説明

脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒

【課題】アルカリ金属触媒を用いずに、速い反応速度で、かつ高収率で簡単に脂肪酸アルキルエステルを製造することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒を提供する。
【解決手段】トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、前記触媒が塩基性カルシウム化合物と特定の4級アンモニウム塩とを撹拌混合して、得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石鹸の製造原料、高級アルコールや界面活性剤などの合成原料、及び燃料などとして有用な脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、石鹸の製造原料、高級アルコールや界面活性剤などの合成原料、及び燃料などとして広く利用されている。脂肪酸アルキルエステルを得る方法としては、例えば、トリグリセリドとメタノールを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物や、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラートなどのアルカリ金属アルコラートなどのアルカリ金属触媒存在下でエステル交換反応させることによって製造することができる(特許文献1)。
【0003】
しかし、トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応によって脂肪酸アルキルエステルを製造する際にアルカリ金属触媒を用いる場合、生成した脂肪酸アルキルエステルを含む混合物に、触媒として用いたアルカリ金属は溶解してしまう。このアルカリ金属が残留した状態で脂肪酸アルキルエステルを、例えば、ディーゼルエンジンの燃料として使用した場合、アルカリ金属は燃料系部品の金属部分にデポジットとして蓄積され、燃料流量を低下させ、出力低下、排ガス悪化の原因となる。このため、アルカリ金属を除去するための数回の水洗工程を別途必要とし、廃水処理の問題や製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0004】
このような事情から、脂肪酸アルキルエステルを含む混合液に対する溶解性が低い触媒である塩基性カルシウム化合物を用いることが検討されている。例えば、アルカリ金属触媒を用いずに、トリグリセリドとメタノールからエステル交換反応によって脂肪酸アルキルエステル得る方法として、特許文献2には、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムをエステル交換反応の触媒に用いることが記載されている。また、特許文献3及び4には、特定の条件下で炭酸カルシウム等を焼成して得られる高活性の酸化カルシウムを触媒として用いる方法が記載されている。さらに、特許文献5には、酸化カルシウムをアルコール中で活性化処理したものを触媒として用いる方法が記載されている。またさらに、特許文献6には、カルシウムメトキシド粉末を触媒として用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−120799号公報
【特許文献2】特開2001−271090号公報
【特許文献3】WO2006/134845号公報
【特許文献4】WO2008/090987号公報
【特許文献5】WO2007/088702号公報
【特許文献6】WO2009/107739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの方法においても、酸化カルシウム等の塩基性カルシウム化合物を触媒として用いた場合は、エステル交換反応の反応速度が遅く、脂肪酸アルキルエステルを効率的に得ることができないという問題がある。また、エステル交換反応後に得られた反応混合物中に、塩基性カルシウム化合物が多量に残存するため、反応混合物からグリセリンを静置分離する際に脂肪酸アルキルエステル層とグリセリン層の分離性が低下し、グリセリン層の抜き出しにも支障をきたすという問題がある。さらに、得られた脂肪酸アルキルエステル生成物に多量のカルシウムが含まれるため、カルシウムを除去するためのキレート剤などを用いたカルシウム除去工程が必要となり、製造工程が複雑となるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、塩基性カルシウム化合物を触媒として、速い反応速度でかつ高収率で簡単に脂肪酸アルキルエステルを製造することができる、脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法において、触媒として塩基性カルシウム化合物及び特定の4級アンモニウム塩とを撹拌混合して、得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液を用いることにより、アルカリ金属触媒を用いずに、速い反応速度で、かつ高収率で簡単に脂肪酸アルキルエステルを製造することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、前記触媒は、塩基性カルシウム化合物と、下記式(1)又は下記式(2)で表される少なくとも1つの化合物とを撹拌混合して、得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
