説明

脱シリル化物の製造方法及び脱シリル化剤

【課題】新規な脱シリル化剤とそれを用いた脱シリル化反応を提供する。
【解決手段】本発明の方法では、フッ化ピッチなどの層状フッ素化芳香族化合物を用いて、シリルエノールエーテルなどのシリル基含有化合物を脱シリル化し、シリル基含有化合物の脱シリル化物を製造できる。また、アルドール反応を進行させることもでき、アルドール反応生成物を得ることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状フッ素化芳香族化合物(フッ化ピッチなど)の有機合成への新規な利用用途、例えば、脱シリル化反応やアルドール反応への利用用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ピッチには撥水性などの性質を付与する効果があり、そのための利用用途が知られている。例えば、特開2002−155146号公報(特許文献1)には、フッ化ピッチの存在下、モノマーを重合させ、フッ化ピッチに由来する撥水性ユニットを化学的結合によりポリマー中に導入した撥水性ポリマーの製造方法が開示されている。
【0003】
また、特開平6−128489号公報(特許文献2)には、アミノ基やイミノ基を有するポリマーとフッ化ピッチとを含む樹脂組成物を加熱してポリマーとフッ化ピッチとを反応させて、撥水性などに優れたフッ素系重合体を製造することが開示されている。このように、フッ化ピッチは、ポリマーにフッ素を導入し、撥水性などの性質を付与する目的で利用される場合が多い。
【0004】
一方、フッ化ピッチの存在下、不飽和結合含有化合物にハロゲン化フルオロアルキル(ヨウ化フルオロアルキルなど)を付加し、フルオロアルキル基含有化合物を製造する方法が知られている。例えば、特開平11−279087号公報(特許文献3)には、フッ化ピッチの存在下、炭素−炭素三重結合を有するアルキン類にハロゲン化フルオロアルキルを付加して炭素−炭素二重結合を有するオレフィン類を得ることなどが開示されている。この方法では、フッ化ピッチは、不飽和結合含有化合物に対するハロゲン化フルオロアルキルの付加反応触媒として機能している。
【0005】
その他に、例えば、特開平11−279147号公報(特許文献4)には、フッ化ピッチの存在下、鎖状又は環状構造を有するアミン化合物を酸化して対応するニトロン化合物を得ることも開示されている。この方法では、フッ化ピッチは、アミン化合物の酸化反応触媒として機能している。
【0006】
以上のように、フッ化ピッチは、その撥水性などの性質をポリマーなどに付与する利用例は多いものの、有機合成反応への応用例は僅かである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−155146号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−128489号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−279087号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平11−279147号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、新規な脱シリル化剤、及びこの脱シリル化剤を用いた脱シリル化物の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、シリルエノールエーテルなどのシリル基含有化合物を効率よく脱シリル化できる脱シリル化剤、及びこの脱シリル化剤を用いた脱シリル化物の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、脱シリル化のみならず、アルドール反応も触媒する脱シリル化剤、及びこの脱シリル化剤を用いた脱シリル化物(およびアルドール反応物)の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、取扱性や操作性に優れ、温和な条件下で効率よく脱シリル化(さらにはアルドール反応)可能な脱シリル化剤、及びこの脱シリル化剤を用いた脱シリル化物(およびアルドール反応物)の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意検討した結果、フッ化ピッチなどの層状フッ素化芳香族化合物が、フッ素アニオン源として作用するためか、シリル基含有化合物の脱シリル化反応に有用であること、また、脱シリル化のみならずアルドール反応においても触媒として機能すること、さらにはこのような層状フッ素化芳香族化合物は、慣用の脱シリル化剤(例えば、テトラブチルアンモニウムフルオライドなど)に比べ、取扱性や操作性に優れ、しかも、安定性に優れており、温和な条件下であっても脱シリル化物やアルドール反応物を効率よく得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の製造方法は、層状フッ素化芳香族化合物を用いてシリル基含有化合物を脱シリル化する工程を含む脱シリル化物の製造方法である。
【0014】
前記方法は、例えば、層状フッ素化芳香族化合物の存在下、下記式(A)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で表されるシリルエノールエーテルを脱シリル化し、少なくとも下記式(B)
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、R、R及びRは、前記に同じ。)
で表されるカルボニル化合物を得る方法であってもよい。
【0019】
また、前記方法は、層状フッ素化芳香族化合物の存在下、前記式(A)で表されるシリルエノールエーテルを脱シリル化し、前記式(B)で表されるカルボニル化合物とともに、下記式(C)
【0020】
【化3】

【0021】
(式中、R、R及びRは、前記に同じ。)
で表される化合物を得る方法であってもよい。
【0022】
出発物質として前記(A)で表されるシリルエノールエーテルを使用する前記製造方法では、Rがアリール基であり、R及びRが水素原子であってもよい。
【0023】
前記製造方法は、層状フッ素化芳香族化合物の存在下、下記式(D)
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、R、R、R及びRは、前記に同じ。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。)
で表されるシリルエノールエーテルと下記式(E)
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示し、Rは、前記に同じ。)
で表されるカルボニル化合物とを反応させ、少なくとも下記式(F)
【0028】
【化6】

