説明

脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体

【課題】脂溶性ビタミンや脂溶性色素の劣化による変質を抑制し得る、安定性の高い脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を提供すること。
【解決手段】脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素を溶解または懸濁させた油脂類を含浸させた多孔質粉体と、被覆層とを有し、当該被覆層が、オクタノール/水分配係数4.5以上の可食性水遮断性物質と、酸素透過係数1.0×10-1〜1.0×10-10((cm3・m)/(m2・24hr・atm))の可食性酸素遮断性物質とを含む脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテンに代表される脂溶性ビタミンや脂溶性色素は、水やアルコールにほとんど溶解しないという性質を有している。このため、それらを使用するにあたっては、油懸濁液として、または顆粒化やマイクロカプセル化して用いることが一般的である。
特に、顆粒やマイクロカプセルは、油懸濁液に比べて安定に製品中に配合できるという利点があることから、脂溶性ビタミン等の顆粒化法またはマイクロカプセル化法について、従来、種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、天然カロテノイドをゼラチンによりマイクロカプセル化した粒状組成物が開示されている。
また、特許文献2には、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などの高度不飽和脂肪酸に代表される液状油溶性物質を、シリカゲルに含有させてなる油溶性物質含有固状物が開示されている。
これらの組成物や固状物は、粉体化して錠剤等に応用されている。
【0004】
しかしながら、脂溶性ビタミンや脂溶性色素は、酸化等による劣化を受け易いという性質を有しており、この性質は、顆粒化やマイクロカプセル化した場合にも問題となる。
例えば、カロテノイドを顆粒化またはマイクロカプセル化した場合、カロテノイド本来の色が経時的に変調し、色素として利用する上で問題となることがある。
【0005】
このような変質を防ぐために、粉体粒子表面に被覆を形成し、外気と粉体に含まれる脂溶性ビタミンや色素とを遮断する試みがなされている。
例えば、特許文献3では、カロテノイド顆粒をトレハロースのような糖類でコーティングした多層構造のカロテノイド顆粒が開示されているが、さらなる改良が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−306073号公報
【特許文献2】特開平7−133491号公報
【特許文献3】特開2000−350555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、脂溶性ビタミンや脂溶性色素の劣化による変質を抑制し得る、安定性の高い脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素を溶解または懸濁させた油脂類を含浸させた多孔質粉体を、所定の可食性水遮断性物質および可食性酸素遮断性物質、並びに必要に応じて可食性界面活性剤で被覆することで、これに含まれる脂溶性ビタミンや脂溶性色素が劣化しにくくなり、安定性に優れた脂溶性ビタミン・色素含有粉体が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. 脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素を溶解または懸濁させた油脂類を含浸させた多孔質粉体と、被覆層とを有し、前記被覆層が、オクタノール/水分配係数4.5以上の可食性水遮断性物質と、酸素透過係数1.0×10-1〜1.0×10-10((cm3・m)/(m2・24hr・atm))の可食性酸素遮断性物質とを含むことを特徴とする脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
2. 前記被覆層が、可食性界面活性剤を含む1の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
3. 前記被覆層が、少なくとも2段階の被覆工程にて形成され、当該被覆工程の最初の工程が、前記水遮断性物質を含むコーティング剤を用いて行われる1または2の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
4. 前記被覆工程の最後の工程が、前記酸素遮断性物質を含むコーティング剤を用いて行われる3の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
5. 前記水遮断性物質を含むコーティング剤が、さらに前記可食性界面活性剤を含む3の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
6. 前記酸素遮断性物質を含むコーティング剤が、さらに前記可食性界面活性剤を含む4の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
7. 前記被覆層が、少なくとも3段階の被覆工程にて形成され、前記最初の工程の後に、前記酸素遮断性物質を含むコーティング剤を用いて行われる工程および前記可食性界面活性剤を含むコーティング剤を用いて行われる工程を備える3の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
