説明

脱イオン装置

【課題】脱イオン装置を提供する。
【解決手段】電気化学的酸化還元活物質を含む少なくとも一つの電極、及びイオン種の種類及び/または総濃度が、流入水に含まれたイオン種のそれらと異なる電解質溶液を含む脱イオン装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
脱イオン装置が開示される。さらに詳細には、電気化学的酸化還元活物質を含む少なくとも一つの電極、及びイオン種の種類及び/または総濃度が、流入水に含まれたイオン種のそれらと異なる電解質溶液を含む脱イオン装置が開示される。
【背景技術】
【0002】
家庭に供給される水道水には、地域によって含有量差はあるが、硬度成分が含まれている。特に、石灰岩成分が地下水に多く流れ込むヨーロッパなどでは、水道水の硬度が非常に高い。
【0003】
硬度成分などの総濃度が高い水(すなわち、硬水)を使用する家電製品内の熱交換器やボイラー管の内壁にはスケールが容易に形成されて、エネルギー効率が急減するという問題点がある。また、硬水は洗濯用水にも適していない。かかる問題点を改善するための方法として、(i)化学薬品を使用して生成されたスケールを除去する方法、(ii)イオン交換樹脂を使用して軟水を製造した後、汚染されたイオン交換樹脂を大量の高濃度塩水を用いて再生する化学的方法、及び(iii)電気透析方法などがある。しかし、かかる方法は、ユーザの便宜性が悪く、環境汚染を誘発するか、または多くのエネルギーを必要とするなどの問題点を有しており、エネルギー効率が高くて簡便であり、かつ環境にやさしく硬水を軟水化できる技術が求められている。
【0004】
CDI(Capacitive Deionization、電気吸着脱イオン化)装置は、ナノサイズの気孔を持つ電極に電圧を印加して、前記電極が極性を帯びるようにすることで、媒質(例えば、硬水)中のイオン性物質を電極表面に吸着させて除去する装置である。CDI装置において、正極及び負極の両電極の間に溶存イオンを含有する媒質が流れる場合、低い電位差の直流電源を印加すれば、溶存イオンのうち陰イオン成分は正極に、陽イオン成分は負極に吸着されて濃縮され、両電極を短絡させるなどの方法で逆方向に電流を流せば、前記濃縮されたイオンが前記各電極から脱着される。CDI装置は高い電位差を必要としないので、エネルギー効率が高く、イオン吸着時に硬度成分と共に有害イオンまで除去でき、再生時に化学薬品を必要としないという長所がある。
【0005】
しかし、従来のCDI装置では、各電極に電位が印加される時、気孔内に存在するイオンのうち前記各電極の極性と同じ極性を帯びるイオン(すなわち、コイオン(coion))が流出水と共に多量放出される現象が発生する。このように、あらゆるイオンの移動方向が各電極側方向になるように制御できないという問題によって、CDI装置は、投入電荷量対比イオン除去効率が大きく落ちるという短所がある。
【0006】
前記のような従来のCDI装置の問題点を改善するために、イオン交換膜のような電荷障壁(charge barrier)を導入してイオン除去効率を高めた改良CDI装置(Charge−barrier CDI)がAndelmanらにより紹介された。
【0007】
Charge−barrier CDI装置は、海水などの高濃度のイオンを含む水を処理する時、イオン除去速度及び効率側面において従来のCDI装置に比べて有利な効果を得ることができる。しかし、かかるCharge−barrier CDI装置は、これを使用して硬度成分の含有量が30〜300wtppm範囲の硬水を処理する場合には、電極気孔内のイオン濃度が十分に高くなく、気孔内のイオン伝達速度が遅いため、充放電時に電極物質の静電容量をいずれも活用できないという短所がある。
【0008】
前記のように、CDI装置の性能がますます改善されてはいるが、これらのCDI装置は、根本的に電気二重層(EDLC:Electrical Double Layer Capacitance)を用いてイオン(すなわち、硬度成分)を電極表面に吸着させて除去するため、既存のバッテリーや類似キャパシタ(pseudo−capacitor)などに使われる電極物質に比べて静電容量が小さいという短所がある。
【0009】
一方、従来のCDI装置及びCharge−barrier CDI装置は、流入水中に電極物質の静電容量の発生に適していないイオンが含まれている場合、前記イオンが各電極に吸着されてイオン除去効率がさらに落ちるという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国特許出願第2009−0077161号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一具現例は、電気化学的酸化還元活物質を含む少なくとも一つの電極、及びイオン種の種類及び/または総濃度が、流入水に含まれたイオン種のそれらと異なる電解質溶液を含む脱イオン装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面は、流入水が流れうる少なくとも一つの流路と、少なくとも一対の電極と、前記少なくとも一つの流路と対応する電極との間に配された少なくとも一つの電荷障壁と、前記少なくとも一つの電極と対応する電荷障壁との間に配された少なくとも一つの電解質溶液を備え、前記少なくとも一対の電極のうち少なくとも一つの電極は、電気化学的酸化還元活物質を含み、前記少なくとも一つの電解質溶液は、前記流入水と異なる脱イオン装置を提供する。
【0013】
前記脱イオン装置は、少なくとも一対の第1電極及び第2電極を備え、前記少なくとも一つの第1電極は、充電時には酸化され、放電時には還元される電気化学的酸化還元活物質を含み、対応する第2電極は、充電時には還元され、放電時には酸化される電気化学的酸化還元活物質を含む。
【0014】
前記電気化学的酸化還元活物質は、MnO、MnO(MはLi、NaまたはK、0<x≦1)、MnO(0<x≦1)、非晶質−MnO・nHO(0<x≦2、0≦n≦1)、Mn、Ni(OH)、RuO、RuOH、TiO、PbO、NaWO、CaTiO、Pb、PbO、PbSO、Cd、Cd(OH)、NiOH、LaNi、金属水素化物、Si、SiO、Sn、LiMn、LiFePO及び炭素からなる群から選択された少なくとも1種の物質を含む。
【0015】
前記脱イオン装置は、少なくとも一対の第1電極及び第2電極を備え、前記少なくとも一つの第1電極は電気化学的酸化還元活物質ではないその他の活物質を含み、対応する第2電極は電気化学的酸化還元活物質を含む。
