説明

脱硫剤、それを用いた脱硫装置、脱硫方法

【課題】炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を安定して除去するとともに、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を低減することが可能な脱硫剤、それを用いた脱硫装置、脱硫方法を提供する。
【解決手段】
材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズであることを特徴とする脱硫剤を提供する。これにより、炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を安定して除去するとともに、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を抑制することが可能となる。又、当該脱硫剤を用いた脱硫装置、脱硫方法であっても、同様の効果を得ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫剤、それを用いた脱硫装置、脱硫方法に関し、詳しくは、炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を安定して除去するとともに、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を抑制することが可能な脱硫剤、それを用いた脱硫装置、脱硫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン等の低級炭化水素ガス、これらを含む天然ガス、都市ガス、LPG(液化石油ガス)等の炭化水素含有ガスは、工業用や家庭用等の燃料ガスとして用いられるほか、燃料電池用燃料ガスとしても用いられるようになってきている。
【0003】
上述した炭化水素含有ガスは、高い可燃性、燃焼性を有するものの、臭気が殆ど無い。そのため、高圧ガス保安法、ガス事業法により、民生用の炭化水素含有ガスには、特有の臭気を有する化合物を着臭剤(付臭剤)として予め添加するよう定められている。これにより、仮に炭化水素含有ガスが漏洩した場合であっても、当該漏洩を人間の嗅覚で容易に感知出来るようにしている。
【0004】
着臭剤としては、従来、臭気強度が高く、濃度が微小であっても(例えば、数重量ppm−数十重量ppm)人間の嗅覚で容易に感知可能な化合物、即ち、硫黄化合物が採用されている。硫黄化合物として、例えば、ターシャリーブチルメルカプタン(以下、TBM)、イソプロピルメルカプタン、ノルマルプロピルメルカプタン、ターシャリーアミルメルカプタン、ターシャリーヘプチルメルカプタン、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン(以下、EM)のメルカプタン類が挙げられる。又、ジメチルスルフィド(以下、DMS)、エチルメチルスルフィド、ジエチルスルフィドのスルフィド類が挙げられ、更に、テトラヒドロチオフェン(以下、THT)のチオフェン類が挙げられる。
【0005】
しかしながら、上述した硫黄系着臭剤はいずれも硫黄(S)分を含有する化合物であることから、焼却(燃焼)により、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)等の硫黄酸化物(SO)となり大気汚染、酸性雨の原因となるという問題がある。また、燃料ガスへの硫黄系着臭剤の添加は、燃料ガスのクリーン化を阻害するという問題がある。
【0006】
当該問題を解決するために、特表2008−542310号公報(特許文献1)には、特定の分子構造を有するシクロアルカジエン(不飽和炭化水素系着臭剤)を含む炭化水素ガスが開示されている。当該構成により、上述した硫黄化合物(硫黄系着臭剤)に代えて、又は硫黄系着臭剤とともに不飽和炭化水素系着臭剤を用いることで、硫黄系着臭剤の添加量を低減することが出来るとしている。
【0007】
ところで、炭化水素含有ガスを、燃料電池用燃料ガスとして用いる場合、先ず、炭化水素含有ガスを所定の改質触媒(例えば、水蒸気改質触媒等)に接触させることで、炭化水素含有ガスから水素を主成分とする改質ガスに変換させる。そして、変換後の改質ガスを燃料電池の水素源として用いることになる。
【0008】
ここで、上述した改質触媒は、炭化水素含有ガスに含まれる硫黄化合物により容易に被毒し、改質能力が劣化するという特徴を有している。そのため、従来、炭化水素含有ガスを改質触媒に接触させる前に、炭化水素含有ガスに含まれる硫黄化合物を所定の脱硫剤に接触させて当該硫黄化合物を除去していた。
【0009】
しかしながら、脱硫剤の吸着能力は、硫黄化合物(硫黄系着臭剤)の種類に応じて様々であり、特定の脱硫剤のみでは完全に硫黄化合物を除去することが出来ないという問題がある。例えば、従来からの脱硫剤である活性炭等では、メルカプタン類(TBM等)の硫黄化合物に対する吸着能力は高いものの、スルフィド類(DMS等)の硫黄化合物に対する吸着能力は低い。そのため、炭化水素含有ガスに添加している硫黄系着臭剤の種類によっては、脱硫剤による吸着能力(脱硫効果)が不十分で、改質触媒を容易に被毒させるという問題があった。更に、LPG等の炭化水素含有ガスには、原料由来の様々な硫黄化合物が予め含有されているため、あらゆる種類の硫黄化合物を確実に除去する脱硫剤又は脱硫装置が望まれていた。
【0010】
当該問題を解決するために、特開2003−20489号公報(特許文献2)には、硫黄化合物含有燃料ガスの脱硫装置であって、脱硫容器中に、その上流側と下流側とで硫黄化合物吸着能の異なる吸着剤を充填してなることを特徴とする燃料ガスの脱硫装置が開示されている。当該構成により、TBM等のメルカプタン類及びDMS等のスルフィド類の両方を含む燃料ガス中の両硫黄化合物を一つの脱硫装置で同時に有効に吸着除去することが出来るとしている。
【0011】
又、特開2006−44965号公報(特許文献3)には、銀アンミン錯イオンを含む溶液を用い、pH4〜9でイオン交換法により銀を担持することを特徴とする銀イオン交換ゼオライトを含む、炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物除去用吸着剤が開示されている。当該構成により、炭化水素燃料又はジメチルエーテル燃料中の硫黄化合物を、室温においても低濃度まで効率よく除去することが出来るとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2008−542310号公報