また、本発明は、トリグリセリドとアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する際に用いられる脂肪酸アルキルエステル製造用触媒において、塩基性カルシウム化合物と、上記式(1)又は上記式(2)で表される少なくとも1つの化合物とを撹拌混合して、得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液が含まれることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用触媒である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、塩基性カルシウム化合物を触媒として、速い反応速度でかつ高収率で簡単に脂肪酸アルキルエステルを製造することができる、脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒において用いられるトリグリセリドとしては、下記式(3)で表されるものが好ましい。式中、R、R及びRは、6乃至24個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基であればよく、R、R及びRは、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。さらに、R、R及びRは、ヒドロキシ基を含むものであってもよい。
【0015】
CH(OCOR)−CH(OCOR)−CHOCOR …(3)
【0016】
トリグリセリドは、植物油や動物油等の天然油脂に含まれるものや化学的に合成されたものなど様々のものを用いることができ、特にバイオマス由来であることが好ましい。
【0017】
植物油及び動物油としては、魚油、牛脂や豚脂等の獣油、並びに、サフラワー油、ひまわり油、アマニ油、大豆(ダイズ)油、菜種(なたね)油、綿実油、オリーブ油、パーム油、コーン油、ゴマ油、ヒマシ油、米油、及びヤトロファ油等の植物油が挙げられる。これらの油脂は1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。さらに、これらの油脂は天ぷら油等の廃油(廃食油)であってもよい。
【0018】
廃油を用いる場合には、予めフィルタープレス等の既知の濾過機を用いて不純物を除去することが好ましい。この際、活性白土、珪藻土、ゼオライト、活性炭、酸性白土、ベントナイト、シリカ系吸着剤、シリカ−アルミナ化合物、炭酸カルシウム、骨灰、パーライト、セルロース、マグネシア、アルミナ、及び石膏等の既知の濾材を用いることもできる。この濾材の量は、廃油の種類や廃油中に含まれる不純物の量等に応じて適宜設定することができる。
【0019】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒において用いられるアルコールは、下記式(4)で表されるものが好ましい。
【0020】
OH …(4)
【0021】
式中、Rは、炭素数1乃至24の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、及びn−ブタノールなどの1級アルコール、イソプロパノール、及びsec-ブタノールなどの2級アルコール、並びにtert−ブタノールなどの3級アルコールを用いることができる。この中では、メタノール及びエタノールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0022】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、式(3)で表されるトリグリセリドと、式(4)で表されるアルコールとを反応させた場合、下記式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0023】
COOR …(5)
【0024】
COOR …(6)
【0025】
COOR …(7)
【0026】
式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルにおいて、R乃至Rは、式(3)及び式(4)と同じである。Rが前述した範囲のものは、エステル交換反応によって得られる式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルを様々な用途として良好に使用することができる。
【0027】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、トリグリセリドとアルコールとの反応の温度条件は50℃以上であることが好ましい。温度条件が50℃より過度に低いと、脂肪酸アルキルエステルの収率が低くなる。より好ましい温度範囲は、アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール等であれば、50乃至100℃である。トリグリセリドとアルコールの割合は、トリグリセリド1モルに対して、アルコール4〜150モルであることが好ましく、5〜60モルであることがさらに好ましい。
【0028】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、触媒溶液存在下で反応を行う。触媒溶液は、まず、塩基性カルシウム化合物と、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物とを撹拌混合し、次に、得られた混合溶液から固形物を除去することによって得ることができる。
【0029】
塩基性カルシウム化合物としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、カルシウムメトキシド等のカルシウムアルコキシド、及びカルシウムメトキシドの水和物等のカルシウムアルコキシドの水和物が挙げられる。これらの中では、酸化カルシウム、及びカルシウムメトキシド等のカルシウムアルコキシドが好ましく、カルシウムメトキシドがさらに好ましい。塩基性カルシウム化合物の平均粒子径は、1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがさらに好ましい。塩基性カルシウム化合物の使用量は、トリグリセリド1モルに対して、0.01〜0.3モルであることが好ましい。
【0030】
塩基性カルシウム化合物と混合される化合物は、式(1)に表されるビス4級アンモニウム炭酸塩又は式(2)で表される4級アンモニウムモノアルキル炭酸塩である。
【0031】
