説明

脳の冷却用具及びこれを備えた脳の冷却装置

【課題】 短時間で脳の皮質下組織までを充分に冷却することができる脳の冷却用具及びこれを備えた脳の冷却装置を提供すること。
【解決手段】 内部に冷却された流体を収容可能で、かつ、経口又は経鼻挿入することにより患者Hの食道H1に配置可能なカフ3と、食道H1内に配置されたカフ3に対し患者Hの体外から流体を注入及び排出可能となるように当該カフ3から延説されたチューブ2とを備え、カフ3は、流体の注入又は排出に応じて膨張又は収縮するように可撓性を有し、食道H1内に配置された状態で流体が注入された場合に、膨張したカフ3が食道H1の内壁H4に密着するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の冷却用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体等の生体において、心停止のように呼吸機能や循環機能が不全な状態(以下、心停止状態と称す)になると、脳に対する酸素供給量が不足することになり、この酸素供給量の不足は、脳細胞を死滅させる、いわゆる虚血性神経細胞障害の要因となることが知られている。
【0003】
一方、心停止状態にある生体に対しては、人工呼吸等、心停止状態から蘇生するための処置が施されることになるが、この処置によって生体が心停止状態から蘇生した場合であっても、上記虚血性神経細胞障害により脳に後遺症が残ってしまうおそれがある。
【0004】
このような事情に鑑みて、近年では心停止状態にある生体の体温を低下させることにより、脳を冷却して、虚血性神経細胞障害の発生を抑制する治療法、低体温療法が提唱されている。
【0005】
この低体温療法は、虚血発生後、早期に施行するほど効果的であるが、時間経過とともに治療効果は急速に低減する。
【0006】
上記低体温療法では、内部に冷却液が循環するブランケット等によって全身を包み込むようにして生体の体温を低下させる方法や、例えば特許文献1に開示されるように、内部に冷却液が循環する覆体を生体の頭部に被せることにより直接頭部を冷却する方法が採られている。
【特許文献1】特開2000−60890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記ブランケットや覆体を用いて体温を低下させる場合には、何れも体表から身体を冷却するようにしているので、脳の温度を低下させるのに時間を要してしまうだけでなく、脳の皮質下組織までを充分に冷却することが困難であった。
【0008】
また、上記ブランケットにより全身を冷却した状態で、生体が心停止状態から蘇生した場合には、全身の体温の低下に伴う不整脈を誘発するおそれがあるので、当該ブランケットによる生体の冷却タイミングには細心の注意が必要だった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、短時間で脳の皮質下組織までを充分に冷却することができる脳の冷却用具及びこれを備えた脳の冷却装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、内部に冷却された流体を収容可能で、かつ、経口又は経鼻挿入することにより生体の食道内に配置可能な収容部と、前記食道内に配置された前記収容部に対し前記生体の体外から前記流体を注入及び排出可能となるように当該収容部から延設された注排出手段とを備え、前記収容部は、流体の注入又は排出に応じて膨張又は収縮するように可撓性を有し、前記食道内に配置された状態で前記流体が注入された場合に、膨張した収容部が当該食道の内壁に密着するように構成されていることを特徴とする脳の冷却用具を提供する。
【0011】
本発明によれば、食道内に配置した収容部に対し流体を注入することにより、収容部を食道の内壁に密着させることができるので、当該収容部内の冷却された流体により食道の内壁を冷却することができる。そして、この食道近傍には、脳へ血液を供給する血管(頚動脈)が集中しているため、収容部によってこれら血管を冷却することにより、当該血管内の血液を冷却して脳を冷却することができる。
【0012】
