説明

脱酸素剤及びその製造方法

【課題】酸化チタンに較べて酸素吸収能力が向上すると共に、ハンドリング性が向上した脱酸素剤及び脱酸素剤の製造方法を提供する。
【解決手段】雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤であって、酸素欠陥を有する酸化セリウムからなると共に、比表面積が0.6m2/g以下の粉体、又は、比表面積が3.0m2/g以下の成形体であり、酸素欠陥を有する酸化セリウムからなるので、雰囲気中に水分がなくても酸素と反応することができると共に、金属探知機での反応や電子レンジでのマイクロ波による加熱を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤及び脱酸素剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の安全性や品質維持への強い要求に対して、食品を包装する食品用包装体の内部を無酸素状態にすることにより、食品の酸化劣化を抑制することが行われている。
具体的には、雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤を食品と共に食品用包装体の内部に入れて、食品用包装体の内部の残留酸素を除去して食品用包装体の内部を無酸素状態とすることが行われている。また、酸素を含まない不活性ガス中において、食品を前記脱酸素剤と共に食品用包装体で包装し、前記食品用包装体の内部に酸素を入れないようにすると共に、前記食品用包装体を透過して内部に侵入する僅かな酸素も内包された脱酸素剤により除去すること等が行われている。
【0003】
このように、雰囲気中の酸素を除去する脱酸素剤としては、有機系材料からなるものと無機系材料からなるものとがあるが、コスト的な観点から、無機系材料である鉄系脱酸素剤が主に利用されている。この鉄系脱酸素剤は、下記の化学式(1)に示すように、鉄を雰囲気中の僅かな水分と共に、雰囲気中の酸素と反応させることにより、雰囲気中から酸素を除去するようになっている。
【0004】
Fe+1/2H2O+3/4O2→FeOOH ・・・(1)
【0005】
しかしながら、前述したような従来の鉄系の脱酸素剤を用いた場合には、以下のような問題がある。
(1)酸素との反応の際に水分を僅かながらも必要とするため、乾燥食品や電子部品や半田粉等のように水分を嫌うものを保存する場合には、従来の脱酸素剤の性能を十分に発揮することができないという問題がある。
(2)包装体で不活性ガスと共に、従来の脱酸素剤を包装した食品中に金属等の異物が混入しているか否かの検査を行う場合には、鉄系脱酸素剤の鉄粉が金属探知機に反応し、簡便な検査を行うことができない、という問題がある。
(3)電子レンジ等のマイクロ波によって急加熱されて発火する、という問題がある。
【0006】
このため、鉄系の脱酸素剤の代わりに、無機酸化物として例えば酸化チタン、酸化セリウム等を用いた脱酸素剤が提案されている(例えば特許文献1〜5参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2005−104064号公報
【特許文献2】特開2005−105194号公報
【特許文献3】特開2005−105195号公報
【特許文献4】特開2005−105199号公報
【特許文献5】特開2005−105200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、無機酸化物として酸化チタンを用いた脱酸素剤では、鉄系脱酸素剤に較べて酸素吸収能力が十分ではない、という問題がある。
【0009】
また、無機酸化物として酸化セリウムを用いた脱酸素剤では、酸化セリウムの易発火性により、製品に脱酸素剤を充填する際に低酸素雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下とするか、充填処理を迅速に行なう必要があり、ハンドリングに問題がある、という問題がある。
【0010】
本発明は、前記問題に鑑み、酸化チタンに較べて酸素吸収能力が向上すると共に、ハンドリング性が向上した脱酸素剤及び脱酸素剤の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤であって、酸素欠陥を有する酸化セリウムからなると共に、比表面積が0.6m2/g以下の粉体であることを特徴とする脱酸素剤にある。
【0012】
第2の発明は、雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤であって、酸素欠陥を有する酸化セリウムからなると共に、比表面積が3.0m2/g以下の成形体であることを特徴とする脱酸素剤にある。
【0013】
第3の発明は、第1の発明の脱酸素剤の製造方法であって、CeO2の粉体を1400℃以上の温度で焼成した後に、還元焼成することにより得ることを特徴とする脱酸素剤の製造方法にある。
