説明

脱水剤およびそれを用いる含水物の脱水方法並びにその方法で得られる脱水物品

【目的】 非還元性無水糖質を脱水剤とし、品質の劣化を起こすことなく、含水物を脱水することを目的とする。
【構成】 本発明は、無水トレハロースを有効成分とする脱水剤および含水物に、無水トレハロースを含有させてトレハロース含水結晶に変換せしめることを特徴とする含水物の脱水方法並びにその方法で得られる脱水物品を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、無水トレハロースを有効成分とする脱水剤およびそれを用いる含水物の脱水方法並びにその方法で得られる脱水物品に関する。
【0002】
【従来の技術】無水糖質を用いる脱水方法は、先に、本発明者等が、特開昭62−136240号公報、特開昭62−152536号公報、特開昭62−152537号公報などで開示したように、無水糖質が、水分を捕捉して含水結晶に変換される途上に脱水力を発揮させる方法である。この方法は、加熱乾燥などとは違って、苛酷な条件を必要としないので、含水物をその品質の変質、劣化させること無く、脱水物品に変換する特微を有している。
【0003】しかしながら、これら方法のうち、特開昭62−152536号公報で開示した、無水グルコース、無水ガラクトースなどの無水アルドヘキソースを用いる場合には、脱水量が比較的大きいものの還元性糖質であることから反応性に富み、アミノ酸、ペプチドなどと褐変反応を起こし易く、脱水物品の保存安定性に不安のある事が判明した。また、無水アルドヘキソースは、比較的高湿度においても含水結晶に変換せず、脱水力の乏しいことが判明した。また特開昭62−136240号公報で開示した無水マルトースを用いる場合や、特開昭62−136240号公報で開示した無水パラチノースを用いる場合には、その還元力が弱いものの基本的には還元性糖質であり、脱水物品の長期安定性に、なお不安の残ることが判明した。その上、捕捉できる水分量がどちらの場合も糖質の約5%と比較的少ない事から、脱水剤として多量の無水マルトースあるいは無水パラチノースを必要とする欠点のある事も判明した。
【0004】一方、特開昭62−152537号公報で開示した無水ラフィノース、無水エルロース、無水メレチトースなどの非還元性無水グリコシルフルクトシドは還元力を持たないためアミノ酸、ペプチドなどとの褐変反応もなく、長期保存安定性において優れていると考えられる。しかしながら、その分子内に耐酸性の小さいフルクトシド結合を持っていることから、酸性含水物の脱水剤としては、必ずしも適していないことが想定され、得られる脱水物品の安定性にも不安が残る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、糖質を用いる従来の脱水方法における欠点を解消することを目的として、天然型の非還元性無水糖質に着目し、更に優れた脱水剤の確立とその利用について鋭意検討を続けてきた。
【0006】その結果、非還元性無水糖質のうち、無水トレハロース(本明細書を通じて、α、α−トレハロースを単にトレハロースと称し、α、β−トレハロースをネオトレハロースと称する。)が、含水物からの脱水量および脱水力ともに大きく、加えて、得られる脱水物品が極めて安定であることから広範囲に適用でき、脱水剤として好適である事を見出だした。即ち、無水トレハロースを含水食品、含水医薬品などの含水物に含有させてトレハロース含水結晶に変換せしめることにより、無水トレハロースが多量の水分を捕捉し、かつきわめて強力な脱水剤として作用すること、および酸性含水物を含めて広範囲の含水物に適用できることを見出し、風味良好な高品質の脱水食品や、高活性で安定な脱水医薬品などの脱水物品を容易に製造し得ることを確認して、本発明を完成した。
【0007】本発明は、非還元性糖質の脱水剤に着目し、従来、脱水剤として全く注目されなかった無水トレハロースを選択したものであり、この無水トレハロースを脱水剤として含有せしめ、含水物を脱水する方法は、本発明をもって嚆矢とする。
【0008】本発明における含水物の脱水方法は、水分を含有しているもの、とりわけ、結晶水のような結合水分とは違った遊離水分を含有しているものの脱水方法として好ましく、例えば、乾燥食品などを封入した防湿容器内の雰囲気に含まれる水分を低減する場合、更には、例えば、食品、医薬品、化粧品、工業化学品、これらの原材料または加工中間物など各種含水物の水分を低減させる場合などに有利に適用できる。
【0009】これら含水物に無水トレハロースを含有させると、無水トレハロースは、その重量の約10w/w%(以下、本明細書では、特にことわらない限り、w/w%を単に%と略称する)もの水分(この値は無水マルトースの場合の2倍量に相当する)をトレハロース含水結晶の結晶水として含水物から強力に取り込み、含水物の水分を実質的に低減し脱水することが判明した。
【0010】例えば、味付け海苔、クッキーなどの乾燥食品を封入した防湿容器内に、紙製などの透湿小袋に充填した無水トレハロースを共存させておくことにより、容器内の相対湿度を極度に低減させ、乾燥食品、粉末状物などを高品質、安定に長期間維持し得ることが判明した。
【0011】この際、無水トレハロースは、水分を補捉してトレハロース含水結晶に変換される途上、変換された後においても、べとついたり、流れたりすることがなく、乾燥食品や防湿容器を汚染する心配はない。また、粉末状物の付着、固結を防止することもできる。更に、トレハロース自体は、無毒、無害の天然甘味料であり、何らの危険性もない。
【0012】また、例えば、ブランディー、食酢、ローヤルゼリー、生クリーム、マヨネーズなどの液状、ペースト状などの高水分食品の場合には、無水トレハロースを含有させて、トレハロース含水結晶に変換せしめることにより、実質的に水分の低減された高品質の脱水食品、例えば、マスキット状、粉末状などの食品をきわめて容易に製造することができる。
【0013】この方法は、トレハロースが非還元性糖質で安定であり、かつ、加熱乾燥などの苛酷な条件を必要としないので、液状またはペースト状の高水分食品を変質、劣化させることなく、風味良好で、水分の低減された脱水食品に容易に変換し得る特徴を有している。
【0014】また、この際、無水トレハロースを食品原材料などに含まれる水分量に見合う量以上加え、無水トレハロースが部分的にトレハロース含水結晶に変換された、換言すれば、トレハロース無水結晶を含有している脱水食品を得て、これを防湿容器内に封入すると容器内雰囲気中の水分が無水トレハロースによりトレハロース含水結晶として補捉脱水され、その相対湿度を極度に低減して、容器内を高度な乾燥状態に維持し得ることが判明した。この結果、本発明により得られた脱水食品は、微生物汚染の防止はもとより、加水分解、酸敗、褐変などの変質、劣化を防止し、風味良好で高品質な商品を長期に安定に維持することが判明した。
