説明

脂質異常症治療薬剤としての化学修飾siRNA

【課題】アポリポプロテインB(ApoB)の標的RNAとの結合親和性及び生体内での安定性が高く、生体内で優れたRNA干渉効果を発揮しえる新規な修飾siRNA分子であり、当該修飾siRNA分子を有効成分とする医薬組成物の提供。
【解決手段】ApoB遺伝子の発現を減少させる修飾siRNAであって、(a)当該修飾siRNA分子は、ApoB遺伝子の一部の配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンス鎖RNAと、当該アンチセンス鎖RNAに相補的な塩基配列を有する修飾センス鎖RNAを有し、(b)当該修飾センス鎖RNAは合計19〜23個のリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログからなる修飾オリゴリボヌクレオチドである修飾siRNA。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アポリポプロテインB(以下、「ApoB」ともいう)遺伝子の生体内での発現を効果的に抑制することができる修飾siRNAに関する。より詳細には標的RNAとの結合親和性、及び血清中や生体内での安定性に優れ、生体内で優れたRNA干渉効果を発揮することにより、生体内でのApoBの発現を有意に抑制することができる修飾siRNAに関する。当該修飾siRNAによればApoBの発現に関連して生じる疾患を有効に予防または治療することができる。
【背景技術】
【0002】
アポリポプロテインB(ApoB)は、脂質のアセンブリや分泌に、また別のクラスのリポタンパク質の輸送およびレセプター媒介取り込みや送達に欠くことのできない役割を担う糖タンパク質である。かかるApoBの重要性は、食物脂質の吸収およびプロセシングから循環するリポタンパク質のレベルの調節まで、種々の機能にまたがっている(非特許文献1)。この後者の特性は、アテローム性動脈硬化症感受性に関連し、アテローム性動脈硬化症感受性は、ApoB含有リポタンパク質の周囲濃度と高度に関連していることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
哺乳動物では2つの形態のApoBが存在する。ApoB-100は、4536アミノ酸残基を含む完全長タンパク質であり、もっぱらヒト肝臓で合成される(非特許文献1)。ApoB-48は、ApoB-100 のN末領域の2152アミノ酸残基を有する欠失型タンパク質であり、すべての哺乳動物の小腸で合成される(非特許文献1)。
【0004】
哺乳動物におけるApoBの医学的重要性は、ヒトApoB過剰発現マウス(非特許文献2〜3)またはApoBノックアウトマウス(非特許文献2及び4)等のトランスジェニックマウスを用いた研究で実証されている。
【0005】
またApoB-100含有リポタンパク質Lp(a)の血漿レベルの増加は、アテローム性動脈硬化症、高コレステロール血症(非特許文献5)、心筋梗塞(非特許文献6)、および血栓症(非特許文献7)等の罹患リスクの増加と関係していることも報告されている。当該Lp(a)の血漿濃度は、遺伝的因子の影響を強く受けており、医薬療法や食事療法に対して抵抗性を示し(非特許文献8〜9)、その改善には、アフェレーシスと呼ばれる血漿交換療法が最も有効な方法である(非特許文献10)。
【0006】
ApoBの発現に関連して生じる疾患の一つに、家族性高コレステロール血症(FH)ホモ接合体が知られている。当該疾患は、生下時より著明な高コレステロール血症、皮膚黄色腫、若年性動脈硬化症による冠動脈疾患を併発する遺伝病であり、スタチン等の一切の薬剤が奏功しない難病である(非特許文献11)。唯一の治療法は、LDLアフェレーシスと呼ばれる血漿交換療法である。しかしかかる治療法は、週に1回の体外循環による大掛かりな治療を受ける必要があるため、身体的及び精神的負担が非常に大きい。また、血漿交換療法を開始可能な年齢に達するまでに、動脈硬化症が進行してしまっている例も少なくない(非特許文献11)。
【0007】
このようなApoBの発現に関連して生じる疾患の治療を目指して、ApoBに対するアンチセンスや2本鎖RNA (small interfering RNA:siRNA )などの核酸医薬の開発がなされている(非特許文献12、特許文献1〜2参照)。
【0008】
なかでもsiRNAを利用するRNA干渉(RNA interference:RNAi)法は、100塩基対程度の2本鎖RNAを細胞内へ導入すると、細胞質内でDicerの働きにより20〜25塩基対程度の短い2本鎖RNAへと分解され、その後、複数のタンパク質とRNA/タンパク質複合体を形成し(この複合体をRICS:RNA-induced silencing complexと呼ぶ)、標的遺伝子から産生されたmRNAの相同部位と結合し強力に遺伝子発現を抑制することを利用した方法である。
【0009】
今日では、3’末端に2塩基のダングリングエンドをもつ21塩基長の化学的に合成した2本鎖RNAを利用する方法が主流となっているが、27塩基対からなる2本鎖RNAが21塩基長からなるsiRNAに比べ100倍程度高いRNA干渉効果を示すことも報告されており、注目を浴びている。(非特許文献13参照)。
【0010】
このような合成RNAを用いて行うRNA干渉法は、サンプル調製も比較的容易であり、取り扱い操作も簡便で、しかも非常に強力な効果を示すため、ライフサイエンス分野のみならずバイオビジネス分野においても大きな注目を浴びている。
【0011】
しかしながら、この優れたRNA干渉法でも、siRNAの生体内でのRNA干渉効果を確かなものにし、臨床での応用を可能にするためには、その生体内での安定性、細胞導入性、細胞内局在化、遺伝子発現抑制効果、ターゲット特異性等、未だ克服すべき課題が多いのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2006-522586号公報
【特許文献2】特表2009-507499号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】DavidsonおよびShelness, Annul Rev. Nutr., 2000, 20, 169-193
【非特許文献2】KimおよびYoung, J. Lipid Res., 1998, 39, 703-723
【非特許文献3】Nishinaら、J. Lipid Res., 1990, 31, 859-869
【非特許文献4】Fareseら、Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 1995, 92, 1774-1778
【非特許文献5】Seedら、N. Engl. J. Med., 1990, 322, 1494-1499)
【非特許文献6】Sandkampら、Clin. Chew., 1990, 36, 20-23
【非特許文献7】Nowak-Gottlら、Pediatrics, 1997, 99, Eli
【非特許文献8】KatanおよびBeynen, Am. J. Epidemiol., 1987, 125, 387-399
【非特許文献9】Vessbyら、Atherosclerosis, 1982, 44, 61-71
【非特許文献10】HajjarおよびNachman, Annul Rev. Med., 1996, 47, 423-442
【非特許文献11】Makino H, Harada-shiba M, Ther Apher Dial 2003, 7:397-401
【非特許文献12】Soutschek J et al., Nature 2004, 432, 173-178
【非特許文献13】J. Rossi et. al. Nature Biotech., 23, 222-226 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、アポリポプロテインB(ApoB)の標的RNAとの結合親和性及び生体内での安定性が高く、生体内で優れたRNA干渉効果を発揮しえる新規な修飾siRNA分子を提供することを目的とする。さらに本発明はかかる修飾siRNA分子を有効成分とする医薬組成物、特に脂質異常症等のApoBの発現に関連して生じる疾患を予防又は治療するための医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述するように、RNA干渉法は標的遺伝子の発現を特異的に抑制することができる効果的な方法であるものの、siRNAが実際に核酸医薬として臨床に応用できるためには、標的RNAとの結合親和性、血液や生体内での安定性といった多くの要求を満たす必要がある。このため、in vitro試験で優れた効果が認められるものであっても、実際に生体内へは適用できないものも多く、核酸医薬として生体内で実効性のあるsiRNAの早期開発が求められている。
【0016】
本発明者らは、かかる問題に着目し、標的RNAとの結合親和性及び血液を始めとする生体内での安定性に優れ、核酸医薬として実効性のあるsiRNA分子を開発すべく鋭意検討を重ねていたところ、センス鎖の一部のヌクレオチドを特定のヌクレオチドアナログで置換した修飾siRNA分子が、上記目的に適った優れた性質を有することを見出し、実際に生体内でのApoBのmRNA発現を有効に抑制して、血清コレステロール値を有意に低下させることを確認した。本発明者らは、かかる知見から、当該修飾siRNA分子が実用可能な核酸医薬、特に難病指定されている家族性高コレステロール血症を始めとする脂質異常症の治療薬として極めて有効であると確信し、本発明を開発するに至った。
【0017】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであって、下記の態様を含むものである。
【0018】
(I)アポリポプロテインB遺伝子の発現を減少させる修飾siRNA
(I-1)アポリポプロテインB(以下「ApoB」という)遺伝子の発現を減少させる修飾siRNAであって、
(a)当該修飾siRNA分子は、ApoB遺伝子の一部の配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンス鎖RNAと、当該アンチセンス鎖RNAに相補的な塩基配列を有する修飾センス鎖RNAを有し、
(b)当該修飾センス鎖RNAは合計19〜23個のリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログからなる修飾オリゴリボヌクレオチドであって、
(c)当該リボヌクレオチドアナログは下記一般式(1)
【0019】
【化1】

(式中、Bは置換基を有していてもよい芳香族複素環基若しくは芳香族炭化水素環基;Xはシングルボンドまたは置換基を有する窒素原子;Yは酸素原子、硫黄原子またはBH;mは0〜2の整数;及びnは0〜3の整数を意味する)