8. 前記脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素が、カロテノイドである1〜7のいずれかの脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、
9. 1〜8のいずれかの脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を含む錠剤
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂溶性ビタミンや色素の劣化による変質を抑制し得る、安定性の高い脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体は、脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素を溶解または懸濁させた油脂類を含浸させた多孔質粉体と、被覆層とを有し、当該被覆層が、オクタノール/水分配係数4.5以上の可食性水遮断性物質と、酸素透過係数1.0×10-1〜1.0×10-10((cm3・m)/(m2・24hr・atm))の可食性酸素遮断性物質とを含むものである。
【0012】
本発明における脂溶性ビタミンおよび脂溶性色素は、低極性または親油性のビタミン類、色素類を意味する。
これら脂溶性ビタミンおよび色素としては、純度の高い化合物を使用することが好ましいが、これに限定されるものではなく、目的に合わせ、例えば、医薬品や食品として不適当な不純物を含有しない限り半精製や粗製のもの、または医薬品や食品として適当な油分に溶解、懸濁したものを用いることもできる。
【0013】
脂溶性ビタミンの具体例としては、レチノール、レチノイン酸、レチノイン酸エステル等のビタミンA類;エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、7−デヒドロコレステロール等のビタミンD類;トコフェロール、トコトリエノール等のビタミンE類;フィロキノン、メナキノン等のビタミンK類;CoQ9、CoQ10等の補酵素Q類などが挙げられる。
【0014】
脂溶性色素の具体例としては、カロテン、キサントフィル等のカロテノイド類;クルクミン、ジメトキシクルクミン等のクルクミノイド類;ケルセチン、ルチン等の脂溶性フラボノイド類などが挙げられる。
以上で例示した各種ビタミンや色素は、それぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
上述した脂溶性ビタミンおよび脂溶性色素の中でも、カロテノイド類は酸化劣化による色調の変化が著しく、色素としての有用性が損なわれ易い点から、本発明の粉体へ応用したときに特に顕著な効果が得られるため、好適に用いることができる。
カロテノイド類は、天然カロテノイド、合成カロテノイドのどちらを用いてもよく、天然品と合成品とを混合して用いてもよい。
天然カロテノイドの具体例としては、パーム油カロテノイド、ドナリエラ藻カロテノイド、人参カロテノイド、アルファルファカロテノイド、とうもろこしカロテノイド、トマトカロテノイドなどが挙げられ、これらは単独で、または2種以上組み合わせて用いることができる。
合成カロテノイドとしては、合成β−カロテンなどが挙げられる。
【0016】
特に好ましいカロテンとしては、パーム油カロテンが挙げられる。
パーム油は、カロテンを含む植物油脂で、そのパーム油を産生するアブラヤシ(パーム)はヤシ(Palmae)科アブラヤシ(Elaeis)属に属し、赤道を中心に北緯17度から南緯20度の地域にあるアフリカ、東南アジアおよび中南米で生育する。
パーム油カロテンは、このパーム油中のカロテンを濃縮、精製して得られたカロテンで、α−カロテン、β−カロテン、γ−カロテン、リコペン等の複数のカロテンを含有する混合カロテンであり、本発明の粉体に使用した場合、酸化劣化に対する安定性の高い天然由来の複合カロテン粉末が得られ、食品等の用途で有用である。
【0017】
本発明では、脂溶性ビタミンや脂溶性色素は、油脂類に溶解または懸濁させて液状としたものを用いる。
ここで油脂類としては、医薬品、食品として不適当なものでなければ任意であるが、食品用とする場合を考慮すると、可食性の油脂が好ましい。
その具体例としては、ココナッツ油、オリーブ油、ごま油、落花生油、大豆油、べにばな油、菜種油、コーン油、ひまわり油、パーム油、パーム核油、大豆りん脂質等の植物油類;中鎖脂肪酸トリグリセリド等の合成油;牛脂、豚脂、いか油、鯨油等の動物油、その誘導体である脂肪酸、脂肪酸エステル類が挙げられる。これらの油脂類は、1種単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
脂溶性ビタミンや脂溶性色素の懸濁油中における溶解または懸濁量は特に限定されるものではなく、例えば、1〜50質量%程度とすることができる。
なお、脂溶性ビタミンや脂溶性色素を油脂類に溶解または懸濁させた懸濁油は、市販品を用いることもできる。
市販品としては、パーム油カロテン懸濁油(ハイアルファMG、ライオン(株)製)、ビタミンE含有油脂(理研Eオイル400、理研ビタミン(株)製)等が挙げられる。
【0018】
さらに、本発明では、脂溶性ビタミンや脂溶性色素を溶解または懸濁させた油脂類を多孔性粉体に含浸させて用いる。
ここで、多孔性粉体としては、食品または食品添加物で構成されるものであれば任意であり、例えば、ケイ酸化合物や多孔質化された加工デンプンなどが挙げられる。特に脂溶性ビタミンや脂溶性色素の安定化の面でケイ酸化合物が好ましく、細孔を有するケイ酸化合物がさらに好ましい。
【0019】
ケイ酸化合物は、主成分としてケイ素酸化物を含む化合物であり、シリカや、シリカとその他の金属との複合酸化物等を用いることができる。
シリカとしては、天然物でも合成物でもよく、その形態としても、アモルファスシリカ、結晶性シリカ、シリカゲルのいずれでもよいが、粉末の安定性や、含浸したビタミンや色素の漏出抑止性などを考慮すると、シリカゲルが好ましい。