【0015】また、リンホカイン、抗生物質などの水溶液、薬用人参エキス、スッポンエキスなどのペースト状医薬品の場合にも、これらに無水トレハロースを含有させて、トレハロース含水結晶に変換せしめることにより、実質的に水分の低減された高品質の脱水医薬品、例えば、マスキット状、粉末状などの医薬品をきわめて容易に製造することができる。
【0016】この方法は、加熱乾燥などの苛酷な条件を必要とせず、また、無水トレハロースが脱水剤としてのみならず、安定剤としても作用するので、高品質で安定な脱水医薬品を製造することができる。また、水溶性高分子化合物などの安定剤なども、その乾燥のためのエネルギー浪費を懸念する必要がないので、必要に応じて適宜使用することにより、更に高品質で安定な脱水医薬品を製造することも有利に実施できる。
【0017】また、例えば、バイアル瓶に、一定量の無水トレハロースを採り、これに、例えば、リンホカイン、ホルモンなどの生理活性物質を含有する水溶液をその無水トレハロースがトレハロース含水結晶に変換するのに必要とする水分量よりも少ない量だけ加え、密栓して固形製剤などを製造することも有利に実施できる。
【0018】この場合には、無水トレハロースが、生理活性物質を含有する水溶液を脱水することは勿論のこと、バイアル瓶内の雰囲気を防湿乾燥し得ることも判明した。
【0019】この結果、本発明で得られる脱水固形医薬品は、その製造工程が容易であるだけでなく、その高品質を長期に安定に維持し得ること、更には、使用時に水に速やかに溶解するなどの特徴を有していることも判明した。
【0020】また、一定量の無水トレハロースを撹拌しながら、これに生理活性物質を含有する水溶液の所定量を混合し、得られる粉末をそのまま容器に封入して、高品質で安定な固体製剤にすることも、更に、この粉末を、常法に従って顆粒、錠剤などに成形して利用することも有利に実施できる
【0021】以上述べたように、本発明の無水トレハロースを用いる脱水剤は、従来知られているシリカゲル、酸化カルシウムなどの脱水剤とは違って、可食性であり、代謝されて栄養補給し得る糖質脱水剤であるのみならず、各種生理活性物質などの安定剤としても有利に利用できる。
【0022】本発明者等は、本発明に先立って無水トレハロース、とりわけ、無水トレハロース粉末の製造方法について研究した。
【0023】無水トレハロースとしては、例えば、結晶性無水トレハロース、非晶質無水トレハロースなどが好適である。
【0024】結晶性無水トレハロースについては、ジー・バーチ(G・Birch)が、ジャーナル・オブ・ザ・ケミカル・ソサイエティ(Journal of theChemical Society)3489乃至3490頁(1965年)でピリジンより晶出させる方法を報告している。この方法は、溶媒としてピリジンを多量に使用するため製造コストがかかる上、食品衛生上からも好ましくない。
【0025】そこで、本発明者等は、まず、結晶性無水トレハロース粉末の製造方法について検討し、その方法を確立した。即ち、その方法は、例えば、市販のトレハロース含水結晶を溶解した水溶液、または、林部等が、発酵協会誌 第17巻、106乃至115頁(1959年)において記載している酵母などから抽出、精製されたトレハロース水溶液を、水分約10%未満、望ましくは、2.0%以上9.5%未満の高濃度シラップとし、このシラップを無水トレハロースの種晶共存下で50乃至160℃の温度範囲に維持しつつ、結晶性無水トレハロースを晶出させ粉末化して製造すれば良い。
【0026】粉末化の方法としては、例えば、ブロック粉砕方法、押出造粒方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法などの公知の方法を適宜採用すればよい。また、非晶質無水トレハロース粉末を製造するには、例えば、市販のトレハロース含水結晶を原料にするか、または酵母などから抽出、精製された高純度トレハロースの高濃度溶液を用いて製造すれば良い。
【0027】トレハロース含水結晶を用いる場合には、それを水で溶解し、例えば、約100乃至160℃の温度で常圧乾燥または真空乾燥した後、粉砕して製造すればよい。また、高純度トレハロース水溶液を用いる場合には、例えば、濃度約70乃至90%のシラップを真空乾燥または凍結乾燥した後、粉砕して製造するか、または、濃度約60乃至85%のシラップを高圧ノズル法または回転円盤法などの噴霧乾燥法により粉末を直接製造することも有利に実施できる。
【0028】このようにして製造される本発明の無水トレハロース粉末は、上品な低甘味を有する非還元性の白色粉末で、その水分は低く実質的に無水で、カールフィッシャー法により、通常、3%未満、望ましくは、2%未満で、またその流動性は粉末粒子の形状、大きさの違いなどによって多少異なるが、実質的に流動性である。
【0029】更に、本発明でいう無水トレハロースは、トレハロース含水結晶に変換され強力な脱水作用を発揮する実質的な無水トレハロースであればよく、例えば、無水トレハロースのトレハロース含水結晶への変換を促進し脱水剤としての効果を高めるため、種晶としてできるだけ少量、通常5%未満、望ましくは、1%未満のトレハロース含水結晶を共存せしめた実質的非晶質無水トレハロース粉末を利用することも有利に実施できる。
【0030】このようにして得られる無水トレハロース粉末は、これを、例えば、食品、医薬品、化粧品、工業化学品などの含水物に含有させると、それに含まれる水分をトレハロース含水結晶の結晶水として捕捉し、固定し、含水物に対して強力な脱水剤として作用することが判明した。
【0031】本発明の脱水剤が有利に適用できるものとして、防湿容器内の雰囲気を除湿、乾燥する場合、更には、加熱乾燥、真空乾燥などの工程で変質、劣化を伴い易い含水物または乾燥困難な含水物などから高品質のマスキット状、粉末状などの脱水物品を製造する場合などがある。
【0032】除湿、乾燥する場合としては、例えば、味付け海苔、クッキーなどの吸湿防止に利用できるのみならず、更には、吸湿して固結し易い粉末状物、例えば、プリンミックス粉、ホットケーキミックス粉などのプレミックス粉、食塩、砂糖、粉末醤油、粉末味噌、粉末寿司酢、粉末ダシの素、粉末複合調味料、粉末パプリカ、粉末にんにく、粉末シナモン、粉末ナツメグ、粉末ペパー、粉末セージなどの粉末香辛料、粉末酵母エキス、粉末ミルク、粉末ヨーグルト、粉末チーズ、粉末ジュース、粉末ハーブ、粉末ビタミン、顆粒スープ、顆粒ブイヨン、魚粉、血粉、骨粉、粉末乳酸菌剤、粉末酵素剤、顆粒消化剤などの粉末状物品に無水トレハロースを配合して包装封入することにより、包装容器内の相対湿度を低減させ、粉末状物品の付着、固結を防止できるので、製造直後の流動性良好な高品質を長期間維持するなどの目的にも利用することができる。
