脈波解析装置および脈波解析プログラム
【課題】高精度に脈波解析指標を算出することのできる脈波解析装置および脈波解析プログラムを提供すること。
【解決手段】脈波解析装置は、複数拍分の脈波波形を1拍毎で区切り(ステップS102)、認識された1拍毎の脈波形状を集積(たとえば平均化)する(ステップS104)。集積された脈波形状と1拍毎の脈波形状との近似度を所定の計算式によって算出し(ステップS106)、近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標(たとえば脈波伝播速度)を算出する(ステップS108,S110)。このようにして算出された脈波解析指標が、解析結果として出力される(ステップS114)。
【解決手段】脈波解析装置は、複数拍分の脈波波形を1拍毎で区切り(ステップS102)、認識された1拍毎の脈波形状を集積(たとえば平均化)する(ステップS104)。集積された脈波形状と1拍毎の脈波形状との近似度を所定の計算式によって算出し(ステップS106)、近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標(たとえば脈波伝播速度)を算出する(ステップS108,S110)。このようにして算出された脈波解析指標が、解析結果として出力される(ステップS114)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波解析装置および脈波解析プログラムに関し、特に、複数拍分の脈波波形を解析することにより所定の脈波解析指標を算出することのできる脈波解析装置および脈波解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脈波解析は、脈波伝播速度などの脈波解析指標の計測に用いられている。脈波伝播速度は、動脈の硬さを非侵襲的に評価する指標として、診療現場で活用されている。
【0003】
脈波解析指標を精度良く計測するための技術として次のようなものがある。
特開2006−247221号公報(特許文献1)には、脈波にノイズが含まれている脈波であるかどうかを自己相関関数波形により判断することが記載されている。
【0004】
特開2001−128946号公報(特許文献2)には、正確な脈波伝播速度情報を測定するために、ノッチを検出してその時間差から脈波伝播速度を算出することが記載されている。
【0005】
特開平10−328150号公報(特許文献3)には、脈波伝播速度を高い精度で測定するために、心拍同期波の最大傾斜線と基線とを用いて脈波伝播速度を算出することが記載されている。
【0006】
特開2008−168073号公報(特許文献4)には、動脈硬化検査の信頼性や効率性を向上するために、取得する脈波の特徴点を検出し、その特徴点を明示しつつ脈波波形をリアルタイムで画面に表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−247221号公報
【特許文献2】特開2001−128946号公報
【特許文献3】特開平10−328150号公報
【特許文献4】特開2008−168073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脈波解析指標の一種である脈波伝播速度はたとえば次のような方法で求められる。脈波伝播速度の一形態である上腕−足首脈波伝播速度(baPWV:brachial-ankle Pulse Wave Velocity)の場合、上腕と足首とに巻いたカフを一定圧に保持して採取するPVR(Pulse Volume Recording)波形を数拍から十数拍分記録する。そして、上腕および足首それぞれのPVR波形について、1拍毎の脈波の立ち上がり位置を検出することにより、脈波伝播速度が算出される。
【0009】
このような方法では、全拍分の脈波が脈波解析指標の算出に用いられるため、PVR波形採取中に不整脈や体動などが起こると、脈波が乱れて指標の計測精度が悪くなってしまう。また、その結果、誤った測定値(精度の悪い脈波解析指標)を診断に用いてしまうという恐れもある。
【0010】
また、上記各特許文献における提案は、高精度に脈波解析指標を算出するためには十分とはいえない。
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、高精度に脈波解析指標を算出することのできる脈波解析装置および脈波解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面に従う脈波解析装置は、複数拍分の脈波波形を記憶するための記憶手段と、複数拍分の脈波波形を解析することで脈波解析指標を算出するための処理を行なう解析処理手段と、算出された脈波解析指標を、解析結果として出力するための出力手段とを備える。解析処理手段は、複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積し、集積された脈波形状と1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標を算出する。
【0013】
好ましくは、解析処理手段は、さらに、脈波解析指標の算出に用いられた脈波形状についての近似度を集積することで、拍動の安定度を算出し、出力手段は、安定度を脈波解析指標の信憑性を示す指標としてさらに出力する。
【0014】
好ましくは、記憶手段は、左右の肢部について、複数拍分の脈波波形を記憶し、解析処理手段は、肢部毎に近似度を算出し、かつ、近似度が高い方の肢部の脈波形状を用いて、脈波解析指標を算出する。
【0015】
好ましくは、記憶手段は、複数拍分の脈波波形を肢部毎に記憶し、解析処理手段は、肢部毎に、1拍毎の脈波形状を集積し、かつ、近似度、脈波解析指標および安定度を算出し、出力手段は、安定度が高い方の脈波解析指標を、解析結果として出力する。
【0016】
好ましくは、解析処理手段は、1拍毎の脈波形状のうち、脈波解析指標の算出に影響する範囲に限定して、近似度を算出する。
【0017】
好ましくは、脈波解析指標は、動脈硬化の度合い、および/または、血管の狭窄の程度を示す。
【0018】
さらに好ましくは、脈波解析指標は、動脈硬化の度合いを示す指標としての脈波伝播速度を含む。
【0019】
好ましくは、肢部の脈波を検出するための脈波検出手段と、脈波検出手段からの検出信号に基づいて、複数拍分の脈波波形を測定するための測定処理手段とをさらに備える。
【0020】
この発明の他の局面に従う脈波解析プログラムは、記憶部に記憶された複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積するステップと、集積された脈波形状と1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標を算出するステップと、算出された脈波解析指標を、解析結果として出力するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、体動などの影響の少ない安定した拍のみを用いて脈波解析指標を算出することができる。その結果、精度の高い脈波解析指標を解析結果として出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に従う脈波解析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う脈波解析装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図3】肢部ごとの脈波測定結果の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態において、集積された脈波形状と各拍との近似度の算出方法を説明するための図である。
【図5】脈波伝播距離の算出方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態における脈波解析処理を示すフローチャートである。
【図7】図6のステップS108における除外処理結果の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における解析結果情報の出力例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における解析結果情報の他の出力例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における解析結果情報のさらに他の出力例を示す図である。
【図11】測定ID1の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図12】測定ID2の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図13】測定ID3の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図14】測定ID4の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図15】測定ID5の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図16】測定ID6の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図17】測定ID7の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図18】測定ID8の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図19】測定ID9の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図20】測定ID10の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図21】測定ID11の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図22】測定ID12の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図23】測定ID13の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図24】測定ID14の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図25】測定ID15の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図26】測定ID16の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図27】測定ID17の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図28】図11〜図27の脈波波形を対象とした場合における、装置が算出する近似度の順位と、判読者による近似の程度の順位との関係を示す図である。
【図29】図28に示された、装置による近似の順位と判読者による近似の順位との相関関係を示す図である。
【図30】本発明の実施の形態の変形例2における脈波解析指標の算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
<概略構成について>
図1は、本発明の実施の形態に従う脈波解析装置100の概略構成図である。
【0025】
図1を参照して、脈波解析装置100は、情報処理ユニット1と、4つの検出ユニット20ar,20al,20br,20blと、4つのカフ24ar,24al,24br,24blとを含む。
【0026】
カフ24ar,24al,24br,24blは、それぞれ被測定者200の肢部に装着される。具体的には、それぞれ、右上腕(右上肢)、左上腕(左上肢)、右足首(右下肢)および左足首(左上肢)に装着される。なお、「肢部」とは、四肢に含まれる部位を表わし、手首や指尖部などであってもよい。カフ24ar,24al,24br,24blは、特に区別する必要がない限り、これらを総称して、「カフ24」と呼ぶ。
【0027】
検出ユニット20ar,20al,20br,20blは、それぞれ、被測定者200の肢部の脈波を検出するために必要なハードウェアを含む。検出ユニット20ar,20al,20br,20blの構成は全て同様であってよいので、特に区別する必要がない限り、これらを総称して、「検出ユニット20」と呼ぶ。
【0028】
情報処理ユニット1は、制御部2と、出力部4と、操作部6と、記憶装置8とを含む。
制御部2は、脈波解析装置100全体の制御を行なう装置であり、代表的に、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)14とを含むコンピュータで構成される。
【0029】
CPU10は、演算処理部に相当し、ROM12に予め格納されているプログラムを読出して、RAM14をワークメモリとして使用しながら、当該プログラムを実行する。
【0030】
