説明

脊椎くも膜下麻酔針の製造方法

【課題】くも膜を貫いた後、針を前進させすぎて神経組織に損傷を与えるおそれのない麻酔針を容易に製造する。
【解決手段】外径が一様な直管部の先端に円錐状に先細りとなっている先端部を備え、薬液を吐出する開口の全体が前記先端部に設け羅れている麻酔針の製造法であって、麻酔針の軸芯に対して20〜40°の角度で放電加工器の放電針を前記先端部に作用させることで、開口を形成できる。開口全体が円錐状に先細りとなっている先端部に設けられているため、針先端がくも膜を穿刺した後、少ない前進量で直ちに開口全体がくも膜下に進入し、髄液の返りを速やかに確認することができ、針を前進させすぎて神経組織を穿刺してしまうおそれがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、脊椎くも膜下麻酔に用いる脊椎くも膜下麻酔針の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎くも膜下麻酔は、下半身局所麻酔として多用されている。通常のくも膜下麻酔針は、先端に刃先を有するものであるが、PDPHという術後に穿刺痕から流出した髄液圧の低下による頭痛が生じる場合がある。これは、麻酔針の刃先先端が鋭利なため、くも膜を穿刺したのちに髄液の流出がなかなか止まらないためと一般に解釈されている。これを回避するため、現在麻酔針を細くする傾向があるが、この他の方法として麻酔針先端に刃がついていないノンカット針(先端がペンシル状になっている)が開発され使用されている(特許文献1参照)。これは、一般に開発者の名前をとり、Whitacare・Sprotte と呼ばれるペンシルポイント針である。
【0003】
図6、7は従来のくも膜下麻酔用の麻酔針11(ペンシルポイント針)の例を示し、図5は先端付近の平面図、図6は同じく側面図である。麻酔針11は、外径が一様な直管部12の先端に円錐状に先細りとなっている(ペンシル状)先端部13を備え、薬液を吐出する細長い開口14が形成されている。開口14は、全部又はほとんどの部分が直管部12に設けられている。麻酔針11の先端から開口14の先端までの距離aは2.0mm〜4.0mm程度、開口14の軸方向の長さbは3.0〜5.0mm程度である。ペンシルポイント針は、先端に刃がついていないため、くも膜の穿刺痕が小さく、髄液圧の低下が起こりにくいというメリットがある。また、刃先のついた麻酔針と比べて、くも膜を貫いた感覚が、術者にとってよくわかると一般にいわれている。
【0004】
図8は麻酔針11に開口14を形成する工程の説明図である。同図に示すように、開口14は、切削機の回転する円板状砥石15により麻酔針11の先端部分を切削して形成される。
【特許文献1】実公平7−30031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、従来のペンシルポイント針は、開口がほとんど直管部に設けられている。このため、くも膜を貫いた後、針を開口全体がくも膜下に達するように十分に先に進めないと、所定部位まで針が到達したことを示す髄液のかえり(リコールバック)が確認できず、針を前進させすぎて神経を穿刺し、神経組織に損傷を与えるおそれがあった。
本発明は、ペンシルポイント針でありながら、くも膜を貫いた後、針を僅かに前進させるだけで、所定部位まで針が到達したことを示す髄液のかえり(リコールバック)を確認できるようにして、針を前進させすぎて神経組織に損傷を与えるおそれのない麻酔針を製造できるようにすることを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外径が一様な直管部の先端に円錐状に先細りとなっている先端部を備え、薬液を吐出する開口の全体が前記先端部に設けられている麻酔針の製造方法であって、該麻酔針の軸芯に対して25〜35°の角度で放電加工器の放電針を前記先端部に作用させることで、前記開口を開ける工程を有することを特徴とする脊椎くも膜下麻酔針の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法で製造した麻酔針は、ペンシルポイント針であるので、くも膜の穿刺痕が小さく髄液圧の低下が起こりにくく、くも膜を貫いた感覚がわかりやすい。
また、開口全体が円錐状に先細りとなっている先端部に設けられているため、針先端がくも膜を穿刺した後、少ない前進量で直ちに開口全体がくも膜下に進入し、髄液のかえり(リコールバック)を速やかに確認することができ、針を前進させすぎて神経組織を穿刺してしまうおそれがない。
本発明は、麻酔針の軸芯に対して20〜40°の角度で放電加工器の放電針を先端部に作用させて開口を開けるようにすることで、前記効果を有する脊椎くも膜下麻酔針を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明における麻酔針の太さは、従来のペンシルポイント針と同程度でよく、素材も従来のものと同等でよく、例えばステンレス製とすることができる。
【0009】
本発明における麻酔針において、先端部の長さは1.5mm〜4.0mm程度が適当である。
【0010】
