説明

脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒

【課題】アルカリ金属触媒を用いずに、速い反応速度で、かつ高収率で脂肪酸アルキルエステルを製造することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒を提供する。
【解決手段】トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、前記触媒が塩基性カルシウム化合物及び特定の4級アンモニウム塩を含むことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石鹸の製造原料、高級アルコールや界面活性剤などの合成原料、及び燃料などとして有用な脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、石鹸の製造原料、高級アルコールや界面活性剤などの合成原料、及び燃料などとして広く利用されている。脂肪酸アルキルエステルを得る方法としては、例えば、トリグリセリドとメタノールを、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物や、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラートなどのアルカリ金属アルコラートなどのアルカリ金属触媒存在下でエステル交換反応させることによって製造することができる(特許文献1)。
【0003】
しかし、トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応によって脂肪酸アルキルエステルを製造する際にアルカリ金属触媒を用いる場合、生成した脂肪酸アルキルエステルを含む混合物に、触媒として用いたアルカリ金属は溶解してしまう。このアルカリ金属が残留した状態で脂肪酸アルキルエステルを、例えば、ディーゼルエンジンの燃料として使用した場合、アルカリ金属は燃料系部品の金属部分にデポジットとして蓄積され、燃料流量を低下させ、出力低下、排ガス悪化の原因となる。このため、アルカリ金属を除去するための数回の水洗工程を別途必要とし、廃水処理の問題や製造コストが高くなるという問題が生じる。
【0004】
このような事情から、脂肪酸アルキルエステルを含む混合液に対する溶解性が低い触媒である塩基性カルシウム化合物を用いることが検討されている。例えば、アルカリ金属触媒を用いずに、トリグリセリドとメタノールからエステル交換反応によって脂肪酸アルキルエステル得る方法として、特許文献2には、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムをエステル交換反応の触媒に用いることが記載されている。また、特許文献3及び4には、特定の条件下で炭酸カルシウム等を焼成して得られる高活性の酸化カルシウムを触媒として用いる方法が記載されている。さらに、特許文献5には、酸化カルシウムをアルコール中で活性化処理したものを触媒として用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭56−120799号公報
【特許文献2】特開2001−271090号公報
【特許文献3】WO2006/134845号公報
【特許文献4】WO2008/090987号公報
【特許文献5】WO2007/088702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、いずれの方法においても、酸化カルシウム等の塩基性カルシウム化合物を単独で触媒として用いた場合、エステル交換反応の反応速度が遅く、脂肪酸アルキルエステルを効率的に得ることができないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、塩基性カルシウム化合物を触媒として、速い反応速度で、かつ高収率で脂肪酸アルキルエステルを製造することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法において、触媒として塩基性カルシウム化合物及び特定の化合物を併用することにより、アルカリ金属触媒を用いずに、速い反応速度で、かつ高収率で脂肪酸アルキルエステルを製造することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、前記触媒が塩基性カルシウム化合物と、下記式(1)又は下記式(2)で表される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法である。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
また、本発明は、トリグリセリドとアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する際に用いられる脂肪酸アルキルエステル製造用触媒において、塩基性カルシウム化合物と、前記式(1)又は前記式(2)で表される少なくとも1つの化合物が含まれることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用触媒である。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、塩基性カルシウム化合物を触媒として、速い反応速度で、かつ高収率で脂肪酸アルキルエステルを製造することができる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】製造例1のカルシウムメトキシドのXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒において用いられるトリグリセリドとしては、下記式(3)で表されるものが好ましい。式中、R、R及びRは、6乃至24個の炭素原子を含有する脂肪族炭化水素基であればよく、R、R及びRは、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。さらに、R、R及びRは、ヒドロキシ基を含むものであってもよい。
【0016】
【化3】

