説明

脂肪族ポリエステル繊維構造物

【課題】本発明は、乾燥状態における摩擦に対する染色堅牢度が4級以上に向上した脂肪族ポリエステル繊維構造物を提供するものである。
【解決手段】L*値が70未満である繊維構造物であって、ホウ素系界面活性剤を0.5〜6.0質量%含有する脂肪族ポリエステル繊維からなり、JIS−L−0849の規定に基づいて摩擦試験機II形によって測定した摩擦に対する染色堅牢度が、乾燥状態及び湿潤状態のいずれにおいても4級以上である。
【選択図】なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリエステル繊維構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエチレンテレフタレート繊維をはじめとする芳香族ポリエステル繊維は、機械的特性や各種堅牢度、ウオッシュアンドウエア性に優れるため、衣料用途をはじめ産業資材用途などの多方面で用いられている。一方、近年環境問題への関心が高まる中、芳香族ポリエステル繊維は自然環境下では容易に分解しないため、環境保護の観点から生分解性材料への代替が求められるようになってきた。また、石油資源の枯渇についても問題視されており、広く産業界では石油を原料とする芳香族ポリエステル自体の使用量を低減しようとする風潮もある。
【0003】
このような背景の中、繊維分野においても、芳香族ポリエステルの代替材料として生分解性を有し、かつ良好な機械的特性を有する脂肪族ポリエステルが各種用途に用いられつつあり、例えば衣料分野などの染色を必要とする用途においても展開され始めている。特にポリ乳酸繊維については、とうもろこしなどの植物を原料として用いていることから石油資源の節約につながるとともに、生分解性ポリマーの中では比較的融点が高く、透明性が高いなどの特徴を有しているため、様々な用途分野で幅広く展開され始めている。
【0004】
しかし一般に、脂肪族ポリエステル繊維は、従来の芳香族ポリエステル繊維に比べて、摩擦に対する染色堅牢度が劣っているという問題点がある。すなわち、脂肪族ポリエステル繊維は、淡色に染色した場合には、湿潤状態および乾燥状態ともに実用上問題ないとされる4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を有しているが、これを中色ないし濃色に染色した場合には、湿潤状態においては4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を維持できるものの、乾燥状態においては摩擦に対する染色堅牢度が低く、4級に満たなくなるという問題が生じている。そのため、脂肪族ポリエステルの摩擦堅牢度について、より一層の向上が求められており、その手法については幾つかの提案がなされている。
【0005】
例えば、ポリ乳酸繊維構造物の表面に、フッ素系化合物および/またはシリコーン系化合物を主体とする重合体皮膜を形成させる方法(例えば、特許文献1参照)や、脂肪族ポリエステル系繊維構造物の繊維表面にオルガノポリシロキサンとポリエチレンワックスを被覆させる方法(例えば、特許文献2および3、4参照)、および脂肪族ポリエステル繊維表面に平滑剤を付与させる方法(例えば、特許文献5参照)などの例が挙げられる。しかし、これらのように後加工により繊維表面に皮膜を形成させて、平滑性を向上させることで摩擦堅牢度を改善する方法では、使用中や洗濯時に繰り返し発生する磨耗により繊維表面の皮膜が破損し脱落するため、摩擦堅牢度が悪化することとなり、実用的な耐久性で劣るという課題を残している。
【0006】
一方、複合繊維を用いる方法についても提案されており、例えば、芯部に脂肪族ポリエステルを用い鞘部に熱可塑性ポリアミドを用いた芯鞘複合繊維(例えば、特許文献6参照)の例が挙げられる。しかしこの場合、異種ポリマーを複合化するため、紡糸の難易度が高くなることに加え、繊維自体の生分解性も損なわれている。また染色の段階においても、脂肪族ポリエステルとポリアミドの両方が染色可能な分散染料で染色をした場合では、摩擦堅牢度は向上するが耐光堅牢度や洗濯堅牢度などの他の染色堅牢度が悪化するという問題を生じる。一方、脂肪族ポリエステルに適した分散染料とポリアミドに適した酸性染料とで染色を行った場合では、染色工程が複雑になるため逆に加工コストが高くなるという問題があった。
【特許文献1】特開2002−161478号公報
【特許文献2】特開2002−294562号公報
【特許文献3】特開2002−294565号公報
【特許文献4】特開2002−294569号公報
【特許文献5】特開2003−049364号公報
【特許文献6】特開2004−036035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの問題を解決するものであって、従来の湿潤状態での染色堅牢度を損なうことなく、乾燥状態における摩擦に対する染色堅牢度が大幅に向上した脂肪族ポリエステル繊維構造物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ホウ素系界面活性剤を脂肪族ポリエステル繊維に含有させることにより摩擦堅牢度が大幅に向上することを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