【0029】
(式中、R、R、R及びRは、前記に同じ。)
で表される化合物を得る方法であってもよい。
【0030】
このような製造方法において、Rはアリール基であってもよい。
【0031】
前記方法は、層状フッ素化芳香族化合物の存在下、下記式(G)
【0032】
【化7】

【0033】
(式中、R、R、Rは、前記に同じ。R14、R15及びR16は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R14及びR16は、互いに直接結合して隣接する炭素原子とともに三重結合を形成してもよく、又は隣接する炭素原子とともに炭化水素環を形成してもよい。)
で表されるシリル基含有化合物を脱シリル化し、下記式(H)
【0034】
【化8】

【0035】
(式中、R14、R15及びR16は、前記に同じ。)
で表される化合物を得る方法であってもよい。
【0036】
本発明の方法において、R、R及びRはアルキル基であってもよい。また、前記層状フッ素化芳香族化合物は、特に、フッ化ピッチであってもよい。さらに、本発明の方法は、反応(脱シリル化反応、脱シリル化反応及びアルドール反応など)[又は反応基質(シリル基含有化合物など)]に不活性で、かつ層状フッ素化芳香族化合物を分散又は溶解可能な溶媒中で反応させてもよい。このような溶媒は、例えば、含フッ素芳香族炭化水素類であってもよい。
【0037】
本発明には、シリル基含有化合物の脱シリル化反応に用いられる脱シリル化剤であって、層状フッ素化芳香族化合物で構成された脱シリル化剤も含む。このようなシリル化剤は、少なくとも脱シリル化反応の触媒として機能すればよく、脱シリル化反応に加えて、アルドール反応を触媒してもよい。
【発明の効果】
【0038】
本発明では、層状フッ素化芳香族化合物(フッ化ピッチなど)を新規な有機合成反応への用途、すなわち、脱シリル化剤として適用できる。このような層状フッ素化芳香族化合物を脱シリル化剤として用いると、シリルエノールエーテルなどのシリル基含有化合物の脱シリル化反応を効率よく行うことができる。また、層状フッ素化芳香族化合物は、シリルエノールエーテルなどの脱シリル化反応だけでなく、アルドール反応にも触媒として機能でき、脱シリル化物(例えば、カルボニル化合物)及びアルドール反応物を製造できる。さらに、層状フッ素化芳香族化合物(特に固体状の層状フッ素化芳香族化合物)は、取扱性や操作性に優れ、温和な条件下で効率よく脱シリル化(さらにはアルドール反応)可能である。そのため、コンビナトリアルケミストリーに好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明では、層状フッ素化芳香族化合物を用いてシリル基含有化合物(シリルエノールエーテルなど)を脱シリル化する工程を含む方法により、前記シリル基含有化合物の脱シリル化物を得る。すなわち、本発明では、層状フッ素化芳香族化合物は、脱シリル化反応を進行させる脱シリル化剤として機能する。また、層状フッ素化芳香族化合物は、脱シリル化反応に加えて、さらに脱シリル化により生成したアニオンが求核剤として作用する種々の反応(例えば、アルドール反応)を進行させる触媒としても機能する。
【0040】
層状フッ素化芳香族化合物とは、層状構造を有し、かつフッ素原子を含有する芳香族化合物をいい、例えば、2以上の縮合炭素6員環を有する層状フッ素化芳香族化合物(層状構造を構成する2以上の縮合炭素6員環を有し、かつフッ素原子を含有する芳香族化合物)が挙げられる。2以上の縮合炭素6員環を有する層状フッ素化芳香族化合物としては、例えば、フッ化ピッチ(固体状又は液状フッ化ピッチなど);フッ化黒鉛などが含まれる。
【0041】
フッ化ピッチについて、フッ素化に供されるピッチとしては、石油蒸留残渣、ナフサ熱分解残渣、エチレンボトム油、石炭液化油、コールタールなどの石油系又は石炭系重質油を蒸留し沸点200℃未満の低沸点成分を除去したピッチ、さらにこのピッチに熱処理や水添処理などを施したものなどが挙げられる。より具体的には、ピッチには、例えば、等方性ピッチ、メソフェーズピッチ、水素化メソフェーズピッチ、石油系又は石炭系重質油を蒸留し低沸点成分を除去した後、生成したメソフェーズ球体からなるメソカーボンマイクロビーズなどが含まれる。
【0042】
前記フッ化ピッチは、例えば、組成式CF(式中、xは、0.5<x<1.8である(例えば、0.5<x<1.6))で表される組成を有する化合物である。なお、フッ化ピッチは、水素原子を含んでもよい。
【0043】
フッ化ピッチでは、通常、共有結合により、各炭素原子に1〜3個程度のフッ素が強固に結合している。このようなフッ化ピッチは、フッ化黒鉛に類似した層状構造を有し、褐色乃至黄白色、黄白色乃至白色、又は透明などの色調を呈し、自己潤滑性、耐水性、耐薬品性、撥水性、撥油性、非粘着性などの諸特性に優れるとともに、空気中でも非常に安定な化合物である。
【0044】
フッ化ピッチは、室温で固体状フッ化ピッチであってもよく、液体状フッ化ピッチであってもよい。固体状フッ化ピッチは、特開昭62−275190号公報に記載された方法に準じて、例えば、石炭系又は石油系のピッチとフッ素とを0〜350℃程度の温度で反応させることにより得られる。得られたフッ化ピッチは、実質的に炭素原子及びフッ素原子からなり、F/C原子比は、例えば、0.5〜1.8、好ましくは0.7〜1.8程度である。固体状フッ化ピッチは、例えば、次の(1)〜(4)の特性を示す。(1)粉末X線回折において2θ=13°付近に最大強度のピークを示し、2θ=40°付近に前記2θ=13°付近のピークよりも強度の小さいピークを示す。(2)X線光電子分光分析において、290.0±1.0eVにCF基に相当するピーク、及び292.5±0.9eV付近にCF基に相当するピークを示し、CF基に相当するピークに対するCF基に相当するピークの強さの比が0.15〜1.5程度である。(3)真空蒸着によって膜を形成することができる。(4)30℃において水に対する接触角が141°±8°である。前記固体状フッ化ピッチは、通常、白色乃至黄白色もしくは褐色の固体であるが、製法によっては透明な樹脂状フッ化ピッチも得られる。また、固体状フッ化ピッチは、溶媒に溶解する性質がある。