【0016】
前記電気化学的酸化還元活物質の可逆充放電容量は前記その他の活物質の可逆充放電容量より大きい。
【0017】
前記その他の活物質は、活性炭、カーボンブラック、エアロゲル、カーボンナノチューブ(CNT)、メソポーラスカーボン、活性炭素繊維、黒鉛、黒鉛酸化物及び金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種を含む。
【0018】
前記少なくとも一つの電極は、バインダー及び導電助剤をさらに含む。
【0019】
前記少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の種類は、前記流入水に含まれたイオン種の種類と異なる。
【0020】
前記少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の総濃度は、前記流入水に含まれたイオン種の総濃度より高い。
【0021】
前記少なくとも一つの電荷障壁は、陽イオン選択性透過膜または陰イオン選択性透過膜である。
【0022】
前記少なくとも一つの電極及び対応する電荷障壁は、互いに離隔して対向するように配される。
【0023】
前記脱イオン装置は、前記少なくとも一つの電極と対応する電荷障壁とを分離させる少なくとも一つのスペーサをさらに備える。
【0024】
前記少なくとも一つの電極及び対応する電荷障壁は、互いに密着して配され、対応する電解質溶液は対応する電極の気孔内に配される。
【0025】
前記少なくとも一つの電荷障壁は、イオン交換膜である。
【0026】
前記少なくとも一つの電解質溶液は、KOH、NaOH、KCl、NaCl、HSO、HCl、NaSO、KSO、LiPF及びLiBFからなる群から選択された少なくとも1種の電解質から由来したイオン種を含む。
【0027】
前記脱イオン装置は、前記少なくとも一つの流路を形成する少なくとも一つのスペーサをさらに備える。
【0028】
前記脱イオン装置は、前記少なくとも一対の電極の対応する流路と反対側電極面に配された少なくとも一つの集電体をさらに備える。
【0029】
本発明の他の側面は、流入水が流れうる少なくとも一つの流路と、少なくとも一対の第1電極及び第2電極と、前記少なくとも一つの流路と対応する第1電極との間に配された少なくとも一つの第1電荷障壁と、前記少なくとも一つの流路と対応する第2電極との間に配された少なくとも一つの第2電荷障壁と、前記少なくとも一つの第1電極と対応する第1電荷障壁との間に配された少なくとも一つの第1電解質溶液と、を備え、前記少なくとも一対の第1電極及び第2電極からなる群から選択された少なくとも一つの電極は、電気化学的酸化還元活物質を含み、前記少なくとも一つの第1電解質溶液は前記流入水と異なる脱イオン装置を提供する。
【0030】
前記少なくとも一つの第1電荷障壁は陽イオン選択性透過膜であり、前記少なくとも一つの第2電荷障壁は陰イオン選択性透過膜である。
【0031】
前記脱イオン装置は、前記少なくとも一つの第2電極と対応する第2電荷障壁との間に配された少なくとも一つの第2電解質溶液をさらに備え、前記少なくとも一つの第2電解質溶液は対応する第1電解質溶液と同一または異なり、前記少なくとも一つの第2電極及び対応する第2電荷障壁は、互いに離隔して対向するように配されるか、または互いに密着して配される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一具現例による脱イオン装置を概略的に示した断面図である。
【図2】図1の脱イオン装置の脱イオン原理を説明するための図面である。
【図3】図1の脱イオン装置の電極再生原理を説明するための図面である。
【図4】本発明の他の具現例による脱イオン装置を概略的に示した断面図である。
【図5】本発明の一具現例による脱イオン装置に備えられた電気化学的酸化還元活物質(MnO)を含む電極、及びその他の活物質(活性炭)を含む電極の循環電圧−電流曲線(cyclic voltammogram)である。
【図6】実施例1〜3及び比較例1で製造した各セルの相対イオン除去量の変化を充放電サイクル数によって示したグラフである。
【図7】実施例1〜3及び比較例1で製造した各セルの相対イオン除去量の変化を、処理時間によって示したグラフである。
【図8】実施例1〜3及び比較例1の各セルを通過した流出水のイオン伝導度を、処理時間によって示したグラフである。
【図9】実施例1〜3及び比較例1の各セルの静電容量を処理時間によって示したグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次いで、添付した図面を参照して本発明の一具現例による脱イオン装置について詳細に説明する。
【0034】
図1は、本発明の一具現例による脱イオン装置10を概略的に示した断面図であり、図2は、図1の脱イオン装置の脱イオン原理を説明するための図面であり、図3は、図1の脱イオン装置の電極再生原理を説明するための図面である。
【0035】
図1ないし図3を参照すれば、本発明の一具現例による脱イオン装置10は、流入水の流路11、一対の電荷障壁(charge barriers)12a、12b、電解質溶液14a、14bをそれぞれ含浸した一対の多孔性電極13a、13b及び一対の集電体15a、15bを備える。
【0036】
前記流入水は、流路11に流れ込んで脱イオン装置10により脱イオン化されるものであって、例えば、硬水でありうる。本明細書で、‘硬水’とは、カルシウムイオン及び/またはマグネシウムイオンを多量含有して滑らかな性質を持っており、かつ石鹸がよく解けない水を意味する。前記流路11に流れ込む前記流入水のイオン伝導度は、0.01mS/cmないし10mS/cmでありうる。前記流入水のイオン伝導度が前記範囲以内ならば、前記流入水からイオンを電気的に除去するのに必要な電荷量が低くて、投入エネルギー対比効率側面で経済的であり、流入水からイオンを除去するために高い電圧の印加が不要である。
【0037】