(a)L*値が70未満である繊維構造物であって、ホウ素系界面活性剤を0.5〜6.0質量%含有する脂肪族ポリエステル繊維からなり、摩擦に対する染色堅牢度が、乾燥状態及び湿潤状態のいずれにおいても4級以上であることを特徴とする脂肪族ポリエステル繊維構造物。
(b)脂肪族ポリエステル繊維がポリ乳酸系重合体からなる繊維であることを特徴とする(a)記載の脂肪族ポリエステル繊維構造物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維構造物は、以上のような構成により湿潤状態のみならず乾燥状態においても摩擦による染色堅牢度が4級以上の優れたものとなる。これにより、使用中や洗濯時の摩擦による色移りが発生しにくいため、中濃色に染色して用いられる衣料や資材などにおいても好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の脂肪族ポリエステル繊維構造物は、L*値が70未満であり、ホウ素系界面活性剤を0.5〜6質量%含有した脂肪族ポリエステル繊維からなり、摩擦に対する染色堅牢度が乾燥状態及び湿潤状態のいずれにおいても4級以上である。
【0011】
本発明の脂肪族ポリエステル繊維構造物としては、脂肪族ポリエステル繊維を主たる構成繊維としてなる構造物であり、具体的には、脂肪族ポリエステル繊維などの構成繊維を糸状、織物、編物、不織布、組紐状などの形態に形成したものである。
【0012】
本発明における脂肪族ポリエステル繊維としては、脂肪族ポリエステルを主たる構成成分として溶融紡糸して得られる繊維である。本発明において使用される脂肪族ポリエステルとしては、土壌中、水中などの自然環境中に長期間放置したときに微生物などの作用によって炭酸ガスと水に分解される生分解性の脂肪族ポリエステルをさすものであり、以下のタイプを例示することができる。
【0013】
第一のタイプとしては、ヒドロキシカルボン酸からなるポリエステルであり、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリ(β−プロピオラクトン)、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシカプロネート、ポリ−3−ヒドロキシヘプタノエート、ポリ−3−ヒドロキシオクタノエート、ポリ−3−ヒドロキシバリレート、ポリ−4−ヒドロキシブチレートおよびこれらの繰り返し単位の組み合わせによる共重合体などが挙げられる。
【0014】
また第二のタイプとしては、グリコールとジカルボン酸との重縮合体からなるポリアルキレンアルカノエートであり、例えば、ポリブチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリエチレンアゼレート、ポリエチレンオキサレート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンセバケート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリネオペンチルオキサレートおよびこれらを主たる繰り返し単位として含むポリアルキレンアルカノエート共重合体などが挙げられる。
【0015】
この中で、本発明における脂肪族ポリエステルとしては、最終的に得られる繊維構造物に対する生分解性、耐熱性および機械的強度などの要求性能の観点から、特にポリ乳酸を主体成分としたポリ乳酸系重合体であることが好ましい。そのようなポリ乳酸系重合体としては、ポリ−D−乳酸、ポリ−L−乳酸、D−乳酸とL−乳酸との共重合体、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、D−乳酸とL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体が挙げられる。ここで、乳酸の単独重合体であるポリ−L−乳酸およびポリ−D−乳酸の融点はともに約180℃であるが、ポリ乳酸系重合体として上記共重合体を用いる場合には、機械的強度、融点などを考慮して共重合体成分の共重合比を決定することが好ましい。例えば、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合にはD−乳酸とL−乳酸のいずれか一方が90モル%以上100モル%未満、他方が0を超え10モル%未満の範囲であることが好ましい。また、例えばD−乳酸又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体の場合には、上記乳酸成分が90モル%以上100モル%未満、ヒドロキシカルボン酸成分が0を超え10モル%未満の範囲であることが好ましい。
