説明

脱水汚泥を原料とする吸着剤とその製造方法及び吸着剤含有品

【課題】浄水場で生じる汚泥や河川、湖沼等に堆積した汚泥等を脱水処理してなる脱水汚泥を原料として成品価値の高い吸着剤を簡易的方法にて製造する方法を提供して、汚泥の有効な再利用を図ること及びスラグの有効利用方法の提供。
【解決手段】脱水汚泥を、150〜250℃の比較的低い温度で且つ短い時間で乾燥し、その後冷却工程により水分を5%以下として、得られた乾燥物を必要な大きさに粉砕してなる吸着剤とその製造方法、及びこの吸着剤に必要に応じて他の原料を加えてなる吸着剤含有品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浄水場で生じる汚泥や河川、湖沼等に推積した汚泥等を脱水処理してなる脱水汚泥を原料として製品価値の高い吸着剤とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、吸着剤としての産業分野には、天然有機物を薫上し、活性炭の消臭剤として広く活用されている。または天然資源の石油等から精製し、石油活性炭として日本酒等の製造過程の濾過剤として広く活用されている。または天然資源の土壌、珪藻土等を採取して焼却した物を漆喰、石膏等と混合し、壁材等として使用している。
【0003】
これらの吸着剤の原料として用いる天然の有機物や石油、土壌は大量に賦存するとはいっても有限であり、また地域的に偏っており、しかもその品質にばらつきがあり、加工費用も多大である。特に天然資源珪藻土は徐々に枯渇してきており、そのため製品吸着剤としての価格も次第に高騰する傾向にある。
【0004】
一方、浄水場において沈殿池に沈殿した汚泥は、脱水処理が施された後、その大部分が埋め立て処分、産業廃棄物処分されていた。また、河川や湖沼等に堆積した汚泥(ヘドロ)は、ポンプによる吸引やショベルによる掘削等の機械的手段によって集められ、これにセメントや凝固剤を混入して固化せしめられた後、埋め立て処分されていた。また、汚泥の他の処分方法としては、脱水された汚泥に肥料を混入して田畑用として使用する方法もあった。
【0005】
近年、浄水場で生ずる汚泥の量は増大する傾向にあり、その70%以上が産業廃棄物として埋め立て処分されているが、埋立地の確保は年々困難になってきている。また、脱水された汚泥に肥料を混入して田畑用として使用する場合、汚染中に可溶性アルミニウムやヒ素等の有害物質が含有されていると公害源となるおそれがあるので、田畑用としての使用に制限があり、実際にはごく僅かな量しか使用されていなかった。
【0006】
一方で、銅を精錬後に発生するスラグを水冷することで、カラミと呼ばれるスラグが発生する。このカラミの主成分は、二酸化ケイ素と鉄鋼物で、冷却により二酸化ケイ素が固化し、他の鉱物を内包するものである。特徴としては、スラグを水流の中に少量づつ投入するため、形状がつぶ状であることと、鉄鋼物を含むため、重量が重いことである。このカラミについても利用方法が確立されておらす、現状では未利用部材として大量に保管されており、その活用方法の検討も急務である。
【0007】
特開平6−090617号公報及び特開平7−059459号公報には、脱水汚泥を原料とする焼結土の製造方法について記載されているが、800℃〜1100℃の高温での焼成が必須要件となっており、焼成工程を必要としない本発明とは技術的に大きく相違する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−090617号公報(明細書「0009」、図1)
【特許文献2】特開平7−059459号公報(明細書「0010」、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、浄水場で生じる汚泥や河川、湖沼等に堆積した汚泥等を脱水処理してなる脱水汚泥を原料として成品価値の高い吸着剤を簡易的方法にて製造する方法を提供して、汚泥の有効な再利用を図ること及びカラミの有効利用方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成すべく工夫されたもので、汚泥を原料とし脱水後のケーキ状の脱水汚泥を、150〜250℃の比較的低い温度で且つ短い時間で乾燥し、その後冷却工程により水分を5%以下として、得られた乾燥物を必要な大きさに粉砕してなる吸着剤とその製造方法、及びこの吸着剤に必要に応じて他の原料を加えてなる吸着剤含有品を提供することである。
【発明の効果】
【0011】