一対の電荷障壁12a、12bは、流路11を介して互いに離隔して対向するように配されて、後述する電極13a、13bを流路11に流れ込んだ流入水とイオン的に隔離させる。しかし、本発明がこれに限定されるものではなく、このような一対の電荷障壁12a、12bのうちいずれか一つが除去されてもよい(図4参照)。また、前記一対の電荷障壁12a、12bのうち1つは、陰イオン選択性透過膜、例えば、陰イオン交換膜であり、他の1つは、陽イオン選択性透過膜、例えば、陽イオン交換膜でありうる。前記陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜のイオン選択度は、例えば、それぞれ99ないし99.999%でありうる。前記陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜のイオン選択度がそれぞれ99%以上ならば、充電(すなわち、脱イオン)時に電極13a、13bの気孔内のコイオン放出を効果的に遮断できてイオン除去効率が高く、イオン選択度が99.999%を超過するイオン交換膜は製造し難い。
【0038】
電解質溶液14a、14bは、後述する各電極13a、13bの気孔内、及び選択的に各電極13a、13bと対応する電荷障壁12a、12bとの間に配されてイオン伝導媒体の役割を行う。
【0039】
前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液は、前記流入水と異なる。本明細書で、‘対比される二つの溶液が互いに異なる’とは、各溶液の構成成分の種類のうち少なくとも1つ及び/または各構成成分の単位体積当たり質量のうち少なくとも1つが互いに異なるということを意味し、‘対比される二つの溶液が互いに同一である’とは、各溶液の構成成分の種類及び各構成成分の単位体積当たり質量がいずれも同一であるということを意味する。
【0040】
例えば、前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の種類及び/または総濃度は、前記流入水に含まれたイオン種の種類及び/または総濃度と異なる。また、電解質溶液14aに含まれたイオン種の種類及び/または総濃度と、電解質溶液14bに含まれたイオン種の種類及び/または総濃度とは、互いに同一または異なる。本明細書で、‘電解質’とは、水などの溶媒に溶けてイオンに解離されて電流を流す物質を意味する。また本明細書で、‘イオン種の種類が互いに異なる’とは、対比される二つの溶液のうちいずれかの溶液に含まれたイオン種の集合が、他の溶液に含まれたイオン種の集合と異なるということを意味し、‘イオン種の種類が互いに同一である’とは、対比される二つの溶液のうちいずれかの溶液に含まれたイオン種の集合が、他の溶液に含まれたイオン種の集合と同一であるということを意味する。例えば、前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液に含まれた陽イオン種のうち少なくとも1つ(例えば、K)は、前記流入水に含まれたあらゆる陽イオン種(例えば、Mg2+、Ca2+)と異なるか、及び/または前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液に含まれた陰イオン種のうち少なくとも1つ(例えば、Cl)は、前記流入水に含まれたあらゆる陰イオン種(例えば、HCO2−)と互いに異なる。
【0041】
また、前記電解質溶液14a、14bは、それぞれ互いに独立的にKOH、NaOH、KCl、NaCl、HSO、HCl、NaSO、KSO、LiPF及びLiBFからなる群から選択された少なくとも1種の電解質に由来したイオン種を含むことができる。
【0042】
また、前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液は不純物を含まず、これに含まれたイオン種は後述する電極13a、13bの活物質の静電容量の発生に好適なものでありうる。このような特性を持つ電解質溶液14a、14bを含浸した電極13a、13bを備えることによって、脱イオン装置10は、電極活物質、集電体15a、15b及び電荷障壁12a、12bのように電解質溶液14a、14bと直接接触する装置材料の選定において、選択の幅が拡大して下記のような利点を得ることができる。
【0043】
(1)電解質と装置材料との組み合わせによって有害な反応が起きるオンセット電圧が変わる。過電圧による電解質の分解及び電極素材の分解は直ちに電極性能の劣化につながるので、該当材料に対して電位窓の広い電解質を採用することによって、装置の耐久性(サイクル性能)を向上させることができる。
【0044】
(2)電解質溶液内のイオン種によってイオン自体のサイズと、イオン及び水分子が形成する水和層のサイズとが変わるが、これにより水和されたイオンのサイズが気孔サイズに比べて過度に大きい時、多孔性電極の気孔(特に、メソポア及び気孔)内でイオンの移動速度が制約される。また、最近では、イオンの電荷量及びサイズが気孔内面の活用如何を決定する重要な要素であるという点も報告されている。したがって、活物質構造に適した電解質を選択することによって、電極の速度特性及び発生する静電容量の向上を図ることができる。
【0045】
(3)電解質溶液の組成及びpHを調節することによって、電極上に潜在的に発生しうるスケール形成問題を防止できる。
【0046】
一方、前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の総濃度が、前記流入水に含まれたイオン種の総濃度より高い場合、このような特性を持つ電解質溶液14a、14bを含浸した電極13a、13bを備えることによって、脱イオン装置10は下記のような理由で、活物質の静電容量の向上及び充放電速度特性の向上などの利点を得ることができる。
【0047】
(1)同じ活物質を使用しても、イオン種の総濃度によって発生する静電容量が変わる。例えば、多孔性炭素素材の場合、マイクロ及びナノサイズの気孔(pore)ネットワークがよく発達しているが、このような気孔内に十分な濃度のイオン種が浸透していない場合、吸着に必要なイオン種自体が足りなくて前記炭素素材の吸着面積の大部分が正常に活用されないため、静電容量が低減する。したがって、前記気孔内に十分な濃度の電解質を供給して、炭素素材が持っている静電容量の大部分または全部を使用できる。
【0048】
(2)気孔内のイオン種の量が十分な場合には、高速充放電が可能である。複雑なネットワークを構成する多孔性素材の場合、気孔内においてイオンの移動とともに発生する電気的抵抗は、素材の充放電速度特性を制約する一つの要素である。充放電速度特性は素材の気孔構造によっても影響されるが、電解質溶液のイオン伝導度の変化にも大きく影響される。具体的には、気孔内に高いイオン伝導度を持つ高濃度の電解質を供給して、素材が有する充放電速度特性を極限まで引き上げることができる。これにより、同じ過電圧で高電流を流すことができる。
【0049】