【0017】
トリグリセリドは、植物油や動物油等の天然油脂に含まれるものや化学的に合成されたものなど様々のものを用いることができ、特にバイオマス由来であることが好ましい。
【0018】
植物油及び動物油としては、魚油、牛脂や豚脂等の獣油、並びに、サフラワー油、ひまわり油、アマニ油、大豆(ダイズ)油、菜種(なたね)油、綿実油、オリーブ油、パーム油、コーン油、ゴマ油、ヒマシ油、米油、及びヤトロファ油等の植物油が挙げられる。これらの油脂は1種のみを使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。さらに、これらの油脂は天ぷら油等の廃油(廃食油)であってもよい。
【0019】
廃油を用いる場合には、予めフィルタープレス等の既知の濾過機を用いて不純物を除去することが好ましい。この際、活性白土、珪藻土、ゼオライト、活性炭、酸性白土、ベントナイト、シリカ系吸着剤、シリカ−アルミナ化合物、炭酸カルシウム、骨灰、パーライト、セルロース、マグネシア、アルミナ、及び石膏等の既知の濾材を用いることもできる。この濾材の量は、廃油の種類や廃油中に含まれる不純物の量等に応じて適宜設定することができる。
【0020】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒において用いられるアルコールは、下記式(4)で表されるものが好ましい。
【0021】
【化4】

【0022】
式中、Rは、炭素数1乃至24の飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。このようなアルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、及びn−ブタノールなどの1級アルコール、イソプロパノール、及びsec-ブタノールなどの2級アルコール、並びにtert−ブタノールなどの3級アルコールを用いることができる。この中で、メタノール及びエタノールなどの1級アルコールが特に好ましい。
【0023】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、式(3)で表されるトリグリセリドと、式(4)で表されるアルコールとを反応させた場合、下記式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルにおいて、R乃至Rは、式(3)及び式(4)と同じである。Rが前述した範囲のものは、エステル交換反応によって得られる式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルを様々な用途として良好に使用することができる。
【0028】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、トリグリセリドとアルコールとの反応の温度条件は50℃以上であることが好ましい。温度条件が50℃より過度に低いと、脂肪酸アルキルエステルの収率が低くなる。より好ましい温度範囲は、アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール等であれば、50乃至100℃である。トリグリセリドとアルコールの割合は、トリグリセリド1モルに対して、アルコール4〜150モルであることが好ましく、5〜60モルであることがさらに好ましい。
【0029】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒において用いられる塩基性カルシウム化合物としては、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、カルシウムメトキシド等のカルシウムアルコキシド、及びカルシウムメトキシドの水和物等のカルシウムアルコキシドの水和物が挙げられる。これらの中では、酸化カルシウム、及びカルシウムメトキシド等のカルシウムアルコキシドが好ましい。塩基性カルシウム化合物の使用量は、トリグリセリド1モルに対して、0.01〜0.3モルであることが好ましい。
【0030】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒において、塩基性カルシウム化合物と併用される化合物とは、特定の4級アンモニウム塩である。例えば、式(1)に表されるビス4級アンモニウム炭酸塩又は式(2)で表される4級アンモニウムモノアルキル炭酸塩などが挙げられる。
【0031】
式(1)及び式(2)において、R乃至R9は、各々独立した炭素数1乃至24の炭化水素基であり、炭素数1乃至18の炭化水素基であることが好ましい。R乃至Rのいずれか2個又は3個が互いに結合して炭素、酸素、又は窒素原子を介したヘテロ環や縮合環を形成していてもよい。前記炭化水素基は、直鎖、分枝、又は環式の脂肪族炭化水素基であっても芳香族炭化水素基であってもよく、本発明の効果を損なわない範囲で置換基を有していてもよい。
【0032】
乃至Rのいずれか2個または3個が形成するヘテロ環としては、例えば、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ピリジン、イミダゾール、イミダゾリン、ピラゾール、ピロール、ピロリン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エン、及び1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エンなどの各種へテロ環が挙げられる。R乃至Rのうちの3個が炭素又は窒素原子を介したヘテロ環を形成している具体例としては、下記式(8)や下記式(9)に示した炭酸塩が挙げられる。下記式(8)及び下記式(9)中のRは、炭化水素基、アミノ基、ハロゲン基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、フェニル基、及びヒドロキシル基などが挙げられる。具体的なRとしては、4−ジメチルアミノ基などが挙げられる。Rは、ヘテロ環の任意の位置に結合している。
【0033】
【化8】

