説明

脂肪族ポリエステル樹脂組成物及び成形体

【課題】結晶化速度が高い脂肪族ポリエステル樹脂組成物を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステル(A)と、下記一般式(1)で表される尿素化合物(B)と、を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供する。
X−NHCONH−R−R・・・・(1)
[式中、Xは水素原子、アリール基、アラルキル基、及びアセチル基からなる群から選ばれるいずれか1種の基であり、
は炭素原子数1〜25のアルキレン基、炭素原子数1〜25のアルケニレン基、炭素原子数5〜25のシクロアルキレン基、炭素原子数5〜25のシクロアルケニレン基、炭素原子数5〜25のアリーレン基、及び単結合、からなる群から選択されるいずれか1種を示す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸や、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリブチレンサクシネート等の植物由来の原料から製造されるポリエステル樹脂を含有する樹脂組成物が検討されている。
例えば、平均粒度が5μm以下のタルク及び/又は平均粒度が30μm以下の窒化ホウ素からなる無機粒子を0.5質量%〜5質量%含有するポリ乳酸樹脂組成物が検討されている(特許文献1参照)。また、ポリ乳酸樹脂100質量部に対し、トリメシン酸トリス(t−ブチルアミド)のようなアミド系化合物を0.01質量部〜5質量部配合することも検討されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8―003432号公報
【特許文献2】特開平10−87975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらのポリ乳酸樹脂組成物を用いて成形すると、結晶化速度が低いため、成形時に短時間で金型を離型してしまうと、成形体の結晶化が十分に進行していないため、機械的強度が著しく低下した成形体になるおそれがある。
以上の課題に鑑み、本発明は結晶化速度が高い脂肪族ポリエステル樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、脂肪族ポリエステル(A)と、下記一般式(1)で表される尿素化合物(B)と、を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供する。
【0006】
X−NHCONH−R−R・・・・(1)
[式中、Xは水素原子、アリール基、アラルキル基、及びアセチル基からなる群から選ばれるいずれか1種の基であり、
は炭素原子数1〜25のアルキレン基、炭素原子数1〜25のアルケニレン基、炭素原子数3〜25のシクロアルキレン基、炭素原子数3〜25のシクロアルケニレン基、炭素原子数5〜25のアリーレン基、及び単結合、からなる群から選択されるいずれか1種を示す。
また、Xが水素原子の場合、Rは、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基及びイミド基からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種の基を示し、
Xがアリール基、アラルキル基又は、アセチル基の場合、Rは、水素原子、炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数1〜25のアルケニル基、炭素原子数3〜25のシクロアルキル基、及び炭素原子数3〜25のシクロアルケニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を示す。]
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、結晶化速度が高い脂肪族ポリエステル樹脂組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1〜3及び比較例1の試料の相対結晶化度と測定時間の関係を示した図である。
【図2】実施例4及び比較例2の試料の相対結晶化度と測定時間の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る脂肪族ポリエステル樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物とする)は、脂肪族ポリエステル(A)と、尿素化合物(B)と、を含有する。以下詳細に説明する。
<脂肪族ポリエステル(A)>
本発明で用いられる脂肪族ポリエステル(A)は、ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルや、ジオールとジカルボン酸からなるポリエステルが挙げられる。これらは単独又は2種以上併用して用いてもよい。
【0010】
ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルとしては、下記一般式(3)で示される3−ヒドロキシアルカノエートに由来する繰り返し単位を有する重合体が挙げられる。
【0011】

〔式中、Rは水素原子又は炭素原子数1〜15のアルキル基であり、Rは単結合、又は炭素数1〜4のアルキレン基である〕
【0012】
上記式(3)で示される繰り返し単位を有する重合体は、単独重合体のほか、当該繰り返し単位を二種以上含有する多元共重合体であってもよい。多元共重合体は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。
【0013】