この発明による吸着剤の製造方法は、脱水汚泥のケーキを150〜250℃の温度で乾燥後冷却して、得られた乾燥物を粉砕し、この粉砕物に必要に応じて他の原料を加え、前記乾燥物またはその混合物を調合して造粒するもので、焼成工程を必要としないことを特徴とし、生産性の高い製法である。
【0012】
浄水場は各地に存在しているため、量的に安定した原料を確保でき、それら現地において製造することにより、吸着剤の運搬費を低く抑えることができること、及び産業廃棄物として廃棄していたものを再利用することから、環境保全の観点からも大きな効果が得られる。
【0013】
吸着剤を製造する工程で、乾燥温度を150〜250℃の比較的低い温度と、乾燥時間が30分と短いため、エネルギーの節約につながり、燃料費を低く抑えることができ、生産コストを抑えることに繋がる。
【0014】
得られた吸着剤は品質的に比較的安定しており、尚且つ、例えばアルミニウム、ケイ素等の微量元素の結合結晶体であるため、無機化合物の吸着に有効に作用する。
【0015】
得られた吸着剤は乾燥処理されているため、無害無臭であり、かつ多孔質で透水性、保水性、通気性が高いため、無機化合物、リン、ヒ素、油等の吸着に最適である。
【0016】
得られた吸着剤は、これに必要に応じて他の原料と混合物を調合することにより、対象吸着物に合わせ最適な吸着剤を製造することができる。更に、未利用で大量に保管されている、スラグの有効利用にも寄与するもである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造工程フロー図
【図2】乾燥試験による試料の温度別重量変化グラフ
【図3】ガスの吸着量推移グラフ(ホルムアルデヒド)
【図4】ガスの吸着量推移グラフ(アンモニア)
【図5】ガスの吸着量推移グラフ(酢酸)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下発明の詳細について説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明による製造方法は、水道水を製造する過程で生ずる浄水汚泥や、河川、湖沼等に堆積した汚泥等を原料とし、製造工程フローは、脱水工程、乾燥工程、粉砕工程、混合/調合工程および造粒工程からなる。図1は本発明の製造工程フロー図である。
【0020】
浄水汚泥は、水道水を製造する過程で生ずる、河川水や湖沼水の濁り物質からなる。これは、成分的には天然の砂粒分に、凝集剤の添加によりアルミニウム等が追加されたものであり、主として無機成分からなり、比較的均質的な粘土を構成している。浄水汚泥は、水道源水によっては10〜20%程度の有機質を含んでいる場合もある。
【0021】
脱水工程の脱水方法としては重力脱水、圧力脱水、真空脱水等の機械脱水や天日乾燥による方法がある。脱水工程を経た脱水汚泥ケーキは、上記浄水汚泥や、河川、湖沼等の堆積汚泥を脱水したものである。脱水汚泥には凝集剤のアルミニウムが天然の原水に浮遊し含まれ、ケイ素等と結合し沈殿処理によって得られた汚泥を機械脱水や天日乾燥により脱水して得られ、約60〜65%の水分が含まれている。
【0022】
乾燥工程において、脱水汚泥ケーキを150〜250℃の範囲内温度で30分間乾燥することにより、均質で多孔質の無機質な吸着剤にする事ができる。乾燥には電力による熱変換、ガス又は石油を燃焼して得る熱等の熱源を利用する。
【0023】
乾燥工程を経た汚泥は、冷却工程にて冷却することで、汚泥内の水分を除去する。汚泥内の水分量が5%以下にすることが重要であり、水分量が多いと、粉砕工程にて目詰まりが発生し、生産性が大幅に悪化する。冷却方法は、乾燥工程から排出後、約24時間自然冷却することが望ましい。また、18時間自然冷却後、40度〜60度の乾燥室へ6時間程度放置してもよい。冷却扇等を用いての強制冷却や、冷却槽等へ投入しての強制冷却では、汚泥内部の乾燥が不十分となり、粉砕工程での目詰まりが起きやすくなる。
【0024】
乾燥工程を経た汚泥は、粉砕工程にて粉砕される。粉砕は、平均粒径が1〜7mm程度が望ましいが、使用用途によって、適宜変更することが可能である。これにより完成した吸着剤は、多孔性であり、透水性、保水性及び通気性もあり、無機化合物の吸着性が優れるものである。
【0025】
原水中の濁質を凝集、沈殿させる際に、ポリ塩化アルミニウムや硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩の凝集剤が用いられている。このような汚泥は浄水場にて容易に得ることができる。アルミニウム塩を含む汚泥であれば、これらの汚泥中に含まれるアルミニウムが、リンやヒ素等の無機化合物の吸着に寄与するため、吸着剤として利用することができる。
