説明

脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物におけるハロプテリス(Halopteris)属に属する褐藻類の抽出物の使用法及びそれに対応する化粧品用又は医薬用の組成物。

【構成】 本発明は、前脂肪細胞の分化への作用によって脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物におけるハロプテリス属(Halopteris)またはスファセラリア属(Sphacelaria)に属する褐藻類の抽出物の使用法に関する。また、藻類ハロプテリス (Halopteris)の抽出物を、脂肪分解を促進する作用剤(例えば、ホスホジエステラーゼの阻害剤又はアドレナリンレセプターをブロックする作用剤など)、及び/又は脂質生成を阻害する作用剤(例えば、脂肪酸合成酵素の阻害剤又はグルコース貫入レセプターをブロックする作用剤など)などのやせることを目的とした美容製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品用又は医薬用の組成物における、脂肪組織の肥大を制限するための藻類の抽出物の使用法に関する。また、本発明は、脂肪組織の肥大を制限するための前記化粧品用又は医薬用の組成物に関する。
【発明の開示】
【0002】
脂肪組織は結合マトリックスから形成され、基本的に皮下組織の脂肪細胞又はトリグリセリドの形態で豊富な脂質胞を覆う細胞である脂肪細胞から構成されている。これらの脂肪細胞の代謝活性は、第一に脂質生成というトリグリセリド合成ステップと、第二にエネルギー目的のため生物の他の細胞によって使用される血中脂肪酸へ放出される脂肪分解というトリグリセリド加水分解ステップとからなる。
【0003】
脂肪組織の肥大を制限するため、細胞内のトリグリセリドの脂肪分解又は細胞外への脂肪酸及びグリセロールの再放出のどちらか一方を促進させることによって、又は逆に新しいトリグリセリドの脂質生成を阻害することによって、脂肪部位に作用可能な物質の使用法が知られている。体形を整えるため、この活性型を有する植物の抽出物を化粧品用又は医薬用の組成物に用いることができる。
【0004】
一例として、単離されたヒト皮下脂肪細胞の脂肪分解を促進する効果を試験管内で示す、褐藻類ラミナリア ディギタータ(Laminaria digitata)の水溶性抽出物が記載されている特許文献FR−A−2693 917が挙げられる。また、脂肪分解の促進活性を有するマンゴスチン(Garcinia mangostana)の種子の脂質抽出物が記載されているFR−A−2774 905が挙げられる。
【0005】
さらに一例として、単離されたヒト皮下脂肪細胞において脂肪酸の新合成を阻害する作用及びそのため脂質生成を阻害する作用を示す、(多価不飽和脂肪酸の高い含有量を有する)微小藻類オドンテラアウリタ(Odontella aurita)の脂質抽出物が記載されている特許文献FR−A−2 795 958が挙げられる。また、同様な効果を示す(フィトステロールを多く含有する)ポリゴニウムフォゴプリウム(Polygonum fogopyrum)の種子の脂質抽出物が記載されている特許文献FR−A−2817 150が挙げられる。
【0006】
本発明は、より詳細にはハロプテリス(Halopteris)属(スファセラリア(Sphacelaria)目)に属する褐藻類に関する。一例としては、スファセラリア スコパリア(Sphacelaria scoparia)とも称す藻類ハロプテリス スコパリア(Halopteris scoparia)がある。本発明は、脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物におけるハロプテリス(Halopteris)属に属する褐藻類の抽出物の使用法に関する。好ましくは、この藻類は藻類ハロプテリススコパリア(Halopteris scoparia)である。
【0007】
意外にも、この抽出物は脂質再生の阻害又はトリグリセリドの脂肪分解の促進の何れの有効な作用も有さないことを示す可能性がある。
【0008】
また、次に示されるように、前脂肪細胞と称され、増殖する唯一の細胞である、脂肪前駆細胞から単独でトリグリセリドを蓄積できる成熟脂肪細胞への形成に、この抽出物が作用することが示されている。前脂肪細胞から成熟脂肪細胞へのこの変化は、細胞分化と呼ばれる。つまり、ハロプテリス(Halopteris)属(又はスファセラリア(Sphacelaria))に属する褐藻類の抽出物は、前脂肪細胞から成熟脂肪細胞への分化において阻害する作用を有する。
【0009】