このように、本発明では、脳から比較的近い距離にある血管を、体内(食道)から冷却するようにしているので、短時間で脳を冷却することができるだけでなく、血液を介して脳を冷却するようにしているので、脳の皮質下組織まで充分に冷却することができる。
【0013】
また、本発明では、食道の内壁のみを冷却して脳を冷却するようにしているので、全身を冷却する場合と比較して全身の体温の低下を抑制することができ、冷却タイミングに対する危惧を低減させることができる。
【0014】
前記脳の冷却用具において、前記注排出手段は、経口又は経鼻挿入された前記収容部を食道まで押し込み操作可能となるように少なくとも当該収容部よりも大きい剛性を有していることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、注排出手段によって収容部を食道まで押し込むことができるので、当該収容部の挿入に先立ってガイドワイヤー等を挿入しておく作業を省略することができる。
【0016】
前記注排出手段の形状を限定する趣旨ではないが、前記注排出手段は、食道の深部に配置される収容部の先端部から反対側の基端部までを貫いて形成されていることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、収容部を経口又は経鼻挿入する際に、この挿入方向に沿って収容部自体に腰(剛性)を持たせることができるので、当該収容部をより確実に食道へ導くことができる。
【0018】
前記収容部内に流体を注入する機能と収容部内の流体を排出する機能とを共通の注排出手段に具備させるようにしてもよいが、前記注排出手段は、前記収容部内に流体を注入する注入手段と、収容部内の流体を排出する排出手段とを個別に備え、前記注入手段は食道の深部に配置される収容部の先端部側に流体を注入する一方、前記排出手段は前記先端部と反対側の基端部側から前記収容部内の流体を排出することが好ましい。
【0019】
この構成によれば、生体の食道内に配置された収容部の下方(先端部側)から流体を注入するとともにこの流体を収容部の上方(基端部側)から排出することができるので、収容部内で生体の熱を吸収した流体をその対流の方向に沿って収容部内で流動させながら、当該熱を持った流体を積極的に収容部から排出することができる。
【0020】
したがって、この構成によれば、生体と収容部との間の熱交換の効率を向上させることができるので、より効果的に脳を冷却することができる。
【0021】
さらに、前記収容部が生体の食道内に配置されている状態で当該生体の咽頭部に配置されるとともに内部に冷却された流体を収容可能な第二収容部を備え、この第二収容部は、前記注排出手段からの流体の注入又は排出に応じて膨張又は収縮するように可撓性を有し、前記咽頭部に配置された状態で前記流体が注入された場合に、膨張した第二収容部が当該咽頭部に密着することが特に好ましい。
【0022】
この構成によれば、咽頭部(食道よりも口又は鼻に近い領域:図5の符号T)に配置した第二収容部に対し流体を注入することにより、第二収容部を咽頭部に密着させることができるので、当該第二収容部内の冷却された流体により咽頭部を冷却することができる。そして、前記食道と同様、咽頭部近傍にも、脳へ血液を供給する血管(頚動脈)が集中しているため、第二収容部によってこれら血管を冷却することにより、当該血管内の血液を冷却して脳を冷却することができる。
【0023】
したがって、この構成によれば、前記食道の内壁を冷却するのと相俟って、さらに効果的に脳を冷却することができる。
【0024】
前記収容部と第二収容部とを個別に形成することを除外する趣旨ではないが、前記収容部と第二収容部とを一体に形成するとともに、これら収容部と第二収容部との境界部分には、膨張状態における断面積が他の部分よりも小さくされた窪み部が形成されていることが好ましい。
【0025】
この構成によれば、収容部を食道に、第二収容部を咽頭部に配置して、これら両収容部を膨張させたときに、生体の咽頭部と食道との境界にある狭窄部(図5の符号H7参照)に過剰な負荷がかかるのを抑制することができる。
【0026】
前記脳の冷却用具において、前記注排出手段は、前記収容部内に流体を注入する注入手段と、収容部内の流体を排出する排出手段とを個別に備え、前記注入手段は食道の深部に配置される収容部の先端部側に流体を注入する一方、前記排出手段は前記先端部の反対側に位置する第二収容部の基端部側から前記収容部及び第二収容部内の流体を排出することが好ましい。
