説明

脂肪由来幹細胞の産生方法および疾患の治療における当該細胞の使用

本発明は細胞療法において使用するための脂肪由来幹細胞の調製方法を提供する。さらなる側面において、本発明は、本発明の方法によって調製される細胞、医薬組成物、および患者の治療における使用のために適切なキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪由来幹細胞の産生方法および疾患の治療における当該細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
〔幹細胞治療〕 間葉系幹細胞(MSCs)は、間葉系細胞(脂肪細胞、骨芽細胞および軟骨細胞)、さらに、筋細胞、神経細胞、内皮細胞、星状細胞および上皮細胞へも分化することができる多能性成人幹細胞である。MSCsは、最初正常な成人骨髄について報告されたが(BM−MSCs)、その他の供給源、たとえば臍帯血、末梢血および脂肪組織、から得ることもできる。
【0003】
脂肪組織は、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞(hASC)と呼ばれるMSCsの一つの供給源であり、吸引された脂肪組織から単離され、長時間拡大培養される。hASCsは、髄質におけるこれらのカウンターパートと、いくつかの特長、たとえば分化能、低免疫原性および免疫応答を抑制する能力を共有している。双方の細胞型を比較した最近の研究によれば、hASCとBM−MSCが、類似性を共有している一方で、実際のところ全く相違していることを示唆する、転写レベルおよびプロテオミクスレベルでの相違が報告されている。hASCsが仲介する免疫抑制に内在する特異的なメカニズムは、これまでのところあまり研究されてきていない。近年、hASCsが、その少なくとも一部でプロスタグランジンE2(PGE2)の分泌を必要とするメカニズムにより、リンパ球増殖を阻害する可能性があることが報告されている。しかしながら、これらの研究は、(i)免疫抑制のメカニズムに関与するその他の細胞因子もしくは可溶性因子、(ii)単離されたT細胞サブセットに対する免疫抑制効果、または(iii)hASCsおよびPBMCs双方の共培養における表現型の変化に関する情報を提供していない。
【0004】
これらの生物学的な能力によって、hASCsを含むMSCsは、細胞療法および再生のための興味深い手段となる。このことは、BM−MSCsが、同種移植の拒絶反応、移植片対宿主病、実験的自己免疫性脳脊髄炎、コラーゲン誘導関節炎および自己免疫性心筋炎を軽減することを示す研究によって一層裏付けられる。さらに、マウスASCs(mASCs)は、インビボマウスモデルにおける同種移植後の移植片対宿主病に対する保護において非常に有効であることが最近報告されている。加えて、MSCsは、それらの免疫調節のおよび抗炎症性の能力に焦点を合わせた幾つかの臨床試験において使用されている。脂肪由来幹細胞療法は、組織再生から免疫性および/または炎症性の疾患に及ぶ様々な種類の疾患の治療において有望と思われる。これらの疾患を治療するために複数の方法が利用できるにもかかわらず、多くの現在の治療は十分な結果を提供できておらず、さらに重大な副作用の危険性を伴う。新たな緊急の治療方針の中でも、細胞療法に基礎をおく治療方針は、多くの疾患を治療する可能性ある手段をもたらすと思われる。それゆえ、現在、上記目的を達成するために、研究者によって懸命な努力が行われている。
【0005】
〔自己免疫疾患〕 自己免疫疾患は、人体をバクテリア、ウイルスおよび他のいかなる外来物質から防衛することになっている、人体の免疫系が機能不全のとき引き起こされ、健常な組織、細胞および器官に対する病的反応を引き起こす。
【0006】
T細胞およびマクロファージは有益な防衛を提供するが、同時に有害なまたは致命的な免疫応答を引き起こす。自己免疫疾患は、臓器特異的または全身性であり、そして様々な発症メカニズムによって誘発され得る。全身性自己免疫疾患は、多クローン性B細胞活性化および免疫調整T細胞、T細胞受容体およびMHC遺伝子の異常を伴う。臓器特異的自己免疫疾患の例は、糖尿病、甲状腺機能亢進症、自己免疫副腎機能不全、真性赤血球性貧血、多発性硬化症およびリウマチ性心臓炎である。代表的な全身性自己免疫疾患としては、全身性エリテマトーデス(全身性紅斑性狼瘡)、慢性炎症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎および強皮症が挙げられる。
【0007】
自己免疫疾患の現在の治療は、コルチゾン、アスピリン誘導体、ヒドロキシクロロキン、メトトレキサート、アザチオプリンもしくはシクロホスファミドまたはこれらの組合せ等免疫抑制剤の投与を伴う。しかしながら、免疫抑制剤が投与されるときに直面するジレンマは、自己免疫疾患が効果的に治療されればされるほど、患者は益々無防備になり、その結果感染症からの攻撃にさらされ、くわえて腫瘍が発生する影響も益々受けやすくなるということである。それゆえ、自己免疫疾患の治療のための新たな治療法に対する強い希求が存在する。
【0008】
〔炎症性疾患〕 炎症は、それにより人体の白血球および分泌因子が我々の人体をバクテリアやウイルス等の外来物質による感染から防衛する一連のプロセスであり、自己免疫疾患における通常のプロセスである。サイトカインやプロスタグランジンとして知られている分泌因子は、このプロセスを制御し、秩序ある自己限定的なカスケードにおいて、血液中または罹患組織に分泌される。一般的には、慢性炎症性疾患のための現在の治療は、非常に限られた効率しか有さず、これらの多くが副作用の高いおそれを有し、疾患の進行を完全に抑止することができない。今までのところ、理想的な治療法は無く、これらのタイプの病理のための治療薬もない。それゆえ、炎症性疾患の治療のための新たな治療法に対する強いニーズがある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1に示す、DPP−4のインヒビターであるジプロチンA(Ile−Pro−Ile)の様々な濃度での移動細胞の数(Y軸)を示す。図1から分かるように、ジプロチンAの濃度の増加は、細胞の移動を増大させる。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、脂肪由来幹細胞の調製方法であって、CD26アンタゴニストまたはインヒビターにさらされて、脂肪由来幹細胞の移動能力の促進をもたらす方法が提供される。さらなる側面において、本発明は、本発明の方法により産生される細胞、医薬組成物、および患者の治療における使用に適したキットを提供する。
【0011】
〔定義〕
本明細書の理解を容易にするために、本発明の文脈におけるいくつかの用語や語句の意味が以下に説明される。さらなる定義は必要に応じて明細書に沿って盛り込まれる。
【0012】
本明細書において「DPP−4」という用語は、膜貫通糖タンパク質ジペプチジルペプチダーゼIV(CD26およびDPP IVとしても知られている。)を意味するものとし、CXCR4仲介走化性を阻害する活性を有するその変異体のすべてを含むものとする。
【0013】
「DPP−4アンタゴニストまたはインヒビター」という用語は、DPP−4のCXCR4仲介走化性の阻害を抑制する化学物質を意味するものとする。
【0014】
「CXCR−4」という用語は、「fusin」として知られている細胞表面ケモカイン受容体を意味するものとする。
【0015】