また、制御部2には、出力部4、操作部6および記憶装置8が接続されている。出力部4は、測定された脈波や脈波解析結果などを出力する。出力部4は、LED(Light Emitting Diode)またはLCD(Liquid Crystal Display)などで構成される表示デバイスであってもよいし、プリンタ(ドライバ)であってもよい。
【0031】
操作部6は、ユーザからの指示を受付ける。記憶装置8は、各種データやプログラムを保持する。制御部2のCPU10は、記憶装置8に記録されたデータやプログラムの読み出しや書き込みを行なう。記憶装置8は、たとえば、ハードディスク、不揮発性メモリ(たとえば、フラッシュメモリ)、あるいは、着脱可能な外部記録媒体などにより構成されてよい。
【0032】
ここで、各検出ユニット20の構成について具体的に説明する。
検出ユニット20brは、被測定者200の右上腕に装着されたカフ24brの内圧(以下、「カフ圧」という)の調整および検出を行なうことで、右上腕における脈波を検出する。カフ24brは、図示のない流体袋(たとえば空気袋)を内包している。
【0033】
検出ユニット20brは、圧力センサ28brと、調圧弁26brと、圧力ポンプ25brと、A/D(analog to digital)変換部29brと、配管27brとを含む。カフ24brと、圧力センサ28br,調圧弁26brとは、配管22brによって接続されている。
【0034】
圧力センサ28brは、配管22brを介して伝達される圧力変動を検出するための検出部位であり、一例として、単結晶シリコンなどからなる半導体チップに所定間隔に配列された複数のセンサエレメントを含む。圧力センサ28brによって検出された圧力変動信号は、A/D変換部29brによってデジタル信号に変換されて、脈波信号pbr(t)として制御部2に入力される。
【0035】
調圧弁26brは、圧力ポンプ25brとカフ24brとの間に介挿され、測定時にカフ24brの加圧に用いられる圧力を所定の範囲に維持する。圧力ポンプ25brは、制御部2からの検出指令に応じて作動し、カフ24brを加圧するためにカフ24br内の流体袋(図示せず)に空気を供給する。
【0036】
この加圧によって、カフ24brは測定部位に押圧され、右上腕の脈波に応じた圧力変化がそれぞれ配管22brを介して検出ユニット20brへ伝達される。検出ユニット20brは、この伝達される圧力変化を検出することで、右上腕の脈波を検出する。
【0037】
検出ユニット20blも同様に、圧力センサ28blと、調圧弁26blと、圧力ポンプ25blと、A/D変換部29blと、配管27blとを含む。カフ24blと、圧力センサ28bl,調圧弁26blとは、配管22blによって接続されている。
【0038】
また、検出ユニット20arは、圧力センサ28arと、調圧弁26arと、圧力ポンプ25arと、A/D変換部29arと、配管27arとを含む。カフ24arと、圧力センサ28ar,調圧弁26arとは、配管22arによって接続されている。
【0039】
検出ユニット20alも同様に、圧力センサ28alと、調圧弁26alと、圧力ポンプ25alと、A/D変換部29alと、配管27alとを含む。カフ24alと、圧力センサ28al,調圧弁26alとは、配管22alによって接続されている。
【0040】
検出ユニット20bl,20ar,20al内の各部の機能は、検出ユニット20brと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。また、検出ユニット20内の各部についても、特に区別する必要がない限り、“ar”,“br”などの記号は省略して説明する。
【0041】
なお、本実施の形態では、圧力センサ28を用いて脈波を検出する構成について説明するが、動脈容積センサ(図示せず)を用いて脈波を検出する構成であってもよい。この場合、動脈容積センサは、たとえば、動脈に対して光を照射する発光素子と、発光素子によって照射された光の動脈の透過光または反射光を受光する受光素子とを含んでよい。あるいは、複数の電極を含み、被測定者200の測定部位に微少の一定電流を流すとともに、脈波の伝播に応じて生じるインピーダンス(生体インピーダンス)の変化によって生じる電圧変化を検出するようにしてもよい。
【0042】
<機能構成について>
図2は、本発明の実施の形態に従う脈波解析装置100の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0043】
図2を参照して、本実施の形態の脈波解析装置100は、その機能として、調整部30、脈波測定部102、解析処理部104、血圧測定部106、血圧指標算出部108および出力部4を含む。なお、血圧測定部106および血圧指標算出部108は、脈波解析装置100の機能構成に含まれなくてもよい。
【0044】
調整部30は、カフ24内の圧力を調整する機能部である。調整部30の機能は、たとえば、図1に示した圧力ポンプ25および調圧弁26により達成される。
【0045】
脈波測定部102は、調整部30およびA/D変換部29と接続され、各肢部における脈波(PVR)を測定するための処理を行なう。脈波測定部102は、調整部30に指令信号を与えることでカフ24の内圧を調整するとともに、当該指令信号に応答して検出されたカフ圧信号Par(t),Pal(t),Pbr(t),Pbl(t)を受信する。そして、受信したカフ圧信号Par(t),Pal(t),Pbr(t),Pbl(t)を時系列に記録することで、肢部ごとに、複数拍分の脈波波形を取得する。脈波の測定は、たとえば所定時間(たとえば10秒程度)行なわれる。
【0046】
脈波測定部102による脈波測定結果は、出力部4に出力されてよい。
図3は、肢部ごとの脈波測定結果の一例を示す図である。図3には、各肢部の脈波波形が同一の時間軸に沿って示されている。図3に示されるように、1拍ごとの脈波の立ち上がり位置が、破線などで示されてもよい。
【0047】
解析処理部104は、脈波測定部102によって測定された肢部ごとの脈波を解析することで、被測定者200(図1)の脈波の特徴量として、所定の脈波解析指標(以下「解析指標」と略す)を算出する。本実施の形態において「解析指標」とは、動脈硬化、および/または、血管の狭窄と相関を持つ指標を表わす。つまり、「解析指標」は、動脈硬化の度合い、および/または、血管の狭窄の度合いを示すものである。
【0048】
動脈硬化の度合いを示す解析指標としては、たとえば、脈波伝播速度、脈波伝播時間(PTT:Pulse Transit Time)、AI(Augmentation Index)、および、TR(Traveling time to Reflected wave)などが挙げられる。なお、脈波伝播速度は、上腕脈波および足首脈波によって算出されるもの(baPWV)に限定されず、他の2つの測定部位の脈波によって算出されるもの、あるいは、1つの測定部位(肢部)での脈波のみによって算出されるものであってもよい。
【0049】
血管の狭窄の程度を示す解析指標としては、たとえば、足首脈波の上昇特徴値、および、脈波の先鋭度などが挙げられる。足首脈波の上昇特徴値は、たとえば、UT(UT:upstroke Time)として算出される。UTは、立ち上がり点からピークまでの足首脈波が上昇する期間として算出される。脈波の先鋭度は、%MAP(正規化脈波面積)として算出される。%MAPは、たとえば、脈波のピーク高さHすなわち脈圧に対する、脈波面積を均等にならしたときの最低血圧からの高さMの割合(=M/H×100)として算出される。
【0050】
本実施の形態においては、解析指標として、baPWVを算出することとして説明するが、上記したような他の特徴量を算出してもよい。
【0051】
解析処理部104は、複数拍分の脈波波形から1拍毎の脈波形状(脈波波形の形状)を認識する処理を行なう。具体的には、脈波の区切り処理が行なわれ、脈波波形が1拍毎に切り出される。これにより、1拍毎の脈波形状が認識される。脈波の区切り処理は、特定周波数によるフィルター処理または微分処理などの公知の手法で実現可能である。
【0052】
解析処理部104は、認識された1拍毎の脈波形状を集積し、拍ごとに、集積された脈波形状(以下「集積形状」ともいう)との近似度を算出する。本実施の形態において「1拍毎の脈波形状を集積する」とは、1拍毎の脈波形状を平均化することを表わすこととするが、平均化と同等の処理を行なってもよい。
【0053】
本実施の形態において、「近似度」とは、2つの波形の近似の度合いを示す値であり、より特定的には、2つの波形がどの程度一致しているかを数値として表わしたものである。近似度は、たとえば、次式(1)により求められる。
【0054】
【数1】
【0055】
図4は、本発明の実施の形態において、集積形状と各拍との近似度の算出方法を説明するための図である。
【0056】
図4を参照して、近似度は、集積形状Waと実測のi拍目の脈波形状Wiとのずれにより生じる面積の逆数として算出される。つまり、近似度は、脈の立ち上がりを起点とした場合の、サンプリング時間ごとの振幅値Pa,Piの差の加算値の逆数として求めることができる。
【0057】
または、近似度は、サンプリング時間ごとの振幅値Pa,Piの差の積分値の逆数として求めてもよい。
【0058】
または、振幅値Pa,Piの差に重みを加え、たとえば、次式(2)のように、振幅値Pa,Piの差の2乗和の逆数により近似度が求められてもよい。
【0059】
【数2】
【0060】
近似度の計算式は、予め行なわれた実験の結果に基づき定められる。近似度の計算式の設定方法(原理)については後述する。
【0061】
なお、本実施の形態では、脈の立ち上がりを起点として集積脈波と1拍分の脈波全体との近似度を求めることとしたが、近似度の算出に用いられる区間を解析指標に強く影響する範囲に限定してもよい。たとえば、脈波波形の立ち上がり点からピークまでの範囲に限定してもよいし、脈波波形の前方1/2部分に限定してもよい。つまり、1拍分の脈波形状のうち、解析指標の算出に影響しない後方部分を、近似度の算出に用いないようにしてもよい。
【0062】
また、近似度の算出には、脈の立ち上がりを起点とした振幅値の差を用いることとしたが、起点の位置(2つの波形を一致させる位置)は、脈の立ち上がりに限定されない。たとえば、脈波波形のピークを起点とするなど、一定の基準位置を起点と定めてもよい。あるいは、一定の基準位置ではなく、拍ごとに、たとえば集積波形との近似度が最大となるような位置を起点として決定してもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、近似度を算出することとしたが、集積形状との「ズレ度」を算出してもよい。ズレ度は、式(1),(2)の近似度の逆数として算出可能である。
【0064】
解析処理部104は、集積形状との近似度が低い(=ズレ度が高い)と判定された脈波形状の拍を特定し、特定された拍を解析指標の算出対象から除外する。このように、集積形状との近似度が低い脈波形状が除外されることで、不整脈や体動によって突発的に乱れた可能性が高い、安定していない脈波が適切に除外される。
【0065】
従来は、図3のような複数拍分の脈波波形が測定されると、医師が目視により波形が乱れているかを判断していたが、本実施の形態によると、集積形状との近似度を算出することで、演算によって波形の乱れを判別することができる。
【0066】
解析処理部104は、除外されていない拍の脈波波形つまり、安定した脈波波形のみを解析することで、baPWVを算出する。本実施の形態では、左右両方の足首を測定部位として2種のbaPWV、たとえば、右上腕−左足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_RL」ともいう)および右上腕−右足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_RR」ともいう)が算出する。このように、2種のbaPWVを算出するのは、これらの差も、左下腿部および右下腿部における動脈狭窄の診断にも用いられ得るからである。
【0067】
なお、本実施の形態において上腕の測定部位を右としているのは、それがデフォルトとして定められているからであって、左を基準としてもよい。また、たとえば、右上腕の血圧が左上腕の血圧よりも所定値(たとえば16〜20mmHg)以上下がっている場合には、右上腕に代えて左上腕を測定部位としてもよい。または、操作部6を介して測定部位を左とする旨の指示が入力された場合にも、右上腕に代えて左上腕を測定部位としてもよい。
【0068】
baPWV_RLおよびbaPWV_RRの算出に際しては、除外されていない拍の脈波波形のみが解析に用いられる。解析処理部104は、対象とされた各拍について、上腕脈波および足首脈波の立ち上がり位置の時間差(図5の時間Tr,Tl)を算出し、算出した時間の平均値を、血管の長さ(=脈波伝播距離)で除算することにより各baPWVを算出する。
【0069】
図5において、時間Tr,Tlは、右上腕の脈波の立ち上がり点P0rとの時間差を示しているものとする。左上腕を測定部位とする場合には、左上腕の脈波の立ち上がり点P0lとの時間差を用いて左上腕−左足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_LL」ともいう)、および、左上腕−右足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_LR」ともいう)が算出される。図5における時間Tr,Tlは、脈波伝播時間(PTT)を表わしている。
