説明

脊椎麻酔の成功をモニタリングする装置および方法

−患者の少なくとも1個の皮膚知覚帯内で皮膚表面温度を測定する少なくとも1個の電子温度センサと、
−少なくとも1個の温度センサと接続され、少なくとも1個の温度センサより送られる測定信号を監視して皮膚表面温度が約2〜3℃上昇するかどうかを判定する電子評価装置と、
−電子評価装置による評価結果を光学的におよび/または音響的に示す表示装置
を有する脊椎麻酔の成功をモニタリングする装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、医学における脊椎麻酔の成功をモニタリングする装置及び方法である。
【背景技術】
【0002】
脊椎麻酔は、脊髄近くの局所麻酔の一つである。腰椎の頂点で脳脊髄液領域への局所麻酔の注入により、脊髄から延びている神経の信号転送が妨げられる。下半身の知覚および運動機能である交感神経系の一時的で可逆性な遮断が、それによって達成される。
【0003】
麻酔の標準処置として、脊椎麻酔は、胃の下部、骨盤、下肢および産科における複数の手術に今日使われ、硬膜外麻酔および全身麻酔といった他の局所処置に代わるものである。
【0004】
人間の脊柱は34個の椎骨から成り、堅いバンドによって接続されて脊髄を囲む。脊髄神経は、椎骨の間を外へ延びて、身体に区分的に神経を分布し、知覚を可能にして植物性神経系(交感/副交感神経系)の繊維を担持する。中枢神経系の一部として、脊髄は、中で脳脊髄液が循環する脳脊髄液領域を制限する髄膜に囲まれる。この脳脊髄液空間は脊椎麻酔の間、細いカニューレにより穴をあけられる。局所麻酔は、針の先端を通って注入され、脊髄神経の前後の根に作用して、神経インパルスを送信するそれらの能力を一時的に抑止する。
【0005】
脊椎麻酔で、感覚システムの異なる特性を連続して切断できることは公知である:最初に、植物性神経系の節前交感神経系が遮断される。これは、血管拡大、皮膚の加温、また、場合によっては血圧低下を引き起こす。次に、温痛覚繊維が遮断される。触圧覚が後に続く。運動活動および振動覚および位置覚は、最後に切断される。
【0006】
効果的な脊椎麻酔高は、脳脊髄液に注入される賦活剤の分散によって決まり、患者の位置決めによる局所麻酔の濃度および投与量によって影響される。
【0007】
これまで、この種の麻酔に対する麻酔をかけることを表示できる装置がない。無痛覚は、麻酔士により患者の身体に冷たいスプレーを用いることで以前よりテストされている。患者は、対応する冷感覚をまだ感じるか否かについて口頭で知らせることを必要とした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに基づいて、本発明の目的は脊椎麻酔の成功のモニタリングを容易にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1の特徴を有する装置により解決される。本発明の有益な実施態様が従属項2から12までに記載される。
【0010】
本発明による脊椎麻酔の成功をモニタリングする装置は、
−患者の少なくとも1個の皮膚知覚帯内で皮膚表面温度を測定する少なくとも1個の電子温度センサと、
−少なくとも1個の前記温度センサと接続され、少なくとも1個の前記温度センサより送られる測定信号を監視して皮膚表面温度が約2〜3℃上昇するかどうかを判定する電子評価装置と、
−前記電子評価装置による評価結果を光学的におよび/または音響的に示す表示装置 を備える。
【0011】