本発明における麻酔針は、針先端から前記開口の先端までの距離aが0.5mm〜1.5mmであることが望ましい。0.5mm未満にすることは困難なばかりでなく、針先端の強度が弱くなる。1.5mmを越えると少ない穿刺量で直ちに開口がくも膜下に進入し、髄液のかえり(リコールバック)を速やかに確認することができるという効果が低減する。なお、この場合の距離は、図1に示すように、軸芯に平行な方向に測定した距離である。
【0011】
本発明における麻酔針は、開口の軸方向長さb(開口先端から後端までの長さ)は0.4mm〜1.0mm程度が適当である。
【0012】
開口を形成する場合、従来は、麻酔針の軸芯に対して直角方向から円板状砥石15で切削加工していたが、本発明の製造方法においては、放電加工器を用いる。その放電針を麻酔針先端部に作用させる角度は、麻酔針の軸芯に対して20〜40°が適当である。この角度範囲をはずれると、開口の形状が不規則になりやすく、放電針の制御が難しくなる。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明方法で製造した脊椎くも膜下麻酔針1の先端部付近の平面図、図2は同じく側面図、図3は図1における中央横断面図である。
【0014】
麻酔針1は、外径が一様な直管部2の先端に円錐状に先細りとなっている先端部3を備える。開口4は、その全体が先端部3に設けられている。直管部2の外径は0.72±0.01mm、内径は0.49±0.01mm、針先端から開口先端までの距離aは0.78mm、開口先端から後端までの長さbは0.62mm、先端部の長さは2.18mmである。開口4の幅は、当該部分の麻酔針の内径とほぼ等しくなるようにした。
【0015】
図4は麻酔針1に開口を開ける方法の説明図である。まず、外径0.72±0.01mm、内径0.49±0.01mmのステンレス製管の先端をペンシルポイント状に加工し、円錐状に先細りとなっている先端部を設ける。ペンシルポイント状の加工は、従来周知の方法で行うことができる(例えば特開平11−207427号公報参照)。ペンシルポイント状に加工した針1を支持台5の載置板5aの上に固定する。載置台5aは水平面に対して60°傾いている。支持台5に固定した針1に対し、放電加工器の放電針6を垂直に下降させる。これにより、針1の軸芯に対して30°の角度で放電針6を麻酔針1の先端部3に作用させ、開口4を形成することができる。
【0016】
前記の麻酔針1と、図5の従来の麻酔針11(外径0.72±0.01mm、内径0.49±0.01mm、a=2mm、b=3.1mm)について、リコールバックにかかる時間を測定した。
図5は、麻酔針1に内針7(スタイレット)を入れた状態でゴム管8を穿刺した状態を示している。
ビーカーに赤インクを3滴垂らし、100mlの精製水で希釈して試験液9を作成した。外径10mm、内径8mmのゴム管に90mmの水圧がかかるように試験液を満たした。麻酔針を、内針を入れた状態でゴム管に対して直角に穿刺し、開口が完全にゴム管内に挿入された状態にする。実施例の麻酔針1はゴム管内に少なくとも1.4mm挿入すればよいが、従来の麻酔針11は少なくとも5.1mm挿入する必要がある。
麻酔針の内針を測定者Aが声を掛けて抜くと同時に、測定者Bがストップウォッチで時間測定を開始する。麻酔針の後端から試験液が流出し始めたとき測定者Bがディテクションタイムを測定する。ディテクションタイムは、麻酔針1、11共に約2秒であった。本発明の麻酔針のリコールバックにかかる時間は、従来の麻酔針と遜色ないことが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法で製造した脊椎くも膜下麻酔針1の平面図である。
【図2】麻酔針1の側面図である。
【図3】図1における中央横断面図である。
【図4】麻酔針1に開口を開ける方法の説明図である。
【図5】リコールバックにかかる時間測定の説明図である。
【図6】従来の麻酔針11の平面図である。
【図7】従来の麻酔針11の側面図である。
【図8】従来の麻酔針11に開口14を形成する工程の説明図である。
【符号の説明】
【0018】
1 麻酔針
2 直管部
3 先端部
4 開口
5 支持台
6 放電針
7 内針
8 ゴム管
9 試験液
11 麻酔針
12 直管部
13 先端部
14 開口
15 砥石


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が一様な直管部の先端に円錐状に先細りとなっている先端部を備え、薬液を吐出する開口の全体が前記先端部に設けられている麻酔針の製造方法であって、該麻酔針の軸芯に対して20〜40°の角度で放電加工器の放電針を前記先端部に作用させることで、前記開口を開ける工程を有することを特徴とする脊椎くも膜下麻酔針の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−139529(P2012−139529A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−62416(P2012−62416)
【出願日】平成24年3月19日(2012.3.19)
【分割の表示】特願2007−81685(P2007−81685)の分割
【原出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(392006606)株式会社ユニシス (5)
【Fターム(参考)】