シリカゲルは、「サイシリア」、「サイロページ」(富士シリシア(株)製)、「サンスフェア」(旭硝子(株)製)等、市販品として容易に入手可能である。
【0020】
また、シリカとその他の金属との複合酸化物を構成する金属の具体例としては、アルミニウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが挙げられる。複合酸化物の具体例としては、スメクタイト、ベントナイト、モンモリロナイト、パイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スチーブンサイト、サポナイト、マイカ、ゼオライト、バーミキュライト、セピオライト等が挙げられ、これらは天然のケイ酸塩鉱物を用いても、合成品を用いてもよい。
【0021】
ケイ酸化合物の細孔容積は、特に限定されるものではないが、BET法により測定した細孔容積が1〜5mL/gのものが好ましい。
ここで、細孔容積が1mL/g未満の場合、含浸した脂溶性ビタミンや脂溶性色素類の経時安定性が低下する虞がある。一方、細孔容積が5mL/gを超える場合、粒子中の細孔部分が占める割合が大きく、粒子の強度が低下する等の不具合が生じるため、その調製は技術的な難易度が高く、生産性やコストの面で問題が生じる場合がある。
【0022】
ケイ酸化合物の平均粒子径も特に限定されるものではないが、良好な物性を有する粉体とすることを考慮すると、0.1〜100μmが好ましく、0.1〜15μmがより好ましい。
ここで、平均粒子径が100μmを超えると、粉体物性の悪化、すなわち、安息角の低下や崩壊性の上昇が起こり、脂溶性ビタミンや脂溶性色素との混合性が低下したり、粉体の打錠性能の低下等の成形性に不具合が生じたりする虞がある。一方、平均粒子径が0.1μm未満であると、粉塵が発生し易くなって粉体製造時の取り扱いに不具合が生じる場合がある。
なお、上記平均粒子径は、レーザ回折散乱法による測定値である。
【0023】
多孔質化された加工デンプンとしては、例えば、とうもろこし、馬鈴薯、タピオカ、小麦等のデンプンの粒子に酵素を作用させることにより、当該粒子の表面に無数の微細孔を形成させたものなどが挙げられる。これらは、市販品として容易に入手可能であり、例えば、松谷化学工業(株)製の多孔質デキストリン(商品名:パインフロー、パインフローS)などがある。
【0024】
本発明の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体中における、多孔性粉体の含有量は特に限定されるものではないが、脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素の懸濁油を含浸させた多孔質粉体中に10〜95質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましく、30〜60質量%がより一層好ましい。多孔性粉体の含有量が10質量%未満であると、脂溶性ビタミンや色素を十分に保持できなくなる虞があり、95質量%を超えると、必然的に脂溶性ビタミンや色素の含有量が低下し、それらの効果が十分に発揮されなくなる虞がある。
【0025】
本発明では、上述した脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素の懸濁油を含浸させた多孔質粉体を可食性物質にてコーティング処理し、その表面に被覆層を形成する。
可食性物質としては、食品や食品添加物として一般的に用いられているものから適宜選択して用いることができる。
本発明では、可食性物質として、水遮断性物質と酸素遮断性物質に分類される物質をそれぞれ少なくとも1種用いる必要があり、水遮断性および酸素遮断性の両性質を兼ね備える物質であっても少なくとも2種用いる必要がある。
【0026】
本発明において、水遮断性物質とは、オクタノール/水分配係数(LogP)が4.5以上の物質である。LogPが4.5未満であると、十分な水遮断性が発揮されない。
また、LogPは、物質のオクタノールと水への分配比の常用対数であるため、理論的には無限大の値をとることができるが、LogPが15を超える物質であっても、LogPが15の物質に比して水遮断性効果の大きな向上は期待できないことに加え、融点の上昇や溶剤への溶解性の低下の虞があるため、LogPは15以下であることが好ましい。
上記オクタノール/水分配係数(LogP)は、フラスコ振とう法(OECD Test Guideline 107)により測定することができる。
【0027】
水遮断性物質の具体例としては、ミツロウ、カルナバロウ、ライスワックス等のワックス類;セラック、ロジン等の樹脂類;ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸等の脂肪酸類;菜種油、綿実油等の油脂類などが挙げられる。
これらの中でも、脂溶性ビタミンや脂溶性色素の安定化の点で、特に、ワックス類、樹脂類、ラウリン酸,ステアリン酸等の常温で固体の脂肪酸類が好ましい。
各種水遮断性物質は、日清オイリオ株式会社、株式会社岐阜セラック、株式会社キミカ等で製造されており、市販品として容易に入手可能である。
【0028】
一方、酸素遮断性物質は、酸素透過係数が1.0×10-1〜1.0×10-10((cm3・m)/(m2・24hr・atm)、以下、酸素透過係数の単位は省略する)を満たす物質である。酸素透過係数が、1.0×10-1を超えると、十分な酸素遮断性が発揮されない。一方、酸素透過係数が1.0×10-10未満の物質は、融点の上昇や溶剤への溶解性の低下に加え、製造コスト上昇を招く虞がある。
好ましくは1.0×10-2〜1.0×10-8、より好ましくは1.0×10-3〜1.0×10-6である。