一般論として、細胞分化は、ホルモン,サイトカイン,成長因子,ビタミン等の細胞が見出される環境下に存在する脂質生成因子によって、通常、正又は負に調節される。それは、一つ以上のこれらの脂質生成の制御因子の濃度の増加又は減少によって生じる。これらの制御因子は、いわゆる自己分泌制御による場合である前脂肪細胞それ自体によって、又は、いわゆる傍分泌制御による場合である周辺細胞によって、或いはまた、いわゆる内分泌制御による場合である離れて存在するが血液により前脂肪細胞へ結合される細胞によって生成される。脂肪細胞の場合、前脂肪細胞は線維芽細胞型の細胞であり、その環境要因に従って、脂肪組織での脂肪細胞へ、又は、骨組織中の骨芽細胞へ分化する。
【0010】
著者:オオスミ J,ミヤダイ K及びイトオ Y、題名:「インターロイキン−11/脂肪細胞生成の阻害因子による3T3−L1脂肪細胞でのリポタンパクリパーゼ合成の制御」、Biochem.Mol.In, 1994, 32, p705-712に掲載されている文献から、インターロイキン−11(IL−11)は、脂肪組織の分化を阻害する活性を有し、そのため負の脂肪細胞生成の要素を含むことが知られている。同様に、著者:Guo D,Donner D B、題名:「腫瘍壊死は、3T3−L1脂肪細胞において、リン酸化、及び、ホスファチジル・イノシトール3−キナーゼへのインスリン受容体基質1の結合を促進する」、J.Biol.Chem., 1996, 271: 615-618に掲載されている文献は、腫瘍壊死(TNFa)のα因子のそのような効果を示した。
【0011】
分化を促進する脂肪細胞化因子の中で、インスリン及びインスリン様成長因子1(IGF−1)は、脂肪酸合成酵素(FAS),グリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GPDH),ステロールCoA不飽和化酵素(SCD),或いはヒト脂肪細胞の表面に発現するグルコーストランスポーター(GLUT‐4)及び脂肪酸トランスポーター(FABP)等の膜タンパクなどの脂肪細胞分化のマーカーの発現を増加させる(著者:Moustaid N、Jones B H及びTaylor J W、題名:「インスリンは、初代培養のヒト脂肪細胞において脂肪合成酵素の活性を上昇させる」、J. Nutr., 1996, 126:865-870に掲載されている文献を参照。)
成熟脂肪細胞は、特にレプチン及びアディポネクチンなどの脂肪細胞に特異的なホルモンに該当すると考えられる分泌因子を生産し、分泌する。また、後者は、J. Bio. Chem, 1995, 270 26746-9に開示されたScherneらによる文献によると、Acrp 30(30kDaの脂肪細胞の補体関連タンパク質)であり、又は、J. Bio. Chem, 1996, 271 10697-703に開示されたHuらによる文献によると、マウスで示されたAdipoQである。NakanoらによるJ. Biochem, 120, ページ803-812で公表された文献によると、ヒト血漿において同様のタンパクが明らかにされ、GBP28(28kDaのゼラチン結合タンパク)又はAPM1(Adipose Most Abundant Gene Transcript1、脂肪組織に高発現する遺伝子1)と名付けられた。
【0012】
藻類ハロプテリス(Halopteris)属、特に藻類ハロプテリス(Halopteris)(又はスファセラリア(Sphacelaria))スコパリア(scoparia)の抽出物が与える脂肪細胞の分化に基づく阻害作用を研究するために行われた研究結果を以下に示す。
【0013】
これを行うため、脂肪細胞として誘導された3T3−L1の前脂肪細胞株における藻類ハロプテリス(Halopteris)(又はスファセラリア(Sphacelaria))スコパリア(scoparia)の抽出物の作用を研究する。
【0014】
藻類ハロプテリス スコパリア(Halopterisscoparia)の抽出物は、本研究では、溶媒存在下で乾燥又は凍結乾燥した藻類の浸漬によって得られた水溶性抽出物である。溶媒は、例えばジプロピレングリコール又はグリセロールのような共溶媒と水の混合物である。水と共溶媒の間の割合は、0から80%の間であり、好ましくは、30から50%の間である。溶媒が水のみからなってもよいことは注目すべきことである。
【0015】
既知の文献、特に、著者:MacDougald O A及びLane M D、題名:「脂肪細胞分化の間の遺伝子発現の転写制御」、Annu. Rev. Biochem., 1995, 64 : 345-373に掲載されている文献に従って、脂肪細胞として誘導される前脂肪細胞3T3−L1株における抽出物の作用に関する研究を行う。
【実施例】
【0016】