式(1)及び式(2)において、R乃至Rは、各々独立した炭素数1乃至24の炭化水素基であり、炭素数1乃至18の炭化水素基であることが好ましい。R乃至Rのいずれか2個又は3個が互いに結合して炭素、酸素、又は窒素原子を介したヘテロ環や縮合環を形成していてもよい。前記炭化水素基は、直鎖、分枝、又は環式の脂肪族炭化水素基であっても芳香族炭化水素基であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0032】
乃至Rのいずれか2個または3個が形成するヘテロ環としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピロール、ピロリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなどの各種へテロ環が挙げられる。R乃至Rのうちの3個が炭素又は窒素原子を介したヘテロ環を形成している具体例としては、下記式(8)や下記式(9)に示した炭酸塩が挙げられる。下記式(8)及び下記式(9)中のRは、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、フェニル基、及びヒドロキシル基などが挙げられる。具体的なRとしては、4−ジメチルアミノ基などが挙げられる。Rは、ヘテロ環の任意の位置に結合している。
【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
式(1)で表される化合物の具体例としては、ビストリエチルメチルアンモニウム炭酸塩、ビス(1−メチル−4−ジメチルアミノピリジニウム)炭酸塩、ビス(1,1−ジメチルピロリジニウム)炭酸塩、ビス(4,4−ジメチルモルホリジウム)炭酸塩、及びビス(1−エチル−1−メチルピロリジニウム)炭酸塩などが挙げられる。
【0036】
式(2)で表される化合物の具体例としては、トリエチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、1−メチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジニウムモノメチル炭酸塩、N,N−ジメチルモルホリウムモノメチル炭酸塩、N,N−ジメチルアミノピペリジニウムモノメチル炭酸塩、テトラメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、ジエチルジメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、トリエチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、及びN−(2−ヒドロキシエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩などが挙げられる。
【0037】
式(8)で表される化合物の具体例としては、ビス(1−メチル)ピリジニウム炭酸塩、及びビス(1−メチル,4−ジメチルアミノ)ピリジニウム炭酸塩などが挙げられる。式(9)で表される化合物の具体例としては、1−メチルピリジニウムモノメチル炭酸塩、及び(1−メチル,4−ジメチルアミノ)ピリジニウムモノメチル炭酸塩などが挙げられる。
【0038】
式(1)及び式(2)で表される化合物については、以下のように製造することができる。式(1)で表される化合物は、例えば、式(1)におけるR〜Rを置換基として有する3級アミン1モルに対し、式(1)におけるRをアルキル基として有する炭酸ジアルキル0.5モルを混合して反応させる。反応の際にメタノールなどの溶媒を用いてもよい。反応温度は100乃至180℃が好適である。
【0039】
他方、式(2)で表される化合物は、例えば、式(2)におけるR〜Rを置換基として有する3級アミン1モルと、式(2)におけるRをアルキル基として有する炭酸ジアルキル1モル以上とを混合して反応させる。反応の際にメタノールなどの溶媒を用いてもよい。反応温度は100乃至180℃が好適である。式(8)及び式(9)で表される化合物も、上記と同様にして得ることができる。なお、式(1)及び式(2)の製造方法については上記に限定されず、3級アミンと炭酸ジアルキルの種類に応じて、3級アミンと炭酸ジアルキルのモル比、反応温度や溶媒などが適宜設定される。
【0040】
塩基性カルシウム化合物と式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物とを混合すると、塩基性カルシウム化合物、又は式(1)若しくは式(2)で表される少なくとも1つの化合物を単独で用いる場合に比べてトリグリセリドとアルコールとの反応速度を向上させることができる。
【0041】
塩基性カルシウム化合物と式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物との混合割合は、塩基性カルシウム化合物1モルに対して、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物が1.0モル以上であることが好ましく、1.0〜10モルであることがさらに好ましく、1.0〜5モルであることが特に好ましい。
【0042】
塩基性カルシウム化合物と、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物との撹拌混合は一般的な手段を用いて行うことができ、例えば、マグネチックスターラー等の各種撹拌機を用いて撹拌混合することができる。
【0043】
撹拌混合は、塩基性カルシウム化合物、及び式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物を溶媒存在下で撹拌混合することが好ましい。溶媒は、塩基性カルシウム化合物、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物、並びに脂肪酸アルキルエステルの製造に用いられるトリグリセリド及びアルコールと不活性なものが好ましく、脂肪酸アルキルエステルの製造に用いられるアルコールと同じアルコールがさらに好ましく、メタノールであることが特に好ましい。