【0045】
液状フッ化ピッチは、特開平2−271907号公報に記載された方法に準じて、例えば、ピッチをフッ素雰囲気下で約200〜550℃の最終加熱温度に昇温しながらフッ素と反応させる方法、フッ化ピッチを、フッ素雰囲気下、液状フルオロカーボンに転化する温度であって、550℃以下の温度で熱処理する方法などにより得ることができる。室温で液状のフッ化ピッチは、通常、無色透明であり、実質的に炭素原子及びフッ素原子からなり、二重結合が存在しない。液状フッ化ピッチは、例えば、次の(1)〜(5)の特性を示す。(1)F/C原子比は、例えば1.5〜1.93程度である。(2)赤外線吸収スペクトルにおいて、1215±7cm−1付近に最も強い吸収ピーク(α)、1025±7cm−1付近にピーク(α)よりも低い強度の吸収ピーク(β)、971±7cm−1付近にピーク(β)よりも低い強度の吸収ピーク(γ)を示す。(3)蒸気圧浸透法による数平均分子量が680〜950程度である。(4)熱分析において、420℃まで発熱しながら重量が減少し、420℃で100%の重量が減少する。(5)19F−NMRスペクトルにおいて、液状フッ化ピッチは、ベンゾトリフルオライドのCF基をケミカルシフトの基準として、ケミカルシフトが0〜−30ppmの範囲にCFCF基及びCFCF基にそれぞれ対応する2つのピーク、−30〜−90ppmの位置にCF基に対応するブロードなピーク、−100〜−150ppmの位置にCF基に対応するピークを示す。
【0046】
また、市販品のフッ化ピッチ(例えば、大阪ガスケミカル(株)社製)を用いることもできる。
【0047】
フッ化黒鉛は、黒鉛構造を有する炭素材(天然又は合成グラファイト、黒鉛構造を有する焼成炭素材など)をフッ素化することにより得られる。
【0048】
層状フッ素化芳香族化合物は、一種又は二種以上混合して使用できる。層状フッ素化芳香族化合物のうち、反応性などの点でフッ化ピッチ(例えば、固体状フッ化ピッチ、液状フッ化ピッチ)が好ましく、特に固体状のフッ化ピッチが好ましい。このような固体状のフッ化ピッチは、取扱性に優れ、反応混合物から濾過などにより容易に分離除去できるため操作性の点でも優れている。
【0049】
なお、層状フッ素化芳香族化合物は、脱シリル化反応において、フッ素アニオン(F)源として作用するようである。一方、脱シリル化において、テトラブチルアンモニウムフルオライドなどがフッ素アニオン源として作用することが知られているが、このようなフッ素アニオン源は、不安定であり、また、反応の進行が早く、穏やかな条件下で反応を行うことが難しい。一方、層状フッ素化芳香族化合物は、比較的安定であり、また、徐々にフッ素アニオンを反応系に供給できるためか、比較的穏やかな条件下で、安全に脱シリル化することが可能である。しかも、特に、前記のような固体状のフッ素化芳香族化合物は、より穏やかでかつ安全な反応が可能となり、取扱性や操作性の点でも有利である。
【0050】
シリル基含有化合物とは、シリル基を有する化合物であれば特に制限されず、例えば、−SiR(式中、R〜Rは、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基を示す。)で示されるシリル基を有する化合物が挙げられる。
【0051】
前記−SiRで示されるシリル基としては特に制限されず、代表的なシリル基としては、例えば、トリアルキルシリル基、トリアリールシリル基、アルキルジアリールシリル基、アリールジアルキルシリル基、トリアラルキルシリル基などが挙げられる。前記シリル基を構成するアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基などの直鎖又は分岐鎖状C1−10アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基、さらに好ましくはC1−4アルキル基)などが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシルなどのC5−10シクロアルキル基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル、メチルフェニル(トリル)、エチルフェニル、ジメチルフェニル(キシリル)、ナフチル、メチルナフチル基などのC6−20アリール基(好ましくはC6−12アリール基、さらに好ましくはC6−10アリール基)などが挙げられる。アラルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル基などのC6−20アリール−C1−6アルキル基(好ましくはC6−12アリール−C1−4アルキル基、さらに好ましくはC6−10アリール−C1−2アルキル基)などが挙げられる。なお、R〜Rは、さらに1又は複数の他の置換基(例えば、アルコキシ基など)で置換されていてもよい。
【0052】
好ましいシリル基としては、例えば、R、R及びRがすべて直鎖又は分岐鎖状アルキル基のトリアルキルシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基などのトリC1−4アルキルシリル基)、アルキルジアリールシリル基(例えば、tert−ブチルジフェニルシリル基などのモノC1−4アルキルジC6−12アリールシリル基など)などが挙げられる。
【0053】
本発明の方法において、出発物質としてシリル基を有する化合物は、特に限定されず、種々の化合物が適用でき、例えば、式(A)で表されるシリルエノールエーテルを用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化が進行し、少なくとも式(B)で表されるカルボニル化合物が得られる〔下記反応式(1)〕。
【0054】
【化9】