【0070】
なお、各baPWVの算出に必要な、血管の長さは、被測定者の身長を所定の換算式に当てはめることで算出される。被測定者の身長は、たとえば操作部6によって入力される。
【0071】
解析処理部104は、さらに、解析指標の算出に用いられた脈波形状についての近似度を集積することで、解析指標の算出に用いられた脈波全体の拍動の安定度を算出してもよい。本実施の形態では、baPWV_RLおよびbaPWV_RRの各々について、算出対象となった脈波全体の拍動の安定度を算出する。拍動の安定度は、測定された全拍分の脈波波形ではなく、baPWVの算出に用いられた脈波波形そのものから導出されるため、baPWVの信憑性と直接的な関連がある。したがって、解析処理部104により算出される各拍動の安定度は、対応のbaPWVの信憑性(信頼できる度合)を示しているといえる。
【0072】
なお、近似度ではなくズレ度が算出される場合、解析指標の算出に用いられた脈波形状についてのズレ度を集積した値は、解析指標の算出に用いられた脈波全体の拍動の乱れ度として算出される。
【0073】
解析処理部104によって算出された各baPWVおよび各安定度は、出力部4に出力される。出力部4は、baPWV_RLおよびbaPWV_RRを出力するとともに、各baPWVと関連付けて、その値の信憑性を示す指標を出力(表示または印刷)する。各baPWVの信憑性を示す指標としては、拍動の安定度として算出された値そのものを出力してもよいし、算出された値を、レベル値、マーク、または記号等に置き換えて出力してもよい。
【0074】
血圧測定部106は、脈波測定部102と同様に、調整部30およびA/D変換部29と接続され、各肢部における血圧を測定するための処理を行なう。血圧測定部106は、調整部30に指令信号を与えることでカフ24の内圧を調整するとともに、当該指令信号に応答して検出されたカフ圧信号Par(t),Pal(t),Pbr(t),Pbl(t)を受信する。血圧測定部106は、たとえば、公知のオシロメトリック法に従って、被測定者200の肢部ごとの最高血圧および最低血圧を測定する。より具体的には、肢部ごとに、カフ圧を所定の圧力値まで高速で加圧し、徐速での減圧時に検出される時系列のカフ圧信号に所定のアルゴリズムを適用することで、最高血圧および最低血圧が算出される。血圧測定部106は、脈拍数、平均血圧および脈圧をさらに測定してもよい。
【0075】
血圧指標算出部108は、血圧測定部106によって測定された血圧値に基づいて、所定の血圧指標を算出する。本実施の形態における「血圧指標」は、血管の詰まり具合(動脈狭窄の度合い)と相関を持つ指標を表わし、具体的にはたとえば、ABI(Ankle Brachial Index)が挙げられる。本実施の形態では、左右両方の足首と一方の上腕とを測定部位としてABIを算出する。たとえば、右上腕の最高血圧と右足首の最高血圧との比、および、右上腕の最高血圧と左足首の最高血圧との比を、それぞれ「ABI_RR」および「ABI_RL」として算出する。なお、各ABIの算出においても上腕の測定部位を右としているのは、右上腕の最高血圧が左上腕に比して高い場合であり、左上腕の最高血圧が右上腕に比して高い場合には、左上腕を測定部位として用いてもよい。また、右上腕と左上腕の最高血圧の平均を、ABI算出時の上腕血圧としてもよい。また、本実施の形態ではABIを血圧指標として算出することとするが、他の血圧特徴量が用いられてもよい。
【0076】
血圧測定部106での測定結果、および、血圧指標算出部108により算出されたABI_RRおよびABI_RLは、出力部4に出力される。出力部4は、baPWV_RL、baPWV_RRおよびこれらの信憑性を示す指標とともに、肢部ごとの血圧値、ABI_RRおよびABI_RLも出力する。これにより、医師などの医療従事者は、より正確に、動脈硬化の疑いがあるかどうかの診断が可能となる。
【0077】
以上説明した脈波測定部102、解析処理部104、血圧測定部106および血圧指標算出部108の動作は、ROM12中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよいし、これらのうち少なくとも1つについては、ハードウェアで実現されてもよい。また、解析処理部104が実行する処理のうちの一部は、ハードウェアで実現されてもよい。
【0078】
<動作について>
次に、本実施の形態における脈波解析装置100の動作について説明する。動作の説明にあたっては、本実施の形態において最も特徴的な部分である解析処理部104が実行する処理について説明する。
【0079】
図6は、本発明の実施の形態における脈波解析処理を示すフローチャートである。図6のフローチャートに示す処理は、予めプログラムとしてROM12に格納されており、CPU10がこのプログラムを読み出して実行することにより、脈波解析処理の機能が実現される。
【0080】
なお、脈波解析処理が開始される時点において、脈波測定部102により測定された肢部ごとの脈波波形が、RAM14または記憶装置8に記憶されているものとする。つまり、本実施の形態における脈波解析処理は、脈波測定の直後に行なわれるものに限定されず、記憶装置8に記憶された、過去に測定された脈波波形に対して行なわれてもよい。
【0081】
図6を参照して、解析処理部104は、測定部位である肢部ごとに、記憶された複数拍分の脈波波形の区切り処理を行なう(ステップS102)。これにより、複数拍分の脈波波形が1拍単位で切り出され、1拍毎の脈波形状が認識される。
【0082】
続いて、解析処理部104は、肢部ごとに、認識された全拍の脈波形状を平均化し(ステップS104)、平均化された脈波形状(集積形状)と各脈波形状との近似度を算出する(ステップS106)。近似度の算出には、たとえば上記(1)式が用いられる。肢部ごとに算出された各脈波の近似度は、RAM14に一時記録される。
【0083】
解析処理部104は、近似度が低い拍の除外処理を行なう(ステップS108)。具体的には、まず、肢部ごとに、近似度が一定基準を満たさない(つまり、近似度が予め定められた閾値以下の)脈波形状を特定し、特定された脈波形状をbaPWVの算出対象から除外する。なお、脈波波形の特定に用いる閾値は、予め定められた値に限定されない。たとえば、全拍の平均の近似度から閾値を決定して、その基準(決定した閾値)を満たさない脈波形状を除外対象として特定してもよい。除外処理の結果、baPWVの算出に用いられるか否かの情報がRAM14に一時記録される。
【0084】
図7は、図6のステップS108における除外処理結果の一例を示す図である。
図7を参照して、各拍i(i=1,2,3,…,n)に対応付けて、右上腕、左上腕、右足首および左足首それぞれの脈波形状が算出対象から除外されたか否かの情報が記録される。本実施の形態では、たとえば、除外すべき脈波波形と判定された拍No.に対応する欄に、“1”を記録し、それ以外を“0”とする。なお、各肢部における除外処理結果の保持方法は図7のような例に限定されない。
【0085】
除外処理が終わると、その処理結果を反映してbaPWV(脈波伝播速度)が算出される(ステップS110)。本実施の形態では、ステップS108の除外処理の結果、近似度が低いと判定された拍を除外して、baPWV_RL、および、baPWV_RRの両方を算出する。
【0086】
ここで、図7のような結果が記録されていると仮定して、各baPWVの算出方法を説明する。baPWV_RLを算出する場合、右上腕の脈波と左足首の脈波とが用いられる。図7を参照すると、右上腕の3拍目の脈波と、左足首の6拍目の脈波とが除外対象として記録されている。したがって、3拍目および6拍目の脈波を除外することでbaPWV_RLが算出される。より具体的には、3拍目および6拍目以外の各拍について、右上腕および左足首の脈波の脈波伝播時間を算出し、算出された脈波伝播時間の平均値と血管の長さの推定値とにより、baPWV_RLを算出する。
【0087】
baPWV_RRを算出する場合、右上腕の脈波と右足首の脈波とが用いられる。図7を参照すると、右上腕の3拍目の脈波と、右足首の5,6拍目の脈波とが除外対象として記録されている。したがって、3拍目、5拍目および6拍目の脈波を除外することでbaPWV_RRが算出される。より具体的には、3拍目、5拍目および6拍目以外の各拍について、右上腕および右足首の脈波の脈波伝播時間を算出し、算出された脈波伝播時間の平均値と血管の長さの推定値とにより、baPWV_RRを算出する。
【0088】
このように、本実施の形態によると、大きく乱れた脈波波形は各baPWVの算出に用いられないので、精度良く解析指標を算出することができる。また、実測の波形を集積することで、近似度算出の基準となる脈波形状が求められる。したがって、測定時の被測定者の病態や病状、あるいは測定条件(投薬直後など)に応じて適切に除外すべき脈波形状を特定することができる。
【0089】
解析処理部104は、次に、baPWVの信憑性を算出する(ステップS112)。本実施の形態では、baPWV_RLおよびbaPWV_RRの算出に用いられた脈波全体の拍動の安定度をそれぞれ算出する。具体的には、baPWV_RLの算出に用いられた脈波全体の拍動の安定度すなわち、baPWV_RLの信憑性は、baPWV_RLの算出に用いられた拍の近似度を集積(たとえば平均)することで算出される。baPWV_RLの算出においては、図7を例に3拍目および6拍目の脈波が除外されたため、baPWV_RLの信憑性は、3拍目および6拍目以外の、右上腕および左足首の拍についての近似度を平均化した値として表わされる。
【0090】
より具体的には、右上腕の脈波形状のうち、3拍目および6拍目以外の拍の近似度の平均値と、左足首の脈波形状のうち、3拍目および6拍目以外の拍の近似度の平均値とを求める。これらの平均値をさらに平均化した値が、算出に用いられた脈波全体の安定度として算出される。
【0091】
あるいは、右上腕の脈波形状のうちの3拍目および6拍目以外の拍、および、左足首の脈波形状のうちの3拍目および6拍目以外の拍全ての近似度を平均化した値を、算出に用いられた脈波全体の安定度として算出してもよい。
【0092】
baPWV_RRの信憑性も同様の方法で算出される。baPWV_RRの算出においては、図7を例に3拍目、5拍目および6拍目の脈波が除外されたため、baPWV_RRの信憑性は、3拍目、5拍目および6拍目以外の各拍の、集積形状との近似度を集積(たとえば平均)することで算出される。
【0093】
このように、各baPWVの信憑性は、集積形状との近似度を個別に評価した後で、指標算出に用いられた全拍分の近似度を集積して求められる。したがって、全体に対する1拍分の影響度を、従来より行なわれていたbaPWVの算出方法(1拍ごとに脈波伝播時間を算出し、血管長の推定値をそれらの平均で除算する)と同等にすることができる。
【0094】
以上のような解析処理が終わると、出力部4には、各解析結果が出力される(ステップS114)。本実施の形態では、プリンタ(ドライバ)として機能する出力部4が、得られた解析結果を紙媒体に印刷する。紙媒体には、たとえば図8のような解析結果情報が印刷される。
【0095】
図8は、本発明の実施の形態における解析結果情報の出力例を示す図である。
図8を参照して、紙媒体には、脈波解析の結果として、baPWV_RR値91、baPWV_RRの信憑性を示す指標92、baPWV_RL値93、および、baPWV_RLの信憑性を示す指標94が印刷されている。信憑性を示す指標は、たとえば、信憑性が高い(安定度が高い)順に、「+++」、「++」、「+」、「±」、「−」の5段階の記号で示される。ROM12には、安定度の数値範囲と対応付けて、表示されるべきこれらの記号が予め記憶されているものとする。
【0096】
このように、各baPWV値91,93のすぐ下に、それらの値の信憑性を示す指標92,94を配置することで、これらの指標が関連付けられて印刷される。その結果、医師などの医療従事者は、解析指標として出力されたbaPWVの値だけでなくその指標の信憑性の高さを考慮することで、より正しい診断を行なうことが可能となる。
【0097】
本実施の形態の脈波解析装置100は、上述のように、各肢部の血圧測定、および、ABI_RR,ABI_RLの算出も行なう。したがって、図8には、右上腕の血圧81、右足首の血圧82、左上腕の血圧83、左足首の血圧84、ABI_RR値85、および、ABI_RL値86がさらに出力される。
【0098】
図8に示されたbaPWVおよび血圧値の単位は、それぞれ、“cm/s”および“mmHg”である。
【0099】
解析結果情報として、さらに、上述のUTや%MAPも出力されてもよい。また、図9に示すようなグラフが出力されてもよい。
【0100】
図9は、本発明の実施の形態における解析結果情報の他の出力例を示す図である。
図9には、baPWVを縦軸、ABIを横軸にとったグラフである。このグラフでは、予め、baPWVとABIとにより定まる動脈硬化度のレベルが識別可能に(たとえば色分けされて)示されている。このグラフにおいて、右下腿部および左下腿部それぞれの動脈硬化レベルが予め定められたマーク,文字,記号などによって示される。
【0101】