本発明による装置は、脊椎麻酔による交感神経遮断(交感神経支配の除外)の場合、「薄い」無髄神経線維が最初にブロックされて、それからようやく「厚い」有髄神経線維がブロックされると仮定する。その結果、脊椎麻酔の間、交感神経系の遮断は、知覚遮断よりも通常、2〜3個の節または皮膚知覚帯さらに離れる。交感神経系の遮断は、知覚遮断より最高6個の節または皮膚知覚帯さらに離れうる。さらにまた、知覚遮断は、運動遮断より約2個の節または皮膚知覚帯さらに離れる。交感神経系の遮断は、関連する皮膚知覚帯において約2〜3℃の皮膚温度の上昇を伴う。したがって、この温度上昇は、知覚遮断および無痛覚(麻酔)が約2〜3個の(最高6個の)皮膚知覚帯、尾側に発生していることを示す。たとえば、皮膚知覚帯Th2において約2〜3℃の皮膚表面温度の上昇の場合、無痛覚は約2〜3個(〜6個)の皮膚知覚帯、尾側である皮膚知覚帯Th4〜Th5(〜Th8)においてとみなされる。患者の少なくとも1個の皮膚知覚帯で約2〜3℃の温度上昇が測定されたことにより、無痛覚がすでに発生している皮膚知覚帯より2〜3個(〜6個の皮膚知覚帯)尾側に配置された皮膚知覚帯を特定することを可能にするという点で本発明はこの知識を利用する。たとえば、2〜3℃の温度上昇が発生した皮膚知覚帯、および、適用できるのであれば、以前すでに温度上昇が発生した皮膚知覚帯の表示により、脊椎麻酔の成功のモニタリングが健康管理の専門家にとって容易になる。冷たいスプレーおよび口頭での患者の反応によるこれまでの確認が、客観的な測定と測定結果の評価とに置き換えられる。
【0012】
本発明による装置の単純な設計は、評価装置による評価の結果として、約2〜3℃の温度上昇が発生した皮膚知覚帯をそれぞれ示す。この表示に基づいて、約2〜3個(最高6個)の皮膚知覚帯尾側に無痛覚が発生したとみなすことができる。好ましい実施形態では、約2〜3℃の皮膚表面の温度上昇が測定された皮膚知覚帯より約2〜6個の皮膚知覚帯だけ仙骨腰椎に近い皮膚知覚帯に無痛覚が起こったと電子評価装置が判定する。電子評価装置による評価の結果、表示装置が無痛覚が発生した皮膚知覚帯を示す。適用可能ならば、表示装置は無痛覚が以前すでに発生した皮膚知覚帯も示す。好ましくは、約2〜3℃の皮膚表面の温度上昇が判定された皮膚知覚帯より約2〜3個の皮膚知覚帯だけ仙骨腰椎に近い皮膚知覚帯において無痛覚が発生したと電子評価装置が判定する。他の実施形態によれば、表示装置は、皮膚表面温度が2〜3℃上昇した皮膚知覚帯を示し、また、無痛覚が発生した皮膚知覚帯を(例えば異なる色で)示す。
【0013】
温度センサは異なって設計されてもよい。たとえば、患者の皮膚表面温度をサーマルカメラにより広い領域にわたって測定し、自動画像評価法を用いて個々の皮膚知覚帯における温度を測定することができる。他の実施形態では、個々の温度センサが使われる。好ましい実施形態では、少なくとも1個の温度センサがNTC抵抗である。
【0014】
本発明の1実施形態では、少なくとも1個の温度センサが患者の身体に温度センサを固定する手段上の弾性手段を介して保持される。温度センサは、弾性手段による持続的な押圧力により皮膚表面に対して押圧される。これによって、測定エラーが回避される。
【0015】
一般に、患者の皮膚表面に温度センサを個々に固定することができる。1実施形態では、数個の温度センサが互いに特定の距離でバンドに配置され、バンドは患者の身体に固定する手段により固定される。バンド上の温度センサの特定された配置により、患者の身体上の温度センサの設置が容易になる。バンド上の2個の隣接する温度センサ間の距離は、好ましくは、1個以上の皮膚知覚帯の距離である。この実施形態は、患者の異なる皮膚知覚帯の範囲内での温度センサの取付を容易にする。バンド上の隣接した温度センサの距離の長さは、平均サイズの患者に基づいてよい。さらにまた、異なるサイズの患者のために温度センサが異なる距離にある数個のバンドを提供することができる。
【0016】
1実施形態において、温度センサは患者の身体に固定するテープに接続されている。
【0017】
電子評価装置はアナログまたはデジタルでもよい。電子評価装置は、プログラムで制御された電子データ処理デバイスまたは純粋なハードウェアでもよい。好ましくは、プログラム可能な、デジタル評価装置が用いられる。特に、PCが評価装置として用いられる。
【0018】