で示される構造を有するものであることを特徴とする、上記修飾siRNA。
(I-2)一般式(1)で示されるリボヌクレオチドアナログが、式中、Xはシングルボンド、nは1、及びmは0であるものである、(I-1)に記載する修飾siRNA。
(I-3)アンチセンス鎖RNAが、配列番号1に示されるApoB遺伝子の10167〜10187の領域の塩基配列に相補的な塩基配列を有する塩基長21〜23のオリゴリボヌクレオチドである(I-1)または(I-2)に記載する修飾siRNA。
(I-4)修飾センス鎖RNAが、配列番号4または5の塩基配列を有する塩基長21〜23の修飾オリゴリボヌクレオチドである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する修飾siRNA。
【0020】
(II)医薬組成物
(II-1)(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する修飾siRNAを有効成分とする、医薬組成物。
(II-2)ApoBの発現に関連する疾患の予防または治療薬である、(II-1)に記載する医薬組成物。
(II-3)上記疾患が、脂質異常症、冠状動脈疾患、冠状心疾患、及びアテローム動脈硬化症からなる群から選択されるいずれかである(II-2)に記載する医薬組成物。
(II-4)上記脂質異常症が、家族性高コレステロール血症、家族性混合型高脂血症、家族性III型高脂血症、後天性高リポタンパク質血症、高LDLコレステロール血症、スタチン耐性高コレステロール血症、高Lp(a)血症またはネフローゼ症候群などの二次性高脂血症である、(II-3)に記載する医薬組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の修飾siRNAは、ターゲットとなるApoBのmRNAとの結合親和性に優れ、しかも血液中での安定性に優れている。このため、生体内でApoBの発現を確実に抑制し、ApoBの発現に関連して生じる疾患、特に脂質異常症を効果的に予防しまた治療することができる。また本発明の修飾siRNAは、後述する実験例2に示すように、生体毒性が低く、安全性が高いことも特徴である。従って、当該修飾siRNAは、ApoBの発現に関連して生じる疾患を予防又は治療する医薬組成物の、実効性の高い有効成分として有用である。つまり、本発明によれば、上記修飾siRNAを有効成分とする医薬組成物、具体的にはApoBの発現に関連して生じる疾患、特に脂質異常症を効果的に予防しまた治療するために有効な医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実験例1において、マウス肝細胞に未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-1、siBNA-2)をそれぞれトランスフェクションし、ApoBのmRNAの発現に対する影響を調べた結果を示す。横軸は、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-1、siBNA-2)の濃度を示す。
【図2】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、肝臓におけるApoBのmRNA発現量を測定した結果を示す。siRNAの投与に代えて生理食塩水を投与したマウス群(対照群)を「Saline」として表示する(図3〜8において同じ)。
【図3】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、血清中の総コレステロール値の経時的変化(Day0, Day1, Day2)を測定した結果を示す。
【図4】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、血清中のVLDLコレステロール値の経時的変化(Day0, Day1, Day2)を測定した結果を示す。
【図5】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、血清中のLDLコレステロール値の経時的変化(Day0, Day1, Day2)を測定した結果を示す。
【図6】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、血清中のHDLコレステロール値の経時的変化(Day0, Day1, Day2)を測定した結果を示す。
【図7】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、経時的((図A)Day0、(図B)Day1、(図C)Day2)に採取した血清を、リポタンパク分析(コレステロール値を20分画に分けて測定)した結果を示す。
【図8】マウスにsiRNAとして、未修飾siRNA(siApoB-1)及び修飾siRNA(siBNA-2)をそれぞれ投与(静注)し、経時的(Day0、Day1、Day2)に採取した血清から、肝臓障害度〔(A)ALT及び(B)AST〕を測定した結果を示す。
【図9】siApoB-1、siBNA-1及びsiBNA-2について、血清中での安定性を測定した結果を示す(実験例3)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(I)修飾siRNA
本発明の修飾siRNAは、ヒトApoB遺伝子の発現を減少させる修飾siRNAである。当該修飾siRNAは、ヒトApoB遺伝子の一部の配列(標的配列)に相補的な塩基配列からなるアンチセンス鎖RNAと、当該アンチセンス鎖RNAに相補的な塩基配列を有する修飾センス鎖RNAがハイブリダイズして二本鎖を形成してなるものである。
【0024】
(I-1)ApoB遺伝子及びその標的配列
本発明がRNA干渉効果によって遺伝子発現を抑制する対象とする遺伝子は、ApoB遺伝子である。その由来は制限されないが、好ましくは哺乳動物、より好ましくはマウスやラットなどの実験動物、特に好ましくはヒトを挙げることができる。
【0025】
ヒトApoB遺伝子(mRNA)の塩基配列はNCBIアクセッション番号NM_000384(cDNAの塩基配列を「配列番号1」に示す。以下同じ。)を、また実験例で使用するマウスApoB遺伝子(mRNA)の塩基配列はNCBIアクセッション番号BC141357(cDNAの塩基配列を「配列番号2」に示す。以下同じ。)を参照することができる。
【0026】
当該遺伝子における標的配列は、RNA干渉効果によって遺伝子発現を抑制可能な配列である限り特に制限されず、公知の方法で、具体的には、NCBIのBLASTサーチ等を用いて適宜決定することができる。例えば、ApoB遺伝子のコード領域(ORF)の開始コドンから50〜100塩基下流のエキソン部分にある塩基“AA”に続く19〜30塩基からなる領域であって、GC含有量が50%前後の領域を標的配列とすることができる。このような標的配列に対する相補鎖を採用することで、優れたRNA干渉効果を獲得することが、当業界で経験的に明らかにされている。また、例えば標的配列は、IDT社(Integrated DNA Technologies, INC)のマニュアル(Dicer Substrate RNAi Design)に従って設定することが出来る。また最近では、(i)アンチセンス鎖RNAの5’末端がA/Uペアであり、(ii)センス鎖RNAの5’末端がG/Cペアであり、(iii)アンチセンス鎖RNAの5’末端側に5つ程度のA/Uペアがあり、且つ(vi)2本鎖中に9つ以上のG/Cペアが無い2本鎖RNAを設計することで高いRNA干渉効果をもつ2本鎖RNAをデザインできると報告されている(Ui-Tei et. al, Nucleic Acids Res., 32, 936-948 (2004))。
【0027】
より好適な標的配列として、ヒトApoB mRNA(配列番号1)の少なくとも10167〜10187の領域を有する塩基配列、1375〜1395の領域を有する塩基配列、7305〜7325の領域を有する塩基配列、8142〜8162の領域を有する塩基配列、12224〜12244の領域を有する塩基配列、12443〜12463の領域を有する塩基配列、及び13104〜13124の領域を有する塩基配列を挙げることができる。好ましくは、少なくとも10167〜10187の領域を有する塩基配列である。
【0028】
また、マウスApoB mRNA(配列番号2)の場合は、その少なくとも1015〜1035の領域を有する塩基配列である。
【0029】
(I-2)アンチセンス鎖RNA
本発明の修飾siRNAを構成するアンチセンス鎖RNAは、上記ApoB遺伝子(mRNA)における標的配列に相補的な塩基配列を有するオリゴリボヌクレオチドである。
【0030】
当該オリゴリボヌクレオチドを構成するリボヌクレオチドの数は、RNA干渉効果を発揮する限り特に制限されないが、通常19〜30個、好ましくは21〜27個、より好ましくは21〜23個を挙げることができる。
【0031】
本発明の修飾siRNAは、当該アンチセンス鎖と後述するセンス鎖とが、両3’末端に2〜5塩基程度のダングリングエンドを持つようにハイブリダイズして二本鎖を形成しているものであってもよい。例えば、アンチセンス鎖RNAと修飾センス鎖RNAが共に23個のリボヌクレオチド(またはリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログ)から構成されている場合には、アンチセンス鎖RNAの3’末端及び修飾センス鎖RNAの3’末端にそれぞれ2〜5個程度のリボヌクレオチドからなるダングリングエンドが形成されていてもよい。即ち、例えば2個のリボヌクレオチドからなるダングリングエンドを有する2本鎖siRNAの場合には、前記アンチセンス鎖RNAの3’末端側から3〜23個目の塩基配列が、後述する修飾センス鎖RNAの5’末端側から1〜21番目の塩基配列と相補的であり、ここにハイブリダイズすることになる。なお、ダングリングエンドを構成する塩基については特に制限されず、標的配列の塩基と相補的なものであってもよいし、またそうでなくてもよい。
【0032】
(I-3)修飾センス鎖RNA
修飾センス鎖RNAは、前記アンチセンス鎖RNAとハイブリダイズして二本鎖を形成可能な修飾RNAである。即ち、当該修飾センス鎖RNAは、前記アンチセンス鎖RNAに対して相補的な塩基配列を含むRNAである。当該修飾センス鎖RNAは、前記アンチセンス鎖RNAとハイブリダイズして二本鎖を形成するものであれば、必ずしも、前記センス鎖RNAの全長に対して100%相補的な塩基配列でなくてもよいが、好ましくは前記アンチセンス鎖RNA中の85%以上、より好ましくは90%以上の塩基に対して相補的な配列を有していることが望ましい。
【0033】