(3)電荷障壁と電解質溶液との間の界面特性を向上させることができる。電荷障壁と電解質溶液との間の界面への物質伝達(mass transfer、すなわち、イオン移動)が十分に速く行われなければ、前記界面で抵抗増加が発生しうる。したがって、電荷障壁の一面が高濃度の電解質成分と接すれば、特に放電時に、イオン供給不足による濃度分極現象を最小化できる。
【0050】
(4)前記(2)及び(3)の結果、脱イオン及び再生過程でエネルギー効率が改善される。
【0051】
(5)また、前記脱イオン装置10は下記数式1で表示される回収率を高めることができる。
【0052】
(数式1)
回収率(%)=精製水の総体積/脱イオン及び電極再生過程に投入された流入水の総体積×100
【0053】
前記流入水が硬水である場合、前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液に含まれたK及びClなどのイオン種の総濃度は、例えば、0.05ないし10Mでありうる。前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の総濃度が前記範囲以内ならば、対応する電極の気孔内イオン種の総濃度が高くなって、高速度の充放電時に対応する電極が高い静電容量を発生でき、イオン種の総濃度増加に対する対応する電極の充放電速度特性向上効果が顕著になりうる。また、このような前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液は酸を含み、pHが1ないし5でありうる。前記電解質溶液14a、14bのうち少なくとも一つの電解質溶液のpHが前記範囲以内ならば、対応する電極の表面で水分解が容易に起きないため、装置が安定的に動作でき、OHイオンとの結合によりCa2+やMg2+イオンを含む沈殿物が容易に生成されない。前記酸は、硬度成分イオンによる電極13a、13bの劣化を防止する役割を行うものであって、例えば、HCl、HNO、HSO及び/またはクエン酸などを含むことができる。
【0054】
また、本発明の一具現例による脱イオン装置10は、電解質溶液14a、14bを循環、補充及び/または交換できる装置(図示せず)をさらに備えることができる。
【0055】
前記一対の多孔性電極13a、13bは、一対または一つの電荷障壁12a、12bを介して互いに離隔して対向するように配されうる。前記各電極13a、13bは、前記各電荷障壁12a、12bと互いに離隔して対向するように配されうるが、この場合、電解質溶液14a、14bは、各電極13a、13bの気孔内及び各電極13a、13bと対応する電荷障壁12a、12bとの間に配されうる(図1〜図3)。また、前記各電極13a、13bは、対応する電荷障壁12a、12bと密着して配されてもよいが、この場合、電解質溶液14a、14bは各電極13a、13bの気孔内に配されうる(図4)。
【0056】
これら電極13a、13bのうち少なくとも一つの電極は、電気化学的酸化還元活物質を含む。本明細書で、‘電気化学的酸化還元活物質’とは、電流が正方向または逆方向に印加される時、前記物質と電解質溶液14a及び/または14b内のイオン種との間で電子移動が起きることによって、表面で不均一電荷伝達反応であるファラデー反応が起きて酸化状態が可逆的に変化する物質を意味する。
【0057】
このような電気化学的酸化還元活物質の可逆充放電容量は、電流が印加されても、ファラデー反応が起きていないその他の活物質の可逆充放電容量より大きい。したがって、前記電気化学的酸化還元活物質が脱イオン装置10に適用される場合、後述するように装置10の全体静電容量を大幅に増大させることができる。本明細書で、‘可逆充放電容量’とは、一定の電圧条件で活物質に充電される総電荷量、または前記充電後に前記活物質から放電される総電荷量を意味する。
【0058】
すなわち、2つのキャパシタが互いに直列に連結された場合、全体キャパシタの静電容量Cは下記数式2で表示されうる。
【0059】
【数1】

【0060】
前記式で、Cは、全体キャパシタの容量を、Cは、正極のキャパシタ容量を、Cは、負極のキャパシタ容量を表す。
【0061】
また前記式で、(i)CとCとが同一であれば(C=C)、Cは、CまたはCの半分にしかならないが(C=1/2C=1/2C)、(ii)CがCより非常に大きいか(C≫C)、またはCがCより非常に大きければ(C≪C)、Cは、CまたはCに近接する(C≒CまたはC≒C)。
【0062】
前記脱イオン装置10で、電極13a及び電極13bのうちいずれかの電極は電気化学的酸化還元活物質を含むが、他の電極は電気化学的酸化還元活物質を含まず、電気化学的酸化還元活物質ではない、その他の活物質を含むことができる。この場合、装置10の全体静電容量は、前記数式2によって、電気化学的酸化還元活物質を含む電極の静電容量とほぼ同一になる。
【0063】
また、前記脱イオン装置10で、電極13aは、充電時には酸化され、放電時には還元される電気化学的酸化還元活物質を含み、電極13bは、充電時には還元され、放電時には酸化される電気化学的酸化還元活物質を含むことができる。この場合、装置10の全体静電容量は、前記数式2により計算され、両電極13a、13bにそれぞれ含まれた電気化学的酸化還元活物質の静電容量が互いに同じ場合には、いずれかの電極の静電容量の半分と同一になる。このように両電極13a、13bのうち少なくとも一つの電極が、従来の電気吸着脱イオン装置に使われた前記その他の活物質の代りに電気化学的酸化還元活物質を含むことによって、脱イオン装置10の全体静電容量が増大して、電極の単位重量当たりまたは単位体積当たりイオン除去量が増大しうる。
【0064】
本明細書で、‘充電’とは、電極13aには(−)電位が印加され、電極13bには(+)電位が印加されることを意味し、‘放電’とは、電極13a及び電極13bが電気的に短絡されるか、または電極13aには(+)電位が印加され、電極13bには(−)電位が印加されることを意味する。
【0065】
前記電気化学的酸化還元活物質は、MnO、MnO(MはLi、NaまたはKと同じ金属元素、0<x≦1)、MnO(0<x≦1)、非晶質−MnO・nHO(0<x≦2、0≦n≦1)、MnO3、Ni(OH)、RuO、RuOH、TiO、PbO、NaWO、CaTiO、Pb、PbO、PbSO、Cd。Cd(OH)、NiOH、LaNi、金属水素化物、Si、SiO、Sn、LiMn、LiFePO及び炭素からなる群から選択された少なくとも1種の物質を含むことができる。
【0066】