【0027】
この構成によれば、生体の食道内に配置された収容部の下方(先端部側)から流体を注入するとともにこの流体を収容部よりも上方に配置された第二収容部の上方(基端部側)から排出することができるので、収容部及び第二収容部内で生体の熱を吸収した流体をその対流の方向に沿って流動させながら、当該熱を持った流体を積極的に排出することができる。
【0028】
したがって、この構成によれば、生体と収容部及び第二収容部との間の熱交換の効率を向上させることができるので、食道の内壁及び咽頭部の冷却効率を上げて、より効果的に脳を冷却することができる。
【0029】
さらに、前記注排出手段は、経口又は経鼻挿入されることにより生体の気道を確保する内腔部が形成された管状部材により構成され、この管状部材には前記収容部内に連通する連通孔が前記内腔部とは別に形成されていることが好ましい。
【0030】
この構成によれば、管状部材により生体の気道を確保することができるので、人工呼吸等の心停止蘇生措置と、脳の冷却による低体温療法とを並行して行うことができる。
【0031】
具体的に、前記収容部は、管状部材に対してその長手方向に沿って外装された可撓性チューブが、長手方向の2箇所で前記管状部材の外周面に対し全周にわたり接合されることにより形成されている一方、前記管状部材には前記各接合部間において開口するとともに前記連通孔と連結された側孔が形成され、前記流体が前記連通孔及び側孔を通して前記可撓性チューブと管状部材との間に収容され、又は可撓性チューブと管状部材との間に収容された流体が前記連通孔及び側孔を通して排出されるように構成することができる。
【0032】
この構成によれば、管状部材を食道内に挿入した上で、この管状部材の連通孔を介して流体を注入することにより収容部を管状部材の径方向外側へ膨張させて当該収容部を食道の内壁に密着させることができる。
【0033】
また、本発明は、前記脳の冷却用具と、この脳の冷却用具が装着されるものであって、経口又は経鼻挿入されることにより生体の気道を確保可能な気道確保部材とを備えた脳の冷却装置を提供する。
【0034】
本発明に係る脳の冷却装置によれば、気道確保部材により生体の気道を確保することができるので、人工呼吸等の心停止蘇生措置と、脳の冷却による低体温療法とを並行して行うことができる。
【0035】
ここで、「脳の冷却用具が装着されるものであって」とは、脳の冷却用具と気道確保部材とが一体とされていることだけでなく、これら両者が着脱されるものも含む趣旨である。すなわち、前記脳の冷却装置を生体に経口又は経鼻挿入する場合には、前記脳の冷却用具の挿入に先立って気道確保部材を生体に経口又は経鼻挿入した上で、この気道確保部材に沿わせるように脳の冷却用具を食道まで導くこともできる。
【0036】
一方、脳の冷却用具を気道確保部材と一体に構成した場合には、これら両者を生体内へ挿入する作業を一度に行うことができるので、その作業性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、短時間で脳の皮質下組織までを充分に冷却することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0039】
図1は、本発明の第一の実施形態に係る脳の冷却用具の先端部形状を示す、(a)は側面図、(b)は側面断面図である。図2は、図1の脳の冷却用具を患者へ挿入した状態を示す側面断面図である。
【0040】
各図を参照して、脳の冷却用具(以下、冷却用具と称す)1は、チューブ(注排出手段)2と、このチューブ2の一方の端末に設けられたカフ(収容部)3と、このカフ3の反対側の端部に設けられたポート4とを備えている。なお、以下の説明では、チューブ2について、カフ3の設けられている側を先端部とし、ポート4が設けられている側を基端部として説明する。
【0041】
チューブ2は、ポリアミドやポリ塩化ビニル等の合成樹脂により形成された管状の部材である。また、チューブ2は、その先端部が底部2aによって閉塞され、この底部2aの近傍位置で側面を貫く複数の側孔2b(図1(b)では2つ示している)を備えている。