当該修飾センス鎖RNAはリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログからなる修飾オリゴリボヌクレオチドである。かかる修飾センス鎖RNAを構成するリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログの総数は特に制限されるものではないが、例えば、アンチセンス鎖RNAと同様に、19〜30個、好ましくは21〜27個、更に好ましくは21〜23個を挙げることができる。なお、前記アンチセンス鎖のリボヌクレオチド数と修飾センス鎖のリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログの総数は、相互に異なっていてもよいが、同数であることが好ましい。
【0034】
本発明の修飾siRNAは、アンチセンス鎖RNAと修飾センス鎖RNAとがいずれもダングリングエンドを含めて、23個の塩基からなるものであることが好ましい。
【0035】
修飾センス鎖RNAを構成するリボヌクレオチドアナログとしては、下記一般式(1)で示される構造を有するものを挙げることができる。
【0036】
【化2】

(式中、Bは置換基を有していてもよい芳香族複素環基若しくは芳香族炭化水素環基;Xはシングルボンドまたは置換基を有する窒素原子;Yは酸素原子、硫黄原子またはBH;mは0〜2の整数;及びnは0〜3の整数を意味する)。
【0037】
なお、本発明において「ヌクレオチドアナログ」とは、プリン又はピリミジン塩基と糖が結合した「ヌクレオチド」のうち非天然型のもの、並びに、プリン及びピリミジン以外の芳香族複素環及び芳香族炭化水素環でプリン又はピリミジン塩基との代用が可能なものと糖が結合した非天然型のものをいう。前者の非天然型のものには、当該ヌクレオチドが、通常のリン酸基(式(1)中、Yが酸素原子である場合)に代えて、ホスホチオエート基(式(1)中、Yが硫黄原子である場合)またはボラノホスフェート基(式(1)中、YがBHである場合)といった結合基を有するものが含まれる。また後者の非天然型のものには、当該ヌクレオチドが、リン酸基、ホスホチオエート基及びボラノホスフェート基からなる群から選択される結合基を有するものが含まれる。
【0038】
上記一般式(1)において「B」で示される芳香族複素環基とは、炭化水素環の構成原子である炭素原子を、1個以上の窒素原子、硫黄原子もしくは酸素原子などのヘテロ原子に置き換えた構造を有し、芳香族性を示す5〜20員環のあらゆる基をいい、単環、縮合環を含む。具体的には、例えば、ピリミジンもしくはプリン核酸塩基、以下のα群から選択される置換基を1つ以上有していてもよいピリミジンもしくはプリン核酸塩基が挙げられる。ここで、ピリミジンもしくはプリン核酸塩基には、核酸の構成成分として一般に知られる塩基(例えば、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、ウラシル)、及びその他これらに類する核酸成分の塩基として作用もしくは代用し得るあらゆる化学構造が含まれる。その他、チオフェン、チアントレン、フラン、ピラン、イソベンゾフラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソチアゾール、イソキサゾール、ピリダジン、インドリジン、インドール、イソインドール、イソキノリン、キノリン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、プテリジン、カルバゾール、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナジン、フェナルサジン、フェノチアジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピラゾリジンなども含まれる。好適には、ピリミジンもしくはプリン核酸塩基、以下のα群から選択される置換基を1つ以上有していてもよいピリミジンもしくはプリン核酸塩基であり、具体的には、プリン−9−イル基、2−オキソ−ピリミジン−1−イル基、または下記α群から選択される置換基を有するプリン−9−イル基もしくは2−オキソ−ピリミジン−1−イル基が好適である。
【0039】
α群:水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、炭素数1〜5のアルコキシ基、メルカプト基、核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基、炭素数1〜5のアルキルチオ基、アミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、炭素数1〜5のアルキル基で置換されたアミノ基、炭素数1〜5のアルキル基、および、ハロゲン原子。ここで、「置換基を有していてもよいプリン核酸塩基」として好適な基は、6−アミノプリン−9−イル(即ち、アデニニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された6−アミノプリン−9−イル、2,6−ジアミノプリン−9−イル、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル(即ち、グアニニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル、2,6−ジメトキシプリン−9−イル、2,6−ジクロロプロリン−2−イル又は6−メルカプトプリン−9−イル基であり、さらに好適には、6−ベンゾイルアミノプリン−9−イル、アデニニル、2−イソブチリルアミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル又はグアニニル基である。
【0040】
また、「置換基を有していてもよいピリミジン核酸塩基」として好適な基は、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、シトシニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、ウラシニル)、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、チミニル)または4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、5−メチルシトシニル)基であり、さらに好適には、2−オキソ−4−ベンゾイルアミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、シトシニル、チミニル、ウラシニル、2−オキソ−4−ベンゾイルアミノ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、又は5−メチルシトシニル基である。
【0041】
「置換基を有していてもよいプリンもしくはピリミジン核酸塩基」の中で、さらに好適には、6−アミノプリン−9−イル(即ち、アデニニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された6−アミノプリン−9−イル、2,6−ジアミノプリン−9−イル、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル(即ち、グアニニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル、2,6−ジメトキシプリン−9−イル、2,6−ジクロロプリン−9−イル、6−メルカプトプリン−9−イル、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、シトシニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、ウラシニル)、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、チミニル)、4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、5−メチルシトシニル)、または、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イルである。
【0042】
また一般式(I)中、「B」で示される芳香族炭化水素環基とは、炭素数6〜20の芳香族性を示す炭化水素環から水素原子1個を除いた1価の置換基を意味し、単環、縮合環を含む。具体的には、例えば、フェニル、インデニル、ナフチル、ペンタレニル、アズレニル、ヘプタレニル、ビフェニレニル、インダセニル、フルオレニル、フェナントリル、アントリルなどが挙げられるが、その他本発明の目的において核酸成分の塩基部分として代用可能なあらゆる構造が含まれる。また、芳香族炭化水素環が、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、アミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、ハロゲン原子、低級アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、アリールオキシ基、ニトロ基、トリフルオロメチル、フェニル基等の1種以上の基によって置換されていてもよく、そのような置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、4−ヒドロキシフェニル、2−ヒドロキシフェニル、4−アミノフェニル、2−アミノフェニル、2−メチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、2,5−ジクロロフェニル、2−ブロモフェニル、4−メトキシフェニル、4−クロロ−2−ニトロフェニル、4−ニトロフェニル、2,4−ジニトロフェニル、ビフェニルなどが挙げられる。置換されていてもよい芳香族炭化水素環基としては、好適には、水酸基、核酸合成の保護基で保護された水酸基、アミノ基、核酸合成の保護基で保護されたアミノ基、低級アルコキシ基もしくはニトロ基で置換されたフェニル基、フェニル基などが挙げられる。
【0043】
なお、上記α群の「核酸合成の保護基で保護されたメルカプト基」の保護基としては、核酸合成の際に安定してメルカプト基を保護し得るものであれば、特に限定はないが、具体的には、酸性又は中性条件で安定であり、加水素分解、加水分解、電気分解及び光分解のような化学的方法により開裂し得る保護基をいい、例えば、上記水酸基の保護基として挙げたものの他、メチルチオ、エチルチオ、tert−ブチルチオのようなアルキルチオ基、ベンジルチオのようなアリールチオ基等の「ジスルフィドを形成する基」を挙げることができ、好適には、「脂肪族アシル基」又は「芳香族アシル基」であり、さらに好適には、ベンゾイル基、ベンジル基である。