【0033】また、含水物を脱水する場合としては、例えば、動物、植物、微生物由来の器官、組織、細胞、摩砕物、抽出物、成分、またはこれらからの調製物など各種含水物を脱水する場合に有利に利用できる。
【0034】例えば、食品、その原材料または加工中間物の場合には、生果、ジュース、野菜エキス、豆乳、ゴマぺースト、ナッツペースト、生あん、糊化澱粉ペースト、小麦粉などの農産品、ウニペースト、カキエキス、イワシペーストなどの水産品、生卵、レシチン、牛乳、乳清、生クリーム、ヨーグルト、バター、チーズ、などの畜産品、メープルシラップ、蜂蜜、味噌、醤油、マヨネーズ、ドレッシング、カツオエキス、ミートエキス、昆布エキス、チキシエキス、ビーフエキス、酵母エキス、きのこエキス、甘草エキス、ステビアエキス、これらの酵素処理物、漬物用調味液などの含水調味料、日本酒、ワイン、ブランディー、ウイスキー、薬用酒などの酒類、緑茶、紅茶、コーヒーなどの嗜好飲料、ハッカ、ワサビ、ニンニク、カラシ、サンショウ、シナモン、セージ、ローレル、ペパー、柑橘類などから抽出される含水香辛料、セイヨウアカネ、ベニノキ、ウコン、パプリカ、レッドビート、ベニバナ、クチナシ、サフラン、紅麹菌などから抽出される含水着色料、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリソ、脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルなどから調製される含水乳化剤、燻液、醗酵液などの保存料などの液状乃至ペースト状物から安定で風味良好な脱水食品を容易に製造することができる。
【0035】このようにして得られた脱水食品、例えば、粉末農水畜産品、粉末油脂、粉末香料、粉末着色料、粉末乳化剤、粉末保存料などは、マヨネーズ、スープの素などの調味料、ハードキャンディー、ケーキ、などの菓子類、ホットケーキミックス、即席ジュースなど各種飲食物の加工材料、例えば、風味良好な天然型バルクフレーバーなどとして有利に使用することができる。
【0036】また、医薬品、その原料または加工中間物の場合には、インターフェロン−α,−β,−γ、ツモア・ネクロシス・ファクター−α、−β、マクロファージ遊走阻止因子、コロニー刺激因子、トランスファーファクター、インターロイキンIIなどのリンホカイン含有液、インシュリン、成長ホルモン、プロラクチン、エリトロポエチン、卵細胞刺激ホルモンなどのホルモン含有液、BCGワクチン、日本脳炎ワクチン、はしかワクチン、ポリオ生ワクチン、痘苗、破傷風トキソイド、ハブ抗毒素、ヒト免疫グロブリンなどの生物製剤含有液、ペニシリン、エリスロマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、ストレプトマイシン、硫酸カナマイシンなどの抗生物質含有液、チアミン、リボフラビン、L−アスコルビン酸、肝油、カロチノイド、エルゴステロール、トコフェロールなどのビタミン含有液、リパーゼ、エラスターゼ、ウロキナーゼ、プロテアーゼ、β−アミラーゼ、イソアミラーゼ、グルカナーゼ、ラクターゼなどの酵素含有液、薬用人参エキス、スッポンエキス、クロレラエキス、アロエエキス、プロポリスエキスなどのエキス類、ウイルス乳酸菌、酵母などの生菌ペースト、ローヤルゼリーなどの液状乃至ペースト状物も、その有効成分、活性を失うことなく、安定で高品質の脱水医薬品、脱水健康食品などを容易に製造できる。
【0037】また、化粧品、その原料または加工中間物の場合には、前記食品、医薬品の場合と同様に、生卵、レシチン、生クリーム、ハチミツ、甘草エキス、香料、着色料、酵素などを脱水すれば、高品質の脱水化粧品が容易に得られる。
【0038】本化粧品は、美肌剤、美毛剤、育毛剤などとして有利に利用できる。また、脱水物品が酵素の場合には、食品、医薬品、工業原料などの加工用触媒として、また、治療剤、消化剤などとして、更には酵素洗剤などとしても有利に利用できる。
【0039】含水物に無水トレハロースを含有させる方法としては、目的の脱水物品が完成されるまでに、例えば、混和、混捏、溶解、浸透、散布、塗布、噴霧、注入、などの公知の方法が、適宜に選ばれる。
【0040】含水物に対する無水トレハロースを含有させる量は、含水物に含まれる水分量と、目的とする脱水物品の性状によっても変わり、必要ならば、含水物を他の公知の方法で部分的に脱水または濃縮した後に、無水トレハロースを含有させてもよく、通常、含水物1重量部に対して、0.01乃至200重量部、望ましくは0.01乃至50重量部である。この際、得られる脱水物品、例えば、食品、医薬品、化粧品などは品質を更に向上させるために、適宜な着香料、着色料、呈味料、安定剤、増量剤などを併用することも有利に実施できる。
【0041】とりわけ、安定剤について、本発明が無水トレハロースによる強力な脱水方法である事から、抗酸化剤などの低分子化合物に限る必要はなく、従来、乾燥が困難とされていた水溶性高分子化合物、例えば、可溶性澱粉、デキストリン、プルラン、エルシナン、デキストラン、ザンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、グアガム、トラガントガム、タマリンドガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ペクチン、寒天、ゼラチン、アルブミン、カゼインなどの物質も安定剤として有利に利用できる。
【0042】これら水溶性高分子化合物を用いる場合には、例えば、液状乃至ペースト状含水物に、予め水溶性高分子化合物を均一に溶解せしめ、ついで、これに無水トレハロースを混和、混捏などの方法で均一に含有させることにより、微細なトレハロース含水結晶を析出せしめた脱水物品が得られる。
【0043】本品は含水物由来の香気成分、有効成分などが高分子化合物の皮膜で被膜されているか、または、該皮膜で囲まれたマイクロカプセル中に微細なトレハロース含水結晶とともに内包されており、その揮散、品質劣化が防止されることから、含水物由来の香気成分、有効成分の安定保持に極めて優れている。この際、必要ならば水溶性高分子として、香気成分などと包接化合物を形成するシクロデキストリンを併用することも有利に実施できる。
