説明

脂質代謝改善剤

【課題】コレステロール合成阻害薬に抵抗性を示す高脂血症患者における脂質代謝を安全に改善する薬剤の提供。
【解決手段】ジグリセリドと、植物性ステロール類と、HMG−CoA還元酵素阻害剤を有効成分とする、初期の血中総コレステロール値≧200mg/dlであり、かつコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における血中アポリポ蛋白E低下剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高脂血症患者における脂質代謝改善剤、特にコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における脂質代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高脂血症は、血中コレステロール、血中トリグリセリド等が高い状態をいい、高脂血症は動脈硬化症、心疾患、脳血管性疾患等の虚血性疾患の危険因子であることから、積極的に治療が行なわれている。高脂血症のうち高コレステロール血症を伴なう疾患の代表的な治療薬として、HMG−CoA還元酵素阻害剤であるスタチン系薬剤が開発され、大きな効果をあげている。スタチン系薬剤は、体内特に肝臓におけるコレステロール合成を拮抗的に阻害する作用を有し、一般的には、血液から肝臓へのLDL粒子の受け渡しをするタンパク質(LDLレセプター)の遺伝子発現を増加させ、血清コレステロール濃度を速やかに低下する効果を示す。
しかし、肝臓でのコレステロール合成能の低い人や小腸でのコレステロール吸収の高い人においては、血清コレステロールの十分な低下効果が得られにくく、単剤での治療には限界があることも知られている。また、スタチン系薬剤を長期間服用した場合、薬剤のフィードバック作用として小腸でのコレステロールの吸収が増加傾向となることも報告されており、コレステロールの合成と吸収の両方を制御することが重要と考えられている。
【0003】
一般に、スタチン系薬剤単独の治療で十分なコレステロール低下効果が得られにくい場合には、食事療法を厳しく行ったり、該薬剤の服薬量を増やしたり、あるいは別な薬剤と組み合わせた治療が必要とされている。しかし、該薬剤の服薬量を増やしたり、複数の薬剤を使用する場合には、薬剤の副作用に十分に注意して安全性が損なわれないように配慮することが必要となる他、患者に金銭的・精神的な面で余分な負担をかけることになる。
【0004】
従って、スタチン系薬剤に代表されるコレステロール合成阻害薬の投与によっても十分なコレステロール低下効果が得られない高脂血症患者、すなわちコレステロール合成阻害薬抵抗性高脂血症患者における脂質代謝改善剤が望まれている。
【0005】
一方、ジグリセリドには、血清トリグリセリド低下作用、体重増加抑制作用など数多くの生理活性のあることが知られている(例えば、特許文献1〜6及び非特許文献1及び2参照)が、コレステロール合成阻害薬抵抗性高脂血症患者の脂質代謝に対してどのような作用があるかについては知られていない。
【0006】
また、近年、生活習慣病である心筋梗塞や脳梗塞は、マルチプルリスクファクターとよばれる種々の動脈硬化のリスク要因(肥満、高中性脂肪、高レムナント、高コレステロール、高血糖、高血圧、炎症系因子)の集積により、症状を悪化させ発症を早めることが知られるようになってきた。よって、コレステロールの治療以外に他の動脈硬化のリスク要因を複合的に改善していくことが、生活習慣病の予防の上で非常に重要な課題となってくる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−300825号公報
【特許文献2】特開2001−64170号公報
【特許文献3】特開2001−302509号公報
【特許文献4】特開平10−176181号公報
【特許文献5】国際公開第99/48378号パンフレット
【特許文献6】特開2002−322052号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Nutri., 131, p.3204(2001)
