説明

脱水装置

【課題】 水分離膜を用いた脱水装置を備えるプラントについて、プラントを稼動させたまま、水分離膜ユニットの交換をすることができるようにし、その稼働率を維持するようにした脱水装置を提供する。
【解決手段】 被処理流体の流れ方向に対し並列して、少なくとも二以上の使用中の水分離膜ユニット1〜5を備え、該少なくとも二以上の水分離膜ユニット1〜4に対し、被処理流体の流れ方向に並列して、少なくとも一以上の予備水分離膜ユニット5を設置できるように構成し、取り出される製品流体の監視装置8、9〜13を備え、該監視装置8、9〜13によって監視される製品流体の性状に応じ、上記予備水分離膜ユニット5を稼動させることにより、製品流体の性状を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分離膜を用いた脱水装置に関する。さらに詳しくは、水との共沸組成を持つエタノール又はプロパノールと、水との混合物(被処理流体)を脱水するにあたり、水分離膜の劣化に適切に対処するようにした脱水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石油燃料を代替する燃料源として、エタノールが注目されており、その市場規模は、2010年に5500万キロリットルと予測されている。しかし、メタノールを燃料として採用するためには、トウモロコシ等のバイオ原料から得た粗製物を蒸留精製し、少なくとも99.5wt%以上に脱水しなければならない。
従来、脱水にあたっては、希薄エタノール水溶液を、蒸留塔で蒸留することにより、エタノール/水系の共沸点近くまで濃縮し、次いで脱水するといったことが行われている。
【0003】
脱水するための手法としては、エントレーナを加え、共沸蒸留で脱水する方法がある。しかし、この方法では、三成分系を共沸蒸留し、さらにエントレーナを回収するといった工程を踏む必要があり、多大の熱エネルギーを必要とするといったような幾つかの欠点があった。
【0004】
また、モレキュラーシーブ槽を複数並列し、これらをバッチ切替しながら脱水する方法もある。しかし、この方法でも、モレキュラーシーブ槽の再生に多大なエネルギーを消費するという難点があった。
【0005】
そこで、水分離膜のように、以上の欠点を伴わない要素を用いることが考案されている(特許文献1:特開昭58−21629号公報)。
しかし、水分離膜を備える水分離膜ユニットを用いたPV(パーベーパレーション)を採用する場合、一般的に水分離膜ユニットの寿命は約2年で、年に一回分離膜を全数交換することが必要であった。この間プラントは一定期間停止することが不可欠で、稼働率が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開昭58−21629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、水分離膜を用いた脱水装置を備えるプラントについて、プラントを稼動させたまま、水分離膜ユニットの交換をすることができるようにし、その稼働率を維持するようにした脱水装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、被処理流体から水を分離する脱水装置であって、被処理流体の流れ方向に並列して、少なくとも二以上の使用中の水分離膜ユニットを備え、該少なくとも二以上の水分離膜ユニットに対し、被処理流体の流れ方向に対し並列して、少なくとも一以上の予備水分離膜ユニットを設置できるように構成し、取り出される製品流体の監視装置を備え、該監視装置によって監視される製品流体の性状に応じ、上記予備水分離膜ユニットを稼動させることにより、製品流体の性状を維持することを特徴とする。
【0008】
本発明の脱水装置では、上記被処理流体は、一般的には有機水溶液である。有機水溶液の有機成分は、好適には、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール等のアルコール、酢酸等のカルボン酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトアルデヒド等のアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチルエステル等のエステルからなる群から選択される一の有機成分である。
【0009】
