRIで計測し、脳の活動部位とこの脳の活動部位に対応する脳の賦活状態とを健常者あるいは被験者のリハビリテーション前の活動部位及び脳賦活状態としてパソコン12Cに設けられているメモリに記憶する。
【0031】
次のステップ102では、簡易ドライビングシミュレータのパソコン10Hに課題提示信号を送信して駆動し、画像表示用HMDに図3に示す画像を表示することにより被験者に単純追従運転課題を提示し、被験者に単純追従運転動作を行なわせる。なお、簡易ドライビングシミュレータは、オペレータが手動で駆動するようにしてもよい。
【0032】
被験者は、画像表示用HMDに表示された画像を目視することにより得られる視覚情報に基づいて、手足の運動を決定し、DSステアリング及びDSペダルを操作する。これにより、画像表示用HMDに表示された画像が変化し、変化した状態が視覚情報に反映され、視覚情報及び手足運動が統合された視覚−手足運動統合課題が遂行される。ステップ104ではこの視覚−手足運動統合課題遂行時の脳の活動部位及び賦活状態をfMRIにより計測し、脳の活動部位とこの脳の活動部位に対応する脳の賦活状態とをパソコン12Cのメモリに記憶する。
【0033】
次のステップ106では、規範データ記憶用パソコン12Bに記憶されている脳の活動部位のデータを読み出し、ステップ108において規範データ記憶用パソコン12Bに記憶されている脳の活動部位に対応する計測された活動部位毎に、視覚−手足運動統合課題を遂行する健常者あるいは被験者のリハビリテーション前の脳賦活状態を基準とした視覚−手足運動統合課題遂行時の脳賦活状態を表す値を求める。
【0034】
次のステップ110では、求めた脳賦活状態を表す値と所定の閾値とを脳の活動部位毎に比較して能力を判定する。簡易ドライビングシミュレータを用いて単純追従運転課題を行なった場合は、手足の協調動作を行なう機能が回復していると両側の補足運動野及び運動前野の脳賦活状態が活発になるため、この脳の活動部位の賦活状態に着目し、健常者あるいは被験者のリハビリテーション前の脳賦活状態に対してこの脳の活動部位の賦活状態が所定の閾値より大きい場合は、ステップ112で手足の協調動作を行なう機能が回復している、すなわち被験者の課題遂行能力が高いと推定し、リハビリテーションや治療の効果があると判定する。
【0035】
また、視覚運動の統合を司る脳機能が回復していると右頭頂連合野の賦活状態が活発になるため、右頭頂連合野の賦活状態に着目し、健常者あるいは被験者のリハビリテーション前の脳賦活状態に対して右頭頂連合野の賦活状態が所定の閾値より大きい場合にも同様に、視覚運動の統合を司る脳機能が回復している、すなわち被験者の課題遂行能力が高いと推定し、リハビリテーションや治療の効果があると判定する。
【0036】
なお、賦活状態を表す値が閾値以下の場合には、リハビリテーションや治療の効果が低くリハビリテーションや治療によって回復された能力が十分でないと判定する。
【0037】
これらの判定結果は、判定結果出力用モニタ12Dに表示される。
【0038】
上記の模範的な脳活動状態としては、計測したときのデータをタライラッハ(Talairach)の標準脳に変換したときの座標値で表された活動部位と、この各々の活動部位の賦活化の状態(賦活状態)の大きさを表す面積とを対応させた標準脳データを用いることができる。この場合には、両側の補足運動野及び運動前野に相当する座標で表された活動部位における賦活がある部分の面積に着目し、健常者あるいは被験者のリハビリテーション前の面積に対してこの活動部位での面積が所定の面積閾値より大きい場合は、手足の協調動作を行なう機能が回復していると推定し、リハビリテーションや治療の効果があると判定する。また、右頭頂連合野の賦活状態に着目し、右頭頂連合野に相当する座標であらわされた活部位における健常者あるいは被験者のリハビリテーション前の賦活がある部分の面積に対し、この賦活がある部分の面積が所定の面積閾値より大きい場合は、視覚運動の統合を司る脳機能が回復していると推定し、リハビリテーションや治療の効果があると判定する。
【0039】
次に、本実施の形態の能力判定装置を用いて、自動車運転遂行能力を判定する場合について説明する。この場合には、被験者に上記の簡易ドライビングシミュレータによって視覚−手足運動統合課題を与え、単純追従運転動作を遂行させたときの脳機能をfMRI装置により計測してタライラッハ標準脳に変換し、座標値で表された脳活動部位のデータ及び活動部位の面積データを記憶しておく。
【0040】
この自動車運転遂行能力を判定する場合には、被験者に上記の簡易ドライビングシミュレータによって視覚−手足運動統合課題を与えて単純追従運転動作を遂行させたときの脳機能を計測すると共に、運転への注意に影響を与えることが予測される条件を与えて単純追従運転を遂行させたときの脳機能を計測する。そして、単純追従運転のみを遂行した場合の脳の賦活状態と条件が付加された状態で追従運動を遂行した場合の脳の賦活状態とを比較して自動車運転遂行能力を判定する。この付加する条件としては、携帯電話での会話、車線を追尾して走行する装置等の半自動運転装置の使用、または飲酒等がある。
【0041】
この場合の能力判定ルーチンを図6を参照して説明する。ステップ120において簡易ドライビングシミュレータのパソコン10Cを制御して、ドライビングシミュレータによる運転課題のみ提示し、ステップ122でこの課題遂行時の脳の活動部位及びこの活動部位における賦活状態をfMRI装置により計測し、タライラッハ標準脳に変換してパソコン12Bに記憶する。次のステップ124では運転への注意に影響を与えることが予測される条件を付加するように被験者に指示し、条件が付加された状態でドライビングシミュレータによる上記の運転課題を提示し、ステップ126でこの課題遂行時の脳の活動部位及びこの活動部位における賦活状態をfMRI装置により計測し、タライラッハ標準脳に変換してパソコン12のメモリに記憶する。
【0042】