【0042】
そして、チューブ2は、後述するカフ3を患者Hの食道H1内に配置した際に、その基端部が患者Hの体外に届く長さ寸法(例えば、成人用で18〜28cm、小児用で10〜20cm)とされている。
【0043】
カフ3は、シリコーン樹脂等の可撓性を有する材質によって内部に冷却された流体を収容可能な袋状に形成され、前記ポート4によりチューブ2を介して流体が注入されることによって、チューブ2の径方向外側へ膨張する一方、ポート4により内部の流体が排出されることによってチューブ2の径方向内側へ収縮することが可能とされている。
【0044】
具体的に、カフ3は、円筒状に形成された部材が、各側孔2bを覆うようにチューブ2に外装された上で、その両端部が各側孔2bの先端側及び基端側の接合位置M1及びM2でそれぞれチューブ2の外周面に対し全周にわたり接合されることにより形成されている。このように袋状とされたカフ3の内部には、チューブ2とカフ3との間に収容室S1が形成される。
【0045】
ポート4は、前記チューブ2の基端部開口と連通され、チューブ2の内部を通して流体を収容室S1内へ導入することが可能とされている。具体的に、ポート4は、チューブ2に連結されたパイロットバルーン4aと、このパイロットバルーン4aに連結された逆止弁4bとを備えている。
【0046】
パイロットバルーン4aは、前記カフ3が膨張した状態において、当該カフ3の内部圧力に応じて張大するように構成されており、この張大具合を医療従事者が触接することによりカフ3の内部圧力を検知し得るようになっている。
【0047】
逆止弁4bは、内部に弁体を有しており、注射筒等が挿入された場合に当該弁体を開放する一方、注射筒等が引き抜かれた場合に弁体を閉じるように構成された周知のものであるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0048】
以下、冷却用具1の使用方法について説明する。
【0049】
まず、カフ3を収縮状態とした上で、チューブ2の先端部を口腔H2又は鼻腔H3を通して患者Hの体内へ挿入し、当該患者Hの体外からチューブ2を押し込み操作することにより、カフ3を食道H1へ導入する。
【0050】
ここで、本実施形態では、チューブ2をポリアミドやポリ塩化ビニル等の材質で形成する一方、カフ3をシリコーン樹脂で形成し、これらの材料特性の差異により、チューブ2にカフ3よりも大きな剛性を持たせるようにしているため、患者Hの体外におけるチューブ2の押込操作によってカフ3を食道H1まで導くことができる。なお、剛性の調整については前記材料特性に限定されることはなく、例えば、チューブ2の厚み寸法をカフ3のそれよりも大きくすることにより、チューブ2にカフ3よりも大きな剛性を持たせることも可能である。
【0051】
さらに、本実施形態では、大きな剛性を有するチューブ2によりカフ3が先端部から基端部にわたり貫かれているため、当該カフ3自体が折れ曲がることを抑制することができる。
【0052】
次いで、チューブ2をさらに押込操作することにより、カフ3をその基端部まで食道H1内に導入する(図2の深さ位置までカフ3を導入する)。
【0053】
そして、カフ3が食道H1内に配置された状態で、ポート4から予め冷却された冷却剤(比熱の高い流体:例えば脂肪乳剤)を注入する。これにより、カフ3が膨張して食道H1の内壁H4に密着するため、冷却剤により食道H1の内壁H4から熱を奪って、当該内壁H4が冷却される。
【0054】
そして、所定の冷却時間が経過したら、ポート4から冷却剤を排出してカフ3を収縮させた上でチューブ2を引き抜くことによりカフ3を患者Hから抜き出すことができる。
【0055】
以上説明したように、前記冷却用具1によれば、食道H1内に配置したカフ3に対し冷却剤を注入することにより、カフ3を食道H1の内壁H4に密着させることができるので、当該カフ3内の冷却剤により食道H1の内壁H4を冷却することができる。そして、この食道H1の近傍には、脳へ血液を供給する血管(頚動脈)が集中しているため、カフ3によってこれら血管を冷却することにより、当該血管内の血液を冷却して脳を冷却することができる。
【0056】