【0014】
第4の発明は、第2の発明の脱酸素剤の製造方法であって、CeO2の粉体を0.5t/cm2以上の圧力で成形体に成形してから1000℃以上の温度で焼結した後に、還元焼成することにより得ることを特徴とする脱酸素剤の製造方法にある。
【0015】
第5の発明は、比表面積が0.6m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの粉体からなる脱酸素剤と、該脱酸素剤を包装する包装体とからなる脱酸素包装体であることを特徴とする脱酸素包装体にある。
【0016】
第6の発明は、比表面積が3.0m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの成形体からなる脱酸素剤と、該脱酸素剤を包装する包装体とからなる脱酸素包装体であることを特徴とする脱酸素包装体にある。
【0017】
第7の発明は、比表面積が0.6m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの粉体からなる脱酸素吸収層を有することを特徴とする脱酸素機能フィルムにある。
【0018】
第8の発明は、第7の発明において、前記脱酸素吸収層の外層側に設けられ、ガスバリア性を有するガスバリア層と、前記脱酸素層の内層側に設けられ、ガス易透過性を有してなるガス易透過層とを有することを特徴とする脱酸素機能フィルムにある。
【0019】
第9の発明は、比表面積が0.6m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの粉体からなる脱酸素剤を、ガス易透過性を有してなる樹脂に分散又は練込んでなることを特徴とする脱酸素樹脂組成物にある。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る脱酸素剤によれば、比表面積が0.6m2/g以下の粉体、又は、比表面積が3.0m2/g以下の成形体であるので、大気と直接的に接触したときであっても、急激に酸素と反応して発火してしまうことを抑制することができる。
【0021】
また、本発明に係る脱酸素剤の製造方法によれば、大気と直接的に接触したときであっても、急激に酸素と反応して発火してしまうことを抑制できる脱酸素剤を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態及び実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態及び実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0023】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る脱酸素剤について説明する。
本発明の実施形態に係る脱酸素剤は、酸素欠陥を有する酸化セリウム(CeOx;ただし、xは2未満の正数)からなると共に、比表面積が0.6m2/g以下の粉体、又は、比表面積が3.0m2/g以下の成形体である。
【0024】
このような本実施形態に係る脱酸素剤は、雰囲気中の酸素と下記の化学式(2)に示すようにして反応する。
【0025】
CeOx+((2−x)/2)O2→CeO2 ・・・(2)
【0026】
即ち、前記酸素欠陥を有する高温還元処理した酸化セリウム(CeOx:但し、xは2未満の正数である。)は、還元処理により結晶格子中から酸素が引き抜かれて酸素欠損状態となり、雰囲気中の酸素と前記の化学式(2)に示すようにして反応するので脱酸素剤としての効果が発揮される。
【0027】
ここで、無機酸化物として、例えば、酸化セリウム(CeO2)以外に、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられるが、酸化セリウム(CeO2)を選択した理由は以下の通りである。
1)無機酸化物として、酸化チタン(TiO2)を用いた場合には、後述するように実施例に示すように、酸化セリウム(CeO2)の1/6程度の酸素除去能力しか有していないため、脱酸素剤と用いるには酸素除去能力が十分でない、という問題がある。
2)また、酸化亜鉛(ZnO)を用いた場合には、還元焼成工程において昇華し、炉の内部を汚染する場合があるため、工業的に脱酸素剤を多量に製造することに問題がある。
【0028】
また、本発明に係る脱酸素剤は、比表面積が0.6m2/g以下の粉体、又は、比表面積が3.0m2/g以下の成形体(例えばタブレット、ペレット、フレーク等)であるので、例えば、当該脱酸素剤を覆っている複合フィルムを誤って開封してしまったとき等のように、大気と直接的に接触したときであっても、急激に酸素と反応して発火してしまうことを抑制することができるので、非常に好ましい。
【0029】
よって、酸化セリウムの易発火性による問題が解消され、製品に脱酸素剤を充填する際に低酸素雰囲気下又は不活性ガス雰囲気下とするか、充填処理を迅速に行なう必要がなくなり、ハンドリングが大幅に向上することとなる。