【特許文献2】特開2003−20489号公報
【特許文献3】特開2006−44965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、不飽和炭化水素系着臭剤を含有する炭化水素含有ガスのための脱硫剤について何ら記載がない。
【0014】
又、特許文献2、特許文献3に記載の技術では、不飽和炭化水素系着臭剤を含有する炭化水素含有ガスを脱硫することについて何ら記載がない。
【0015】
ところで、不飽和炭化水素系着臭剤を含有する炭化水素含有ガスを、従来から存在する脱硫剤(例えば、X型ゼオライト)に接触した場合、硫黄化合物に加えて不飽和炭化水素系着臭剤も吸着する。このことが、硫黄化合物に対する脱硫剤の吸着能力を低下させるとともに、脱硫剤の寿命を短縮化するという問題がある。
【0016】
又、上述した不飽和炭化水素系着臭剤の臭気強度は、硫黄化合物の臭気強度と比較して弱い場合が多いため、不飽和炭化水素系着臭剤を、硫黄系着臭剤の添加量と比較して多量に添加する必要がある(例えば、数十〜数百重量ppm)。そのため、不飽和炭化水素系着臭剤で着臭された炭化水素含有ガスを従来の脱硫剤により脱硫する場合、上述した脱硫剤の吸着能力の低下、脱硫剤の寿命の短縮化が更に顕著となる。
【0017】
そこで、本発明は、前記問題を解決するためになされたものであり、炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を安定して除去するとともに、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を抑制することが可能な脱硫剤、それを用いた脱硫器、脱硫方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る脱硫剤は、硫黄化合物と不飽和炭化水素系着臭剤とを含む炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を除去する脱硫剤を前提とする。
【0019】
当該脱硫剤において、材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズである。
【0020】
当該構成により、平均細孔径が、硫黄化合物を捕捉するサイズ、つまり、硫黄化合物を内部細孔に進入させるサイズであり、又、ゼオライトには、TBMやEM等の極性分子を吸着する能力がある。そのため、当該硫黄化合物を細孔表面に確実に吸着させる。又、平均細孔径が、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズ、つまり、不飽和炭化水素系着臭剤の内部細孔への進入を阻止させるサイズであるため、当該不飽和炭化水素系着臭剤は脱硫剤の細孔表面に付着することなく、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を抑制できる。そのため、不飽和炭化水素系着臭剤を含む炭化水素含有ガスを脱硫したとしても、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着による脱硫剤の寿命(破過時間)の短縮化を防止し、安定して硫黄化合物を除去することが可能となる。
【0021】
又、本発明は、前記平均細孔径が、0.50nm−0.75nmの範囲である構成を採用することが出来る。
【0022】
又、本発明は、前記ゼオライトが、ベータ型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、又はL型ゼオライトである構成を採用することが出来る。
【0023】
又、本発明は、上述した脱硫剤を充填した脱硫器と、前記脱硫器の上流において前記炭化水素含有ガス中の硫化カルボニル(以下、COS)を硫化水素に変換するCOS変換器とを備えた脱硫装置を構成することが出来る。
【0024】
又、本発明は、上述した脱硫剤を充填した脱硫器と、前記脱硫器の上流において前記炭化水素含有ガス中の硫化水素を吸着する金属系脱硫器と、前記金属系脱硫器の上流において前記炭化水素含有ガス中のCOSを硫化水素に変換するCOS変換器とを備えた脱硫装置を構成することが出来る。
【0025】
又、本発明は、上述した脱硫装置により脱硫された炭化水素含有ガスを改質触媒と接触させることによって水素含有ガスを製造する水素製造システムを構成することが出来る。
【0026】
又、本発明は、硫黄化合物と不飽和炭化水素系着臭剤とを含む炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を除去する脱硫方法としても提供することが可能である。即ち、当該脱硫方法において、材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズである脱硫剤に、前記炭化水素含有ガスを接触させることによって当該炭化水素含有ガスを脱硫する脱硫ステップを含むことを特徴とする脱硫方法を採用することが出来る。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を安定して除去するとともに、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る脱硫器及び脱硫装置の一例を示す概略図(図1(a))であり、本発明に係る脱硫器の第一の変形例を示す概略図(図1(b))であり、本発明に係る脱硫器の第二の変形例を示す概略図(図1(c))である。
【図2】本発明に係る水素製造システム及び燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【図3】実施例1において、ガス消費率に対するLPG中の硫黄化合物の入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。
【図4】実施例1において、ガス消費率に対するLPG中の2−ヘキシンの入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。
【図5】比較例1において、ガス消費率に対するLPG中の硫黄化合物の入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。
