説明

脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法

【課題】厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少ないだけでなく、高速化でのキャストが可能な脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステルをフィルム3状に溶融押出し、キャストドラム2とフィルム3間の随伴気流を制御しながら、キャストドラム2上でエッジ部着地点の変動を抑制した後にフィルム3全幅をキャストドラム2に密着させて脂肪族ポリエステルフィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少ないだけでなく、高速化でのキャストが可能な脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりのもと、プラスチック製品の廃棄による土壌汚染問題、また、焼却による二酸化炭素増大に起因する地球温暖化問題が注目されている。前者への対策として、種々の生分解樹脂、後者への対策として、焼却しても大気中に新たな二酸化炭素の負荷を与えない植物由来原料からなる樹脂がさかんに研究、開発されている。各種商品の展示包装用などに用いられている保形具類や、食品トレー、飲料カップなどの容器類についても、種々の生分解樹脂、植物由来原料からなる樹脂を用いたものが開発されている。なかでも特に脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸は、生分解、植物由来プラスチックとしてはガラス転移点が約60℃と高く、透明であることなどから、将来性のある素材として最も注目されている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂を溶融した後にキャストドラム上で冷却固化させながら未延伸のフィルムを得る場合、口金から押し出されたポリ乳酸樹脂と一緒にラクチドも放出され、キャストドラムにラクチドが付着することから密着斑が発生し、フィルムの品質斑が問題となっている。また、キャストドラムへの密着方法として採用している静電印加方法では、生産ライン速度が低速では効果があるが生産ライン速度を向上すると随伴気流から樹脂膜のキャストドラム面への密着部分にエアーが噛み込み、キャストドラムとの密着性が低下し、生産性が向上できないという問題があった。
この問題を解決するための手段として、ポリ乳酸樹脂を溶融した後にキャストドラム上で冷却固化させる場合のキャストドラム温度を規定した技術、ポリ乳酸樹脂をフィルム状に溶融押出し、水膜を介してキャストドラム上で冷却キャストする技術、口金のスリット間隙から押し出された樹脂膜を、互いに異なる二つ以上の密着手段を用いて移動キャスト面に密着させる技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、ポリ乳酸樹脂をフィルム状に成形する冷却ドラム表面へのオリゴマ堆積を抑制するために、該冷却ドラム剥離時の剥離面フィルム温度を25℃から45℃にして、生産効率の良いポリ乳酸フィルムの製造方法が記載されている。しかしながら本製造方法では、比較的低速のキャスト速度では、キャストドラム上のポリ乳酸樹脂から発生するオリゴマ堆積を抑制できても長時間での生産においては静電印加装置に用いる電極のオリゴマ汚れは抑制できず、また、キャスト速度が高速度領域になった場合にエッジ部分の脈動を制御できないばかりかキャストドラム温度が高いためにフィルムの剥離が困難となるなど生産速度を向上するなどの生産性向上は見られない。
【0005】
特許文献2では、ポリ乳酸樹脂をフィルム状に溶融押出し、水膜を介してキャストドラム上で冷却キャストする製造方法が記載されている。しかし本製造方法だけでは、低速度領域での生産時においてはキャストドラム上のポリ乳酸樹脂から発生するオリゴマ堆積を抑制しながら無欠点なフィルムを得ることはできるがキャスト速度が高速度領域になった場合は、随伴気流は抑制できてもエッジ部分の脈動を制御できず生産性向上は見られない。
【0006】
特許文献3は、ワイヤー電極により全幅を密着させる際に、エッジ部に対してスポットエアーを適用し、さらにエッジ部に対して静電気で密着させることを特徴とするポリエステルシートの製法である。特許文献4は、異なる2つ以上の密着手段を適用したフィルムの製法であり、特許文献5は、ドラム等に密着させながら、特定温度に制御するなどしたポリ乳酸シートの製法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−299099号公報
【特許文献2】特開2000−108542号公報
【特許文献3】特開2009−39890号公報
【特許文献4】特開2000−202842号公報
【特許文献5】特開2009−62410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、厚み斑が少なく、かつ平面性に優れ、さらに長手方向、横方向の機械特性、光学特性のばらつきが少ないだけでなく、高速化でのキャストが可能な脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法は、上記課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(I)脂肪族ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャストドラムとフィルム間の随伴気流を制御しながら、キャストドラム上でエッジ部着地点の変動を抑制した後にフィルム全幅をキャストドラムに密着させることを特徴とする脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