【0030】
なお、前記脱酸素剤が、粉体の場合には0.6m2/g以下の比表面積でなければ発火を抑制できないのに対し、タブレットやペレットやフレーク等のような成形体の場合には3.0m2/g以下の比表面積であれば発火を抑制できる理由は、定かではないが、前記脱酸素剤が成形体の場合には、内部に形成される微小な空孔に対して、大気がクヌーセン拡散(数〜百nm程度の細孔(メソ細孔)内の気体の拡散は、壁面に衝突しながら拡散してゆく。これをクヌーセン拡散と呼び、一般の大きな細孔と比較して、気体が比較的自由に多量に拡散できない。)しか生じ得ないため、比表面積自体が大きくても、大気中の酸素が接触する実効面積はそれほど大きくはないからであると推察される。
【0031】
このような脱酸素剤は、比表面積が0.6m2/g以下の粉体の場合、CeO2の粉体を1400℃以上の温度で焼成(例えば1時間)した後に、例えば、水素等の還元性ガス気流中で1000℃×1時間還元焼成することにより、容易に製造することができる。
【0032】
他方、比表面積が3.0m2/g以下のタブレットやペレットやフレーク等のような成形体の場合、CeO2の粉体を0.5t/cm2以上の圧力で加圧して成形体を作製し、これを1000℃以上の温度で焼結した後に、例えば、水素等の還元性ガス気流中で1000℃×1時間還元焼成することにより、容易に製造することができる。
【0033】
このようにして製造された脱酸素剤は、酸素を必要十分に透過させ得る公知の多孔性の複合フィルム等で覆われて封入されることにより、利用される。
【0034】
このような本実施形態に係る脱酸素剤においては、前記式(2)に示したように雰囲気中の酸素と反応することにより、雰囲気中から酸素を除去することができる。
【0035】
このため、本実施形態に係る脱酸素剤では、(1)水分をまったく必要とすることなく酸素と反応することができるので、乾燥食品や電子部品や半田粉等の雰囲気中に水分が少ない場合でも効果が得られ、(2)非金属製であるので、金属探知機に反応することがなく、(3)食品と共に電子レンジでマイクロ波加熱を行っても、発火することがない。
【0036】
したがって、本実施形態によれば、雰囲気中に水分がなくても酸素と反応することができると共に、金属探知機での反応や電子レンジでのマイクロ波による加熱を防ぐことができる。
【0037】
[第2の実施の形態]
また、前述した第1の実施の形態に係る脱酸素剤は、図1に示すように、前記所定の比表面積とした酸化セリウムからなる脱酸素吸収層11と、該脱酸素吸収層11の外層側に設けられ、ガスバリア性を有するガスバリア層12と、前記脱酸素吸収層11の内層側に設けられ、ガス易透過性を有してなるガス易透過層13とから脱酸素機能フィルム14を構成するようにしてもよい。ここで、図1中、符号15は酸素を図示する。
なお、図1においては、前記ガスバリア層12の外側に外層16を設けガスバリア層を保護するようにしているが本発明はこのような積層構造に限定されるものではなく、少なくとも前記脱酸素吸収層11を含む脱酸素機能フィルムとなるものであればいずれのものでもよい。
ここで、前記ガスバリア層12としては、例えばアルミ箔、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、延伸ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン(商品名)等の単層又は多層からなるものを例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
また、前記ガス易透過層13としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、延伸ポリプロピレン(PP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデンコート延伸ナイロン(商品名)等の単層又は多層からなるものを例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば紙、不織布等の繊維類からなる層も用いることもできる。
また、前記ガス易透過層13はシーラント層(例えばPP又はPE等のポリオレフィン)の機能を併用するようにしてもよい。
【0039】
また前記外層16としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(商品名)等を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
また、図2に示すように、前記所定の比表面積とした酸化セリウムからなる脱酸素剤21と、該脱酸素剤21を包装すると共に、ガスバリア性を有してなる包装体22とから脱酸素包装体23を構成するようにしてもよい。
【0041】
