説明

脱硝触媒の再生方法及び重質油焚き燃焼装置の運転方法

【課題】脱硝触媒の再生方法及び重質油焚き燃焼装置の運転方法を提供する。
【解決手段】ボイラ運転停止前の所定の期間、ボイラの燃焼排ガス16のガス煙道23に設けられたエコノマイザ15をバイパスした燃焼ガスの一部11aを、脱硝触媒17aを有する脱硝装置17の前に供給し、エコノマイザ15からの燃焼排ガス16と混合させ、360℃以上の所定温度(360℃〜450℃)の混合ガス24とし、この混合ガス24を脱硝触媒17aに導入して、脱硝触媒に付着・蓄積したVOSO4をV25に分解処理するボイラ運転中の前処理工程と、ボイラ運転停止後、脱硝装置から取り出した脱硝触媒をシュウ酸を用いて酸洗浄酸処理するシュウ酸洗浄工程と、触媒活性成分を担持する触媒担持工程と、触媒活性成分が担持された脱硝触媒を焼成処理する焼成工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重質油焚き燃焼装置で排ガス処理する脱硝装置の脱硝触媒の再生方法及び重質油焚き燃焼装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボイラ等の燃焼装置からの燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)の除去方法としては、窒素酸化物除去触媒(以下「脱硝触媒」という。)の存在下、アンモニア(NH3)を還元剤に利用してNOxを無害な窒素及び水に分解するアンモニア接触還元法が実用化されている。
【0003】
硫黄(S)分の高いC重油等の重質油を燃料とするボイラの排ガス処理においては、燃焼排ガス中に高濃度の二酸化硫黄(SO2)が存在するため、NOx還元除去反応と同時に生じる二酸化硫黄(SO2)の三酸化硫黄(SO3)への酸化反応により、高濃度の三酸化硫黄(SO3)が発生し、還元剤として使用するNH3の未反応分と低温領域で容易に結合して、酸性硫酸アンモニウムやその他の化合物を生成し、後流の熱交換器等の各種装置の内部や配管に目詰まりや一部閉塞等を生じて圧力損失が上昇してしまうことから、集塵機の能力アップなどの対策を講じる必要がある。
【0004】
また、優れた脱硝性能と低SO2酸化能を示す触媒として、タングステン酸化物やバナジウム−タングステン酸化物等をチタニアに担持させた脱硝触媒がある。
【0005】
ところで、オリマルジョン(ベネズエラ国オリノコ州で採取される超重質油(オリノコタール)に水及び界面活性剤を混合して常温での取り扱い性を容易化した水中油滴形のエマルジョン(三菱商事株式会社の商品名))や、アスファルトや減圧残渣油(vacuum residual oil:VRO)等の超重質油は、下記特許文献に開示の「表1」からわかるように、C重油に比べて、硫黄(S)分を2〜3倍、バナジウム(V)分を5〜7倍含有し、また、その燃焼排ガス中のSO2濃度が非常に高いことから、運転中に脱硝触媒表面にバナジウム化合物が堆積するという、問題がある。
特に、粗悪燃料中の硫黄(S)分が1重量%以上含有する場合には、この傾向が顕著であることが確認されている(特許文献1)。
【0006】
【表1】

【0007】
図5は、14,400時間運転後の脱硝触媒のX線回折分析結果を示すグラフであり、図6は、ボイラ運転時間と触媒全体の五酸化バナジウム(V25)増加量との関係を示すグラフであり、図7は、五酸化バナジウム(V25)の濃度上昇と、SO2酸化率との関係のグラフである(非特許文献1)。ここで、図5、図6及び図7のa.u.は、いずれも基準値からの比率を表し、絶対値ではない。
図5に示すように、運転初期のX線回折分析結果では、触媒成分のチタニア(TiO)のみであったが、14,400時間運転後のX線回折分析結果では、脱硝触媒にオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)と五酸化バナジウム(V25)とが生成しているのが確認された。図6に示すように、運転時間の経過と共に、五酸化バナジウム(V25)の濃度が上昇するのが確認された。
【0008】
このバナジウムは、脱硝触媒の活性成分であるとともに、副反応のSO2酸化反応も促進する物質であり、図7に示すように、実機では経時的にSO2酸化反応率が上昇し、この結果、脱硝装置の後流側に排出される腐食性のSO3が増加する、という問題がある。
【0009】