本明細書において「同種異系の」という用語は、同種の異なる個体由来であることを意味するものとする。1以上の遺伝子座に存在する遺伝子が同一でないとき、2以上の個体は互いに同種異系であるといわれる。
【0016】
本明細書において「自己移植の」という用語は、同一の個体由来であることを意味するものとする。
【0017】
「自己免疫疾患」という用語は、被検体のそれ自身の細胞、組織および/または器官(臓器)に対する免疫学的反応により引き起こされる細胞、組織および/または器官(臓器)損傷によって特徴付けられる被検体における疾患をいうものとする。本発明の免疫調節細胞で治療され得る自己免疫疾患の説明に役立つ、非制限的な実例としては、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック病(セリアックスプルー皮膚炎)、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発神経障害、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡、クレスト症候群、寒冷凝集素症、円板状ループス(紅斑性狼瘡)、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛 線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA神経障害、若年性関節炎、扁平苔癬、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、I型または免疫介在性糖尿病、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発性筋痛、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変症、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、サルコイドーシス、強皮症、全身性進行性硬化症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、スティフマン症候群、全身性エリテマトーデス(紅斑性狼瘡)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、疱疹状皮膚炎性血管炎等の血管炎、白斑、ウェゲナー肉芽腫症、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質症候群、神経系の自己免疫疾患、家族性地中海熱、ランバート・イートン筋無力症候群、交感性眼炎、多腺性内分泌障害、乾癬等が挙げられる。
【0018】
「炎症性疾患」という用語は、慢性炎症等の炎症によって特徴付けられる被検体における疾患をいうものとする。炎症性疾患の説明に役立つ、非制限的な実例としては、セリアック病、リウマチ性関節炎(RA)、炎症性腸疾患(IBD)、ぜんそく、脳炎、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、炎症性骨溶解、アレルギー性疾患、敗血症性ショック、肺線維症(たとえば、特発性肺線維症)、炎症性vacultides(たとえば、結節性多発動脈炎、ウェゲナー肉芽腫症、高安動脈炎、側頭動脈炎およびリンパ腫様肉芽腫症)、外傷後血管形成術(たとえば、血管形成術後の再狭窄)、未分化脊椎関節症、未分化関節症、関節炎、炎症性骨溶解、慢性肝炎、および慢性のウイルスのまたは細菌の感染の結果として生ずる慢性炎症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0019】
「被検体」という用語は、動物、好ましくは非霊長類(たとえば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラットまたはマウス)および霊長類(たとえば、サルまたはヒト)を含む哺乳類をいうものとする。好ましい実施態様において、被検体はヒトである。
【0020】
本明細書において細胞表面マーカーに関して用いられる「陰性である」または「−」は、細胞集団において、20%、10%未満、好ましくは9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%未満の細胞が上記マーカーを発現しているか、または上記マーカーを発現する細胞がないことを意味するものとする。細胞表面マーカーの発現は、慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるべクトン・ディッキンソン FACS Caliburシステム)を用いて、たとえばある特定の細胞表面マーカーのためのフローサイトメトリーによって決定され得る。
【0021】
本明細書において「脂肪幹細胞(本明細書において「ASC」とも呼ばれる。)」という用語は、元々脂肪細胞由来の多能性細胞型を意味するものとする。「幹細胞」という用語は、連続的な分裂によって特殊化された細胞を生ずることができる細胞を意味するものとする。多能性幹細胞は、多様な種類の特殊細胞を生ずることができる。
【0022】
本明細書において「顕著な発現」という表現またはこれに相当する用語である「陽性である」および「+」は、細胞集団において、20%超、好ましくは30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%超、またはすべての細胞が前記マーカーを発現していることを意味するものとする。
【0023】
細胞表面マーカーの発現は、慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるべクトン・ディッキンソン FACS Caliburシステム)を用いて決定され、この方法および装置は、たとえばある特定の細胞表面マーカーを目的とするフローサイトメトリー、慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるべクトン・ディッキンソン FACS Caliburシステム)を用いたバックグランドシグナルを越えて特定の細胞表面マーカーに対するシグナルをフローサイトメトリーにおいて示す。上記バックグランドシグナルは、慣用のFACS解析において、それぞれの表面マーカーを検出するために用いられる特異抗体と同一のアイソタイプである非特異抗体によって与えられるシグナル強度として定義される。陽性と考えられているマーカーとして観測される特異的シグナルは、20%を超え、好ましくは30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%以上、または慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるべクトン・ディッキンソン FACS Caliburシステム)を用いたバックグランドシグナル強度より強いものである。
【0024】
本明細書において、患者または被検体に関して直接的に用いられるとき、「治療する」、「治療」および「治療の」という用語は、炎症性疾患、自己免疫性疾患または移植された臓器もしくは組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患を含むが、これらに限定されない、疾患に関連する一以上の症状の改善を意味するものとし、ここで、上記改善は上記治療を必要としている被検体に対する本発明の免疫調節細胞またはこれを含んでなる医薬組成物の投与に起因する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、治療において用いるための脂肪由来幹細胞(以下「ASC」という。)の調製方法を提供する。本発明の方法により調製されるASCは、細胞治療を必要としているインビボの箇所に対し増大された移動度を示し、上記ASCはその箇所において存在し続け、それにより有効性を増加させる。その結果、本発明は、医薬組成物、その調合または投与方法、キット、および治療における上記これらの使用をも提供する。