また、図3に示すように、前記所定の比表面積とした酸化セリウムからなる脱酸素剤31を樹脂層32内に分散又は練込んで脱酸素樹脂組成物33を構成するようにしてもよい。
【0042】
前記樹脂層32を構成する材料としては、酸素を透過することができる素材であればよく、例えば低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、これらのブレンド物などのオレフィン系樹脂、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体などのスチレン系樹脂などを例示することができる。また、これらの樹脂は単独でもまたはブレンド物としても使用することができる。
【実施例】
【0043】
本発明の実施の形態に係る脱酸素剤及びその製造方法の効果を確認するため、以下のような確認を行った。
【0044】
[1−1.原料の作製]
炭酸水素アンモニウムとアンモニアと炭酸アンモニウムとシュウ酸とを水に溶解した水溶液を撹拌しながら、硝酸セリウム水溶液を滴下して逆中和し、生成した沈殿物をイオン交換水で洗浄(2回)して濾過した後、乾燥(300℃×2時間)することにより、酸化セリウム(CeO2)の粉末(平均粒径:約0.5μm)を得る。
【0045】
[1−2.試料A1〜A6,B1〜B18の作製]
続いて、前記酸化セリウム(CeO2)の粉末を下記の表1に示す温度でそれぞれ焼成することにより、焼成粉末の試料A1〜A6(平均粒径:約5〜10μm)をそれぞれ作製した。
他方、前記酸化セリウム(CeO2)の粉末を下記の表2に示す圧力で加圧して成形体(タブレット)をそれぞれ作製し(直径:2cm、厚さ:約2mm、重量:約2g)、下記の表2に示す温度でそれぞれ焼結することにより、焼結成形体の試料B1〜B18(直径:約1.7cm、厚さ:約1.7mm)をそれぞれ作製した。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
[1−3.試験体(粉体)A1〜A6,試験体(成形体)B1〜B18の作製]
次に、前記試料A1〜A6,B1〜B18を不活性ガス(窒素ガス)雰囲気下において、加熱(1000℃)しながら還元性ガス(水素ガス)を流す(400SCCM)ことにより、還元焼成(1時間)して酸素欠陥を生じさせた後、不活性ガス(窒素ガス)雰囲気下において、冷却して、前記試料A1〜A6,B1〜B18(約2g)を複合フィルムでそれぞれ覆うことにより、試験体(粉体)A1〜A6,試験体(成形体)B1〜B18を得た。
【0049】
なお、複合フィルムは、延伸ナイロン(ON)層(30μm)と紙と無延伸ポリプロピレン(CPP)層(40μm)とが順に積層されており、且つ、酸素を通過させるためのピンホールが開けられている。そして、この複合フィルムのCCP層側を試料A1〜A6,B1〜B18と接するようにして試料全体を複合フィルムで覆い、試験体A1〜A6,B1〜B18とした。
【0050】
[2−1.酸素吸収能試験]
前記試験体(粉体)A1〜A6,試験体(成形体)B1〜B18のうち、代表として、試験体A5,B10,B11,B17,B18を大気中に室温下で放置し、所定時間ごとに重量の増加量を計測することにより、酸素吸収量を求めた(酸素欠陥を有する酸化セリウムは酸素のみを吸収するため)。その結果を図4及び図5に示す。
【0051】
図4及び図5からわかるように、前記試験体A5,B10,B11,B17,B18は、十分な酸素吸収能を有し、酸素吸収剤として利用できることが確認できた。また、この結果から、他の試験体A1〜A4,A6,B1〜B9,B12〜B16も十分な酸素吸収能を有し、酸素吸収剤として利用できると十分に推認できる。
【0052】
また、図4に示すように、酸化チタン(TiO2)の脱酸素性能(図中×印で示す。)は、酸化セリウム(CeO2)に比べて約1/6程度低かった。
【0053】
[2−2.比表面積の測定及び開封発火試験]
前記試験体(粉体)A1〜A6,試験体(成形体)B1〜B18の比表面積をBET5点法(脱気温度:120℃、脱気時間:15分)によりそれぞれ測定した後、上述と同様にして、当該試料A1〜A6,B1〜B18を還元焼成し、複合フィルムでそれぞれ覆った後、得られた試験体(粉体)A1〜A6,試験体(成形体)B1〜B18の複合フィルムを大気中で開封し、大気中に載置したステンレス製のトレー上に取り出して、発火するか否かを目視で観察した。その結果を下記の表3及び表4に示す。
【0054】
なお、比表面積の測定装置には、ベックマン・コールター社製「SA−3100(型番)」を使用した。
【0055】
【表3】

【0056】
【表4】

【0057】
前記表3からわかるように、粉末形状の場合、試料A1〜A4(比表面積:0.6m2/g超)は、大気と直接的に触れてしまうと、酸素と急激に反応して発火してしまうものの、試料A5、試料A6(比表面積:0.6m2/g以下)は、大気と直接的に触れてしまっても、発火することはなく、また、前記表4からわかるように、成形体形状の場合、試料B1,B2,B4,B7,B8,B12,B16(比表面積:3.0m2/g超)は、大気と直接的に触れてしまうと、酸素と急激に反応して発火してしまうものの、試料B3、B5,B6,B9〜B11,B13〜B15,B17,B18(比表面積:3.0m2/g以下)は、大気と直接的に触れてしまっても、発火することはなかった。