図9において、右下腿部の動脈硬化度のレベルは、解析処理部104にて算出されたbaPWV_RRと、血圧指標算出部108にて算出されたABI_RRとの交点にプロットされた黒塗りの三角マークの位置によって示されている。左下腿部の動脈硬化レベルは、解析処理部104にて算出されたbaPWV_RLと、血圧指標算出部108にて算出されたABI_RLとの交点にプロットされた白抜きの三角マークの位置によって示されている。
【0102】
なお、本実施の形態では、解析結果情報として、測定されたbaPWV_RRおよびbaPWV_RLの両方が出力されることとした。しかしながら、測定されたbaPWV_RRおよびbaPWV_RLのうち、図6のステップS112で算出された信憑性(安定度)が高い方のbaPWVのみを、脈波解析結果として出力してもよい。たとえば、患者への提示用のレポートは、一般に、簡易な情報のみを印刷するので、患者用のレポートにおいてのみ、一方のbaPWVだけを出力することとしてもよい。そのような場合、図9のグラフに代えて、図10のようなグラフが印刷されてよい。図10には、baPWVを縦軸、ABIを横軸にとったグラフにおいて、安定度が高い方のbaPWVのみがプロットされている。このように、信憑性(安定度)が高い方のbaPWVのみを出力することで、単に値が高い方のbaPWVや、左右のbaPWVの平均値がプロットされる場合よりも、より適切な判断や診断を可能とすることができる。
【0103】
<近似度の計算式について>
上述のように、本実施の形態では、精度良く解析指標を算出するために、各拍ごとの集積脈波との近似度が用いられた。したがって、近似度の計算式は、実験により適切に定める必要がある。
【0104】
図11〜図27は、測定ID1〜17それぞれについて、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。各図において、(A)には、時間軸に沿って、測定された複数拍分の脈波波形が示され、(B)には、(A)に示された各拍分の脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた様子が示されている。図11〜図27(A)の縦軸の値は、圧力をデジタル変換した出力値を表わしており、図11〜図27(B)の縦軸の値は、振幅を表わしている。また、図11〜図27(B)の横軸の区切りは、サンプリングのポイントを表わしている。
【0105】
図28は、図11〜図27の脈波波形を対象とした場合における、装置が算出する近似度の順位と、判読者による近似の程度の順位との関係を示す図である。
【0106】
図28における「指数」は、測定IDごとに、上記計算式(1)によって算出された各拍ごとの(図示しない集積形状との)近似度の平均値を、所定の換算式によって100分率で示したものである。「装置の順位」は、100分率で示された指数の昇順での順位を示している。「判読者順位」は、医療従事者や脈波解析装置100の開発者など、脈波に関して十分に知識を有する者により、測定IDごとにマニュアルで判断された、各拍ごとの(図示しない集積形状との)平均的な近似度の順位を示す。
【0107】
図29は、図28に示された、装置による近似の順位と判読者による近似の順位との相関関係を示す図である。図29に示されるように、2次元の座標平面においてY軸に「人の判定順位(判読者順位)」、X軸に「装置の判定順位」をとった場合の両者の相関の決定係数R2は、0.6844で表わされる。
【0108】
このように、上記式(1)により近似度を算出する場合、判読者順位と近い結果を得ることができているが、近似度の計算式は、判読者順位と装置の判定順位とが一致するような式、つまり、決定係数R2が1.0に近づくような式が、実験により定められることが望ましい。従来、医療従者など人間による目視によって波形の乱れ(不整脈や体動)が判定されていたからである。
【0109】
<変形例1>
上記実施の形態では、baPWVを算出する場合、上腕の測定部位はデフォルトとして定められた方の腕(たとえば右)を測定部位とした。または、右上腕と左上腕との血圧差によってbaPWVの算出に用いる上腕を右とするか左とするかを判定したりした。
【0110】
しかし、解析処理部104が算出する近似度に基づいて、baPWVの算出に用いる上腕の測定部位を決定してもよい。
【0111】
具体的には、図6のステップS110(脈波伝播速度の算出)において、次のような処理が行なわれてもよい。以下の説明においても、右上腕の脈波を用いてbaPWVを算出することがデフォルトとして定められていると仮定する。
【0112】
解析処理部104は、直前のステップS108(除外処理)において、右上腕の脈波のうち算出対象から除外されなかった拍“BTr”についての近似度の平均値“AVr”が、予め定められた閾値以上か否かを判断する。平均値AVrが閾値未満と判断された場合、左上腕の脈波をbaPWVの算出に用いる。または、左上腕の脈波のうち算出対象から除外されなかった拍“BTl”についての近似度の平均値“AVl”も、予め定められた閾値未満であれば、測定をやり直すようユーザに報知することとしてもよい。
【0113】
または、平均値AVrと、平均値AVlとを比較し、その値が高い方の部位の脈波をbaPWVの算出に用いてもよい。
【0114】
図7を例にした場合、上記の拍BTrは、右上腕の集積脈波との近似度が低かった3拍目以外の拍を表わす。または、拍BTrは、足首脈波での除外結果も考慮して、3、5および6拍目以外の拍を表わしてもよい。同様に、上記の拍BTlは、左上腕の集積脈波との近似度が低かった4拍目以外の拍を表わす。または、拍BTlは、足首脈波での除外結果も考慮して、4〜6拍目以外の拍を表わしてもよい。
【0115】
足首脈波についても上腕脈波と同様に、左右いずれかの脈波のみをbaPWVの算出に用いるようにし、脈波の安定している上腕脈波および足首脈波によってただ1つのbaPWVを算出することとしてもよい。
【0116】
<変形例2>
上記実施の形態では、baPWV_RLおよびbaPWV_RRを測定することとしたが、1つの測定部位における脈波より算出可能なPWVであってもよい。
【0117】
1つの測定部位における脈波よりPWVを算出する場合、PWVは、脈波の伝播距離(Lpt)を脈波伝播時間(PTT)で除算することで求められる。伝播距離は、いわゆる体幹長と言われる、心臓と反射部位である腸骨動脈の分岐部との間の距離を2倍したものである。体幹長は身長に比例する長さである。脈波伝播距離は直接測定ができないが、所定の換算式を用いて求めることができる。PTTは、図30に示されるTppとTRとを所定の換算式に当てはめることで算出される。Tppは、進行波である駆出波のピーク(最大点)の出現時間と反射波のピーク(最大点)の出現時間との時間間隔を表わす。TRは、駆出波の出現時間と進行波が腸骨動脈の分岐部から反射して戻ってくる反射波の出現時間との間の時間間隔を表わす。これらもまた、動脈硬化度の判定を行なうための指標とすることができる。図30においてTppは、駆出波ピーク点であるA点と反射波ピーク点であるB点との間の時間間隔で表わされる。図30においてTRは、駆出波の立ち上がり点から反射波の立上り点までの時間間隔で表わされる。
【0118】
または、解析指標としてAIを算出してもよい。その場合、図30を参照して、解析処理部(104)は、A点での振幅P1に対するB点での振幅P2を抽出し、振幅P1を振幅P2で除算することにAI値が得られる。
【0119】
このようなPWVやAIを解析指標として算出する場合には、指標算出に影響する範囲として、脈の立ち上がり点から反射波ピークまでを含む範囲に限定して、近似度を算出してもよい。
【0120】
<変形例3>
上記実施の形態における脈波解析装置100は、検出ユニット20、カフ24および情報処理ユニット1を含むものとして説明したが、脈波解析装置は、検出ユニット20およびカフ24を含まない汎用のコンピュータにおいて実現されてもよい。つまり、本実施の形態において、脈波解析装置は、代表的にCPU10によって実現される解析処理部104の機能が含まれていれば、図6に示したような脈波解析処理を実現することができる。汎用のコンピュータは、情報処理ユニット1と同様のハードウェアを有していればよい。
【0121】
本実施の形態および各変形例の脈波解析装置が行なう脈波解析方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、当該プログラムをコンピュータが読取可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体に記録される。このような「コンピュータ読取可能な記録媒体」は、たとえば、CD−ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどの磁気記録媒体などを含む。また、このようなプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録させて、プログラム製品として提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0122】
なお、本実施の形態に係るプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本実施の形態に係るプログラムに含まれ得る。
【0123】
また、本実施の形態に係るプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本実施の形態に係るプログラムに含まれ得る。
【0124】
提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記憶された記憶媒体とを含む。
【0125】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0126】
1 情報処理ユニット、2 制御部、4 出力部、6 操作部、8 記憶装置、20ar,20al,20br,20bl 検出ユニット、22al,22ar,22bl,22br 配管、24ar,24al,24br,24bl カフ、25al,25ar,25bl,25br 圧力ポンプ、26al,26ar,26bl,26br 調圧弁、27al,27ar,27bl,27br 配管、28al,28ar,28bl,28br 圧力センサ、29al,29ar,29bl,29br A/D変換部、30 調整部、100 脈波解析装置、102 脈波測定部、104 解析処理部、106 血圧測定部、108 血圧指標算出部、200 被測定者。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波解析装置および脈波解析プログラムに関し、特に、複数拍分の脈波波形を解析することにより所定の脈波解析指標を算出することのできる脈波解析装置および脈波解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
脈波解析は、脈波伝播速度などの脈波解析指標の計測に用いられている。脈波伝播速度は、動脈の硬さを非侵襲的に評価する指標として、診療現場で活用されている。
【0003】
脈波解析指標を精度良く計測するための技術として次のようなものがある。
特開2006−247221号公報(特許文献1)には、脈波にノイズが含まれている脈波であるかどうかを自己相関関数波形により判断することが記載されている。
【0004】
特開2001−128946号公報(特許文献2)には、正確な脈波伝播速度情報を測定するために、ノッチを検出してその時間差から脈波伝播速度を算出することが記載されている。
【0005】
特開平10−328150号公報(特許文献3)には、脈波伝播速度を高い精度で測定するために、心拍同期波の最大傾斜線と基線とを用いて脈波伝播速度を算出することが記載されている。
【0006】
特開2008−168073号公報(特許文献4)には、動脈硬化検査の信頼性や効率性を向上するために、取得する脈波の特徴点を検出し、その特徴点を明示しつつ脈波波形をリアルタイムで画面に表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−247221号公報
【特許文献2】特開2001−128946号公報
【特許文献3】特開平10−328150号公報
【特許文献4】特開2008−168073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
脈波解析指標の一種である脈波伝播速度はたとえば次のような方法で求められる。脈波伝播速度の一形態である上腕−足首脈波伝播速度(baPWV:brachial-ankle Pulse Wave Velocity)の場合、上腕と足首とに巻いたカフを一定圧に保持して採取するPVR(Pulse Volume Recording)波形を数拍から十数拍分記録する。そして、上腕および足首それぞれのPVR波形について、1拍毎の脈波の立ち上がり位置を検出することにより、脈波伝播速度が算出される。
【0009】
このような方法では、全拍分の脈波が脈波解析指標の算出に用いられるため、PVR波形採取中に不整脈や体動などが起こると、脈波が乱れて指標の計測精度が悪くなってしまう。また、その結果、誤った測定値(精度の悪い脈波解析指標)を診断に用いてしまうという恐れもある。