上記単独重合体としてはポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)等が挙げられる。多元共重合体としては、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバリレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバリレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート−co−4−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−乳酸)等が挙げられる。
このうち、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバリレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシヘキサノエート)又は、これらの混合物を用いることが好ましい。
【0014】
ジオールとジカルボン酸を共重合して得られる脂肪族ポリエステルとしては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンアジペート)、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンサクシネート−co−エチレンテレフタレート)等が挙げられる。
【0015】
靭性及び引っ張り伸びに優れる成形体を得るという観点から、脂肪族ポリエステル(A)の重量平均分子量は、1万以上であることが好ましい。また、溶融時に樹脂組成物に適度な流動性が生まれ、射出成形時に外観が優れた成形体を得るという観点から、脂肪族ポリエステル(A)の重量平均分子量は、50万以下であることが好ましい。より好ましい脂肪族ポリエステル(A)の重量平均分子量は、5万〜45万であり、更に好ましくは7万〜40万である。
【0016】
本発明において脂肪族ポリエステル(A)として、ポリ乳酸を用いることが好ましい。ここで、本発明におけるポリ乳酸とは、L−乳酸及び/又はD−乳酸に由来する繰り返し単位のみからなる重合体、L−乳酸及び/又はD−乳酸に由来する繰り返し単位と、L−乳酸及びD−乳酸以外のモノマーに由来する繰り返し単位と、からなる共重合体、及び、前記重合体と前記共重合体の混合物、をいう。
ここで、上記L−乳酸及びD−乳酸以外のモノマーとしては、グリコール酸等のヒドロキシカルボン酸、ブタンジオール等の脂肪族多価アルコール及びコハク酸等の脂肪族多価カルボン酸が挙げられる。
【0017】
脂肪族ポリエステル(A)の製造方法は、公知の方法により製造することが可能である。例えば、ポリ乳酸の製造方法は、
・乳酸(L−乳酸、D−乳酸、又はL−乳酸とD−乳酸との混合物)、及び必要に応じて更に他のモノマーを脱水重縮合する方法、
・乳酸の環状二量体(すなわちラクチド)を開環重合させる方法、
・ラクチド及び乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸との環状2分子縮合体を開環重合させる方法、
・ラクチド及び/又は乳酸と乳酸以外のヒドロキシカルボン酸との環状2分子縮合体、及び必要に応じて更に乳酸以外のヒドロキシカルボン酸の環状二量体(例えば、グリコリド)やヒドロキシカルボン酸由来の環状エステル(例えば、ε−カプロラクトン)を開環重合させる方法、
等が挙げられる。
【0018】
また、ポリカプロラクトンは、ε−カプロラクトンとエチレングリコール、ジエチレングリコール等のジオールとを触媒の存在下で反応させて得られる。この反応において用いられる触媒としては、有機スズ化合物、有機チタン化合物、有機ハロゲン化スズ化合物等が挙げられる。これらの触媒を0.1ppm〜5000ppm添加し、100℃〜230℃好ましくは不活性気体中で単量体を重合させることによってポリカプロラクトンが得られる。
また、特開平5−93049に記載されているように、ポリβ−ヒドロキシブチレートやポリβ−ヒドロキシブチレート・β−ヒドロキシヘキサノエートを製造するには、炭素源以外の栄養源の制限下で、アエロモナス属の微生物を、炭素数6以上の偶数個の脂肪酸若しくはその低級アルコールエステル又は天然油脂と、炭素数5以上の奇数個の脂肪酸又は4−ヒドロキシ酪酸若しくはγ−ブチロラクトンを炭素源として培養する方法が挙げられる。
【0019】
また、ポリエチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートの製造方法は、例えば特開平6−271656号公報に記載の方法により製造することができる。この方法では、(無水)コハク酸とエチレングリコール(又は1,4−ブタンジオール)とをエステル交換してオリゴマーを得、次いで得られたオリゴマーを重縮合する。また、特開平4−189822号公報や特開平5−287068号公報に記載されているように、ポリエチレンサクシネート及びポリブチレンサクシネートを製造する際にジイソシアナート又はテトラカルボン酸二無水物を架橋剤として用いてもよい。
【0020】
<尿素化合物(B)>
本発明で用いられる尿素化合物(B)は、下記一般式(1)で表される構造を有する。
【0021】
X−NHCONH−R−R・・・・(1)
[式中、Xは水素原子、アリール基、アラルキル基、及び、アセチル基からなる群から選ばれるいずれか1種の基であり、
は炭素原子数1〜25のアルキレン基、炭素原子数1〜25のアルケニレン基、炭素原子数5〜25のシクロアルキレン基、炭素原子数5〜25のシクロアルケニレン基、炭素原子数5〜25のアリーレン基、及び単結合、からなる群から選択されるいずれか1種を示す。
また、Xが水素原子の場合、Rは、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基及びイミド基からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種の基を示し、