【0026】
本発明による方法
一つの側面において、本発明は、脂肪由来幹細胞(ASC)のエクスビボ調製方法を提供し、それによって、上記ASCはDPP−4アンタゴニストまたはインヒビターにさらされる。好ましくは、上記ASCを、DPP−4活性を阻害するために有効な量のDPP−4アンタゴニストまたはインヒビターにさらす。上記有効量は複数の因子に依存する。
【0027】
上記方法の一つの実施形態において、上記アンタゴニストまたはインヒビターは、アミノメチルピリジン、NVP DPP728、PSN9301、イソロイシン、チアゾリジド、デナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、ジプロチンAからなる群から選ばれるからなる群から選ばれる。上記方法の特に好ましい実施形態において、上記アンタゴニストまたはインヒビターは、ジプロチンAである。上記アンタゴニストまたはインヒビターがジプロチンAであるひとつの実施形態において、上記有効量は1乃至100mMの間の濃度である。
【0028】
治療の対象レシピエントに関し、本発明の方法において用いられるASCは、同種異型(ドナー)由来または自己(移植)(患者もしくは被検体)由来いずれのものでもよい。この方法の一つの実施形態において、上記ASCは同種異型由来のものである。
【0029】
ASCは任意の適切な起源の脂肪組織に由来し得るが、起源のなかでもっとも好ましいのはヒトである。上記細胞群は、好ましくは出生後の、非病的な哺乳類(たとえば、齧歯動物、霊長類)の起源から得られるのが好ましいが、特に好ましいのは、皮下脂肪組織または脂肪組織を結合した臓器(たとえば、心臓、肝臓、腎臓または膵臓)である。
【0030】
ASCは、好ましくは(i)APCs(抗原提示細胞)のための特異的なマーカーを発現しない、(ii)構成的にIDOを発現しない、(iii)IFN−γを用いた刺激に応答してIDOを発現する、および(iv)少なくとも2細胞系統へと分化させられる能力を提示する、という点で特徴づけられる。
【0031】
ASCマーカー
ASCは、次のAPCs系統のための特異的マーカーであるCD11b、CD11c、CD14、CD45、およびHLAIIの少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、または好ましくはすべてに対して好ましくは陰性である。さらに、ASCは、次の細胞表面マーカー:CD31、CD34およびCD133の少なくとも1つ、2つ、または好ましくはすべてに対して好ましくは陰性である。
【0032】
本明細書において、細胞表面マーカーに関して「陰性」であるとは、慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるベックマン・コールター Epics XL FACSシステム)を用いて、ASCを含む細胞集団において、10%未満、好ましくは9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%未満の細胞が、フローサイトメトリーにおいて、バックグランドシグナルを超える特定の細胞表面マーカーのためのシグナルを発現しているか、または当該シグナルを発現している細胞がないことを意味するものとする。特定の実施形態において、ASCは、それらが次の細胞表面マーカー:CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、または好ましくはすべてを発現する、すなわちASCは上記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105)の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、または好ましくはすべてに陽性である、という点で特徴づけられる。好ましくは、ASCは、それらが上記細胞表面マーカー(CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105)の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、または好ましくはすべてに顕著な発現レベルを有するという点で特徴づけられる。
【0033】
本明細書において、「顕著な発現」という表現は、慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるベックマン・コールター Epics XL FACSシステム)を用いて、ASCを含む細胞集団において、10%超、好ましくは20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%超、またはすべての細胞が、フローサイトメトリーにおいて、バックグランドシグナルを超える特定の細胞表面マーカーのためのシグナルを発現していることを意味する。上記バックグランドシグナルは、慣用のFACS解析において、各表面マーカーを検出するために用いられる特異抗体と同一のアイソタイプである非特異抗体によって与えられるシグナル強度として定義される。それゆえ、陽性と考えられているマーカーとして観測される特異的シグナルは10%より強く、好ましくは20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、500%、1000%、5000%、10000%以上、または慣用の方法および装置(たとえば、市販の抗体および当技術分野で知られている標準プロトコルとともに用いられるベックマン・コールター Epics XL FACSシステム)を用いたバックグランドシグナル強度より強い。
【0034】
場合によって、ASCは細胞表面マーカーCD106(VCAM−1)に対して陰性でもある。そのような細胞の例は、本明細書において、特定の脂肪組織由来間質幹細胞である。
【0035】
上記細胞表面マーカー(たとえば、細胞受容体および膜貫通タンパク)に対する市販のおよび知られているモノクローナル抗体をASCを同定するために使用することができる。
【0036】
IDOの発現 本発明において使用されるASCは構成的にIDOを発現しないが、IFN−γでの刺激に応答してIDOを発現する。実験 腫瘍壊死因子α(TNF−α)を50ng/mlの濃度で用い、またはエンドトキシン LPS(リポ多糖)を100ng/mlの濃度で用い、インターロイキン−1(IL−1)等の他の消炎症メディエーターを3ng/mlの濃度で用いて刺激した上記細胞群は、慣用のRT−PCRおよびウエスタンブロット解析によって測定したところ、IDO発現を誘導しなかった。たとえば3ng/ml以上でIFN−γを用いた刺激はASCでHLAIIの発現をも誘導することができ、その結果ある細胞表面マーカーのための本明細書において定義する陽性シグナルを与える。上記発現は、特異的タンパクの発現の検出を可能とする任意の既知の技術を用いる当業者によって検出され得る。好ましくは、上記技術は細胞サイトメトリー技術である。
【0037】
