説明

脂肪細胞分化抑制剤

【課題】 本発明の課題は、脂肪細胞分化抑制作用に優れ安全性の高い脂肪細胞分化抑制剤を提供するものである。
【解決手段】 中性キシロオリゴ糖を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤。前記中性キシロオリゴ糖が、リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖とリグニンの複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理することによって得られたものであることを特徴とする前記発明に記載の脂肪細胞分化抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に対して安全性の高い脂肪細胞分化抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴い、脂肪や糖の過剰摂取が原因となり、糖尿病、高脂血症、動脈硬化などの疾病が増加している。そのメカニズムとしては以下の通りである。即ち、脂肪や糖の過剰摂取により体内に存在する前駆脂肪細胞が脂肪細胞に分化し、脂肪細胞内に脂肪が蓄積される。脂肪細胞への脂肪の蓄積が進行すると脂肪細胞が肥大化し、肥大化脂肪細胞となる。脂肪細胞では脂肪が正常に分解されるが、肥大化脂肪細胞では細胞内に蓄積された脂肪の分解が異常になり、糖尿病、高脂血症、動脈硬化等の疾病を引き起こす。
従って、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を抑制することができれば、糖尿病、高脂血症、動脈硬化等の予防が可能となると考えられる。
現在、脂肪細胞の分化抑制に関与する成分として、環状ペプチド(特許文献1参照)、イネ科植物抽出成分(特許文献2参照)が報告されているが、一般に充分な効果が期待できる用量を動物やヒトが摂取する場合、アレルギー等の副作用が懸念されたり、臭いや味が原因で摂取が困難等の問題がある。従って、人体に対して安全性が高く、無味・無臭の脂肪細胞分化抑制剤が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2005-220074号公報
【特許文献2】特開2005-247695号公報
【特許文献3】特開2003-55231号公報
【特許文献4】特開2005-187370号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、脂肪細胞分化抑制作用に優れ安全性の高い脂肪細胞分化抑制剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、以下の構成を採用する。
即ち、本発明の第1は、中性キシロオリゴ糖を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤である。
【0006】
本発明の第2は、前記中性キシロオリゴ糖が、リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖とリグニンの複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理することによって得られたものである、本発明の第1に記載の脂肪細胞分化抑制剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、脂肪細胞分化抑制作用に優れ安全性の高い脂肪細胞分化抑制剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、リグノセルロースの酵素分解物である中性キシロオリゴ糖が優れた脂肪細胞分化抑制作用を持つという知見を得て本発明を完成させた。なお、中性キシロオリゴ糖の生理作用について、経腸栄養剤(特許文献3参照)、保湿剤およびそれを含有する皮膚外用剤(特許文献4参照)については過去に報告があるが、脂肪細胞分化抑制作用に関する報告はない。
以下、本発明の構成について詳述する。
キシロオリゴ糖とは、キシロースの2量体であるキシロビオース、3量体であるキシロトリオース、あるいは4量体〜20量体程度のキシロースの重合体を言う。また、本発明においては、異なる重合度を有する複数のキシロオリゴ糖の混合組成物もキシロオリゴ糖と称する。キシロオリゴ糖は、天然物から製造することが一般的であるため、実際にはこのような混合組成物として得られることが多い。
該混合組成物の平均重合度は、正規分布をとる中性キシロオリゴ糖のキシロース鎖長の平均値で示され、2.0〜15.0が好ましく、3.0〜10.0がより好ましい。