【0026】
完成した吸着剤は、必要に応じて他の原料に加え、利用することも可能である。また、吸着剤にバインダーを加え造粒する、及び他の原料を加え造粒し、造粒物として利用することも可能である。
【実施例2】
【0027】
本吸着材を漆喰と混合し、水を加え練り合わせ、住宅等の建築物の壁材として利用することも可能である。漆喰の変わりに、石膏、セメント等を用いてもよい。
【実施例3】
【0028】
本吸着材を肥料と混合し、バインダーを加え練り合わせた後、粒状に造粒して、植物育成材又は野菜等の肥料として利用することも可能である。
【実施例4】
【0029】
本吸着材を芳香剤と混合し、水等の液体を加え液体タイプの芳香剤として、又はバインダーを加え、粒状に造粒して、例えばゼリー状の芳香剤として利用することも可能である。
【実施例5】
【0030】
本吸着材と銅を精錬する過程で発生するスラグであるカラミとコンクリート及び水を混練して、圧力を加え、一定の形状に成形し乾燥させることで、吸着性と浸透性及び保水性の高いブロック又は敷設材として利用することができる。この場合の配合比率は吸着材30%、カラミ60%、コンクリート10%、水適量が望ましいが、これに限定するものではなく、強度が必要な場合には、コンクリートの比率を多くするなど、適宜比率を調整することが可能である。圧力と強度は比例関係にあり、圧力を強くすれば強度が上がるため、必要な強度を得るため適宜圧力を調整すればよい。
【0031】
実験の結果では、前記比率で製造したブロックの吸水率は、ブロックの体積に対し、約60%の水を吸水することが確認できた。この吸水能力は同時に保水力にもつながり、保湿性を求める用途へも利用が可能であり、同時に吸着も行うメリットがある。例えば、本ブロックを歩道への利用、また、塀や花壇の囲い材として利用、ビルの屋上へ並べヒートアイランドの防止などに利用することが可能となる。
【0032】
以下に最適乾燥温度条件設定の過程及び吸着材の吸着効果試験結果について記述する。
【0033】
最適乾燥温度条件を設定するために、熱分析測定を行った。試料を分析機に入れ、100℃ステップで30分間その温度を保持し、1000℃まで行った。汚泥試料は温度の上昇と共に重量が減少する。重量変化は吸熱変化であるため、水の蒸発と考えられる。水の蒸発は、150℃まで続き、200℃〜500℃まで緩やかに重量の減少が続くが、試料は発熱を示しているため有機物の燃焼が発生していると考えられる。重量減少は1%であり有機物含有量は非常に少ないことが判明した。500℃以上では変化はみられない。
図2は乾燥試験による試料の温度別重量変化グラフである。
【0034】
次に、最適冷却条件を設定するために、乾燥工程を経た汚泥の冷却試験を行った。第1の条件として、乾燥工程から取り出した汚泥を24時間自然冷却した後の、汚泥内の水分量を確認すると5%程度であった。第2の条件として、乾燥工程から取り出した汚泥を18時間自然冷却後、室温50度の冷却室に6時間放置後、汚泥内の水分量を確認すると2%程度であった。汚泥内の水分量が5%以下であれば、粉砕工程での目詰まりは発生しないことが確認されており、条件としては、第1条件の自然冷却24時間が望ましい。例えば、夏季等の湿度の高い季節には、第2条件の18時間自然冷却後、室温50度の冷却室に6時間放置を採用してもよい。
【0035】
この結果、150℃で吸着水の脱離が完了し、100℃では乾燥が不完全であり、150℃未満では乾燥が十分とはいえないことから、乾燥温度は150℃〜250℃で30分間乾燥することが望ましい。乾燥に掛かる熱源のエネルギー費用を考慮すると、150℃が適切である。
【0036】
次に、本吸着剤を用いて、吸着能力を試験した。
乾燥温度を100℃、200℃、250℃、300℃、400℃の5水準とし、それぞれの乾燥時間を30分に統一した。乾燥を終えた吸着剤0.2gを試料として使用し、未乾燥の試料も含め比較した。
【0037】
吸着試験には、ホルムアルデヒドガスを使用し、手順は以下の通りである。
1)20リットルのテドラーバック内でホルムアルデヒドガス(80ppm)を室温で調整する。
2)前記20リットルのテドラーバック内に、各温度で乾燥した試料を0.2mg密封し、24時間吸着させる。
3)24時間後2リットルのテドラーバック内のホルムアルデヒドガス濃度を測定する。