【0044】
α群の「炭素数1〜5のアルコキシ基」としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、tert−ブトキシ、n−ペントキシを挙げることができ、好適には、メトキシ又はエトキシ基である。
【0045】
α群の「炭素数1〜5のアルキルチオ基」としては、例えば、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、s−ブチルチオ、tert−ブチルチオ、n−ペンチルチオを挙げることができ、好適には、メチルチオ又はエチルチオ基である。
【0046】
α群の「炭素数1〜5のアルキル基で置換されたアミノ基」としては、例えば、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、ブチルアミノ、イソブチルアミノ、s−ブチルアミノ、tert−ブチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジイソブチルアミノ、ジ(s−ブチル)アミノ、ジ(tert−ブチル)アミノを挙げることができ、好適には、メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノまたはジイソプロピルアミノ基である。
【0047】
α群の「炭素数1〜5のアルキル基」としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチルなどを挙げることができ、好適には、メチル又はエチル基である。
【0048】
α群の「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を挙げることができ、好適には、フッ素原子又は塩素原子である。
【0049】
α群の「核酸合成の保護基で保護されたアミノ基」の保護基としては、核酸合成の際に安定してアミノ基を保護し得るものであれば、特に限定はないが、具体的には、酸性又は中性条件で安定であり、加水素分解、加水分解、電気分解及び光分解のような化学的方法により開裂し得る保護基をいい、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、ピバロイル、バレリル、イソバレリル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、3−メチルノナノイル、8−メチルノナノイル、3−エチルオクタノイル、3,7−ジメチルオクタノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ペンタデカノイル、ヘキサデカノイル、1−メチルペンタデカノイル、14−メチルペンタデカノイル、13,13−ジメチルテトラデカノイル、ヘプタデカノイル、15−メチルヘキサデカノイル、オクタデカノイル、1−メチルヘプタデカノイル、ノナデカノイル、ノナデカノイル、アイコサノイル及びヘナイコサノイルのようなアルキルカルボニル基、スクシノイル、グルタロイル、アジポイルのようなカルボキシ化アルキルカルボニル基、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチルのようなハロゲノ低級アルキルカルボニル基、メトキシアセチルのような低級アルコキシ低級アルキルカルボニル基、(E)−2−メチル−2−ブテノイルのような不飽和アルキルカルボニル基等の「脂肪族アシル基」;ベンゾイル、α−ナフトイル、β−ナフトイルのようなアリールカルボニル基、2−ブロモベンゾイル、4−クロロベンゾイルのようなハロゲノアリールカルボニル基、2,4,6−トリメチルベンゾイル、4−トルオイルのような低級アルキル化アリールカルボニル基、4−アニソイルのような低級アルコキシ化アリールカルボニル基、2−カルボキシベンゾイル、3−カルボキシベンゾイル、4−カルボキシベンゾイルのようなカルボキシ化アリールカルボニル基、4−ニトロベンゾイル、2−ニトロベンゾイルのようなニトロ化アリールカルボニル基;2−(メトキシカルボニル)ベンゾイルのような低級アルコキシカルボニル化アリールカルボニル基、4−フェニルベンゾイルのようなアリール化アリールカルボニル基等の「芳香族アシル基」;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニルのような「低級アルコキシカルボニル基」;2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル、2−トリメチルシリルエトキシカルボニルのような「ハロゲン又はトリ低級アルキルシリル基で置換された低級アルコキシカルボニル基」;ビニルオキシカルボニル、アリールオキシカルボニルのような「アルケニルオキシカルボニル基」;ベンジルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、2−ニトロベンジルオキシカルボニル、4−ニトロベンジルオキシカルボニルのような1〜2個の「低級アルコキシ又はニトロ基でアリール環が置換されていてもよいアラルキルオキシカルボニル基」を挙げることができ、好適には、「脂肪族アシル基」又は「芳香族アシル基」であり、さらに好適には、ベンゾイル基である。
【0050】
一般式(I)中、「X」が「置換基を有する窒素原子」である場合、置換基としては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基、アシル基、スルホニル基、シリル基、及び機能性分子ユニット置換基を挙げることができる。
【0051】
ここで「アルキル基」とは、炭素数1〜20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を示し、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、2−メチルブチル、ネオペンチル、1−エチルプロピル、n−ヘキシル、イソヘキシル、4−メチルペンチル、3−メチルペンチル、2−メチルペンチル、1−メチルペンチル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、2−エチルブチルのような炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基(本明細書においては、これらを低級アルキル基とも称す。)の他、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなど炭素数7〜20の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が含まれ、好適には、上記の炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基である。
【0052】
「アルケニル基」とは、炭素数2〜20の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基を示し、エテニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−メチル−2−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチル−2−プロペニル、2−エチル−2−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、1−メチル−2−ブテニル、1−メチル−1−ブテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−エチル−2−ブテニル、3−ブテニル、1−メチル−3−ブテニル、2−メチル−3−ブテニル、1−エチル−3−ブテニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、1−メチル−2−ペンテニル、2−メチル−2−ペンテニル、3−ペンテニル、1−メチル−3−ペンテニル、2−メチル−3−ペンテニル、4−ペンテニル、1−メチル−4−ペンテニル、2−メチル−4−ペンテニル、1−ヘキセニル、2−ヘキセニル、3−ヘキセニル、4−ヘキセニル、5−ヘキセニルのような炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基(本明細書においては、これらを低級アルケニル基とも称す。)の他、ゲラニル、ファルネシルなどが含まれ、好適には、上記の炭素数2〜6の直鎖または分岐鎖状のアルケニル基である。
【0053】
「シクロアルキル基」とは、炭素数3〜10のシクロアルキル基を示し、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、ノルボルニル、アダマンチルなどが挙げられ、好適には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどの炭素数3〜8のシクロアルキル基である。また、「シクロアルキル基」には、上記シクロアルキル基の環上の1つ以上のメチレンが酸素原子や硫黄原子、あるいはアルキル基で置換された窒素原子に置換された複素環基も含まれ、例えば、テトラヒドロピラニル基などが挙げられる。
【0054】
「アリール基」とは、芳香族炭化水素基から水素原子1個を除いた炭素数6〜14の1価の置換基を意味し、例えば、フェニル、インデニル、ナフチル、フェナンスレニル、アントラセニルなどが挙げられる。また、アリール環が、ハロゲン原子、低級アルキル基、水酸基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、ニトロ基、トリフルオロメチル、フェニル基等の1種以上の基によって置換されていてもよく、そのような置換されていてもよいアリール基としては、例えば、2−メチルフェニル、2,6−ジメチルフェニル、2−クロロフェニル、4−クロロフェニル、2,4−ジクロロフェニル、2,5−ジクロロフェニル、2−ブロモフェニル、4−メトキシフェニル、4−クロロ−2−ニトロフェニル、4−ニトロフェニル、2,4−ジニトロフェニル、ビフェニルなどが挙げられる。好適には、ハロゲン原子、低級アルコキシ基ニトロ基で置換されたフェニル基、フェニル基などが挙げられる。
【0055】