【非特許文献2】J. Lipid Res., 42, p.372(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、コレステロール合成阻害薬に抵抗性を示す高脂血症患者における脂質代謝を安全に改善するための薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明者は、ジグリセリド、又はジグリセリドと植物性ステロールとの組み合せを、スタチン系薬剤によって十分な血中コレステロール効果の得られない高脂血症患者に対し、スタチン系薬剤と併用して投与したところ、スタチン系薬剤の投与量を増やさずに顕著に血中脂質及び種々の関連因子が改善されることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、ジグリセリドを有効成分とするコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における脂質代謝改善剤を提供するものである。
また本発明は、ジグリセリドと植物性ステロール類を有効成分とするコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における脂質代謝改善剤を提供するものである。
また本発明は、ジグリセリドと植物性ステロール類を有効成分とする血中フィブリノーゲン低下剤を提供するものである。
さらに、本発明は、ジグリセリドと植物性ステロール類を有効成分とする血中TNF−α受容体低下剤を提供するものである。
さらにまた、本発明は、ジグリセリドと植物性ステロール類を有効成分とする血中VCAM−1低下剤を提供するものである。
また、本発明は、ジグリセリド又は、ジグリセリドと植物性ステロール類を有効成分とするコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における脂質代謝改善作用を有する食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
コレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者に、ジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を投与すれば、各種脂質代謝因子が改善される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で使用するジグリセリドの構成脂肪酸は、炭素数8〜24、特に16〜22であることが好ましい。ジグリセリドの全構成脂肪酸中、不飽和脂肪酸含量は、好ましくは80〜100重量%(以下単に%と記載する)、より好ましくは85〜100%、さらに好ましくは90〜100%、特に好ましくは93〜100%、最も好ましくは94〜98%である。
さらに、脂質代謝改善効果をより高めるという点から、(シス型不飽和)/(トランス型不飽和+飽和)は6以上が好ましく、より好ましくは9〜25、さらに好ましくは9〜20である。また、ジグリセリド中のトランス型不飽和脂肪酸は、5%以下が特に好ましい。飽和脂肪酸含量は、10%以下が好ましく、5%以下が特に好ましい。
ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は20〜65%、好ましくは25〜60%、特に30〜50%、殊更30〜45%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。
ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、リノール酸の含有量は15〜65%、好ましくは20〜60%、特に30〜55%、殊更35〜50%であるのが、脂肪酸の摂取バランスの点で望ましい。さらに、酸化安定性、生理効果の点から、リノール酸/オレイン酸の含有重量比が0.01〜2.0、好ましくは0.1〜1.8、特に0.3〜1.7であることが望ましい。
ジグリセリドを構成する脂肪酸のうち、リノレン酸の含有量は15%未満、好ましくは0〜13%、さらに1〜10%、特に2〜9%であるのが、脂肪酸の摂取バランス、酸化安定性の点で望ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。
ジグリセリドには、1,3−ジグリセリドと1,2−ジグリセリド(2,3−ジグリセリド)が存在する。1,3−ジグリセリドと1,2−ジグリセリドの重量比率は7:3であることがより好ましい。ジグリセリド中の1,3−ジグリセリドが、全ジグリセリド中の50%以上、さらに55〜100%、特に60〜90%であることが、脂質代謝改善効果を強化し、工業的生産性を改善する点から好ましい。
【0014】
本発明で使用するジグリセリドは、例えば目的の構成脂肪酸を有する油脂とグリセリンとをエステル交換反応するか、あるいは目的の構成脂肪酸又はそのエステルとグリセリンとの混合物にリパーゼを作用させてエステル化反応を行うことにより製造される。反応中の異性化を防止する上で、リパーゼを用いたエステル化反応がより好ましい。また、リパーゼを用いたエステル化反応においても、反応終了後の精製段階における異性化を防止するため、精製手段も脂肪酸の異性化が生起しないような穏和な条件で行うのが好ましい。