前記その他の活物質は、電気二重層静電容量を持つ多孔性物質でありうる。本明細書で、‘電気二重層’とは、電解質溶液14a、14bを含浸した後、(+)または(−)に帯電された電極13a、13bに、前記電極13a、13bの極性と反対極性のイオン種が吸着して、各電極13a、13bと電解質溶液14a、14bとの間に形成されたコンデンサーのような電気的構造を持つ層を意味する。また、前記その他の活物質の静電容量は、電解質溶液として前記流入水(低濃度のイオン種を含有する硬水)の代りに、前述した電解質溶液14a、14b及び/または高濃度のイオン種を含有する硬水を使用することによって、30%以上増大させることができる。このようなその他の活物質は、活性炭、カーボンブラック、エアロゲル、カーボンナノチューブ(CNT)、メソポーラスカーボン、活性炭素繊維、黒鉛、黒鉛酸化物及び金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種を含むことができる。
【0067】
また、このような電極13a、13bは、ここでは分けて図示されていないが、それぞれバインダー及び導電助剤をさらに含むことができる。
【0068】
前記バインダーは、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを含むことができる。
【0069】
前記導電助剤は、カーボンブラック、VGCF(Vapor Growth Carbon Fiber)、黒鉛及びこれらのうち2つ以上の混合物を含むことができる。
【0070】
一対の集電体15a、15bは、外部電源(図示せず)にそれぞれ電気的に連結されて一対の電極13a、13bに電圧を印加する役割を行うものであって、各電極13a、13bの一面、すなわち、流路11と反対側面に1つずつ配される。このような集電体15a、15bは、黒鉛プレートまたはグラファイトホイールであるか、またはCu、Al、Ni、Fe、Co及びTiからなる群から選択された少なくとも1種の金属、金属混合物または合金を含むことができる。
【0071】
本発明の一具現例による脱イオン装置10は、流路11を形成するスペーサ16、及び選択的に各電極13a、13bと対応する電荷障壁12a、12bとの間の空間を形成するスペーサ(図示せず)をさらに備えることができる。このようなスペーサ(図示せず)はイオン透過性及び電子絶縁性であって、オープンメッシュまたはフィルタなどでありうる。
【0072】
以下、図2及び図3を参照して、脱イオン装置10の作動原理を詳細に説明する。
【0073】
一例として、電極13aは活物質として活性炭を含み、電極13bは活物質としてMnO(0<x≦1)またはNi(OH)を含む場合、充放電時に電極13bでは、下記の反応式1または反応式2のようなファラデー反応が起きる。この時、電解質溶液14aは、KCl水溶液を含むことができ、電解質溶液14bは、NaSO水溶液またはKOH水溶液を含むことができる。
【0074】
(反応式1)
(1回充電時)MnO→MnO+xH+e、0<x≦1
(放電時)MnO+Na+e→MnONa
(2回充放電時から)MnONa⇔MnO+Na+e
【0075】
(反応式2)
Ni(OH)+OH⇔NiOH+HO+e
【0076】
まず、図2を参照すれば、活性炭電極13aは(−)に帯電され、MnO(0<x≦1)またはNi(OH)電極13bは(+)に帯電される。この時、活性炭電極13aには陽イオン種(例えば、K)が吸着され、電荷平衡を維持するために、KCl水溶液のような電解質溶液14aには、陽イオンが導入されるか、または陰イオンが除去されねばならない。ところが、電解質溶液14aは、陽イオン交換膜のような電荷障壁12aにより隔離されていて、電解質溶液14aと流入水との間に移動できるイオン種は陽イオンのみであるので、流入水から電解質溶液14aに陽イオン(例えば、Ca2+、Mg2+)が移動しつつ流入水中の陽イオンが除去される。これとは異なって、MnO電極13bの場合には電極13b内のMnOが解離されて(MnO→MnO+xH+e(0<x≦1))、Ni(OH)電極13bの場合には、電極13b内のNi(OH)が隣接するイオン種(OH)と電気化学的に反応する(Ni(OH)+OH→NiOH+HO+e)。この時、Ni(OH)電極13bの場合には、電解質溶液14b中の陰イオン種(OH)の濃度が陽イオン種(K)の濃度より低くなるので、電荷平衡を維持するために、KOH水溶液のような電解質溶液14bには陰イオンが導入されるか、または陽イオンが除去されねばならない。ところが、電解質溶液14bは、陰イオン交換膜のような電荷障壁12bにより隔離されていて、電解質溶液14bと流入水との間に移動できるイオン種は陰イオンのみであるので、流入水から電解質溶液14bに陰イオン(例えば、OH、Cl)が移動しつつ流入水中の陰イオンが除去される。また、MnO電極13bの場合には、1回目の充放電時に電極13b内のMnOがMnONaに変化して、2回目の充電時からはこのMnONaが解離される(MnONa→MnO+Na+e)。この時、電解質溶液14b中の陽イオン種(Na/H)の濃度が陰イオン種(SO2−)の濃度より高くなるので、電荷平衡を維持するために、NaSO水溶液のような電解質溶液14bには陰イオンが導入されるか、または陽イオンが除去されねばならない。ところが、電解質溶液14bは、陰イオン交換膜のような電荷障壁12bにより隔離されていて、電解質溶液14bと流入水との間に移動できるイオン種は陰イオンのみであるので、流入水から電解質溶液14bに陰イオン(例えば、OH、Cl)が移動しつつ、流入水中の陰イオンが除去される。図2のような操作を充電といい、これによって流入水の脱イオン化が行われる。このような充電による相対イオン除去量は、脱イオン装置10に流れ込む流入水のイオン伝導度、及び脱イオン装置10から排出される流出水のイオン伝導度を処理時間によって測定して、下記数式3により得られる。
【0077】
(数式3)
相対イオン除去量=電極面積当たり、電極厚さ当たりイオン除去量(mS・mL/μm・cm)=処理時間による(流入水のイオン伝導度−流出水のイオン伝導度)曲線を所定処理時間積分した値×(流入水の流速)/(電極の面積)/(電極の厚さ)
【0078】