【0044】
溶媒の添加量は、下記式Aにおいて、塩基性カルシウム化合物濃度が、1〜40質量%となるように添加するのが好ましく、3〜20質量%となるように添加するのがさらに好ましく、3〜10質量%となるように添加するのが特に好ましい。
【0045】
塩基性カルシウム化合物濃度(質量%)=塩基性カルシウム化合物/(溶媒+式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物)×100 …(式A)
【0046】
溶媒の他に、脂肪酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩を添加してもよい。これらを添加することにより、反応速度を一段と向上させて高収率で脂肪酸メチルエステルを製造することができる。上記脂肪酸としては、6乃至24個の炭素原子を含有する脂肪酸が挙げられ、具体的には、ステアリン酸などが挙げられる。上記アルカリ金属としては、ナトリウム、及びカリウムが挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、及びマグネシウムが挙げられる。
【0047】
撹拌混合の温度は、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物の分解温度未満であればよい。撹拌混合に溶媒を用いており、かつ前記分解温度が溶媒の沸点より高い場合は、室温から溶媒の沸点未満の温度で撹拌混合を行えばよい。通常は、室温で撹拌混合を行えば問題ない。
【0048】
撹拌混合の時間は、一般的には3分以上3時間以下である。例えば、塩基性カルシウム化合物がカルシウムメトキシドである場合、室温下、内容積100mLの容器中、カルシウムメトキシド(平均粒子径0.1〜10μm)濃度3〜8質量%、メタノールとメチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートの合計量40〜50mL、スターラー回転速度100〜300rpmの条件において、撹拌混合時間は3分以上3時間以下であることが好ましく、10分以上2時間以下であることがさらに好ましく、20分以上1時間以下であることが特に好ましい。あまり長時間撹拌すると非経済的であり好ましくない。本発明では、少なくともこの条件下におけるのと同等の固液接触効果を与える条件で撹拌混合を行うことが好ましい。
【0049】
撹拌混合時の圧力は特に制限はなく、例えば、常圧下で行うことができる。撹拌混合は、塩基性カルシウム化合物の吸湿や炭酸化を抑えられる雰囲気下、例えば、窒素雰囲気下で行うことが好ましいが、通常は大気下で行うことで差し支えない。
【0050】
塩基性カルシウム化合物がカルシウムメトキシドである場合の撹拌混合の好ましい具体例について説明する。まず、酸化カルシウムからカルシウムメトキシド懸濁液を特許文献6に記載のように調製する。得られたカルシウムメトキシド懸濁液に式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物を上記の割合で添加し、上記のような固液接触効果を与える撹拌混合条件下にて撹拌混合を行う。酸化カルシウムからカルシウムメトキシドを調製する際に式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物を添加して、カルシウムメトキシドの調製と撹拌混合を同時に行ってもよい。
【0051】
上記撹拌混合によって得られた混合溶液から固形分を除去する手段としては、例えば、濾過、及び遠心分離が挙げられる。固形分は、完全に除去されている必要はないが、混合溶液から固形分を除去した触媒溶液中のカルシウム濃度は、5000質量ppm以下であることが好ましく、3000質量ppm以下であることがさらに好ましい。塩基性カルシウム化合物と式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物との撹拌混合は、撹拌混合して得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液中のカルシウム濃度がこの範囲になるように行うことが好ましい。
【0052】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、トリグリセリドとアルコールとを前記触媒溶液の存在下で反応させることにより、脂肪酸アルキルエステルを含む脂肪酸アルキルエステル混合物(反応混合物)が得られる。脂肪酸アルキルエステル混合物は、不純物としてグリセリンを含んでいるので、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリンを脂肪酸アルキルエステル混合物から分離する分離工程を備えるのが好ましい。分離工程は、例えば、静置分離や遠心分離が挙げられるが、静置分離が好ましい。
【0053】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、分離工程で得られた脂肪酸アルキルエステルを、必要であれば、活性白土、珪藻土、ゼオライト、活性炭、酸性白土、ベントナイト、シリカ系吸着剤、シリカ−アルミナ化合物、炭酸カルシウム、骨灰、パーライト、セルロース、マグネシア、アルミナ、又は石膏等の既知の濾材を用いてろ過するろ過工程を備える。この濾材の量は生成した脂肪酸アルキルエステル混合物の状態により変わるが、分離工程で得られた脂肪酸アルキルエステルの1〜20質量%である。
【0054】
また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、必要であれば、水洗工程を備えていてもよいし、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、及びシュウ酸からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の酸及び水を分離工程で得られた脂肪酸アルキルエステルに添加・混合する中和・洗浄工程を備えていてもよい。