「アラルキル基」とは、アリール基で置換された炭素数1〜6のアルキル基を意味し、ベンジル、α−ナフチルメチル、β−ナフチルメチル、インデニルメチル、フェナンスレニルメチル、アントラセニルメチル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル、α−ナフチルジフェニルメチル、9−アンスリルメチルのような「1〜3個のアリール基で置換されたメチル基」や、4−メチルベンジル、2,4,6−トリメチルベンジル、3,4,5−トリメチルベンジル、4−メトキシベンジル、4−メトキシフェニルジフェニルメチル、4,4’−ジメトキシトリフェニルメチル、2−ニトロベンジル、4−ニトロベンジル、4−クロロベンジル、4−ブロモベンジル、4−シアノベンジルのような「低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲン、シアノ基でアリール環が置換された1〜3個のアリール基で置換されたメチル基」の他、1−フェネチル、2−フェネチル、1−ナフチルエチル、2−ナフチルエチル、1−フェニルプロピル、2−フェニルプロピル、3−フェニルプロピル、1−ナフチルプロピル、2−ナフチルプロピル、3−ナフチルプロピル、1−フェニルブチル、2−フェニルブチル、3−フェニルブチル、4−フェニルブチル、1−ナフチルブチル、2−ナフチルブチル、3−ナフチルブチル、4−ナフチルブチル、1−フェニルペンチル、2−フェニルペンチル、3−フェニルペンチル、4−フェニルペンチル、5−フェニルペンチル、1−ナフチルペンチル、2−ナフチルペンチル、3−ナフチルペンチル、4−ナフチルペンチル、5−ナフチルペンチル、1−フェニルヘキシル、2−フェニルヘキシル、3−フェニルヘキシル、4−フェニルヘキシル、5−フェニルヘキシル、6−フェニルヘキシル、1−ナフチルペンチル、2−ナフチルペンチル、3−ナフチルペンチル、4−ナフチルペンチル、5−ナフチルペンチル、6−ナフチルペンチル、などの「アリール基で置換された炭素数3〜6のアルキル基」などが含まれる。好適には、「1〜3個のアリール基で置換されたメチル基」、「低級アルキル、低級アルコキシ、ハロゲン、シアノ基でアリール環が置換された1〜3個のアリール基で置換されたメチル基」であり、さらに好適には、4−メトキシフェニルジフェニルメチル、4,4’−ジメトキシトリフェニルメチルである。
【0056】
「アシル基」としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、ピバロイル、バレリル、イソバレリル、オクタノイル、ノナノイル、デカノイル、3−メチルノナノイル、8−メチルノナノイル、3−エチルオクタノイル、3,7−ジメチルオクタノイル、ウンデカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ペンタデカノイル、ヘキサデカノイル、1−メチルペンタデカノイル、14−メチルペンタデカノイル、13,13−ジメチルテトラデカノイル、ヘプタデカノイル、15−メチルヘキサデカノイル、オクタデカノイル、1−メチルヘプタデカノイル、ノナデカノイル、アイコサノイル及びヘナイコサノイルのようなアルキルカルボニル基、スクシノイル、グルタロイル、アジポイルのようなカルボキシ化アルキルカルボニル基、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチル、トリフルオロアセチルのようなハロゲノ低級アルキルカルボニル基、メトキシアセチルのような低級アルコキシ低級アルキルカルボニル基、フェノキシアセチル基のようなアリールオキシ低級アルキルカルボニル基、(E)−2−メチル−2−ブテノイルのような不飽和アルキルカルボニル基のような「脂肪族アシル基」、およびベンゾイル、α−ナフトイル、β−ナフトイルのようなアリールカルボニル基、2−ブロモベンゾイル、4−クロロベンゾイルのようなハロゲノアリールカルボニル基、2,4,6−トリメチルベンゾイル、4−トルオイルのような低級アルキル化アリールカルボニル基、4−アニソイルのような低級アルコキシ化アリールカルボニル基、2−カルボキシベンゾイル、3−カルボキシベンゾイル、4−カルボキシベンゾイルのようなカルボキシ化アリールカルボニル基、4−ニトロベンゾイル、2−ニトロベンゾイルのようなニトロ化アリールカルボニル基;2−(メトキシカルボニル)ベンゾイルのような低級アルコキシカルボニル化アリールカルボニル基、4−フェニルベンゾイルのようなアリール化アリールカルボニル基のような「芳香族アシル基」が挙げられ、好適には、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ペンタノイル、ピバロイル、ベンゾイル、フェノキシアセチル基である。
【0057】
「スルホニル基」としては、メタンスルホニル、エタンスルホニルのように炭素数が1〜6の直鎖あるいは分岐アルキル基が置換したスルホニル基のような「脂肪族スルホニル基」、ベンゼンスルホニル、p−トルエンスルホニルのような各種アリ−ル基が置換したスルホニル基のような「芳香族スルホニル基」が挙げられ、好適にはメタンスルホニル、p−トルエンスルホニル基である。
【0058】
「シリル基」としては、トリメチルシリル、トリエチルシリル、イソプロピルジメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、メチルジイソプロピルシリル、メチルジ−t−ブチルシリル、トリイソプロピルシリルのような「トリ低級アルキルシリル基」、ジフェニルメチルシリル、ブチルジフェニルブチルシリル、ジフェニルイソプロピルシリル、フェニルジイソプロピルシリルのような「1〜2個のアリール基で置換されたトリ低級アルキルシリル基」などが挙げられ、好適には、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリルであり、さらに好適にはトリメチルシリルである。
【0059】
また「機能性分子ユニット置換基」には、標識分子(例えば、蛍光分子、化学発光分子、放射性同位原子を含む分子種等)、DNAやRNA切断活性分子、細胞内や核内移行シグナルペプチド等が含まれる。
【0060】
リボヌクレオチドアナログ(1)のうち、好適なものとしては、
(a)Xがシングルボンドであるリボヌクレオチドアナログ、
(b)Xが置換基を有する窒素原子であり、当該置換基が水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルケニル基、炭素数6〜14のアリール基、1〜3個のアリール基で置換されたメチル基、メタンスルホニル基やp−トルエンスルホニル基などの低級脂肪族あるいは芳香族スルホニル基又はアセチル基などの炭素数1〜5の脂肪族アシル基やフェノキシアセチル基およびベンゾイル基などの芳香族アシル基であるリボヌクレオチドアナログ、また、置換基が機能性分子ユニット置換基であって、これが、蛍光あるいは化学発光標識分子、核酸切断活性官能基、又は細胞内若しくは核内移行シグナルペプチドであるリボヌクレオチドアナログ、
(c)Bが、6−アミノプリン−9−イル(即ち、アデニニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された6−アミノプリン−9−イル、2,6−ジアミノプリン−9−イル、2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−クロロプリン−9−イル、2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−フルオロプリン−9−イル、2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ブロモプリン−9−イル、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル(即ち、グアニニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−アミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル、6−アミノ−2−メトキシプリン−9−イル、6−アミノ−2−クロロプリン−9−イル、6−アミノ−2−フルオロプリン−9−イル、2,6−ジメトキシプリン−9−イル、2,6−ジクロロプリン−9−イル、6−メルカプトプリン−9−イル、2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、シトシニル)、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された2−オキソ−4−アミノ−5−フルオロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、4−アミノ−2−オキソ−5−クロロ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−メトキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−メルカプト−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、2−オキソ−4−ヒドロキシ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、ウラシニル)、2−オキソ−4−ヒドロキシ−5−メチル−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、チミニル)、4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル(即ち、5−メチルシトシニル)基、または、アミノ基が核酸合成の保護基で保護された4−アミノ−5−メチル−2−オキソ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イルであるヌクレオチドアナログ、
(d)Bが、ベンゾイルアミノプリン−9−イル、アデニル、2−イソブチリルアミノ−6−ヒドロキシプリン−9−イル、グアニニル、2−オキソ−4−ベンゾイルアミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、シトシニル、2−オキソ−5−メチル−4−ベンゾイルアミノ−1,2−ジヒドロピリミジン−1−イル、5−メチルシトシニル、ウラシニル又はチミニル基であるリボヌクレオチドアナログ、
(e)mが0、nが1であるリボヌクレオチドアナログ、
(f)Yが酸素原子であるリボヌクレオチドアナログ、
を挙げることができる。
【0061】
ここで(a)〜(f)の好ましい組み合わせは、(a)+〔(c)又は(d)〕+(e)+(f)および(b)+〔(c)又は(d)〕+(e)+(f)であり、より好ましくは下式(2)または(3)で示されるリボヌクレオチドアナログであり、特に好ましくは下式(3)で示されるリボヌクレオチドアナログである。
【0062】
【化3】

(式中、Bは前記と同意義、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基またはベンジル基を意味する。)
【0063】
なお、ここで炭素数1〜6のアルキル基としては、前述する炭素数1〜6の直鎖または分岐鎖状のアルキル基を挙げることができる。好ましくはメチル基である。