そこで、本出願人は、先に、点検の際に、脱硝触媒を再生する触媒再生処理において、先ず脱硝装置から脱硝触媒を取り出した後、脱硝触媒を電気炉で例えば450〜600℃の高温条件で加熱処理し、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理し、その後、加熱処理した脱硝触媒をシュウ酸を用いてシュウ酸洗浄処理を行うことで、五酸化バナジウム(V25)を溶解除去することで、再生処理をする技術、及び硫酸等を用いて、温度の高い条件でオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解処理をする技術を提案した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−185928号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】三菱重工技報 Vol.38 No.1(2001−1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に開示の脱硝触媒の再生方法では、電気炉を用いて高温(例えば450〜600℃)条件で加熱処理する際に、下記式(1)の反応が進行し、電気炉から二酸化硫黄(SO2)と三酸化硫黄(SO3)とが発生する、という問題がある。
2VOSO4→V25+SO2+SO3・・・(1)
この為、特許文献1に係る触媒再生方法においては、電気炉での高温加熱処理の際に、硫黄酸化物(SOx)の処理設備として脱硫装置が別途必要となる、という問題がある。
【0013】
また、酸処理のみでオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解処理を行うには、3〜12規定とすると共に、その温度が60〜90℃という苛酷条件で処理操作を行う必要があり、処理施設の環境が劣悪となる、という問題がある。
【0014】
よって、脱硝触媒の再生が簡易にできる脱硝触媒の再生方法の出現が切望されている。
【0015】
本発明は、前記問題に鑑み、脱硝触媒の再生方法及び重質油焚き燃焼装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、重質油を用いてボイラ燃焼する際の燃焼排ガス中の窒素酸化物を脱硝処理する脱硝触媒の再生方法であって、前記ボイラ運転停止前の所定の期間において、ボイラの燃焼排ガスのガス煙道に設けられたエコノマイザをバイパスした燃焼ガスの一部を、脱硝触媒を有する脱硝装置の前に供給し、エコノマイザからの燃焼排ガスと混合させ、混合ガスの温度を360℃以上の所定温度に昇温して、脱硝装置を高温脱硝条件とし、脱硝触媒に付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解する分解工程を、ボイラ運転中に行うことを特徴とする脱硝触媒の再生方法にある。
【0017】
第2の発明は、第1の発明において、前記分解工程の後、ボイラ運転を停止し、その後、脱硝装置から取り出した脱硝触媒を酸処理する酸洗浄工程を有することを特徴とする脱硝触媒の再生方法にある。
【0018】
第3の発明は、第1又は2の発明において前記分解工程のボイラ運転期間は、硫黄(S)分の低い油燃料に切替てボイラ燃焼することを特徴とする脱硝触媒の再生方法にある。
【0019】
第4の発明は、第2の発明において、酸洗浄工程の酸が、シュウ酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液のいずれか一つであることを特徴とする脱硝触媒の再生方法にある。
【0020】
第5の発明は、第2又は4の発明において、酸洗浄工程の後に、仕上げ水洗処理する水洗処理工程及び乾燥工程を有することを特徴とする脱硝触媒の再生方法にある。
【0021】
第6の発明は、第3の発明において、硫黄(S)分の低い油燃料が、硫黄(S)分を1重量%未満含有する油燃料であることを特徴とする脱硝触媒の再生方法にある。
【0022】
第7の発明は、重質油を用いてボイラ燃焼する重質油焚き燃焼装置の運転方法であって、ボイラ運転の停止前運転工程において、ボイラの燃焼排ガスのガス煙道に設けられたエコノマイザをバイパスした燃焼ガスの一部を、脱硝装置の前に供給し、エコノマイザからの燃焼排ガスと混合させ、混合ガスの温度を通常運転温度条件よりも高い360℃以上の所定温度に昇温して、脱硝装置を高温脱硝条件とし、脱硝装置運転中に、排ガス中の窒素酸化物を脱硝すると共に、脱硝触媒に付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理すると共に、停止前運転工程で五酸化バナジウム(V25)の分解の際に発生した硫黄酸化物(SOx)を脱硝装置後流側の排ガス処理設備で処理することを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法にある。