【0034】
【化9】

【0035】
式(1)で表される化合物の具体例としては、ビストリエチルメチルアンモニウム炭酸塩、ビス(1−メチル−4−ジメチルアミノピリジニウム)炭酸塩、ビス(1,1−ジメチルピロリジニウム)炭酸塩、ビス(4,4−ジメチルモルホリジウム)炭酸塩、及びビス(1−エチル−1−メチルピロリジニウム)炭酸塩などが挙げられる。
【0036】
式(2)で表される化合物の具体例としては、トリエチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、1−メチル−4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジニウムモノメチル炭酸塩、N,N−ジメチルモルホリウムモノメチル炭酸塩、N,N−ジメチルアミノピペリジニウムモノメチル炭酸塩、テトラメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、ジエチルジメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、トリエチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、トリオクチルメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩、及びN−(2−ヒドロキシエチル)−N,N,N−トリメチルアンモニウムモノメチル炭酸塩などが挙げられる。
【0037】
式(8)で表される化合物の具体例としては、ビス(1−メチル)ピリジニウム炭酸塩、及びビス(1−メチル、4−ジメチルアミノ)ピリジニウム炭酸塩などが挙げられる。式(9)で表される化合物の具体例としては、1−メチルピリジニウムモノメチル炭酸塩、及び(1−メチル、4−ジメチルアミノ)ピリジニウムモノメチル炭酸塩などが挙げられる。
【0038】
式(1)及び式(2)で表される化合物については、以下のように製造することができる。式(1)で表される化合物は、例えば、式(1)におけるR〜Rを置換基として有する3級アミン1モルに対し、式(1)におけるRをアルキル基として有する炭酸ジアルキル0.5モルを混合して反応させる。反応の際にメタノールなどの溶媒を用いてもよい。反応温度は100乃至180℃が好適である。
【0039】
他方、式(2)で表される化合物は、例えば、式(2)におけるR〜Rを置換基として有する3級アミン1モルと、式(2)におけるRをアルキル基として有する炭酸ジアルキル1モル以上とを混合して反応させる。反応の際にメタノールなどの溶媒を用いてもよい。反応温度は100乃至180℃が好適である。式(8)及び式(9)で表される化合物も、上記と同様にして得ることができる。尚、式(1)および式(2)の製造方法については上記に限定されず、3級アミンと炭酸ジアルキルの種類に応じて、3級アミンと炭酸ジアルキルのモル比、反応温度や溶媒などが適宜設定される。
【0040】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒においては、触媒として塩基性カルシウム化合物と式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つ以上の化合物とを併用する。両者を併用することによって、塩基性カルシウム化合物、又は式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つ以上の化合物を単独で用いる場合に比べてトリグリセリドとアルコールとの反応速度を向上させることができる。
【0041】
塩基性カルシウム化合物と式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つ以上の化合物との使用割合は、塩基性カルシウム化合物1モルに対して、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つ以上の化合物が1.0モル以上であることが好ましく、1.0〜10モルであることがさらに好ましく、1.0〜5モルであることが特に好ましい。このような範囲にすることによって、製造される脂肪酸アルキルエステル中の金属成分(Ca)の量をヨーロッパ(EU)規格値以下まで低減することができる。
【0042】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法においては、トリグリセリドとアルコールとの反応により、脂肪酸アルキルエステルを含む脂肪酸アルキルエステル混合物が得られる。脂肪酸アルキルエステル混合物は、不純物としてグリセリンを含んでいるので、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリンを脂肪酸アルキルエステル混合物から分離する分離工程を備えるのが好ましい。分離工程は、例えば、静置分離や遠心分離が挙げられるが、静置分離が好ましい。
【0043】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、分離工程で得られた脂肪酸アルキルエステルを、必要であれば、活性白土、珪藻土、ゼオライト、活性炭、酸性白土、ベントナイト、シリカ系吸着剤、シリカ−アルミナ化合物、炭酸カルシウム、骨灰、パーライト、セルロース、マグネシア、アルミナ、又は石膏等の既知の濾材を用いてろ過するろ過工程を備える。この濾材の量は生成した脂肪酸アルキルエステル混合物の状態により変わるが、分離工程で得られた脂肪酸アルキルエステルの1〜20質量%である。
【0044】
また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、必要であれば、燐酸、亜燐酸、次燐酸、次亜燐酸、ピロ燐酸、メタ燐酸、硫酸、ピロ硫酸、炭酸ガス、塩酸、酢酸、及びシュウ酸からなる群から選ばれる1種類又は2種類以上の酸及び水を分離工程で得られた脂肪酸アルキルエステルに添加・混合する中和・洗浄工程を備える。
【0045】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、製造される式(5)乃至(7)で表される脂肪酸アルキルエステルは、燃料、高品質の石鹸及び高級アルコールの原料など様々な用途として使用することができる。
【0046】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒によれば、触媒として、塩基性カルシウム化合物及び式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つ以上の化合物を併用しているので、塩基性カルシウム化合物を触媒とする従来の方法に比べ、トリグリセリドとアルコールとの反応速度を著しく向上させることができ、高い収率で効率よく脂肪酸アルキルエステルを得ることができる。