本発明に係る脱水装置は、その一実施の形態で、上記製品流体の監視装置として、脱水装置全体から取り出される製品流体の有機成分の濃度を監視する濃度計を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る脱水装置は、別の実施の形態で、上記製品流体の監視装置として、上記各水分離膜ユニットから取り出される製品流体の有機成分の濃度を監視する濃度計を備え、各水分離膜ユニットに該濃度計が設置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る脱水装置は、さらに別の実施の形態で、上記製品流体の監視装置として、上記各水分離膜ユニットから取り出される製品流体の温度を監視する温度計を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水分離膜を用いた脱水装置を備えるプラントについて、プラントを稼動させたまま、水分離膜ユニットの交換をすることができるようにし、その稼働率を維持するようにした脱水装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る脱水装置について、その実施の形態を参照しながらさらに詳細に説明する。
【0014】
図1に、本発明に係る脱水装置の一実施の形態を示す。本実施の形態に係る脱水装置は、脱水される被処理流体として、粗エタノールを想定している。この粗エタノール水溶液の濃度としては、エタノール濃度94.5wt%〜94.8wt%の水溶液を想定している。すなわち、有機成分としてエタノールを含む粗エタノールを被処理流体としている。最終的に得られる製品流体、すなわち製品エタノール(無水エタノール)のエタノール濃度は、99.5wt%〜99.8wt%である。
【0015】
本実施の形態に係る脱水装置100は、主たる構成要素として、水分離膜ユニット1〜5、入口流量計6、出口流量計7、出口濃度計8、個別濃度計9〜13を備える。さらに、各水分離膜ユニット1〜5について入口弁14〜18、及び出口弁19〜23を備えている。
【0016】
水分離膜ユニット1〜5は、粗エタノールを無水エタノールと水とに分離するためのユニットである。水分離膜ユニットを構成するための水分離膜としては、細孔径10オングストローム以下のシリカ系又はゼオライト系の無機水分離膜が好適である。また、炭素膜であってもよい。
【0017】
また、特許第2808479号記載の無機水分離膜も適用可能である。該特許第2808479号の無機水分離膜は、無機多孔体の細孔内に、エトキシ基又はメトキシ基を含むアルコキシシランの加水分解を経て得られたシリカゲルを担持することによって得られる耐酸性複合分離膜である。該耐酸性複合分離膜は、以下の工程1〜11を含む製造方法によって製造することができる。
なお、以下の多孔質基材としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニアのようなセラミック基材が一般的であり、筒型形状であって、長手方向に複数の断面円形の内管を持つものが好適である。以下の工程1〜11では、このような内管の内部壁を被覆するようにして無機水分離膜が形成される。「無機多孔体の細孔内に、エトキシ基又はメトキシ基を含むアルコキシシランの加水分解を経て得られたシリカゲルを担持する」とは、このことを意味している。
なお、水分離膜としては、無機水分離膜以外に、ポリビニルアルコール膜、ポリイミド膜、ポリアミド膜といった有機膜を用いることもできる。これらの有機膜も経年変化を受け、本発明を適用することができる。
【0018】
工程1: シリカゾルの原料であるアルコキシシランと水と酸触媒の混合割合を変化させて製造する複数の種類のシリカゾルの調製条件において、担持するシリカゾルの原料調合割合をシリカゾル1用とシリカゾル2用の2種類に区別する。
工程2: シリカゾル1用原料のアルコキシシランに対する水の重量比を0.5〜2.0とし、かつ、反応触媒として、アルコキシシランに対する酸触媒の重量比を0.01〜0.1とする。
工程3: シリカゾル2用原料のアルコキシシランに対する水の重量比を2.0〜50とし、かつ、反応触媒として、アルコキシシランに対する酸触媒の重量比を0.01〜0.5とする。
工程4: 上記シリカゾル1用原料を沸騰状態に保持し、沸騰開始後約25分、約20分及び約15分の液をそれぞれ、1−A、1−B及び1−C液とする。
工程5: 上記シリカゾル2用原料を常温で30分〜90分間撹拌・混合してシリカゾル2を製造する。
工程6: 多孔質基材の表面上に上記シリカゾル1−A液を担持した後、該多孔質基材を約200℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成し、次に該多孔質基材を約300℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成し、次に該多孔質基材を約400℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成し、次に該多孔質基材を約500℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成する。
工程7: 該シリカゾル1−A液を担持した多孔質基材の表面に更にシリカゾル1−A液を担持した後、上記工程6の操作を2〜3回繰り返す。
工程8: 次に該シリカゾル1−A液を担持した多孔質基材の表面上に更にシリカゾル1−B液を使用して上記工程6〜工程7と同様の処理を行う。