酸素透過係数は、差圧法(ASTMD1434)、同圧法(ASTMD3985)、同圧法(ASTMF1249)などによって測定することができるが、本発明では差圧法(ASTMD1434)による測定値を意味する。
【0029】
酸素遮断性物質の具体例としては、セラック、ロジン等の樹脂類;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の合成高分子;プルラン、カラギーナン、アルギン酸、デンプン、寒天等の多糖類;キサンタンガム、グァーガム等のガム質;ショ糖、マルトース、デキストリン等のオリゴ糖やデンプン分解物類;大豆カゼイン、ミルクカゼイン等の蛋白類;酵母分解抽出物などが挙げられる。
これらの中でも、脂溶性ビタミンや脂溶性色素の安定化の点で、特にセラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、酵母分解抽出物が好ましい。
各種酸素遮断性物質は、株式会社岐阜セラック、日本曹達株式会社、伊那食品工業株式会社、林原商事株式会社、キリンフードテック株式会社等で製造されており、市販品として容易に入手可能である。
【0030】
なお、上記セラックやロジン等の樹脂類は、水遮断性と酸素遮断性の両性質を兼ね備えるものであるが、既に述べたとおり、本発明においては、このような物質を用いる場合であっても、少なくとも2種の物質を用いる必要がある。
各種水遮断性物質および酸素遮断性物質のオクタノール/水分配係数(LogP)と酸素透過係数の値を下記表1に示す。
【0031】
【表1】

ラウリン酸:関東化学(株)製、試薬1級
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT):Captex300、Karlshamns社製
ミツロウ:CO−100、横関油脂(株)製
セラック:脱色セラック、(株)岐阜セラック製
キサンタンガム:イナゲルV−10、伊那食品工業(株)製
アルギン酸Na:I−1G、(株)キミカ製
寒天:UP26、伊那食品工業(株)製
プルラン:林原商事(株)製
【0032】
可食性物質のコーティング量は特に限定されるものではないが、被覆された粉体中において、1〜50質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましく、10〜25質量%がより一層好ましい。
コーティング量が1質量%未満であると、脂溶性ビタミンや色素の安定性向上効果が不十分になる虞があり、一方、50質量%を超えるコーティングは技術的に困難であり、生産性も低いため、コスト面で不利となる虞がある。
また、水遮断性物質と酸素遮断性物質との使用割合は、特に限定されるものではないが、水遮断性効果と酸素遮断性効果との両者を十分に発揮させることを考慮すると、質量比で、水遮断性物質:酸素遮断性物質=50:5〜5:50が好ましく、50:10〜10:50がより好ましい。
【0033】
本発明の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体は、一般的な粉体製造法により得ることができ、その製法に特に制限はない。
脂溶性ビタミンや脂溶性色素を油脂類に懸濁または溶解させる手法としては、例えば、油脂類と脂溶性ビタミンや脂溶性色素とを適宜混合し、必要に応じて加熱したり撹拌したりして、懸濁または溶解させる手法を用いることができる。
また、得られた懸濁油を多孔性粉体に含浸させる手法としては、例えば、懸濁油と多孔性粉体とを適宜混合して懸濁油中に多孔性粉体を浸漬したり、多孔性粉体を撹拌しながら、そこに懸濁油を滴下して混合したりする手法を用いることができる。なお、含浸の際も必要に応じて加熱することができる。さらに、適宜、減圧、加圧してもよい。
【0034】
脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素の懸濁油を含浸させた多孔性粉体をコーティング処理するにあたっては、例えば、上述した水遮断性物質および/または酸素遮断物質を含むコーティング剤中に、多孔性粉体を浸漬したり、当該コーティング剤を多孔性粉体に噴霧したりすればよい。
この際、水遮断性物質と酸素遮断物質とを含むコーティング剤を別々に調製して段階的にまたは同時にコーティング処理してもよく、両者を含むコーティング剤を調製して一段階でコーティング処理してもよいが、段階的に処理する手法が好適であり、最初の被覆工程では水遮断性物質を含むコーティング剤で処理し、最後の被覆工程では酸素遮断性物質を含むコーティング剤で処理することが好ましい。このようなコーティング処理を行うことで、より安定性の高い脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を得ることができる。
特に、多孔性粉体として多孔質化された加工でんぷんを使用する場合、水遮断性物質と酸素遮断性物質とを含むコーティング剤でコーティング処理するか、最初に水遮断性物質を含むコーティング剤でコーティング処理することが好ましく、中でも後者の手法が最適である。
【0035】
本発明の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を構成する被覆層は、食品素材や食品添加物といった可食性界面活性剤を含んでいてもよい。
このような可食性界面活性剤の具体例としては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、脂溶性ビタミンや脂溶性色素の安定化の点で、特に、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
各種界面活性剤は、第一工業製薬株式会社、坂本薬品工業株式会社、日本油脂株式会社等で製造されており、市販品として容易に入手可能である。
【0036】