【0047】
また、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び脂肪酸アルキルエステル製造用触媒によれば、アルカリ金属触媒を用いていないので、アルカリ金属を除去するための数回の水洗工程を別途必要とせず、式(1)又は式(2)で表される少なくとも1つ以上の化合物の添加量を調整するのみで脂肪酸アルキルエステル中のCa含量をEU規格値以下に低減させることができる。
【0048】
さらに、後処理工程は、必要であれば、活性白土などを用いたろ過工程、あるいは一度の中和・水洗工程だけで済み、大きな問題が生じることはない。
【実施例】
【0049】
次に、本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法の実施例について説明する。本実施例において用いられる塩基性カルシウム化合物、並びに式(1)及び式(2)で表された化合物は、以下のように製造した。
【0050】
(製造例1:カルシウムメトキシド)
重質炭酸カルシウムを大気下で焼成して製造した酸化カルシウム(宇部マテリアルズ製生石灰)2.625gを、ロッキングミルにより、メタノール30g中で2時間粉砕処理してカルシウムメトキシド分散液を調製した。なお、カルシウムメトキシドの同定は、別途調製の分散液から得られた乾燥粉末のXRDスペクトル(図1)により行った。以下、この化合物を「化合物A1」という。
【0051】
(製造例2:メチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート)
200mlのSUS製オートクレーブ(耐圧硝子工業製)に、原料として炭酸ジメチル(宇部興産製)67.5g(0.75mol)、トリエチルアミン(和光純薬製)75.0g(0.74mol)、及びメタノール(和光純薬製)48g(1.5mol)を仕込み、反応温度140℃で3時間反応させた。このときの圧力は2.0MPaG(Gはゲージ圧を示す。)であった。未反応の炭酸ジメチル、トリエチルアミン、及びメタノールを減圧下で留去した後、30mlの炭酸ジメチルを加え洗浄した。上層の炭酸ジメチル層を除去後、下層部分の炭酸ジメチルを減圧下で留去し、粘性液体98.5gを得た。H−NMR、13C−NMR分析の結果から、粘性液体は、メチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートであることを確認した。以下、この化合物を「化合物B1」という。
H−NMR:1.29-1.38ppm(m,9H、CH3CH2N)、2.96ppm(s,3H、NCH3)、3.30-3.36ppm(m,9H、OCOOCH3、CH3CH2N)
13C−NMR(CD3OD、δ):7.95ppm(-NCH2CH3)、47.05ppm(-NCH3)、56.98ppm(-NCH2CH3)、60.14ppm(OCOOCH3)、163.10ppm(OCOO)
【0052】
(製造例3:メチル(テトラメチルアンモニウム)カーボネート)
200mlのSUS製オートクレーブ(耐圧硝子工業製)に、原料として炭酸ジメチル(宇部興産製)26.0g(0.29mol)、及びトリメチルアミン11%メタノール溶液(和光純薬製)66g(0.12mol)を仕込み、反応温度120℃で3時間反応させた。このときの圧力は1.8MPaGであった。未反応の炭酸ジメチル、トリメチルアミン、及びメタノールを減圧下で留去した後、30mlのヘキサンを加え洗浄した。上層のヘキサン層を除去後、下層部分のヘキサンを減圧下で留去し、白色固体16.5gを得た。H−NMR分析の結果から、白色固体は、メチル(テトラメチルアンモニウム)カーボネートであることを確認した。以下、この化合物を「化合物B2」という。
H−NMR(CD3OD、δ):3.19ppm(12H, N(CH3)4)、3.36ppm(3H,OCOOCH3)
【0053】
(製造例4:ビス(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート)
300mlのSUS製オートクレーブ(耐圧硝子工業製)に、原料として炭酸ジメチル(宇部興産製)50g(0.56mol)、及びトリエチルアミン(和光純薬製)101.0g(1.0mol)を仕込み、反応温度130℃で8時間反応させた。このときの圧力は0.3MPaGであった。下層を分離採取後、未反応の炭酸ジメチル、及びトリエチルアミンを減圧下で留去した後、50mlの炭酸ジメチルを加え洗浄した。上層の炭酸ジメチル層を分離後、下層部分の炭酸ジメチルを減圧下で留去し、粘性液体134.5gを得た。H−NMR、13C−NMR分析結果から、粘性液体は、ビス(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートであることを確認した。以下、この化合物を「化合物B3」という。
H−NMR(D2O、δ):1.14ppm(18H、t、-NCH2CH3、2.76ppm(6H、s、-NCH3)、3.15ppm(12H、q、-NCH2CH3)
13C−NMR(D2O、δ):9.79ppm(-NCH2CH3)、49.10ppm(-NCH3)、58.54ppm(-NCH2CH3)、163.10ppm(OCOO)
【0054】
実験例1
〔実施例1〜4〕
撹拌機及び還流冷却器を備えた容量1000mLのセパラブルフラスコに、菜種油750g(菜種白絞油;理研農産加工製)とメタノール103.6gを仕込んで加温し、液温を64℃に保持した後、製造例1で得られた化合物A1の全量と、製造例2で得られた化合物B1を10.5g(Caに対して1.2倍モル)と、メタノールを30gとを添加して0.5時間反応させ、実施例1に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、2.0時間、及び3.0時間とする以外は実施例1と同様にして、実施例2乃至4に係る脂肪酸メチルエステルを得た。
【0055】
また、実施例4において、静置分離により脂肪酸メチルエステル混合物からグリセリン(重液)を分離した。軽液からメタノールを除去して得られた脂肪酸メチルエステル(pH6)のCa含量(IPC分析による)は、3.2ppmであった。脂肪酸メチルエステルの収率を表1に示す。なお、脂肪酸メチルエステルの収率は、脂肪酸メチルエステル、トリグリセリド、ジグリセリド、及びモノグリセリドをガスクロマトグラフィーにより分析し、これら4成分の合計に対する脂肪酸メチルエステルの割合により求めた。
【0056】
〔比較例1〜4〕