【0023】
第8の発明は、第7の発明において、通常運転の際には、硫黄(S)分の高い重質油を用いてボイラ燃焼すると共に、ボイラ点検前の所定の運転停止前の際には、硫黄(S)分の低い油燃料に切替てボイラ燃焼することを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法にある。
【0024】
第9の発明は、第7又は8の発明において、通常運転工程でのエコノマイザ出口からの燃焼排ガスの温度が360℃以上とし、前記混合ガスの温度が450℃以下とすることを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法にある。
【0025】
第10の発明は、第8の発明において、硫黄(S)分の低い油燃料が、硫黄(S)分を1重量%未満含有する油燃料あることを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法にある。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、硫黄(S)分の高い重質油を用いてボイラ燃料した燃焼排ガスの脱硝に使用された脱硝触媒でも脱硝性能回復する際、ボイラ設備の排ガス処理装置を用いて、簡易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、重質油焚きボイラの排ガス処理装置の概略図である。
【図2】図2は、エコノマイザを備えた熱交換部及び脱硝装置の概略図である。
【図3】図3は、加熱再生前のX回折パターンである。
【図4】図4は、SO2及びSO3を含むガスにて加熱処理した後のX回折パターンである。
【図5】図5は、14,400時間運転後の脱硝触媒のX線回折分析結果を示すグラフである。
【図6】図6は、ボイラ運転時間と触媒全体の五酸化バナジウム(V25)増加量との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、五酸化バナジウム(V25)の濃度上昇と、SO2酸化率との関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではなく、また、実施例が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0029】
本発明による実施例に係る脱硝触媒の再生方法及び重質油焚き燃焼装置の運転方法について、図面を参照して説明する。
図1は、重質油焚きボイラの排ガス処理装置の概略図である。図1に示すように、重質油Fを用いた重質油焚きボイラ10中で燃焼ガス11は、火炉12内の蒸発管で蒸気を発生させ(発生した蒸気は蒸気ドラム13で気液分離され、蒸気はスーパーヒータ14に導かれ、過熱水蒸気となり、蒸気タービンの駆動に使用された後、凝縮した水は火炉12内の水管に還流し再蒸発される。)、スーパーヒータ14により蒸気を過熱した後、エコノマイザ15で重質油焚きボイラ10への供給水を加熱し、エコノマイザ15出口から燃焼排ガス16として排出される。前記エコノマイザ15から排出された燃焼排ガス16は、燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を脱硝する脱硝装置17に供給され、その後エアヒータ18で熱交換により空気19を加熱した後、集塵装置20に供給され、更に、燃焼排ガス中の硫黄酸化物(SOx)を脱硫する脱硫装置21に供給された後、浄化ガス22として大気に排出される。
前記脱硝装置17としては、重質油焚きボイラ10からの燃焼排ガス16に対し、前記脱硝装置(触媒部)17の前流側において、アンモニウム(NH3)を噴霧して還元脱硝するものが提案されている。
【0030】
図2は、エコノマイザを備えた熱交換部及び脱硝装置の概略図である。
図2に示すように、熱交換部10aの最終段にエコノマイザ15が設けられており、このエコノマイザ15を迂回するエコノマイザバイパス15aが、燃焼排ガス16を排出するガス煙道23に連結されている。そして、エコノマイザバイパス15aに流入した燃焼ガスの一部11aは、エコノマイザ15から排出される燃焼排ガス16と合流され、混合ガス24として、脱硝触媒17aを備えた脱硝装置17に供給することができるようにしている。脱硝装置17手前においては、アンモニアが噴霧され、アンモニア脱硝されている。
【0031】
ここで、エコノマイザバイパス15aを迂回する燃焼ガスの一部11aは、エコノマイザ15において熱交換に利用されないので、ボイラの運転条件にもよるがそのガス温度(T2)は例えば550〜600℃と高温である。