【0015】
このように、ジグリセリドはトリグリセリド等も含有する油脂組成物として使用するのが好ましい。当該油脂組成物としては、効果の点からジグリセリドを15〜100%含むのが好ましく、より好ましくは35〜99%、さらに好ましくは60〜95%、特に好ましくは70〜95%、最も好ましくは80〜95%含有するのがよい。ジグリセリドはトリグリセリドに比べて、消化過程でリパーゼにより分解されて生じる脂肪酸が、小腸上皮中に滞留しやすいので、ジグリセリドを15%以上含む油脂組成物を使用すると、優れた脂質代謝改善効果が得られる。
【0016】
当該油脂組成物にはトリグリセリドを含んでいてもよく、油脂組成物中のトリグリセリド含量は、効果、風味、酸化安定性の点から0〜85%であり、好ましくは1〜64.9%、さらに好ましくは5〜39.9%、最も好ましくは5〜19.9%である。トリグリセリドの構成脂肪酸として、効果、風味、食感の点で炭素数16〜22の不飽和脂肪酸を好ましくは80〜100%、より好ましくは85〜100%、さらに90〜100%、特に93〜100%、最も好ましくは94〜98%含有するのがよい。また酸化安定性の点から、トリグリセリドの構成脂肪酸として、ω3系不飽和脂肪酸を好ましくは0〜40%、さらに0〜30%、特に0〜20%、最も好ましくは0〜15%含有するのがよい。
【0017】
当該油脂組成物にはモノグリセリドを含んでいてもよく、その含量は、風味、酸化安定性の点から0〜30%であり、好ましくは0.1〜10%、さらに好ましくは0.1〜5%、特に好ましくは0.1〜2%、最も好ましくは0.1〜1.5%であるのがよい。モノグリセリドの構成脂肪酸は、製造上の観点から、ジグリセリドと同じであることが好ましい。
【0018】
当該油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸(塩)は、風味、発煙防止、工業的生産性の点から、3.5%以下に低減されるのがよく、好ましくは0〜2%、さらに好ましくは0〜1%、特に好ましくは0〜0.5%、最も好ましくは0.05〜0.2%とするのがよい。
本発明に使用される油脂組成物を構成する全脂肪酸中、炭素−炭素二重結合を4つ以上有する脂肪酸の含有量は、酸化安定性の点で0〜40%、好ましくは0〜20%、さらに0〜10%、特に0〜1%であるのがよく、実質的に含まないのが最も好ましい。
【0019】
当該油脂組成物には酸化安定性を向上させるために、抗酸化剤を添加するのが好ましい。抗酸化剤としては、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、リン脂質、ポリフェノール、ターシャルブチルヒドロキノン(TBHQ)等が挙げられ、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記の抗酸化剤は、油脂組成物中に0.005〜0.2%、特に0.04〜0.1%含有することが好ましい。
【0020】
当該油脂組成物には、さらに結晶抑制剤を添加するのが好ましい。本発明で使用する結晶抑制剤としては、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル等のポリオール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて使用してもよい。結晶抑制剤は、当該油脂組成物中に、0.02〜0.5%、特に0.05〜0.2%含有するのが好ましい。
【0021】
また、本発明で使用される植物性ステロール類としては、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、スチグマスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等のフリー体、及びこれらの脂肪酸エステル、フェルラ酸エステル、桂皮酸エステル等のエステル体が挙げられる。当該植物性ステロールはジグリセリドと組み合せて用いられ、前記ジグリセリドを含有する油脂組成物中に植物性ステロール類を配合して用いるのが好ましい。当該油脂組成物中の植物性ステロール類の含有量は、0.05〜4.7%、特に0.3〜1.2%が好ましい。
【0022】