次いで、図3を参照すれば、活性炭電極13aは(+)に帯電され、MnOまたはNiOH電極13bは(−)に帯電される。ここで、図2のMnOまたはNi(OH)電極13bは、それぞれMnOまたはNiOH電極13bに変更されて描かれているが、これは、図2の充電操作により、電極13bのMnOまたはNi(OH)がそれぞれMnOまたはNiOHに変化したためである。この時、活性炭電極13aからは陽イオン(例えば、Ca2+、Mg2+)が脱着されて、陽イオン交換膜のような電荷障壁12aを通じて流出水に排出される。またこの時、MnO電極13bの場合には、MnOとNaとが電気化学的に反応し(MnO+Na+e→MnONa)、NiOH電極13bの場合には、NiOHと水とが電気化学的に反応する(NiOH+HO+e→Ni(OH)+OH)。前記のように(−)に帯電された電極13bにおける電気化学的反応によって、電解質溶液14b中の陽イオン種(NaまたはK)の濃度が陰イオン種(SO2−またはOH)の濃度より低くなるか、または陰イオン種(SO2−またはOH)の濃度が陽イオン種(NaまたはK)の濃度より高くなって、電荷平衡を維持するためにNaSOまたはKOHのような電解質溶液14bには、陽イオンが導入されるか、または陰イオンが除去されねばならない。ところが、電解質溶液14bは、陰イオン交換膜のような電荷障壁12bにより隔離されていて、電解質溶液14bと流入水との間に移動できるイオン種は陰イオンのみであるので、電解質溶液14bから流入水に陰イオン(例えば、OH、Cl)が移動して、流出水と共に排出される。図3のような操作を放電といい、これによって電極13a、13bの再生が行われる。電極13a、13bの再生程度は、脱イオン装置10から排出される流出水のイオン伝導度を測定することにより確認されうる。
【0079】
図4は、本発明の他の具現例による脱イオン装置を概略的に示した断面図である。
【0080】
以下、図4を参照して、本発明の他の具現例による脱イオン装置を、図1の脱イオン装置と比較して説明する。ただし、図4に図示された脱イオン装置の具体的な構成及び作動原理は、前述した図1ないし図3について説明したものと類似しているので、ここでは、これについての詳細な説明を省略する。
【0081】
図4の脱イオン装置20が図1の脱イオン装置10と異なる点は、陽イオン交換膜のような電荷障壁22が対応する電極23aに密着して配され、電極23bに対応する電荷障壁が存在せず、電解質24が対応する電極23aの気孔のみに位置するということである。充電時電極23aは負極または正極として作用でき、電極23bは正極または負極として作用できる。また、このような脱イオン装置20は、流入水の流路21を形成するセパレータ26及び各電極23a、23bの一面に配された集電体25a、25bを備えることができる。
【0082】
図1ないし図4には、1個の流路、一対または一つの電荷障壁、一対の電解質溶液、一対の電極及び一対の集電体を備える脱イオン装置のみ図示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の他の具現例は、特許文献1に開示された電気吸着脱イオン装置と類似した形態の脱イオン装置であって、互いに対応する2つの電極のうち少なくとも一つの電極が前述した電気化学的酸化還元活物質を含む装置を提供する。
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、これは例示的なものに過ぎず、本発明が下記の実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
(実施例)
(電極の製造)
製造例1:活性炭電極の製造
攪拌容器に、活性炭(大阪ガスのPC)45g、カーボンブラック5g、60重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水懸濁液4.17g及びプロピレングリコール100gを投入し、練った後、プレッシングした。次いで、前記結果物をオーブンで80℃で1時間、120℃で1時間及び200℃で1時間乾燥して電極を完成した。次いで、前記電極を面積10cm×10cm(100cm)のサイズに切って3枚を用意し、それぞれの重さを測定した。前記電極の厚さは510μmであり、前記電極の重さは1枚当たり2.7gであった。
【0085】
製造例2:MnO(x=0.3)電極の製造
攪拌容器に、過マンガン酸カリウム6.636g及び脱イオン水350mLを投入した後、1時間攪拌した。次いで、前記攪拌容器にカーボンブラック4.81gをさらに投入した後、1時間攪拌しつつ超音波(40kHz)を照射した。次いで、前記攪拌容器に硫酸マンガン一水和物水溶液(硫酸マンガン一水和物16.23gを脱イオン水420mLに入れて1時間攪拌して製造した水溶液)を追加した後、24時間攪拌した。次いで、前記攪拌容器内に形成された固形粒子を脱イオン水で洗浄し、110℃で12時間乾燥して固形粉末を得た。次いで、前記固形粉末10.5gとカーボンブラック0.58gとをよく混合した後、前記混合物を60重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水懸濁液0.97g及びプロピレングリコール20gと混合し、練った後、プレッシングした。次いで、前記結果物をオーブンで80℃で1時間、120℃で1時間及び200℃で1時間乾燥して電極を完成した。次いで、前記電極を面積10cm×10cm(100cm)のサイズに切って1枚を用意し、その重さを測定した。前記電極の厚さは430μmであり、前記電極の重さは2.9gであった。
【0086】
製造例3:Ni(OH)電極の製造
攪拌容器に、Ni(OH)(田中ケミカル)10.32g、カーボンブラック3.68g、60重量%のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水懸濁液1.23g及びプロピレングリコール15gを投入し、練った後、プレッシングした。次いで、前記結果物をオーブンで80℃で1時間、120℃で1時間及び200℃で1時間乾燥して電極を完成した。次いで、前記電極を面積10cm×10cm(100cm)のサイズに切って2枚を用意し、その重さを測定した。前記電極の厚さは430μmであり、前記電極の重さは1枚当たり3.4gであった。
【0087】
実施例1:活性炭電極−MnO(x=0.3)電極を備えるセルの製造
(1)前記製造例1で製造した活性炭電極1枚を、電解質溶液(0.5M KCl水溶液)に入れて真空含浸させた。さらに、前記製造例2で製造したMnO電極を電解質溶液(0.5M NaSO水溶液)に入れて真空含浸させた。
【0088】
(2)集電体(黒鉛プレート)→(1)の活性炭電極→陽イオン交換膜(ASTOM Neosepta CMX)→セパレータ(透水性のオープンメッシュ)→陰イオン交換膜(ASTOM Neosepta AMX)→(1)のMnO電極→集電体(黒鉛プレート)順に積層した後、ねじを使用してセルを結合させた。