【0044】シクロデキストリンとしては、高純度の物に限る必要はなく、乾燥しにくく粉末化の困難な低純度のシクロデキストリン、例えば、多量のマルトデキストリンとともに各種シクロデキストリンを含有した水飴状の澱粉部分加水分解物なども有利に利用できる。
【0045】本発明の脱水物品は、とりわけ、粉末状物品を製造する方法は、種々の方法が採用できる。例えば、食品、医薬品、化粧品、それらの原材料または加工中間物などの比較的高水分の含水物に、無水トレハロースを水分約40%以下、望ましくは10乃至30%になるように均一に含有せしめた後、バットなどに約0.1乃至5日間、約10乃至50℃、例えば、室温に放置し、トレハロース含水結晶に変換させて、例えばブロック状に固化し、これを切削、粉砕などの方法により製造すればよい。必要ならば、切削、粉砕などの粉末化工程の後に乾燥工程、分級工程などを加えることもできる。また、噴霧方法などにより、直接、粉末品を製造することもできる。
【0046】例えば、無水トレハロース粉末を流動させながら、これに液状乃至ペースト状の含水物を所定量噴霧して、接触せしめて造粒し、ついで、必要に応じて約30乃至60℃で約0.1乃至10時間熟成して、トレハロース含水結晶に変換せしめるか、または、無水トレハロースを液状乃至ペースト状含水物に混和、混捏などした後、これを、直ちに、若しくは、トレハロース含水結晶への変換を開始させて、噴霧して得られる粉末品を、必要に応じて同様に熟成し、トレハロース含水結晶に変換せしめる方法は、粉末状脱水物品を大量生産する方法として好適である。
【0047】この噴霧方法の場合に、無水トレハロースのトレハロース含水結晶への変換を促進するため、無水トレハロースと共に、種晶としてできるだけ少量のトレハロース含水結晶を共存させて、その熟成期間を短縮乃至不要にすることも、有利に実施できる。このようにして得られた粉末状脱水物品は、そのままで、または必要に応じて、増量剤、賦形剤、結合剤、安定剤などを併用して、更には、顆粒、錠剤、カプセル剤、棒状、板状、立方体形など適宜な形状に成型して利用することも自由にできる。
【0048】また、ピーナッツ、アーモンド、キャンディー、などの食品や、顆粒、素錠などの医薬中間物などを芯として、これに無水トレハロースの約60乃至90%水溶液、望ましくは、水溶性高分子などの結合剤を、適量共存させた水溶液をコーティングし、ついで、トレハロース含水結晶に変換し、晶出させて糖衣物を製造することも有利に実施できる。
【0049】また、一般に、澱粉は、その膨潤、糊化のために、多量の水分を必要としている。したがって、糊化澱粉は極めて微生物汚染を受けやすい。無水トレハロースは、このような糊化澱粉の脱水剤としても有効に利用できる。例えば、求肥などの糊化澱粉は、これに無水トレハロースを含有させトレハロース含水結晶に変換させることにより、実質的に水分が低減され、微生物汚染を防止することができる。
【0050】また、無水トレハロースは、糊化澱粉に対して容易に均一に混和し、老化防止剤としても作用することから、糊化澱粉を含有する各種加工食品の商品寿命を大幅に延長することができる。
【0051】また、無水トレハロースは、例えば、皮むきバナナ、オレンジ、スライスした蒸し芋、開いた鯵、秋刀魚、生麺、ゆで麺、餅菓子などの表面に微生物汚染を受けやすい高水分含有食品の場合には、その表面に結晶性無水トレハロース粉末をまぶして、トレハロース含水結晶に変換せしめ、その表面の水分を実質的に低減し、これら食品の日持ちを向上し、品質を改良することから食品の防腐剤、安定剤、品質改良剤などとして有利に利用できる。この際、必要ならば、例えば、乳酸、クエン酸、エタノールなどを併用して、また、真空包装、ガス充填包装、冷蔵などして、その商品寿命を更に延長させることも自由である。
【0052】また、無水トレハロースは、アルコールに対し高い親和力を示す。この性質から、メタノール、エタノール、ブタノール、プロピレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコールなどのアルコールまたはアルコール可溶物などに含まれる水分の脱水剤としても有利に利用できる。
【0053】例えば、清酒、焼酎、ワイン、ブランディー、ウイスキー、ウオッカなどの酒類を無水トレハロースで脱水し、生成したトレハロース含水結晶にその有効成分、香気などを保持したマスキット状、粉末状などの脱水酒類を有利に製造することができる。このようにして製造した粉末酒類は菓子、プレミックスなどに利用でき、水で復元して飲用に供することもできる。
【0054】この場合には、無水トレハロースは、脱水剤、安定剤としてだけでなく、上品な甘味質、ボディー、適度な粘度付与剤などとしての効果をも発揮することができる。
【0055】また、ヨウ素などのアルコール溶液を無水トレハロースと混合し、これに水溶性高分子などを含有する水溶液に加えてトレハロース含水結晶に変換せしめることにより、ヨウ素などの有効成分を安定に保持し、かつ、適度の粘度、延び、付着性を有するマスキット状の膏薬などを製造することも有利に実施できる。
【0056】また無水トレハロースに含水油溶性物質、乳化物、ラテックスなどを含浸、混合などして無水トレハロースをトレハロース含水結晶に変換せしめ、粉末状の油脂、香辛料、香料、着色料などの食品、化粧品、粉末状のビタミン、ホルモンなどの医薬品などを製造することも有利に実施できる。
【0057】この場合には、無水トレハロースは脱水剤としてのみならず、トレハロース含水結晶に変換されて安定剤、保持剤、賦形剤、担体などとしても作用する。
【0058】また、チョコレート、サンドクリームなどの水分を嫌う油用性物質含有食品の場合にも、無水トレハロースは有利に利用される。この場合には、脱水剤としてのみならず、加工適性、口溶け、風昧などが良好になることに利用される。更に、得られた製品が、その高品質に長期にわたって安定に維持し得る特徴を有している。
【0059】以上述べたように、本発明は、非還元性糖質である無水トレハロースが各種含水物の水分を強力に脱水する、加えて、得られる脱水物品が極めて安定であることを見いだしたことによって達成されたものであり、その無水トレハロースを脱水剤として利用することにより、液状乃至ペースト状などの含水物から、その風味、香気を劣化、揮散させることなく、水分の低減された高品質の食品、化粧品や、また、その有効成分、活性を分解低下させることなく、水分の低減された高品質の医薬品、化粧品などを有利に製造することができる。