また、キシロース鎖長の上限と下限との差は20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
【0009】
中性キシロオリゴ糖の製造方法としては、(1)木材からキシランを抽出し、それを酵素的に分解する方法(セルラーゼ研究会発行、セルラーゼ研究会報第16巻、2001年6月14日発行、p17−26)と、(2)リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖とリグニンの複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理してキシロオリゴ糖混合物を得、得られるキシロオリゴ糖混合物から、中性キシロオリゴ糖を分離する方法が挙げられる。本発明で使用する中性キシロオリゴ糖の製造方法については、特に限定するものではないが、(2)の方法が、5〜10量体のように比較的高い重合度のものを大量に安価に製造することが可能である点で特に好ましい。以下にその概要を示す。
【0010】
中性キシロオリゴ糖は、化学パルプ由来のリグノセルロース材料を原料とし、加水分解工程、濃縮工程、希酸処理工程、精製工程を経て得ることができる。加水分解工程では、希酸処理、高温高圧の水蒸気(蒸煮・爆砕)処理もしくは、ヘミセルラーゼによってリグノセルロース中のキシランを選択的に加水分解し、キシロオリゴ糖とリグニンからなる高分子量の複合体を中間体として得る。濃縮工程では逆浸透膜等により、キシロオリゴ糖−リグニン様物質複合体が濃縮され、低重合度のオリゴ糖や低分子の夾雑物などを除去することができる。濃縮工程は逆浸透膜を用いることが好ましいが、限外濾過膜、塩析、透析などでも可能である。得られた濃縮液の希酸処理工程により、複合体からリグニン様物質が遊離し、中性キシロオリゴ糖と酸性キシロオリゴ糖を含む希酸処理液を得ることができる。この時、複合体から切り離されたリグニン様物質は酸性下で縮合し沈殿するのでセラミックフィルターや濾紙などを用いた濾過等により除去することができる。希酸処理工程では、酸による加水分解を用いることが好ましいが、リグニン分解酵素などを用いた酵素分解などでも可能である。
【0011】
精製工程は、限外濾過工程、脱色工程、吸着工程からなる。一部のリグニン様物質は可溶性高分子として溶液中に残存するが、限外濾過工程で除去され、着色物質等の夾雑物は活性炭を用いた脱色工程によってそのほとんどが取り除かれる。限外濾過工程は限外濾過膜を用いることが好ましいが、逆浸透膜、塩析、透析などでも可能である。こうして得られた糖液中には中性キシロオリゴ糖と酸性キシロオリゴ糖が溶解している。イオン交換樹脂を用いた吸着工程により、この糖液から中性キシロオリゴ糖のみを取り出すことができる。糖液をまず強陽イオン交換樹脂にて処理し、糖液中の金属イオンを除去する。次いで強陰イオン交換樹脂を用いて糖液中の硫酸イオンなどを除去する。この工程では、硫酸イオンの除去と同時に弱酸である有機酸の一部と着色成分の除去も同時に行っている。強陰イオン交換樹脂で処理された糖液はもう一度強陽イオン交換樹脂で処理し更に金属イオンを除去する。最後に弱陰イオン交換樹脂で処理し、中性キシロオリゴ糖を含む水溶液を回収する。この水溶液を、例えば、スプレードライや凍結乾燥処理により、白色の中性キシロオリゴ糖組成物の粉末を得ることができる。
【0012】
上記製造方法のメリットは、前述のとおり、経済性と平均重合度の高い中性キシロオリゴ糖が容易に得られる点にある。なお、この方法で得られる中性キシロオリゴ糖の平均重合度は、希酸処理条件を調節するか、再度ヘミセルラーゼで処理する等の方法によって調製可能である。
【0013】
本発明は、上記の中性キシロオリゴ糖を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤である。脂肪細胞分化抑制剤は、中性キシロオリゴ糖のみを成分とするものでもよく、また、中性キシロオリゴ糖を任意の他成分と組み合わせた組成物であってもよい。
上記脂肪細胞分化抑制剤は、単独で用いることが可能である。単独で用いる場合、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、液剤、カプセル剤等の任意の形態に加工して用いることが可能である。また、加工時には薬学的に許容される製剤用添加剤を更に添加することが可能である。
また、脂肪細胞分化抑制剤は、任意の一般の加工食品、特定保健用食品、栄養機能食品、各種飲料等に添加して用いることが可能である。
さらに、他の医薬品、医薬部外品に使用される成分と混合し、医薬品、医薬部外品として提供することも可能である。