【0016】
ここで、ポリ乳酸系重合体中に共重合されうるヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などが挙げられ、これらの中では、特にヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸が好ましい。
【0017】
また、本発明で用いるポリ乳酸系重合体として、L−乳酸を主成分とするポリ−L−乳酸とD−乳酸を主成分とするポリ−D−乳酸とを溶液状態あるいは溶融状態で混合して、これら2成分間に立体特異的な結合を生じさせることにより形成できるポリ乳酸ステレオコンプレックスを使用してもよい。
【0018】
本発明における脂肪族ポリエステル繊維としては、L*値が70未満である。
ここでいうL*値は、CIELab表色系におけるものであり、明度を示し、その値が小さくなるほど淡色から中色、濃色へと発色性が良くなることになる。本発明における脂肪族ポリエステル繊維のL*値が70未満であることは、中色から、より濃い色に染色されていることを示す。ちなみに、L*値が70未満の脂肪族ポリエステル繊維からなる繊維構造物では、通常、湿潤状態では4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を示すが、乾燥状態では4級未満の低い値となり染色堅牢度に劣るという課題を有している。
【0019】
本発明における脂肪族ポリエステル繊維としては、繊維質量に対し0.5〜6.0質量%のホウ素系界面活性剤を含有していることが必要である。繊維中におけるホウ素系界面活性剤の含有量が0.5質量%未満の場合、繊維構造物表面の滑り性の改善効果が少ないため、繰り返し使用に伴う摩擦により繊維表面の損傷が起こり、その結果、目的とする4級以上の摩擦堅牢度が得られないこととなる。一方、ホウ素系界面活性剤が6.0質量%を超える場合、紡糸段階において糸切れが多くなり操業性が悪化することとなる。
【0020】
本発明におけるホウ素系界面活性剤としては、例えば、グリセロールボレイト−ラウレート、グリセロールボレイト−パルミテート、グリセロールボレイト−ステアレート、グリセロールボレイト−オレート、グリセロールボレイト−イソステアレート、グリセロールボレイト−イソステアレート、グリセロールボレイト−ヒドロキシステアレートなどを挙げることができる。この中では特にグリセロールボレイト−オレートが、脂肪族ポリエステルとの溶融混合性がよいため好ましい。
【0021】
本発明におけるホウ素系界面活性剤を繊維中に含有させる方法としては、特に制限はなく、公知の方法で行なうことができる。例えば、紡糸に先だって脂肪族ポリエステルと所定量の当該界面活性剤とをドライブレンドした後、溶融紡糸する方法でもよいし、あるいは、予め当該界面活性剤を高濃度に含有させた脂肪族ポリエステルのマスターチップを作製し、これと脂肪族ポリエステルとを紡糸工程までの任意の工程で混合する方法でもよい。本発明における脂肪族ポリエステル繊維の紡糸方法としては、特に限定はなく、通常の溶融紡糸方法で行なうことができる。
【0022】
本発明の脂肪族ポリエステル繊維構造物における摩擦に対する染色堅牢度としては、乾燥状態および湿潤状態のいずれにおいても4級以上である。ここで、上記摩擦に対する染色堅牢度は、JIS−L−0849の規定に基づいて測定されたものである。通常、脂肪族ポリエステル繊維からなる繊維構造物では、湿潤状態での摩擦に対する染色堅牢度は4級以上を有するが、乾燥状態では繰り返し使用に伴う摩擦により繊維表面の損傷が起こりやすいため、染色堅牢度は4級未満となる。本発明の脂肪族ポリエステル繊維構造物では、上記のホウ素系界面活性剤を所定量含有させることで摩擦に対する染色堅牢度を4級以上に維持することができる。
【0023】
本発明における脂肪族ポリエステル繊維の形態としては、特に限定されるものではなく、例えば繊維断面については、丸断面の他、偏平、三角、十字、多葉、中空、井型などの異型断面を採用してもよい。また、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよく、フィラメントについてはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。また、原糸でも、仮撚加工やニットデニット、流体噴出加工などが施された加工糸でもよく、ダブルツイスターやイタリー式撚糸機、リング撚糸機などを用いた撚り係数1000〜30000程度の撚糸として用いてもよい。また、必要に応じ耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、艶消剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤、着色剤、難燃剤、強化剤、静電防止剤、耐光剤、熱安定剤などの各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加してもよい。