工程9: 次に該シリカゾル1−B液を担持した多孔質基材の表面上にシリカゾル1−C液を使用して上記工程6〜工程7と同様の処理を行う。
工程10: 次に上記シリカゾル1−A、1−B及び1−C液を担持してなる多孔質基材の表面上に上記シリカゾル2液を担持し、該多孔体を約200℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成し、次に該多孔質基材を約300℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成し、次に該多孔質基材を約400℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成し、次に該多孔質基材を約500℃に設定した電気炉内で5〜15分間焼成する。
工程11: 該シリカゾル2液を担持した多孔質基材の表面に更にシリカゾル2液を担持した後、上記工程10の操作を2〜3回繰り返す。
【0019】
以上の工程1〜11を経て、無機水分離膜を内管に担持(被覆)した筒型の多孔質基材を得ることができる。本発明では、例えばこのようなものを水分離膜ユニット1〜5内に内蔵される水分離膜として用いる。水分離膜ユニット1〜5は、このような水分離膜を減圧可能な容器内に内蔵することとしている。
【0020】
粗エタノールは、図示しない熱交換器によって予め熱せられ、90℃程度となる。各水分離膜ユニット1〜5には、図示しないポンプによって、入口流量計6、入口弁14〜18を経て、このような粗エタノールが導入されるようになっており、水分離膜の内管を粗エタノールが流れる。水分離膜を減圧することにより、水が分離される。水が分離されたエタノールは、出口弁19〜23を経て、出口濃度計8、出口流量計7を経て製品エタノールとして取り出される。各水分離膜ユニット9〜13の出口濃度は、個別濃度計9〜13によって監視される。
【0021】
本実施の形態に係る脱水装置100では、例えば、稼動当初、水分離膜ユニット1〜4のみを使用する。水分離膜ユニット1〜4に流入するトータルな出入りの流量は入口流量計6、出口流量計7によって監視する。そして、出口濃度計8で製品エタノールが所望の設定値以上のエタノール濃度に保たれるかどうかを監視する。同時に、各水分離膜ユニット1〜4の個別の出口濃度も個別濃度計9〜12によって監視する。一方、水分離膜ユニット5は、予備水分離膜ユニットとし、稼動当初は稼動させない。
【0022】
水分離膜は、使用に伴って劣化することが一般的である。ここで、いずれかの水分離膜ユニット1〜4の特性が劣化した場合、以下のような手法によって予備水分離膜ユニット5を稼動させる。
【0023】
(1)水分離膜ユニット1〜4のうち、特性が劣化したユニットの流量を絞る。特性の劣化は、個別濃度計9〜12の濃度で検知される。そして、出口濃度計8で製品エタノールの濃度が所望以上であるかどうかを監視する。流量を絞り、出口流量計7で設定量以下の製品エタノール流量しか維持できなくなった際には、予備水分離膜ユニット5を稼動させ、製品エタノール流量を維持する。
以上のような制御は、図示しない制御ユニットによって自動的に行うことができる。
一方、さらに、最も稼動状態が悪くなった水分離膜ユニットの出口弁、入口弁を閉成し、稼動を止める。そして、新規な水分離膜ユニットと稼動を止めた水分離膜ユニットを交換する。交換後の水分離膜ユニットは、新たな予備水分離膜ユニットとして待機の状態とする。以上のような手順によって、脱水装置自体の稼動を止めることなく、性能を維持することができる。
【0024】
(2)以上の(1)の手法で、劣化したユニットの流量を絞るといった制御を行うことなく、予備水分離膜ユニット5を稼動させ、特性の劣化した水分離膜ユニットの稼動を停止し、交換作業を実施することもできる。
【0025】
(3)なお、稼動当初、各水分離膜ユニット1〜4の処理流量を限界まで発揮させることなく、適宜に流量を絞り、水分離膜ユニットの特性の変化に応じて、全体としての出口流量を制御することも可能である。
【0026】
なお、個別濃度計9〜13を設置せず、予備水分離膜ユニットを例えば一年ごとに稼動開始し、他のいずれかの水分離膜ユニットを交換することもできる。図1の例でいうと、水分離膜ユニット1〜4は、約2年に一回稼動を止め、全体を交換していた。
【0027】
1年ごとに1回、新たな予備水分離膜ユニットを稼動開始するようにし、1本の水分離膜ユニットを交換するようにしても、実質的に支障はない。この場合、交換本数は、従前の半分となる。半年ごとに1回の場合には、全体の稼動本数が4本であることから従前と同じである。いずれの場合でも脱水装置全体の稼動を止める必要はない。
【0028】
また、使用中の水分離膜ユニット及び予備水分離膜ユニットの本数は、図1の実施の形態のものに限定されるものではない。
