説明

脱臭剤及び脱臭体の製造方法

【課題】 原料の入手が安価で容易にでき、しかも組成成分が特定できて有害物質を含まない安全な脱臭剤、及びそれを坦持した脱臭効果を低減しない脱臭体の製造方法を提供すること。
【解決手段】 酸化鉄を含有する固溶体を粉砕したものを原料とし、これを温度300℃〜650℃の範囲で酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値0.4〜1.2の範囲に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱臭剤及びそれを坦持した脱臭体の製造方法に係り、更に詳しくは悪臭物質の内、硫化水素、メルカプタン類及びアンモニアを常温で触媒機能(光触媒反応ではない)により酸化分解(化学吸着)することができる脱臭剤及びそれを坦持した脱臭体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生活環境において、不快な臭いへの健康に及ぼす影響への関心が高まってきている。一般に、住空間で発生するものとしては、建材、家具等から出る揮発性有機化合物、タバコ、犬や猫等のペット類、トイレ、排水溝、下駄箱及び台所の生ゴミ、浄化槽及び密閉された空間では車、電車、ホテル等宿泊施設内の臭いが身近なものとして上げられる。また、公共の場では下水処理場、畜産場、工場及び飲食店の厨房等から発生する臭いが悪臭公害として知られている。
これらの健康に悪影響を及ぼす、若しくは不快な臭いの物質は悪臭物質として悪臭防止法で22種類が指定されている。これらの悪臭物質の中で一般的なものはアンモニア、硫化水素、及びメルカプタン類である。
【0003】
このような悪臭を消臭する方法としては、芳香剤や香料を加え相殺する方法、活性炭やゼオライト等の多孔質材料に吸着(物理吸着)する方法、及び触媒機能により悪臭物質を酸化分解(化学吸着)する方法が一般的に用いられている。
これら消臭方法の内、悪臭に芳香剤や香料を加え相殺する方法は消臭効果が短時間であり、頻繁に使用し管理しなければならない点、更に、常に悪臭物質が共存している為硫化水素のように健康上有害である物質の場合は有益でない。
又、多孔質材料に吸着(物理吸着)する方法では吸着能力に限界があると共に、温度が高くなると一旦吸着した悪臭物質を放出する欠点がある。従って、適切に管理し、多孔質材料を交換しなければならない。これら2つの方法は、上記問題と共に、ランニングコストが高くなるという欠点を有する。
【0004】
昨今、触媒機能により悪臭物質を酸化分解(化学吸着)する方法は光触媒をはじめ、MnOやV等が注目され研究が進んでいる。その中で鉄化合物を用いたものとしては、例えば、金及び鉄の金属酸化物からなる酸化触媒(例えば、特許文献1参照)、及び3価の鉄塩を調整した水酸化鉄と二酸化チタンを含有する脱臭組成物(例えば、特許文献2参照)。又、製造コストが小さい酸化鉄系触媒(例えば、特許文献3参照)や、廃棄物を利用したエレクトロニクス産業で排出されるフェライト屑を脱臭材としたもの(例えば、特許文献4参照)、アルカリ性のボーキサイト溶解残渣スラリーに鉄、チタンの酸溶液を添加し脱臭剤としたもの(例えば、特許文献5参照)、及びカルシア、フェライト源の廃棄物を酸素雰囲気で焼成し酸化触媒をえるもの(例えば、特許文献6参照)などが挙げられる。
【0005】
更に、塩基性硫酸第二鉄を繊維に含浸させた硫化水素及びメルカプタン類を脱臭するもの(例えば、特許文献7参照)、鉄酸化物はじめ酸化ニッケル等の各種金属化合物をゼオライトのような多孔体や不活性無機物の担体に坦持したもの(例えば、特許文献8、9参照)が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−31370号公報
【特許文献2】特開2002−1105号公報
【特許文献3】特開2001−129405号公報
【特許文献4】特開平9−276379号公報
【特許文献5】特開2004−305617号公報
【特許文献6】特開2006−297324号公報
【特許文献7】特開平11−253540号公報
【特許文献8】特開2004−242848号公報
【特許文献9】特開2006−75684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの触媒機能による酸化分解(化学吸着)方法は貴金属を用いることでコスト高に、又、廃棄物を利用する方法にあっては組成成分に不安定さや有害物質の濃縮・混入の危険等があり、実用化に難点があった。
更に、脱臭剤を多孔体や無機物質等の担体に坦持する場合、無機剤或いは有機剤等の結合剤を用いることが必要不可欠であるが、それが脱臭剤表面を覆って効果を低減するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記した従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたもので、原料の入手が安価で容易にでき、しかも組成成分が特定できて有害物質を含まない安全な脱臭剤、及びそれを坦持した脱臭効果を低減しない脱臭体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは安価で容易に入手でき、しかも組成成分が特定でき有害物質を含まない安全な酸化鉄含有造岩鉱物に着目し、鋭意研究の結果、本発明を完成させた。