【図6】比較例1において、ガス消費率に対するLPG中の2−ヘキシンの入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、以下、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0030】
<脱硫剤>
本発明は、硫黄化合物と不飽和炭化水素系着臭剤とを含む炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を除去する脱硫剤に関するものである。
【0031】
一般に、特定の物質に含まれる他の特定の物質(目的物質とする)を除去するために、当該目的物質を細孔(細孔内表面)に吸着する、活性炭、ゼオライト、シリカゲル等の吸着剤が使用される。
【0032】
ここで、前記目的物質が吸着剤に吸着されるか否かの判断基準として、目的物質との関係における極性の有無と、吸着剤の細孔径とが挙げられる。即ち、目的物質が極性分子である場合に、吸着剤が、極性を持つ物質を除去する能力を持っていることと、吸着剤の細孔径が目的物質(目的物質の分子径)より大きいこととが挙げられる。
【0033】
さて、本発明では、目的物質が硫黄(S)成分を含む硫黄化合物であるため、それ以外の物質、つまり、不飽和炭化水素系着臭剤は除去されるべきではない。そこで、炭化水素含有ガスに含まれる硫黄化合物、不飽和炭化水素系着臭剤の分子径と、極性の有無とを挙げると表1の如くになる。尚、本発明で適用されている不飽和炭化水素系着臭剤としては、硫黄化合物よりも分子径が比較的大きい2−ヘキシンを例にしている。
【0034】
【表1】

【0035】
又、吸着剤として活性炭、ゼオライト、シリカゲルの各種類を、前記硫黄化合物、不飽和炭化水素系着臭剤の分子径の観点、極性の観点から評価して、吸着剤に吸着されるか否かを考察した結果を表2に示した。
【0036】
【表2】

【0037】
ここで、表1、表2に示すように、3種の活性炭は、分子径、極性のいずれの観点からも、不飽和炭化水素系着臭剤(2−ヘキシン)を吸着することから、本願の目的に沿わないこととなる。又、シリカゲルも、分子径の観点から、2種のいずれも本願の目的に沿わないことになる。
【0038】
以下に説明するように、一部のゼオライトは、分子径の観点、極性の観点からも硫黄化合物を除去し(吸着し)、不飽和炭化水素系着臭剤を除去しない(吸着しない)という本発明の目的に沿っているので、以下、ゼオライトについて説明する。
【0039】
多孔性無機酸化物のゼオライトは、化学組成が珪酸塩の珪素の一部をアルミニウムに置換した縮合酸塩であることから、全体として負に帯電し、細孔内にナトリウム等のカチオンを取り込む構成となる。そのため、ゼオライトの内部の細孔表面は、一般的に、極性分子(双極子を有する分子、分極性の高い分子等)を選択的に吸着する性質を有する。そして、極性分子である硫黄化合物をゼオライトに接触させれば、硫黄化合物が細孔内表面に吸着し、捕捉される。
【0040】
又、不飽和炭化水素は、二重結合又は三重結合の不飽和結合を有し、当該不飽和結合は(分子)全体に対して僅かな電荷の偏りを生じさせることから、不飽和炭化水素は、弱い極性分子として振舞う。そのため、不飽和炭化水素をゼオライトに接触させれば、不飽和炭化水素が細孔内表面に吸着し、捕捉されることになる。
【0041】
一方、ゼオライトは、実質的に均一な細孔径を有する多孔質セラミックであり、いわゆる分子ふるい作用を有する。即ち、ゼオライトは、細孔径よりも小さい分子径を有する分子のみを細孔内に進入させることで、進入した分子を細孔内表面に吸着して捕捉し、ゼオライトの細孔径よりも大きい分子径を有する分子は細孔内への進入が阻止される。
【0042】
そこで、本発明では、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズであるゼオライトを選択する。つまり、平均細孔径を、硫黄化合物は細孔内に進入させるサイズとし、不飽和炭化水素系着臭剤は細孔内への進入を阻止するサイズとする。
【0043】
そうすると、細孔内に進入可能な硫黄化合物は細孔表面に選択的に吸着し、細孔内に進入することが出来ない不飽和炭化水素は、弱い極性分子であるが、その吸着が制限され、脱硫剤の吸着作用から免れることができる。その結果、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着が抑制されて、脱硫剤の硫黄化合物の吸着能力を長期間維持することが可能となる。
【0044】
又、平均細孔径は、対象除去物質のサイズにより異なるが、0.50nm−0.75nmの範囲であると好ましく、0.60nm−0.75nmの範囲であると更に好ましい。当該構成とすると、以下に例示する不飽和炭化水素系着臭剤を含む、様々な種類の炭化水素含有ガスに対して適用可能な脱硫剤を提供することが可能となる。
【0045】
即ち、炭化水素含有ガスに添加される硫黄系着臭剤は、多くの場合、EM、DMS、TBMであり、炭化水素含有ガスに予め含まれる原料由来の硫黄化合物は、多くの場合、硫化水素、COSである。そして、ファンデアワールス半径と分子間の結合距離とに基づくと、硫化水素の分子径は、約0.27nmであり、COSの分子径は、約0.33nmであり、EM及びDMSの分子径は、約0.45nmであり、TBMの分子径は、約0.50nmである。そのため、吸着除去対象となる硫黄化合物の最大分子径は、約0.50nm以下となる。
【0046】
一方、不飽和炭化水素系着臭剤のうち、2−ヘキシンの分子径は、約1.00nmであり、1−ペンチンの分子径は、約0.80nmである。そのため、吸着を制限したい不飽和炭化水素系着臭剤の最小分子径は、約0.80nm−約1.00nmの範囲内である。
【0047】
そのため、脱硫剤の平均細孔径が、0.50nm−0.75nmの範囲であると、上述した比較的小さい分子径を有する不飽和炭化水素系着臭剤、及びこれらの不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を制限することが出来るとともに、上述した硫黄系着臭剤及び原料由来の硫黄化合物を確実に吸着、除去することが可能となる。
【0048】
尚、平均細孔径は、典型的には、水銀圧入法により算出される。
【0049】