(II)随伴気流の制御が、(1)キャストドラム上に水膜を付与する方法、(2)フィルム着地点よりもキャスト面移動方向上流側に位置し、フィルムに直接接する負圧領域を生成する、吸引ノズルにより気流を吸引する方法、および、(3)口金後部(ここで、図3に示すように、口金吐出孔から鉛直方向に下ろした点を基準として、フィルム着地点側を前部、フィルム着地点側でない方を後部という。以下同じ。)とキャストドラムの間に、口金の幅以上の長さの遮蔽板を取り付ける方法、から選択される少なくとも一つ以上である(I)に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
(III)エッジ部着地点の変動の抑制が、エアーを吹き付けるスポットエアーによる方法、または、静電荷を付与する静電気印加による方法、のいずれかである(I)に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
(IV)さらにエッジ部に対応するキャストドラム上に液体膜を付与する(III)に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
(V)フィルム全幅のキャストドラムへの密着が、エアーナイフによる方法、または、静電荷を付与する静電気印加による方法のいずれかである(I)に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
(VI)随伴気流の抑制方法として、フィルム着地点よりもキャスト面移動方向上流側に位置し、フィルムに直接接する負圧領域を生成する、吸引ノズルにより気流を吸引する方法、フィルムエッジ部着地点の変動を抑制する方法として、エアーを吹き付けるスポットエアーによる方法、フィルム全幅をキャストドラムに密着させる方法として、エアーナイフによる方法である請求項(I)に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
(VII)脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である(I)に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法は、キャストドラムとフィルム間の随伴気流を制御しながら、キャストドラム上でフィルムエッジ部着地点の変動を抑制した後に、フィルム全幅をキャストドラムに密着させることにより、厚み斑、品質斑が少ないフィルムをキャストドラムへの粘着もなく、高速で生産性を向上させながら得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施態様に係る水膜を付与する方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施態様に係る気流を吸引する方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図3】本発明の実施態様に係る遮蔽板を取り付ける方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図4】本発明の実施態様に係るスポットエアーによる方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図5】本発明の実施態様に係る静電気印加による方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図6】本発明の実施態様に係る液体膜を付与する方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図7】本発明の実施態様に係るエアーナイフによる方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図8】本発明の実施態様に係る静電気印加による方法に関するフィルムの製造装置の概略構成図である。
【図9】本発明の実施態様に係るキャストドラムからの剥離点を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明者らは、前記課題、つまり、厚み斑、品質斑が少ない脂肪族ポリエステルフィルムを高速で生産性を向上させながら得る方法について、鋭意検討した結果、脂肪族ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャストドラムとフィルム間の随伴気流を制御しながら、キャストドラム上でフィルムエッジ部着地点の変動を抑制した後に、フィルム全幅をキャストドラムに密着させることにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0013】