即ち、本発明の脱臭剤の製造方法は、酸化鉄を含有する固溶体、例えば天然に産出する造岩鉱物の内、酸化鉄を含有する鉱物を酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合を調整することで、常温で脱臭効果に優れた触媒機能による酸化分解(化学吸着)を有する脱臭剤を見出した。具体的には、酸化鉄を含有する鉱物を粉砕したものを原料とし、これを温度300℃〜650℃の範囲で酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値0.4〜1.2の範囲に調整する。尚、酸化焼成に際して鉱物を粉砕するのは、あくまで酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値の調整をエネルギー効率よく行なうためである。脱臭剤の効果としては細かくし、比表面積(単位体積当りの全表面積)を大きくすれば臭いとの接触面積が増加し高まるのは自明である。また、本脱臭剤を担体に担持する場合には担体の大きさ(比表面積)によっても脱臭効果が変化することは云うまでもない。
【0010】
本発明で使用する固溶体としては、チタン鉄鉱、磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱等の造岩鉱物が挙げられ、それらの内、分析により砒素や六価クロム等の有害物質を含まない鉱物を選択する。そして、それを平均粒径0.5μm〜10μmに粉砕したものを原料とする。但し、鉱物は砂状でFeOを多く含有するもの、例えば砂状のイルメナイトや磁鉄鉱が脱臭剤として調整するにはもっとも望ましい。
【0011】
鉱物を粉砕する主な目的は、酸化焼成する際、均一な熱の伝わりにより含有する酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe)の量を調整しやすくするためである。尚、粉砕する大きさ(粒径)は、焼成エネルギーコストの低減等を考慮した場合、平均粒径はより細かいほうが好ましいが、粉砕エネルギー及びそのコストが高くなることから、例えば、平均粒径の範囲は0.5μm〜10μmの範囲が好適で、更には平均粒径1μm〜3μmに粉砕することがもっとも望ましい。
【0012】
次に前記原料を酸化焼成する目的は、脱臭効果をより高めるため、含有する酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を調整するためである。
酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の割合が脱臭効果に関連することの科学的根拠は定かではないが、鉄のようなd軌道電子をもつ還移金属はガス分子を化学吸着する傾向が強く、また、酸化鉄も共有結合とイオン結合の両方の性質を有し、ガス分子の吸着、触媒活性、表面エネルギーなどについての金属同様の傾向を示すと考えられる。(参考文献:吸着の化学<表面・界面制御のキーテクノロジー>竹内 節著、産業図書(株)発行)。更に、シトクロムのようなヘム鉄を含有する酸化還元機能を持つ酵素の機構と同様に、吸着ガス分子を取り込むことでFe3+(酸化型)とFe2+(還元型)間で電子の交換が行われ触媒機能を持つとも考えられる。このようなことから、酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を調整することで、最も表面エネルギーが高くなり、悪臭物質を効率的に吸着分解するものと推察される。
【0013】
含有する酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を酸化焼成により調整するには、例えば、平均粒径0.5μm〜10μm、焼成温度300℃〜650℃の範囲で、2時間以内で行うことが望ましい。更に、平均粒径1μm〜3μm、焼成温度400℃〜500℃が最も望ましい。但し、焼成温度650℃以上で還元焼成(窒素或いは水素で空気中の酸素を置換して低酸素濃度にした状態の焼成)する方法も可能であるが、コストが高くなる。
原料の平均粒径と酸化焼成温度による含有する酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量をモル比値で表した相関関係を図1に示す。原料中の酸化鉄の定量分析は「JIS M 8312 チタン鉄鉱中の鉄定量法」により行いモル比値を求めた。このように、酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量は原料の粒径に対して焼成温度を選択することにより制御可能である。
【0014】