【0064】
かかるリボヌクレオチドアナログの製造方法は既に公知であり、例えば特開平10-304889号公報、特開2000-297097号公報、WO2003/025173公報、及びWO2005/021570公報等を参考に、当業界の技術常識に基づいて合成することができる。
【0065】
修飾センス鎖RNAは、かかるリボヌクレオチドアナログを1以上含む。好ましくは連続的または非連続的に2〜15つ、より好ましくは3〜10つ含む修飾オリゴリボヌクレオチドである。修飾センス鎖RNAにおける当該リボヌクレオチドアナログの位置としては特に制限さればないが、5’末端または3’末端から10塩基それぞれ下流または上流の領域、好ましくは5’末端または3’末端から8塩基それぞれ下流または上流の領域において、連続的または非連続的に位置することができる。
【0066】
(I-4)修飾siRNA
本発明の修飾siRNAは、前述するアンチセンス鎖RNAと上記の修飾センス鎖RNAとがハイブリダイズし二重鎖を形成してなるものである。修飾センス鎖RNAを有する本発明の修飾siRNAは、(a)二重鎖が安定して形成され、しかも、(b)アンチセンス鎖RNAと未修飾センス鎖からなる未修飾siRNAと比較して、ヌクレアーゼに対する酵素抵抗性が増大することにより生体内での安定性が増大している。
【0067】
ここで後者の(b)生体内での安定性は、血清耐性(酵素分解耐性)の向上、言い換えると血清半減期の延長として評価することができる。ここで血清半減期とは、siRNAの量が、血清中で半分に低下するまでにかかる時間を意味する。かかる血清半減期は、後述する実施例3に記載する方法に従って実施することができ、かかる記載を参考にして測定することができる。
【0068】
具体的には、実験例3で示すように、対応する未修飾のsiRNA(図8において「siApoB-1」として示す)は、その血清半減期が138分であるのに対して、本発明の修飾siRNAの血清半減期はその2倍以上である(図8において本発明の修飾siRNA「siBNA-1」の血清半減期は267分、「siBNA-2」の血清半減期は1107分)。本発明の修飾siRNAの好ましい血清半減期は、対応する未修飾のsiRNA の血清半減期の3倍以上、より好ましくはその8倍以上である。
【0069】
本発明の修飾siRNAは、対応する未修飾のsiRNAと比べてin vivo条件下での干渉RNA効果が高く、よって生体内でのApoB遺伝子の発現減少効果に優れている。例えば、実験例2に示すように、本発明の修飾siRNAは、これをマウスに、初日と3日目に、体重1g当たり10pmolの割合で静脈投与し、次いで4日目に採取した肝臓において、ApoBをコードするmRNAの発現を少なくとも20%阻害することができるようなsiRNA干渉効果を有している(図2)。
【0070】
本発明の修飾siRNAは、ApoB遺伝子の標的配列の情報及び公知のRNA合成技術に従って公知のDNAシンセサイザーを用いて合成することができる。例えば、本発明のアンチセンス鎖RNAと修飾センス鎖RNAを別個に合成し、それらをハイブリダイズする方法によって合成してもよいし、また発現ベクターを用いて微生物等に導入して、生物学的に製造することもできる。
【0071】
好ましい修飾siRNAとしては、ヒトApoBのmRNA(配列番号1)の10167〜10187領域の塩基配列及びマウスApoBのmRNA(配列番号2)の1015〜1035領域の塩基配列に相補的な塩基配列「3’-caguagugugacuuaugguua-5’」(配列番号3)を有するオリゴリボヌクレオチドをアンチセンス鎖RNAとし、これに相補的な塩基配列「gucaucacacugaauaccaau」(配列番号4)のリボヌクレオチドを1以上、好ましくは当該塩基配列の5’末端から10塩基下流または3’末端から10塩基上流の領域、好ましくは5’末端から8塩基下流または3’末端から8塩基上流の領域に位置するリボヌクレオチドの2以上を、連続的または非連続的に、対応する塩基を有する前述のリボヌクレオチドアナログで置換したものを挙げることができる。
【0072】
かかる修飾siRNAの修飾センス鎖の塩基配列として具体的には、下記の配列を有するものを挙げることができる。
5’-GTCATcacacugaauaccaaudTdT-3’(配列番号5)
5’-GTcaTcacacugaaTacCaaudTdT-3’(配列番号6)
(上記配列中、大文字で示される塩基は、上記式(2)または(3)で示されるヌクレオチドアナログからなる塩基を意味する)。
【0073】
本発明の修飾siRNAは、ヌクレアーゼに対して分解されにくく、生体への投与後、長く生体内に存在することができる。そして、その後、アンチセンス鎖RNAは標的mRNAと結合してmRNAを切断し、タンパク質の合成を翻訳レベルで抑制する。
【0074】
これらのことから、本発明の修飾siRNAは、生体内で安定で、しかも優れたRNA干渉効果を発揮する実用性の高いRNA干渉剤である。かかる修飾siRNAよれば、ApoBの発現に関連して生じる疾患を予防または治療する医薬品の有効成分としての有用性が期待される。
【0075】
ここでApoBの発現に関連する疾患としては脂質異常症、冠状動脈疾患、冠状心疾患、及びアテローム動脈硬化症を挙げることができる。また脂質異常症としては、家族性高コレステロール血症、家族性混合型高脂血症、家族性III型高脂血症、後天性高リポタンパク質血症、高LDLコレステロール血症、スタチン耐性高コレステロール血症、高Lp(a)血症、およびネフローゼ症候群などの二次性高脂血症を挙げることができる。
【0076】
(II)医薬組成物
本発明が対象とする医薬組成物は、かかる修飾siRNAを有効成分とするものである。
【0077】
また本発明による医薬組成物は、その投与形態に応じて任意に薬理学的に許容しうる担体を含むことができる。
【0078】
本発明の医薬組成物は、局所あるいは全身処置が望まれるか否か、および処置する領域に依存して多くの仕方で投与することができる。投与は、(a)経口投与、(b)経肺投与、例えば、粉末またはエアゾル剤の吸入(ネブライザーによるもの、気管内、鼻内を含む)、(c)表皮、経皮、眼内および粘膜(膣および直腸送達を含む)を介した局所投与、または(d)静脈内、動脈内、皮下、腹腔内または筋肉内注射または注入、または頭蓋内(例えば、くも膜下腔内または脳室内)投与を含む非経口であってよい。
【0079】
経口投与のための組成物および製剤としては、制限されるものではないが、散剤(粉剤)または顆粒剤、ミクロ粒子、ナノ粒子、水もしくは非水媒体中の懸濁剤または水溶液、カプセル剤(硬質、軟質)、サシェ剤(sachets)、錠剤等が挙げられる。
【0080】
局所投与のための組成物および製剤としては、経皮パッチ剤、軟膏、ローション、クリーム、ゲル、滴剤、噴霧剤、坐剤、液剤および粉末薬が挙げられる。通常の製薬担体、水性、粉末または油性基剤、粘稠化剤などは必要または所望される。被覆コンドーム、グラブ(gloves)なども用いることができる。好ましい局所製剤としては、本発明のオリゴヌクレオチド類縁体が局所送達剤、例えば、脂質、リポソーム、脂肪酸、脂肪酸エステル、ステロイド、キレート化剤および界面活性剤と混合されるものが挙げられる。
【0081】
本発明の医薬組成物としては、これらに限られるものではないが、液剤、エマルジョン、およびリポソーム含有製剤が挙げられる。これら組成物は、前もって生成した液体、自己乳化固体および自己乳化半固体を含む(これらに限られるものではない)様々な成分から調製できる。肝臓組織への薬剤の送達は、カチオン性リポソーム、シクロデキストリン、ポルフィリン誘導体、分枝鎖デンドリマー、ポリエチレンイミンポリマー、ナノ粒子およびミクロスフェアを含む(これらに限られるものではない)担体媒体送達により促進することができる(Dass CR. J Pharm Pharmacol 2002; 54(1):3-27)。
【0082】
当該医薬組成物は、好ましくはヒトApoBの発現に関連する疾患の予防または治療薬として用いることができる、ここでヒトApoBの発現に関連する疾患としては脂質異常症、冠状動脈疾患、冠状心疾患、及びアテローム動脈硬化症を挙げることができる。また脂質異常症としては、前述するように家族性高コレステロール血症、家族性混合型高脂血症、家族性III型高脂血症、後天性高リポタンパク質血症、高LDLコレステロール血症、スタチン耐性高コレステロール血症、高Lp(a)血症などの原発性高脂血症に加えて、ネフローゼ症候群などの二次性高脂血症を挙げることができる。
【実施例】
【0083】
以下に、実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
調製例 siBNA-1およびsiBNA-2の調製
(1)アポリポプロテインB(ApoB)のsiRNA(以下、「siApoB-1」ともいう)
ApoBのsiRNA(siApoB-1)として下記の塩基配列のものを使用した。
siApoB-1のセンス鎖 :5’-gucatcacacugaauaccaaudTdT-3’(配列番号7)
siApoB-1のアンチセンス鎖:3’-dTdTcaguagugugacuuaugguua-5’(配列番号8)。
【0085】
ここでsiApoB-1のアンチセンス鎖(配列番号8)は、3’末端側の2塩基を除いてヒトApoB遺伝子(配列番号1)の10167〜10187領域の塩基配列やマウスApoB遺伝子(配列番号2)の1015〜1035領域の塩基配列に対して、相補的な塩基配列からなる。つまり、siApoB-1のセンス鎖(配列番号7)の5’末端から21残基の塩基配列(配列番号4)はヒトApoB遺伝子(配列番号1)の10167〜10187領域の塩基配列およびマウスApoB遺伝子(配列番号2)の1015〜1035領域の塩基配列に相当することになる。
【0086】
(2)siBNA-1およびsiBNA-2
下式:
【0087】
【化4】

で示されるBNA(2’-O,4’-C-bridged nucleic acid)を導入した修飾siRNAとして、下記のsiBNA-1及びsiBNA-2を合成した。BNAを大文字で示す。
【0088】
<siBNA-1>
5’-GTCATcacacugaauaccaaudTdT-3’(配列番号5)
3’-dTdTcaguagugugacuuaugguua-5’(配列番号8)
<siBNA-2>
5’-GTcaTcacacugaaTacCaaudTdT-3’(配列番号6)
3’-dTdTcaguagugugacuuaugguua-5’(配列番号8)。
【0089】
なお、上記siBNA-1及びsiBNA-2の合成は下記の文献を参考にして行うことができる:
1.S. Obika, et al, Tetrahedron Lett., 1997, 38, 8735-8738.