通常運転の際には、図示しない遮断弁にてエコノマイザバイパス15aには燃焼ガスの一部は流入しないようにしている。
なお、エコノマイザ15出口の燃焼排ガス16の温度(T1)は、熱交換されるので350〜360℃程度となる。
よって、ガス温度(T1)のエコノマイザ出口の燃焼排ガス16と、ガス温度(T2)のバイパスされた燃焼ガスの一部のガスとが混合された混合ガス24の温度(T3)は、燃焼ガスの一部11aのバイパス量の調整により、エコノマイザ15出口の燃焼排ガス16の温度(T1)よりも高い360℃以上とすることができる。
【0032】
ところで、このような排ガス処理装置の脱硝装置17に用いる脱硝触媒17aには、前述したように重質油を用いてボイラ燃焼した場合、重質油中にはバナジウム成分が多く含まれており、このバナジウム成分が、五酸化バナジウム(V25)の状態で脱硝触媒17aに飛来するものの、脱硝触媒17aに付着すると、燃焼排ガス16中に含まれる二酸化硫黄(SO2)及び三酸化硫黄(SO3)と下記の反応式(2)のように反応して、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の状態となって脱硝触媒17aに蓄積してしまう。この蓄積量は、重質油中の硫黄(S)分の含有量にもよるが、前述したように1重量%以上含まれる場合には、このオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の蓄積が顕著となる。
【0033】
25+SO2+SO3→2VOSO4 ・・・(2)
【0034】
<脱硝触媒の再生方法>
本発明では、重質油を用いてボイラ燃料した際に、脱硝触媒の表面に蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を除去し、再生する脱硝触媒の再生方法を提供するものである。
本発明の脱硝触媒の再生方法は、以下の工程を有するものである。
【0035】
1) ボイラ運転中のVOSO4の分解工程
このボイラ運転中の前処理工程では、停止前所定の期間において、ボイラ10の燃焼排ガス16のガス煙道23に設けられたエコノマイザをバイパスした燃焼ガスの一部11aを、脱硝触媒を有する脱硝装置の前に供給し、エコノマイザからの燃焼排ガスと混合させ、混合ガス(T3)の温度を360℃以上の所定温度(360℃〜450℃)に昇温して、脱硝装置を高温脱硝条件とし、脱硝触媒に付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解する。
【0036】
1)のボイラ運転中の前処理工程においては、脱硝触媒に付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理することで、脱硝触媒に残留するバナジウム成分が、シュウ酸で洗浄除去可能な五酸化バナジウム(V25)に状態変化させている。
ここで、本実施例では、通常の硫黄(S)分の高い重質油から、硫黄(S)分の低い油燃料の種類に切り替えた後、エコノマイザバイパス15aに燃焼ガスの一部11aを導入しているが、燃焼ガスの一部11aを導入した後に、燃料の種類を切り替えるようにしてもよい。
【0037】
また、前記ボイラ運転停止前の所定の期間、ボイラ燃料として、硫黄(S)分の高い燃料から、硫黄(S)分の低い油燃料に切替えてボイラ燃焼するようにしてもよい。これは、これにより、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解を促進することができる。
【0038】
2) 酸洗浄工程
1)のボイラ運転中の前処理工程の終了後、ボイラ運転を停止し、脱硝装置17から脱硝触媒17aを取り出し、取り出した脱硝触媒17aを酸洗浄処理し、残留するバナジウム成分である五酸化バナジウム(V25)を溶解除去する。
ここで、五酸化バナジウム(V25)を溶解除去する酸としては、例えばシュウ酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液のいずれか一つを用いることができる。
なお、酸処理した後、必要であれば仕上げ水洗洗浄して、残留する酸を脱硝触媒から除去して乾燥するようにしてもよい。
また、酸水溶液以外としては、水溶液を用いて、五酸化バナジウム(V25)を溶解除去するようにしてもよい。これは、水を用いる場合、触媒中に堆積した硫黄(S)分が溶解して、酸性水溶液となるからである。
【0039】
酸洗浄後又は仕上げ洗浄後の触媒は、その後乾燥し、再生脱硝触媒として使用する。
【0040】