【0060】また無水トレハロースは、以上述べた特殊な場合だけでなく、天然甘味料であり、虫歯誘発、血中コレステロールの上昇などの懸念もなく、人間の体内で消化・吸収され、マルトオリゴ糖などとほぼ同程度の栄養価を示す。更に、上品な甘味、ボディの付与、照りの付与、粘性、保水性などの性質をも有しているので食品、医薬品、化粧品などの製造に有利に利用できる。次に、その他の使用例を述べる。
【0061】無水トレハロースは強力な脱水作用を有する調味料として使用することができる。必要ならば、例えば、粉飴、ぶどう糖、異性化糖、砂糖、麦芽糖、蜂蜜、メープルシュガー、ソルビトール、マルチトール、ジヒドロカルコン、ステビオシド、α−グリコシルステビオシド、ラカンカ甘味物、グリチルリチン、ソーマチン、L−アスパラチルフェニルアラニンメチルエステル、サッカリン、グリシン、アラニンなどのような他の甘味料と、また、デキストリン、澱粉、乳糖などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0062】無水トレハロースは、非還元性糖質であってトレハロース本来の上品な甘味を有し、酸味、塩から味、渋味、旨味、苦味などの他の呈味を有する各種の物質とよく調和し、耐酸性、耐熱性も大きいので、一般食品への脱水剤としてのみならず、甘味付に、また呈味改良、品質改良などに利用することも有利に実施できる。
【0063】例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、フリカケ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼き肉のタレ、カレールウ、シチューの素、スープの素、ダシの素、複合調味料、みりん、新みりん、テーブルシュガー、コーヒーシュガーなど各種調味料への脱水剤として、更には、甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして使用することも有利に実施できる。また、例えば、せんべい、あられ、おこし、求肥、餅類、まんじゅう、ういろう、あん類、羊羹、水羊羹、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉などの各種和菓子、パン、ビスケット、クラッカー、クッキー、パイ、プリン、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、ヌガー、キャンディー、などの各種洋菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの氷菓、果実のシロップ漬、氷蜜などのシロップ類、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペーストなどのペースト類、ジャム、マーマレード、シロップ漬、糖果などの果実、野菜の加工食品類、福神漬け、べったら漬、千枚漬、らっきょう漬などの漬物類、たくあん漬の素、白菜漬の素などの漬物の素類、ハム、ソーセージなどの畜肉製品類、魚肉ハム、魚肉ソーセージ、カマボコ、チクワ、天ぷらなどの魚肉製品、ウニ、イカの塩辛、酢コンブ、さきするめ、ふぐのみりん干し、タラ、タイ、エビなどの田麩などの各種珍味類、海苔、山菜、するめ、小魚、貝などで製造される佃煮類、煮豆、ポテトサラダ、コンブ巻などの惣菜食品、乳製品、魚肉、畜肉、果実、野菜の瓶詰、缶詰類、合成酒、増醸酒、果実酒、酒などの酒類、珈琲、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料水、プリンミックス、ホットケーキミックス、即席ジュース、即席コーヒー、即席しるこ、即席スープなどの即席飲料などの各種食品への脱水剤として、更には甘味料、呈味改良剤、品質改良剤などとして利用することも有利に実施できる。
【0064】以下、本発明を、実験を用いて詳細に説明する。
【0065】
【実験1】 各種非還元性糖質による脱水量の大きさと脱水物品の安定性の比較実験に用いた非還元性糖質は、砂糖、結晶性無水トレハロース、非晶質無水トレハロース、トレハロース含水結晶、非晶質無水ネオトレハロース、ネオトレハロース含水結晶、非晶質無水エルロース、エルロース含水結晶、非晶質無水ラフィノース、ラフィノース含水結晶、非晶質無水メレチトースおよびメレチトース含水結晶である。砂糖、トレハロース含水結晶、エルロース含水結晶、ラフィノース含水結晶およびメレチトース含水結晶は、市販の試薬を用いた。結晶性無水トレハロース,非晶質無水トレハロースは、それぞれ参考例1、参考例3の方法で調製した。ネオトレハロース含水結晶は、特開平4−179490号公報実験2に開示される方法で調製した。非晶質無水ネオトレハロース、非晶質無水エルロース、非晶質無水ラフィノースおよび非晶質無水メレチトースは、それぞれ含水結晶を水に溶解した後、室温下で真空乾燥して調製した。
【0066】まず、それぞれの非還元性糖質の脱水量について調べた。プレーンヨーグルト2重量部に、それぞれの糖質8重量部を混合し得られる混合物をバットにとり、25℃で室内に一夜静置後、その混合物の状態変化を観察した。脱水量の判定は、完全固化したものを大、不完全固化したものを小、変化のないものを無とした。
【0067】次に、完全固化したものを用いて、得られる脱水物品の安定性について調べた。即ち、完全固化したものを切削方式により粉末化し、粒径約100乃至150μmにし、直径10cmのプラスチックシャーレに30gずつ採り、相対湿度70%に調整した37℃の雰囲気に2週間放置し、それらの着色度を比較した。着色度は、30w/v%懸濁液の上清を用いて、10cmセルでの420nmの吸光度と720nmの吸光度差とした。安定性の判定は、着色度が0.1未満を優とし、0.1以上0.2未満を並とし、0.2以上を劣とした。
【0068】結果は、表1に示す。
【0069】
【表1】


【0070】表1の結果から明らかなように、結晶性無水トレハロースおよび非晶質無水トレハロースは、脱水量が大きく、また、脱水物品の安定性に優れており、脱水剤として好適であることが判明した。
【0071】
【実験2】 無水トレハロースによる脱水作用無水トレハロースとして結晶性無水トレハロースおよび非晶質無水トレハロースを用いて、その脱水作用、すなわち、脱水力の強さと脱水量について詳細に実験した。対照としてトレハロース含水結晶を用いた。実験は、実験1で述べた方法で調製したそれぞれのトレハロースを粒径約100乃至150μmの粉末品とし、直径5cmのプラスチックシャーレにそれぞれ1gずつ採り、相対湿度70%に調整された25℃の雰囲気に放置し、経時的にこれらの水分(%)を測定した。結果は表2に示す。