本発明の随伴気流を制御する手段の一つは、キャストドラム2上に水膜を付与することが好ましく例示される。キャストドラム2上に水膜を形成する方法としては、噴霧ノズル4による方法、多孔質ロールより水をにじませながらドラム上に塗布する方法、加湿空気を吹き付ける方法等が可能である。ここで、キャストドラム2上に形成される水膜の塗布量としては、0.05〜20g/m2 であると離型性および得られるフィルムの平面性が良好となるので好ましく、さらに好ましくは、0.5〜10g/m2 である。ここで、水膜は、ドラム上で均一に形成される必要はなく、上記範囲で離散的に分散していてもよく、さらに該水には界面活性剤あるいは水に可溶な溶媒を含んでいてもよい。また、キャストドラム2上に均一な水膜が形成されるように微細な凹凸あるいはクラックを形成させておくとよい。この場合、表面粗さとしては、0.01〜10μmの範囲としておくとキャストドラム膜の均一性が良好となるので好ましい。また、キャストドラム2の温度は高過ぎると水膜が蒸発しやすくなり、均一な水膜ができなかったり、キャスト時に沸騰し表面欠点を形成する可能性があるので50℃以下であることが好ましく、特に好ましくは10〜30℃の温度範囲である。
【0014】
本発明の随伴気流を制御する手段の他の一つは、前記フィルム着地点よりもキャスト面移動方向上流側に位置し、フィルムに直接接する負圧領域を生成する、吸引ノズル5により気流を吸引する方法が好ましく例示される。ここで吸引ノズル5の幅は、フィルム全体に影響する随伴気流を制御するために、口金幅と同じ幅〜端から100mm広いことが好ましく、また、吸引ノズル5最下部とキャストドラム2との間隙は、随伴気流の影響を極小とするために、5mm〜口金リップ位置高さ以下の距離が好ましい。吸引ノズル5には、吸引ブロア等を取り付けて負圧領域を生成することが好ましい。
【0015】
本発明の随伴気流を制御する手段の他の一つは、口金1後部とキャストドラム2の間にフィルム全体に影響する随伴気流を制御するために、口金1の幅以上の長さの遮蔽板6を取り付けることが好ましい。さらには、口金1と同じ幅〜端から100mm広い遮蔽板6を取り付けることが好ましく、口金1後部と遮蔽板6との隙間距離は密着から10mmが好ましく、遮蔽板6とキャストドラム2との隙間距離は、随伴気流の影響を極小とするために10mm〜0.1mmが好ましい。
本発明のエッジ部着地点の変動を抑制する手段の一つは、エアーを吹き付けるスポットエアー7からなることが好ましい。ここでスポットエアー7の位置は、エッジ部着地点の変動を抑制して、さらにフィルム中央部に影響しないために、フィルム両エッジ最端部からフィルム中央部に向かって5〜20mmの位置が好ましい。また、スポットエアー7とフィルムとの距離は、エッジ部着地点の変動を抑制して、さらにフィルム中央部に影響しないために5〜30mmが好ましい。ここでスポットエアー7は、エアーの吹きつけ強さの安定性から直径5〜20mmφのパイプ状のものが好ましく、その先端形状は、特に規定しないがエッジ部分の異変形防止の面から円状、楕円状、長方形状が好ましい。また、スポットエアー7の圧力は、フィルムエッジ部のキャストドラム2への密着性から0.05〜0.3kg/cmが好ましい。
【0016】
本発明のエッジ部着地点の変動を抑制する手段の他の一つは、電極8により静電荷を付与する静電気印加手段からなることが好ましい。ここで電極8の位置は、エッジ部着地点の変動を抑制して、さらにフィルム中央部に影響しないためにフィルム両エッジ最端部からフィルム中央部に向かって5〜20mmの位置が好ましい。針状電極の形状については特に規定しないがφ3〜5mmのアルミ支持材に先端を尖らせた直径1〜2mmの針状タングステンチップを埋め込んだ物が好ましく、先端部から2〜5mm以外の部分はPTFEチューブで絶縁するのが好ましい。また、針状電極は1本で使用しても良いが2本以上を組み合わせて使用しても好ましい。ここで静電気の印加電圧は、フィルムエッジ部のキャストドラム2への密着性から5〜10Vが好ましい。
【0017】
上記のエッジ部着地点の変動を抑制する手段において、エッジ部に対応するキャストドラム2上に液体膜を付与する方法が変動を抑制するのにより好ましく、液体膜としては、流動パラフィンが好ましい。流動パラフィンを塗布する方法としては、流動パラフィンを含浸させたフェルト類9をキャストドラム2上エッジ部分に押しつけて塗布する方法が好ましい。
【0018】
本発明のフィルム全幅をキャストドラムに密着させる手段の一つは、エアーナイフ10からなることが好ましい。ここでエアーナイフのエアー排出部のスリット長さは、フィルム全幅をキャストドラム2へ密着させるために口金から押し出されたフィルムの幅長さ−30〜+50mmの範囲が好ましい。また、エアー排出スリット幅は、排出エアーの幅方向のバランスから0.1〜2mmが好ましく、0.5〜1.0mmがさらに好ましい。さらにエアーナイフ10のエアー吹き出し方向は、フィルムのキャストドラム2への密着性から、キャストドラムに対して90〜15°の角度が好ましく、フィルムとの距離は、フィルムの密着性から5〜30mmが好ましい。さらにエアーナイフの圧力は、フィルムのキャストドラム2への密着性から0.05〜0.3kg/cmが好ましい。
【0019】
本発明のフィルム全幅をキャストドラムに密着させる手段の他の一つは、電極11(ワイヤー状電極)により静電荷を付与する静電気印加手段からなることが好ましい。ここでワイヤー状電極は、フィルムへの静電荷のかかりやすさからタングステンワイヤーが好ましく、直径は0.1〜0.2mmφが好ましい。フィルムとの距離は、フィルムの密着性から5〜30mmが好ましい。さらに静電気の印加電圧は、フィルムのキャストドラム2への密着性から5〜10Vが好ましく、直流電圧安定化電源などで電圧をかけることが好ましい。