ASC分化 本発明による方法において用いられるASCは、増殖および少なくとも2以上の、好ましくは3、4、5、6、7以上の細胞系統に分化する能力を示す。ASCが分化し得る、細胞系統の説明の役に立つ非限定的な例としては、骨細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、腱細胞、筋細胞、心筋細胞、造血支持間質細胞、内皮細胞、神経細胞、星状細胞、および肝細胞が挙げられる。
【0038】
ASCは、慣用の方法によって、増殖および他の系統の細胞に分化することができる。分化した細胞を未分化細胞から同定し、およびその後単離する方法もまた当技術分野でよく知られた方法によって実現され得る。
【0039】
ASCはまたエクスビボで拡大させられることができる。すなわち、単離後、ASCは培地中エクスビボで維持され、および増殖を許容され得る。そのような培地は、たとえば、抗生物質(たとえば、100ユニット/mlのペニシリンおよび100 g/mlのストレプトマイシン)と、あるいは抗生物質は含まないか、2mMのグルタミンと、2乃至20%のウシ胎児血清(FBS)とが添加されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)からなる。使用される細胞のために必要に応じて培地および/または培地添加剤の濃度を改変または調整することは当業者の能力の範囲内である。血清は大抵細胞因子、非細胞因子並びに生存および拡大のために必要な複数の成分を含む。血清の例としては、FBS、ウシ血清(BS)、仔ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FCS)、新生ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)等が挙げられる。また、ASCがヒトを起源にもつ場合、ヒト血清、好ましくは自己起源のもの、を含む細胞培地の添加が熟慮される。補体カスケードの成分を不活性化させることが必要であると考えられる場合、血清は55乃至65℃で加熱不活性化させられ得ることが認識されている。血清の濃度を調整すること、培地から血清を除くことを、一以上の所望の細胞型の生き残りを促進するために用いることができる。好ましくは、ASCは約2%乃至約25%の濃度のFBSから利益を得る。別の実施形態において、ASCは、特定の組成の培地、すなわち血清が、血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレン、並びに当技術分野で知られているインスリン、血小板由来増殖因子(PDGF)および塩基性線維芽細胞増殖因子を含むがこれらに限定されない組換えタンパクの組合せによって置換された培地、で拡大し得る。
【0040】
多くの細胞培地はすでにアミノ酸を含んでいるが、細胞培養に先立って補充を要求するものもいくつかある。そのようなアミノ酸としては、L−アラニン、L−アルギニン、L−アルパラギン酸、L−アスパラギン、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
抗生剤もまた細胞培養において細菌、マイコプラズマおよび真菌のコンタミネーションを軽減するために一般的に用いられる。概して、使用される抗生物質または抗真菌化合物は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であるが、アンフォテリシン(ファンギゾン、登録商標)、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシン等を含むこともできるが、これらに限定されない。
【0042】
ホルモンもまた細胞培養において有利に用いられることができ、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0043】
ASCの状態を維持することはまた細胞が未分化型のままであることを許容する細胞因子を含むことができる。分化に先立って、細胞分化を阻害する補給剤が培地から取り除かれなければならないということは当業者にとって明白である。すべての細胞がこれらの因子を要求するわけではないこともまた明白である。実際、これらの因子は、細胞型に依存して、望ましくない効果を導き出すことがある。
【0044】
ASCの単離方法 ASCの複数の単離方法が当技術分野において知られており、任意の適切な方法が用いられる。一つの実施形態において、この方法は以下の工程を含む:
(i)脂肪サンプルから細胞懸濁液を調製し、
(ii)前記細胞懸濁液から細胞を回収し、
(iii)細胞が固体表面に接着し、増殖することを許容する条件下で、適切な細胞培地中固体表面上で前記細胞をインキュベートし、
(iv)インキュベーション後、非接着細胞を除くために上記固体表面を洗浄し、
(v)前記のような培地で少なくとも2回継代された後、上記固体表面に接着したままの細胞を選別し、そして
(vi)選別された細胞集団が目的の表現型を提示するか確認する。
【0045】
本明細書において「固体表面」という用語は、ASCがその上に接着することができる任意の物質をいう。特定の実施形態において、上記物質はその表面への哺乳類細胞の接着を促進するよう処理されたプラスチック物質、たとえば市販の、場合によってポリ−D−リシンまたは他の試薬でコートされたポリスチレンプレートである。
【0046】
工程(i)乃至(vi)は当業者によって知られた慣用の技術により行われ得る。簡潔にいえば、ASCは、上述した様な任意の適切な動物由来の結合組織の任意の適切な供給源から、慣用の手段により得ることができる。一般的には、ヒト脂肪細胞は、外科的または吸引的な脂肪組織切除等のよく認識されたプロトコルを用いて、生体ドナーから得られる。実際に、脂肪吸引術が非常に一般的であるように、脂肪吸引物はASCが由来し得る特に好ましい供給源である。それゆえ、特定の実施形態において、ASCは脂肪吸引によって得られるヒト脂肪組織の間質画分に由来する。別の特定の実施形態において、ASCは関節鏡術によって得られるヒト硝子関節軟骨に由来する。別の特定の実施形態において、ASCは生検法によって得られるヒト皮膚表皮に由来する。
【0047】
上記組織は、好ましくは、上記(プラスチック)物質に接着したままのものからASCを分離する処理をされる前に洗浄される。ひとつの一般に用いられるプロトコルにおいて、組織サンプルは生理学的に適合した食塩水(たとえば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS))で洗浄され、その後激しく撹拌され、組織から遊離物(たとえば、損傷した組織、血液、赤血球等)を除去する工程に静置される。それゆえ、洗浄および静置(沈殿)工程は、一般的には、上清が相対的に残屑のない状態になるまで繰り返される。接着したままの細胞は概して種々の大きさの塊で存在し、上記プロトコルは細胞自身への損傷を最小限にしながら、その大きな構造を分解するために測定される工程を用いて進行する。この目的を達成するひとつの方法は、洗浄された細胞塊を細胞間の接着を弱めまたは破壊する酵素(たとえば、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン等)で処理することである。そのような酵素処理の量および時間は採用される条件に依存して変わるが、そのような酵素の使用は当技術分野において一般的に知られている。そのような酵素処理の換わりに、またはこれと併せて、たとえば機械的撹拌、音波エネルギー、熱エネルギー等他の処理を用いて、細胞塊は分解され得る。分解が酵素的方法によって実行される場合は、適切な時間の経過後酵素を失活させ、細胞への悪影響を最小限にすることが望ましい。