界面活性剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、脂溶性ビタミンや脂溶性色素の安定化という点から、前述の水遮断性物質と酸素遮断性物質との総量(以下、両物質の総量という)に対し、質量比で、両物質の総量:界面活性剤=50:1〜3:1が好ましく、20:1〜5:1がより好ましい。
【0037】
界面活性剤を用いるにあたっては、上述した水遮断性物質を含むコーティング剤に界面活性剤を配合しても、酸素遮断性物質を含むコーティング剤に界面活性剤を配合しても、双方に配合してもよい。この場合、界面活性剤を配合する順序は任意である。
特に、先に水遮断性物質、次に界面活性剤含有の酸素遮断性物質の順で被覆する多層被覆の形態とすることが色素の安定性の点でより好ましい。
また、界面活性剤を含み、水遮断性物質および酸素遮断性物質を含まないコーティング剤を用い、界面活性剤含有層を別途設けてもよい。
この場合、界面活性剤含有層は、任意の順序で形成することができるが、水遮断性物質を含むコーティング剤にて水遮断性物質を含む層を形成した後に、形成することが好ましく、特に、水遮断性物質を含む層と酸素遮断性物質を含む層との間に形成することが好ましい。
なお、界面活性剤を含むコーティング剤を用いた処理方法は、上述と同様の方法が挙げられる。
【0038】
なお、水遮断性物質、酸素遮断性物質、および必要に応じて界面活性剤を含むコーティング剤は、それらを加熱して溶解させて液状としたものをそのままコーティング剤として用いてもよく、それらを適当な溶媒に溶解、分散または懸濁させた液状組成物をコーティング剤として用いてもよい。
溶媒を用いる場合、食品用途を考慮すると、水やエタノールなどの人体に悪影響を及ぼさない溶媒を用いることが好ましい。液状組成物中における、各物質の濃度は任意であり、例えば、0.1〜50質量%程度とすることができる。
【0039】
上述した懸濁油の調製時および含浸時、並びにコーティング処理時に加熱する場合、その温度は、脂溶性ビタミンや脂溶性色素の活性や色調を損なわない範囲であれば任意であるが、30〜180℃が好ましく、40〜120℃がより好ましい。180℃を超えると、脂溶性ビタミンや色素が劣化する場合があり、30℃未満であると、粘度上昇や結晶化が起こり、粉体製造上不都合が生じる虞がある。
なお、本発明の被覆された脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を製造する際には、脂溶性ビタミン等の酸化劣化を抑制するために不活性ガスを用いてもよい。不活性ガスは任意であり、例えば、窒素、アルゴン、炭酸ガスなどが挙げられる。
【0040】
粉体製造に用いられる装置としては、特に限定されるものではなく、一般的な撹拌装置、混合装置および造粒装置を採用できる。例えば、数十gのスケールであればラボミキサーによる製造が可能であり、kg〜tスケールであればハイスピードミキサーやハイフレックスグラル等の高速撹拌混合機や、流動層型造粒機、転動層型造粒機、バーチカルグラニュレーター等の造粒機を、単独で、または必要に応じて組み合わせることで製造することができる。
【0041】
例えば、第一段階で水遮断性被覆剤を含むコーティング剤で処理し、第二段階で酸素遮断性被覆剤を含むコーティング剤で処理する場合、次のような方法を用いることができる。
まず、造粒機中で加温された脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素を含浸させた多孔質粉体に対し、同温程度に加温した水遮断性物質を含むコーティング剤を添加して第一段階のコーティング処理を行う。この際、水遮断性物質を含むコーティング剤にはトコフェロール等の酸化防止剤を加えることが好ましい。また、水遮断性物質を含むコーティング剤を添加した後は被覆が安定するように常温程度まで自然冷却を行うことが好ましい。
次に、第一段階の被覆を行った粉体を造粒機中で所定温度まで加温し、同温度まで加温した酸素遮断性物質を含むコーティング剤を造粒機中に添加し、コーティング処理を行う。この際、酸素遮断物質を含むコーティング剤にアスコルビン酸等の酸化防止剤を加えることが好ましい。
コーティング処理後、被覆された粉体を取り出し、適宜乾燥する。
【0042】
本発明の脂溶性ビタミンおよび/または色素含有粉体は、任意成分として酸化防止剤を含んでいてもよい。
酸化防止剤としては、食品や食品添加物として一般的に用いられる酸化防止剤が好適である。その具体例としては、ビタミンE等のトコフェロール類;ビタミンC等のアスコルビン酸類;BHA、BHT等の合成抗酸化剤;カテキンやケルセチン等のフラボノイド類;ローズマリー抽出物やイチョウ葉抽出物等の天然物抽出物などが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
これらの中でも、操作性や脂溶性ビタミンや色素の安定性の面などから、トコフェロール類、アスコルビン酸類が好ましい。
なお、各種酸化防止剤は、理研ビタミン株式会社、日清オイリオ株式会社、DSMニュートリションジャパン社等で製造されており、市販品として容易に入手できる。
酸化防止剤を添加する場合、その添加量は、特に限定されるものではないが、酸化防止効果を付与しつつ、ビタミンや色素量を確保して目的とする効果を十分に発揮させることを考慮すると、粉体中に0.01〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1〜10質量%がより一層好ましい。
【0043】
以上説明した本発明の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体は、医薬品、化粧品、食品、洗浄剤、日用品、繊維、塗料、樹脂等の広範囲な分野の製剤に配合可能であるが、中でも食品分野への応用が好ましい。具体的にはキャンディー、グミ、錠菓、ジュース等の食品;滋養強壮剤等の医薬品;化粧用クリーム、洗顔剤、身体洗浄剤等の化粧品;シャンプー、ボディーソープ等の日用品;ペンキ、ラッカー等の塗料や樹脂などが挙げられるが、特にキャンディー、グミ、錠菓、ジュース等の食品への応用が好ましい。