【0055】
(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基などの炭化水素基を示し、R、R及びRは前記に同じ。)
、R及びRで表されるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基としては特に制限されず、例えば、R、R及びRと同様の基などが挙げられる。Rとして、好ましくはC6−10アリール基(例えば、フェニル基などのCアリール基)などが挙げられる。R及びRとして、好ましくは水素原子、直鎖又は分岐鎖状C1−6アルキル基(特にC1−4アルキル基)などが挙げられる。
【0056】
式(A)のシリルエノールエーテルにおいて、R〜Rの好ましい組合せは、R、R及びRが直鎖又は分岐鎖状C1−4アルキル基、Rが直鎖又は分岐鎖状C1−10アルキル基又はC6−10アリール基(特に、C6−10アリール基)、R及びRが水素原子又は直鎖又は分岐鎖状C1−10アルキル基(特に、水素原子)である。この場合、層状フッ素化芳香族化合物の存在下で、シリルエノールエーテルの脱シリル化反応を円滑に進行させることができる。
【0057】
式(A)のシリルエノールエーテルの代表的な具体例としては、例えば、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシ−1−プロペン、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシ−1−ブテン、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシ−1−ペンテン、1−フェニル−1−トリエチルシリルオキシエテン、1−フェニル−1−トリエチルシリルオキシ−1−プロペン、1−フェニル−1−トリエチルシリルオキシ−1−ブテン、1−フェニル−1−トリエチルシリルオキシ−1−ペンテンなどの1−C6−10アリール−1−C1−4トリアルキルシリルオキシ−1−C2−5アルケンなどが挙げられる。
【0058】
反応式(1)で示される脱シリル化反応の一例として、例えば、出発物質として下記式(A−1)で表されるシリルエノールエーテルを用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化反応が進行し、少なくとも下記式(B−1)で表されるカルボニル化合物(アルキルフェニルケトンなど)が得られる〔反応式(1−1)〕。
【0059】
【化10】

【0060】
(式中、R、R、R、R及びRは前記に同じ。)
具体的には、出発物質としてR及びRが水素原子のシリルエノールエーテル(アセトフェノンのシリルエノールエーテル(1−フェニル−1−トリアルキルシリルオキシエテン))を用いた場合はアセトフェノンが得られる。
【0061】
本発明の方法において、出発物質として式(G)で表される構造を有するシリル基含有化合物を用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化反応が進行し、式(H)で表される化合物が得られる〔反応式(2)〕。
【0062】
【化11】