【0048】
分解工程は、通常、凝集した細胞のスラリーまたは懸濁液、および一般に遊離間質細胞(たとえば、赤血球、平滑筋細胞、内皮細胞、繊維芽細胞および幹細胞)を含む液体画分を生成する。分離工程における次の段階は、ASCから、凝集した細胞を分離することである。これは遠心分離により行われ、これにより細胞は上澄みにより覆われたペレットとなる。上澄みはその後捨てられ、ペレットは生理学的に相溶性のある液体に懸濁される。さらに、懸濁された細胞は通常赤血球を含んでおり、これらを溶解させることがほとんどのプロトコルにおいて望ましい。選択的に赤血球を溶解させる方法は当技術分野において知られており、任意の適切なプロトコル(たとえば、塩化アンモニウムで溶解することによる、高張または低張培地でのインキュベーション等)が用いられ得る。当然ながら、赤血球が溶解させられた場合は、接着したままの細胞はその後溶解物から、たとえばろ過、沈殿、または密度勾配分画により分離されるべきである。
【0049】
赤血球が溶解させられるかどうかにかかわらず、より高い純度を得るために、懸濁細胞は1回以上連続して、洗浄され、再遠心分離され、および再懸濁され得る。あるいは、細胞は細胞表面マーカープロフィールに基づいてまたは細胞サイズおよび粒度に基づいて分離させられ得る。
【0050】
最終単離および再懸濁に次いで、細胞は培養され、必要に応じて、収率を評価するため数および生存能力がアッセイされ得る。細胞は分化させないで、固体表面上で適切な細胞培地を用いて、適切な細胞密度および培養条件で、培養されるのが好ましい。それゆえ、特定の実施形態において、細胞は、通常ペトリ皿または細胞培養フラスコ等プラスチック材料から作られる固体表面上で、適切な細胞培養培地(たとえば、通常5乃至15%(たとえば10%)のウシ胎児血清、ヒト血清等適切な血清が添加されたDMEM)の存在下で、分化させないで、培養され、細胞が固体表面に接着し増殖することができる条件下でインキュベートされる。インキュベーションの後、細胞は非接着細胞および細胞断片を除去するために洗浄される。細胞はこれらが十分な集合、概して約70%、約80%または約90%の細胞集団、に至るまで、同一の培地および同一の条件下で、必要な場合は細胞培養培地を交換して、継続して培養される。所望の細胞集団に達した後、細胞は、トリプシンのような分離剤を用いて、連続的な継代によって拡大させられ、新たな細胞培養表面上に適切な細胞密度(概して2,000乃至10,000細胞/cm)で播種され得る。それゆえ、細胞はその後そのような培地で分化せずに、発生表現型をなお保持しながら、少なくとも2回継代される。より好ましくは、細胞は発生表現型を失うことなく、少なくとも10回(たとえば、少なくとも15回、または少なくとも20回でさえ)継代され得る。一般的には、細胞は所望の密度、たとえば約100細胞/cmから約100,000細胞/cmの範囲内(たとえば、約500細胞/cmから約50,000細胞/cmの間、またはより具体的には、約1,000細胞/cmから約20,000細胞/cmの間)でプレーティングされる。より低い密度(たとえば、約300細胞/cm)でプレーティングされた場合、細胞はより容易にクローン的に単離され得る。たとえば、そのような密度でプレーティングされた細胞は、2、3日後、増殖して同種の集団になり得る。特定の実施形態において、細胞密度は2,000乃至10,000細胞/cmの間である。
【0051】
少なくとも2回の継代を含むそのような処理の後、固体表面に接着したままの細胞は選別され、目的の表現型のものは、以下に述べるようなASCの同一性を確認するために従来の方法により分析される。初代継代後、固体表面に接着したままの細胞は異種の起源に由来するので、この細胞は少なくとももう1回の継代を受けさせなければならない。上記方法の結果として、目的の表現型を有する同種の細胞集団が得られる。少なくとも2回継代後の固体表面への細胞の接着はASCを選別するための本発明の望ましい実施形態を構成する。興味ある表現型の確認は従来の手段を用いることにより実行され得る。
【0052】
好ましくは、上記拡大は少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも10回、少なくとも15回、または少なくとも20回継代した上記細胞集団の2倍化もしくは3倍化により実行される。さらなる実施形態において、上記拡大は少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、少なくとも10回、少なくとも15回、または少なくとも20回継代して実行される。
【0053】
細胞表面マーカーは、通常、陽性/陰性選別に基づく、任意の適切な慣用の技術によって同定され得る。たとえば、当該細胞におけるその存在/不存在を確認することができる、細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体が使用され得る。もっとも他の技術を用いることも可能である。それゆえ、特定の実施形態において、選別された細胞における上記マーカーの不存在を確認するために、CD11b、CD11c、CD14、CD45、HLAII、CD31、CD34およびCD133の中の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または好ましくはすべてに対するモノクローナル抗体が使用される。加えて、下記マーカーの少なくとも1つ、もしくは好ましくはすべての存在、または検出可能な発現レベルを確認するために、CD9、CD44、CD54、CD90およびCD105の中の1つ、2つ、3つ、4つ、または好ましくはすべてに対するモノクローナル抗体が使用される。上記モノクローナル抗体は知られており、市販されており、または当業者によって慣用の方法により得ることができる。
【0054】
選別された細胞におけるIFN−γ誘導性IDO活性は、任意の適切な慣用のアッセイにより決定される。たとえば、選別された細胞はIFN−γで刺激され、IDOの発現をアッセイし得る。その後、IDOタンパクの発現を検出するために慣用のウェスタンブロット法が実行され、さらに、選別された細胞をIFN−γで刺激した後のIDO酵素活性が、たとえば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析を介することによるトリプトファン−キヌレニン変換および上清における読み出し値としてのキヌレニン濃度の光度定量によって測定され得る。ASCは特定の条件下でIDOを発現するので、IFN−γ刺激後のIDOの活性の検出を可能とする任意の適切な技術がASCを選別するために用いられる。生成されたIDOの量は、1平方センチメートル当たりの細胞数に依存し、好ましくは5000細胞/cm以上というレベルにあるがこの濃度に限定されず、またIFN−γの濃度、理想的には3ng/ml以上であるがこの濃度に限定されない。本明細書に記載される条件下で生成されるIDOの活性は、24時間以上後マイクロM(mol/L)範囲でキヌレニンを検出可能に生成するという結果となる。
【0055】
選別された細胞の少なくとも2細胞系統へ分化する能力は、当技術分野において知られている慣用の方法によってアッセイされ得る。
【0056】