本発明の医薬の投与形態としては、例えば散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。この経口投与剤は、それぞれ上記油脂組成物の他、経口投与剤の形態に応じて一般に用いられる、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール類、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等のうちの1種又はそれ以上を添加して製造することができる。油脂組成物を使用する場合、経口投与用医薬品中のその含有量は、医薬品の用途及び形態によっても異なるが、一般に0.1〜100%、さらに1〜80%、特に2〜80%が好ましい。
【0023】
本発明において、ジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を食品形態にして摂食する場合、ジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を含有した油脂加工食品とすればよく、例えば特定の機能を発揮して健康増進を図る健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品等とすることができる。具体的には、カプセル、錠剤、顆粒剤、パンやケーキ、クッキー、パイ、バー、ベーカリーミックス等のベーカリー食品類、フレンチドレッシング等のドレッシング類、マヨネーズ等の水中油型乳化食品、マーガリンやスプレッド等の油中水型乳化食品、クリーム類、チョコレートやポテトチップス、アイスクリーム、デザート等の菓子や、飲料、スープ、ソース、コーヒーホワイトナー、ホイップクリーム、焼き肉のタレ、ピーナツバター、フライングショートニング、ベーキングショートニング、加工肉製品、冷凍食品、粉末食品、ミールリプレイサー等の他、天ぷらやフライ、炒め物等に用いる調理油のような食品素材が挙げられる。かかる食品は、油脂組成物の他に、食品の種類に応じて一般に用いられる食品原料を添加し、製造することができる。このような食品中の油脂組成物の含有量は、食品の種類によっても異なるが、一般に0.1〜100%、さらに1〜80%、特に2〜80%が好ましい。
【0024】
以下、本発明のジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を含有した油脂加工食品について説明する。本発明において、油脂加工食品とは、ジグリセリドを15%以上含有する油脂組成物又はジグリセリドを15%以上及び植物性ステロールを0.05〜4.7%含有する油脂組成物と、他の食品原料を配合し、加工した食品をいう。油脂加工食品に用いられる原料成分としては、下記のものがある。
【0025】
(1)食用油脂
本発明に使用する食用油脂は、一般的な食用油脂であれば特に限定されない。例えば、天然の動植物油脂の他、それらにエステル交換、水素添加、分別等を施した加工油脂が挙げられる。好ましくは、大豆油、菜種油、綿実油、米糠油、コーン油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ヤシ油等の植物油及びそれらの加工油脂を用いるのがよい。
【0026】
(2)乳化剤
一般的に食品に用いられる乳化剤であれば特に限定されない。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、レシチン及びその分解物、卵蛋白、大豆蛋白、乳蛋白及びこれらの蛋白質より分離もしくは加水分解により得られる各種蛋白質、ペプチド等が挙げられる。
【0027】
(3)増粘剤
一般的に食品に用いられる増粘剤であれば特に限定されない。例えば、キサンタンガム、ジェランガム、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム、各種デンプン等の多糖類、ゼラチン、卵白等の蛋白質が挙げられる。
【0028】
(4)食塩、糖質、食酢、調味剤等の各種呈味料
(5)スパイス、フレーバー等の各種香味料
(6)各種着色料
(7)トコフェロール、天然抗酸化成分等の抗酸化剤
【0029】
以下、本発明の好ましい処方例を示す。しかし、本発明の用途を限定するものではない。
【0030】
a)酸性水中油型油脂加工食品
・油相/水相;20/80〜80/20(好ましくは30/70〜70/30)
・ジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に80%以上)
・植物性ステロール類の量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・乳化剤量;0.05〜5%
・pH;2〜6
pHは、食酢、クエン酸等の有機酸又はその塩、レモン果汁等の酸味料で調整する。上記原料を用い、常法により、脂質代謝改善効果を有するドレッシング、マヨネーズ等の酸性水中油型油脂加工食品を調製することができる。
【0031】
<処方例> マヨネーズ
水相