【0072】
【表2】


【0073】表2の結果から明らかなように、無水トレハロースは、脱水力が強く、雰囲気の水分を強力に捕捉し、その重量の約10%もの水分を捕捉することが判明した。また、粉末X線回折図形で経時的に調べたところ、無水トレハロースは水分を捕捉してトレハロース含水結晶に変換し、水分約10%で平衡に達して、安定化することが判明した。トレハロース含水結晶の粉末X線回折図形を図1に示す。
【0074】また、同様にして、相対湿度約90%に調整された25℃の雰囲気に放置し、経時的にその水分(%)を測定したところ、無水トレハロースは先程と同様に、トレハロース含水結晶に変換し、水分約10%で平衡に達した。この際、粉末状態を維持し、べとついたり、流れたりする現象は見られなかった。
【0075】この性質から、無水トレハロースは、食品、医薬品、化粧品、これら原材料または加工中間物などの含水物の強力な脱水剤として有利に利用できることが判明した。
【0076】
【実験3】糊化澱粉に対する無水トレハロースとトレハロース含水結晶との比較もち粉4重量部を水6重量部に溶いて、木枠に濡れ布きんを敷いたものに流し込み、これを105℃で10分間蒸して糊化澱粉とする。これにトレハロース含水結晶または参考例1の方法で調製した結晶性無水トレハロース7重量部をミキサーで混和し、均一になったら、更に水飴2重量部を加え十分に捏ねて成形し、更に40℃の温風で2時間軽く乾燥して求肥を得た。
【0077】本品を25℃の室温に開放して放置したところトレハロース含水結晶を使用したものは、15日後に黒カビのコロニーの発生を見たが、結晶性無水トレハロースを使用したものは、30日後においても微生物の汚染が見られなかった。
【0078】また30日後のものを切断して、その断面を観察したところ、結晶性無水トレハロースを使用したものは、表層部がやや硬化して結晶が析出しているものの、内部は、製造直後と同様に半透明で適度な艶、粘度を有していた。なお表層部の結晶は、X線回折図形より、結晶性無水トレハロースがトレハロース含水結晶に変換しているものであることが判明した。
【0079】この結果、無水トレハロースは、糊化澱粉の脱水剤として作用し、微生物汚染を防止し、更に糊化澱粉の老化を防止することが判明した。この性質は、求肥、フラワーペーストなどの糊化澱粉を用いる各種製品に対して有利に利用できる。
【0080】以下、無水トレハロース粉末の製造方法を参考例で述べる。
【0081】
【参考例1】トレハロース含水結晶を少量の水で加熱溶解し、これを蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分5.0%のシラップとした。次いで助晶機に移し、これに種晶として結晶性無水トレハロースをシラップ固形物当たり1%加え、120℃で5分間撹拌助晶し、次いで、アルミ製バットに取り出し、100℃で6時間晶出熟成させてブロックを調製した。
【0082】次いで、本ブロックを切削機にて粉砕し、流動乾燥して、水分0.32%の結晶性無水トレハロース粉末を、原料のトレハロース含水結晶に対して約87%の収率で得た。得られた結晶性無水トレハロースの粉末X線回折図形を図2に示す。
【0083】本品は、食品、医薬品、化粧品、その原材料、または加工中間物などの含水物の脱水剤としてのみならず、上品な甘味を有する白色粉末甘味料としても有利に利用できる。
【0084】
【参考例2】高純度トレハロース水溶液を蒸発釜にとり、減圧下で煮詰め、水分4.0%のシラップとし、これに、種晶として結晶性無水トレハロースをシラップ固形物当たり5%加え95℃で撹拌助晶し、次いで押出造粒機で造粒、熟成乾燥し、粉砕機にて粉砕して、水分0.53%の結晶性無水トレハロース粉末を、原料に対して約95%の収率で得た。
【0085】本品は、参考例1の方法で得られた結晶性無水トレハロース粉末と同様に、各種含水物の脱水剤としてのみならず、甘味料としても有利に利用できる。
【0086】
【参考例3】トレハロース含水結晶を室温にて、水に完全に溶解した後、60℃で24時間真空乾燥を行う。得られた乾燥物を粉砕機にて粉砕し、水分0.83%の非晶質無水トレハロース粉末を、原料のトレハロース含水結晶に対して約89%の収率で得た。得られた非晶質トレハロースの粉末X線回折図形を図3に示す。
【0087】本品は、参考例1の方法で得られた結晶性無水トレハロース粉末と同様に、各種含水物の脱水剤としてのみならず、甘味料としても有利に利用できる。
【0088】以下、本発明の実施例および優れた効果について述べる。
【0089】
【実施例1】 脱水剤参考例1の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末を用いて、紙製の透湿性小袋に20gずつ充填し、脱水剤を製造した。本品は、味付け海苔、クッキーなどの乾燥食品を封入した防湿容器内雰囲気の脱水剤として有利に利用できる。また、各種乾燥食品、油性食品などに対し、本脱水剤とともに脱酸素剤などを併用して、これら食品などを安定保存することも有利に実施できる。
【0090】
【実施例2】 そぼろ求肥餅粉4重量部を水6重量部で溶いて、木枠に濡れ布きんを敷いたものに流し込み、これを100℃で20分間蒸した後、参考例1の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末7重量部および砂糖1重量部を捏り込み、次いで水飴2重量部を加えて、充分に捏ねた後に成形し、更に、室内に16時間放置して、本品の表層において無水トレハロースをトレハロース含水結晶に変換させ、これを軽くロール掛けして表面をひび割れさせ、そぼろ風の求肥を得た。本品は、風味良好で、微生物汚染を受けにくく、高品質を長期間に亙って維持した。
【0091】
【実施例3】 いも菓子さつまいもを厚さ約1cmにスライスし、これを蒸した後放冷し、これに参考例1の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末をまぶしトレハロース含水結晶に変換せしめて脱水し、表面にトレハロース含水結晶の付着したいも菓子を製造した。本品は風味良好で安定ないも菓子である。
【0092】
【実施例4】 粉末ブランデイーブランデイー2重量部にプルラン10重量部を溶解し、これに参考例2の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末8重量部を混合した後バットに移し、2日間放置してトレハロース含水結晶に変換させブロックを調製した。本ブロックを切削機にかけて粉末化し、分級して風味良好な粉末ブランディーを得た。本品を口に含めば、適度の甘味を有し、ブランディー香の充分な粉末香料である。本品は紅茶用香り付けとして、また、プレミックス、キャンデイー類などの製菓材料などとして有利に利用できる。また、本粉末を顆粒成形機、打錠機にかけて成型し、顆粒、錠剤として利用するこも有利に実施できる。