すなわち、被処理流体の流れ方向に対し並列して、少なくとも二以上の使用中の水分離膜ユニットを備え、該少なくとも二以上の水分離膜ユニットに対し、被処理流体の流れ方向に並列して、少なくとも一以上の予備水分離膜ユニットを設置するように構成すれば、本発明に係る脱水装置として構成することができる。
【0029】
本発明に係る脱水装置では、製品流体の監視装置として、濃度計と共に、又は濃度計に代替して、各水分離膜ユニット1〜5から取り出される製品流体の温度を監視する温度計を水分離膜ユニット1〜5の出口及び入口(少なくとも出口)に設けることもできる。
【0030】
水分離膜としてシリカ膜を採用した場合、シリカの溶解によって水分離膜の性能が劣化する。その結果、エタノールが水と共に透過し、液体の潜熱が増加し、出口温度が低下する。例えば、通常90℃で入り、40℃で流出したものがさらに低下することがある。この場合、温度低下を劣化と捉え、流量を絞り、必要に応じて予備水分離膜ユニットを稼動させる。
【0031】
また、水分離膜の孔が鉄錆、粘性物質、固形物質で詰まることがある。このような場合には、出口温度が逆に上昇する。通常40℃のものがそこまで温度低下しなくなることがある。この場合、温度上昇を劣化と捉え、流量を絞り、必要に応じて予備水分離膜ユニットを稼動させる。
【0032】
図1の実施の形態では、エタノールを有機成分として含む被処理流体を脱水の対象としている。しかし、本発明に係る脱水装置では、上記被処理流体は、有機水溶液であれば、このようなものに制限されない。すなわち、有機水溶液の有機成分は、好適には、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール等のアルコール、酢酸等のカルボン酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトアルデヒド等のアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチルエステル等のエステルからなる群から選択される一の有機成分であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る脱水装置の一実施の形態を説明する概念図である。
【符号の説明】
【0034】
1〜5 水分離膜ユニット
6 入口流量計
7 出口流量計
8 出口濃度計
9、10、11、12、13 個別濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理流体から水を分離する脱水装置であって、被処理流体の流れ方向に対し並列して、少なくとも二以上の使用中の水分離膜ユニットを備え、該少なくとも二以上の水分離膜ユニットに対し、被処理流体の流れ方向に並列して、少なくとも一以上の予備水分離膜ユニットを設置できるように構成し、取り出される製品流体の監視装置を備え、該監視装置によって監視される製品流体の性状に応じ、上記予備水分離膜ユニットを稼動させることにより、製品流体の性状を維持することを特徴とする脱水装置。
【請求項2】
上記被処理流体が、有機水溶液であることを特徴とする請求項1に記載の脱水装置。
【請求項3】
上記有機水溶液の有機成分が、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール等のアルコール、酢酸等のカルボン酸、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル、アセトアルデヒド等のアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、酢酸エチルエステル等のエステルからなる群から選択される一の有機成分であって、水に可溶なものであることを特徴とする請求項2に記載の脱水装置。
【請求項4】
上記製品流体の監視装置として、脱水装置全体から取り出される製品流体の有機成分の濃度を監視する濃度計を備えることを特徴とする請求項2に記載の脱水装置。
【請求項5】
上記製品流体の監視装置として、上記各水分離膜ユニットから取り出される製品流体の有機成分の濃度を監視する濃度計を備え、各水分離膜ユニットに該濃度計が設置されていることを特徴とする請求項2に記載の脱水装置。
【請求項6】
上記製品流体の監視装置として、上記各水分離膜ユニットから取り出される製品流体の温度を監視する温度計を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の脱水装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−131749(P2009−131749A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308549(P2007−308549)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】