説明

脈波解析装置および脈波解析プログラム

【課題】脈波の反射波成分と駆出波成分とをより正確に検出できる脈波解析装置および脈波解析プログラムを提供する。
【解決手段】この脈波解析装置10では、基準時間検出部2で脈波Sの駆出波成分S1および反射波成分S2を特定するための基準時間T1,T2を検出すると共に脈波振幅検出部3で基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2を検出する。波形モデル化部7は基準時間T1,T2とこの基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2とに基づいて脈波Sに含まれる駆出波と反射波をモデル化する。単独振幅情報検出部8は上記モデル化した駆出波と反射波から脈波Sの所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、生体の脈波に含まれている反射波を高精度に検出できる脈波解析装置および脈波解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、脈波は生体の循環器系の状態を把握する上で様々な重要な情報を有していることが知られている。例えば、AI(Augmentation Index)は、脈波に含まれている駆出波成分と反射波成分の比率を求めることで、全身の動脈硬化度の定量的な評価や、中心動脈圧の推定などに用いられている。
【0003】
このAIを求めるためには、脈波が含んでいる駆出波成分と反射波成分のそれぞれを特定する必要があり、そのための技術が特許文献1(特開2004−313468号公報)などで開示されている。この特許文献1では、脈波の微分による波形解析で駆出波成分と反射波成分を求めている。
【0004】
また、2箇所の測定部位の脈波を測定することで求められる脈波伝播速度についても、駆出波と反射波を分離し、この駆出波と反射波の時間差から1箇所の測定部位での脈波から脈波伝播速度を同定する技術が特許文献2(特開2003−010139号公報)に開示されている。
【0005】
一方、脈波は心臓の拍動により立ち上がり、以後、徐々に立ち下がり、心臓の次の拍動により再び立ち上がる。この脈波の波形は、心臓の動作と動脈の弾性特性により決定される。上述の通り、脈波は生体の循環器系の状態を把握する上で、重要な生体情報であるので、脈波の波形のモデル化への取り組みも種々取り組まれており、例えば、非特許文献1などでは、次式(1)でモデル化できることが開示されている。
P(t)=Ps・exp(−λ・t) … (1)
Ps:最高血圧
λ:時定数の逆数
【0006】
ところで、前述の特許文献1および特許文献2では、駆出波と反射波を分離する技術が開示されており、特に特許文献1では、脈波の波形を分類し、分類した波形の各々に適切な波形解析を行うことで、駆出波と反射波を適切に分離できる技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、駆出波と反射波のそれぞれについて、1拍の脈波の中での時間的な位置関係を正しく特定できたとしても、反射波が単独で持つ振幅は正しく特定できていない。何故ならば、非特許文献1でも記述されている通り、脈波は心臓の拍動で立ち上がるが、その後、或る時定数を持って立ち下がって行くので、反射波が存在する時間においても、駆出波の残存振幅が存在している。つまり、脈波中の反射波の時間的な位置が同定されたとしても、その時点の振幅は駆出波の残存成分と反射波との合成の結果であるので、反射波が単独で持つ振幅は正しく特定できない。
【0008】
したがって、上記AIなどで、駆出波と反射波の大きさの比較を行うような場合、駆出波と反射波の大きさをより正確に比較すべく、脈波中の反射波の時間的な位置における駆出波の残存成分を特定することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−313468号公報
【特許文献2】特開2003−010139号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Hahn, Jin−Oh “A system identification approach to non−invasive central cardiovascular monitoring”,Ph.D. Thesis, Massachusetts Institute of Technology,Dept. of Mechanical Engineering,2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、この発明の課題は、脈波の反射波成分と駆出波成分とをより正確に検出できる脈波解析装置および脈波解析プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、この発明の脈波解析装置は、生体の或る一部位における脈波を検出する脈波検出部と、