又、ゼオライトは、本発明の目的を阻害しない物性を有する限り、特に限定はないが、ベータ型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、又はL型ゼオライトであると好ましく、ベータ型ゼオライトであると更に好ましい。当該構成とすると、不飽和炭化水素系着臭剤を選択的に吸着しないため、脱硫剤の寿命を向上させることが可能となる。
【0050】
又、脱硫剤の形状は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、例えば、球状、粒状、円柱状、粉状、平面状、ペレット状、パイプ状(円筒状)、ハニカム状等が採用される。
【0051】
又、炭化水素含有ガスを脱硫剤に接触(透過)させる際の脱硫剤の温度(接触温度)は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はなく、常温でも構わない。
【0052】
又、脱硫剤に炭化水素含有ガスを接触させる際の圧力(炭化水素含有ガスの圧力)は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はなく、自然圧(例えば、標準大気圧である約0.10MPa)であっても構わないし、必要に応じて炭化水素含有ガスを加圧しても減圧しても構わない。
【0053】
又、脱硫剤を炭化水素含有ガスに接触させる際の炭化水素含有ガスの流量(g/hr)は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、流量(g/hr)が30g/hr−300g/hrの範囲であると好ましく、50g/hr−150g/hrの範囲であると更に好ましい。当該構成とすると、脱硫剤に炭化水素含有ガスを十分に接触させて、硫黄化合物を漏れなく吸着することが可能となる。
【0054】
<炭化水素含有ガス>
炭化水素含有ガスは、炭化水素を含むガスであれば、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、天然ガス、都市ガス、LPG、エタン、プロパン、プロピレン、ブタン、ブテン、ブチレン、ブタジエン、及びこれらの任意の組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1種以上の炭化水素ガスを採用することが出来る。又、炭化水素含有ガスに、ジメチルエーテル、水素等の燃料ガスが含まれても構わない。
【0055】
<不飽和炭化水素系着臭剤>
不飽和炭化水素系着臭剤は、所定の臭気強度を備える不飽和炭化水素系着臭剤であれば、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、2−ヘキシン、1−ペンチン、及びこれらの任意の組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1種以上の不飽和炭化水素系着臭剤が好ましい。当該構成とすると、2−ヘキシン、1−ペンチンは、上述した硫黄化合物の分子径と比較して大きな分子径を有しているため、脱硫剤に対する吸着を確実に制限することが可能となる。
【0056】
炭化水素含有ガス中の不飽和炭化水素系着臭剤の濃度は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、100重量ppm−500重量ppmの範囲が好ましく、100重量ppm−300重量ppmの範囲が更に好ましい。当該構成とすると、不飽和炭化水素系着臭剤のみで炭化水素含有ガスに特有の臭いを付与することが可能となる。尚、炭化水素含有ガスに特有の臭いを付与する場合、不飽和炭化水素系着臭剤と、硫黄化合物とを組み合わせて特有の臭いを付与しても構わない。
【0057】
<硫黄化合物>
炭化水素含有ガスに含まれる硫黄化合物は、主として、硫黄系着臭剤と、原料由来の硫黄化合物とから構成される。
【0058】
前記硫黄系着臭剤は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、例えば、TBM、EM、DMS、THT、及びこれらの任意の組み合わせを含む群から選ばれる少なくとも1種以上の硫黄化合物を採用することが出来る。2種以上の硫黄化合物を採用しても構わない。
【0059】
又、炭化水素含有ガスの原料由来の硫黄化合物は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、例えば、COS、硫化水素、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
<脱硫器及び脱硫装置>
本発明の脱硫剤を用いた脱硫器及び脱硫装置は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、脱硫器及び脱硫装置の一実施態様例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0061】
図1(a)は、本発明に係る脱硫器及び脱硫装置の一例を示す概略図である。図1(b)は、本発明に係る脱硫器の第一の変形例を示す概略図である。図1(c)は、本発明に係る脱硫器の第二の変形例を示す概略図である。
【0062】
脱硫装置100は、図1(a)に示すように、硫黄化合物(例えば、TBM)と不飽和炭化水素系着臭剤(例えば、2−ヘキシン)とを含む炭化水素含有ガス(例えば、LPG)を充填したボンベ111と、減圧弁112と、フローメーター113と、本発明の脱硫剤を充填した脱硫器114とを備える。
【0063】
ボンベ111から排出されるLPGは、減圧弁112を介して供給ライン115を通じ、フローメーター113へ送られる。減圧弁112により、フローメーター113に送られるLPGの圧力を所定の圧力の範囲内(例えば、0.01MPaG−0.10MPaG、尚、以下「MPaG」はゲージ圧を示す)に調整出来るようになっている。
【0064】
減圧弁112とフローメーター113との間の供給ライン115は分岐しており、一方がフローメーター113に通じており、他方が入口開閉弁116を介して分析装置(例えば、炎光光度検出器付きガスクロマトグラフィー、水素炎イオン化検出器付きガスクロマトグラフィー)に通じている。入口開閉弁116を調整することで、LPGの一部を採取し、分析装置により硫黄化合物又は不飽和炭化水素系着臭剤の濃度(入口濃度とする)を分析出来るようになっている。
【0065】
減圧弁112により圧力が調整されたLPGは、フローメーター113により所定の流量の範囲内(例えば、50g/hr−200g/hr)に調整され、脱硫器114に排出される。
【0066】