1実施形態において、アナログ温度センサが、少なくとも1個のアナログ−デジタル変換器を介してデジタル評価装置に接続される。他の実施形態では、アナログ−デジタル変換器がPCのUSBポートに接続される。
【0019】
表示装置は、たとえば、PCのモニタである。1実施形態によれば、表示装置は人体の画像を示し、その画像内で、無痛覚が発生した皮膚知覚帯、および/または、皮膚表面温度が約2〜3℃上昇した皮膚知覚帯が視覚的に強調される。画像の強調は、たとえば、該当する皮膚知覚帯を残りの画像と異なる色に着色する。
【0020】
さらにまた、目的は請求項13の特徴を有する方法により解決される。その方法の有益な実施態様が従属項14から23までに記載される。
【0021】
本発明は、添付の例示的実施形態の図面に基づいて、以下に更に詳細に説明される。図面は以下を示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による、患者の身体の脊椎麻酔の成功をモニタリングする装置の概略ブロック図。
【図2】温度センサを有するバンドの部分上面図。
【図3】図2のバンドの拡大詳細縦断図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
図1によれば、患者1の皮膚表面はそれぞれの皮膚知覚帯に分割され、Th2,L3およびC4といった参照符号が付けられている。温度センサ2が特定の皮膚知覚帯に取り付けられる。温度センサ2は少なくとも8チャンネルを有する増幅器3を介してアナログ−デジタル変換器4に接続される。アナログ−デジタル変換器4は増幅器3の出力チャンネルを走査して増幅されたアナログの測定信号をデジタルの信号に変換する。
【0024】
アナログ−デジタル変換器4は、PC5に取り付けられる。PC5は、温度センサ2により測定された皮膚の温度が、温度−時間ダイアグラム6に示されるように、2〜3℃上昇するかどうかを判定する。PC5は2〜3℃の上昇を判定すると、約2〜3(〜6)個の皮膚知覚帯尾側に配置された皮膚知覚帯において無痛覚が発生したと判断する。無痛覚が判定された皮膚知覚帯は人体の画像8とともにスクリーン7に表示される。
【0025】
図2および3によれば、数個の温度センサ2は、発泡体クッションで作った中間層の下で各々バンド9に固定される。隣接する温度センサ2間の距離は特定の皮膚知覚帯間の距離と一致する。バンド9に横断して付けられるテープによりバンド9は身体1に固定可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
−患者の少なくとも1個の皮膚知覚帯内で皮膚表面温度を測定する少なくとも1個の電子温度センサ(2)と、
−少なくとも1個の前記温度センサ(2)と接続され、少なくとも1個の前記温度センサ(2)より送られる測定信号を監視して皮膚表面温度が約2〜3℃上昇するかどうかを判定する電子評価装置(5)と、
−前記電子評価装置による評価結果を光学的におよび/または音響的に示す表示装置(7)
を有する脊椎麻酔の成功をモニタリングする装置。
【請求項2】
前記電子評価ユニット(5)は、約2〜3℃の皮膚表面温度の上昇の判定の場合、前記温度センサ(2)が皮膚表面温度を測定する皮膚知覚帯より約2〜6個の皮膚知覚帯だけ仙骨腰椎に近い皮膚知覚帯に無痛覚が起こったと判定する
請求項1の装置。
【請求項3】
前記電子評価ユニット(5)は、約2〜3℃の皮膚表面温度の上昇の判定の場合、前記温度センサ(2)が皮膚表面温度を測定する皮膚知覚帯より約2〜3個の皮膚知覚帯だけ仙骨腰椎に近い皮膚知覚帯に無痛覚が起こったと判定する
請求項2の装置。
【請求項4】
少なくとも1個の前記温度センサ(2)がNTC抵抗である
請求項1から3のいずれか1つの装置。
【請求項5】
少なくとも1個の温度センサ(2)が弾性手段を介して患者の身体に固定する手段(9)に保持される
請求項1から4のいずれか1つの装置。
【請求項6】
患者の身体に固定する手段を用いて固定可能であるバンド(9)に、数個の温度センサ(2)が互いに特定の距離で配置される