本発明では、重質油焚きボイラ10からの燃焼排ガス16のガス煙道に設けられたエコノマイザ15をバイパスしたガス温度(T2)の燃焼排ガスの一部11aを、脱硝装置17の前に供給し、エコノマイザ15からの燃焼排ガス16と混合させ、混合ガス24の温度(T3)を、通常運転温度条件の燃焼排ガス温度(T1)よりも高い温度(360℃〜450℃)に昇温させ、この高温となった混合ガス24を脱硝装置17に供給して脱硝条件を高温条件としている。
【0041】
これにより、ボイラ運転中において、脱硝装置17を用いて燃焼排ガス16中の窒素酸化物をアンモニア脱硝すると共に、脱硝触媒17aに付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に加熱分解処理することができる。
【0042】
このバナジウムの分解処理の際に発生する式(1)に示す二酸化硫黄(SO2)、三酸化硫黄(SO3)等の硫黄酸化物(SOx)は、ボイラ設備の既設の集塵装置20及び脱硫装置21において、処理することができる。
2VOSO4→V25+SO2+SO3・・・(1)
【0043】
この結果、従来のように脱硝触媒17aを再生する際に、ボイラ運転終了後、外部に取り出し、別途設けた電気炉で450〜600℃の高温条件で加熱処理する手間を省くことができる。また電気炉で加熱処理する際に発生する硫黄酸化物(SOx)を処理する別途設ける必要がある排ガス処理設備を不要とすることができる。
また、従来のような高温での硫酸や塩酸による苛酷な条件でのオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解処理を行うことを回避できる。
【0044】
ここで、従来のような電気炉で加熱処理する場合は空気中で実施される為、処理ガス中に二酸化硫黄(SO2)と三酸化硫黄(SO3)とは殆ど存在しないが、本発明に係る場合には、ボイラ燃焼中の燃焼排ガス16は、脱硝装置17におけるオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)への分解処理の際に、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解を促進させるために、燃焼排ガス16中に含まれる二酸化硫黄(SO2)と三酸化硫黄(SO3)との存在割合を低くすることが好ましい。
このため、ボイラ運転中の前処理工程においては、ボイラに供給する燃料として、安価な硫黄(S)分の高い重質油から、硫黄(S)分の含有比率の低い(硫黄(S)燃料に切り替える必要がある。
【0045】
ここで、硫黄分の含有比率の高い重質油とは、例えばオリマルジョン(商品名)、アスファルトや減圧残渣油(vacuum residual oil:VRO)等の硫黄(S)分が1重量%以上の超重質油である。
そして、1)のボイラ運転中の前処理工程で燃料切替えの際に用いる硫黄(S)分の含有比率の低い(硫黄(S)燃料とは、このような超重質油ではなく、硫黄(S)分が1重量%未満の油燃料とするのが肝要となる。
また、より好ましくは、硫黄(S)分が0.5重量%以下のいわゆるLSA重油(Low Sulfer A Fuel Oil )を用いるようにしてもよい。
【0046】
これは、燃焼排ガス中の硫黄分の含有量が高い場合には、式(1)の反応で発生する二酸化硫黄(SO2)と三酸化硫黄(SO3)の量が少なくなり、長時間、高価な低硫黄(S)分燃料を使用することとなり、好ましくないからである。
【0047】
なお、油燃料の硫黄分の含有量が1重量%を超える場合であっても、ボイラ燃料条件により、脱硝装置17に導入する前の燃焼排ガス16中のSOx濃度が2,000ppmvd以下となる場合には、通常使用する硫黄分の含有比率の高い粗悪燃料よりも幾分低い硫黄(S)分の含有率の油燃料を使用することもできる。
これは、脱硝装置17に導入する前の燃焼排ガス16中のSOx濃度が2,000ppmvdを超える場合には、発生するSOx濃度が高くなり、後流側の排ガス処理設備に負担がかかり好ましくないからである。
なお、脱硝装置17に導入する前の燃焼排ガス中のSOx濃度は、1,000ppmvd以下、より好ましくは500ppmvd以下とすると、排ガス処理設備が負担とならず、好ましい。
【0048】
この1)のボイラ停止前の前処理を行うことで、ボイラの運転中において、脱硝装置17に導入される混合ガス24の温度が昇温し、脱硝触媒17aに堆積しているオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を、シュウ酸水溶液溶解性の五酸化バナジウム(V25)に分解処理することができる。
【0049】
その後、ボイラ運転を停止し、脱硝触媒17aを抜き出して例えばシュウ酸水溶液を用いて酸洗浄し、脱硝触媒に生成した五酸化バナジウム(V25)を除去する。
【0050】