錠菓等の錠剤とする場合、例えば、本発明の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体、乳糖やデキストリン等の公知の可食性賦形剤、およびステアリン酸マグネシウム等の公知の滑沢剤を十分に混合し、打錠機にて適当な形状に加圧、打錠すればよい。
【0044】
本発明の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体の製剤中への配合割合は、目的とする製剤の設計に影響を及ぼさない限り任意であるが、所望のビタミン活性や色価を発揮させつつ、製造を簡便にして生産性を高めることを考慮すると、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がより好ましく、1〜10質量%がより一層好ましい。
【0045】
なお、製剤とする場合、本発明の効果を損なわない限り、既知の食品成分、食品添加物や薬効成分、または製剤に一般的に用いられる各種配合剤を必要に応じて適宜配合することができる。
具体的には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、油分、アルコール類、抗炎症剤、鎮咳去痰薬、鎮痛剤、保湿剤、増粘剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調整剤、香料、水溶性色素、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、糖類、水溶性ビタミン類、タンパク質類、デンプン類、アミノ酸類、無機塩類、生薬類、水などを適宜配合して製剤化することができる。
また、錠剤の場合は、必要に応じて既に述べた可食性物質によるコーティングを施してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
なお、以下において、水遮断性物質や酸素遮断性物質のオクタノール/水分配係数(LogP)および酸素透過係数、並びに多孔性粉体の平均粒子径、細孔容積、比表面積、平均細孔径、および吸油能は下記手法によって測定した。
【0047】
(1)オクタノール/水分配係数(LogP)
フラスコ振とう法(OECD Test Guideline 107)により測定した。具体的には、精製した水とオクタノールとを24時間以上混合してそれぞれ飽和させ、測定対象物質と共にフラスコに取り、温度を保ってよく振とうした後、遠心分離器にかけて完全に相分離させ、それぞれの相に含まれる試料量を物質に適した機器分析によって定量し、分配係数を求めた。
(2)酸素透過係数
差圧法(ASTMD1434)により測定した。具体的には、膜厚を測定したフィルム状の被検物質を、測定セルの両チャンバーの間にろ紙を支持体として挟み、両チャンバー内の空気を真空ポンプで除去し、一方のチャンバー内を1気圧の酸素で飽和させた後、他方のチャンバーの気圧変化または酸素量を圧力センサーまたはガスクロマトグラフによって測定し、その経時変化から酸素透過係数を求めた。
なお、フィルム形成が難しいセラックや液体油脂などの試料は、ろ紙に貼付または含浸させたものを測定用フィルムとして用いた。
(3)平均粒子径
レーザ回折散乱法(測定装置:レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置、Partica LA−950V2、(株)堀場製作所製)により測定した。
(4)細孔容積、比表面積、平均細孔径
BET法により求めた。
(5)吸油能
JIS K5101に準拠して測定した。
【0048】
[実施例1]
パーム油カロテン懸濁油(ハイアルファMG、ライオン(株)製、カロテン含量:30.3質量%、抽出トコフェロール:0.2質量%、残分:食用油)33.0g、およびシリカゲル(サイロページ720、富士シリシア化学(株)製、平均粒子径3.9μm、細孔容積1.60mL/g、比表面積300m2/g、平均細孔径21nm、吸油能310mL/100g)48gを、粉砕機(ラボミルサーLM−2、大阪ケミカル(株)製)を用いて1分間室温で撹拌、混合してパーム油カロテン粉末を得た。なお、この際、終濃度1質量%のトコフェロール(dl−α−トコフェロール、関東化学(株)製、試薬特級)、5質量%のアスコルビン酸パルミテート(DSMニュートリションジャパン社製)を添加した。
得られたパーム油カロテン粉末20gを、小型粉砕器(サンプルミルSK−M10R、協立理工(株)製)に入れて80℃に加温し、撹拌しながら、ラウリン酸(関東化学(株)製、試薬1級、LogP=5.0、酸素透過係数>1.0×10-1)を80℃に加熱して調製したコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が6.5質量%となるようにコーティング処理した。
続いて、アルギン酸Na(I−1G、(株)キミカ製、LogP<4.5、酸素透過係数=2.30×10-4)の3質量%水溶液からなるコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が6.5質量%となるようにコーティング処理を行い、被覆されたパーム油カロテン粉末を得た。
続いて、被覆されたパーム油カロテン粉末50mg、乳糖(フロイント産業(株)製、乳糖グラニュー)445mg、およびステアリン酸マグネシウム(純正化学(株)製)5mgを良く混合後、直径10mmの打錠機に入れ、300kg/cm2(約30MPa)の打錠圧にて3〜5秒間加圧し、パーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0049】