【0055】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、製造される式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルは、燃料、高品質の石鹸及び高級アルコールの原料など様々な用途として使用することができる。
【0056】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒によれば、触媒として、塩基性カルシウム化合物及び式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つの化合物を撹拌混合して、固形物を取り除いているが、塩基性カルシウム化合物を触媒とする従来の方法に比べ、トリグリセリドとアルコールとの反応速度を著しく向上させることができ、高い収率で効率よく脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。また、前記分離工程では、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを容易に静置分離することができ、グリセリンの抜き出しも支障なく行える。さらに、得られる脂肪酸アルキルエステル中のカルシウム濃度は、カルシウム除去操作を特に行わなくてもEN規格を満たすことができるようになる。
【0057】
また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒によれば、アルカリ金属触媒を用いていないので、アルカリ金属を除去するための数回の水洗工程を別途必要とせず、低酸価の脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0058】
さらに、後処理工程は、必要であれば、活性白土などを用いたろ過工程、あるいは一度の中和・水洗工程だけで済み、大きな問題が生じることはない。
【実施例】
【0059】
次に、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法の実施例について説明する。本実施例において用いられる塩基性カルシウム化合物、並びに式(1)及び式(2)で表された化合物は、以下のように製造した。
【0060】
(製造例1:カルシウムメトキシド)
重質炭酸カルシウムを大気下で焼成して製造した酸化カルシウム(宇部マテリアルズ製生石灰)2.625gを、ロッキングミルにより、メタノール30g中で2時間粉砕処理してカルシウムメトキシド分散液を調製した。得られた分散液中の粒子の平均粒子径は1.3μmであった。
【0061】
(製造例2:メチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート)
200mlのSUS製オートクレーブ(耐圧硝子工業製)に、原料として炭酸ジメチル(宇部興産製)67.5g(0.75mol)、トリエチルアミン(和光純薬製)75.0g(0.74mol)、及びメタノール(和光純薬製)48g(1.5mol)を仕込み、反応温度140℃で3時間反応させた。このときの圧力は2.0MPaG(Gはゲージ圧を示す。)であった。未反応の炭酸ジメチル、トリエチルアミン、及びメタノールを減圧下で留去した後、30mlの炭酸ジメチルを加えて洗浄した。上層の炭酸ジメチル層を除去後、下層部分の炭酸ジメチルを減圧下で留去し、粘性液体98.5gを得た。H−NMR、13C−NMR分析の結果から、粘性液体は、メチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート(以下、MMTEACという。)であることを確認した。
H−NMR:1.29-1.38ppm(m,9H、CH3CH2N)、2.96ppm(s,3H、NCH3)、3.30-3.36ppm(m,9H、OCOOCH3、CH3CH2N)
13C−NMR(CD3OD、δ):7.95ppm(-NCH2CH3)、47.05ppm(-NCH3)、56.98ppm(-NCH2CH3)、60.14ppm(OCOOCH3)、163.10ppm(OCOO)
【0062】
(製造例3:触媒溶液1)
製造例1で調製されたカルシウムメトキシド分散液全量に、製造例2で得られた10.5gのMMTEAC(Caに対して1.2倍モル)を添加して、常圧・室温下で30分間撹拌混合した(撹拌混合時の塩基性カルシウム化合物濃度:6.5質量%)。得られた混合溶液を濾紙(No.5A濾紙,東洋濾紙製)を用いて吸引濾過して固形物を除去して触媒溶液1を得た。この触媒溶液中のカルシウム濃度は、1130質量ppmであった。
【0063】
(製造例4:触媒溶液2)
MMTEACの添加量を17.5g(Caに対して2.0倍モル)にした以外は、製造例3と同様にして触媒溶液2を得た(撹拌混合時の塩基性カルシウム化合物濃度:5.5質量%)。この触媒溶液中のカルシウム濃度は、279質量ppmであった。
【0064】
(製造例5:触媒溶液3)
撹拌混合時間を5分にした以外は、製造例3と同様にして触媒溶液3を得た。この触媒溶液中のカルシウム濃度は、1022質量ppmであった。
【0065】
(製造例6:触媒溶液4)
撹拌混合時間を3時間にした以外は、製造例3と同様にして触媒溶液4を得た。この触媒溶液中のカルシウム濃度は、49質量ppmであった。
【0066】
(製造例7:触媒溶液5)
MMTEAC以外にステアリン酸カルシウム0.525gを添加した以外は、製造例4と同様にして触媒溶液5を得た。この触媒溶液中のカルシウム濃度は、407質量ppmであった。
【0067】
〔実施例1〕
撹拌機及び還流冷却器を備えた容量1000mLのセパラブルフラスコに、菜種油750g(菜種白絞油;理研農産加工製)とメタノール103.6gを仕込んで加温し、液温を64℃に保持した後、触媒溶液1を全量添加して反応を開始し、0.5時間後に脂肪酸メチルエステルの収率をガスクロマトグラフィーにより測定した。反応時間を0.5時間とする代わりに、1.0時間、及び1.5時間として同様に脂肪酸メチルエステルの収率をガスクロマトグラフィーにより測定した。結果を表1に示す。