Xがアリール基、アラルキル基又は、アセチル基の場合、Rは、水素原子、炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数1〜25のアルケニル基、炭素原子数5〜25のシクロアルキル基、及び炭素原子数5〜25のシクロアルケニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を示す。]
【0022】
ここで、上記Xにおいて、アリール基は置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば炭素原子数1〜5のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、及び、水酸基等が挙げられる。置換基を有していてもよいアリール基としては、具体的には、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、メチルメトキシフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基等が挙げられる。
また、アラルキル基も同様に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば炭素原子数1〜5のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、及び、水酸基等が挙げられる。置換基を有していてもよいアラルキル基としては、具体的にはベンジル基、フェネチル基、メトキシベンジル基、メチルメトキシベンジル基等が挙げられる。
またアセチル基も同様に置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば炭素原子数1〜5のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基等が挙げられる。このうちフェニル基で置換されているフェニルアセチル基であることが好ましい。
【0023】
また、上記Rにおいて炭素原子数1〜25のアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。具体的には、メチレン基、1,1−エチレン基、1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,5−ペンチレン基、1,6−ヘキシレン基、1,12−ドデシレン基、1,18−オクタデシレン基等が挙げられる。炭素原子数1〜25のアルケニレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。具体的には、ブテニレン基、メチルブテニレン基、ペンテニレン基等が挙げられる。
炭素原子数3〜25のシクロアルキレン基としては、シクロペンテン基、シクロヘキセン基等が挙げられる。炭素原子数3〜25のシクロアルケニレン基としては、シクロペンチン基、シクロヘキシン基等が挙げられる。炭素原子数5〜25のアリーレン基としては、フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
【0024】
また、上記Rにおいて、炭素原子数1〜25のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。具体的には、メチル基,エチル基,n−プロピル基,i−プロピル基,n−ブチル基,i−ブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,イソペンチル基,t−ペンチル基,ネオペンチル基,イソヘキシル基等が挙げられる。
炭素原子数1〜25のアルケニル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。具体的には、アリル基,ビニル基,クロチル基,シンナミル基,1−ペンテン−1−イル基,2−ペンテン−1−イル基,3−ペンテン−1−イル基,1−ヘキセン−1−イル基,2−ヘキセン−1−イル基,3−ヘキセン−1−イル基,8−ヘプタデセン−1−イル基等が挙げられる。炭素原子数3〜25のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素原子数3〜25のシクロアルケニル基としては、2−シクロヘキセニル基,2−シクロペンテニル基等が挙げられる。
【0025】
上記尿素化合物(B)として、具体的には、フェニル尿素、ベンゾイル尿素、ベンジル尿素、フェニルアセチル尿素、2−ヒドロキシフェニル尿素、3−ヒドロキシフェニル尿素、4−ヒドロキシフェニル尿素、4−フェニルセミカルバジド、o−トリル尿素、m−トリル尿素、p−トリル尿素等が挙げられる。これらは単独又は2種以上組み合わせて用いることが可能である。
このうちフェニル尿素、ベンジル尿素、フェニルアセチル尿素、3−ヒドロキシフェニル尿素を用いることが好ましい。
【0026】
尿素化合物(B)の含有量は、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.01質量部〜5質量部である。このような範囲とすることにより、樹脂組成物の結晶化速度を向上することができる。尿素化合物の含有量は、0.1質量部〜2質量部であることが好ましく、0.3質量部〜1質量部であることがより好ましい。
【0027】
尿素化合物(B)の製造方法としては、イソシアナート化合物とアミン化合物とを反応させる方法や、ルテニウム錯体触媒下で、ニトロヘンセンと一酸化炭素とを、水素の存在下で反応させて、N、N’−ジフェニル尿素とアニリンを生成する方法、アミンと一酸化炭素とをコバルトカルボニル、酢酸銀、イオウ、セレン、白金族金属等の触媒を用いて反応させる方法、白金族金属を含む化合物を主体とする触媒の存在下で、二種類の芳香族アミン化合物を反応させる方法、等が挙げられる。