尚、上述した食品、飲料、医薬品等は、ヒトだけではなく、犬や猫などのペットや家畜等の動物を対象として用いることができる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0015】
以下、本発明の脂肪細胞分化抑制剤の有効成分である中性キシロオリゴ糖(XN5)の調製方法、及び得られた中性オリゴ糖について示す。
【0016】
<中性キシロオリゴ糖の調製>
混合広葉樹チップ(国内産広葉樹20%、ユーカリ80%)を原料として、クラフト蒸解及び酸素脱リグニン工程により、酸素脱リグニンパルプスラリー(カッパー価9.6、パルプ粘度25.1cps)を得た。スラリーからパルプを濾別、洗浄した後、パルプ濃度10%、pH8に調製したパルプスラリーを用いて以下のキシラナーゼによる酵素処理を行った。
キシラナーゼコンク(アドバンスト・バイオケミカルス社製)を対パルプ50ユニット/gとなるように添加した後、60℃で120分間処理した。その後、濾過によりパルプ残渣を除去し、酵素処理液1000Lを得た。
次に、得られた酵素処理液を濃縮工程、希酸処理工程、精製工程の順に供した。
濃縮工程では、逆浸透膜(日東電工(株)製、RO NTR−7410)を用いて濃縮液(40倍濃縮)を調製した。希酸処理工程では、得られた濃縮液のpHを3.5に調整した後、121℃で60分間加熱処理し、リグニンなどの高分子夾雑物の沈殿を形成させた。さらに、この沈殿をセラミックフィルター濾過で取り除くことにより、希酸処理溶液を得た。
精製工程では、限外濾過・脱色工程、吸着工程の順に供した。限外濾過・脱色工程では、希酸処理溶液を限外濾過膜(オスモニクス社製、分画分子量8000)を通過させた後、活性炭(和光純薬(株)製)770gの添加及びセラミックフィルター濾過により脱色処理液を得た。吸着工程では、脱色処理液を強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)、強陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PA408)、強陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製PK218)各100kgを充填したカラムに順次通過させた後、弱陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製WA30)100kgを充填したカラムに供した。この弱陰イオン交換樹脂充填カラムを通過した水溶液をスプレードライ処理することによって、中性キシロオリゴ糖の粉末(全糖量1670g、回収率43.2%)を得た。
以下、この中性キシロオリゴ糖を、XN5とする。
【0017】
上記で得たXN5は、平均重合度5、キシロース鎖長の上限と下限との差は10であった。なお、測定方法は以下の通りである。
【0018】
(1) 全糖量の定量
全糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製し、フェノール硫酸法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(2) 還元糖量の定量
還元糖量は、検量線をD−キシロース(和光純薬工業(株)製)を用いて作製、ソモジ−ネルソン法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)にて定量した。
(3) 平均重合度の決定法
サンプル糖液を50℃に保ち15,000rpmにて15分遠心分離し不溶物を除去し上清液の全糖量を還元糖量(共にキシロース換算)で割って平均重合度を求めた。
(4) キシロオリゴ糖の分析方法
キシロオリゴ糖の分析にはイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社)を用いた。分析には糖類の分析に適したカラムとしてCarboPacPA−10(ダイオネクス社)を用いた。
(5) 酵素力価の定義
酵素として用いたキシラナーゼの活性測定にはカバキシラン(シグマ社製)を用いた。酵素力価の定義はキシラナーゼがキシランを分解することで得られる還元糖の還元力をDNS法(還元糖の定量法、学会出版センター発行)を用いて測定し、1分間に1マイクロモルのキシロースに相当する還元力を生成させる酵素量を1ユニットとした。
【0019】
前述で得られた中性キシロオリゴ糖XN5を含有する水溶液を作成し、これを用いた以下の実験により、本発明の脂肪細胞分化抑制剤の評価試験を行なった。その方法を以下に示す。
【0020】
<評価試験>
継代培養したマウス由来前駆脂肪細胞(3T3-L1)をDME培地(10%コウシ血清含有)に懸濁後(細胞密度5x10/ml)、96ウエルプレートの各ウエルに200μl添加し37℃、5%COの条件下で培養した。