以下に簡単にこのプロトコルを述べる。2mMのグルタミン,4.5g/lのグルコース,0.11g/lのピルビン酸ナトリウム,10%のウシ血清(SVD)及び抗体(1mlの培地中に50Uペニシリン及び50μgのストレプトマイシン)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)からなる培地で、3T3−L1株の前脂肪細胞を保持した。以下の方法で、脂肪細胞としての分化が起きた。最初に、2日間でコンフルエンスに達した前脂肪細胞を培養した。以下のD0の時において、培地を、10%のウシ胎仔血清(FCS)を含み、0.25mMのイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、0.25μMのデキサメタゾン及び1.74μMのインスリンを添加したDMEMから構成される分化誘導培地(DIM)と交換した。インキュベーション2日後、つまりD2の時において、誘導培地を注意しながら回収し、10%のFCS及び0.174μMのインスリンを含む新しい培地と交換した。次に、2日ごとに培地を新しくした。
【0017】
培養7日後、オイルレッド(Oil Red)で染色することによって、前脂肪細胞の脂質含有量を評価した。より詳しくは、前脂肪細胞を、3.7%ホルムアルデヒドで固定し、オイルレッド着色溶媒(イソプロパノール/水の混合液中に0.5%)で10分間インキュベートした。10分後、シャーレ一面に増殖した細胞(cellular carpet)を水ですすぎ、純イソプロパノールで前脂肪細胞を溶解させた。培地の吸光度(OD)を540nmで測定した。
【0018】
0日目(D0)に開始され、DIMによる誘導期間中、褐藻類ハロプテリス スコパリア(Halopterisscoparia)の抽出物を3T3−L1細胞で検査した。
【0019】
第1実施例において、分化の開始時(D0の時)からこの抽出物を添加し、2日ごと(つまり、D2及びD4の時)に新しい培地に交換し、細胞が固定される(D7の時)まで培地中に保持した。以下の3つの濃度:0.4%,1%及び2.5%で抽出物を試験した。著者:Stone R L及びBerlnohr D A、題名:「レチノイン酸による3T3−L1細胞の脂肪細胞への変換の阻害の分子的基礎」、Differentiation, 1990, 45:119-127に掲載されている文献中で具体的に述べられているように、同様な方法で前脂肪細胞から脂肪細胞への分化を阻害することが知られている10μMのレチノイン酸を用いた。
【0020】
以下の表1に第1実施例の結果を示す。また、対応するグラフを図1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
それらの濃度のハロプテリス抽出物が細胞毒性を示さないことは注目すべきである。MTT中におけるホルマザン結晶への還元を測定する従来の方法により、3T3−L1細胞における抽出物の毒性の不在を評価した(具体的には、著者:Mosmann T、題名:「細胞成長及び生存のための簡易な比色分析:増殖と細胞毒性評価への応用」、J .Immunol. Methods, 1983, 65: 55-63に掲載されている文献を参照)。より詳細には、抽出物とのインキュベーション後、細胞をすすぎ、リン酸緩衝液(PBS)中で0.5mg/mlに調製されたMTT溶液中において3時間インキュベートした。インキュベーション後、前脂肪細胞をPBS中ですすぎ、ジメチルスルフォキシド(DMSO)中で溶解した。吸光度(OD)を540nmで測定した。
【0023】
第2実施例において、開始(D0)から抽出物を添加したが、第1実施例と異なり、その後新しい培地と交換しなかった。つまり、D7時で固定されるまで、D2時又はD4時の誘導後においても新しい培地と交換しなかった。同時に、D2時からD7時において、培養液を抽出物で処理し、D4時に新しい培地と交換した。
【0024】
以下の表2にこれらの第2実施例の結果を示す。また、対応するグラフを図2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
上記で述べられているように、本実施例において比較対照培養として、10μMで試験されたレチノイン酸の不在下又は存在下で、(10%SVDを有する培地で培養された)非誘導細胞と、DIM培地において誘導された細胞を作成した。実際、後者(レチノイン酸の存在)は、前脂肪細胞から脂肪細胞への分化を阻害することが知られている。
【0027】
分化誘導培地(DIM)の不在下では、大多数の細胞が前脂肪細胞のままであったことが記された。オイルレッドによる脂質の染色後、ごく少数の細胞が顕微鏡下で確認できる脂肪滴を自発的に生産した。
【0028】
同様に、2日間の誘導培地DIMの存在下では、オイルレッドによる染色後、大多数の細胞が多数の脂肪滴を含むことがわかった。
【0029】
これらの実施例の結果を以下に述べる。
【0030】
0.4%,1%,1.5%(v/v)で試験されたハロプテリス スコパリアの抽出物は、前脂肪細胞から脂肪細胞への分化をそれぞれ28%,78%,125%阻害した。図1で示されるように、この阻害効果は用量依存的関係に従う。