請求項1から5のいずれか1つの装置。
【請求項7】
少なくとも1個の前記温度センサが患者の身体に固定するテープに接続されている
請求項1から6のいずれか1つの装置。
【請求項8】
前記バンド(9)上の2個の隣接する温度センサ(2)間の距離が1個以上の皮膚知覚帯間の距離と一致する。
請求項6または7の装置。
【請求項9】
少なくとも1個の前記温度センサ(2)が少なくとも1個のアナログ−デジタル変換器を介してデジタル評価装置(5)に接続されている
請求項1から8のいずれか1つの装置。
【請求項10】
前記デジタル評価装置(5)はPCである
請求項9の装置。
【請求項11】
前記アナログ−デジタル変換器(4)はPC(5)のUSBポートに接続される
請求項9または10の装置。
【請求項12】
前記表示装置(7)が人体の画像(8)を表示し、
前記画像内で、無痛覚が発生した皮膚知覚帯、および/または、皮膚表面温度が約2〜3℃上昇した皮膚知覚帯が視覚的に強調される
請求項1から11のいずれか1つの装置。
【請求項13】
−少なくとも1個の電子温度センサが患者の少なくとも1個の皮膚知覚帯内で皮膚表面温度を測定し、
−電子評価装置が、約2〜3℃の皮膚表面温度の上昇について少なくとも1個の前記温度センサより送られる測定信号を監視して、
−表示装置が評価結果を示す
脊椎麻酔の成功をモニタリングする方法。
【請求項14】
約2〜3℃の皮膚表面温度の上昇中に、前記電子評価装置が、前記温度センサより2〜6個の皮膚知覚帯だけ患者の仙骨腰椎に近い皮膚知覚帯において無痛覚を判定し、前記表示装置が判定された皮膚知覚帯において無痛覚を表示する
請求項13の方法。
【請求項15】
約2〜3℃の皮膚表面温度の上昇中に、前記電子評価装置が、前記温度センサより2〜3個の皮膚知覚帯だけ患者の仙骨腰椎に近い皮膚知覚帯において無痛覚を判定し、前記表示装置が判定された皮膚知覚帯において無痛覚を表示する
請求項14の方法。
【請求項16】
少なくとも1個の温度センサが異なる皮膚知覚帯内で皮膚表面を測定する
請求項13から15のいずれか1つの方法。
【請求項17】
少なくとも1個の温度センサが皮膚表面に配置される
請求項16の方法。
【請求項18】
数個の温度センサが、少なくとも1個の皮膚知覚帯離れて患者の皮膚表面に配置される
請求項17の方法。
【請求項19】
少なくとも1個のセンサが弾性手段を介して皮膚表面に対して押圧される
請求項17または18の方法。
【請求項20】
温度センサがバンドにより患者の皮膚表面に配置され、
前記バンド上に前記温度センサが互いに一定の距離で配置される
請求項17から19のいずれか1つの方法。
【請求項21】
前記温度センサはアナログ測定信号を送信し、
前記アナログ測定信号はアナログ−デジタル変換器によりデジタル信号へ変換され、
前記デジタル信号は前記評価装置によりデジタル方式で処理される
請求項13から20のいずれか1つの方法。
【請求項22】
前記表示装置は、無痛覚が発生した皮膚知覚帯、および/または皮膚表面が約2〜3℃上昇した皮膚知覚帯を、人体の画像において視覚的に強調した方法により表示する
請求項13から21のいずれか1つの方法。
【請求項23】
前記評価装置は評価結果を光学的におよび/または音響的に表示する
請求項13から22のいずれか1つの方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−514480(P2012−514480A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543988(P2011−543988)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/009238
【国際公開番号】WO2010/075997
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511159808)
【Fターム(参考)】