ここで、脱硫器114は、上流側(左方)から下流側(右方)に向かってLPGが通過することが可能な円筒状の容器であり、内部に本発明の脱硫剤が、円筒の上流側の面と下流側の面とに配置された金網の間に充填されている。金網は、本発明の脱硫剤の大きさ(サイズ)よりもメッシュが小さく、LPGの流量(流圧)により脱硫剤が抜き出ない(零れない)ようにしている。
【0067】
脱硫器114に、本発明の脱硫剤を単独で充填する場合、脱硫剤のゼオライトに、銀、銅、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケルから選ばれた1種又は2種以上の遷移金属をイオン交換により担持させて構成した脱硫剤を充填すると好ましい。通常、脱硫剤のゼオライト単体では、LPG中のCOSに対する吸着能力が低く、当該COSを完全に除去出来ない場合がある。そのため、上述した遷移金属をゼオライトに担持させると、当該遷移金属がCOSを選択的に吸着し、捕捉する。その結果、脱硫器114に脱硫剤を単独で充填したとしても、脱硫装置1全体として、COSを含む硫黄化合物を完全に除去することが可能となる。
【0068】
脱硫剤の充填量は、例えば、LPGの流量が200g/hrである場合、200cc−450ccの範囲であると好ましく、300cc−400ccの範囲であると更に好ましい。当該構成とすると、脱硫剤の吸着能力が喪失する時間である破過時間を約900時間−1000時間とすることが可能となる。
【0069】
脱硫器の温度は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、例えば、常温とされる。
【0070】
LPGが脱硫器114を通過すると、脱硫剤が、TBM等の硫黄化合物を吸着するが、2−ヘキシン等の不飽和炭化水素系着臭剤は、LPGとともに透過する。これにより、脱硫装置による脱硫がなされる。
【0071】
脱硫後のLPGは、排出ライン117に導入される。排出ライン117は分岐しており、一方が改質装置等に通じており、他方が出口開閉弁118を介して上述した分析装置に通じている。出口開閉弁118を調整することで、脱硫後のLPGの一部を採取し、分析装置により硫黄化合物又は不飽和炭化水素系着臭剤の濃度(出口濃度とする)を分析出来るようになっている。
【0072】
一方の排出ライン117を通過した脱硫後のLPGは、後述する水素製造システムの改質装置に送られたり、LPGを燃焼して無害化するフレアスタックを備える燃焼装置に送られたりする。
【0073】
これにより、本発明の脱硫装置100によるLPGの脱硫は完了する。
【0074】
ここで、本発明の脱硫装置100は、図1(a)に示す脱硫器114に代えて、本発明の脱硫剤を充填した脱硫器と、当該脱硫器の上流においてLPG中のCOSを硫化水素に変換するCOS変換器を備える構成を採用してもよい。
【0075】
脱硫器とCOS変換器とを備える構成として、図1(b)に示すように、一の脱硫器の容器内を一の仕切板119により二つに区分し、LPGが流れる上流側の区画120に、COS変換剤を充填してCOS変換器とし、下流側の区画121に、本発明の脱硫剤を充填して脱硫器とする構成(二層分離型構成)を採用することが出来る。当該構成とすると、上流側のCOS変換剤がLPG中のCOSを硫化水素に変換するとともに、下流側の脱硫剤が変換後の硫化水素を除去するため、脱硫装置1全体としてLPG中の硫黄化合物を完全に除去することが可能となる。
【0076】
尚、仕切板119は、例えば、鉄等の金属からなり、COS変換剤及び脱硫剤の大きさよりもメッシュの小さい金網が採用され、上流側のCOS変換剤と下流側の脱硫剤とが混合しないようにしている。
【0077】
又、上流側のCOS変換剤は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はなく、従来公知のCOS変換剤が適宜選択される。
【0078】
又、下流側の脱硫剤の体積は、上流側のCOS変換剤の体積に対して3−4倍の範囲であると好ましい。当該構成とすると、下流側の脱硫剤が、上流側の変換剤によりCOSから変換された硫化水素と、LPG中の硫黄化合物とを完全に除去することが可能となる。
【0079】
又、本発明の脱硫装置100は、図1(a)に示す脱硫器114に代えて、本発明の脱硫剤を充填した脱硫器と、当該脱硫器の上流においてLPG中の硫化水素を吸着する金属系脱硫器と、当該金属系脱硫器の上流においてLPG中のCOSを硫化水素に変換するCOS変換器とを備える構成を採用してもよい。
【0080】
脱硫器と金属系脱硫器とCOS変換器とを備える構成として、図1(c)に示すように、一の脱硫器の容器内を二つの仕切板122により三つに区分し、LPGが流れる上流側の区画123に、COS変換剤を充填してCOS変換器とし、中央(中側)の区画124に、金属系脱硫剤を充填して金属系脱硫器とし、下流側の区画125に、本発明の脱硫剤を充填して脱硫器とする構成(三層分離型構成)を採用することが出来る。当該構成とすると、中側の金属系脱硫剤が、上流側のCOS変換剤により変換された硫化水素を選択的に吸着除去するため、下流側の脱硫剤が、LPG中の他の硫黄化合物を吸着除去することが出来る。その結果、硫黄化合物を吸着する下流側の脱硫剤の吸着負担を軽減し、脱硫装置100全体としてLPG中の硫黄化合物を完全に除去することが可能となる。
【0081】
又、中央の金属系脱硫剤は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はなく、従来公知の金属系脱硫剤が適宜選択される。
【0082】
又、中央の金属系脱硫剤の体積は、上流側のCOS変換剤の体積に対して1−2倍の範囲であり、下流側の脱硫剤の体積は、上流側のCOS変換剤の体積に対して4−6倍の範囲であると好ましい。当該構成とすると、中側の金属系脱硫剤と下流側の脱硫剤とに対する吸着負担を適度に分散し、脱硫装置1全体の寿命を長期化することが可能となる。
【0083】
<水素製造システム及び燃料電池システム>
本発明の脱硫装置100を備えた水素製造システム及び燃料電池システムは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定はないが、水素製造システム及び燃料電池システムの一実施態様例を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0084】