食塩 3.0重量部
砂糖 1.0
調味料(グルタミン酸ナトリウム) 0.5
香辛料(マスタード粉末) 0.3
卵黄 14
食酢(酸度10%) 8
増粘剤 0.5
水 22.7
油相
油脂組成物(後記DAG又はPS/DAG) 50
【0032】
b)油中水型可塑性油脂加工食品
・水相/油相;15/85〜85/15(好ましくは20/80〜50/50)
・ジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に50%以上)
・植物性ステロール類の量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・油相中の油脂の融点;20〜50℃(好ましくは20〜40℃)
上記原料を用い、常法により、脂質代謝改善効果を有するマーガリン、スプレッド等の油中水型可塑性油脂加工食品を調製することができる。
【0033】
<処方例> スプレッド
油相
油脂* 69.3重量部
レシチン 0.1
モノグリセリド 0.5
フレーバー 0.1
水相
水 28.4
脱脂粉乳 0.3
食塩 1.3
*油脂:油脂組成物(後記DAG又はPS/DAG);70%/部分硬化パーム油(IV=40);30%、融点36℃
【0034】
c)ベーカリー食品
・油脂量;10〜40%
・ジグリセリドの量;油相中の油脂に対して15%以上(好ましくは40%以上、特に50%以上)
・植物性ステロール類の量;油相中の油脂に対して0.05%以上
・小麦粉;20〜65%
・糖質;5〜30%
・全卵;0〜20%
・食塩;0.1〜2%
・ベーキングパウダー;0〜1%
上記原料を用い、常法により、脂質代謝改善効果を有するショートブレッド(バー)、ブリオッシュ等のベーカリー食品を調製することができる。
【0035】
<処方例> ショートブレッド(バー)
小麦粉 60重量部
油脂組成物(後記DAG又はPS/DAG) 10
砂糖 24.6
食塩 0.4
全卵 5
【0036】
コレステロール合成酵素阻害薬の投与によって血中総コレステロール値が220mg/dl程度までしか低下しない高脂血症患者に、当該コレステロール合成阻害薬に加えてジグリセリド、又はジグリセリドと植物性ステロール類の組み合せてを経口投与すれば、種々の脂質代謝が改善される。ここで、コレステロール合成酵素阻害薬としては、スタチン系薬剤が好ましく、例えばプラバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチンナトリウム等が挙げられる。
【0037】
ジグリセリドの投与により改善される脂質代謝関連因子としては、血中トリグリセリド、血中レムナント様コレステロール、血中アポリポ蛋白Eが挙げられる。ここで、アポリポ蛋白Eとは、カイロミクロン、超低比重リポ蛋白(VLDL)、HDLの主要なアポ蛋白の一つである。また、アポリポ蛋白Eは、細胞表面に存在するLDLリセプター(アポB)、レムナントリセプター、VLDLリセプター関連蛋白などに結合するリガンドである。このアポリポ蛋白Eに異常があると、カイロミクロンレムナント、IDLの代謝が遅延し、III型の高脂血症を発症することが知られている。
【0038】
ジグリセリドと植物性ステロール類の投与により改善される脂質代謝関連因子としては、血中トリグリセリド、血中レムナント様コレステロール、血中アポリポ蛋白E、血中総コレステロール、血中LDLコレステロール、血中アポリポ蛋白Bが挙げられる。
【0039】
またジグリセリドと植物性ステロール類の投与により、一般の脂質代謝関連因子以外の因子、血中フィブリノーゲン、血中TNF−α受容体、血中VCAM−1が顕著に低下する。ジグリセリドと植物性ステロール類が血中フィブリノーゲンを低下させることから、これらが血栓傾向を低下させ、血栓防止剤として有用であることがわかる。
ここで、TNF(Tumor necrosis factor)−αとは、脂肪組織とくに内臓脂肪より多く分泌される生理活性物質(アディポサイトカイン)の一つである。体内に蓄積した脂肪組織より分泌されたTNF−αが、筋肉、脂肪組織、肝臓での糖利用を抑制し、肥満によるインスリン抵抗性を介して、糖脂質代謝に異常をもたらすものと考えられている。ジグリセリドと植物性ステロール類が血中TNF−α受容体を低下させることから、これらがインスリン抵抗性を改善し、糖脂質代謝改善剤として有用であることがわかる。
ここで、VCAM(Vascular cell adhension molecule)−1とは、細胞接着因子(リガンド)の一種であり、内皮細胞の炎症を引き金に発現し、マクロファージやTリンパ球等の遊走を仲介し、泡沫細胞の形成を経て、動脈硬化の発生に深く関与することが知られている。ジグリセリドと植物性ステロール類が血中VCAM−1を低下させることから、これらが動脈硬化の炎症抑制剤として有用であることがわかる。