ASCは、所望ならば、細胞集団をクローニングするための適切な方法を用いて、クローンとして拡大される。たとえば、増殖させられた細胞集団は物理的に選択され、仕切られた表面(またはマルチウェルプレートのウェル)に播種される。あるいは、細胞は、単一の細胞をそれぞれのウェルへ播種するのを促進するための統計学的比率(たとえば、約0.1〜約1細胞/ウェル、またはもっといえば約0.25〜約0.5細胞/ウェル、たとえば0.5細胞/ウェル)で、マルチウェルプレート上にサブクローニングされ得る。もちろん、細胞はこれらを低密度で播種する(ペトリ皿または他の適切な基板へ)ことによって、およびクローニングリング等の機器を用いて他の細胞から単離することによって、クローニングされ得る。クローン集団の産生物は任意の適切な培地で拡大させることができる。いずれにせよ、単離された細胞はそれらの発生表現型が評価され得る適切な時点まで培養され得る。
【0057】
ASCの、分化を誘導しない、エクスビボ拡大が、たとえば特別にスクリーニングされたロットの血清(たとえば、ウシ胎児血清またはヒト血清)を用いることによって、長時間行い得ることが示されている。生存能力および収率を測定するための方法は、当技術分野において知られている(たとえば、トリパンブルー色素排除試験法)。
【0058】
本発明による細胞集団の細胞を単離するためのいかなる工程および手法も、所望であれば、マニュアルで行い得る。あるいは、そのような細胞を単離するプロセスは、1以上の適切な装置であってその例が当技術分野で知られているものを通じて、促進されおよび/または自動化され得る。
【0059】
さらなる側面において、本発明によれば、本発明の方法によって調製されるASCが提供され、以下当該細胞を「本発明による細胞」というものとする。
【0060】
本発明の組成物
本発明はまた、本発明による細胞を含んでなる組成物を提供する。実質的に本発明による細胞のみを含んでなる細胞組成物が特に好ましい。それゆえ、一つの側面によれば、本発明は細胞組成物または細胞集団を提供し、上記集団の細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または好ましくは少なくとも96%、97%、98%もしくは99%が本発明による細胞である。一つの実施形態において、上記細胞組成物は培養細胞であり、それゆえ細胞培養はさらに適切な培地、緩衝液、増殖因子、栄養素および/またはそのような種類のものを含んでなる。上記細胞培養は適切な血管の中に含まれ、一定のおよび適切な環境で維持され得る。細胞の培養の方法は当技術分野において知られている。
【0061】
本発明による細胞の使用
本発明による細胞は、疾患に関連する1以上の症状を予防、治療または改善するために用いられ得る。これらは創傷治療、組織損傷、アレルギー反応、免疫疾患、自己免疫疾患、免疫介在性疾患、炎症性疾患、慢性炎症性疾患を含むがこれらに限定されない。上記使用は本発明のさらなる側面を構成する。
【0062】
それゆえ、別の側面において、本発明による細胞は薬剤として用いられる。特定の実施形態において、本発明による細胞を含んでなる薬剤は、移植寛容を誘導するために、または自己免疫疾患、炎症性疾患、もしくは移植された臓器および組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患の症状を、上記病気もしくは疾患のいずれかに罹患している被検体において、治療し、およびそれによって軽減するために用いられる。それゆえ、本発明による細胞は、免疫、自己免疫もしくは炎症性疾患の症状を、これらの疾患のいずれかに罹患している被検体において、療法的にまたは予防的に治療し、およびそれによって軽減するために、または免疫介在性疾患の症状を、この疾患に罹患している患者において軽減するために用いられる。本発明による細胞は、自己免疫疾患、炎症性疾患または免疫介在性疾患の治療において有用である。治療され得る上記疾患や病気の説明に役立つ、非制限的な実例は既に「定義」の見出しの下に列挙されたものである。特定の実施形態において、上記炎症性疾患は、セリアック病、多発性硬化症、乾癬、IBDまたはRA等の慢性炎症性疾患である。別の側面において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器および組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患を含むがこれらに限定されない、被検体の免疫系の調節が有益である、疾患に関する1以上の症状を予防、治療または改善するための薬剤の調製のための本発明による細胞の使用に関する。それゆえ、本発明はさらに、免疫反応を抑制するための、移植寛容を誘導するための、自己免疫疾患を治療するための、または炎症性疾患を治療するための、薬剤の調合のための本発明による細胞の使用に関する。上記自己免疫疾患および炎症性疾患の例は先に述べたとおりである。特定の実施形態において、疾患はセリアック病、多発性硬化症、乾癬、IBDまたはRA等の炎症性疾患である。
【0063】
医薬組成物
本発明は、被検体の免疫系の調節が有益である疾患に関連する1以上の症状を治療、予防および改善するための医薬組成物を提供する。これらの疾患は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器および組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患を含む。
【0064】
それゆえ、別の側面において、本発明は、本発明による細胞および医薬担体を含んでなる医薬組成物に関する。さらなる側面において、本発明はASCおよび/または本発明による細胞、DPP−4アンタゴニストもしくはインヒビター、並びに医薬担体を含んでなる医薬組成物を提供する。ある実施形態において、上記アンタゴニストまたはインヒビターは、アミノメチルピリジン、NVP DPP728、PSN9301、イソロイシン、チアゾリジド、デナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、ジプロチンAからなる群から選ばれる。特に好ましい実施形態において、上記アンタゴニストまたはインヒビターはジプロチンAである。
【0065】
本発明の医薬組成物は、予防的にまたは治療的に有効な量の1以上の予防薬または治療薬(すなわち、ASCおよび/または本発明による細胞単独、またはこれとDPP−4アンタゴニストもしくはインヒビターとの組合せ)、そして医薬担体を含んでなる。
【0066】
上記有効量は、投薬単位形態(剤形)、投与法、および当技術分野において知られている他の因子に依存する。
【0067】
適切な医薬担体は当技術分野において知られており、好ましくは、動物における、および特にヒトにおける使用に対して、米連邦もしくは州政府の管理機関によって承認されているもの、または合衆国もしくは欧州薬局方、もしくは他の一般に認められている薬局方に収載されているものである。「担体」という用語は、希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルをいい、これらとともに治療薬が投与される。組成物は、望まれるならば、少量のpH緩衝剤を含むこともできる。適切な医薬担体の例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(E W Martin著)に記載されている。そのような組成物は、予防的にまたは治療的に有効な量の予防薬または治療薬を、好ましくは精製された形態で、適量の担体とともに含んでおり、その結果被検体に適正な投与形態を提供する。剤形は、投与方法に適合するべきである。好ましい実施形態によれば、医薬組成物は滅菌されており、被検体、好ましくは動物被検体、より好ましくは哺乳類被検体、最も好ましくはヒト被検体への投与のために適合した形態にある。