図2は、本発明に係る水素製造システム及び燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【0085】
水素製造システム200は、図2に示すように、硫黄化合物(例えば、TBM)と不飽和炭化水素系着臭剤(2−ヘキシン)とを含む炭化水素含有ガス(例えば、LPG)を充填したボンベ201と、本発明の脱硫剤を充填した脱硫装置202と、所定の改質触媒を充填した改質装置203と、CO変成装置204と、CO選択酸化装置205とを備える。
【0086】
ボンベ201内のLPGは、必要に応じて減圧弁206により減圧され、脱硫装置202に流入される。脱硫装置202は、本発明の脱硫剤により、流入されたLPG中の不飽和炭化水素系着臭剤を吸着することなく硫黄化合物を吸着除去する。これによりLPGの脱硫が完了する。
【0087】
脱硫後のLPGは、水ポンプ(図示せず)からの水と混合され、所定のヒータ(図示せず)により水が気化され、水蒸気を含むLPGが改質装置203に送り込まれる。
【0088】
改質装置203の内部には、部分酸化改質触媒、オートサーマル改質触媒、水蒸気改質触媒等の従来公知の改質触媒が適宜選択されて充填されており、水蒸気を含むLPG(ガス混合物、水蒸気、酸素、炭化水素含有ガスを含む混合気体)が送り込まれると、従来公知の改質反応によりLPGから改質ガスが製造される。改質ガスは、水素、又は水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスを含む。
【0089】
製造された改質ガスは、CO変成装置204、CO選択酸化装置205にこの順番で送り込まれ、改質ガス中のCO濃度が、燃料電池の特性に影響を及ぼさない程度まで低減される。これにより、水素濃度が高いガス(燃料電池の水素源となるガス)が製造される。
【0090】
尚、CO変換装置204の内部には、鉄―クロム系触媒、銅―亜鉛系触媒、貴金属系触媒等の従来公知の触媒が適宜選択されて充填されている。又、CO選択酸化装置205の内部には、ルテニウム系触媒、白金系触媒、又はこれらの混合物等の従来公知の触媒が適宜選択されて充填されている。
【0091】
さて、上述した水素製造システム200により製造された水素含有ガスの水素を、燃料電池用水素として用いる燃料電池システムを構成することが出来る。即ち、水素製造システム200の近傍には、従来公知の燃料電池、例えば、負極208と、正極209と、負極と正極との間のセパレーターとして機能する高分子電解質210とを備えた固体高分子型燃料電池207が設けられている。
【0092】
負極208側には、水素製造システム200により製造された水素濃度が高いガスが導入され、正極209側には、空気ブロワー(図示せず)から送出される空気が導入される。水素濃度が高いガスが負極側に導入されると、負極208側では高分子電解質210を介して水素ガスがプロトンとなり、電子を放出する反応が促進される。一方、正極209側では高分子電解質210を介して空気中の酸素ガスが電子とプロトンを取得し、水となる反応が促進される。これにより、両極の間に直流電流が発生し、燃料電池207が電池としての機能を発揮する。
【0093】
負極208には、例えば、白金黒、活性炭担持のPt触媒、Pt−Ru合金触媒等の従来公知の触媒が採用され、正極209には、白金黒、活性炭担持のPt触媒等の従来公知の触媒が採用される。
【0094】
<実施例、比較例等>
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はその適用が本実施例に限定されるものでない。
【0095】
<実施例1>
市販のLPG(20kg)を充填したボンベに、不飽和炭化水素系着臭剤として2−ヘキシン(分子径、約1.00nm)を約165重量ppm添加し、硫黄化合物と不飽和炭化水素系着臭剤とを含むLPGを充填した、実施例1に用いるボンベ111を作成した。
【0096】
ここで、市販のLPGには、TBM(分子径、約0.50nm)、DMS(分子径、約0.45nm)、EM(分子径、約0.45nm)、硫化水素(分子径、約0.27nm)、COS(分子径、約0.33nm)が含まれており、これらの硫黄化合物の濃度(総濃度)は約5〜7重量ppmである。このLPGでは、硫黄化合物の最大分子径は約0.50nmとなる。一方、2−ヘキシンの分子径が約1.00nmであるから、平均細孔径が約0.70nmであるベータ型ゼオライト(東ソー株式会社 銘柄HSZ−920HOD1A)を本発明の脱硫剤として選択した。
【0097】
又、本発明の脱硫剤を充填する脱硫器114として、図1(b)に示す二層分離型構成の脱硫器を採用した。脱硫器の上流側の区画120に、COS変換剤(JFEケミカル株式会社 触媒銘柄KDS600 形状円柱)を14cc(cm)充填し、下流側の区画121に、ベータ型ゼオライトを46cc充填し、実施例1に用いる脱硫器114とした。
【0098】
作成したボンベ111と、実施例1に用いる脱硫器114とを用いて、図1(b)に示す脱硫装置100を組み立てた。この際、分析装置として、LPG中の硫黄化合物の濃度(入口濃度、出口濃度)を測定する炎光光度検出器付きガスクロマトグラフィー(GC−FPD 柳本製作所製 G2800FPD)と、LPG中の2−ヘキシンの濃度(入口濃度、出口濃度)を測定する水素炎イオン化型検出器付きガスクロマトグラフィー(GC−FID 島津製作所製 GC−2014)を採用した。
【0099】
減圧弁112によりLPGの圧力を約0.02MPaGとし、フローメーター113によりLPGの流量を約100g/hrとし、LPGのガス消費量に対する硫黄化合物の濃度と2−ヘキシンの濃度を分析した。尚、分析は、ボンベ111中のLPGが無くなるまで行い、ガス消費量は、全体量(20kg)に対するガス消費量の割合を示すガス消費率(%)に換算した。
【0100】
図3は、実施例1において、ガス消費率に対するLPG中の硫黄化合物の入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。図4は、実施例1において、ガス消費率に対するLPG中の2−ヘキシンの入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。尚、各濃度の絶対値については、硫黄化合物の初期濃度も2−ヘキシンの初期濃度も予め分かっているため、省略する。
【0101】