【0010】
また、上記各特許文献における提案は、高精度に脈波解析指標を算出するためには十分とはいえない。
【0011】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、高精度に脈波解析指標を算出することのできる脈波解析装置および脈波解析プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明のある局面に従う脈波解析装置は、複数拍分の脈波波形を記憶するための記憶手段と、複数拍分の脈波波形を解析することで脈波解析指標を算出するための処理を行なう解析処理手段と、算出された脈波解析指標を、解析結果として出力するための出力手段とを備える。解析処理手段は、複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積し、集積された脈波形状と1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標を算出する。
【0013】
好ましくは、解析処理手段は、さらに、脈波解析指標の算出に用いられた脈波形状についての近似度を集積することで、拍動の安定度を算出し、出力手段は、安定度を脈波解析指標の信憑性を示す指標としてさらに出力する。
【0014】
好ましくは、記憶手段は、左右の肢部について、複数拍分の脈波波形を記憶し、解析処理手段は、肢部毎に近似度を算出し、かつ、近似度が高い方の肢部の脈波形状を用いて、脈波解析指標を算出する。
【0015】
好ましくは、記憶手段は、複数拍分の脈波波形を肢部毎に記憶し、解析処理手段は、肢部毎に、1拍毎の脈波形状を集積し、かつ、近似度、脈波解析指標および安定度を算出し、出力手段は、安定度が高い方の脈波解析指標を、解析結果として出力する。
【0016】
好ましくは、解析処理手段は、1拍毎の脈波形状のうち、脈波解析指標の算出に影響する範囲に限定して、近似度を算出する。
【0017】
好ましくは、脈波解析指標は、動脈硬化の度合い、および/または、血管の狭窄の程度を示す。
【0018】
さらに好ましくは、脈波解析指標は、動脈硬化の度合いを示す指標としての脈波伝播速度を含む。
【0019】
好ましくは、肢部の脈波を検出するための脈波検出手段と、脈波検出手段からの検出信号に基づいて、複数拍分の脈波波形を測定するための測定処理手段とをさらに備える。
【0020】
この発明の他の局面に従う脈波解析プログラムは、記憶部に記憶された複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積するステップと、集積された脈波形状と1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標を算出するステップと、算出された脈波解析指標を、解析結果として出力するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、体動などの影響の少ない安定した拍のみを用いて脈波解析指標を算出することができる。その結果、精度の高い脈波解析指標を解析結果として出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に従う脈波解析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う脈波解析装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【図3】肢部ごとの脈波測定結果の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態において、集積された脈波形状と各拍との近似度の算出方法を説明するための図である。
【図5】脈波伝播距離の算出方法を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態における脈波解析処理を示すフローチャートである。
【図7】図6のステップS108における除外処理結果の一例を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における解析結果情報の出力例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における解析結果情報の他の出力例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における解析結果情報のさらに他の出力例を示す図である。
【図11】測定ID1の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図12】測定ID2の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図13】測定ID3の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図14】測定ID4の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図15】測定ID5の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図16】測定ID6の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図17】測定ID7の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図18】測定ID8の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図19】測定ID9の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図20】測定ID10の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図21】測定ID11の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図22】測定ID12の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図23】測定ID13の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図24】測定ID14の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図25】測定ID15の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図26】測定ID16の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図27】測定ID17の脈波について、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。
【図28】図11〜図27の脈波波形を対象とした場合における、装置が算出する近似度の順位と、判読者による近似の程度の順位との関係を示す図である。
【図29】図28に示された、装置による近似の順位と判読者による近似の順位との相関関係を示す図である。
【図30】本発明の実施の形態の変形例2における脈波解析指標の算出方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0024】
<概略構成について>
図1は、本発明の実施の形態に従う脈波解析装置100の概略構成図である。
【0025】
図1を参照して、脈波解析装置100は、情報処理ユニット1と、4つの検出ユニット20ar,20al,20br,20blと、4つのカフ24ar,24al,24br,24blとを含む。
【0026】
カフ24ar,24al,24br,24blは、それぞれ被測定者200の肢部に装着される。具体的には、それぞれ、右上腕(右上肢)、左上腕(左上肢)、右足首(右下肢)および左足首(左上肢)に装着される。なお、「肢部」とは、四肢に含まれる部位を表わし、手首や指尖部などであってもよい。カフ24ar,24al,24br,24blは、特に区別する必要がない限り、これらを総称して、「カフ24」と呼ぶ。
【0027】
検出ユニット20ar,20al,20br,20blは、それぞれ、被測定者200の肢部の脈波を検出するために必要なハードウェアを含む。検出ユニット20ar,20al,20br,20blの構成は全て同様であってよいので、特に区別する必要がない限り、これらを総称して、「検出ユニット20」と呼ぶ。
【0028】
情報処理ユニット1は、制御部2と、出力部4と、操作部6と、記憶装置8とを含む。
制御部2は、脈波解析装置100全体の制御を行なう装置であり、代表的に、CPU(Central Processing Unit)10と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)14とを含むコンピュータで構成される。
【0029】
CPU10は、演算処理部に相当し、ROM12に予め格納されているプログラムを読出して、RAM14をワークメモリとして使用しながら、当該プログラムを実行する。
【0030】
また、制御部2には、出力部4、操作部6および記憶装置8が接続されている。出力部4は、測定された脈波や脈波解析結果などを出力する。出力部4は、LED(Light Emitting Diode)またはLCD(Liquid Crystal Display)などで構成される表示デバイスであってもよいし、プリンタ(ドライバ)であってもよい。
【0031】
操作部6は、ユーザからの指示を受付ける。記憶装置8は、各種データやプログラムを保持する。制御部2のCPU10は、記憶装置8に記録されたデータやプログラムの読み出しや書き込みを行なう。記憶装置8は、たとえば、ハードディスク、不揮発性メモリ(たとえば、フラッシュメモリ)、あるいは、着脱可能な外部記録媒体などにより構成されてよい。
【0032】
ここで、各検出ユニット20の構成について具体的に説明する。
検出ユニット20brは、被測定者200の右上腕に装着されたカフ24brの内圧(以下、「カフ圧」という)の調整および検出を行なうことで、右上腕における脈波を検出する。カフ24brは、図示のない流体袋(たとえば空気袋)を内包している。
【0033】
検出ユニット20brは、圧力センサ28brと、調圧弁26brと、圧力ポンプ25brと、A/D(analog to digital)変換部29brと、配管27brとを含む。カフ24brと、圧力センサ28br,調圧弁26brとは、配管22brによって接続されている。
【0034】
圧力センサ28brは、配管22brを介して伝達される圧力変動を検出するための検出部位であり、一例として、単結晶シリコンなどからなる半導体チップに所定間隔に配列された複数のセンサエレメントを含む。圧力センサ28brによって検出された圧力変動信号は、A/D変換部29brによってデジタル信号に変換されて、脈波信号pbr(t)として制御部2に入力される。
【0035】
調圧弁26brは、圧力ポンプ25brとカフ24brとの間に介挿され、測定時にカフ24brの加圧に用いられる圧力を所定の範囲に維持する。圧力ポンプ25brは、制御部2からの検出指令に応じて作動し、カフ24brを加圧するためにカフ24br内の流体袋(図示せず)に空気を供給する。
【0036】
この加圧によって、カフ24brは測定部位に押圧され、右上腕の脈波に応じた圧力変化がそれぞれ配管22brを介して検出ユニット20brへ伝達される。検出ユニット20brは、この伝達される圧力変化を検出することで、右上腕の脈波を検出する。
【0037】
検出ユニット20blも同様に、圧力センサ28blと、調圧弁26blと、圧力ポンプ25blと、A/D変換部29blと、配管27blとを含む。カフ24blと、圧力センサ28bl,調圧弁26blとは、配管22blによって接続されている。
【0038】
また、検出ユニット20arは、圧力センサ28arと、調圧弁26arと、圧力ポンプ25arと、A/D変換部29arと、配管27arとを含む。カフ24arと、圧力センサ28ar,調圧弁26arとは、配管22arによって接続されている。
【0039】
検出ユニット20alも同様に、圧力センサ28alと、調圧弁26alと、圧力ポンプ25alと、A/D変換部29alと、配管27alとを含む。カフ24alと、圧力センサ28al,調圧弁26alとは、配管22alによって接続されている。
【0040】
検出ユニット20bl,20ar,20al内の各部の機能は、検出ユニット20brと同様であるので、詳細な説明は繰返さない。また、検出ユニット20内の各部についても、特に区別する必要がない限り、“ar”,“br”などの記号は省略して説明する。
【0041】
なお、本実施の形態では、圧力センサ28を用いて脈波を検出する構成について説明するが、動脈容積センサ(図示せず)を用いて脈波を検出する構成であってもよい。この場合、動脈容積センサは、たとえば、動脈に対して光を照射する発光素子と、発光素子によって照射された光の動脈の透過光または反射光を受光する受光素子とを含んでよい。あるいは、複数の電極を含み、被測定者200の測定部位に微少の一定電流を流すとともに、脈波の伝播に応じて生じるインピーダンス(生体インピーダンス)の変化によって生じる電圧変化を検出するようにしてもよい。