上記脈波検出部で検出した上記一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出すると共に上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する脈波振幅検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間と上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる駆出波成分の波形をモデル化してモデル化駆出波を求めると共に、上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる反射波成分の波形をモデル化してモデル化反射波を求める波形モデル化部と、
上記波形モデル化部でモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求めるモデル波振幅導出部とを備えることを特徴としている。
【0013】
この発明の脈波解析装置によれば、上記基準時間検出部で脈波の駆出波成分および反射成分を特定するための基準時間を検出すると共に、上記脈波振幅検出部で上記駆出波成分および反射波成分を特定するための基準時間に対応する脈波の振幅を検出する。そして、上記駆出波成分,反射波成分を特定するための基準時間とこの駆出波成分,反射波成分の基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記波形モデル化部で上記脈波に含まれる駆出波と反射波をモデル化し、このモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記モデル波振幅導出部は上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求める。したがって、脈波の反射波成分と駆出波成分とをより正確に検出でき、脈波の正確な反射波成分と駆出波成分による生体指標をより正確に求めることが可能になる。
【0014】
また、一実施形態の脈波解析プログラムでは、生体の或る一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを求める基準時間導出機能と、
上記基準時間導出機能で求めた上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求めると共に上記基準時間導出機能で求めた上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求める脈波振幅導出機能と、
上記基準時間導出機能で求めた上記駆出波成分の基準時間と上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる駆出波成分の波形をモデル化してモデル化駆出波を求めると共に、上記基準時間導出機能で求めた上記反射波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる反射波成分の波形をモデル化してモデル化反射波を求める波形モデル化機能と、
上記波形モデル化機能でモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求めるモデル波振幅導出機能とをコンピュータに実行させる。
【0015】
この実施形態の脈波解析プログラムによれば、コンピュータに上記基準時間導出機能を実行させて、脈波の駆出波成分の基準時間および反射成分の基準時間を求めると共に、上記脈波振幅導出機能で上記駆出波成分,反射成分の基準時間に対応する脈波の振幅を求める。そして、上記駆出波成分,反射波成分の基準時間とこの基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記波形モデル化機能で上記脈波に含まれる駆出波と反射波をモデル化し、このモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求める。したがって、脈波の反射波成分と駆出波成分とをより正確に求めることができ、脈波の正確な反射波成分と駆出波成分による生体指標をより正確に求めることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の脈波解析装置によれば、脈波の駆出波成分,反射成分を特定する基準時間とこの駆出波成分,反射成分を特定する基準時間に対応する脈波の振幅とに基づいて、上記脈波に含まれる駆出波の波形と反射波の波形をモデル化し、このモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求める。よって、この発明の脈波解析装置によれば、脈波の反射波成分と駆出波成分とをより正確に検出でき、脈波の正確な反射波成分と駆出波成分による生体指標をより正確に求めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の脈波解析装置の実施形態を示すブロック図である。
【図2A】上記実施形態の脈波検出部で検出した脈波の波形を(A)欄に示し、上記脈波の加速度波形を(B)欄に示す波形図である。
【図2B】上記脈波検出部で検出した脈波の3回微分波形を(A)欄に示し、上記脈波の4回微分波形を(B)欄に示す波形図である。
【図3】上記脈波の波形および上記脈波の基準点Q1,Q2での脈波の振幅W1,W2を示す波形図である。