【0020】
前記製造方法により、フィルム全幅を密着させた後に冷却されたフィルムがキャストドラム2から剥離する時の剥離点12の温度は、脂肪族ポリエステルのガラス転移点温度以下でなければならない。剥離点12の温度が脂肪族ポリエステルのガラス転移点を越えるとキャストドラムにフィルムが粘着するために生産性が低下し、好ましくない。
【0021】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法は、前記のキャストドラムとフィルム間の随伴気流を制御する方法、キャストドラム上でフィルムエッジ部着地点の変動を抑制する方法、フィルム全幅をキャストドラムに密着させる方法を組み合わせることにより好ましく達成できるが最も効果的な組み合わせとしては、随伴気流抑制方法として、フィルム着地点よりもキャスト面移動方向上流側に位置し、フィルムに直接接する負圧領域を生成する、吸引ノズルにより気流を吸引する方法、かつ、フィルムエッジ部着地点の変動を抑制する方法として、エアーを吹き付けるスポットエアーによる方法、かつ、フィルム全幅をキャストドラムに密着させる方法として、エアーナイフによる方法を同時に採用することである。
【0022】
上記組み合わせが好ましい理由としては、随伴気流抑制では、装置のコスト面、製膜中の位置調整などの操作性から吸引ノズルが好ましく、また、スポットエアーとエアーナイフの組み合わせについては、従来、ポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルのキャスト方法として、芳香族ポリエステルは、ポリプロピレンなどのポリオレフィンやナイロンなどのポリアミドなどより、溶融比抵抗が低いためにフィルム全幅をワイヤー状電極により静電荷を付与する静電気印加による方法が知られているが、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルは、溶融粘度がポリエチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステルとポリプロピレンなどのポリオレフィンとの中間よりも高いため、通常溶融粘度が高いポリプロピレンのキャスト方法として採用されているスポットエアーとエアーナイフによる密着方法が特に好ましい。
【0023】
かくして得られた未延伸脂肪族ポリエステルフィルムは、続けて一軸または二軸に延伸することが好ましい。延伸方法は如何なる方法であってもよく、ロール式縦一軸延伸法、ステンター式横一軸延伸法、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター式同時二軸延伸法、ステンター式逐次二軸延伸法等の方法を挙げることができる。
【0024】
本発明に用いられる脂肪族ポリエステルとは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールからの重縮合体、脂肪族ヒドロキシカルボン酸の重縮合体などであるが、単量体の構造や重合法などに特に制限はない。
【0025】
具体的には本発明に用いられる脂肪族ポリエステルは、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/アジペート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などを使用することができる。これらのなかでも、植物由来原料であるといった環境面、透明性、耐熱性に優れるといった性能面から、脂肪族ポリエステルとしてL−乳酸および/またはD−乳酸ユニットを主たる構成成分とするポリ乳酸が好ましい。
【0026】
L−乳酸および/またはD−乳酸ユニットを主たる構成成分とするとは、L−乳酸および/またはD−乳酸ユニットが脂肪族ポリエステルの総量に対して70モル%〜100モル%含まれることをいう。
【0027】
ここで、脂肪族ポリエステルは、フィルムを成形するための脂肪族ポリエステル樹脂と同義で用いており、脂肪族ポリエステル樹脂中には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、添加剤、例えば、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、有機、無機の易滑剤、顔料、染料、充填剤、帯電防止剤、核剤などが配合されていてもよい。
【0028】
本発明でいうポリL−乳酸とは、ポリ乳酸重合体中のL−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、L−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることが好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましい。
【0029】
一方、本発明でいうポリD−乳酸とは、ポリ乳酸重合体中のD−乳酸ユニットの含有割合が50mol%を超え100mol%以下のものが好ましく、結晶性の面から、D−乳酸ユニットの含有割合が80mol%以上100mol%以下であることが好ましく、95mol%以上100mol%以下であることがより好ましく、98mol%以上100mol%以下であることがさらに好ましい。
【0030】