このように、冷却用具1では、脳から比較的近い距離にある血管を、体内(食道H1)から冷却するようにしているので、短時間で脳を冷却することができるだけでなく、血液を介して脳を冷却するようにしているので、脳の皮質下組織まで充分に冷却することができる。
【0057】
また、冷却用具1では、食道H1の内壁H4のみを冷却して脳を冷却するようにしているので、全身を冷却する場合と比較して全身の体温の低下を抑制することができ、冷却タイミングに対する危惧を低減させることができる。
【0058】
なお、脳から近い距離にある血管を冷却することにより全身の体温の低下を抑制しながら脳を選択的に冷却する本発明の目的に鑑みると、食道H1の冷却範囲(カフ3の長さ寸法)は、輪状軟骨H5の下縁から胃(図示せず)に至る食道H1のうち、輪状軟骨H5の下縁から鎖骨H6の上縁までの頸部食道E1の範囲内とすることが好ましい。このようにすれば、心臓から比較的離間した位置で食道H1の内壁H4を冷却することができるので、全身の体温の低下をより確実に抑制することができる。
【0059】
なお、前記実施形態では、カフ3に対する冷却剤の注入及びカフ3から冷却剤の排出を一本のチューブ2によって行うようにしているが、冷却剤注入用のチューブと冷却剤排出用のチューブとを別々に設けることもできる。
【0060】
例えば、図1の(a)に示すように、前記チューブ2を冷却剤注入用として使用する一方、カフ3内の基端部に連結されたチューブ2Aをさらに設け、このチューブ2Aによってカフ3内に収容されている冷却剤を、当該カフ3の基端部側から排出するように構成することもできる。
【0061】
このようにすれば、前記チューブ2の各側孔2bを介してカフ3の先端部側へ冷却剤を注入することに伴い、既にカフ3に収容されている冷却剤がチューブ2Aを介してカフ3の基端部側から排出されることになる。
【0062】
すなわち、チューブ2Aを備えた構成によれば、患者Hの食道H1内に配置されたカフ3の下方(先端部側)から冷却剤を注入するとともにこの冷却剤をカフ3の上方(基端部側)から排出することができるので、カフ3内で患者Hの熱を吸収した冷却剤をその対流の方向に沿ってカフ3内で流動させながら、当該熱を持った冷却剤を積極的にカフ3から排出することができる。
【0063】
したがって、患者Hとカフ3との間の熱交換の効率を向上させることができるで、より効果的に脳を冷却することができる。
【0064】
なお、前記実施形態の冷却用具1では、食道H1のみを冷却するようにしているが、この食道H1から口腔H2及び鼻腔H3へつながる咽頭部T(図5参照)を冷却することにより、脳の冷却効率をさらに向上させることができる。
【0065】
図3は、本発明の第二の実施形態に係る冷却用具の先端部形状を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。図4は、図3(b)のIV−IV線断面図である。図5は、図3の冷却用具を患者へ挿入する手順を示す側面断面図であり、(a)は患者へ気管内チューブを挿入した状態、(b)は冷却用具を挿入した状態をそれぞれ示している。
【0066】
各図を参照して、冷却用具5は、前記チューブ2と、このチューブ2の先端部に設けられたカフ6と、このカフ6の基端部から延びる一対の排出用チューブ7と、チューブ2及び排出用チューブ7の基端部にそれぞれ設けられた前記ポート4とを備えている。
【0067】
カフ6は、シリコーン樹脂又は軟質塩化ビニル等により形成された袋状の部材である。具体的に、カフ6は、先端側の俵状部(収容部)8と、この俵状部8から基端側へ向けて二股に分かれるU字部(第二収容部)9とを一体に備えている。
【0068】
俵状部8は、先端側へ延びる円筒部8aを備え、この円筒部8aの内面と当該円筒部8aに挿通されたチューブ2の外面とが全周にわたり接合されて当該チューブ2に固定されている。また、俵状部8の基端部は、チューブ2の径方向内側へ向かう肩部8bとされ、この肩部8bを介してU字部9に連結されている。
【0069】
一方、U字部9は、前記肩部8bから基端側へ向かうに従いチューブ2の径方向外側へ開く形状とされている。つまり、前記俵状部8とU字部9との境界部分には、カフ6の膨張状態における断面積が他の部分よりも小さくされた窪み部10が形成されている。この窪み部10は、患者Hの咽頭部Tと食道H1との境界にある狭窄部H7に対応して形成されている。