【0093】
【実施例5】 粉末味噌赤味噌2重量部に参考例2の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末5重量部を混合し、多数の半球状凹部を設けた金属板に流し込み、これを室温下で一夜静置して固化し、離型して1個当り約4gの固形味噌を得、これを粉砕機にかけて粉末味噌を得た。本品は、即席ラーメン、即席吸物などの調味料として有利に利用できる。また、固形味噌は、固形調味料としてだけでなく味噌菓子などとしても利用できる。
【0094】
【実施例6】 粉末醤油参考例3の方法で得た非晶質無水トレハロース粉末4重量部および市販のトレハロース含水結晶0.02重量部をコンベア上で流動させつつ、これに対して薄口醤油を1重量部の割合になるように噴霧し、次いで熟成塔に移し、30℃で一夜放置して無水トレハロースをトレハロース含水結晶に変換せしめて粉末醤油を得た。本品は、即席ラーメン、即席吸物などの調味料として有利に利用できる。
【0095】
【実施例7】 粉末卵黄生卵から調製した卵黄を、プレート式加熱殺菌機で60乃至64℃で殺菌し、得られる液状卵黄1重量部に対して、参考例1の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末4重量部の割合で混合した後、実施例4と同様にブロック化し粉末化して粉末卵黄を得た。本品は、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとしても有利に利用できる。また美肌剤、育毛剤などとしても有効に利用できる。
【0096】
【実施例8】 粉末ヨーグルトプレーソヨーグルト2重量部に参考例1の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末8重量部を混合した後、実施例4と同様にブロック化し、粉末化して粉末ヨーグルトを得た。本品は、風味良好であるだけでなく、乳酸菌を生きたまま長期に安定化し得る。また、プレミックス、冷菓、乳化剤などの製菓用材料としてのみならず、経口流動食、経管流動食などの離乳食、治療用栄養剤などとして、更には、例えば、マーガリン、ホィップクリーム、スプレッド、チーズケーキ、ゼリーなどに含有せしめヨーグルト風味の製品にするなどに有利に利用できる。さらに本粉末を顆粒成型機、打錠機などで成型して乳酸菌製剤とし、整腸剤などとして利用することも有利に実施できる。
【0097】
【実施例9】 ホットケーキミックス小麦粉200重量部に実施例7の方法で得られた粉末卵黄60重量部、バター25重量部、砂糖10重量部、ベーキングパウダー12重量部および食塩0.5重量部を配合してホットケーキミックスを得た。本品は、水、牛乳などで溶いて焼くことにより、簡単に風味良好なホットケーキを調製することができる。
【0098】
【実施例10】 粉末薬用人参エキス薬用人参エキス0.5重量部に参考例2の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末1.5重量部を混捏した後、実施例4と同様にブロック化し、粉末化して粉末薬用人参エキスを得た。本品を適量のビタミンB1およびビタミンB2粉末とともに顆粒成型機にかけ、ビタミン含有顆粒状薬用人参エキスとした。本品は、疲労回復剤、強壮、強精剤などとして有利に利用できる。また、育毛剤などとしても利用できる。
【0099】
【実施例11】流動食用固形製剤参考例2の方法で得た結晶性無水トレハロース粉末500重量部、実施例7の方法で得られた粉末卵黄270重量部、脱脂粉乳209重量部、塩化ナトリウム4.4重量部、塩化カリウム1.85重量部、チアミン0.01重量部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.1重量部、ビタミンEアセテート0.6重量部およびニコチン酸アミド0.04重量部からなる配合物を調製し、この配合物25gずつを防湿性ラミネート小袋に充填し、ヒートシールして流動食用固形製剤を製造した。
【0100】本固形製剤は、小袋内雰囲気の水分を低減し、低温貯蔵の必要もなく、室温下で長期間安定である。また、水に対する分散、溶解は良好である。本固形製剤は、一袋分を約150乃至300mlの水に溶解して流動食とし、経口的、または鼻腔、胃、腸などへの経管的投与により利用される。
【0101】
【実施例12】 医薬用固形製剤新生児のハムスターに、ウサギから公知の方法で調製した抗血清を注射して、ハムスターの免疫反応を弱めた後、その皮下にBALL−1細胞を移植し、その後通常の方法で3週間飼育した。皮下に生じた腫瘤を摘出して細断し、生理食塩水中で分散させてほぐした。得られた細胞を血清無添加のPRMI1640培地(pH7.2)で洗浄し、同培地に約2×10個/mlになるように懸濁し、35℃に保った。
【0102】これに部分精製したヒトインターフェロン−αを200IU/mlの割合で加えて約2時間保った後、更に、センダイウイルスを約300赤血球凝集価/mlの割合で添加し、20時間保ってヒトインターフェロン−αを誘導させた。これを、約4℃、約1000gで遠心分離して沈殿物を除去し、得られた上清を更に精密濾過し、その濾液を、公知の方法に従って、抗インターフェロン−α抗体を固定化しているカラムにかけ、非吸着画分を除去した後、その吸着画分を溶出し、膜濃縮して濃度約0.01w/v%、比活性約2×10IU/mg蛋白質の濃縮液をハムスター一匹当たり約4mlの収量で得た。
【0103】参考例1の方法で得たパイロゲソフリーの結晶性無水トレハロース6gずつを100ml容防湿性プラスチック製ボトルに採り、これに先に得られたインターフェロン−α濃縮液0.2ml(約4X10IU)ずつを入れ、無菌的にゴム栓、キャップシールして医薬用固形製剤を得た。本製造方法は、インターフェロン−α含有液を無水トレハロース粉末にたらすだけで脱水されるので、凍結乾燥などのための処理、装置、エネルギーなどを必要としないばかりか、インターフェロン−αの安定化にも効果的である。
【0104】本品は、水に対して易溶である事から、常法に従って、抗ウイルス剤、抗腫瘍剤、抗リューマチ剤、抗免疫疾患剤などの抗感受性疾患剤として点滴用、筋肉内用などの注射剤に有利に利用できる。また、本品を、内服用剤、口腔用剤などに利用することも有利に実施できる。また、検査用の試験薬に用いることも有利に実施できる。