[実施例2]
ラウリン酸を80℃に加熱して調製したコーティング剤およびアルギン酸Naの3質量%水溶液からなるコーティング剤を同時に噴霧して、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が13質量%(6.5質量%ずつ)となるようにコーティング処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0050】
[実施例3]
コーティング処理の順序を逆にした(アルギン酸Naの3質量%水溶液からなるコーティング剤での処理を先にした)以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0051】
[実施例4]
第2段階で、セラック(脱色セラック、(株)岐阜セラック製、LogP=6.5〜8.5、酸素透過係数=4.90×10-3)の3質量%エタノール溶液からなるコーティング剤にて処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0052】
[実施例5]
コーティング処理の順序を逆にした(セラックの3質量%エタノール溶液からなるコーティング剤での処理を先にした)以外は、実施例4と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0053】
[実施例6]
第1段階で、セラックの3質量%エタノール溶液からなるコーティング剤にて処理し、第2段階で、寒天(UP26、伊那食品工業(株)製、LogP<4.5、酸素透過係数=3.90×10-4)の3質量%水溶液からなるコーティング剤で処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0054】
[実施例7]
第1段階で、ラウリン酸を80℃に加熱して調製したコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が8質量%となるようにコーティング処理し、第2段階で、キサンタンガム(イナゲルV−10、伊那食品工業(株)製、LogP<4.5、酸素透過係数=1.00×10-3)の3質量%水溶液からなるコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が5質量%となるようにコーティング処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0055】
[実施例8]
第1段階で、ミツロウ(CO−100、横関油脂(株)製、LogP=11.0〜13.0、酸素透過係数>1.0×10-1)の3質量%水溶液からなるコーティング剤で処理し、第2段階で、キサンタンガムの3質量%水溶液からなるコーティング剤で処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0056】
[比較例1]
第2段階でのコーティング処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0057】
[比較例2]
ラウリン酸を80℃に加熱して調製したコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が13質量%となるようにコーティング処理したのみで、アルギン酸Naでのコーティング処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0058】
[比較例3]
アルギン酸Naの3質量%水溶液からなるコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が13質量%となるようにコーティング処理したのみで、ラウリン酸でのコーティング処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0059】
[比較例4]
セラックの3質量%エタノール溶液からなるコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が13質量%となるようにコーティング処理したのみで、ラウリン酸でのコーティング処理を行わなかった以外は、実施例4と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
上記各実施例および比較例のまとめを下記表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
上記各実施例および比較例で調製した粉体および錠剤について、カロテンの残存率を下記手法により測定した。また、打錠時の漏出抑止性を下記手法および基準により確認・評価した。これらの結果を併せて表3に示す。
[1]カロテン残存率
パーム油カロテン粉末約50mgを精秤して100mLビーカーにとり、70〜80mLの精製水を加え、10分間超音波処理を行った。さらに、これを200mL褐色メスフラスコにとり、精製水でメスアップした。この液10mLを共栓付き遠沈管にとり、エタノール10mLを加え、さらにシクロヘキサン10mLを正確に加え、5分間振とうした。この遠沈管を4000rpmで10分間遠心分離した後、シクロヘキサン層5mLを50mL褐色メスフラスコにとり、シクロヘキサンでメスアップし、検液とした。
この検液につき、シクロヘキサンを対照として448nm付近の最大吸収を測定し、次式によりカロテン濃度を求めた。
カロテン濃度(%)=((A×10000)/(2500×Wt))×200
A:吸光度、2500:吸光係数、Wt:試料採取量(mg)
次に、遮光したサンプル瓶に製造した粉体サンプルをとり(サンプル瓶のヘッドスペースは空気のまま)、60℃にて暗所で1ヶ月保存した後、上記と同様の方法でカロテン含量を測定し、保存前のカロテン量を100としたときのカロテン量をカロテン残存率(%)として算出した。