図3に示すように、LPG中の硫黄化合物の入口濃度は、ガス消費率が初期(約15%)から約80%までの範囲で殆ど変化しないものの、約85%から100%までの範囲で高濃度となることが理解される。これは、LPGから排出された硫黄化合物の一般的な挙動である。即ち、硫黄化合物の沸点が、LPG中の炭化水素ガス(例えば、プロパン)の沸点と比較して高く、かつ、沸点が低い物質が沸点の高い物質よりも早くボンベから放出されやすい。そのため、LPGの残量が少なくなるに伴って、硫黄化合物が濃縮され、ガス消費率が高くなるにつれて、硫黄化合物が放出された結果、硫黄化合物の濃度が高くなるのである。
【0102】
又、LPG中の硫黄化合物の出口濃度は、全てのガス消費率の範囲で約0重量ppm(検出限界以下)であることが理解される。これにより、本発明の脱硫剤及び脱硫装置100では、硫黄化合物を完全に除去することが出来ることが理解される。
【0103】
次に、2−ヘキシンの濃度変化について見てみると、図4に示すように、LPG中の2−ヘキシンの入口濃度は、ガス消費率が初期(約15%)から約80%までの範囲で殆ど変化しないものの、約85%から100%までの範囲で高濃度となることが理解される。この理由は、硫黄化合物と同様であり、2−ヘキシンの沸点が84℃であり、LPGの沸点(約−42℃)、TBMの沸点(65℃)より高いためである。
【0104】
一方、LPG中の2−ヘキシンの出口濃度は、入口濃度と比較してやや低い濃度であるものの、入口濃度の変化とほぼ同様である。即ち、LPG中の2−ヘキシンの出口濃度は、ガス消費率が初期(約15%)から約85%までの範囲で殆ど変化せず、約90%から100%までの範囲で高濃度となることが理解される。これは、2−ヘキシンが本発明の脱硫剤に殆ど吸着することなく脱硫器114から排出されていることを示している。従って、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズであるベータ型のゼオライトを選択することにより、2−ヘキシンの吸着を抑えて、硫黄化合物を完全に除去することが出来た。
【0105】
尚、上述した条件と同様であり、上述したベータ型ゼオライトの代わりに、平均細孔径が0.68nmであるモルデナイト型ゼオライト(東ソー株式会社 銘柄640HOD1A)や平均細孔径が0.71nmであるL型ゼオライト(東ソー株式会社)を使用しても、上述と同様の作用効果があることを確認した。
【0106】
又、上述した二層分離型構成の脱硫器の代わりに、三層分離型構成の脱硫器を使用しても、上述と同様の作用効果があることを確認した。三層分離型構成の脱硫器においては、脱硫器の上流側の区画に、COS変換剤(JFEケミカル株式会社 触媒銘柄KDS600 形状円柱)を8cc充填し、中側の区画に、金属系脱硫剤(JFEケミカル株式会社 触媒銘柄KDS429 形状円柱)を12cc充填し、更に、下流側の区画に、ベータ型ゼオライトを40cc充填した。当該構成の脱硫器であっても、上述と同様の作用効果があることを確認した。
【0107】
更に、上述した不飽和炭化水素系着臭剤として、2−ヘキシンの代わりに、1−ペンチン(分子径、約0.80nm)を使用しても、上述と同様の作用効果があることを確認した。そして、2−ヘキシン、又は1−ペンチンとともに、現行の硫黄系着臭剤であるTBM、EM、DMSを炭化水素含有ガスに混合した混合ガスに、本発明の脱硫装置を使用しても、上述と同様の効果があることを確認した。又、2−ヘキシン、又は1−ペンチンとともに、TBM又はEMを炭化水素含有ガスに混合した混合ガスに、本発明の脱硫装置を使用しても、上述と同様の効果があることを確認した。更に、炭化水素含有ガスの代わりに、ジメチルエーテル、水素等の燃料ガスを使用しても、上述と同様の作用効果があることを確認した。
【0108】
<比較例1>
上述した実施例1に対応する比較例1として、ベータ型ゼオライトの代わりに、2−ヘキシンを捕捉するサイズとして平均細孔径が約1.30nmであるX型ゼオライト(東ソー株式会社 銘柄シリーズF9)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件にて、LPGのガス消費量に対する硫黄化合物の濃度と2−ヘキシンの濃度を分析した。
【0109】
図5は、比較例1において、ガス消費率に対するLPG中の硫黄化合物の入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。図6は、比較例1において、ガス消費率に対するLPG中の2−ヘキシンの入口濃度と出口濃度との関係を示す図である。尚、各濃度の絶対値については、硫黄化合物の初期濃度も2−ヘキシンの初期濃度も予め分かっているため、省略する。
【0110】
図5に示すように、LPG中の硫黄化合物の入口濃度及び出口濃度は、実施例1の図3に示された硫黄化合物の入口濃度の変化及び出口濃度の変化とほぼ同様であった。これにより、比較例1の脱硫剤及び脱硫装置においても、LPG中の硫黄化合物を完全に除去することが出来ることが理解される。
【0111】
次に、2−ヘキシンの濃度変化について見てみると、図6に示すように、LPG中の2−ヘキシンの入口濃度は、実施例1の図4に示された2−ヘキシンの入口濃度の変化とほぼ同様であった。
【0112】
一方、LPG中の2−ヘキシンの出口濃度は、全てのガス消費率の範囲で約0容量ppm(検出限界以下)であることが理解される。これは、2−ヘキシンがX型ゼオライトに吸着、捕捉された結果、2−ヘキシンが脱硫器114から全く排出されなかったことを示している。そのため、平均細孔径が2−ヘキシンを捕捉するサイズであるゼオライトを選択しただけで、LPG中の硫黄化合物だけでなく2−ヘキシンも吸着(除去)してしまうことが理解される。
【0113】
<参考例>
硫黄化合物又は不飽和炭化水素系着臭剤をゼオライトに吸着させた場合のゼオライトの破過時間を、以下に示す。
【0114】
先ず、未だに着臭剤が添加されていないLPGに、硫黄系着臭剤(TBM)を約5〜7重量ppm添加して、硫黄系着臭剤を含むLPGを作成した。作成したLPGを所定量(40cc)のX型ゼオライトに、流量100g/hrで接触させ続けた。脱硫後のLPG中の硫黄化合物の濃度を上述した炎光光度検出器付きガスクロマトグラフィーにて測定し、接触開始時点から硫黄化合物の濃度が著しく増加する時点までの時間(破過時間)を算出した。その結果、硫黄化合物をX型ゼオライトに吸着させた場合のゼオライトの破過時間は約900時間−990時間であった。
【0115】