【0042】
<機能構成について>
図2は、本発明の実施の形態に従う脈波解析装置100の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0043】
図2を参照して、本実施の形態の脈波解析装置100は、その機能として、調整部30、脈波測定部102、解析処理部104、血圧測定部106、血圧指標算出部108および出力部4を含む。なお、血圧測定部106および血圧指標算出部108は、脈波解析装置100の機能構成に含まれなくてもよい。
【0044】
調整部30は、カフ24内の圧力を調整する機能部である。調整部30の機能は、たとえば、図1に示した圧力ポンプ25および調圧弁26により達成される。
【0045】
脈波測定部102は、調整部30およびA/D変換部29と接続され、各肢部における脈波(PVR)を測定するための処理を行なう。脈波測定部102は、調整部30に指令信号を与えることでカフ24の内圧を調整するとともに、当該指令信号に応答して検出されたカフ圧信号Par(t),Pal(t),Pbr(t),Pbl(t)を受信する。そして、受信したカフ圧信号Par(t),Pal(t),Pbr(t),Pbl(t)を時系列に記録することで、肢部ごとに、複数拍分の脈波波形を取得する。脈波の測定は、たとえば所定時間(たとえば10秒程度)行なわれる。
【0046】
脈波測定部102による脈波測定結果は、出力部4に出力されてよい。
図3は、肢部ごとの脈波測定結果の一例を示す図である。図3には、各肢部の脈波波形が同一の時間軸に沿って示されている。図3に示されるように、1拍ごとの脈波の立ち上がり位置が、破線などで示されてもよい。
【0047】
解析処理部104は、脈波測定部102によって測定された肢部ごとの脈波を解析することで、被測定者200(図1)の脈波の特徴量として、所定の脈波解析指標(以下「解析指標」と略す)を算出する。本実施の形態において「解析指標」とは、動脈硬化、および/または、血管の狭窄と相関を持つ指標を表わす。つまり、「解析指標」は、動脈硬化の度合い、および/または、血管の狭窄の度合いを示すものである。
【0048】
動脈硬化の度合いを示す解析指標としては、たとえば、脈波伝播速度、脈波伝播時間(PTT:Pulse Transit Time)、AI(Augmentation Index)、および、TR(Traveling time to Reflected wave)などが挙げられる。なお、脈波伝播速度は、上腕脈波および足首脈波によって算出されるもの(baPWV)に限定されず、他の2つの測定部位の脈波によって算出されるもの、あるいは、1つの測定部位(肢部)での脈波のみによって算出されるものであってもよい。
【0049】
血管の狭窄の程度を示す解析指標としては、たとえば、足首脈波の上昇特徴値、および、脈波の先鋭度などが挙げられる。足首脈波の上昇特徴値は、たとえば、UT(UT:upstroke Time)として算出される。UTは、立ち上がり点からピークまでの足首脈波が上昇する期間として算出される。脈波の先鋭度は、%MAP(正規化脈波面積)として算出される。%MAPは、たとえば、脈波のピーク高さHすなわち脈圧に対する、脈波面積を均等にならしたときの最低血圧からの高さMの割合(=M/H×100)として算出される。
【0050】
本実施の形態においては、解析指標として、baPWVを算出することとして説明するが、上記したような他の特徴量を算出してもよい。
【0051】
解析処理部104は、複数拍分の脈波波形から1拍毎の脈波形状(脈波波形の形状)を認識する処理を行なう。具体的には、脈波の区切り処理が行なわれ、脈波波形が1拍毎に切り出される。これにより、1拍毎の脈波形状が認識される。脈波の区切り処理は、特定周波数によるフィルター処理または微分処理などの公知の手法で実現可能である。
【0052】
解析処理部104は、認識された1拍毎の脈波形状を集積し、拍ごとに、集積された脈波形状(以下「集積形状」ともいう)との近似度を算出する。本実施の形態において「1拍毎の脈波形状を集積する」とは、1拍毎の脈波形状を平均化することを表わすこととするが、平均化と同等の処理を行なってもよい。
【0053】
本実施の形態において、「近似度」とは、2つの波形の近似の度合いを示す値であり、より特定的には、2つの波形がどの程度一致しているかを数値として表わしたものである。近似度は、たとえば、次式(1)により求められる。
【0054】
【数1】
【0055】
図4は、本発明の実施の形態において、集積形状と各拍との近似度の算出方法を説明するための図である。
【0056】
図4を参照して、近似度は、集積形状Waと実測のi拍目の脈波形状Wiとのずれにより生じる面積の逆数として算出される。つまり、近似度は、脈の立ち上がりを起点とした場合の、サンプリング時間ごとの振幅値Pa,Piの差の加算値の逆数として求めることができる。
【0057】
または、近似度は、サンプリング時間ごとの振幅値Pa,Piの差の積分値の逆数として求めてもよい。
【0058】
または、振幅値Pa,Piの差に重みを加え、たとえば、次式(2)のように、振幅値Pa,Piの差の2乗和の逆数により近似度が求められてもよい。
【0059】
【数2】
【0060】
近似度の計算式は、予め行なわれた実験の結果に基づき定められる。近似度の計算式の設定方法(原理)については後述する。
【0061】
なお、本実施の形態では、脈の立ち上がりを起点として集積脈波と1拍分の脈波全体との近似度を求めることとしたが、近似度の算出に用いられる区間を解析指標に強く影響する範囲に限定してもよい。たとえば、脈波波形の立ち上がり点からピークまでの範囲に限定してもよいし、脈波波形の前方1/2部分に限定してもよい。つまり、1拍分の脈波形状のうち、解析指標の算出に影響しない後方部分を、近似度の算出に用いないようにしてもよい。
【0062】
また、近似度の算出には、脈の立ち上がりを起点とした振幅値の差を用いることとしたが、起点の位置(2つの波形を一致させる位置)は、脈の立ち上がりに限定されない。たとえば、脈波波形のピークを起点とするなど、一定の基準位置を起点と定めてもよい。あるいは、一定の基準位置ではなく、拍ごとに、たとえば集積波形との近似度が最大となるような位置を起点として決定してもよい。
【0063】
また、本実施の形態では、近似度を算出することとしたが、集積形状との「ズレ度」を算出してもよい。ズレ度は、式(1),(2)の近似度の逆数として算出可能である。
【0064】
解析処理部104は、集積形状との近似度が低い(=ズレ度が高い)と判定された脈波形状の拍を特定し、特定された拍を解析指標の算出対象から除外する。このように、集積形状との近似度が低い脈波形状が除外されることで、不整脈や体動によって突発的に乱れた可能性が高い、安定していない脈波が適切に除外される。
【0065】
従来は、図3のような複数拍分の脈波波形が測定されると、医師が目視により波形が乱れているかを判断していたが、本実施の形態によると、集積形状との近似度を算出することで、演算によって波形の乱れを判別することができる。
【0066】
解析処理部104は、除外されていない拍の脈波波形つまり、安定した脈波波形のみを解析することで、baPWVを算出する。本実施の形態では、左右両方の足首を測定部位として2種のbaPWV、たとえば、右上腕−左足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_RL」ともいう)および右上腕−右足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_RR」ともいう)が算出する。このように、2種のbaPWVを算出するのは、これらの差も、左下腿部および右下腿部における動脈狭窄の診断にも用いられ得るからである。
【0067】
なお、本実施の形態において上腕の測定部位を右としているのは、それがデフォルトとして定められているからであって、左を基準としてもよい。また、たとえば、右上腕の血圧が左上腕の血圧よりも所定値(たとえば16〜20mmHg)以上下がっている場合には、右上腕に代えて左上腕を測定部位としてもよい。または、操作部6を介して測定部位を左とする旨の指示が入力された場合にも、右上腕に代えて左上腕を測定部位としてもよい。
【0068】
baPWV_RLおよびbaPWV_RRの算出に際しては、除外されていない拍の脈波波形のみが解析に用いられる。解析処理部104は、対象とされた各拍について、上腕脈波および足首脈波の立ち上がり位置の時間差(図5の時間Tr,Tl)を算出し、算出した時間の平均値を、血管の長さ(=脈波伝播距離)で除算することにより各baPWVを算出する。
【0069】
図5において、時間Tr,Tlは、右上腕の脈波の立ち上がり点P0rとの時間差を示しているものとする。左上腕を測定部位とする場合には、左上腕の脈波の立ち上がり点P0lとの時間差を用いて左上腕−左足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_LL」ともいう)、および、左上腕−右足首の脈波伝播速度(以下「baPWV_LR」ともいう)が算出される。図5における時間Tr,Tlは、脈波伝播時間(PTT)を表わしている。
【0070】
なお、各baPWVの算出に必要な、血管の長さは、被測定者の身長を所定の換算式に当てはめることで算出される。被測定者の身長は、たとえば操作部6によって入力される。
【0071】
解析処理部104は、さらに、解析指標の算出に用いられた脈波形状についての近似度を集積することで、解析指標の算出に用いられた脈波全体の拍動の安定度を算出してもよい。本実施の形態では、baPWV_RLおよびbaPWV_RRの各々について、算出対象となった脈波全体の拍動の安定度を算出する。拍動の安定度は、測定された全拍分の脈波波形ではなく、baPWVの算出に用いられた脈波波形そのものから導出されるため、baPWVの信憑性と直接的な関連がある。したがって、解析処理部104により算出される各拍動の安定度は、対応のbaPWVの信憑性(信頼できる度合)を示しているといえる。
【0072】
なお、近似度ではなくズレ度が算出される場合、解析指標の算出に用いられた脈波形状についてのズレ度を集積した値は、解析指標の算出に用いられた脈波全体の拍動の乱れ度として算出される。
【0073】
解析処理部104によって算出された各baPWVおよび各安定度は、出力部4に出力される。出力部4は、baPWV_RLおよびbaPWV_RRを出力するとともに、各baPWVと関連付けて、その値の信憑性を示す指標を出力(表示または印刷)する。各baPWVの信憑性を示す指標としては、拍動の安定度として算出された値そのものを出力してもよいし、算出された値を、レベル値、マーク、または記号等に置き換えて出力してもよい。
【0074】
血圧測定部106は、脈波測定部102と同様に、調整部30およびA/D変換部29と接続され、各肢部における血圧を測定するための処理を行なう。血圧測定部106は、調整部30に指令信号を与えることでカフ24の内圧を調整するとともに、当該指令信号に応答して検出されたカフ圧信号Par(t),Pal(t),Pbr(t),Pbl(t)を受信する。血圧測定部106は、たとえば、公知のオシロメトリック法に従って、被測定者200の肢部ごとの最高血圧および最低血圧を測定する。より具体的には、肢部ごとに、カフ圧を所定の圧力値まで高速で加圧し、徐速での減圧時に検出される時系列のカフ圧信号に所定のアルゴリズムを適用することで、最高血圧および最低血圧が算出される。血圧測定部106は、脈拍数、平均血圧および脈圧をさらに測定してもよい。
【0075】
血圧指標算出部108は、血圧測定部106によって測定された血圧値に基づいて、所定の血圧指標を算出する。本実施の形態における「血圧指標」は、血管の詰まり具合(動脈狭窄の度合い)と相関を持つ指標を表わし、具体的にはたとえば、ABI(Ankle Brachial Index)が挙げられる。本実施の形態では、左右両方の足首と一方の上腕とを測定部位としてABIを算出する。たとえば、右上腕の最高血圧と右足首の最高血圧との比、および、右上腕の最高血圧と左足首の最高血圧との比を、それぞれ「ABI_RR」および「ABI_RL」として算出する。なお、各ABIの算出においても上腕の測定部位を右としているのは、右上腕の最高血圧が左上腕に比して高い場合であり、左上腕の最高血圧が右上腕に比して高い場合には、左上腕を測定部位として用いてもよい。また、右上腕と左上腕の最高血圧の平均を、ABI算出時の上腕血圧としてもよい。また、本実施の形態ではABIを血圧指標として算出することとするが、他の血圧特徴量が用いられてもよい。
【0076】
血圧測定部106での測定結果、および、血圧指標算出部108により算出されたABI_RRおよびABI_RLは、出力部4に出力される。出力部4は、baPWV_RL、baPWV_RRおよびこれらの信憑性を示す指標とともに、肢部ごとの血圧値、ABI_RRおよびABI_RLも出力する。これにより、医師などの医療従事者は、より正確に、動脈硬化の疑いがあるかどうかの診断が可能となる。
【0077】