【図4】上記脈波の波形および上記脈波の駆出波成分S1と反射波成分S2を示す波形図である。
【図5】上記駆出波成分S1と反射波成分S2のそれぞれが脈波Sに寄与する様子を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0019】
図1のブロック図に、この発明の実施形態である脈波解析装置10を示す。この脈波解析装置10は脈波検出部1を備え、この脈波検出部1は、人間の生体の或る一部位における脈波を検出する。この脈波検出部1としては、例えば、発光素子から出力される赤外光が血管内の血液量に応じて反射あるいは吸収される度合いを受光素子で測定するものがある(光電容積脈波法)が、その他に、血管内の血液が血管を押す圧力の変化を電気信号として取り出す圧脈波法で脈波を検出するものなどでもよい。また、上記脈波検出部1で脈波を測定する生体部位は、特に大きな制限事項があるわけではないが、できるならば、非侵襲・非拘束の部位であることが望ましく、例えば、指尖・手首・耳朶などが好ましい。
【0020】
また、この脈波解析装置10は、上記脈波検出部1で検出した上記脈波に含まれる駆出波成分,反射波成分のそれぞれを特定するための基準時間と上記基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する駆出波・反射波情報抽出部6と、この駆出波・反射波情報抽出部6からの上記基準時間および上記振幅を表す情報に基づいて、上記脈波のモデル化駆出波とモデル化反射波を求めて、このモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求める駆出波・反射波成分寄与度検出部5を備える。
【0021】
上記駆出波・反射波情報抽出部6は、上記脈波検出部1で検出した上記脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部2を有する。
【0022】
この基準時間検出部2が上記基準時間を求める過程の一例を以下に説明する。まず、図2Aの(A)欄に、上記脈波検出部1で検出した脈波の波形の一例を示す。図2Aの(A)欄における縦軸は脈波の振幅 (mmHg)に対応する測定電圧値(V)である。この実施形態の脈波解析装置10では、一例として、一般的なカフ式血圧計で測定される血圧(mmHg)でもって、脈波検出部1で測定した電圧値(V)が脈波の振幅(mmHg)にどう対応するかの補正(キャリブレーション)を行っている。なお、この補正(キャリブレーション)は、最初の使用開始時に行えばよく、その後の測定では上記キャリブレーションの結果を用いればよい。
【0023】
上記基準時間検出部2は、例えば、上記脈波が、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、図2Aの(A)欄に示される脈波の波形における収縮期の極大点Q1の時間T1を駆出波成分の基準時間T1として検出する。図2Aの(B)欄には、上記脈波の加速度波を示し、図2Bの(A)欄には、上記脈波の3回微分波を示している。そして、上記基準時間検出部2は、例えば、上記脈波が、Murgoらによる血圧波形分類のTypeCの場合は、図2Bの(B)欄に示される脈波の4次微分波の第3ゼロクロスポイントQ2を反射波成分の基準時間T2として検出する。なお、この第3ゼロクロスポイントQ2は、図2A(A)に示す脈波が極小値になった以降に、図2B(B)に示す4回微分波形が3回目に下向きにゼロクロスするポイントを意味する。
【0024】
尚、上述の説明では、上記検出した脈波が上記血圧波形分類のTypeCである場合について説明したが、上記検出した脈波が上記血圧波形分類のTypeC以外の波形形状である場合には、より好適に脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定できる手法があればそれを採用してもよい。例えば、脈波は、大きな血圧変動がなければ、基本的にそれほど大きな波形変化を示すわけではないので、測定した複数の脈波を重ね合わせる(加算平均)ことで、脈波検出精度の改善を図ることが可能になる。
【0025】
また、脈波は、ノイズレベル、年齢・性別・疾病の有無・体調などに応じて、様々な波形形状を示すことから、より好適に脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定できる手法があればそれを採用してもよい。例えば、検出した脈波を、その時点の被測定者の状態と合わせて履歴として残すことで、脈波の駆出波成分の基準時間と反射波成分の基準時間を特定する精度の改善を図れる。
【0026】
また、上記駆出波・反射波情報抽出部6は、脈波振幅検出部3を有する。この脈波振幅検出部3は、図3の波形図に例示するように、上記基準時間検出部2で検出した上記駆出波成分の基準時間T1に対応する上記脈波Sの振幅W1を駆出波成分の脈波振幅として検出すると共に上記基準時間検出部2で検出した上記反射波成分の基準時間T2に対応する上記脈波Sの振幅W2を反射波成分の脈波振幅として検出する。上述の内容は、近年、循環器系の診断指標として利用されているAI(Augumentation Index)で採用されている手法である。