次のステップ128では、規範データ記憶用パソコン12Bに記憶したタライラッハ標準脳の座標値で表されている活動部位のデータを読み出すと共にメモリに記憶されている計測データを読み出し、読み出した活動部位に対応する活動部位毎に、ドライビングシミュレータによる運転課題を遂行した時のタライラッハ標準脳の面積、及び条件が付加された状態でドライビングシミュレータによる運転課題を遂行した時のタライラッハ標準脳の面積を求める。
【0043】
次のステップ130では、求めたタライラッハ標準脳の面積と面積閾値とを比較することにより脳活動状態、すなわち脳賦活状態を判断し、付加条件が運転に与える影響と自動車運転遂行能力がどの程度保持されているかを判定する。また、活動部位を比較することもできる。
【0044】
すなわち、単純追従運転課題に飲酒条件を付加した場合には、右頭頂連合野に相当する座標値での脳賦活状態に着目し、運転課題のみ遂行時の脳賦活状態に対し、条件が付加された運転課題遂行時の賦活がある部分の面積が所定の面積閾値より小さい場合は、視覚と運動の統合を司る脳機能が影響を受けていると判断し、ステップ132において自動車運転遂行能力が損なわれていると判定する。
【0045】
一方、条件が付加された運転課題遂行時の賦活がある部分の面積が所定の面積閾値以上の場合はステップ134で自動車運転遂行能力は損なわれていないと判定する。
【0046】
なお、上記では簡易ドライビングシミュレータを用いて課題を与える例について説明したが、簡易ドライビングシミュレータを用いた課題に代えて、日常生活を営む上で必要不可欠な他の視覚−手足運動統合課題を提示するようにしてもよく、視覚に応じた手または足の運動を行なわせるための課題を提示するようにしてもよく、聴覚等の他の感覚に応じた手及び足の少なくとも一方の運動を行なわせるための課題を提示してもよい。
【0047】
また、上記の実施の形態では、脳機能計測手段としてfMRI装置を用いた例について説明したが、近赤外光を頭皮表面から頭蓋内に照射し、近赤外光の反射光及び散乱光を計測することにより、脳血流の酸素状態から脳の活動部位及びこの活動部位における賦活状態を計測する計測装置を用いても良い。この計測装置としては、例えば、島津製作所製のマルチチャンネル酸素モニタを使用することができる。この場合、マルチチャンネル酸素モニタの計測プローブを被験者の頭部に装着し、脳血流の酸素状態を計測する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1の簡易ドライビングシミュレータを示すブロック図である。
【図3】単純追従運転課題を与えるための画像を示す図である。
【図4】脳の活動部位を示す断面図である。
【図5】本実施の形態の能力判定ルーチンを示す流れ図である。
【図6】本実施の形態の他の能力判定ルーチンを示す流れ図である。
【符号の説明】
【0049】
10 簡易ドライビングシミュレータ
10A 画像表示用HMD
10B DSステアリング
10C DSベダル
10E 画像生成用パソコン
12 能力判定装置
12B 規範データ記憶用パソコン
12C 課題遂行能力判定用パソコン
12D 判定結果出力用モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
提示された感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた運動を行なっているときの前記被験者の脳活動部位及び該脳活動部位における脳活動状態を計測する脳機能計測手段と、
前記感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの模範的な脳活動部位のデータを記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている脳活動部位に対応する前記脳機能計測手段で計測された脳活動部位における脳活動状態に基づいて、前記被験者の前記感覚−運動統合課題を行なう能力を判定する判定手段と、
前記判定手段で判定された判定結果を出力する出力手段と、
を含む能力判定装置。
【請求項2】
提示された感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた第1の運動を行なっているときの前記被験者の脳活動部位及び該脳活動部位における脳活動状態を計測すると共に、予め定められた条件が付加された状態で前記感覚−運動統合課題に基づいて被験者が感覚に応じた第2の運動を行なっているときの前記被験者の脳活動部位及び該脳活動部位における脳活動状態を計測する脳機能計測手段と、
前記感覚−運動統合課題に基づいた運動を行なっているときの模範的な脳活動部位のデータを記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている脳活動部位に対応する前記脳機能計測手段で計測された脳活動部位における第1の運動を行なっているときの脳活動状態と第2の運動を行なっているときの脳活動状態との比較結果に基づいて、前記被験者の予め定められた条件が付加された状態での前記感覚−運動統合課題を行なう能力を判定する判定手段と、
前記判定手段で判定された判定結果を出力する出力手段と、
を含む能力判定装置。
【請求項3】
被験者に前記感覚−運動統合課題を提示する提示手段を更に含む請求項1または請求項2に記載の能力判定装置。
【請求項4】
前記感覚−運動統合課題は、被験者に視覚に応じた手及び足の少なくとも一方の運動を行なわせるための視覚−手足運動統合課題である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の能力判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−116105(P2006−116105A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307732(P2004−307732)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】