製造例1で得られた化合物A1を添加しなかったこと、及びメタノールを103.6g仕込む代わりに133.3g仕込んだことを除き、実施例1と同様にして比較例1に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、2.0時間、及び3.0時間とする以外は比較例1と同様にして、比較例2乃至4に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表1に示す。
【0057】
〔比較例5〜8〕
製造例2で得られた化合物B1を添加しなかったことを除き、実施例1と同様にして比較例5に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、2.0時間、及び3.0時間とする以外は比較例5と同様にして、比較例5乃至8に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実験例1より、塩基性カルシウム化合物と式(2)で表される化合物とを併用した触媒を用いると、それぞれ単独で用いた場合に比べて、短時間に高収率で脂肪酸アルキルエステルが得られることが分かる。
【0060】
実験例2
〔実施例5〜7〕
製造例2で得られた化合物B1を10.5g(Caに対して1.2倍モル)添加する代わりに4.38g(Caに対して0.5倍モル)を添加したことを除き、実施例1と同様にして実施例5に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、及び2.0時間とする以外は実施例5と同様にして、実施例6及び7に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表2に示す。
【0061】
〔実施例8〜10〕
製造例2で得られた化合物B1を10.5g(Caに対して1.2倍モル)添加する代わりに8.75g(Caに対して1.0倍モル)を添加したことを除き、実施例1と同様にして実施例8に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、及び2.0時間とする以外は実施例8と同様にして、実施例9及び10に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表2に示す。
【0062】
〔実施例11〜13〕
製造例2で得られた化合物B1を10.5g(Caに対して1.2倍モル)添加する代わりに17.50g(Caに対して2.0倍モル)を添加したことを除き、実施例1と同様にして実施例11に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、及び2.0時間とする以外は実施例11と同様にして、実施例12及び13に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
実験例2より、塩基性カルシウム化合物1モルに対して式(2)で表される化合物が1.0モル以上であると、特に短時間に高収率で脂肪酸アルキルエステルが得られることが分かる。
【0065】
実験例3
〔実施例14〜15〕
撹拌機及び還流冷却器を備えた容量1000mLのセパラブルフラスコに、菜種油(菜種白絞油;理研農産加工製)750gとメタノール133.6gとを仕込んで加温し、液温を64℃に保持した後、重質炭酸カルシウムを大気下で焼成して製造した酸化カルシウム(宇部マテリアルズ製生石灰、以下「化合物A2」という)2.625gと、製造例2で得られた化合物B1を10.5g(Caに対して1.2倍モル)と、メタノール30g(化合物B1洗い込み用)とを添加して0.5時間反応させ、実施例14に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、1.0時間とする以外は実施例14と同様にして、実施例15に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表3に示す。
【0066】
〔比較例9〜10〕
製造例2で得られた化合物B1を添加しなかったこと、メタノールを133.6g仕込む代わりに163.3g仕込んだこと、及び化合物B1洗い込み用のメタノールを添加しなかったことを除き、実施例14と同様にして比較例9に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、1.0時間とする以外は比較例9と同様にして、比較例10に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表3に示す。
【0067】
〔比較例11〜12〕
化合物A2を添加しなかったことを除き実施例14と同様にして比較例11に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、1.0時間とする以外は比較例11と同様にして、比較例12に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
実験例3より、塩基性カルシウム化合物である酸化カルシウムと、式(2)で表される化合物とを併用した触媒を用いると、それぞれ単独で用いた場合に比べ、短時間に高収率で脂肪酸アルキルエステルが得られることが分かる。
【0070】
実験例4
〔実施例16〜18〕
製造例2で得られた化合物B1であるメチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートを10.5g(Caに対して1.2倍モル)添加する代わりに、製造例3で得られた化合物B2であるメチル(テトラメチルアンモニウム)カーボネート8.27g(Caに対して1.2倍モル)を添加したことを除き、実施例1と同様にして実施例16に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、及び2.0時間とする以外は実施例16と同様にして、実施例17及び18に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表4に示す。
【0071】
〔実施例19〜21〕
製造例2で得られた化合物B1であるメチル(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネートを10.5g(Caに対して1.2倍モル)添加する代わりに、製造例4で得られた化合物B3であるビス(メチルトリエチルアンモニウム)カーボネート17.3g(Caに対して1.2倍モル)を添加したことを除き、実施例1と同様にして実施例19に係る脂肪酸メチルエステルを得た。反応時間を0.5時間とする代わりに、それぞれ1.0時間、及び2.0時間とする以外は実施例19と同様にして、実施例20及び21に係る脂肪酸メチルエステルを得た。脂肪酸メチルエステルの収率は実施例1と同様に求めた。結果を表4に示す。
【0072】
【表4】