【0068】
本発明の医薬組成物は様々な形態であることができる。これらの形態としては、たとえば、固体、半固体および液体の剤形、たとえば凍結乾燥製剤、液剤または懸濁剤、注射剤および浸剤等が挙げられる。好ましい形態は、目的とする投与方法および治療用途に依存する。
【0069】
さらなる側面において、本発明は、本明細書に開示された本発明による細胞または医薬組成物を、疾患に関連する1以上の症状を予防、治療または改善するための有効量で投与することによって、被検体の必要としている治療の方法を提供する。
【0070】
さらなる側面において、本発明は、本発明による細胞および/またはASCを、疾患に関連する1以上の症状を予防、治療または改善するための有効量で投与すること、およびさらにDPP−4アンタゴニストまたはインヒビターを投与することによって、被検体が必要としている治療方法を提供する。ある実施形態において、上記アンタゴニストまたはインヒビターは、アミノメチルピリジン、NVP DPP728、PSN9301、イソロイシン、チアゾリジド、デナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、ジプロチンAからなる群から選ばれる。特に好ましい実施形態において、上記アンタゴニストまたはインヒビターはジプロチンAである。上記ASCおよび/または本発明による細胞は、上記DPP−4アンタゴニストまたはインヒビターに、同時に、連続的に、または別々に、投与することができる。上記有効量は、投薬単位形態(剤形)、投与法、および当技術分野において知られている他の因子に依存する。
【0071】
本発明による細胞または本発明の医薬組成物の、それを必要としている被検体への投与は、慣用の手段によって行うことができる。特定の実施形態において、上記細胞集団は、インビトロ(たとえば、移植または生着に先だつ移植片として)またはインビボのいずれかで、細胞を所望の組織へ、動物組織に直接的にトランスファーすることを含む方法によって、被検体に投与される。細胞は、通常その組織型に応じて変わり得る任意の適切な方法によって、所望の組織にトランスファーされる。たとえば、細胞は、移植片を当該細胞を含む培養培地に浸す(または移植片を注入する)ことによって、移植片にトランスファーされる。あるいは、細胞は、集団を樹立させるために組織内の所望の部位上に播種される。細胞は、たとえば細胞懸濁液の注入によって、全身に投与もされる。細胞は、(細胞とともに播種され得る)カテーテル、トロカール、カニューレ、ステント等の機器を用いてインビボで上記部位にトランスファーされる。
【0072】
本発明による細胞集団および医薬組成物は、併用療法に用いられ得る。特定の実施形態において、併用療法は、1以上の抗炎症薬が効かない炎症性疾患をもつ被検体に投与される。別の実施形態において、併用療法は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、ステロイド性抗炎症薬、β−作動薬、抗コリン薬、およびメチルキサンチンを含むがこれらに限定されない他の種類の抗炎症薬とともに用いられる。NSAIDの例としては、イブプロフェン、セレコキシブ、ジクロフェナック、エトドラック、フェノプロフェン、インドメタシン、ケトララック、オキサプロジン、ナブメントン、スリンダック、トルメンチン、ロフェコキシブ、ナプロキセン、ケトプロフェン、ナブメントン等が挙げられるが、これらに限定されない。そのようなNSAIDは、シクロオキシゲナーゼ酵素(たとえば、COX−1および/またはCOX−2)を阻害することによって機能する。ステロイド性抗炎症薬の例としては、糖質コルチコイド、デキサメタゾン、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニソン、プレドニソロン、トリアムシノロン、アズルフィジン、トロンボキサン等のエイコサノイド、およびロイコトリエンが挙げられるが、これらに限定されない。インフリキシマブ等のモノクローナル抗体を用いることもできる。
【0073】
上記実施形態において、本発明の併用療法は、そのような抗炎症薬の投与の前に、と同時に、または後に用いられる。さらに、そのような抗炎症薬は、本明細書でリンパ組織誘導細胞および/または免疫調節薬としての特徴を有する薬剤を包含しない。
【0074】
別の側面において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器および組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患を含むがこれらに限定されない、被検体の免疫系の調節が有益である、疾患に関する1以上の症状を予防、治療または改善するための、医薬組成物または薬剤の調合または製造のための、本発明による細胞の使用に関する。
【0075】
さらなる側面において、本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器および組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患を含むがこれらに限定されない、被検体の免疫系の調節が有益な、疾患に関する1以上の症状を予防、治療または改善するための、医薬組成物または薬剤の調合または製造のために、本発明による細胞および/またはASCをDPP−4アンタゴニストまたはインヒビターと一緒に使用することに関する。上記アンタゴニストまたはインヒビターは、好ましくは、アミノメチルピリジン、NVP DPP728、PSN9301、イソロイシン、チアゾリジド、デナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、ジプロチンAからなる群から選ばれる。上記アンタゴニストまたはインヒビターがジプロチンAであることが特に好ましい。
【0076】
それゆえ、本発明はさらに、免疫反応を抑制するための、移植寛容を誘導するための、自己免疫疾患を治療するための、または炎症性疾患を治療するための、医薬組成物または薬剤の調合または製造のための、DPP−4アンタゴニストもしくはインヒビターとASCの組合せの使用だけでなく、本発明による細胞単独、またはこれとDPP−4アンタゴニストもしくはインヒビターとの組合せの使用にも関する。
【0077】
〔キット〕 さらなる実施形態において、本発明はASC治療で被検体を治療する際に用いるキットを提供する。上記キットは、i)本発明による細胞または本発明の医薬組成物、およびii)上記細胞を投与するための機器を含んでなる。この機器としては、シリンジ、注射器具、カテーテル、トロカール、カニューレおよびステントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
さらなる実施形態において、本発明のキットはさらに被検体の治療において用いるための説明書を含むことができる。
【0079】
使用 本発明による方法、細胞、医薬組成物およびキットは、被検体の免疫系の調節が有益である疾患に関する1以上の症状を予防、治療または改善することにおいて使用される。これらの疾患としては、自己免疫疾患、炎症性疾患、並びに移植された臓器および組織の拒絶反応を含む免疫介在性疾患が挙げられる。これらは、組織損傷、アレルギー反応、免疫疾患、自己免疫疾患、免疫介在性疾患、炎症性疾患、慢性炎症性疾患が含まれるが、これらに限定されない。そのような疾患の具体例は「定義」の欄に開示されている。上記使用は本発明のさらなる側面を構成する。