一方、未だに着臭剤が添加されていないLPGに、不飽和炭化水素系着臭剤(2−ヘキシン)を約165重量ppm添加して、不飽和炭化水素系着臭剤を含むLPGを作成した。作成したLPGを所定量(40cc)のX型ゼオライトに、流量100g/hrで接触させ続けた。脱硫後のLPG中の2−ヘキシンの濃度を上述した水素炎イオン化型検出器付きガスクロマトグラフィーにて測定し、接触開始時点から2−ヘキシンの濃度が著しく増加する時点までの時間(破過時間)を算出した。その結果、2−ヘキシンをX型ゼオライトに吸着させた場合のゼオライトの破過時間は約650時間−800時間であった。
【0116】
このように、2−ヘキシンの吸着によるゼオライトの破過時間は、硫黄化合物の吸着によるゼオライトの破過時間の約3分の2倍であり、2−ヘキシンの吸着によりゼオライトの吸着性能が著しく低下して、ゼオライトの寿命が短縮化されることが理解される。従って、2−ヘキシンの吸着を低減することで、脱硫剤の寿命の短縮化を防止することが出来るものと推察される。
【0117】
このように、本発明の脱硫剤は、材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズであることを特徴とする。
【0118】
これにより、平均細孔径が、硫黄化合物を捕捉するサイズ、つまり、硫黄化合物を内部細孔に進入させるサイズであるため、当該硫黄化合物を細孔表面に確実に吸着させる。又、平均細孔径が、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズ、つまり、不飽和炭化水素系着臭剤の内部細孔への進入を阻止させるサイズであるため、当該不飽和炭化水素系着臭剤が脱硫剤の表面をすり抜けて(透過して)、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を低減する。そのため、不飽和炭化水素系着臭剤を含む炭化水素含有ガスを脱硫したとしても、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着による脱硫剤の寿命(例えば、破過時間)の短縮化を防止し、安定して硫黄化合物を除去することが可能となる。
【0119】
又、本発明では、材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズである脱硫剤に、前記炭化水素含有ガスを接触させることによって当該炭化水素含有ガスを脱硫する脱硫ステップを含むことを特徴とする脱硫方法を提供することが出来る。当該構成によっても、上記と同様の効果を得ることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上のように、本発明に係る脱硫剤、それを用いた脱硫装置、脱硫方法は、工業、農業、漁業、エネルギー産業、航空産業、宇宙産業等の様々な分野で使用される炭化水素含有ガスにおいても有用であり、炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を安定して除去するとともに、不飽和炭化水素系着臭剤の吸着を抑制することが可能な脱硫剤、それを用いた脱硫装置、脱硫方法として有効である。
【符号の説明】
【0121】
100 脱硫装置
111 ボンベ
112 減圧弁
113 フローメーター
114 脱硫器
115 供給ライン
116 入口開閉弁
117 排出ライン
118 出口開閉弁
200 水素製造システム
201 ボンベ
202 脱硫装置
203 改質装置
204 CO変成装置
205 CO選択酸化装置
206 減圧弁
207 燃料電池
208 負極
209 正極
210 高分子電解質


【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄化合物と不飽和炭化水素系着臭剤とを含む炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を除去する脱硫剤において、
材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、
平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズである
ことを特徴とする脱硫剤。
【請求項2】
前記平均細孔径が、0.50nm−0.75nmの範囲である
請求項1に記載の脱硫剤。
【請求項3】
前記ゼオライトが、ベータ型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、又はL型ゼオライトである
請求項1又は2に記載の脱硫剤。
【請求項4】
請求項1−3のいずれか一項に記載の脱硫剤を充填した脱硫器と、
前記脱硫器の上流において前記炭化水素含有ガス中のCOSを硫化水素に変換するCOS変換器と
を備えた脱硫装置。
【請求項5】
請求項1−3のいずれか一項に記載の脱硫剤を充填した脱硫器と、
前記脱硫器の上流において前記炭化水素含有ガス中の硫化水素を吸着する金属系脱硫器と、
前記金属系脱硫器の上流において前記炭化水素含有ガス中のCOSを硫化水素に変換するCOS変換器と
を備えた脱硫装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の脱硫装置により脱硫された炭化水素含有ガスを改質触媒と接触させることによって水素含有ガスを製造する水素製造システム。
【請求項7】
硫黄化合物と不飽和炭化水素系着臭剤とを含む炭化水素含有ガス中の硫黄化合物を除去する脱硫方法において、
材質が、多孔性無機酸化物のゼオライトであり、平均細孔径が、前記硫黄化合物を捕捉するとともに、前記不飽和炭化水素系着臭剤を捕捉しないサイズである脱硫剤に、前記炭化水素含有ガスを接触させることによって当該炭化水素含有ガスを脱硫する脱硫ステップ
を含むことを特徴とする脱硫方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45466(P2012−45466A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188343(P2010−188343)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000168643)高圧ガス保安協会 (92)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】