【0028】
<有機造核剤(C)>
本発明は、有機造核剤(C)を含有していてもよい。この有機造核剤を含有することにより、樹脂組成物の結晶化速度をより向上させることができる。有機造核剤(C)は、下記一般式(2)で示される構造を有する化合物、フタロシアニン化合物及びアミノ化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種の化合物である。
【0029】

[式中、R,R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
【0030】
上記炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシル基としては、シクロヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−メチルシクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、2−エチルシクロヘキシル基、3−エチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、2−n−プロピルシクロヘキシル基、3−n−プロピルシクロヘキシル、4−n−プロピルシクロヘキシル基、2−iso−プロピルシクロヘキシル基、3−iso−プロピルシクロヘキシル基、4−iso−プロピルシクロヘキシル基、2−n−ブチルシクロヘキシル基、3−n−ブチルシクロヘキシル基、4−n−ブチルシクロヘキシル基、2−iso−ブチルシクロヘキシル基、3−iso−ブチルシクロヘキシル基、4−iso−ブチルシクロヘキシル基、2−sec−ブチルシクロヘキシル基、3−sec−ブチルシクロヘキシル基、4−sec−ブチルシクロヘキシル基、2−tert−ブチルシクロヘキシル基、3−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、2,3−ジメチルシクロヘキシル基、2,4−ジメチルシクロヘキシル基、2,5−ジメチルシクロヘキシル基、2,6−ジメチルシクロヘキシル基、2,3,4−トリメチルシクロヘキシル基、2,3,5−トリメチルシクロヘキシル基、2,3,6−トリメチルシクロヘキシル基、2,4,6−トリメチルシクロヘキシル基、3,4,5−トリメチルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0031】
上記一般式(2)で示される構造を有する化合物として、具体的にはトリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(3−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(4−メチルシクロヘキシルアミド)、トリメシン酸トリ(2,3−ジメチルシクロヘキシルアミド)等が挙げられる。このうち、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)を用いることが好ましい。
【0032】
上記一般式(2)で示される構造を有する化合物は、例えばトリメシン酸又はトリメシン酸クロライドと、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミンを、アミド化反応させることにより得ることができる。
上記炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシルアミンとしては、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、3−メチルシクロヘキシルアミン、4−メチルシクロヘキシルアミン、2−エチルシクロヘキシルアミン、3−エチルシクロヘキシルアミン、4−エチルシクロヘキシルアミン、2−n−プロピルシクロヘキシルアミン、3−n−プロピルシクロヘキシルv、4−n−プロピルシクロヘキシルアミン、2−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、3−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、4−iso−プロピルシクロヘキシルアミン、2−n−ブチルシクロヘキシルアミン、3−n−ブチルシクロヘキシルアミン、4−n−ブチルシクロヘキシルアミン、2−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、3−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、4−iso−ブチルシクロヘキシルアミン、2−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、3−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、4−sec−ブチルシクロヘキシルアミン、2−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、3−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、4−tert−ブチルシクロヘキシルアミン、2,3−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,4−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,5−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン、2,3,4−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,3,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、2,4,6−トリメチルシクロヘキシルアミン、3,4,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、等が挙げられる。