【0031】
2.5%の抽出物について100%を超える阻害が測定されることがわかり、これは、分化誘導培地(DIM)の不在下において、少数の細胞で自然に発生した脂肪滴の形成を阻害することを示す。
【0032】
同じ実験条件下で、10μMの量のレチノイン酸の存在は、脂肪滴の発生を非常に強く制限する。すなわち、細胞は前脂肪細胞の形態のままであり、脂肪細胞へ分化しないことがわかる。
【0033】
DIMによる誘導のわずか2日間(すなわち、D0の時からD2の時まで)、1%(v/v)で試験されたハロプテリス抽出物の存在は、脂肪細胞への分化を阻害するのに十分である。培養している間(すなわち、D0の時からD7の時まで)、抽出物が存在する場合の72%に対して43%を阻害した。分化誘導(すなわち、D2の時からD7の時まで)後、抽出物を細胞と接触させた場合、明らかに低い阻害効果(15%のみの阻害)を示した(表2を参照)。
【0034】
これらの結果は、分化の開始から抽出物が存在することの重要性を示している。同様の実験条件で、10μMのレチノイン酸で試験し、同様の効果を得られる(表2を参照)。Xue J C、Schwarz E J、Chawla A及びLazar M Aによって、「PPARガンマの誘導後、レチノイドの分化の阻害によって、脂肪合成における重要な段階」という題名で、Mol. Cell. Biol., 1996, 16:1567-1575という文献中に、分化を誘導するためレチノイン酸を加える時間の重要性大きく記載されていることは注目すべきことである。
【0035】
これらの実験の結果から、ハロプテリス スコパリアの抽出物が脂質合成(脂質生成)の阻害剤というよりむしろ真の分化の阻害剤として作用するということをこれで結論付けることができる。
【0036】
記載された結果を立証するため、分化した脂肪細胞に通常発現するマーカーをコードする遺伝子の発現に関して、3T3−L1株の前脂肪細胞におけるハロプテリス スコパリアの抽出物の作用を研究する新たな実験を行った。
【0037】
そのため、培養期間の前に、D0と称される時までの2日間でコンフルエンスに達した前脂肪細胞を使用した。その後、比較対照として利用可能な培地を配置する。D0の時に、ハロプテリス抽出物の存在下又は不在下において、培地を分化誘導培地DIMと交換する。
【0038】
D4とD7の時(それぞれ、D0+4日とD0+7日)に、提供者に推奨されたプロトコルに従い適切な試薬(この場合Tri−試薬)を用いて全RNAを抽出した。DNAを取り除いた(DNAフリーシステム、Ambion社)。アガロースゲルでDNAの特性を確認した。開始因子であるオリゴ(dT)と酵素スパースクリプト(Superscript)II(Gibco社)の存在下で、mRNAの逆転写(RT)反応を行った。蛍光によってcDNA合成を定量化し、20ng/mlの濃度に調製した。ロシュモレキュラー システム社の「ライトサイクラー」システムで、提供者に推奨されたプロトコルに従い、定量的PCRによってポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。複製されたDNAの中に組み込まれた蛍光性物質をPCRサイクルの間、継続的に測定し、各々実験されるマーカーに対する相対発現量を得ることを可能とする。
【0039】
脂肪酸(FABP4)を結合する細胞質のタンパクをコードする遺伝子422/aP2の発現を調節する転写因子PPARg(Peroxisome proliferator activated receptor gamma、ペルオキシゾーム誘導剤活性化受容体ガンマ)の発現、c/EBPa,c/EBPb,c/EBPg(CAAT−エンハンサー−結合タンパク質アルファ,ベータ,ガンマ)といったタンパクと同様に、酵素FAS(脂肪酸合成酵素)をコードする遺伝子の発現をコントロールする転写因子SREBP1(Sterol Response Element Binding Protein、ステロール反応成分結合タンパク質)の発現に関する研究を行った。c/EBPa因子は、ステアリン酸CoA不飽和化酵素タイプ1(SCD1)及びグルコース受容体(GLUT−4)の遺伝子の発現を調節する。また、脂肪酸トランスポーター(脂肪酸転移酵素又はFAT)の発現を研究した。
【0040】
4日目と7日目の第2の培地の誘導期間に関して、3種の培地(対照培地,誘導培地のみが存在する培地,誘導培地と抽出物が存在する培地)で得られた結果を下記に示す。
【0041】
誘導の4日後、c/EBPaの発現は、誘導されていない対照と比較して、10.4倍増加した。抽出物の存在下では、c/EBPaの発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、33%減少した。誘導の7日後、c/EBPaの発現は、誘導されていない対照と比較して、27.7倍増加した。抽出物の存在下では、c/EBPaの発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、37%減少した。