【0105】
【実施例13】 医薬用固形製剤ヒト由来のリンパ芽級細胞BALL−1細胞を牛胎児血清を20%補足したEagleの最少基本培地(pH7.4)に接種し、37℃で常法に従い生体外(in vitro)で浮遊培養した。得られた細胞を血清無添加のEagle最少基本培地で(pH7.4)で洗浄し、同培地に約1X10個/mlになるように懸濁した。この懸濁液にセンダイウイルスをml当り約1,000赤血球凝集価添加し、38℃で1日保ってツモア・ネクロシス・ファクター−αを誘導生成させた。これを4℃、約1,000gで遠心分離し、得られた上清をpH7.2、0.01Mリン酸塩緩衝液を含有する生理食塩水で15時間透析し、更に精密濾過して得た濾液を常法に従って、抗インターフェロン抗体のカラムに流し、その非吸着画分を、抗ツモア・ネクロシス・ファクター−α モノクローナル抗体のゲルカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーにより精製し、濃縮して、濃度約0.01w/v%比活性約2X10JRU/mg蛋白質の濃縮液を得た。活性収量は、誘導生成時の懸濁液1L当り約5X10JRUであった。
【0106】参考例1の方法で得られたパイロゲンフリーの結晶性無水トレハロース10gずつを、100ml容のガラス製ボトルに採り、これにツモア・ネクロシス・ファクター−α濃縮液0.5ml(約1×10JRU)ずつを入れ、無菌的にゴム栓、キャップシールして医藁用固形製剤を得た。本製造方法は、ツモア・ネクロシス・ファクター−α含有液が、無水トレハロース粉末に脱水されるので、凍結乾燥などの処理を必要としないばかりか、ツモア・ネクロシス・ファクター−αの安定化にも効果的である。
【0107】本品は、水に対して易溶であることから、常法に従って、抗腫瘍剤、抗ウィルス剤、抗腹水剤、抗免疫疾患剤などの抗感受性疾患剤などとして、点滴用、筋肉内用などの注射剤に有利に利用できる。また、本品を、内服用剤、口腔用剤などに利用することも有利に実施できる。また、検査用の試験薬に用いることも有利に実施できる。
【0108】
【実施例14】 外傷治療用膏薬参考例2の方法で得た結晶性無水トレハロース450重量部にヨウ素3重量部を溶解しメタノール50重量部加えて混合し、更に10%プルラン水溶液200重量部およびマルトース含水結晶50重量部を加えて混合し、室温下で一夜放置してトレハロース含水結晶に変換させ、適度の延び、付着性を示す外傷治療用膏薬を得た。
【0109】本品は、創面に塗るか、または、ガーゼ、油紙などに塗るなどして使用することにより、切傷、擦り傷、火傷、水虫による漬傷などの外傷を治療することができる。また、本品は、ヨウ素による殺菌作用のみならず、トレハロースによる細胞への栄養補給剤などとしても作用することから、治療期間が短縮され、創面も綺麗に直る。
【0110】
【発明の効果】上記したことから明らかなように、本発明は、非還元性の無水トレハロースを有効成分とする脱水剤に関するものであって、無水トレハロースを、例えば乾燥食品などを封入した防湿容器内の雰囲気に含まれる水分を低減させる場合、更には、例えば、食品、医薬品、化粧品、工業化学品、これらの原材料、または加工中間物などの各種含水物の水分を低減させる場合などに有利に利用できる。無水トレハロースをトレハロース含水結晶に変換させて脱水し、実質的に水分を低減させる本発明の方法は、加熱乾燥などの苛酷な条件を必要としないで、各種含水物、例えば、風味、香気を劣化しやすい食品、有効成分の分解、活性低下の伴いやすい医薬品などの品質を低下させること無く、高品質の脱水物品を容易に製造することができる。また、得られた脱水物品は、微生物汚染が防止され、加水分解、酸敗、褐変などの変質、劣化が防止され、その商品の寿命を長期にわたって安定に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】トレハロース含水結晶の粉末X線回折図形を示す。
【図2】結晶性無水トレハロースの粉末X線回折図形を示す。
【図3】非晶質無水トレハロースの粉末X線回折図形を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 無水トレハロースを有効成分とする脱水剤。
【請求項2】 無水トレハロースが、結晶性無水トレハロースまたは非晶質無水トレハロースであることを特徴とする請求項1記載の脱水剤。
【請求項3】 結晶性無水トレハロースが、水分10w/w%未満の高濃度トレハロースシラップを種晶共存下で50℃乃至160℃の温度範囲に維持しつつ結晶性無水トレハロースを晶出させ、これを採取したものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の脱水剤。
【請求項4】 非晶質無水トレハロースが、トレハロースシラップ、またはトレハロース含水結晶を乾燥して採取したものであることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の脱水剤。
【請求項5】 含水物に、無水トレハロースを含有させてトレハロース含水結晶に変換せしめることを特徴とする含水物の脱水方法。
【請求項6】 無水トレハロースを、含水物1重量部に対して0.01乃至200重量部の範囲で含有させることを特徴とする請求項5記載の含水物の脱水方法。
【請求項7】 無水トレハロースが、結晶性無水トレハロースまたは非晶質無水トレハロースであることを特徴とする請求項5または請求項6記載の含水物の脱水方法。
【請求項8】 含水物が、糊化澱粉、アルコール、油溶性物質または生理活性物質を含有していることを特徴とする請求項5、請求項6または請求項7記載の含水物の脱水方法。
【請求項9】 含水物に、無水トレハロースを含有させトレハロース含水結晶に変換せしめて得られる脱水物品。
【請求項10】 脱水物品が、食品、医薬品、化粧品、これら原材料または加工中間物であることを特徴とする請求項9記載の脱水物品。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開平6−170221
【公開日】平成6年(1994)6月21日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−356600
【出願日】平成4年(1992)12月2日
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)