【0063】
(式中、R、R、Rは、前記に同じ。R14、R15及びR16は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R14及びR16は、互いに直接結合して隣接する炭素原子とともに三重結合を形成してもよく、又は隣接する炭素原子とともに炭化水素環を形成してもよい。)
14、R15及びR16で表されるアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基としては特に制限されず、例えば、R、R及びRと同様の基などが挙げられる。R14及びR16が炭化水素環を形成する場合、炭化水素環としては、例えば、シクロヘキセン環などのC5−10シクロアルケン環などが挙げられる。
【0064】
反応式(2)で示される脱シリル化反応の一例として、例えば、出発物質として式(G−1)で表される構造を有するシリル基含有化合物(アルキニルトリアルキルシランなど)を用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化反応が進行し、式(H−1)で表される化合物が得られる〔反応式(2−1)〕。
【0065】
【化12】

【0066】
(式中、R、R、R及びR15は、前記に同じ。)
上記式(G−1)で表される出発物質の具体例としては、例えば、アルキニルトリアルキルシラン(例えば、エチニルトリメチルシラン(トリメチルシリルアセチレン)、エチニルトリエチルシラン、プロパルギルトリメチルシラン、プロパルギルトリエチルシランなどのC2−5アルキニル−C1−4トリアルキルシランなど)などが挙げられる。
【0067】
反応式(2)で示される脱シリル化反応の他の例として、例えば、出発物質として式(G−2)で表されるシリル基含有化合物(アルケニルトリアルキルシランなど)を用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化反応が進行し、式(H−2)で表される化合物が得られる〔反応式(2−2)〕。
【0068】
【化13】

【0069】
(式中、R、R、R、R14、R15及びR16は、前記に同じ。)
上記式(G−2)で表される出発物質の具体例としては、例えば、アルケニルトリアルキルシラン(例えば、ビニルトリメチルシラン、ビニルトリエチルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシランなどのC2−5アルケニル−C1−4トリアルキルシランなど)などが挙げられる。
【0070】
本発明の方法では、層状フッ素化芳香族化合物を用いることにより、脱シリル化反応を進行させるとともに、さらにアルドール反応を進行させることも可能である。このようなアルドール反応は、脱シリル化により生成したアニオンが求核剤として作用することにより生じるが、後述するように、原料のシリル基含有化合物に対する層状フッ素化芳香族化合物の割合を適宜調整したり、アルドール縮合の相手となる基質(カルボニル化合物)の共存下で脱シリル化させることなどにより有利に進行させることができる。
【0071】
例えば、出発物質として式(A)で表されるシリルエノールエーテルを用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化反応が進行し、式(B)で表されるカルボニル化合物が生成するとともに、さらに生成したカルボニル化合物の一部においてアルドール反応が進行し、式(C)で表されるアルドール反応生成物も同時に得られる場合がある〔反応式(3)〕。
【0072】
【化14】

【0073】
(式中、R、R、R、R、R及びRは前記に同じ。)
反応式(3)で示される脱シリル化反応及びアルドール反応の一例として、例えば、出発物質として式(A−1)で表されるシリルエノールエーテルを用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、脱シリル化反応及びアルドール反応が進行し、式(B−1)で表されるカルボニル化合物とともに、さらに下記式(C−1)で表されるアルドール反応生成物も得ることができる〔反応式(3−1)〕。
【0074】
【化15】

【0075】
(式中、R、R、R、R、R及びRは、前記に同じ。)
本発明の方法において、出発物質として式(D)で表されるシリルエノールエーテルに加えてさらに式(E)で表されるカルボニル化合物を用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、シリルエノールエーテルの脱シリル化反応が進行するとともに、生成したカルボニル化合物(脱シリル化物)と出発物質としての式(E)で表されるカルボニル化合物とのアルドール反応が進行することにより、少なくとも式(F)で表されるアルドール反応生成物を得ることができる〔反応式(4)〕。
【0076】
【化16】

【0077】
(式中、Rは水素原子又はアルキル基を示し、R、R、R、R、R及びRは、前記と同じ。)
式(E)で表されるカルボニル化合物としては、例えば、アルデヒド類、ジアルキルケトン類、アルキルシクロアルキルケトン類、アルキルアリールケトン類などが挙げられる。代表的なカルボニル化合物としては、例えば、C1−10アルキル−C6−12アリール−ケトンなどが挙げられる。C1−10アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル基などの直鎖又は分岐鎖状C1−10アルキル基が挙げられ、C6−12アリール基としては、フェニル、トリル基などが挙げられる。このようなカルボニル化合物を用いることにより、脱シリル化物としてのカルボニル化合物(アニオン)が速やかにアルドール縮合するために、アルドール縮合物を効率よく得ることができる。なお、式(4)の(D)および(E)において、基R〜Rはそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0078】
カルボニル化合物の具体例としては、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、アセトフェノン(メチルフェニルケトン)、エチルフェニルケトンなどが挙げられる。
【0079】
反応式(4)で示される脱シリル化反応及びアルドール反応の一例として、例えば、出発物質として式(D−1)で表されるシリルエノールエーテル及び式(E−1)で表されるカルボニル化合物を用いると、層状フッ素化芳香族化合物の存在下において、シリルエノールエーテルの脱シリル化反応が進行するとともに、生成したカルボニル化合物(脱シリル化物)と出発物質としての式(E−1)で表されるカルボニル化合物とにアルドール反応が進行し、少なくとも(F−1)で表されるアルドール反応生成物を得ることができる〔反応式(4−1)〕。
【0080】
【化17】