ポリL−乳酸は、該ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリL−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリL−乳酸中のD−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリL−乳酸の結晶性は高くなっていく。同様に、ポリD−乳酸は、該ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合によって、樹脂自体の結晶性が変化する。つまり、ポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が多くなれば、ポリD−乳酸の結晶性は低くなり非晶に近づき、逆にポリD−乳酸中のL−乳酸ユニットの含有割合が少なくなれば、ポリD−乳酸の結晶性は高くなっていく。
【0031】
本発明の脂肪族ポリエステルとして用いられるポリ乳酸は、乳酸以外の他の単量体ユニットを含んでいてもよい。他の単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記の他の単量体ユニットの共重合量は、脂肪族ポリエステルがポリ乳酸系樹脂である場合に、ポリ乳酸系樹脂の単量体ユニット全体に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
【0032】
本発明の脂肪族ポリエステルに用いられるポリ乳酸の質量平均分子量は、適度な製膜性、延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう質量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
【0033】
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法及び効果の評価方法は次のとおりである。
【0034】
(1)ガラス転移点(Tg)
フィルム試料5mgを採取し、セイコー電子(株)示差走査熱量計RD220型を用いて、室温より昇温速度20m/分で280℃まで昇温し、280℃で5分間保持した後、液体窒素で急冷し、再度室温より昇温速度20℃/分で昇温して求めた。
【0035】
(2)キャストドラム上の水膜の塗布量(g/m
キャストドラムを所定のライン速度で回転させながら水膜を形成し、有効幅100mm、直径50mmφのマスロール(増田製作所(株)製)を用い、測定面積が10〜100mになるように適宜拭き取り時間を設定し、形成された水膜を完全に拭き取る。次いで該マスロールの質量(W2[g])を測定し、初期質量(W1[g]および測定面積(S[m])より次式で求める。
なお、マスロールは測定雰囲気で6時間以上保持し、調湿しておく。
水膜量(g/m)=(W2−W1)/S
(3)フィルムとキャストドラムの密着斑
キャストドラム上のフィルムを、密着装置により密着している部分から、キャストドラムから剥離される部分までの、フィルムの密着状態を目視で観察した。
密着良好:フィルムとキャストドラム間にエアーの噛み込みがなく、フィルムの幅変動、蛇行が見られない。
密着不良:フィルムとキャストドラム間にエアーの噛み込みが見られる、または、フィルムの幅変動や蛇行が見られる。
(4)キャスト到達速度
キャスト速度を5m/分おきに上げていき(高速化し)、フィルムを観察し、密着斑欠点が生じない最高速度を求めた。
【0036】
50m/分以上に増速できれば、効果有りと見なした。
【実施例】
【0037】
次に実施例および比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
実施例1〜16
質量平均分子量10万のL−ポリ乳酸(融点175℃)に、水澤科学社製アルミナシリケート粒子(シルトンJC20(平均粒径2μm))を1質量%添加した原料を、100℃で3時間真空乾燥した後、220℃に加熱したφ90mmの押出機で可塑化して、270mmの烏口口金よりフィルム状に押出し、20℃に設定した直径が600mmの回転しているキャストドラム上で表1に示す以下の方法で、随伴気流の制御、エッジ部変動の抑制、全幅の密着を行い、キャスト速度を高速側に変更し、フィルムに密着斑欠点が生じるまでのキャスト到達速度を調べた。キャスト到達速度は、キャスト速度を5m/分おきに上げていき(高速化し)、フィルムを観察し、密着斑欠点が生じない最高速度を求めた。キャスト速度変更においても、吐出量を調整し、フィルム厚みが200μmになるようにした。
1.随伴気流制御方法
(1)水膜塗布法:水を霧状に噴出できるスプレーノズルを図1のようにキャストドラムから50mm離れたところに1個を取り付けて塗布した。
(2)気流吸引法:吸引ブロアで吸引できるようにしたノズルを図2のようにキャスト面移動方向上流側で口金幅より両端で20mmずつ長くして取り付けて気流吸引を行った。
(3)遮蔽板法:口金後部に厚さ3mmのアルミ製の遮蔽板を図3のように口金幅より両端で20mmずつ長くして、キャストドラムとの間隙が5mmになるように取り付けた。
2.エッジ部着地点制御方法
(1)スポットエアー法:フィルム両エッジ部(最端部からフィルム中央部に向かって10mmの位置)に直径5mmφのL字型に加工したスチール製のパイプを図4のように取り付けて(フィルムとの距離10mm)パイプ先端からエアーを吹き付けて制御した。