【0027】
そして、上記駆出波・反射波情報抽出部6は、上記基準時間検出部2で検出した上記駆出波成分の基準時間T1および上記反射波成分の基準時間T2を表す情報を上記駆出波・反射波成分寄与度検出部5に入力すると共に、上記脈波振幅検出部3で検出した上記駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1および上記反射波成分の基準時間T2に対応する上記脈波Sの振幅W2を表す情報を、上記駆出波・反射波成分寄与度検出部5に入力する。
【0028】
ところで、図4の波形図に例示するように、反射波成分S2の基準時間T2付近で測定されている脈波振幅W2は、反射波成分W3だけでなく、駆出波成分が含まれていることが多い。このため、次に説明する駆出波・反射波成分寄与度検出部5では、脈波Sが駆出波と反射波との合成波からなるとして、脈波Sへの駆出波と反射波それぞれの寄与度を検出する。
【0029】
すなわち、上記駆出波・反射波成分寄与度検出部5は、波形モデル化部7と単独振幅情報検出部8を有する。この波形モデル化部7は、上記駆出波成分の基準時間T1と、上記駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1とに基づいて上記脈波Sに含まれる駆出波成分S1の波形をモデル化してモデル化駆出波を求める。また、上記波形モデル化部7は、上記基準時間検出部2で検出した上記反射波成分S2の基準時間T2と上記反射波成分S2の基準時間T2に対応する上記脈波Sの反射波成分S2の振幅W3とに基づいて上記脈波Sに含まれる反射波成分S2の波形をモデル化してモデル化反射波を求める。
【0030】
上記波形モデル化部7は、例えば、上記駆出波成分の基準時間T1と、上記駆出波成分の基準時間T1に対応する脈波Sの振幅W1とに基づいて、上記モデル化駆出波S1の基準時間T2以降の時間tにおける振幅WS1(t)を、次式(2)のようにモデル化する。
WS1(t)=W1・exp(−λ(t−T1)) … (2)
【0031】
上式(2)において、λは、脈波の立下り時定数の逆数である。この式(2)においては、上記時定数の逆数λが未知数である。
【0032】
一方、上記波形モデル化部7は、例えば、上記反射波成分の基準時間T2と、上記反射波成分の基準時間T2に対応する脈波Sの上記反射波成分の振幅W3とに基づいて、上記モデル化反射波S2の基準時間T2以降の時間tにおける振幅WS2(t)を、次式(3)のようにモデル化する。
WS2(t)=W3・exp(−λ(t−T2)) … (3)
【0033】
上式(3)において、基準時間T2における反射波成分の振幅W3と上記時定数の逆数λが未知パラメータである。なお、上式(2),(3)は、前述の非特許文献1に記載されている式(1)を駆出波と反射波のそれぞれに当てはめたものに相当している。
【0034】
そして、上記式(2)と式(3)とから、基準時間T2以降の脈波Sの振幅W(t)は、次式(4)で表される。
W(t)=W1・exp(−λ(t−T1))
+W3・exp(−λ(t−T2)) … (4)
【0035】
次に、上記単独振幅情報検出部8は、上記波形モデル化部7によって得られた上式(4)を用いて、脈波Sの駆出波成分S1と反射波成分S2のそれぞれ単独の振幅情報を検出する。これについて、以下に説明する。
【0036】
上式(4)の右辺は、駆出波成分と反射波成分それぞれ単独の振幅が脈波全体に対してどの程度寄与しているかを正確に表すことができることを示している(図5の波形図を参照)。上式(4)に上記反射波成分の基準時間T2を代入することで次式(5)が得られ、上式(4)に脈波Sの極小値W0となる時刻Tを代入することで次式(6)が得られる(図5の波形図を参照)。
W(T2)=W1・exp(−λ(T2−T1))+W3=W2 … (5)
W(T) =W1・exp(−λ(T−T1))+W3・exp(−λ(T−T2))
=W0 … (6)
【0037】
上式(5),(6)において、未知パラメータは、上記時定数の逆数λと基準時間T2における反射波成分の振幅W3の2つであるので、上記2つの式(5),(6)による連立方程式を解くことができる。すなわち、上式(5)より次式(7)が得られる。
W3=W2−W1・exp(−λ(T2−T1)) … (7)
【0038】
この(7)式によるW3を、上式(6)に代入して次式(8)を得る。
W1・exp(−λ(T−T1))+W2・exp(−λ(T−T2)
−W1・exp(−λ(T2−T1))・exp(−λ(T−T2))=W0
W2・exp(−λ(T−T2))=W0
−λ(T−T2)=ln(W0/W2)
λ={ln(W0/W2)}/(T2−T) … (8)
【0039】
この式(8)により上記時定数の逆数λが既知パラメータから得られる。よって、この式(8)で得られたλを上式(7)に代入することで、基準時間T2における反射波成分の振幅W3が既知パラメータから得られる。
【0040】
こうして得られた上記時定数の逆数λと基準時間T2における反射波成分の振幅W3と上式(4)とから、脈波Sの基準時間T2以降の任意の時点での振幅W(t)が得られる。つまり、上式(4)により、脈波Sの駆出波成分S1と反射波成分S2のそれぞれ単独の振幅情報を検出することが可能になる。