酸洗浄工程は、アルカリ金属(Na,K等)やアルカリ土類金属(Ca,Mg等)の化合物等や、加熱処理により状態変化した五酸化バナジウム(V25)を例えばシュウ酸水溶液を用いて、溶解して脱硝触媒から除去する工程である。
このとき、シュウ酸水溶液のシュウ酸濃度は、0.5〜25重量%であると好ましい(特に、4〜20重量%であるとさらに好ましい)。これは、0.5重量%未満であると、バナジウム成分(V25)等を十分に洗浄除去することができず、25重量%を超えると、処理に係るコストが高くなるからである。
【0051】
また、シュウ酸水溶液の温度は、20〜80℃であると好ましい。これは、20℃よりも低いと、五酸化バナジウム(V25)等を十分に洗浄除去することができず、80℃よりも高いと、処理に係るコストが高くなるからである。
【0052】
仕上げ水洗処理工程を行う場合には、シュウ酸水溶液での洗浄処理に伴って脱硝触媒の表面に付着残留したシュウ酸を水により洗浄除去する。
このとき、水の温度は、10〜80℃であると好ましい。これは、10℃よりも低いと、付着残留物を水に対して十分に溶解させて除去することができず、80℃よりも高いと、熱エネルギ的に無駄を生じてしまうからである。
【0053】
このように、本発明によれば、硫黄(S)分が多い(1重量%以上)重質油を用いたボイラ燃焼を行う場合、脱硝装置17の運転中に脱硝触媒表面にオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)が付着・蓄積するが、燃料を重質油から硫黄(S)分が低い燃料(例えば硫黄分が0.5重量%以下のLAS重油)に切り替えると共に、エコノマイザバイパス15aを用いて燃焼ガス11の一部11aをバイパスさせ、エコノマイザ15出口からの燃焼排ガス16と混合して、その温度を上昇させた混合ガス24とすることで、ボイラ運転中において、脱硝触媒に堆積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理することができる。
【0054】
この結果、従来のように、ボイラ運転停止後、抜き出した脱硝触媒を別途設けた電気炉で加熱処理して、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理する加熱処理工程が不要となる。
また、この加熱処理において発生する硫黄酸化物の除去のために別途も受ける電気炉用の排ガス処理設備が不要となり、再生処理に係る設備費用の負担の軽減を図ることができる。
【0055】
本発明に係る再生方法が適用可能な脱硝触媒は、特に限定されることはなく、例えば、チタニアを担体とし、バナジウム−タングステン成分を担持させたものを始めとして、タングステン成分だけを担持させたもの、バナジウム−モリブデン成分を担持させたもの、これら以外の活性成分を担持させたもの等、種々挙げることができる。
また、担体としてチタニアとシリカとの複合酸化物の担体を用いるようにしてもよい。
【0056】
さらに、本発明に係る再生方法は、チタン−タングステン系成分を予め調製したチタニア担体にタングステン成分を担持させた脱硝触媒に適用する場合よりも、チタンとタングステンとの複合酸化物を形成し、当該複合酸化物を担体としてバナジウム系化合物を担持させた脱硝触媒に適用すると、上述した効果を顕著に発現することができる。
【0057】
上記複合酸化物型の脱硝触媒は、例えばタングステン化合物の中から選ばれる少なくとも一種の化合物を含有するゾル化したメタチタン酸を焼成し、この焼成品又は当該焼成品にバナジウム酸化物を添加したものに適量の助剤及び水を加えて混練し、押出し機により格子状に押出した後、乾燥、焼成する(例えば特公平1−14808号公報等参照)等により製造することができる。
【0058】
より具体的には、例えば、メタチタン酸に所定量のパラタングステン酸アンモニウム水溶液を加え、脱水、成形、乾燥した後に焼成したり、メタチタン酸に所定量のパラタングステン酸アンモニウム水溶液を加えて、脱水、乾燥した後にメタバナジン酸アンモニウム水溶液を含浸させ、成形した後、乾燥、焼成することにより、容易に製造することができる。
【0059】
<重質油焚きボイラの運転方法>
また、脱硝触媒を再生処理するための重質油焚きボイラの運転方法としては、以下の工程を有する。
a) 通常運転工程
通常運転の際には、硫黄(S)分の高い重質油Fを用いてボイラ燃焼する。
b) 停止前運転工程
運転停止前の際、所定の期間、硫黄(S)分の低い油燃料に切替てボイラ燃焼する。