(2)静電気印加法:フィルム両エッジ部(最端部からフィルム中央部に向かって10mmの位置)にφ3mmのアルミ支持材に先端を尖らせた直径1.5mmの針状タングステンチップを埋め込んだ(先端部から3mm以外の部分は外径φ4mmのPTFEチューブで絶縁)電極3本を一セットとし、図5のように取り付けて(フィルムとの距離10mm)直流電圧安定化電源((株)ハイデン研究所社製)により静電荷を印加した。
(3)液体膜塗布:上記エッジ部着地点制御中に口金後方のキャストドラム上(図6)に流動パラフィンを染みこませたフェルト(50mm×50mm×30mm厚み)により流動パラフィンをキャストドラムに塗布した。
3.フィルム全幅密着方法
(1)エアーナイフ法:幅270mm×0.5mmスリット間隙のエアーナイフにブロアを取り付け、図7のようにフィルムとキャストドラムとの接地部分、フィルムからの距離10〜20mm、エアー吹き出し方向がキャストドラムに対して45°の角度(距離、角度は、フィルムの密着状態を見ながら微調整)でフィルム全幅を密着させた。
(2)静電気印加法:直径0.1mmφのタングステンワイヤー(フィルムの幅以上の部分はPTFEチューブで絶縁)を図8のようにフィルムとキャストドラムの接地部分、フィルムからの距離10mmのところに直流電圧安定化電源((株)ハイデン研究所社製)により静電荷を印加した。
【0039】
比較例1〜10
実施例と同様にして、比較例では、表1に示すように、随伴気流の制御、エッジ部変動の抑制、全幅の密着を同時に行うのではなく、1つまたは2つの方法により、キャスト速度を変更し、フィルムに密着斑欠点が生じるまでのキャスト到達速度を、実施例と同様にして調べた。どの方法においても速度は上げられない結果であった。
【0040】
【表1−1】

【0041】
【表1−2】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法を利用することにより、高速化でキャスト、延伸を行うことが可能となり、結果として製造コストダウン等の効果が得られる。また、得られた脂肪族ポリエステルフィルムは、商品の展示包装用に用いられているブリスターパック等の保形具類、食品トレー、飲料自動販売機のディスプレイ用ボトル、お弁当箱や飲料カップなどの容器類、その他各種包装用の成形体、表面材などの各種工業材料を始めとして、広い用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 口金
2 キャストドラム
3 フィルム
4 噴霧ノズル
5 吸引ノズル
6 口金後部の遮蔽板
7 スポットエアー
8 電極
9 フェルト(液体膜付与用)
10 エアーナイフ
11 電極
12 キャストドラムからの剥離点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャストドラムとフィルム間の随伴気流を制御しながら、キャストドラム上でフィルムエッジ部着地点の変動を抑制した後に、フィルム全幅をキャストドラムに密着させることを特徴とする脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
随伴気流の制御が、(1)キャストドラム上に水膜を付与する方法、(2)フィルム着地点よりもキャスト面移動方向上流側に位置し、フィルムに直接接する負圧領域を生成する、吸引ノズルにより気流を吸引する方法、および、(3)口金後部とキャストドラムの間に口金の幅以上の長さの遮蔽板を取り付ける方法、から選択される少なくとも一つ以上である請求項1に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
フィルムエッジ部着地点の変動の抑制が、エアーを吹き付けるスポットエアーによる方法、または、静電荷を付与する静電気印加による方法、のいずれかである請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
さらにフィルムエッジ部に対応するキャストドラム上に液体膜を付与する請求項3に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項5】
フィルム全幅のキャストドラムへの密着が、エアーナイフによる方法、または、静電荷を付与する静電気印加による方法のいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
随伴気流の抑制が、フィルム着地点よりもキャスト面移動方向上流側に位置し、フィルムに直接接する負圧領域を生成する、吸引ノズルにより気流を吸引する方法であり、フィルムエッジ部着地点の変動の抑制が、エアーを吹き付けるスポットエアーによる方法であり、フィルム全幅をキャストドラムの密着が、エアーナイフによる方法である請求項1または4に記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
脂肪族ポリエステルがポリ乳酸である請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステルフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−96529(P2012−96529A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204251(P2011−204251)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】