【0024】
本発明の繊維構造物としては、本発明における脂肪族ポリエステル繊維のみから構成されるものの他、上記脂肪族ポリエステル繊維と、レーヨン、キュプラ、ポリノジックなどの再生セルロース繊維、リヨセルなどの溶剤紡糸セルロース繊維、および綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維等の中から選ばれた1種以上の繊維とから構成されるものであってもよい。ちなみに、上記再生セルロース繊維、溶剤紡糸セルロース繊維または天然繊維は、脂肪族ポリエステル繊維に比べると、乾燥状態における摩擦に対する染色堅牢度は優れている。また、生分解性が損なわれても良い用途においては、本発明の摩擦堅牢度を損なわない範囲内でポリアミド、芳香族ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタンなどの合成繊維を構成成分の一部に含んでいてもよい。
【0025】
本発明における脂肪族ポリエステル繊維と、上記再生セルロース繊維などの他の繊維とからなる繊維構造物の形態としては、精紡工程において両者を混紡した混紡糸、2種以上の繊維を合わせた混繊糸、製編工程において交編した交編編物、製織工程において交織した交織織物などの例が挙げられる。
【0026】
本発明における脂肪族ポリエステル繊維の染色にあたっては、分散染料により行なわれることが好ましく、繊維構造物を形成する以前に綿染めなどによって染色してもよく、あるいは繊維構造物を形成した後すなわち糸条、織物、編物などに形成した後に染色してもよい。例えば、繊維構造物を形成した後において染色加工する場合では、染色仕上げ加工の各工程での条件は繊維構造物を構成する脂肪族ポリエステル繊維の強度等を考慮して決定されるものであり、通常は次のような条件範囲が採用される。
【0027】
すなわち、染色に先立って繊維構造物形成時に付与した糊剤、繊維に付着している油剤などを除去する精練工程では、弱アルカリ剤水溶液(界面活性剤濃度:1〜2g/l、ソーダ灰濃度:2〜5g/l)中において、繊維構造物を70〜90℃の温度条件下で5〜30分間の精練処理を行なう。次に、精練後の乾燥工程では80〜130℃で過乾燥にならない程度の時間で乾燥する。そして、プレセット工程においては、精練された繊維構造物に90〜130℃で30〜90秒間の熱処理を行なう。
【0028】
次に、染色工程では、プレセットされた繊維構造物を所定量の分散染料、ナフタレン−スルホン酸ホルムアルデヒド縮合物などの分散剤およびpH調整剤などを含むpH4〜5.5の水溶液中において、高圧染色法により100〜120℃で20〜60分間の染色処理を行なう。この場合、分散染料は繊維構造物に対し0.1質量%以上含有させることが好ましい。以上のようにして、L*値が70未満で、分散染料で好適に染色された本発明の繊維構造物が得られる。また、本発明の目的とする効果を損なわない範囲で、帯電防止剤、柔軟剤、撥水剤、防汚剤、深色化剤、吸水剤などを付与してもよい。これらを付与する場合、染色された繊維構造物を上記の機能付与剤を含有する溶液中に浸漬し、マングルで均一に絞った後、130℃以下の温度で乾燥・キュアするパッド−ドライ法により行なうことが好ましい。その後、仕上げセット工程として、繊維構造物を90〜130℃で30〜90秒間の熱処理を行なう方法がとられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。また、実施例における測定、評価は下記の方法で行った。
(a)L*値
マクベス社製分光光度計CE−3100を用い、C光源、視野角度2度の条件で繊維構造物表面の測色を行なった。L*値は、これに基づきCIELab表色系により求めた。
(b)摩擦に対する染色堅牢度
摩擦に対する染色堅牢度は、JIS−L−0849の規定に基づいて測定される。具体的には摩擦試験機II形に試験片(220×30mm)として繊維構造物を試験片台上にセットするとともに摩擦用白綿布を摩擦子の先端に取り付け、2Nの荷重で試験片100mm間を毎分30回往復の速度で100回往復摩耗させ、摩擦用白綿布の着色の程度をグレースケールと比較することで繊維構造物の堅牢度を判定する。
【0030】
(実施例1)
L−乳酸を主成分とする数平均分子量が72,000のポリ乳酸(L−乳酸単位:98.8%、D−乳酸単位:1.2%)に対し、ホウ素系界面活性剤であるアンスレックスUN−6(東邦化学社製:グリセロールボレイト−オレート)10質量%を溶融混合してマスターチップを製造した。次に、マスターチップとL−乳酸を主成分とする数平均分子量が72,000のポリ乳酸(L−乳酸単位:98.8%、D−乳酸単位:1.2%)のチップとをアンスレックスUN−6が2質量%になるように混合しながら、210℃で溶融させた。溶融ポリマーを紡糸温度210℃、口金の孔数36、紡糸速度1400m/分で紡糸し、240デシテックス/36フィラメントのポリ乳酸高配向未延伸糸を得た。