このb)の前記停止前運転工程において、ボイラの燃焼排ガスのガス煙道に設けられたエコノマイザ15をバイパスした燃焼ガスの一部11aを、脱硝装置17の前に供給し、エコノマイザ15からの燃焼排ガス16と混合させ、通常運転温度条件よりも高い360℃以上の所定温度(360℃〜450℃)の混合ガス24とする。そして、この混合ガス24を脱硝装置17に導入することで、脱硝装置を高温脱硝条件とし、ボイラ運転中に、脱硝装置17において、燃焼排ガス16中の窒素酸化物を脱硝すると共に、脱硝触媒17aに付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理する。また、この停止前運転工程で五酸化バナジウム(V25)の分解の際に発生したSOxを、脱硝装置17の後流側の排ガス処理設備の脱硫装置21で処理することができる。
なお、ボイラ運転停止は、定期点検のほかに、緊急停止のような運転停止も含まれる。
【0060】
ここで、a)の通常運転工程において、エコノマイザ15からの燃焼排ガス16の温度が400℃以上の高温条件で運転することで、脱硝触媒17aに付着・蓄積するオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の生成量を低減することができる。これは、高温条件では、前述した式(2)の反応が進行せず、脱硝触媒へのオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の蓄積が少ないものとなるからである。
【0061】
よって、a)の通常運転工程において、高温運転条件(通常運転温度(燃焼排ガス16のT1=350℃)よりも高い温度(T1=360〜400℃)で運転)とすることで、脱硝触媒17aに付着・蓄積するオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の生成量を低減することができることとなる。
この結果、b)停止前運転工程における、前記エコノマイザバイパスからの燃焼排ガスと混合した450℃以下の混合ガスを用いての低S分燃料でのオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解処理のための燃焼時間を短くすることができる。
【0062】
これにより、脱硝触媒17aに付着・蓄積するオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の量を加熱分解処理する際に使用する、重質油よりも燃料単価が高い低S分燃料の燃料使用量を低減することができる。
【0063】
例えば、通常運転工程において、エコノマイザ15からの燃焼排ガス16の温度が350〜380℃程度でボイラ運転した場合における停止前運転時間が例えば5〜7日であるとすると、エコノマイザ15からの燃焼排ガス16の温度(T1)を400℃以上とし、前記エコノマイザバイパスからの燃焼排ガスと混合した混合ガスの温度(T3)を、450℃以下とすることで、例えば3〜4日に短縮することができる。
【0064】
なお、b)の停止前運転工程は、前述した脱硝触媒の再生方法における「ボイラ運転中の前処理工程」と同様であるので、その焼成説明は省略する。
【0065】
本発明に係る重質油焚きボイラの運転方法によれば、ボイラ運転中において、脱硝触媒の再生の前処理を行うことができ、従来のような別途設けた電気炉を用いての高温加熱過熱処理が不要となると共に、その処理の際に発生する硫黄酸化物(SOx)の処理が不要となり、脱硝触媒の再生処理の簡略化を図ることができる。
【0066】
[試験例]
使用済脱硝触媒として、触媒表面にオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)が堆積されている使用済脱硝触媒(6孔×7孔×900mmのハニカム触媒)を準備した。
この使用済脱硝触媒に、下記「表2」の条件の模擬ガス(低硫黄(S)分油燃料の排ガスを模擬したガス中のSO2濃度が500ppmvdのもの)を導入し、経時的に触媒出口ガス中のSO3を計測し、低硫黄(S)分燃料排ガスでの、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解を確認した。
試験終了前と後のX回折パターンを計測した。
【0067】
【表2】

【0068】
図3は、加熱再生前のX回折パターンである。図4は、SO2及びSO3を含むガスにて加熱処理した後のX回折パターンである。
図3及び図4に示すように、図4に示すX回折パターンにおいて、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)の分解生成物である五酸化バナジウム(V25)のが確認され、硫黄酸化物を含むガス条件であっても、オキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に十分に分解処理することが確認された。