2. S. Obika, et al., Tetrahedron Lett., 1998, 39, 5401-5404.
3. S. Obika, et al., Bioorg. Med. Chem., 2001, 9, 1001-1011.
4. Koshkin, A. A., et al., J. Tetrahedron 1998, 54,3607-3630
5. Singh, S. K., et al., J. Chem. Commun. 1998, 455-456。
【0090】
上記で調製したsiApoB-1、siBNA-1及びsiBNA-2を用いて、下記の実験例1〜3を行った。
【0091】
実験例1 ApoBの発現評価(In vitro試験)
マウス肝細胞に、上記で調製した各濃度のsiApoB-1、siBNA-1及びsiBNA-2をそれぞれトランスフェクションし、ApoBのmRNAの発現に対する影響を調べた。
【0092】
(1)実験方法
10cmディッシュに、マウス肝細胞(NMuLi細胞)を蒔き、コンフルエントにしたものを2枚用意した。
(1)1日後、この細胞を、6wellプレートに細胞数60万個/wellの割合になるように蒔いた。この後、全体が7〜8割程度コンフルエントになるまで37℃で36時間、5%CO2インキュベーターでインキュベートした。
【0093】
(2)インキュベートから36時間後、当該細胞に、以下の要領で、siApoB-1、siBNA-1及びsiBNA-2(以下、これらを便宜上「siRNA」と総称する)をそれぞれトランスフェクションした。
【0094】
まず、トランスフェクションするsiRNAを、最終濃度の4倍の濃度に調製した。具体的には各siRNA 150 pmolとLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen) 7.5μlをチューブに入れ、Opti-MEM (Invitrogen)でトータル3750ulにスケールアップした。これにより40nMのsiRNA溶液が調製できる。そのチューブを20分間室温で放置した。siRNAの1nM溶液及び 0.1nM溶液の調製は、上記40nM溶液をそれぞれさらに40倍及び400倍希釈して用いた。またsiRNAの100nM溶液の調製は、siRNA 150 pmolとLipofectamine RNAiMAX 7.5μlを混ぜ、Opti-MEMでトータル375μlにスケールアップして使用した。このチューブを10本用意し20分間室温で静置させ、その後、5ml容量のチューブにひとまとめにした。
【0095】
その間に6wellプレートを洗浄し、各ウエルに抗生物質非含有のD-MEM1.5mlを入れた。そして、かかる各ウエルに、上記で調製したsiRNA溶液を500μlずつ添加した。1wellあたりに換算すると100nM、10nM、1nM、0.1nMのsiRNA溶液にはそれぞれ800 pmol、80 pmol、8 pmol、0.8 pmolのsiRNAが入っていることになる。siRNA溶液を各ウエルに添加した後、37℃で24時間、5%CO2インキュベーターでインキュベートした。
【0096】
(3)その後に、上記インキュベートから24 時間たったプレートを洗浄し、各ウエルにTRIzol Regent (invitrogen)を1mlずつ加え、細胞のライセート溶液を1.5ml容量のチューブに入れた。
【0097】
次いでAGPC(Acid Guanidium thiocyanate-Phenol-Chloroform extraction)法を用いてtotal RNAを抽出した。抽出したtotal RNAは15~20μlのRNase free waterで溶解し、65℃で5分間インキュベートした。その後、分光光度計(NanoDrop)によりRNAの吸光度を測定し、濃度を算出した。
【0098】
算出後、1.5ml容量のチューブに、各10μg量採り、High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems)を用いてcDNAを作成した。PCRの条件は25℃で10分、次に37℃で120分、その後85℃で10秒行い、4℃まで温度を落とす。cDNAを調製後、それを1.5ml容量のチューブに移して、新たな1.5ml容量のチューブにそれを50倍希釈したものを用意した。
【0099】
それを用いてSYBR Green I(Applied Biosystems)を用いたインターカレーター法でReal-Time RT PCRを行った。PCRの条件はサンプルを95℃にして20秒おき、そこから95℃で1秒、60℃で20秒のサイクルを40回行った。PCRの装置はStep one plus real-time PCR system(Applied Biosystems)を使用した。使用したPrimerの配列を以下に示す。Primerは各サンプルに対し1 pmolずつ使用した。
【0100】
ApoB- Forward Primer: TGGGCAACTTTACCTATGACTT(配列番号9)
ApoB-Reverse primer: AAGGAAATGGGCAACGATA(配列番号10)
GAPDH-Forward Primer:CAAAATGGTGAAGGTCGGTGTG(配列番号11)
GAPDH-ReversePrimer: ATTTGATGTTAGTGGGGTCTCG(配列番号12)。
【0101】
(2)実験結果
各濃度(0, 0.1, 1, 10, 100nM)のsiApoB-1、siBNA-1及びsiBNA-2でトランスフェクションしたマウス肝細胞におけるApoBのmRNA発現量をRelative CT Methodにより評価した。なお、ApoBのmRNA発現量は、GAPDHのmRNA発現量の結果を用いて相対的に定量化した。
【0102】
結果を図1に示す。
【0103】
この結果から、siApoB-1、siBNA-1及びsiBNA-2はいずれも、濃度依存的にマウス肝細胞におけるApoBのmRNA発現を抑制することが確認された。このことから、本発明のsiBNA-1及びsiBNA-2は、ApoBに対する未修飾siRNA(siApoB-1)と同様に、in vitroでRNA干渉が誘導されること(RNA干渉効果があること)が確認された。
【0104】
実験例2 ApoBの発現評価(In vivo試験)
マウスにsiRNAとして、siApoB-1及びsiBNA-2をそれぞれ投与(静注)し、(a)肝臓におけるApoBのmRNA発現量、(b)血液中のコレステロール値、(c)肝臓障害度(ALT・AST)を測定し、また(d) リポタンパク分析を測定した。
【0105】
(1)実験方法
(1-1)ApoB発現評価試験
被験動物として6週齢のマウスC57BL6/J(雄:日本クレア)を用いた。二週間の高脂肪食負荷の後、0日目に採血してsiBNA-1あるいはsiApoB-1を10 pmol/g体重の割合で静脈内投与を行った。3日目に再度採血してsiBNA-1あるいはsiApoB-1を10 pmol/g体重の割合で静脈内投与を行った。4日後に下大静脈から採血した後、PBSで上腸間膜静脈より灌流し、終了後、肝臓を採取し、PBSで洗浄した後、細切、液体窒素で瞬間凍結した後、−80℃で保存した。凍結した肝臓の切片を5mlのTRIzol Regent(Invitrogen)内で、ホモゲナイズしAGPC法を用いてtotal RNAを抽出した。
【0106】
各10μgを用いてHigh Capacity cDNA Reverse Transcription Kit (Applied Biosystems)によりcDNAを作成した。Real-Time PCRを用いてRNAの定量を行なった。以下に、使用したPrimerの配列を示す。なお、SYBR GreenはApplied Biosystemsの物を使用した。
【0107】
ApoB- Forward Primer: TGGGCAACTTTACCTATGACTT(配列番号9)
ApoB-Reverse primer: AAGGAAATGGGCAACGATA(配列番号10)
GAPDH-Forward Primer:CAAAATGGTGAAGGTCGGTGTG(配列番号11)
GAPDH-ReversePrimer: ATTTGATGTTAGTGGGGTCTCG(配列番号12)。
【0108】
結果をRelative CT Method により評価した。
【0109】
(1-2)血液中のコレステロール値およびATL・ASTの測定、リポタンパク分析
試験期間中に採取した血液は、20分ほど室温で放置した後、4℃、5000rpmで20分間遠心し、血清を分離した。それぞれの血清検体について、血清総コレステロール値、VLDVコレステロール値、LDLコレステロール値、及びHDLコレステロール値をWakoのコレステロールE-テストワコー(和光純薬工業(株)製)を用いて測定した。また、同様にWakoのトランスアミナーゼCII-テストワコーでALT・ASTを測定し、肝臓障害度を評価した。さらにリポタンパク分析のため、スカイライトバイオテック株式会社において、HPLCによるリポタンパクの20分画のコレステロール値を解析した。
【0110】
(2)実験結果
(2-1)ApoB発現評価
生理食塩水を投与した対照群(Saline投与群)、及びsiApoB-1またはsiBNA-2をそれぞれ投与した被験群における肝臓でのApoBのmRNAの発現量をRelative CT Methodにより評価した結果を図2に示す。結果は、GAPDHの結果を用いて相対的に定量化したものである。