【0073】
実験例4より、種々の式(1)又は式(2)で表される化合物を用いても、短時間に高収率で脂肪酸アルキルエステルが得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリグリセリドとアルコールとを触媒存在下で反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する方法であって、
前記触媒が塩基性カルシウム化合物と、下記式(1)又は下記式(2)で表される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
前記塩基性カルシウム化合物1モルに対して前記式(1)又は前記式(2)で表される少なくとも1つの化合物を1.0モル以上用いることを特徴とする請求項1記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記塩基性カルシウム化合物は、酸化カルシウム又はカルシウムアルコキシドであることを特徴とする請求項1又は2記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記トリグリセリドは、下記式(3)で表され、前記アルコールは、下記式(4)で表されることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【化3】

【化4】

【請求項5】
トリグリセリドとアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステルを製造する際に用いられる脂肪酸アルキルエステル製造用触媒において、
塩基性カルシウム化合物と、下記式(1)又は下記式(2)で表される少なくとも1つの化合物とが含まれることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。
【化5】

【化6】

【請求項6】
前記塩基性カルシウム化合物1モルに対して前記式(1)又は前記式(2)で表される少なくとも1つの化合物が1.0モル以上であることを特徴とする請求項5記載の脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。
【請求項7】
前記塩基性カルシウム化合物は、酸化カルシウム又はカルシウムアルコキシドであることを特徴とする請求項5又は6記載の脂肪酸アルキルエステル製造用触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2011−46832(P2011−46832A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196469(P2009−196469)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】