脱臭剤は粉体のまま使用することも可能であるが、扱いづらく、用途が限定されてしまう。当然、脱臭剤に結合剤を添加して成形し、脱臭体としても構わないが、その場合は表面だけしか触媒機能が発揮されず効率が悪い。このことから、脱臭剤は担体(原料を含浸或いは塗布後に焼成する際、その温度に耐える材料(無機材料)に担持することが望ましい。その方法として脱臭効果を損なわない適切な結合剤を選択する。結合剤の種類としては脱臭剤の製法に合わせて溶融するもの、つまり、酸化焼成温度300℃〜650℃で溶融する粉体の低融点材料(金属、ガラス等)や水ガラス(ケイ酸ソーダ(NaSiO))等が挙げられる。
更に、担体としては、平板、立方体、球状等、いかなる形状のものでもよいが、比表面積の大きい繊維状のもの、多孔体並びにハニカム形状の無機成形材料がより望ましい。
【0015】
例えば、上記原料に結合剤として低融点材料を添加量10wt%〜40wt%加え混合し、更に水或いはアルコール等を加えてスラリー状態にし、これを無機材料成形品の担体に含浸或いは塗布した後、前記担体を温度300℃〜650℃の範囲で酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値0.4〜1.2の範囲に調整し、付着担持することで脱臭体とすることができる。
【0016】
更に、予め原料成分中の酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を酸化焼成により調整し脱臭剤としたものを、無機材料(セメント、石膏のような水硬性材料、水酸化カルシュウムのような気硬性材料)や有機材料(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂)に練り込み硬化体とし脱臭体とする方法も考えられる。しかしながら、このような方法は脱臭効果が表面にしか得られないのと、脱臭剤表面をこれら材料(無機材料、有機材料)が多分に覆うため脱臭効果が低くなる可能性がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の脱臭剤の製造方法により、安価で容易に入手でき、しかも組成成分が有害物質を含まない安全な材料を用いて、常温で脱臭効果に優れた触媒機能による酸化分解(化学吸着)を有する脱臭剤を得ることができる。
又、脱臭体の製造方法は、脱臭剤の表面を極力覆わずに担体に担持でき、脱臭効果を低減しない脱臭体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る脱臭剤の製造方法について説明する。
本発明の脱臭剤の製造方法に用いる原料は、酸化鉄を含有する固溶体、具体的には天然に産出する酸化鉄を含有する造岩鉱物(チタン鉄鉱、磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱等)の内、分析により砒素や六価クロム等の有害物質を含まない鉱物を選択し、平均粒径0.5μm〜10μmに粉砕したものを原料とする。但し、鉱物は砂状でFeOを多く含有するもの、例えば、イルメナイトや磁鉄鉱が脱臭剤として調整するには最も望ましい。
【0019】
前記原料の粉砕は、酸化焼成する際、均一な熱の伝わりにより含有する酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を調整しやすくするためで、より細かいほうが好ましい。しかしながら、粉砕エネルギー及びそのコストが高くなるため、平均粒径1μm〜3μmに粉砕するのが最も望ましい。
【0020】
前記平均粒径0.5μm〜10μmに粉砕した原料の酸化焼成は、焼成温度300℃〜650℃の範囲で、2時間以内で行うことが望ましい。更に、平均粒径1μm〜3μmに粉砕した原料は、焼成温度400℃〜500℃が最も望ましい。
原料の平均粒径(0.6μm、2μm、8μm、100μm(未粉砕))とそれぞれの酸化焼成温度(未焼成、350℃、550℃、650℃)による含有する酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量をモル比値で表し、その相関関係を図1に示す。
図1から明らかなように、酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量は原料の粒径に対して適当な焼成温度を選択することにより制御可能である。即ち、原料の平均粒径が粗くなると、含有する酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量のモル比値が1:1となる焼成温度は必然的に高温になる。原料成分中の酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を酸化焼成により調整し、モル比値0.4〜1.2の範囲に調整することで、常温で脱臭効果に優れた触媒機能(光触媒にあらず)による酸化分解(化学吸着)を有する脱臭剤を得ることができる。
但し、脱臭剤の平均粒径をより細かくし、比表面積(単位体積当りの全表面積)を大きくすれば臭いとの接触面積が増加しさらに効果が高まるのは自明である。