【0081】
(式中、R、R、R、R、R、R及びRは前記と同じ。)
本発明の方法により、脱シリル化物、アルドール反応生成物を製造する場合、層状フッ素化芳香族化合物の割合は、フッ素化の程度に応じて適宜選択できるが、例えば、原料のシリル基含有化合物に対して、0.5〜30重量倍(好ましくは1〜20重量倍、さらに好ましくは2〜15重量倍)程度であってもよい。
【0082】
特に、原料のシリルエノールエーテルに対して、層状フッ素化芳香族化合物の割合を比較的多く(例えば、3〜30重量倍、好ましくは4〜20重量倍、さらに好ましくは5〜15重量倍程度に)すると、脱シリル化反応を確実に進行させることができ、しかもアルドール反応を抑制できる(すなわち、脱シリル化物を有効に得ることができる)。
【0083】
一方、原料のシリルエノールエーテルに対して、層状フッ素化芳香族化合物の割合を適当な割合に(例えば、0.5〜5重量倍、好ましくは0.7〜3重量倍、さらに好ましくは0.8〜2重量倍程度に)すれば、脱シリル化とともに、アルドール反応も効率よく進行させることができる。
【0084】
さらに、原料のシリルエノールエーテルに対して、層状フッ素化芳香族化合物の割合を比較的小さくすると、脱シリル化反応そのものが進行しにくくなり、結果としてアルドール縮合もまた進行しにくく、脱シリル化物を有利に得ることができる。
【0085】
また、反応式(4)のように、出発物質としてシリルエノールエーテルとカルボニル化合物とを使用する場合、層状フッ素化芳香族化合物の割合は、例えば、原料のシリルエノールエーテルに対して、0.5〜5重量倍[好ましくは0.7〜3重量倍(例えば、0.8〜1.2重量倍など)]程度であってもよい。
【0086】
また、反応式(4)において、出発物質としてのカルボニル化合物〔式(E)又は(E−1)〕の割合は、原料の式(D)又は(D−1)で表されるシリルエノールエーテル1モルに対して概ね当モルに設定することができ、0.5〜1.5モル(例えば、0.8〜1.2モル)程度であってもよい。
【0087】
本発明の脱シリル化反応、及び必要によりアルドール反応は、所定の温度で液相系において攪拌することなどにより実施でき、例えば、反応に不活性な溶媒の存在下で反応を進行させることができる。反応に不活性な溶媒として、反応の効率化の点から、例えば、層状フッ素化芳香族化合物を分散又は溶解可能な溶媒を用いてもよい。なお、層状フッ素化芳香族化合物を分散可能な溶媒とは、溶媒中で層状フッ素化芳香族化合物が沈降せず、懸濁状態で分散させられる溶媒をいい、層状フッ素化芳香族化合物を溶解可能な溶媒とは、層状フッ素化芳香族化合物を0.5重量%以上溶解できる溶媒をいう。
【0088】
層状フッ素化芳香族化合物を分散又は溶解可能な溶媒としては、例えば、フッ素系溶媒〔パーフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンなどの含フッ素芳香族炭化水素類、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミンなどの含フッ素アルキルアミン類、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロ−2,7−ジメチルオクタンなどの含フッ素脂肪族炭化水素類、パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサンなどの含フッ素脂環族炭化水素類、パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフランなどの含フッ素エーテル類〕、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル類(酢酸エチルなど)、炭化水素類(ヘキサンなどの脂環族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素など)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ハロゲン系溶媒(クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなど)などの有機溶媒、及びこれらの混合物などから選択できる。好ましくは、フッ素系溶媒、例えば、ベンゾトリフルオリドなどの含フッ素芳香族炭化水素類が挙げられる。
【0089】
溶媒の使用量は、例えば、反応混合物全体(層状フッ素化芳香族化合物も含まれる)に対して、1〜80重量%、好ましくは1〜50重量%程度であってもよい。
【0090】
具体的には、出発物質のシリル基含有化合物、層状フッ素化芳香族化合物及び必要により溶媒などの他の成分を含む混合液を撹拌することにより反応を進行させ、目的物質の脱シリル化物やアルドール反応生成物が得られる。反応は、各成分を一括して又は逐次的に導入して行うことができる。
【0091】
反応温度は特に制限されず、一般的には20℃〜120℃(例えば、20〜40℃)程度である。反応は、常温下で実施することができ、製造コストの点で有利であるが、勿論、加熱下で行ってもよい。また、加熱下(例えば、50℃〜溶媒の沸点以下などの温度)で反応させると、アルドール反応を円滑に進行させられる場合もある。
【0092】
反応時間は特に制限されず、一般的には数分〜48時間、好ましくは12〜24時間程度の範囲である。反応は撹拌装置を備えた従来公知の装置などを用いて、バッチ式、セミバッチ式、連続式などで実施できる。
【0093】
前記方法において、脱シリル化やアルドール反応を行うことにより得られた生成物は、慣用の精製方法、例えば、例えば、濃縮、乾固、晶析、再結晶、濾過、抽出、蒸留(減圧蒸留など)、クロマトグラフィー(シリカゲルクロマトグラフィーなど)などの方法を利用して単離してもよい。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0095】
実施例1[シリルエノールエーテルの脱シリル化反応]
還流管をつけた三口ナスフラスコに、固体状のフッ化ピッチ(大阪ガスケミカル(株)製、オグソールFP)50mg、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン(反応式(i)中の化合物(a1))105μL(0.5mmol)、ベンゾトリフルオリド3mLを入れ、室温で終夜攪拌した。反応後、ベンゾトリフルオリドを減圧蒸留で除いた後、粗生成物を得た。反応生成物をH−NMRで確認したところ、アセトフェノン(17モル%)と原料のシリルエノールエーテルであった(83モル%)。
【0096】
【化18】