【0033】
フタロシアニン化合物としては、フタロシアニンブルーやフタロシアニングリーン、フタロシアニンレッド等が挙げられる。
アミノ化合物としては、トリプトファン、フェニルアラニン、p−クロロ−フェニルアラニン、m−チロシン、フェニルグリシン、p−ヒドロキシフェニルグリシン、メチオニン、o−チロシン及びバリン等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(2)で示される構造を有する化合物、フタロシアニン化合物及びアミノ化合物のうち、トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド、トリメシン酸トリ(2−メチルシクロヘキシルアミド)、フタロシアニンブルー、m−チロシンを用いることがより好ましい。
【0035】
有機造核剤(C)は粒状であり、その中心粒径は、10μm以下が好ましく、5μm以下が好ましい。最大粒径は30μm以下が好ましく、20μm以下が特に好ましい。
中心粒径を10μmより小さく又は最大粒径を30μmより小さくすることにより、有機造核剤(C)を脂肪族ポリエステル樹脂(A)中に十分に溶解させることが可能となり、造核作用を向上させることが可能となる。その結果、樹脂組成物の結晶化速度をよりいっそう向上させることが可能となる。
ここで、「中心粒径」とは、レーザー回折光散乱法(体積基準)により測定した粒度分布において、出現頻度が50%となるときの粒子径をいう。また「最大粒径」とは、当該粒径より小さい粒子量の、全粒子量に対する百分率が99質量%である粒径をいう。
【0036】
有機造核剤(C)の含有量は、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.01質量部〜5質量部であることが好ましく、0.05質量部〜2質量部であることが好ましく、0.1質量部〜1質量部であることがより好ましい。含有量を0.01質量部以上とすることによって樹脂組成物の結晶化速度をより向上させることが可能となる。
【0037】
<その他>
本発明では上記の成分のほかに、必要に応じて他の付加的成分を添加してもよい。例えば、無機充填剤、無機造核剤、エラストマー、酸化防止剤、耐候性改良剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤、各種着色剤、有機充填剤、末端封止剤、等が挙げられる。
【0038】
無機充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、ガラスビーズ、マイカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸カリウムウィスカー、タルク、カオリナイト、ベントナイト、スメクタイト、セピオライト、ワラストナイト、モンモリロナイト、クレー、アロフェン、イモゴライト、繊維状マグネシウムオキシサルフェート硫酸バリウム、ガラスフレーク、カーボンブラック等が挙げられる。
無機造核剤としては、窒化ホウ素、タルク等が挙げられる。
【0039】
エラストマーとしては、ポリオレフィンエラストマー、スチレンエラストマーポリエステルエラストマー、アクリルエラストマー、コアシェルエラストマー等が挙げられる。ポリオレフィンエラストマーとしては天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、非晶性又は低結晶性のエチレン系エラストマー等が挙げられる。
上記エチレン系エラストマーは、エチレンに由来する単量体単位を主成分として含有するエラストマーであり、例えばエチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−エチレン系不飽和エステル共重合体が挙げられる。
スチレンエラストマーとしては、ポリ(スチレン−b−エチレン−co−ブタジエン−b−スチレンエラストマー)、ポリ(スチレン−b−ブタジエン−b−スチレンエラストマー)が挙げられる。
【0040】
アクリルエラストマーは、アクリル酸アルキルエステル単量体、芳香族ビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体とアクリル酸アルキルエステル単量体からなる群から選ばれるいずれか1種の単量体と、共重合可能なビニル単量体とを、重合することで得られるエラストマーである。
アクリル酸アルキルエステル単量体としてはメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等アルキル基を有するアクリル酸誘導体が挙げられる。
芳香族ビニル単量体の具体例としてはスチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン等が挙げられる。
アクリル酸アルキルエステル単量体と芳香族ビニル単量体と共重合可能なビニル単量体の具体例としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体等が挙げられる。
【0041】
コアシェルエラストマーは上記アクリルエラストマーをコア層として、シアン化ビニル系単量体、芳香族ビニル系単量体、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも一種のビニル系単量体をシェル層として共重合したエラストマーである。