【0021】
上記脱臭剤は、粉体のまま使用することも可能であるが、扱いづらく、用途が限定されてしまう。当然、脱臭剤に結合剤を添加して成形し、脱臭体にしても構わないが、その表面だけしか触媒機能が発揮されず効率が悪い。このことから、脱臭剤は担体(原料を含浸或いは塗布後に焼成する際、その温度に耐える材料(無機材料))に担持することが望ましい。
その方法として脱臭効果を損なわない適切な結合剤を選択する。結合剤の種類としては脱臭剤の製法に合わせて溶融するもの、つまり、酸化焼成温度300℃〜650℃で溶融する粉体の低融点材料(金属、ガラス等)や水ガラス(ケイ酸ソーダ(NaSiO))等が挙げられる。
更に、担体としては、平板、立方体、球状等、いかなる形状のものでもよいが、比表面積(単位体積当りの全表面積)の大きい繊維状のもの、多孔体並びにハニカム形状の無機成形材料がより望ましい。
【0022】
例えば、前記原料に、結合剤として平均粒径5μmの粉体の低融点ガラスを10wt%〜40wt%(20wt%以下が望ましい)添加し、更に水或いはアルコール等を加えてスラリー状態にし、これを無機材料の成形品の担体に含浸或いは塗布する。その後、一旦100℃前後で乾燥し、その後、前記担体を温度300℃〜650℃の範囲で酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値0.4〜1.2の範囲に調整し、付着坦持して脱臭体を得る。
【0023】
次に、酸化鉄モル比値と臭い除去率との相関関係について、本発明に係る脱臭体の製造方法によって製造した脱臭体を用いて説明する。但し、原料の平均粒径及びこれを担持する担体の大きさ・形状を一定にし、焼成温度だけを変化したもので、原料の平均粒径の大きさによる効果を示したものではない。
[脱臭体試料の作成]
天然に産出する砂状のチタン鉄鉱(平均粒径100μm)を平均粒径0.6μmに粉砕し原料とした。本原料80wt%に結合剤として、低融点ガラス(ASF‐1100、旭硝子(株)社製)20wt%を添加し、アルコール14部を加えスラリー状にして、担体(無機成形材料:ジルコニア多孔体、直径φ7mm)に含浸した。それを一旦100℃前後で1時間乾燥した後、温度350℃、450℃、550℃及び650℃でそれぞれ酸化焼成したもの(4種類)と、未焼成のもの(1種類)の計5種類の脱臭体を作成した。
[脱臭測定]
上記脱臭体(見掛け体積:60ml)を用いて、脱臭試験を行った。臭気は硫化水素(濃度20ppm)、通気量117ml/sec、脱臭体への接触時間0.5秒の連続通気とした。そして、脱臭体通過後の臭気を3Lテドラーパックに捕集し、ガステック検知器(ガステック(株)社製、品番:No.4LT,No.4LK)を用いて通気後の臭気濃度を測定し、臭い除去率を求めた。
これら試料とは別に、原料のみを用いて同様の試料5種類の脱臭剤を作成し、それを定量分析(JIS M 8312 チタン鉄鉱中の鉄定量法により)し、酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を求め、モル比値に換算した。得られた硫化水素除去率と酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量の相関関係を図2に示す。
【0024】
図2に示すように、酸化焼成温度を変化させたときの酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))のモル比値が約[1:1]の場合に硫化水素除去率が最も高くなった。酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe)の割合で、何れが多くても脱臭効果が低下傾向にあることがわかる。特に、酸化第二鉄(Fe)の割合が多くなると脱臭効果の低下傾向はより顕著である。
このことから、原料成分中の酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を酸化焼成により最適に調整することによって、脱臭剤としての効果を高めることができると考えられる。このときの脱臭剤を担持しない担体(ジルコニア多孔体、φ7mm)の硫化水素除去率は14.3%であった。
酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))の量を酸化焼成により調整する範囲は、臭気の85%以上を除去しようとする際(実用範囲)、モル比値は[1.2:1]〜[0.4:1]の範囲を許容することができる。即ち、臭気除去率が実用範囲を満足する範囲としては、酸化鉄(酸化第一鉄(FeO)と酸化第二鉄(Fe))のモル比値は0.4〜1.2の範囲が望ましい。
【0025】
次に、本発明に係る製造方法による脱臭体と、一般的に用いられている脱臭体との性能について比較してみた。
[脱臭体試料の作成]