【0097】
(式中、FPはフッ化ピッチを示し、BTFはベンゾトリフルオリドを示す。)
なお、以下の実施例では、本実施例と同様にベンゾトリフルオリドを除去した後、反応生成物のH−NMRスペクトルを測定し、その生成物を確認した。
【0098】
実施例2[シリルエノールエーテルの脱シリル化反応]
還流管をつけた三口ナスフラスコに、固体状のフッ化ピッチ(大阪ガスケミカル(株)製、オグソールFP)500mg、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン(上記化合物(a1))105μL(0.5mmol)、ベンゾトリフルオリド3mLを入れ、室温で終夜攪拌した。反応後、ベンゾトリフルオリドを減圧蒸留で除いた後、粗生成物を得た。反応生成物をH−NMRで確認したところ、アセトフェノンのみが定量的に得られた。
【0099】
実施例3[シリルエノールエーテルの脱シリル化反応およびアルドール反応]
還流管をつけた三口ナスフラスコに、固体状のフッ化ピッチ(大阪ガスケミカル(株)製、オグソールFP)50mg、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン(反応式(ii)中の化合物(a2))105μL(0.5mmol)、アセトフェノン60mg(0.5mmol)、ベンゾトリフルオリド3mLを入れ、終夜加熱(温度102℃)還流した。反応後、ベンゾトリフルオリドを減圧蒸留で除いた後、粗生成物を得た。反応生成物をH−NMRで確認したところ、アルドール反応物(反応式(ii)中の化合物(b2))が22モル%、アセトフェノン(反応式(ii)中の化合物(b3))が46モル%、シリルエノールエーテル(反応式(ii)中の化合物(a2))が32モル%であった。
【0100】
【化19】

【0101】
(式中、FPはフッ化ピッチを示し、BTFはベンゾトリフルオリドを示す。)
【0102】
実施例4[シリルエノールエーテルの脱シリル化反応およびアルドール反応]
フッ化ピッチ(大阪ガスケミカル(株)製、オグソールFP)を100mg用いた以外は、実施例3と同様に行った。反応生成物はH−NMRから、アルドール反応物が86モル%、アセトフェノンが14モル%であった。
【0103】
実施例5[シリルエノールエーテルの脱シリル化反応およびアルドール反応]
還流管をつけた三口ナスフラスコに、固体状のフッ化ピッチ(大阪ガスケミカル(株)製、オグソールFP)100mg、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン(反応式(iii)中の化合物(a4))105μL(0.5mmol)、ベンゾトリフルオリド3mLを入れ、室温で終夜攪拌した。反応後、ベンゾトリフルオリドを減圧蒸留で除いた後、粗生成物を得た。反応生成物をH−NMRで確認したところ、アルドール反応物(反応式(iii)中の化合物(b4))60モル%、アセトフェノン(反応式(iii)中の化合物(b5))40モル%であり、原料の化合物(a4)はなかった。
【0104】
【化20】