【0080】
本発明はさらに以下の実施例において説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0081】
実施例1
ASCサイトカインまたはケモカイン介在性移動度の増加における、DPP−4阻害の有効性を実証するために、DPP−4のインヒビターであるジプロチンA(Ile−Pro−Ile)の存在下で、SDF−1(走化性を誘導するCXCR4リガンド)にさらし、ASCを移動(遊走)させるために誘導した。
【0082】
ASCは健常成人ドナー由来のヒト脂肪組織から得られる吸引脂肪から得た。吸引脂肪はPBSで2回洗浄され、0.075%のコラゲナーゼ(タイプI、インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア)で、37℃、30分間消化された。消化されたサンプルは10%のウシ胎児血清(FBS)で洗浄され、160mMの塩化アンモニウムで処理され、培地(10%のFBSを含むDMEM)に懸濁され、40μmのナイロンフィルターを通じてろ過された。細胞を、組織培養フラスコへ播種し(2〜3×10細胞/cm)、37℃、5%COで、7日ごとに培養培地を交換しながら、拡大した。細胞を、混合培養系が90%に達したとき新たな培養フラスコに移した(1,000細胞/cm)。細胞は、表現型として、軟骨、骨芽および脂肪遺伝子系統に分化する能力によって特徴づけられた。異なるドナー由来の6サンプルのASCの集まり(4〜6回の継代培養)が使用された。
【0083】
ASC(10細胞)を、8μmのポアサイズを有するトランスウェル(登録商標)透過性支持体インサートの上側表面に播種した。この透過性支持体は24ウェルのプレートにインサートされた。一晩培養(37℃、5%CO)後、インサートの上側表面がジプロチンA(0、1、5、10mM)で処理され、SDF−1(50μM)が、ASCの透過性表面の下側方向への移動を誘導するためにウェルに加えられた。
【0084】
24時間後、インサートの上側表面は、移動しなかった細胞を除去するために穏やかに剥がされ、インサートは0.9%のクリスタルバイオレット(10%エタノールで希釈され)で染色され、洗浄された。染色された細胞(すなわち、透過性支持体の下側へ移動した細胞)はその後計数された。カウントされた細胞の総数が示された(条件ごとに2つのインサートをカウントした)。
【0085】
図1を見て分かるように、ASCの透過性支持体の下側への移動は、支持体の上側表面に適用されたジプロチンAの量に比例して増大した。したがって、ジプロチンA接触は、SDF−1勾配に応じて、ASCの移動を増大させると結論づけられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪由来幹細胞を、CD26アンタゴニストまたはインヒビターにさらすことを含んでなる、脂肪由来幹細胞の調製方法。
【請求項2】
前記アンタゴニストまたはインヒビターが、アミノメチルピリジン、P32/98、NVP DPP728、PSN9301、イソロイシン、チアゾリジド、デナグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン、サクサグリプチン、アログリプチン、およびジプロチンAからなる群から選択されるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記脂肪由来幹細胞が予め拡大培養させられてなる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が少なくとも1回以上継代されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法により得られる、細胞。
【請求項6】
薬剤として用いられる、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
薬剤の製造において用いられる、請求項5に記載の細胞。
【請求項8】
請求項5に記載の細胞および薬学的に許容される担体を含んでなる、医薬組成物。
【請求項9】
脂肪由来幹細胞と、CD26アンタゴニストまたはインヒビターと、薬学的に許容される担体とを含んでなる、医薬組成物。
【請求項10】
i)請求項5に記載の細胞または請求項8または9のいずれかに記載の医薬組成物、およびii)当該細胞を投与するための機器を含んでなる、キット。
【請求項11】
組織再生もしくは修復、疾患治療または創傷治療のための、請求項5に記載の細胞、請求項8または9のいずれかに記載の医薬組成物、または請求項10に記載のキット。
【請求項12】
被検体における疾患または障害を予防、治療または改善するための方法であって、当該被検体に、請求項5に記載の細胞または請求項8または9のいずれかに記載の医薬組成物を、当該被検体における当該疾患または障害を予防、治療または改善するために有効な量投与することを含んでなる、方法。
【請求項13】
被検体における疾患または障害を予防、治療または改善するための方法であって、当該被検体に、脂肪由来幹細胞を、当該被検体における当該疾患または障害を予防、治療または改善するために有効な量投与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
CD26アンタゴニストまたはインヒビターが、前記被検体に、前記脂肪由来幹細胞と同時に、連続的に、または別々に投与される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞またはCD26アンタゴニストもしくはインヒビターのいずれかあるいは双方が、前記疾患または障害の予防、治療または改善を必要としている1以上のインビボの箇所において投与される、請求項12〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患または障害が、組織損傷、アレルギー反応、免疫疾患、自己免疫疾患、免疫介在性疾患、炎症性疾患、慢性炎症性疾患からなる群から選択される、請求項12〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
アレルギー反応、免疫疾患、自己免疫疾患、免疫介在性疾患、炎症性疾患、慢性炎症性疾患に関連する1以上の症状の予防、治療または改善のための、請求項5に記載の細胞または請求項8または9に記載の医薬組成物の使用。




【図1】
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【公表番号】特表2012−510279(P2012−510279A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−539007(P2011−539007)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066198
【国際公開番号】WO2010/063743
【国際公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(511134517)セリェリクス、ソシエダッド、アノニマ (2)
【氏名又は名称原語表記】CELLERIX, S.A.
【Fターム(参考)】