【0042】
誘導の4日後、SREBP1の発現は、誘導されていない対照と比較して、1.9倍(+88%)増加した。抽出物の存在下では、SREBP1の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、21%減少した。誘導の7日後、SREBP1の発現は、誘導されていない対照と比較して、2.7倍(+166%)増加した。抽出物の存在下では、SREBP1の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、31%減少した。
【0043】
誘導の4日後、酵素FASの発現は、誘導されていない対照と比較して、有意に増加しなかった。しかし、抽出物の存在下では、酵素FASの発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、47%減少した。誘導の7日後、酵素FASの発現は、誘導されていない対照と比較して、8.3倍増加した。抽出物の存在下では、酵素FASの発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、58%減少した。
【0044】
誘導の4日後、SCD1転写因子の発現は、誘導されていない対照と比較して、14倍増加した。抽出物の存在下では、SCD1の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、25%減少した。誘導の7日後、SCD1の発現は、誘導されていない対照と比較して、567倍増加した。抽出物の存在下では、SCD1の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、27%減少した。
【0045】
誘導の4日後、FATの発現は、誘導されていない対照と比較して、1329倍増加した。抽出物の存在下では、FATの発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、FATの発現を44%減少させた。誘導の7日後、FATの発現は、誘導されていない対照と比較して、1528倍増加した。抽出物の存在下では、FATの発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、56%減少した。
【0046】
誘導の4日後、GLUT−4の発現は、誘導されていない対照と比較して、281倍増加した。抽出物の存在下では、GLUT−4の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、37%減少した。誘導の7日後、GLUT−4の発現は、誘導されていない対照と比較して、3079倍増加した。抽出物の存在下では、GLUT−4の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、23%減少した。
【0047】
予想される結果と一致して、ハロプテリス抽出物の不在下でのDIM誘導培地による分化は、対照である培地と比較して、程度の差はあるものの前脂肪細胞の脂肪細胞への分化のマーカーを全て増加した。
【0048】
上記で与えられた結果は、ハロプテリス スコパリアの抽出物が、多くの脂肪細胞の分化マーカーの発現を改変することを示すことができる。具体的には、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、c/EBPa転写因子の発現を(誘導の4日後に33%、誘導の7日後に37%)減少させ、また、SREBP1の発現を(誘導の4日後に21%、誘導の7日後に31%)減少させ、酵素FASの発現を(誘導の4日後に47%、誘導の7日後に58%)減少させ、酵素SCD1の発現を(誘導の4日後に25%、誘導の7日後に27%)減少させ、脂肪酸トランスポーターFATの発現を(誘導の4日後に44%、誘導の7日後に56%)減少させ、グルコーストランスポーターGLUT−4の発現を(誘導の4日後に37%、誘導の7日後に23%)減少させ、脂肪細胞タンパク質結合脂肪酸FABP4(誘導の4日後に18%)減少させた。一方、ハロプテリス抽出物は、PPARg因子において任意の有意な効果を示さなかった。しかしながら、ハロプテリス抽出物は、PPARg因子の調節下にある2つの遺伝子の発現を改変する。つまり、FABP4の発現を(少なくとも一時的に)減少させる。
【0049】
また、マイクロタンパクリパーゼ(LPL)の発現を減少させた。誘導の7日後、誘導培地によって誘導されたLPLの発現は、抽出物の存在下で66%減少した。
【0050】