【0089】
(3)活性炭電極と陽イオン交換膜との間に電解質溶液(0.5M KCl水溶液)を注入し、MnO電極と陰イオン交換膜との間に電解質溶液(0.5M NaSO水溶液)を注入した。
【0090】
実施例2:活性炭電極−Ni(OH)電極を備えるセルの製造
前記製造例2で製造したMnO電極及び電解質溶液(0.5M NaSO水溶液)の代りに、前記製造例3で製造したNi(OH)電極及び電解質溶液(3M KOH水溶液)を使用したことを除いては、前記実施例1と同じ方法でセルを製造した。
【0091】
実施例3:MnO(x=0.3)電極−MnO(x=0.3)電極を備えるセルの製造
前記製造例1で製造した活性炭電極及び電解質溶液(0.5M KCl水溶液)の代りに、前記製造例2で製造したMnO(x=0.3)電極及び電解質溶液(0.5M NaSO水溶液)を使用したことを除いては、前記実施例1と同じ方法でセルを製造した。
【0092】
比較例1:活性炭電極−活性炭電極を備えるセルの製造
前記製造例2で製造したMnO電極及び電解質溶液(0.5M NaSO水溶液)の代りに、前記製造例1で製造した活性炭電極及び電解質溶液(0.5M KCl水溶液)を使用したことを除いては、前記実施例1と同じ方法でセルを製造した。
【0093】
(評価例)
評価例1:電極の相対静電容量の評価
製造例1〜3で製造した各電極の可逆充放電容量を、循環電圧−電流測定装置(Solatron、SI 1287)を使用して下記条件で測定した後、その結果を下記の表1及び図5に示した。図5で、各循環電圧−電流曲線の内部面積は、各電極の可逆充放電容量に比例する。
(1)基準電極:Ag/AgCl(wonatech、RE−5B)
(2)相対電極:白金電極(自体製作)
(3)電解質溶液:0.5M KCl水溶液(活性炭電極)、0.5M NaSO水溶液(MnO電極)、3M KOH水溶液(Ni(OH)電極)
【0094】
【表1】

【0095】
前記表1及び図5を参照すれば、MnO電極及びNi(OH)電極は、活性炭電極に比べて電極の単位面積当たり、電極厚さ当たり可逆充放電容量が5倍以上大きいことが分かった。
【0096】
評価例2:セルの性能評価
実施例1〜2及び比較例1で製造したそれぞれのセルを下記条件で運転した。
【0097】
(1)セルの運転は常温で、流入水が十分に供給される状態で進めた。
【0098】
(2)流入水としてはIEC 60734基準硬水(1050uS/cm)を使用し、流速を17mL/minに調節した。
【0099】
(3)以下では、便宜のため、陽イオン交換膜と当接している電極を負極、陰イオン交換膜と当接している電極を正極と称し、下記のような充放電過程を繰り返して行った。まず、(i)各電極に電源を連結して、セル電圧を定電圧(1.7V)に11分間維持して流入水の脱イオン化を行った(これを充電過程という)。(ii)次いで、10秒間休止させた。(iii)次いで、セル電圧を、充電電荷量が全部放電されるまで逆電圧(−0.8V)に維持して放電(すなわち、電極再生)を進めた(これを放電過程という)。
【0100】
(4)前記各セルを通過した流出水のイオン伝導度をイオン伝導度計(HORIBA、D−54、センサー:3561−10D)を使用して、運転中にリアルタイムで測定した。
【0101】
(5)電源を通じて供給した電流量から、処理時間による充電電荷量を測定した。
【0102】
一方、実施例3で製造したセルは、充電過程でセル電圧を定電圧(1.7V)に13分20秒間維持して流入水の脱イオン化を行ったことを除いては、実施例1〜2及び比較例1と同一に運転した。
【0103】
図6は、実施例1〜3及び比較例1で製造した各セルの相対イオン除去量の変化を、充放電サイクル数によって示したグラフであり、図7は、実施例1〜3及び比較例1で製造した各セルの相対イオン除去量の変化を、処理時間によって示したグラフである。図6で、右側縦軸は、実施例1〜3及び比較例1で製造した各セルの相対イオン除去量を、比較例1で製造したセルの1回充放電時、相対イオン除去量に対する百分率で示したものである。
【0104】
図6及び図7を参考にすれば、実施例1〜3で製造した各セルの相対イオン除去量は、比較例1で製造したセルの相対イオン除去量に比べて充放電サイクル当たり40%以上多いことが分かった。
【0105】
図8は、実施例1〜3及び比較例1の各セルを通過した流出水のイオン伝導度を処理時間に対して示したグラフであり、図9は、実施例1〜3及び比較例1の各セルの静電容量を処理時間によって示したグラフである。図9の静電容量は、充放電器(製造社:Wonatec、モデル:WMPG1000)を使用して、1.7V(充電時)または−0.8V(放電時)の定電圧下で投入されるか、または放出された総電荷量を測定することにより測定された。
【0106】
図8及び図9を参照すれば、実施例1〜3で製造した各セルは、比較例1で製造したセルに比べて充電時に脱イオン量が多くて脱イオン維持時間が長く、かつ放電時の電極再生時間が大体短いということが分かった。したがって、実施例1〜3で製造した各セルの回収率は、比較例1で製造したセルの回収率より高いということが容易に予想できる。
【0107】
以上、添付図面を参照して本発明による望ましい具現例が説明されたが、これは例示的なものに過ぎず、当業者ならば、これから多様な変形及び均等な他の具現例が可能であるという点を理解できるであろう。したがって、本発明の保護範囲は特許請求の範囲によって定められねばならない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、脱イオン装置関連の技術分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0109】
10 脱イオン装置
11 流路
12a、12b 電荷障壁
13a、13b 多孔性電極
14a、14b 電解質溶液
15a、15b 集電体
16 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入水が流れる少なくとも一つの流路と、
少なくとも一対の電極と、
前記少なくとも一つの流路と該流路と対応する前記少なくとも一対の電極のうち少なくとも一つの電極との間に配された少なくとも一つの電荷障壁と、
前記少なくとも一対の電極のうち少なくとも一つの電極と該電極と対応する前記電荷障壁との間に配された少なくとも一つの電解質溶液を備え、
前記少なくとも一対の電極のうち少なくとも一つの電極は、電気化学的酸化還元活物質を含み、