【0031】
この高配向未延伸糸を83℃の加熱ローラで1.8倍に延伸し、135デシテックス/36フィラメントのポリ乳酸延伸糸を得た。得られた延伸糸は強度3.29cN/デシテックス、伸度31.9%であった。このポリ乳酸延伸糸を経糸および緯糸に用い、経糸密度115本/2.54cm、緯糸密度85本/2.54cmの平織物を製織した。
【0032】
次に、得られた平織物について液流染色機を用いて80℃×20分の条件で処理液(ノニオン系活性剤濃度:1g/l、ソーダ灰濃度:5g/l)中で精錬リラックスを行い、シュリンクサーファー型乾燥機にて120℃で乾燥させた後、130℃×1分のプレセットを施した。さらに、同染色機を用いて下記処方1にて110℃×30分の条件で染色処理を行なった。その後、130℃×1分の条件で仕上げセットを行い、本発明の脂肪族ポリエステル繊維からなる織物を得た。
処方1(分散染料の水分散液)
Dianix Blue UN−SE 2%omf
(ダイスタージャパン社製:分散染料)
ニッカサンソルト SN−130 0.5g/リットル
(日華化学社製:分散均染剤)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/リットル
(実施例2)
実施例1において、製織を経糸密度125本/2.54cm、緯糸密度85本/2.54cmの2/2ツイル織物に、染色を下記処方2に変更する以外は、実施例1と同様にして実施例2の織物を得た。
処方2(分散染料の水分散液)
Kiwalon Polyester Black SK−269 Liquid
(紀和化学社製:分散染料) 5%omf
ディスパーTO 1.0g/リットル
(明成化学社製:分散均染剤)
酢酸(濃度48質量%) 0.2cc/リットル
【0033】
(比較例1)
繊維中のアンスレックスUN−6濃度が0.4質量%となるようにマスターチップとポリ乳酸の混合割合を変更する以外は、実施例1と同様にして比較例1の織物を得た。
(比較例2)
繊維中のアンスレックスUN−6濃度が8質量%となるようにマスターチップとポリ乳酸の混合割合を変更する以外は、実施例1と同様にして比較例2の操作を行なった。
(比較例3)
繊維中のアンスレックスUN−6濃度が0.4質量%となるようにマスターチップとポリ乳酸の混合割合を変更する以外は、実施例2と同様にして比較例3の織物を得た。
上記実施例および比較例によって得られた繊維構造物のL*値および摩擦に対する染色堅牢度を測定し、その結果を表1に示した。
【0034】
【表1】


表1から明らかなように、実施例および比較例のいずれもL*値は70未満であり中色以上の濃度に染色されている。
この中で、実施例1および2によって得られた織物については、ホウ素系界面活性剤の含有量が適正な範囲であるため、実施例1及びさらに濃色に染色された実施例2(L*値が相対して低い)においても、乾燥状態および湿潤状態のいずれでも、4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を有する良好なものであった。
【0035】
一方、比較例1によって得られた織物は、ホウ素系界面活性剤の含有量が0.4質量%と低すぎるため、湿潤状態では4級以上の摩擦に対する染色堅牢度を有しているものの、乾燥状態での当該染色堅牢度は3級以下と低いものであった。また、比較例2ではホウ素系界面活性剤の含有量が8質量%と高すぎるため、紡糸時に飛び出しなどによる糸切れが多発し、操業性が悪く、後の評価に耐える繊維は得られなかった。さらに、比較例3ではホウ素系界面活性剤の濃度が比較例1と同様に低すぎるため、比較例1よりも濃色に染色(L*値が相対して低い)されていることに対応して、乾燥状態での摩擦に対する染色堅牢度はより悪化するものであった。
以上の結果から、本発明の脂肪族ポリエステル繊維構造物においては、繊維中に所定量のホウ素系界面活性剤を含有させることによって、繊維構造物の乾燥状態における摩擦に対する染色堅牢度が向上し、湿潤状態におけるそれも本来のレベルを維持していることが分かる。











【特許請求の範囲】
【請求項1】
L*値が70未満である繊維構造物であって、ホウ素系界面活性剤を0.5〜6.0質量%含有する脂肪族ポリエステル繊維からなり、摩擦に対する染色堅牢度が、乾燥状態及び湿潤状態のいずれにおいても4級以上であることを特徴とする脂肪族ポリエステル繊維構造物。
【請求項2】
脂肪族ポリエステル繊維がポリ乳酸系重合体からなる繊維であることを特徴とする請求項1記載の脂肪族ポリエステル繊維構造物。


【公開番号】特開2007−77527(P2007−77527A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265366(P2005−265366)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】