【0041】
なお、上記実施形態においては、脈波形のモデル化として非特許文献1に記載の方法での上式(1)を採用したが、当然この式だけに限られるわけではなく、既存の他のモデル式でより好ましいものがあれば、採用してもよい。本発明では、さまざまなモデル式を利用して、駆出波成分と反射波成分それぞれの単独の寄与度を求めることができる。
【0042】
近年、脈波における極大値(最高血圧)や極小値(最低血圧)、あるいはその差(脈圧)といった、従来の指標に加えて、AI(Augumentation Index)をはじめ、駆出波と反射波を利用した新たな生体指標が注目されつつある。そして、本発明によって得た駆出波・反射波それぞれの単独寄与度によって、これらの生体指標をより正確に求めることができる。よって、本発明の脈波解析装置によれば、生体の状態を把握する上で有用である。当然ながら、本発明の脈波解析装置は、AIだけでなく、駆出波と反射波を利用した他の生体指標にも利用可能である。
【0043】
尚、上述のように、上記基準時間検出部2が上記基準時間T1とT2を求める基準時間導出機能と、上記脈波振幅検出部3が上記基準時間T1,T2に対応する脈波Sの振幅W1,W2を求める脈波振幅導出機能と、上記波形モデル化部7が上記脈波Sの駆出波成分の波形をモデル化してモデル化駆出波を求めると共に上記脈波Sの反射波成分の波形をモデル化してモデル化反射波を求める波形モデル化機能と、上記単独振幅情報検出部8が上記モデル化された駆出波と反射波から上記駆出波と反射波それぞれの単独の振幅情報を検出するモデル波振幅導出機能とを脈波解析プログラムによってコンピュータに実行させてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 脈波検出部
2 基準時間検出部
3 脈波振幅検出部
5 駆出波・反射波成分寄与度検出部
6 駆出波・反射波情報抽出部
7 波形モデル化部
8 単独振幅情報検出部
10 脈波解析装置
Q1 脈波の極大点
Q2 脈波の第3ゼロクロスポイント
S 脈波
S1 駆出波成分
S2 反射波成分
T1 駆出波成分の基準時間
T2 反射波成分の基準時間
W1 基準時間T1における駆出波成分の振幅
W2 基準時間T2における脈波の振幅
W3 基準時間T2における反射波成分の振幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の或る一部位における脈波を検出する脈波検出部と、
上記脈波検出部で検出した上記一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを検出する基準時間検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出すると共に上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を検出する脈波振幅検出部と、
上記基準時間検出部で検出した上記駆出波成分の基準時間と上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる駆出波成分の波形をモデル化してモデル化駆出波を求めると共に、上記基準時間検出部で検出した上記反射波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる反射波成分の波形をモデル化してモデル化反射波を求める波形モデル化部と、
上記波形モデル化部でモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求めるモデル波振幅導出部とを備えることを特徴とする脈波解析装置。
【請求項2】
生体の或る一部位における脈波に含まれる駆出波成分を特定するための基準時間と上記脈波に含まれる反射波成分を特定するための基準時間とを求める基準時間導出機能と、
上記基準時間導出機能で求めた上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求めると共に上記基準時間導出機能で求めた上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅を求める脈波振幅導出機能と、
上記基準時間導出機能で求めた上記駆出波成分の基準時間と上記駆出波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる駆出波成分の波形をモデル化してモデル化駆出波を求めると共に、上記基準時間導出機能で求めた上記反射波成分の基準時間と上記反射波成分の基準時間に対応する上記脈波の振幅とに基づいて上記脈波に含まれる反射波成分の波形をモデル化してモデル化反射波を求める波形モデル化機能と、
上記波形モデル化機能でモデル化したモデル化駆出波とモデル化反射波から上記脈波の所望の位相における駆出波成分の振幅と反射波成分の振幅とを求めるモデル波振幅導出機能とをコンピュータに実行させることを特徴とする脈波解析プログラム。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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