前記少なくとも一つの電解質溶液は、前記流入水と異なる脱イオン装置。
【請求項2】
少なくとも一対の第1電極及び第2電極を備え、前記少なくとも一つの第1電極は、充電時には酸化され、放電時には還元される電気化学的酸化還元活物質を含み、前記第1電極と対応する前記第2電極は、充電時には還元され、放電時には酸化される電気化学的酸化還元活物質を含む脱イオン装置。
【請求項3】
前記電気化学的酸化還元活物質は、MnO、MnO(MはLi、NaまたはK、0<x≦1)、MnO(0<x≦1)、非晶質−MnO・nHO(0<x≦2、0≦n≦1)、Mn、Ni(OH)、RuO、RuOH、TiO、PbO、NaWO、CaTiO、Pb、PbO、PbSO、Cd、Cd(OH)、NiOH、LaNi、金属水素化物、Si、SiO、Sn、LiMn、LiFePO及び炭素からなる群から選択された少なくとも1種の物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項4】
少なくとも一対の第1電極及び第2電極を備え、前記少なくとも一つの第1電極は電気化学的酸化還元活物質ではない、その他の活物質を含み、前記第1電極と対応する前記第2電極は電気化学的酸化還元活物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項5】
前記電気化学的酸化還元活物質の可逆充放電容量は前記その他の活物質の可逆充放電容量より大きいことを特徴とする請求項4に記載の脱イオン装置。
【請求項6】
前記その他の活物質は、活性炭、カーボンブラック、エアロゲル、カーボンナノチューブ(CNT)、メソポーラスカーボン、活性炭素繊維、黒鉛、黒鉛酸化物及び金属酸化物からなる群から選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項4に記載の脱イオン装置。
【請求項7】
前記少なくとも一つの電極は、バインダー及び導電助剤をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項8】
前記少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の種類は、前記流入水に含まれたイオン種の種類と異なることを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項9】
前記少なくとも一つの電解質溶液に含まれたイオン種の総濃度は、前記流入水に含まれたイオン種の総濃度より高いことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項10】
前記少なくとも一つの電荷障壁は、陽イオン選択性透過膜または陰イオン選択性透過膜であることを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項11】
前記少なくとも一つの電極及び該電極と対応する前記電荷障壁は、互いに離隔して対向するように配されたことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項12】
前記少なくとも一つの電極と該電極と対応する前記電荷障壁とを分離させる少なくとも一つのスペーサをさらに備えることを特徴とする請求項11に記載の脱イオン装置。
【請求項13】
前記少なくとも一つの電極及び該電極と対応する前記電荷障壁は、互いに密着して配され、前記電解質溶液は前記少なくとも一つの電極の気孔内に配されたことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項14】
前記少なくとも一つの電荷障壁は、イオン交換膜であることを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項15】
前記少なくとも一つの電解質溶液は、KOH、NaOH、KCl、NaCl、HSO、HCl、NaSO、KSO、LiPF及びLiBFからなる群から選択された少なくとも1種の電解質から由来したイオン種を含むことを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項16】
前記少なくとも一つの流路を形成する少なくとも一つのスペーサをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項17】
前記少なくとも一対の電極と対応する前記流路と反対側電極面に配された少なくとも一つの集電体をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の脱イオン装置。
【請求項18】
流入水が流れる少なくとも一つの流路と、
少なくとも一対の第1電極及び第2電極と、
前記少なくとも一つの流路と該流路と対応する前記第1電極との間に配された少なくとも一つの第1電荷障壁と、
前記少なくとも一つの流路と該流路と対応する前記第2電極との間に配された少なくとも一つの第2電荷障壁と、
前記少なくとも一つの第1電極と該第1電極と対応する前記第1電荷障壁との間に配された少なくとも一つの第1電解質溶液と、を備え、
前記少なくとも一対の第1電極及び第2電極からなる群から選択された少なくとも一つの電極は、電気化学的酸化還元活物質を含み、
前記少なくとも一つの第1電解質溶液は前記流入水と異なる脱イオン装置。
【請求項19】
前記少なくとも一つの第1電荷障壁は陽イオン選択性透過膜であり、前記少なくとも一つの第2電荷障壁は陰イオン選択性透過膜であることを特徴とする請求項18に記載の脱イオン装置。
【請求項20】
前記少なくとも一つの第2電極と該第2電極と対応する前記第2電荷障壁との間に配された少なくとも一つの第2電解質溶液をさらに備え、
前記少なくとも一つの第2電解質溶液は前記第1電解質溶液と同一または異なり、
前記少なくとも一つの第2電極及び該第2電極と対応する前記第2電荷障壁は、互いに離隔して対向するように配されるか、または互いに密着して配されたことを特徴とする請求項18に記載の脱イオン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−140018(P2011−140018A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271550(P2010−271550)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do,Republic of Korea
【Fターム(参考)】