【0038】
24時間後のホルムアルデヒドガス濃度は、乾燥温度100℃の場合、濃度30ppm、同様に200℃の場合18ppm、250℃の場合16ppm、300℃の場合14ppm、400℃の場合12ppm、未乾燥の場合75ppm、との実験結果が得られた。表1は実験結果の一覧表である。
尚、本試験によるホルムアルデヒドの残留ガスの濃度測定には、検知管を使用し、検出下限は0.05ppmである。
【表1】

【0039】
この結果、本吸着材はホルムアルデヒドを吸着すること、吸着効率でみた乾燥温度は200℃以上が望ましいことが確認できる。
【0040】
更に、本吸着材を他の原料として漆喰に混合した場合の吸着能力を試験した。
脱水汚泥を250℃にて30分乾燥後粉砕して吸着材を得、吸着材50%、漆喰50%、を混合し水で練り乾燥後、ホルムアルデヒドガスの吸着率を測定した。
【0041】
20リットルのテドラーバックに試料2gを封入し、ホルムアルデヒドガス(500μg/m3)を20リットル充填、24時間室温放置後、テドラーバックよりDNPH誘導体化固相吸着/溶媒抽出−HPLCにてホルムアルデヒドガス(500μg/m3)のみでも同様に行った。
【0042】
24時間後のホルムアルデヒドガス濃度は、試料を封入した20リットルテドラーバックは、34μg/m3であり、試料を封入しない20リットルテドラーバックのホルムアルデヒドガスの濃度は、488μg/m3で、明らかに本吸着剤を使用したものは、吸着能力が高いことが実証できた。
【0043】
比較試験として、珪藻土との吸着試験を行った。
使用するガスは、ホルムアルデヒド、アンモニア、酢酸の3種類である。
20リットルの容器に、本発明の吸着剤2mg入れたもの、比較例の珪藻土2mgを入れたもの、吸着物を入れないものの3つの容器を用意し、それぞれの容器にホルムアルデヒドガス100mgを投入して密閉し、時間の経過に伴うガスの量を測定した。
同様に、アンモニアと酢酸についても実験を行った。
【0044】
図3から図5は、時間の経過に伴うガスの量の変化をグラフにしたもので、図3のホルムアルデヒドの場合は、本発明の吸着剤は100分後にはガスが吸着されて無くなり、比較例の珪藻土は150分後も3ppm残留している。図4はアンモニアの場合で、本発明の吸着剤は50分後にはガスが吸着されて無くなり、比較例の珪藻土は150分後も3ppm残留している。図5は酢酸の場合で、本発明の吸着剤は80分後にはガスが吸着されて無くなり、比較例の珪藻土は120分後に無くなっている。
この結果から、本発明の吸着剤は、高い吸着能力を持つことが確認できる。
表2は、珪藻土との比較表である。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の吸着剤は、工業生産が可能であり、完成した吸着剤は様々な産業分野で利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水汚泥を150〜250℃の温度で乾燥後、24時間自然冷却し粉砕したことを特徴とする、脱水汚泥を原料とする吸着剤。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着剤に、他の原料として、漆喰、石膏、セメント、肥料、芳香剤のいずれか一つ又は複数選択して加えたことを特徴とする脱水汚泥を原料とする吸着剤含有品。
【請求項3】
請求項1に記載の吸着剤に、他の原料として、漆喰、石膏、セメント、肥料、芳香剤のいずれか一つ又は複数選択して加え造粒したことを特徴とする脱水汚泥を原料とする吸着剤含有品。
【請求項4】
請求項1に記載の吸着材と銅を精錬する過程で発生するカラミとコンクリート及び水を混練して、一定の形状に成形し乾燥させることを特徴とする脱水汚泥を原料とする吸着剤含有品。
【請求項5】
脱水汚泥を150〜250℃の温度で乾燥後、24時間自然冷却し、粉砕したことを特徴とする脱水汚泥を原料とする吸着剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115830(P2012−115830A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249112(P2011−249112)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(309009432)有限会社エスケーエスコンサルタント (1)
【Fターム(参考)】