【0070】
また、U字部9は、基端部側へ延びる一対の脚部11と、これら脚部11の間の股下部12とを一体に備えている。
【0071】
股下部12は、基端側へ延びる円筒部12aを備え、この円筒部12aの内面と当該円筒部12aに挿通されたチューブ2の外面とが全周にわたり接合されて当該チューブ2に固定されている。
【0072】
各脚部11の基端部には、円筒部11aが基端側へ延びて形成されている。そして、各脚部11は、各円筒部11aの内面と当該円筒部11aに挿通された排出用チューブ7の先端部外面とが全周にわたり接合されて当該排出用チューブ7に固定されている。
【0073】
つまり、前記カフ6は、各円筒部8a、11a及び12aとチューブ2及び排出用チューブ7とが接合されることにより、チューブ2の外側に収容室S2を形成している。
【0074】
以下、冷却用具5の使用方法について説明する。
【0075】
まず、図5の(a)に示すように、気管内チューブ14を利用して患者Hの気道を確保する。ここで、気管内チューブ14は、患者Hに経口又は経鼻挿入可能なチューブ本体15を備え、このチューブ本体15の先端部を患者の気管H8内に導入した状態で、当該チューブ本体15の先端部に装着されたカフ16を膨張させることにより気管H8の上端部を閉塞し、この状態でチューブ本体15の基端部のコネクタ17に接続された人工呼吸器(図示せず)からチューブ本体15の内腔部を介して気管H8内に酸素を供給するためのものである。
【0076】
次いで、冷却用具5のカフ6を収縮させるとともにカフ6の両脚部11を気管内チューブ14のチューブ本体15の両側に配置した上で、チューブ2の先端部を口腔H2を通して患者Hの体内へ挿入し、前記気管内チューブ14のチューブ本体15の上面に沿わせるようにして、患者Hの体外からチューブ2を押し込み操作することにより、カフ6の俵状部8を食道H1へ導入する。
【0077】
さらに、チューブ2を押し込み操作することにより、図5の(b)に示すように、前記窪み部10が患者Hの狭窄部H7に配置されるまでカフ6を導入する。
【0078】
この状態では、カフ6の俵状部8が食道H1内に配置されるとともに、U字部9が下咽頭T3から中咽頭T2を通り口腔H2までの範囲に配置される。ここで、咽頭部Tは、鼻腔H3に続く口蓋H9より上の上咽頭T1、口を開けると見える中咽頭T2、食道H1と気管H8との分岐部にある輪状軟骨H5より上の下咽頭T3の3つの範囲を有するものとして説明する。
【0079】
次いで、チューブ2のポート4から冷却剤を注入することにより、カフ6を膨張させて、その俵状部8が食道H1の内壁H4に、U字部9が下咽頭T3及び中咽頭T2に密着する。これにより、カフ6内に注入された冷却剤により食道H1の内壁H4及び咽頭部Tから熱を奪って、当該内壁H4及び咽頭部Tが冷却される。
【0080】
そして、所定の冷却時間が経過したら、排出用チューブ7のポート4から冷却剤を排出してカフ6を収縮させた上でチューブ2を引き抜くことによりカフ6を患者Hから抜き出すことができる。
【0081】
以上説明したように、前記第二の実施形態に係る冷却用具5によれば、咽頭部Tに配置したU字部9に対し冷却剤を注入することにより、U字部9を咽頭部T(図5では下咽頭T3及び中咽頭T2)に密着させることができるので、当該U字部9内の冷却剤により咽頭部Tを冷却することができる。そして、前記食道H1と同様、咽頭部T近傍にも、脳へ血液を供給する血管(頚動脈)が集中しているため、U字部9によってこれら血管を冷却することにより、当該血管内の血液を冷却して脳を冷却することができる。
【0082】
したがって、冷却用具5によれば、食道H1の内壁H4を冷却するのと相俟って、さらに効果的に脳を冷却することができる。
【0083】
なお、図5では気管内チューブ14を経口挿入した場合の冷却用具5の使用方法について説明しているが、気管内チューブ14を経鼻挿入した場合にも冷却用具5を患者Hの鼻腔H3を通して使用することができる。この場合には、U字部9を患者Hの上咽頭T1にも配置することができるので、下咽頭T3〜上咽頭T1に至る咽頭部Tの略全域を冷却してより脳の冷却効率を高めることができる。
【0084】