【符号の説明】
【0069】
10 重質油焚きボイラ
11 燃焼ガス
11a 燃焼ガスの一部
12 火炉
13 蒸気ドラム
14 スーパーヒータ
15 エコノマイザ
15a エコノマイザバイパス
16 燃焼排ガス
17 脱硝装置
20 集塵装置
21 脱硫装置
22 浄化ガス
23 ガス煙道
24 混合ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質油を用いてボイラ燃焼する際の燃焼排ガス中の窒素酸化物を脱硝処理する脱硝触媒の再生方法であって、
前記ボイラ運転停止前の所定の期間において、ボイラの燃焼排ガスのガス煙道に設けられたエコノマイザをバイパスした燃焼ガスの一部を、脱硝触媒を有する脱硝装置の前に供給し、エコノマイザからの燃焼排ガスと混合させ、混合ガスの温度を360℃以上の所定温度に昇温して、脱硝装置を高温脱硝条件とし、脱硝触媒に付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解する分解工程を、ボイラ運転中に行うことを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記分解工程の後、ボイラ運転を停止し、その後、脱硝装置から取り出した脱硝触媒を酸処理する酸洗浄工程を有することを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項3】
請求項1又は2において
前記分解工程のボイラ運転期間は、硫黄(S)分の低い油燃料に切替てボイラ燃焼することを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項4】
請求項2において、
酸洗浄工程の酸が、シュウ酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液のいずれか一つであることを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項5】
請求項2又は4において、
酸洗浄工程の後に、仕上げ水洗処理する水洗処理工程及び乾燥工程を有することを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項6】
請求項3において、
硫黄(S)分の低い油燃料が、硫黄(S)分を1重量%未満含有する油燃料であることを特徴とする脱硝触媒の再生方法。
【請求項7】
重質油を用いてボイラ燃焼する重質油焚き燃焼装置の運転方法であって、
ボイラ運転の停止前運転工程において、ボイラの燃焼排ガスのガス煙道に設けられたエコノマイザをバイパスした燃焼ガスの一部を、脱硝装置の前に供給し、エコノマイザからの燃焼排ガスと混合させ、混合ガスの温度を通常運転温度条件よりも高い360℃以上の所定温度に昇温して、脱硝装置を高温脱硝条件とし、脱硝装置運転中に、排ガス中の窒素酸化物を脱硝すると共に、脱硝触媒に付着・蓄積したオキシ硫酸バナジウム(VOSO4)を五酸化バナジウム(V25)に分解処理すると共に、
停止前運転工程で五酸化バナジウム(V25)の分解の際に発生した硫黄酸化物(SOx)を脱硝装置後流側の排ガス処理設備で処理することを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法。
【請求項8】
請求項7において、
通常運転の際には、硫黄(S)分の高い重質油を用いてボイラ燃焼すると共に、
ボイラ点検前の所定の運転停止前の際には、硫黄(S)分の低い油燃料に切替てボイラ燃焼することを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、
通常運転工程でのエコノマイザ出口からの燃焼排ガスの温度が360℃以上とし、
前記混合ガスの温度が450℃以下とすることを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法。
【請求項10】
請求項8において、
硫黄(S)分の低い油燃料が、硫黄(S)分を1重量%未満含有する油燃料あることを特徴とする重質油焚き燃焼装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−49020(P2013−49020A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188828(P2011−188828)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】