天然に産出する砂状のチタン鉄鉱の未粉砕40wt%と粉砕した平均粒径0.6μm、40wt%を原料とし、これに結合剤として低融点ガラス(ASF‐1100、旭硝子(株)社製)20wt%を添加し、水14部を加え練混ぜ、直径φ5mmの球状に成形した。これを100℃で1時間乾燥した後、温度550℃で酸化焼成し脱臭体[実施例1]を作成した。
又、[比較例1]として、活性炭((株)キャタラー社製、品番:PG‐7)、[比較例2]として珪素頁岩粉末80wt%に低融点ガラス低融点ガラス(ASF‐1100、旭硝子(株)社製)20wt%を添加し、水14部を加え練混ぜ、直径φ10mmの球状に成形した。これを100℃で1時間乾燥した後、温度550℃で酸化焼成して脱臭体とした。
[脱臭測定]
上記3種類の脱臭体を用いて、それぞれの臭気毎に脱臭試験を行った。臭気は硫化水素(濃度22ppm)、アンモニア(濃度100ppm)を通気量117ml/sec、脱臭体への接触時間0.5秒の連続通気とした。このときの脱臭体積は60ml(見掛け体積)である。
脱臭体通過後の臭気を3Lテドラーパックに捕集し、ガステック検知器(ガステック(株)社製、品番:No.4LT,No.4LK、No.3L,No.3La)を用いて通気後の臭気濃度を測定し、除去率を求めた。
又、臭気がメタカプタン類(濃度20ppm)の場合は、各試料5gを予め5Lテドラーパックに入れ、臭気を投入し、180分後の臭気濃度をガステック検知器(ガステック(株)社製、品番:No.70,No.70L)で測定し除去率を求めた。その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

表1から分かるように、本製造方法による脱臭体[実施例1]は、物理吸着による脱臭体である比較例1及び比較例2と同等の脱臭効果が得られた。
【0027】
次に、脱臭体の製造において使用する結合剤の添加量による脱臭効果への影響について調べてみた。
[脱臭体試料の作成]
天然に産出する砂状のチタン鉄鉱を平均粒径0.6μmに粉砕した原料に、結合剤として低融点ガラス(ASF‐1100、旭硝子(株)社製)を用い、その添加量を15wt%、20wt%、40wt%、60wt%(原料85wt%、80wt%、60wt%、40wt%)に変化させ、それぞれ水14wt%を加え、直径φ10mmの球状に成形した。これを一旦100℃で1時間乾燥した後、温度550℃で酸化焼成し3種類の試料を作成した。
[脱臭測定]
上記脱臭体(見掛け体積:60ml)を用いて、脱臭試験を行った。臭気は硫化水素(濃度18ppm)、通気量117ml/sec、脱臭体への接触時間0.5秒の連続通気とした。そして、脱臭体通過後の臭気を3Lテドラーパックに捕集し、ガステック検知器(ガステック(株)社製、品番:No.4LT,No.4LK)を用いて通気後の臭気濃度を測定し、除去率を求めた。その結果を図3に示す。
【0028】
図3から分かるように、結合剤の添加量が増加するに従い、脱臭体の脱臭効果は低下する。従って、脱臭体の製造に使用する結合剤は最小限に止めるのが望ましいが、脱臭剤の結合力と脱臭効果の両面から考慮すると、結合剤の添加量は10wt%〜25wt%の範囲が最適と考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】原料の粒径毎の焼成による酸化鉄組成変化を示す図。
【図2】焼成温度変化による酸化鉄組成変化(モル比値)と臭い除去率の関係を示す図。
【図3】結合剤添加量による脱臭効果変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄を含有する固溶体を粉砕したものを原料とし、これを温度300℃〜650℃の範囲で酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値0.4〜1.2の範囲に調整してなることを特徴とする、常温で脱臭効果に優れた触媒機能を有する脱臭剤の製造方法。
【請求項2】
酸化鉄を含有する固溶体を粉砕したものを原料とし、これに結合剤として低融点材料を添加量10wt%〜25wt%加え混合し、更に水或いはアルコール等を加えてスラリー状態にし、これを無機材料成形品の担体に含浸或いは塗布した後、前記担体を温度300℃〜650℃の範囲で酸化焼成して原料成分中の酸化第一鉄と酸化第二鉄の割合をモル比値0.4〜1.2の範囲に調整し、付着坦持することを特徴とする脱臭体の製造方法。
【請求項3】
前記固溶体が、天然に産出する造岩鉱物のチタン鉄鉱、磁鉄鉱、赤鉄鉱、褐鉄鉱等である請求項1又は2項記載の脱臭剤又は脱臭体の製造方法。
【請求項4】
前記低融点材料が、低融点ガラスであることを特徴とする請求項2又は3記載の脱臭体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−106835(P2009−106835A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280348(P2007−280348)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(390010216)ニッコー株式会社 (49)
【Fターム(参考)】