その他のエラストマーとしては、フッ素ゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0042】
本発明の樹脂組成物を用いて得られる成形体の製造方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、回転成形法、真空成形法、発泡成形法、ブロー成形法等の成形法が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定され
るものではない。
物性の評価は、以下の方法により行った。
【0044】
<結晶化度>
示差走査熱量分析装置(TAインスツルメンツ社製、DSC900)を使用して、評価試料約6mgを200℃で5分間保持後、5℃/分の速度で、200℃から0℃まで降温した際の、結晶化エンタルピーΔHc(J/g)を測定し、結晶化度を下記式より算出した。ΔHcmaxは完全理想結晶融解エンタルピーを表し、ポリ乳酸の数値93.6(J/g)を値として代入した。
結晶化度(%)=ΔHc/ΔHcmax×100
【0045】
<半結晶化時間>
示差走査熱量分析装置(パーキンエルマー社製、DiamondDSC)を使用して、評価試料約6mgを220℃で5分間保持後、125℃まで降温し、ポリエステル組成物の結晶化に由来する発熱カーブに対して、ベースラインを求め、相対結晶化度を下記式より算出した。
ΔHは結晶化エンタルピーを、tは測定開始からの経過時間を示す。


上記方法で算出した相対結晶化度と測定時間の関係を、図1及び図2に示す。これらの図において、相対結晶化度が50%に達する時間を半結晶化時間として算出した。半結晶化時間が短いほど結晶化速度が高いということを示す。
【0046】
<実施例1〜5及び比較例1〜3>
実施例に使用した材料は、以下の通りである。
・脂肪族ポリエステル樹脂(A)((A)成分)
ユニチカ社製「テラマック(登録商標)TE−2000C」
(ポリ乳酸樹脂、MFR(230℃、21N)=41g/10分)
・尿素化合物(B)((B)成分)
(B1)東京化成工業社製「ベンジル尿素」



(B2)東京化成工業社製「フェニルアセチル尿素」





(B3)東京化成工業社製「3−ヒドロキシフェニル尿素」


【0047】
・有機系造核剤(C)((C)成分)
(C1)新日本理化社製「エヌジェスターTF−1(トリメシン酸トリシクロヘキシルアミド)」



(C2)東京化成工業製「フタロシアニンブルー(β型)」
【0048】
上記(A)成分〜(C)成分を、表1及び表2に記載の割合で混練し、プレス機(神藤金属工業所製)と厚さ0.1mmの金属スペーサーを用いて、190℃で予熱10分、5.5MPaで3分加圧し、4.5MPaの加圧下で30℃まで冷却して5分間ホールドした。得られた厚さ0.1mmのシートを切断し、評価試料とした。その結果を表1及び表2に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル(A)と、下記一般式(1)で表される尿素化合物(B)と、を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
X−NHCONH−R−R・・・・(1)
[式中、Xは水素原子、アリール基、アラルキル基、及びアセチル基からなる群から選ばれるいずれか1種の基であり、
は炭素原子数1〜25のアルキレン基、炭素原子数1〜25のアルケニレン基、炭素原子数3〜25のシクロアルキレン基、炭素原子数3〜25のシクロアルケニレン基、炭素原子数5〜25のアリーレン基、及び単結合、からなる群から選択されるいずれか1種を示す。
また、Xが水素原子の場合、Rは、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、オキサゾリン基及びイミド基からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種の基を示し、
Xがアリール基、アラルキル基又は、アセチル基の場合、Rは、水素原子、炭素原子数1〜25のアルキル基、炭素原子数1〜25のアルケニル基、炭素原子数3〜25のシクロアルキル基、及び炭素原子数3〜25のシクロアルケニル基からなる群から選択される少なくとも1種の基を示す。]
【請求項2】
前記尿素化合物(B)の含有量は、前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.01質量部〜5質量部である請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪族ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、有機造核剤(C)を0.01質量部〜5質量部更に含有する請求項1又は2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機造核剤(C)が、下記一般式(2)で表されるアミド化合物、フタロシアニン化合物及びアミノ化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種の化合物である請求項3に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基を有していてもよいシクロヘキシル基を表す。]
【請求項5】
前記脂肪族ポリエステル(A)が、ポリ乳酸である請求項1から4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132514(P2011−132514A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263268(P2010−263268)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】