また、誘導の4日後、COL1の発現が、誘導されていない対照と比較して、70%減少したことを示した。抽出物の存在下で、この発現は、誘導されていない対照と比較して、わずか46%減少し、抽出物の不在下で誘導した脂肪細胞と比較して、79%増加したことを意味する。誘導の7日後、COL1の発現は、誘導されていない対照と比較して、80%減少した。抽出物の存在下で、その発現は、誘導されていない対照と比較して、59%減少し、抽出物の不在下で誘導した脂肪細胞と比較して、2倍増加したことを意味する。
【0051】
誘導の4日後、COL4の発現は、誘導されていない対照と比較して、3.1倍増加した。抽出物の存在下では、COL4の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、16%増加した。誘導の7日後、COL4の発現は、誘導されていない対照と比較して、2.6倍増加した。抽出物の存在下では、COL4の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、17%増加した。
【0052】
このため、誘導培地DIMの添加により、コラーゲンタイプ1(COL1)の発現は減少した。このコラーゲンは、真皮中に最も豊富に存在する。それは、主な性質が引張強度である厚い線維を形成する。このコラーゲンは、線維芽細胞,また軟骨細胞,骨芽細胞によって主に生産される。これらの細胞は、脂肪細胞のような線維芽細胞から得る。このコラーゲンは、お互いに結合した脂肪細胞を保つことを可能とする。それゆえ分化の間、前脂肪細胞がコラーゲンタイプ1を生成するための能力を失う。一方、成熟脂肪細胞はコラーゲンタイプ4(COL4)を生産する。これは繊維を形成せず、基底層、特に真皮表皮基底膜で非組織化形状の形態にある。COL4は、支持組織(真皮)と上皮組織(表皮)との間の中間に位置し、ろ過支持体として機能する。COL4は、上皮細胞(ケラチノサイト)と内皮細胞によって作られ、また、脂肪細胞によっても生産される。
【0053】
抽出物は、コラーゲンの発現を改変するとみてもよく、通常分化の間に観察されるコラーゲンタイプ1(COL1)の喪失を低減させる。COL1の発現は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して(誘導の4日後に79%、誘導の7日後に59%)増加する。さらに、抽出物は、脂肪細胞への分化中に通常増加するコラーゲンタイプ4(COL4)の発現を抑制しない。抽出物は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、COL4の発現を(誘導の4日後に16%、誘導の7日後に17%)増加させる。
【0054】
従って、RTPCR法による脂肪細胞への分化の発現遺伝子の分析によって、前脂肪細胞の成熟細胞への分化におけるハロプテリス スコパリア抽出物の阻害作用を確認した。また、この作用が、分化のある特定のマーカーに限定されることを示す。さらに、それは、コラーゲンタイプ1(COL1)の高レベルを保持し、コラーゲンタイプ4(COL4)の発現を誘発する。この作用は興味深く、脂肪分解剤による脂肪組織の攻撃の後、皮膚組織を制限するための必要性に関する。
【0055】
また、ハロプテリス スコパリア抽出物(1%)は、抽出物なしで誘導された脂肪細胞と比較して、アディポネクチンの発現を70%減少させる。
【0056】
従って、本発明は、前脂肪細胞の分化への作用によって脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物におけるハロプテリス属(Halopteris)に属する褐藻類の抽出物の使用法に関する。前記藻類は、好ましくは藻類ハロプテリス スコパリア(Halopteris scoparia)である。
【0057】
さらに、好適な一実施形態によれば、前記抽出物は、乾燥又は凍結乾燥された藻類を、水又は共溶媒と水の混合液などの溶媒の存在下に浸漬することによって得られる。前記共溶媒は、ジプロピレングリコール又はグリセロールであってもよく、前記水と共溶媒の比率は、0〜80%、好ましくは30〜50%である。
【0058】
また、本発明は、作用物質として、脂肪細胞の分化を阻害するように作用するハロプテリス(Halopteris)属に属する褐藻類の抽出物を少なくとも一つ含むことを特徴とする脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物に関する。前記藻類は、好ましくは藻類ハロプテリス スコパリア(Halopterisscoparia)又はスファセラリア スコパリア(Sphacelaria scoparia)である。
【0059】
前記抽出物は、好ましくは乾燥又は凍結乾燥された藻類を、水又は共溶媒と水の混合液などの溶媒の存在下に浸漬することによって得られる。前記共溶媒は、ジプロピレングリコール又はグリセロールであってもよく、前記水と共溶媒の比率は、0〜80%、好ましくは30〜50%である。