【0105】
(式中、FPはフッ化ピッチを示し、BTFはベンゾトリフルオリドを示す。)
【0106】
実施例6[シリルエノールエーテルの脱シリル化反応およびアルドール反応]
反応を加熱還流下で行った以外は、実施例5と同様に行った。反応生成物は、アルドール反応物60モル%、アセトフェノン40モル%であり、原料の化合物(a4)はなかった。
【0107】
実施例7[トリメチルシリルアセチレンの脱シリル化反応]
試験管をN雰囲気下でフレームドライした後、試験管に、固体状のフッ化ピッチ(大阪ガスケミカル(株)製、オグソールFP)200mg、トリメチルフェニルシリルアセチレン20mg(0.115mmol)、テトラヒドロフラン3mLを入れ、15時間撹拌した。反応後、TLC(薄層クロマトグラフィー)にて確認し、反応生成物をH−NMRで確認したところ、トリメチルシリルフェニルアセチレン8モル%、脱シリル化反応物であるフェニルアセチレン92モル%(10.8mg、0.106mmol)であった。
【0108】
比較例1
還流管をつけた三口ナスフラスコに、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン(前記化合物(a1))105μL(0.5mmol)、ベンゾトリフルオリド3mLを入れ、終夜加熱還流した。反応後、ベンゾトリフルオリドを減圧蒸留で除いた後、粗生成物を得た。反応生成物をH−NMRで確認したところ、未反応であった。
【0109】
比較例2
還流管をつけた三口ナスフラスコに、1−フェニル−1−トリメチルシリルオキシエテン(前記化合物(a1))105μL(0.5mmol)、アセトフェノン60mg(0.5mmol)、ベンゾトリフルオリド3mLを入れ、終夜加熱還流した。反応後、ベンゾトリフルオリドを減圧蒸留で除いた後、粗生成物を得た。反応生成物をH−NMRで確認したところ、未反応であった。
【0110】
以上の結果から明らかなように、フッ化ピッチを用いることにより、シリルエノールエーテルの脱シリル化反応やアルドール反応を進行させることができ、目的物質のカルボニル化合物やアルドール反応物を得ることができる。また、フッ化ピッチの使用量などを制御することにより、脱シリル化やアルドール反応の進行を制御できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明では、フッ化ピッチなどの層状フッ素化芳香族化合物をシリル基含有化合物の脱シリル化反応やアルドール反応に用いることができる。このような層状フッ素化芳香族化合物は、簡便な操作で取り扱いも容易であるため、従来から公知の種々の脱シリル化剤(例えば、テトラブチルアンモニウムフルオリドなど)の代替品として利用できる。例えば、層状フッ素化芳香族化合物は、シリルエノールエーテルや炭素−炭素不飽和結合を有するシリル基含有化合物の脱シリル化反応に用いることができる。また、シリルエノールエーテルの脱シリル化反応だけでなく、アルドール反応にも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状フッ素化芳香族化合物を用いてシリル基含有化合物を脱シリル化する工程を含む脱シリル化物の製造方法。
【請求項2】
層状フッ素化芳香族化合物の存在下、下記式(A)
【化1】

(式中、R、R及びRは、同一又は異なって、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。)
で表されるシリルエノールエーテルを脱シリル化し、少なくとも下記式(B)
【化2】

(式中、R、R及びRは、前記に同じ。)
で表されるカルボニル化合物を得る請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
層状フッ素化芳香族化合物の存在下、前記式(A)で表されるシリルエノールエーテルを脱シリル化し、前記式(B)で表されるカルボニル化合物とともに、下記式(C)
【化3】

(式中、R、R及びRは、前記に同じ。)
で表される化合物を得る請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
がアリール基であり、R及びRが水素原子である請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
層状フッ素化芳香族化合物の存在下、下記式(D)
【化4】

(式中、R、R、R及びRは、前記に同じ。R及びRは、同一又は異なって、水素原子又はアルキル基を表す。)
で表されるシリルエノールエーテルと下記式(E)
【化5】

(式中、Rは、水素原子又はアルキル基を示し、Rは、前記に同じ。)
で表されるカルボニル化合物とを反応させ、少なくとも下記式(F)
【化6】

(式中、R、R、R及びRは、前記に同じ。)
で表される化合物を得る請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
がアリール基である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
層状フッ素化芳香族化合物の存在下、下記式(G)
【化7】

(式中、R、R、Rは、前記に同じ。R14、R15及びR16は、同一又は異なって、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基を表す。R14及びR16は、互いに直接結合して隣接する炭素原子とともに三重結合を形成してもよく、又は隣接する炭素原子とともに炭化水素環を形成してもよい。)
で表されるシリル基含有化合物を脱シリル化し、下記式(H)
【化8】

(式中、R14、R15及びR16は、前記に同じ。)
で表される化合物を得る請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
、R及びRがアルキル基である請求項2〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
層状フッ素化芳香族化合物がフッ化ピッチである請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
反応に不活性で、かつ層状フッ素化芳香族化合物を分散又は溶解可能な溶媒中で反応させる請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
溶媒が含フッ素芳香族炭化水素類である請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
シリル基含有化合物の脱シリル化反応に用いられる脱シリル化剤であって、層状フッ素化芳香族化合物で構成された脱シリル化剤。
【請求項13】
脱シリル化反応に加えて、アルドール反応を触媒する請求項12記載の脱シリル化剤。

【公開番号】特開2011−184323(P2011−184323A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48978(P2010−48978)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】