【0040】
高脂血症患者における該ジグリセリドの摂取量は、大人1人当たり0.1〜25g、特に0.1〜20gの範囲で1日に1〜数回に分けるのが好ましい。また、該植物性ステロール類の摂取量は、大人1人当たり100〜500mg、特に200〜400mgの範囲で1日に1〜数回に分けることが好ましい。その摂取期間は1週間以上、好ましくは2週間以上、より好ましくは3週間以上、さらに1ヶ月以上、特に2ヶ月以上、最も好ましくは3ヶ月以上が望ましい。このように高脂血症患者に長期間ジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を摂取させるためには、トリグリセリドの一部又は全部に該ジグリセリド又はジグリセリドと植物性ステロール類を用いた高脂血症患者用食品を調製して摂取させるのが好ましい。
【実施例】
【0041】
I)対象及び方法:
1.対象:
4週間以上のプラバスタチン10mgの投与によっても、血中コレステロール値に十分な改善効果が得られない通院患者で、試験に同意された方を対象とした。ただし、血糖コントロールの不良な方、肝胆道系に障害のある方、スタチンや植物性ステロールなどに過敏な方は除いた。
【0042】
2.試験食用油:
本試験では、家庭で使用する調理油を(1)トリグリセリド油(TAG)、(2)ジグリセリド油(DAG)、(3)植物性ステロール(PS)を4%含有するジグリセリド油(PS/DAG)のいずれかにブラインドのもとに置き換え、試験期間中、自由に使用・摂取してもらった。各食用油の組成は、表1と表2に示した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
3.方法:
プラバスタチン10mg/日を服用しても血清コレステロールがある程度しか低下せず安定している患者(n=49、年齢30−73才)に対して、12週間のダブルブラインドの無作為並行群間比較試験(3群)を実施した。試験期間中、被験者はプラバスタチンを毎日10mg/d服用するとともに、家庭で使用する調理油を3種の試験油、(1)トリグリセリド油(TAG)、(2)ジグリセリド油(DAG)、(3)植物性ステロール(PS)を4%含有するジグリセリド油(PS/DAG)のいずれかにブラインドにて置き換え摂取した(TAGとDAGは同脂肪酸組成)。試験期間中の食事は、試験前と変わらぬように指示をした。その間の血清脂質、アポリポ蛋白、凝固・炎症系因子を測定した。採血は、予備期間の前と後及び試験期間終了時の計3回を午前中の空腹時に行い、同じに体重測定を行った。
【0046】
4.統計解析方法
初期値との比較は対応のあるt−検定、群間での検定は分散分析(ANOVA)を用い、危険率5%以下の場合に有意差ありと判定した。なお、初期値との有意差は*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001のように表示し、群間の有意差がp<0.05の場合、該当項目に異記号(アルファベットのa、b、cで)を付けた。
【0047】
5.血液検査:
血清脂質(アポ蛋白含む)、凝固・炎症マーカー、肝機能の血液検査を実施した。検査項目の詳細を以下に示す。なお、血清は採取した血液を冷蔵下(5℃)で3,000rpm×10min.の遠心分離して得た。検査項目は(株)SRL東京メディカルに分析を依頼した。
【0048】
1)脂質系因子:中性脂肪(TG)、アポ蛋白E、レムナント様コレステロール(RLP−C)、総コレステロール(TC)、LDLコレステロール(LDL−C)、アポ蛋白B(Apo B)、HDLコレステロール(HDL−C)。なお、LDL−CはFriedewaldの計算式で算出した。また、カンペステロールについては、常法に従いガスクロマトグラフィーにて分析した。
2)凝固・炎症系因子:vascular cell adhesion molecule−1(VCAM−1)、フィブリノーゲン(FIB)、Tumor necrosis factor receptor−1(TNFr−1)、Tumor necrosis factor receptor−2(TNFr−2)、
3)肝機能:GOT、GPT、γ−GTP
【0049】
6.食事調査:
被験者の食事調査は、予備期間と試験終了1週間前の計2回、食事調査を実施し、五訂食品成分表から摂取内容を解析した。
【0050】
II)結果:
1.被験者のプロフィール:
被験者の身体・血清脂質関連項目のプロフィールを表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
2.食事調査の結果:
試験期間中の被験者の食事調査の結果を表4に示す。各群とも脂肪のエネルギー比率は約27%、コレステロール摂取量は、約300mg/日となった。また、試験の前後において、各群の栄養素摂取に差はなく、また試験期間中においても、群間で栄養素摂取に有意な差は認められなかった。
【0053】
【表4】

【0054】
3.血液検査の結果:
血液分析項目について、試験開始前と試験期間終了後の値及びその差(Δ)の結果について、表5〜表7に示した。なお、今回の試験では、副作用は認められなかった。
【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
表6から明らかなように、初期のTC≧200mg/dlの被験者において(n=44)、次のことが判明した。
(1)PS/DAG群において、TC、LDL−C、ApoB及びVCAM−1の濃度が初期値に対して有意に低下した(TC:−11mg/dl,−4.3%,LDL−C:−8mg/dl,−4.9%,ApoB:−8mg/dl,−6.4%、VCAM−1:−92ng/ml,−17%)。血清コレステロール関係ではとくにApoBに及ぼされる影響が大きく、DAGとPSの相乗効果が推察された。また、TNFr−1とTNFr−2について低下傾向が認められた。
(2)DAG群及びPS/DAG群において、RLP−C、ApoEとフィブリノーゲンは低下傾向を示した。さらに、安全性の項目であるGOT、GPTとγ−GTPについても同様に低下傾向が認められた。
(3)PS/DAGによる血清TCの低下作用は、試験開始前の血清カンペステロール濃度に強く相関した(r=−0.569,p<0.05)。
【0059】
また、初期のTC≧200mg/dlかつ初期のカンペステロール濃度≧中央値(0.66mg/dl)の被験者(n=22)において、さらに明らかな血清コレステロール低下効果が認められ(初期TC≧200mg/dlと比べて、約1.5倍の低下)、TCはTAG群と比較して有意に低下した(TC:−16mg/dl,−6.2%)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリセリドと、植物性ステロール類と、HMG−CoA還元酵素阻害剤を有効成分とする、初期の血中総コレステロール値≧200mg/dlであり、かつコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における血中アポリポ蛋白E低下剤。
【請求項2】
経口投与用剤であり、ジグリセリドを大人1人当たり0.1〜25g/日、植物ステロール類を大人1人当たり100〜500mg/日摂取するものである請求項1記載の血中アポリポ蛋白E低下剤。
【請求項3】
経口投与用剤であり、ジグリセリドを大人1人当たり0.1〜20g/日、植物ステロール類を大人1人当たり200〜400mg/日摂取するものである請求項1記載の血中アポリポ蛋白E低下剤。
【請求項4】
ジグリセリドと、植物性ステロール類と、HMG−CoA還元酵素阻害剤を有効成分とする、初期の血中総コレステロール値≧200mg/dlであり、かつコレステロール合成阻害薬抵抗性の高脂血症患者における血中LDLコレステロール低下剤。
【請求項5】
ジグリセリドと植物性ステロール類を含む油脂組成物がHMG−CoA還元酵素阻害剤とともに用いられる、請求項4記載の血中LDLコレステロール低下剤。
【請求項6】
前記高脂血症患者が、更に初期の血中カンペステロール濃度≧0.66mg/dlである請求項4又は5記載の血中LDLコレステロール低下剤。
【請求項7】
経口投与用剤であり、ジグリセリドを大人1人当たり0.1〜25g/日、植物ステロール類を大人1人当たり100〜500mg/日摂取するものである請求項4〜6のいずれか1項記載の血中LDLコレステロール低下剤。
【請求項8】
経口投与用剤であり、ジグリセリドを大人1人当たり0.1〜20g/日、植物ステロール類を大人1人当たり200〜400mg/日摂取するものである請求項4〜6のいずれか1項記載の血中LDLコレステロール低下剤。

【公開番号】特開2012−207041(P2012−207041A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162506(P2012−162506)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【分割の表示】特願2003−184551(P2003−184551)の分割
【原出願日】平成15年6月27日(2003.6.27)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】