【0058】
[2−3.マイクロ波加熱試験]
マイクロ波加熱装置(ナショナル社製「NE−S330F(型番)」)内に耐火断熱レンガ(イソライト社製)を載置して、当該レンガ上に前記試験体(粉体)A5,試験体(成形体)B5を載せ、マイクロ波を照射して(700W×3分間)加熱した後、当該装置から前記試験体A5,B5を取り出して温度を計測したところ、マイクロ波照射前の温度が27℃であったのに対し、マイクロ波照射後の温度が30℃であった。よって、これら試験体(粉体)A5,試験体(成形体)B5は、マイクロ波によって加熱されないことが確認できた。
【0059】
よって、粉末形状の脱酸素剤とした場合、比表面積が0.6m2/g以下であれば、例えば、脱酸素剤を覆っている複合フィルムを誤って開封してしまったとき等であっても、発火を抑制でき、また、成形体形状の脱酸素剤とした場合、比表面積が3.0m2/g以下であれば、例えば、脱酸素剤を覆っている複合フィルムを誤って開封してしまったとき等であっても、発火を抑制できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る脱酸素剤は、酸化チタンと較べて脱酸素能力が向上すると共に、大気と直接的に接触したときであっても、急激に酸素と反応して発火してしまうことを抑制することができるので、脱酸素剤としてのハンドリングが向上し、産業上極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】脱酸素機能フィルムの模式図である。
【図2】脱酸素機能包装体の模式図である。
【図3】脱酸素機能樹脂組成物の模式図である。
【図4】本発明に係る脱酸素剤の実施例における試験体A5の酸素吸収能試験の結果を表わすグラフである。
【図5】本発明に係る脱酸素剤の実施例における試験体B10,B11,B17,B18の酸素吸収能試験の結果を表わすグラフである。
【符号の説明】
【0062】
14 脱酸素機能フィルム
23 脱酸素包装体
33 脱酸素樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤であって、
酸素欠陥を有する酸化セリウムからなると共に、比表面積が0.6m2/g以下の粉体であることを特徴とする脱酸素剤。
【請求項2】
雰囲気中の酸素を吸収除去する脱酸素剤であって、
酸素欠陥を有する酸化セリウムからなると共に、比表面積が3.0m2/g以下の成形体であることを特徴とする脱酸素剤。
【請求項3】
請求項1の脱酸素剤の製造方法であって、
CeO2の粉体を1400℃以上の温度で焼成した後に、還元焼成することにより得る ことを特徴とする脱酸素剤の製造方法。
【請求項4】
請求項2の脱酸素剤の製造方法であって、
CeO2の粉体を0.5t/cm2以上の圧力で成形体に成形してから1000℃以上の温度で焼結した後に、還元焼成することにより得ることを特徴とする脱酸素剤の製造方法。
【請求項5】
比表面積が0.6m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの粉体からなる脱酸素剤と、該脱酸素剤を包装する包装体とからなる脱酸素包装体であることを特徴とする脱酸素包装体。
【請求項6】
比表面積が3.0m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの成形体からなる脱酸素剤と、該脱酸素剤を包装する包装体とからなる脱酸素包装体であることを特徴とする脱酸素包装体。
【請求項7】
比表面積が0.6m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの粉体からなる脱酸素吸収層を有することを特徴とする脱酸素機能フィルム。
【請求項8】
請求項7において、
前記脱酸素吸収層の外層側に設けられ、ガスバリア性を有するガスバリア層と、
前記脱酸素層の内層側に設けられ、ガス易透過性を有してなるガス易透過層とを有することを特徴とする脱酸素機能フィルム。
【請求項9】
比表面積が0.6m2/g以下の酸素欠陥を有する酸化セリウムの粉体からなる脱酸素剤を、ガス易透過性を有してなる樹脂に分散又は練込んでなることを特徴とする脱酸素樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−185653(P2007−185653A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338385(P2006−338385)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】