培養開始から2日目にデキサメタゾン(0.5mM)、メチルイソブチルキサンチン(1μM)、インスリン(10μg/ml)を含むDME培地(10%コウシ血清含有)に置き換え、上記と同様の条件で培養した。
培養開始から4日目にインシュリン(10μg/ml)を含むDME培地(10%コウシ血清含有)に置き換え、上記と同様の条件で2日毎に培地交換を行い培養した。
培養開始から13日目に培地を取り除き、細胞にオイルレッドを添加し、中性脂肪を染色した。染色された色素を細胞より抽出し、吸光度(520nm)を測定した。また、細胞内のGPDH(グリセロール3リン酸脱水素酵素)活性を測定した。
なお、培養開始から2日目から培養終了日まで、中性キシロオリゴ糖(XN5)を、最終濃度が各々1%、0.1%、0.01%となるように添加した3種類の培地を用いて培養を行なった。コントロールとして蒸留水を添加した培地を用いて培養を行なった。
また、中性キシロオリゴ糖(XN5)が上記濃度範囲においてマウス由来前駆脂肪細胞(3T3−L1)に対して細胞毒性のないことをMTTアッセイキット(R&D SYSTEM社)を用いてあらかじめ確認した。
細胞内の脂肪蓄積抑制率の結果を表1に示す。また、細胞内のGPDH活性抑制率(コントロールを100とした場合の相対値)を表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1、及び表2より、中性キシロオリゴ糖(XN5)を添加した試験区では、コントロールと比較し、細胞内の脂肪含量が低く、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化により誘導されるGPDH活性が低いことが示されている。
即ち、本発明の中性キシロオリゴ糖は、脂肪細胞分化抑制効果を有することは明らかである。
【0024】
なお、前述の調製例により得られた中性キシロオリゴ糖の安全性試験(皮膚刺激性試験、急性経口毒性試験)、及び、安定性試験を以下の方法により実施した。
(1)皮膚刺激性試験
2質量%の中性キシロオリゴ糖(XN5)水溶液100μlを、各々、除毛後のC3Hマウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)の背皮に、約1ヶ月間、連続塗布した(1回/日、各群10匹)。
塗布期間及び塗布終了後の2週間、マウス背皮において、紅斑、浮腫、炎症等の異常は特に観察されなかった。また、ブランク(水塗布群)と比較し、体重推移においても有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0025】
(2)急性経口毒性試験
中性キシロオリゴ糖(XN5)水溶液を、ICR系マウス(雄、6週齢、日本チャールズリバー(株)製)に胃ゾンデを用いて、経口投与した(投与量:2g/マウス体重1kg、各群10匹)。
投与してから2週間後まで、死亡例はなかった。又、体重推移においてもブランク(水投与群)と比較し、有意差(P<0.05)が認められなかった。
【0026】
(3)安定性試験
中性キシロオリゴ糖(XN5)水溶液(1%濃度)を調製後、室温で保存した。調製直後、及び、1ヶ月保存後の中性キシロオリゴ糖水溶液をイオンクロマトグラムで分析した。
1ケ月保存後のサンプルのクロマトグラムのパターンは、調製直後のサンプルと比較して変化はなかった。又、クロマトグラムの各ピークの面積の差は、1ケ月保存後のサンプルと調製直後のサンプルの間で、5%未満であった。
【0027】
上記(1)〜(3)の試験により、本発明の中性キシロオリゴ糖の安全性及び安定性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明により、脂肪細胞分化抑制作用に優れ安全性の高い脂肪細胞分化抑制剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性キシロオリゴ糖を有効成分とする脂肪細胞分化抑制剤。
【請求項2】
前記中性キシロオリゴ糖が、リグノセルロース材料を酵素的及び/又は物理化学的に処理してキシロオリゴ糖とリグニンの複合体を得、次いで該複合体を酸加水分解処理することによって得られたものであることを特徴とする請求項1に記載の脂肪細胞分化抑制剤。

【公開番号】特開2009−13088(P2009−13088A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174809(P2007−174809)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】