【0111】
この結果からわかるように、in vivoで、siBNA-2は、ApoBに対する未修飾siRNA(siApoB-1)よりも有意にApoBのmRNA発現を抑制した(P<0.05)。このことから、siBNA-2は、生体内で、未修飾siRNA(siApoB-1)よりも高いRNA干渉効果を発揮し、生体内で有効な低分子干渉RNA分子として機能することが確認された。
【0112】
(2-2)血液中のコレステロール量
対照群(saline投与群)、及び被験群(siApoB-1投与群、siBNA-2投与群)の血清中の総コレステロール値、VLDVコレステロール値、LDLコレステロール値、及びHDLコレステロール値の経時的変化(Day0、Day1、Day2)を図3〜6にそれぞれ示す。
【0113】
この結果からわかるように、投与1日目以後から、siBNA-2投与群は、対照群及びsiApoB-1投与群と比べて、血清中の総コレステロール値、並びに悪玉コレステロールと称されるVLDVコレステロール値及びLDLコレステロール値がいずれも有意に低下することが判明した(図3〜5)。これに対して、善玉コレステロールと称されるHDLコレステロール値は低下しなかった(図6)。このsiBNA-2投与群におけるVLDV及びLDLコレステロール値の変化(経時的低下;Day1〜2)、及びHDLコレステロール値の変化(経時的変化なし;Day0→2)は、リポタンパク分析(リポタンパクの20分画のコレステロール値の経時的解析:Day0、Day1、Day2)によく反映していた(図7A〜C)。
【0114】
このことから、siBNA-2は、生体内で実際に低分子干渉RNA分子として機能し、脂質異常症を改善する効果を発揮すること、すなわち医薬品としての有効性が確認できた。
【0115】
以上、図3に示すように、siBNA-2投与群は、総コレステロール値が対照群と比較して、有意に低下していた。コレステロールの分画を見てみると図4〜図6の様になっており、総コレステロール中でも特に悪玉であるVLDL, LDL分画においてコレステロール値の減少を認め、善玉であるHDLには変化を認めないことがわかる。これはsiBNA-2がApoBに関与するLDLやVLDLだけを特異的に減少させる効果を有していることを証明している。図7はさらにコレステロール値を20分画に分けて測定しており、VLDLやLDLを特異的に減少させていることをより分かりやすく示したものである。
【0116】
また、肝臓障害度を示すALT及びASTの結果を図8A及びBに示す。この結果から、siBNA-2投与群は、対照群(saline投与群)及びsiApoB-1投与群よりも肝臓障害度が低く、毒性が低く安全性が高いことが確認された。
【0117】
実験例3 酵素分解耐性試験
siApoB-1及び調製例で製造したsiBNA-1及びsiBNA-2について、血清中での安定性を下記の方法で評価した。
【0118】
まず、マウスの血清100μlに各siRNA(siApoB-1、siBNA-1、siBNA-2)を40 pmolずつ添加し撹拌して、37℃でインキュベートした。また。添加撹拌した後直ちに(インキュベート開始前)5 μlを採り出し、これを1.5 ml容量のチューブに入れて液体窒素で瞬間凍結させた。また、この時のサンプルを0 minとした。
【0119】
インキュベーションしている血清から、経時的にサンプリングを行った(0〜1500分)。サンプルは全て採取後に−80℃で保存した。測定時に解凍し、Proteinase K (TaKaRa)5μlとDMSO 5μlを入れて30分間、37℃でインキュベートした。それに6×Sample Bufferを3ul入れ、20%TBE gel(Invitrogen)を用いて電気泳動を行った(始め75V、15分の後、110Vで120分)。電気泳動の後、ゲルを同じTBE Buffer100ml中に入れ、10μlのSYBR Gold (Invitrogen)入れて20〜40分ほど浸透した。その後、FujiFilm製のLAS-4000 miniで撮影を行い、Image Jによりゲルのphoto imageにあるバンドの暗度から、ApoB mRNAの発現量を定量化した。
【0120】
結果を図9に示す。
【0121】
この結果からわかるように、ApoBに対する未修飾siRNA(siApoB-1)は血清中で速やかに活性が低下し、血清中でのRNA耐性(酵素分解耐性)がないことが確認された(血清半減期:138分)。これに対して、siApoB-1のセンス鎖の一部の塩基をBNAで置換した修飾siRNA(siBNA-1、siBNA-2)は、上記siApoB-1で生じた活性の低下が抑制されており(血清半減期:siBNA-1は267分、siBNA-2は1107分)、血清耐性(酵素分解耐性)があること、すなわち修飾siRNA(siBNA-1、siBNA-2は酵素により分解されにくく、他のものよりも長く血中を滞留することができ、これがRNA干渉効果(ApoB発現抑制効果)の上昇につながっていると考えられることがわかる。修飾siRNA(siBNA-1、siBNA-2)のなかでも、特にsiBNA-2は血清耐性(酵素分解耐性)に特に優れており、生体内でRNA干渉効果が持続することが判明した。
【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号3は、ヒトApoBのmRNA(配列番号1)の10167〜10187領域またはマウスApoBのmRNA(配列番号2)の1015〜1035領域の塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリゴリボヌクレオチド(アンチセンス鎖RNA)を示し、配列番号4は、これに相補的な塩基配列を示す。配列番号5及び6は、修飾siRNAの修飾センス鎖の塩基配列を示す。配列番号7及び8は、それぞれApoBのsiRNAのセンス鎖及びアンチセンス鎖を示す。配列番号9及び10は、それぞれApoBのmRNAをReal-Time PCRで検出するためのForward primerおよびReverse primerを示す。配列番号11及び12は、それぞれGAPDHのmRNAをReal-Time PCRで検出するためのForward primerおよびReverse primerを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポリポプロテインB遺伝子の発現を減少させる修飾siRNAであって、
(a)当該修飾siRNA分子は、アポリポプロテインB遺伝子の一部の配列に相補的な塩基配列からなるアンチセンス鎖RNAと、当該アンチセンス鎖RNAに相補的な塩基配列を有する修飾センス鎖RNAを有し、
(b)当該修飾センス鎖RNAは合計19〜23個のリボヌクレオチドとリボヌクレオチドアナログからなる修飾オリゴリボヌクレオチドであって、
(c)当該リボヌクレオチドアナログは下記一般式(1)
【化1】

(式中、Bは置換基を有していてもよい芳香族複素環基若しくは芳香族炭化水素環基;Xはシングルボンドまたは置換基を有する窒素原子;Yは酸素原子、硫黄原子またはBH;mは0〜2の整数;及びnは0〜3の整数を意味する)
で示される構造を有するものであることを特徴とする、上記修飾siRNA。
【請求項2】
一般式(1)で示されるリボヌクレオチドアナログが、式中、Xはシングルボンド、nは1、及びmは0であるものである、請求項1に記載する修飾siRNA。
【請求項3】
アンチセンス鎖RNAが、配列番号1に示されるアポリポプロテインB遺伝子の10167〜10187の領域の塩基配列に相補的な塩基配列を有する塩基長21〜23のオリゴリボヌクレオチドである請求項1または2に記載する修飾siRNA。
【請求項4】
修飾センス鎖RNAが、配列番号4または5の塩基配列を有する塩基長21〜23の修飾オリゴリボヌクレオチドである、請求項1乃至3のいずれかに記載する修飾siRNA
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載する修飾siRNAを有効成分とする、医薬組成物。
【請求項6】
ヒトアポリポプロテインBの発現に関連する疾患の予防または治療薬である、請求項5に記載する医薬組成物。
【請求項7】
上記疾患が、脂質異常症、冠状動脈疾患、冠状心疾患、及びアテローム動脈硬化症からなる群から選択されるいずれかである請求項6に記載する医薬組成物。
【請求項8】
上記脂質異常症が、家族性高コレステロール血症、家族性混合型高脂血症、家族性III型高脂血症、後天性高リポタンパク質血症、高LDLコレステロール血症、スタチン耐性高コレステロール血症、高Lp(a)血症またはネフローゼ症候群などの二次性高脂血症である、請求項7に記載する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−155914(P2011−155914A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20720(P2010−20720)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進事業、「人工核酸BNAの合成及び肝細胞指向性アンチセンスの創製」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】