以上説明した脈波測定部102、解析処理部104、血圧測定部106および血圧指標算出部108の動作は、ROM12中に格納されたソフトウェアを実行することで実現されてもよいし、これらのうち少なくとも1つについては、ハードウェアで実現されてもよい。また、解析処理部104が実行する処理のうちの一部は、ハードウェアで実現されてもよい。
【0078】
<動作について>
次に、本実施の形態における脈波解析装置100の動作について説明する。動作の説明にあたっては、本実施の形態において最も特徴的な部分である解析処理部104が実行する処理について説明する。
【0079】
図6は、本発明の実施の形態における脈波解析処理を示すフローチャートである。図6のフローチャートに示す処理は、予めプログラムとしてROM12に格納されており、CPU10がこのプログラムを読み出して実行することにより、脈波解析処理の機能が実現される。
【0080】
なお、脈波解析処理が開始される時点において、脈波測定部102により測定された肢部ごとの脈波波形が、RAM14または記憶装置8に記憶されているものとする。つまり、本実施の形態における脈波解析処理は、脈波測定の直後に行なわれるものに限定されず、記憶装置8に記憶された、過去に測定された脈波波形に対して行なわれてもよい。
【0081】
図6を参照して、解析処理部104は、測定部位である肢部ごとに、記憶された複数拍分の脈波波形の区切り処理を行なう(ステップS102)。これにより、複数拍分の脈波波形が1拍単位で切り出され、1拍毎の脈波形状が認識される。
【0082】
続いて、解析処理部104は、肢部ごとに、認識された全拍の脈波形状を平均化し(ステップS104)、平均化された脈波形状(集積形状)と各脈波形状との近似度を算出する(ステップS106)。近似度の算出には、たとえば上記(1)式が用いられる。肢部ごとに算出された各脈波の近似度は、RAM14に一時記録される。
【0083】
解析処理部104は、近似度が低い拍の除外処理を行なう(ステップS108)。具体的には、まず、肢部ごとに、近似度が一定基準を満たさない(つまり、近似度が予め定められた閾値以下の)脈波形状を特定し、特定された脈波形状をbaPWVの算出対象から除外する。なお、脈波波形の特定に用いる閾値は、予め定められた値に限定されない。たとえば、全拍の平均の近似度から閾値を決定して、その基準(決定した閾値)を満たさない脈波形状を除外対象として特定してもよい。除外処理の結果、baPWVの算出に用いられるか否かの情報がRAM14に一時記録される。
【0084】
図7は、図6のステップS108における除外処理結果の一例を示す図である。
図7を参照して、各拍i(i=1,2,3,…,n)に対応付けて、右上腕、左上腕、右足首および左足首それぞれの脈波形状が算出対象から除外されたか否かの情報が記録される。本実施の形態では、たとえば、除外すべき脈波波形と判定された拍No.に対応する欄に、“1”を記録し、それ以外を“0”とする。なお、各肢部における除外処理結果の保持方法は図7のような例に限定されない。
【0085】
除外処理が終わると、その処理結果を反映してbaPWV(脈波伝播速度)が算出される(ステップS110)。本実施の形態では、ステップS108の除外処理の結果、近似度が低いと判定された拍を除外して、baPWV_RL、および、baPWV_RRの両方を算出する。
【0086】
ここで、図7のような結果が記録されていると仮定して、各baPWVの算出方法を説明する。baPWV_RLを算出する場合、右上腕の脈波と左足首の脈波とが用いられる。図7を参照すると、右上腕の3拍目の脈波と、左足首の6拍目の脈波とが除外対象として記録されている。したがって、3拍目および6拍目の脈波を除外することでbaPWV_RLが算出される。より具体的には、3拍目および6拍目以外の各拍について、右上腕および左足首の脈波の脈波伝播時間を算出し、算出された脈波伝播時間の平均値と血管の長さの推定値とにより、baPWV_RLを算出する。
【0087】
baPWV_RRを算出する場合、右上腕の脈波と右足首の脈波とが用いられる。図7を参照すると、右上腕の3拍目の脈波と、右足首の5,6拍目の脈波とが除外対象として記録されている。したがって、3拍目、5拍目および6拍目の脈波を除外することでbaPWV_RRが算出される。より具体的には、3拍目、5拍目および6拍目以外の各拍について、右上腕および右足首の脈波の脈波伝播時間を算出し、算出された脈波伝播時間の平均値と血管の長さの推定値とにより、baPWV_RRを算出する。
【0088】
このように、本実施の形態によると、大きく乱れた脈波波形は各baPWVの算出に用いられないので、精度良く解析指標を算出することができる。また、実測の波形を集積することで、近似度算出の基準となる脈波形状が求められる。したがって、測定時の被測定者の病態や病状、あるいは測定条件(投薬直後など)に応じて適切に除外すべき脈波形状を特定することができる。
【0089】
解析処理部104は、次に、baPWVの信憑性を算出する(ステップS112)。本実施の形態では、baPWV_RLおよびbaPWV_RRの算出に用いられた脈波全体の拍動の安定度をそれぞれ算出する。具体的には、baPWV_RLの算出に用いられた脈波全体の拍動の安定度すなわち、baPWV_RLの信憑性は、baPWV_RLの算出に用いられた拍の近似度を集積(たとえば平均)することで算出される。baPWV_RLの算出においては、図7を例に3拍目および6拍目の脈波が除外されたため、baPWV_RLの信憑性は、3拍目および6拍目以外の、右上腕および左足首の拍についての近似度を平均化した値として表わされる。
【0090】
より具体的には、右上腕の脈波形状のうち、3拍目および6拍目以外の拍の近似度の平均値と、左足首の脈波形状のうち、3拍目および6拍目以外の拍の近似度の平均値とを求める。これらの平均値をさらに平均化した値が、算出に用いられた脈波全体の安定度として算出される。
【0091】
あるいは、右上腕の脈波形状のうちの3拍目および6拍目以外の拍、および、左足首の脈波形状のうちの3拍目および6拍目以外の拍全ての近似度を平均化した値を、算出に用いられた脈波全体の安定度として算出してもよい。
【0092】
baPWV_RRの信憑性も同様の方法で算出される。baPWV_RRの算出においては、図7を例に3拍目、5拍目および6拍目の脈波が除外されたため、baPWV_RRの信憑性は、3拍目、5拍目および6拍目以外の各拍の、集積形状との近似度を集積(たとえば平均)することで算出される。
【0093】
このように、各baPWVの信憑性は、集積形状との近似度を個別に評価した後で、指標算出に用いられた全拍分の近似度を集積して求められる。したがって、全体に対する1拍分の影響度を、従来より行なわれていたbaPWVの算出方法(1拍ごとに脈波伝播時間を算出し、血管長の推定値をそれらの平均で除算する)と同等にすることができる。
【0094】
以上のような解析処理が終わると、出力部4には、各解析結果が出力される(ステップS114)。本実施の形態では、プリンタ(ドライバ)として機能する出力部4が、得られた解析結果を紙媒体に印刷する。紙媒体には、たとえば図8のような解析結果情報が印刷される。
【0095】
図8は、本発明の実施の形態における解析結果情報の出力例を示す図である。
図8を参照して、紙媒体には、脈波解析の結果として、baPWV_RR値91、baPWV_RRの信憑性を示す指標92、baPWV_RL値93、および、baPWV_RLの信憑性を示す指標94が印刷されている。信憑性を示す指標は、たとえば、信憑性が高い(安定度が高い)順に、「+++」、「++」、「+」、「±」、「−」の5段階の記号で示される。ROM12には、安定度の数値範囲と対応付けて、表示されるべきこれらの記号が予め記憶されているものとする。
【0096】
このように、各baPWV値91,93のすぐ下に、それらの値の信憑性を示す指標92,94を配置することで、これらの指標が関連付けられて印刷される。その結果、医師などの医療従事者は、解析指標として出力されたbaPWVの値だけでなくその指標の信憑性の高さを考慮することで、より正しい診断を行なうことが可能となる。
【0097】
本実施の形態の脈波解析装置100は、上述のように、各肢部の血圧測定、および、ABI_RR,ABI_RLの算出も行なう。したがって、図8には、右上腕の血圧81、右足首の血圧82、左上腕の血圧83、左足首の血圧84、ABI_RR値85、および、ABI_RL値86がさらに出力される。
【0098】
図8に示されたbaPWVおよび血圧値の単位は、それぞれ、“cm/s”および“mmHg”である。
【0099】
解析結果情報として、さらに、上述のUTや%MAPも出力されてもよい。また、図9に示すようなグラフが出力されてもよい。
【0100】
図9は、本発明の実施の形態における解析結果情報の他の出力例を示す図である。
図9には、baPWVを縦軸、ABIを横軸にとったグラフである。このグラフでは、予め、baPWVとABIとにより定まる動脈硬化度のレベルが識別可能に(たとえば色分けされて)示されている。このグラフにおいて、右下腿部および左下腿部それぞれの動脈硬化レベルが予め定められたマーク,文字,記号などによって示される。
【0101】
図9において、右下腿部の動脈硬化度のレベルは、解析処理部104にて算出されたbaPWV_RRと、血圧指標算出部108にて算出されたABI_RRとの交点にプロットされた黒塗りの三角マークの位置によって示されている。左下腿部の動脈硬化レベルは、解析処理部104にて算出されたbaPWV_RLと、血圧指標算出部108にて算出されたABI_RLとの交点にプロットされた白抜きの三角マークの位置によって示されている。
【0102】
なお、本実施の形態では、解析結果情報として、測定されたbaPWV_RRおよびbaPWV_RLの両方が出力されることとした。しかしながら、測定されたbaPWV_RRおよびbaPWV_RLのうち、図6のステップS112で算出された信憑性(安定度)が高い方のbaPWVのみを、脈波解析結果として出力してもよい。たとえば、患者への提示用のレポートは、一般に、簡易な情報のみを印刷するので、患者用のレポートにおいてのみ、一方のbaPWVだけを出力することとしてもよい。そのような場合、図9のグラフに代えて、図10のようなグラフが印刷されてよい。図10には、baPWVを縦軸、ABIを横軸にとったグラフにおいて、安定度が高い方のbaPWVのみがプロットされている。このように、信憑性(安定度)が高い方のbaPWVのみを出力することで、単に値が高い方のbaPWVや、左右のbaPWVの平均値がプロットされる場合よりも、より適切な判断や診断を可能とすることができる。
【0103】
<近似度の計算式について>
上述のように、本実施の形態では、精度良く解析指標を算出するために、各拍ごとの集積脈波との近似度が用いられた。したがって、近似度の計算式は、実験により適切に定める必要がある。
【0104】
図11〜図27は、測定ID1〜17それぞれについて、1拍ごとの脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた例を示す図である。各図において、(A)には、時間軸に沿って、測定された複数拍分の脈波波形が示され、(B)には、(A)に示された各拍分の脈波形状が、立ち上がり位置を起点として重ねられた様子が示されている。図11〜図27(A)の縦軸の値は、圧力をデジタル変換した出力値を表わしており、図11〜図27(B)の縦軸の値は、振幅を表わしている。また、図11〜図27(B)の横軸の区切りは、サンプリングのポイントを表わしている。
【0105】
図28は、図11〜図27の脈波波形を対象とした場合における、装置が算出する近似度の順位と、判読者による近似の程度の順位との関係を示す図である。
【0106】
図28における「指数」は、測定IDごとに、上記計算式(1)によって算出された各拍ごとの(図示しない集積形状との)近似度の平均値を、所定の換算式によって100分率で示したものである。「装置の順位」は、100分率で示された指数の昇順での順位を示している。「判読者順位」は、医療従事者や脈波解析装置100の開発者など、脈波に関して十分に知識を有する者により、測定IDごとにマニュアルで判断された、各拍ごとの(図示しない集積形状との)平均的な近似度の順位を示す。
【0107】
図29は、図28に示された、装置による近似の順位と判読者による近似の順位との相関関係を示す図である。図29に示されるように、2次元の座標平面においてY軸に「人の判定順位(判読者順位)」、X軸に「装置の判定順位」をとった場合の両者の相関の決定係数R2は、0.6844で表わされる。
【0108】
このように、上記式(1)により近似度を算出する場合、判読者順位と近い結果を得ることができているが、近似度の計算式は、判読者順位と装置の判定順位とが一致するような式、つまり、決定係数R2が1.0に近づくような式が、実験により定められることが望ましい。従来、医療従者など人間による目視によって波形の乱れ(不整脈や体動)が判定されていたからである。
【0109】
<変形例1>
上記実施の形態では、baPWVを算出する場合、上腕の測定部位はデフォルトとして定められた方の腕(たとえば右)を測定部位とした。または、右上腕と左上腕との血圧差によってbaPWVの算出に用いる上腕を右とするか左とするかを判定したりした。
【0110】