【0068】
〔実施例2〕
触媒溶液1の代わりに触媒溶液2を全量添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0069】
〔比較例1〕
触媒溶液1の代わりに、製造例1で調製されたカルシウムメトキシド分散液全量を添加した以外は実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0070】
〔比較例2〕
触媒溶液1の代わりに、製造例2で調製されたMMTEAC10.5g(14.0kg/kg菜種油)を添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0071】
〔比較例3〕
触媒溶液1の代わりに、製造例2で調製されたMMTEAC17.5g(23.3kg/kg菜種油)を添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
〔実施例3〕
触媒溶液1の代わりに触媒溶液3を全量添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表2に示す。
【0074】
〔実施例4〕
触媒溶液1の代わりに触媒溶液4を全量添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。結果を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
〔実施例5〕
触媒溶液1の代わりに、触媒溶液5を全量添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。ただし、反応時間を2時間、及び3時間としたものも行った。結果を表3に示す。なお、反応3時間終了後の反応混合物を冷却して重液(グリセリン層)を静置分離し、得られた軽液(脂肪酸メチルエステル層)からメタノールを減圧留去したところ、脂肪酸メチルエステル中のカルシウム濃度は、1.9質量ppmであった。
【0077】
〔実施例6〕
メタノール103.6gの代わりにメタノールを218.1gとし、触媒溶液1の代わりに触媒溶液2を全量添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。ただし、反応時間を2時間、及び3時間としたものも行った。結果を表3に示す。なお、反応3時間終了後の反応混合物を冷却して重液を静置分離し、得られた軽液からメタノールを減圧留去したところ、脂肪酸メチルエステル中のカルシウム濃度は、2.7質量ppmであった。
【0078】
〔実施例7〕
メタノール103.6gの代わりにメタノールを218.1gとし、触媒溶液1の代わりに触媒溶液5を全量添加した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。ただし、反応時間を2時間、及び3時間としたものも行った。結果を表3に示す。なお、反応3時間終了後の反応混合物を冷却して重液を静置分離し、得られた軽液からメタノールを減圧留去したところ、脂肪酸メチルエステル中のカルシウム濃度は、0.4質量ppmであった。
【0079】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、
前記触媒は、塩基性カルシウム化合物と、下記式(1)又は下記式(2)で表される少なくとも1つの化合物とを撹拌混合して、得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記塩基性カルシウム化合物1モルに対して前記式(1)又は前記式(2)で表される少なくとも1つの化合物を1.0モル以上用いることを特徴とする請求項1記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記塩基性カルシウム化合物は、酸化カルシウム又はカルシウムアルコキシドであることを特徴とする請求項1又は2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記触媒溶液のカルシウム濃度が5000ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
トリグリセリドとアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する際に用いられる脂肪酸アルキルエステル製造用触媒において、
塩基性カルシウム化合物と、下記式(1)又は下記式(2)で表される少なくとも1つの化合物とを撹拌混合して、得られた混合溶液から固形物を除去した触媒溶液が含まれることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。
【化3】

【化4】

【請求項6】
前記塩基性カルシウム化合物1モルに対して前記式(1)又は前記式(2)で表される少なくとも1つの化合物が1.0モル以上であることを特徴とする請求項5記載の脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。
【請求項7】
前記塩基性カルシウム化合物は、酸化カルシウム又はカルシウムアルコキシドであることを特徴とする請求項5又は6記載の脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。
【請求項8】
前記触媒溶液のカルシウム濃度が5000ppm以下であることを特徴とする請求項5乃至7いずれか記載の脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。


【公開番号】特開2011−208021(P2011−208021A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77315(P2010−77315)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】