【0060】
本発明の別の特徴によれば、藻類ハロプテリス (Halopteris)の抽出物を、脂肪分解を促進する作用剤(例えば、ホスホジエステラーゼの阻害剤又はアドレナリンレセプターをブロックする作用剤など)、及び/又は脂質生成を阻害する作用剤(例えば、脂肪酸合成酵素の阻害剤又はグルコース貫入レセプターをブロックする作用剤など)などのやせることを目的とした美容製剤に関する。
【0061】
また、本発明は、前脂肪細胞の分化を阻害することによって、脂肪組織の肥大を制限することを目的とした上述の美容製剤の使用法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、第1実施例の結果を示すグラフである。
【図2】図2は、第2実施例の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前脂肪細胞の分化への作用により脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物におけるハロプテリス(Halopteris)属に属する褐藻類の抽出物の使用法。
【請求項2】
前記藻類が、藻類ハロプテリス スコパリア(Halopteris scoparia)であることを特徴とする請求項1記載の使用法。
【請求項3】
前記抽出物は、乾燥又は凍結乾燥された藻類を、水又は共溶媒と水の混合液などの溶媒の存在下に浸漬することによって得られることを特徴とする請求項1又は2記載の使用法。
【請求項4】
前記共溶媒が、ジプロピレングリコール又はグリセロールであることを特徴とする請求項3記載の使用法。
【請求項5】
前記水と共溶媒の比率が、0〜80%であることを特徴とする請求項4記載の使用法。
【請求項6】
前記水と共溶媒の比率が、30〜50%であることを特徴とする請求項5記載の使用法。
【請求項7】
脂肪組織の肥大を制限するための化粧品用又は医薬用の組成物であって、作用物質として、脂肪細胞の分化を阻害するように作用するハロプテリス(Halopteris)属に属する褐藻類の抽出物を少なくとも一つ含むことを特徴とする化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項8】
前記藻類が、藻類ハロプテリス スコパリア(Halopteris scoparia)であることを特徴とする請求項7記載の化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項9】
前記抽出物は、乾燥又は凍結乾燥された藻類を、水又は共溶媒と水の混合液などの溶媒の存在下に浸漬することによって得られることを特徴とする請求項7又は8記載の化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項10】
前記共溶媒が、ジプロピレングリコール又はグリセロールであることを特徴とする請求項9記載の化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項11】
前記水と共溶媒の比率が、0〜80%であることを特徴とする請求項9又は10記載の化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項12】
前記水と共溶媒の比率が、30〜50%であることを特徴とする請求項9又は10記載の化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項13】
脂肪分解を促進する作用物質及び/又は脂質生成を阻害する作用物質を含むことを特徴とする請求項7〜12のいずれか1項に記載の化粧品用又は医薬用の組成物。
【請求項14】
前脂肪細胞の分化を阻害することによって、脂肪組織の肥大を制限する目的のための請求項7〜13のいずれか1項に記載の化粧品用又は医薬用の組成物の使用法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−501266(P2006−501266A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535597(P2004−535597)
【出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際出願番号】PCT/FR2003/002691
【国際公開番号】WO2004/024102
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【出願人】(303047344)ソシエテ ドゥ クルタージュ エ ドゥ ディフュジョン−コディフ アンテルナショナル エス.アー.エス (1)
【Fターム(参考)】