また、打錠サンプルに関しても同様の方法にて測定を行った。
【0062】
[2]打錠時の漏出抑止性
打錠後の錠剤におけるカロテンの漏出を目視によって観察し、下記の3段階で評価した。
○:カロテンの漏出なし
△:カロテンがやや漏出
×:カロテンが漏出
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示されるように、水遮断性物質および酸素遮断性物質を被覆した実施例1〜8のパーム油カロテン粉末およびこれから得られた錠剤は、比較例のそれらに比べてカロテン残存率が著しく高く、また、打錠時の漏出抑制性も良好であることがわかる。
さらに、実施例1,4,6〜8と実施例3,5とを比較すると明らかなように、最初に水遮断性物質で被覆し、最後に酸素遮断性物質で被覆した粉体の方が、カロテン残存率が高くなっていることがわかる。
【0065】
[実施例9]
第2段階で、アルギン酸Na水溶液中にショ糖脂肪酸エステル(F−160、第一工業製薬(株)製)を0.28質量%加え、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中におけるショ糖脂肪酸エステル量が0.6質量%となるようにコーティング処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0066】
[実施例10]
第1段階で、ラウリン酸中にポリグリセリン脂肪酸エステル(ML−500、坂本薬品工業(株)製)を8.5質量%加え、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中におけるポリグリセリン脂肪酸エステル量が0.6質量%となるようにコーティング処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0067】
[実施例11]
第1段階のラウリン酸によるコーティング処理後に、ショ糖脂肪酸エステルの1質量%水溶液からなるコーティング剤を用い、噴霧・乾燥を繰り返し、目的とする被覆されたパーム油カロテン粉末中における被覆量が0.6質量%となるようにコーティング処理した以外は、実施例1と同様にしてパーム油カロテン粉末含有錠剤を得た。
【0068】
上記各実施例9〜11のまとめを下記表4に示す。
また、上記実施例9〜11で調製した粉体および錠剤について、上記と同様の手法により、カロテンの残存率を測定し、打錠時の漏出抑止性を、上記と同様の手法および基準により確認・評価した。これらの結果、および参考として実施例1の結果を併せて表5に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
表5に示されるように、被覆層中に界面活性剤を含む実施例9〜11粉体の方が、界面活性剤を用いていない実施例1のそれよりもカロテン残存率が高くなっていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素を溶解または懸濁させた油脂類を含浸させた多孔質粉体と、被覆層とを有し、
前記被覆層が、オクタノール/水分配係数4.5以上の可食性水遮断性物質と、酸素透過係数1.0×10-1〜1.0×10-10((cm3・m)/(m2・24hr・atm))の可食性酸素遮断性物質とを含むことを特徴とする脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項2】
前記被覆層が、可食性界面活性剤を含む請求項1記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項3】
前記被覆層が、少なくとも2段階の被覆工程にて形成され、当該被覆工程の最初の工程が、前記水遮断性物質を含むコーティング剤を用いて行われる請求項1または2記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項4】
前記被覆工程の最後の工程が、前記酸素遮断性物質を含むコーティング剤を用いて行われる請求項3記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項5】
前記水遮断性物質を含むコーティング剤が、さらに前記可食性界面活性剤を含む請求項3記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項6】
前記酸素遮断性物質を含むコーティング剤が、さらに前記可食性界面活性剤を含む請求項4記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項7】
前記被覆層が、少なくとも3段階の被覆工程にて形成され、前記最初の工程の後に、
前記酸素遮断性物質を含むコーティング剤を用いて行われる工程および前記可食性界面活性剤を含むコーティング剤を用いて行われる工程を備える請求項3記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項8】
前記脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素が、カロテノイドである請求項1〜7のいずれか1項記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の脂溶性ビタミンおよび/または脂溶性色素含有粉体を含む錠剤。

【公開番号】特開2010−65023(P2010−65023A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185359(P2009−185359)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】