しかし、解析処理部104が算出する近似度に基づいて、baPWVの算出に用いる上腕の測定部位を決定してもよい。
【0111】
具体的には、図6のステップS110(脈波伝播速度の算出)において、次のような処理が行なわれてもよい。以下の説明においても、右上腕の脈波を用いてbaPWVを算出することがデフォルトとして定められていると仮定する。
【0112】
解析処理部104は、直前のステップS108(除外処理)において、右上腕の脈波のうち算出対象から除外されなかった拍“BTr”についての近似度の平均値“AVr”が、予め定められた閾値以上か否かを判断する。平均値AVrが閾値未満と判断された場合、左上腕の脈波をbaPWVの算出に用いる。または、左上腕の脈波のうち算出対象から除外されなかった拍“BTl”についての近似度の平均値“AVl”も、予め定められた閾値未満であれば、測定をやり直すようユーザに報知することとしてもよい。
【0113】
または、平均値AVrと、平均値AVlとを比較し、その値が高い方の部位の脈波をbaPWVの算出に用いてもよい。
【0114】
図7を例にした場合、上記の拍BTrは、右上腕の集積脈波との近似度が低かった3拍目以外の拍を表わす。または、拍BTrは、足首脈波での除外結果も考慮して、3、5および6拍目以外の拍を表わしてもよい。同様に、上記の拍BTlは、左上腕の集積脈波との近似度が低かった4拍目以外の拍を表わす。または、拍BTlは、足首脈波での除外結果も考慮して、4〜6拍目以外の拍を表わしてもよい。
【0115】
足首脈波についても上腕脈波と同様に、左右いずれかの脈波のみをbaPWVの算出に用いるようにし、脈波の安定している上腕脈波および足首脈波によってただ1つのbaPWVを算出することとしてもよい。
【0116】
<変形例2>
上記実施の形態では、baPWV_RLおよびbaPWV_RRを測定することとしたが、1つの測定部位における脈波より算出可能なPWVであってもよい。
【0117】
1つの測定部位における脈波よりPWVを算出する場合、PWVは、脈波の伝播距離(Lpt)を脈波伝播時間(PTT)で除算することで求められる。伝播距離は、いわゆる体幹長と言われる、心臓と反射部位である腸骨動脈の分岐部との間の距離を2倍したものである。体幹長は身長に比例する長さである。脈波伝播距離は直接測定ができないが、所定の換算式を用いて求めることができる。PTTは、図30に示されるTppとTRとを所定の換算式に当てはめることで算出される。Tppは、進行波である駆出波のピーク(最大点)の出現時間と反射波のピーク(最大点)の出現時間との時間間隔を表わす。TRは、駆出波の出現時間と進行波が腸骨動脈の分岐部から反射して戻ってくる反射波の出現時間との間の時間間隔を表わす。これらもまた、動脈硬化度の判定を行なうための指標とすることができる。図30においてTppは、駆出波ピーク点であるA点と反射波ピーク点であるB点との間の時間間隔で表わされる。図30においてTRは、駆出波の立ち上がり点から反射波の立上り点までの時間間隔で表わされる。
【0118】
または、解析指標としてAIを算出してもよい。その場合、図30を参照して、解析処理部(104)は、A点での振幅P1に対するB点での振幅P2を抽出し、振幅P1を振幅P2で除算することにAI値が得られる。
【0119】
このようなPWVやAIを解析指標として算出する場合には、指標算出に影響する範囲として、脈の立ち上がり点から反射波ピークまでを含む範囲に限定して、近似度を算出してもよい。
【0120】
<変形例3>
上記実施の形態における脈波解析装置100は、検出ユニット20、カフ24および情報処理ユニット1を含むものとして説明したが、脈波解析装置は、検出ユニット20およびカフ24を含まない汎用のコンピュータにおいて実現されてもよい。つまり、本実施の形態において、脈波解析装置は、代表的にCPU10によって実現される解析処理部104の機能が含まれていれば、図6に示したような脈波解析処理を実現することができる。汎用のコンピュータは、情報処理ユニット1と同様のハードウェアを有していればよい。
【0121】
本実施の形態および各変形例の脈波解析装置が行なう脈波解析方法を、プログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、当該プログラムをコンピュータが読取可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体に記録される。このような「コンピュータ読取可能な記録媒体」は、たとえば、CD−ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどの磁気記録媒体などを含む。また、このようなプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録させて、プログラム製品として提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0122】
なお、本実施の形態に係るプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本実施の形態に係るプログラムに含まれ得る。
【0123】
また、本実施の形態に係るプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本実施の形態に係るプログラムに含まれ得る。
【0124】
提供されるプログラム製品は、ハードディスクなどのプログラム格納部にインストールされて実行される。なお、プログラム製品は、プログラム自体と、プログラムが記憶された記憶媒体とを含む。
【0125】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0126】
1 情報処理ユニット、2 制御部、4 出力部、6 操作部、8 記憶装置、20ar,20al,20br,20bl 検出ユニット、22al,22ar,22bl,22br 配管、24ar,24al,24br,24bl カフ、25al,25ar,25bl,25br 圧力ポンプ、26al,26ar,26bl,26br 調圧弁、27al,27ar,27bl,27br 配管、28al,28ar,28bl,28br 圧力センサ、29al,29ar,29bl,29br A/D変換部、30 調整部、100 脈波解析装置、102 脈波測定部、104 解析処理部、106 血圧測定部、108 血圧指標算出部、200 被測定者。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数拍分の脈波波形を記憶するための記憶手段と、
前記複数拍分の脈波波形を解析することで脈波解析指標を算出するための処理を行なう解析処理手段とを備え、
前記解析処理手段は、
前記複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積し、
集積された脈波形状と前記1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して前記脈波解析指標を算出し、
算出された前記脈波解析指標を、解析結果として出力するための出力手段をさらに備えた、脈波解析装置。
【請求項2】
前記解析処理手段は、さらに、前記脈波解析指標の算出に用いられた脈波形状についての前記近似度を集積することで、拍動の安定度を算出し、
前記出力手段は、前記安定度を前記脈波解析指標の信憑性を示す指標としてさらに出力する、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、左右の肢部について、複数拍分の脈波波形を記憶し、
前記解析処理手段は、前記肢部毎に前記近似度を算出し、かつ、前記近似度が高い方の肢部の脈波形状を用いて、前記脈波解析指標を算出する、請求項1または2に記載の脈波解析装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記複数拍分の脈波波形を肢部毎に記憶し、
前記解析処理手段は、前記肢部毎に、前記1拍毎の脈波形状を集積し、かつ、前記近似度、前記脈波解析指標および前記安定度を算出し、
前記出力手段は、前記安定度が高い方の前記脈波解析指標を、前記解析結果として出力する、請求項2に記載の脈波解析装置。
【請求項5】
前記解析処理手段は、前記1拍毎の脈波形状のうち、前記脈波解析指標の算出に影響する範囲に限定して、前記近似度を算出する、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項6】
前記脈波解析指標は、動脈硬化の度合い、および/または、血管の狭窄の程度を示す、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項7】
前記脈波解析指標は、動脈硬化の度合いを示す指標としての脈波伝播速度を含む、請求項6に記載の脈波解析装置。
【請求項8】
肢部の脈波を検出するための脈波検出手段と、
前記脈波検出手段からの検出信号に基づいて、前記複数拍分の脈波波形を測定するための測定処理手段とをさらに備えた、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項9】
記憶部に記憶された複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積するステップと、
集積された脈波形状と前記1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標を算出するステップと、
算出された前記脈波解析指標を、解析結果として出力するステップとをコンピュータに実行させる、脈波解析プログラム。
【請求項1】
複数拍分の脈波波形を記憶するための記憶手段と、
前記複数拍分の脈波波形を解析することで脈波解析指標を算出するための処理を行なう解析処理手段とを備え、
前記解析処理手段は、
前記複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積し、
集積された脈波形状と前記1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して前記脈波解析指標を算出し、
算出された前記脈波解析指標を、解析結果として出力するための出力手段をさらに備えた、脈波解析装置。
【請求項2】
前記解析処理手段は、さらに、前記脈波解析指標の算出に用いられた脈波形状についての前記近似度を集積することで、拍動の安定度を算出し、
前記出力手段は、前記安定度を前記脈波解析指標の信憑性を示す指標としてさらに出力する、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、左右の肢部について、複数拍分の脈波波形を記憶し、
前記解析処理手段は、前記肢部毎に前記近似度を算出し、かつ、前記近似度が高い方の肢部の脈波形状を用いて、前記脈波解析指標を算出する、請求項1または2に記載の脈波解析装置。
【請求項4】
前記記憶手段は、前記複数拍分の脈波波形を肢部毎に記憶し、
前記解析処理手段は、前記肢部毎に、前記1拍毎の脈波形状を集積し、かつ、前記近似度、前記脈波解析指標および前記安定度を算出し、
前記出力手段は、前記安定度が高い方の前記脈波解析指標を、前記解析結果として出力する、請求項2に記載の脈波解析装置。
【請求項5】
前記解析処理手段は、前記1拍毎の脈波形状のうち、前記脈波解析指標の算出に影響する範囲に限定して、前記近似度を算出する、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項6】
前記脈波解析指標は、動脈硬化の度合い、および/または、血管の狭窄の程度を示す、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項7】
前記脈波解析指標は、動脈硬化の度合いを示す指標としての脈波伝播速度を含む、請求項6に記載の脈波解析装置。
【請求項8】
肢部の脈波を検出するための脈波検出手段と、
前記脈波検出手段からの検出信号に基づいて、前記複数拍分の脈波波形を測定するための測定処理手段とをさらに備えた、請求項1に記載の脈波解析装置。
【請求項9】
記憶部に記憶された複数拍分の脈波波形を構成する1拍毎の脈波形状を集積するステップと、
集積された脈波形状と前記1拍毎の脈波形状との近似度が低い拍を算出対象から除外して脈波解析指標を算出するステップと、
算出された前記脈波解析指標を、解析結果として出力するステップとをコンピュータに実行させる、脈波解析プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図10】
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【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公開番号】特開2011−92556(P2011−92556A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250928(P2009−250928)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】
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