また、前記冷却用具5では、俵状部8とU字部9との間に窪み部10が形成されていることにより俵状部8を食道H1に、U字部9を咽頭部Tに配置して、これら両部8及び9を膨張させたときに、患者Hの咽頭部Tと食道H1との境界にある狭窄部H7に過剰な負荷がかかるのを抑制することができる。
【0085】
さらに、前記冷却用具5ではチューブ2により俵状部8の先端部側に冷却剤を注入する一方、排出用チューブ7によりU字部9の基端部側から冷却剤を排出する、すなわち、患者Hの食道H1内に配置された俵状部8の下方から冷却剤を注入するとともにこの冷却剤をU字部9の上方から排出することができるので、俵状部8及びU字部9で生体の熱を吸収した冷却剤をその対流の方向に沿って流動させながら、当該熱を持った冷却剤を積極的に排出することができる。
【0086】
したがって、冷却用具5によれば、患者Hと俵状部8及びU字部9との間の熱交換の効率を向上させることができるので、食道H1の内壁H4及び咽頭部Tの冷却効率を上げて、より効果的に脳を冷却することができる。
【0087】
なお、前記第二の実施形態に係る冷却用具5では、患者Hの気道を確保する気管内チューブ14と冷却用具5とが別々に構成されているが、図6から図10に示すように、気道を確保するものと冷却用具とを一体に構成することもできる。
【0088】
図6は、本発明の第三の実施形態に係る脳の冷却装置の全体構成を示す側面図である。図7は、図6の脳の冷却装置の先端部を拡大して示す、(a)は平面図、(b)は底面図である。図8は、図7のVIII−VIII線断面図である。図9は、図7のIX−IX線断面図である。図10は、図6の脳の冷却装置の使用状態を示す側面断面図である。
【0089】
各図を参照して、脳の冷却装置18(以下、冷却装置18と称す)は、患者Hの食道H1内への気体の流通を阻止した状態で気管H8内への気体の流通を許容する喉頭部マスク(気道確保部材)19と、患者Hの食道H1及び咽頭部Tを冷却する冷却用具20とを組み合わせたものである。
【0090】
具体的に、喉頭部マスク19は、略円弧状に形成されたチューブ本体21と、このチューブ本体21の基端部に取り付けられたコネクタ22と、チューブ本体21の先端部に外装された喉頭部カフ23と、この喉頭部カフ23の基端部から延びる連結チューブ24と、この連結チューブ24の基端部に接続された前記ポート4とを備えている。
【0091】
チューブ本体21は、軟質塩化ビニル等の可撓性を有する合成樹脂により形成され、内腔部21aを有する管状の部材である。また、チューブ本体21の先端部は、円弧形状の中心側へ向かうに従い基端部側へ傾斜する傾斜端面21bとされている。
【0092】
コネクタ22は、ポリエチレン等の比較的剛性を有する合成樹脂により形成された管状の部材であり、前記チューブ本体21の内腔部21aに圧入されている。そして、このコネクタ22に図略の人工呼吸器を接続することによりチューブ本体21の内腔部21aを介して気管H8内に酸素を供給することができる。
【0093】
喉頭部カフ23は、シリコーン樹脂等の可撓性を有する材質により形成され、チューブ本体21の傾斜端面21bに沿って傾斜した姿勢で、当該チューブ本体21の先端部に対し全周にわたり接合されている。喉頭部カフ23は、その内部に流体を収容可能となるように中空に形成され、全体として浮き輪のような形態とされている。
【0094】
また、喉頭部カフ23の基端部には、基端部側へ突出する取付筒23aが形成されている。この取付筒23aには、連結チューブ24が挿入された状態で接合されている。したがって、ポート4から空気を導入することにより連結チューブ24を介して喉頭部カフ23を膨張させることができる一方、当該ポート4から喉頭部カフ23内の空気を排出することにより当該喉頭部カフ23を収縮させることができる。
【0095】
このように構成された喉頭部マスク19は以下のように使用される。
【0096】
図10に示すように、まず、チューブ本体21を患者Hに対し経口挿入し、喉頭部カフ23の先端部を食道H1と気管H8との分岐部まで到達させる。次いで、ポート4から空気を導入し、喉頭部カフ23を膨張させる。
【0097】
膨張した喉頭部カフ23は、その先端部が食道H1の入り口付近に密着する一方、その基端部が喉頭蓋H10(図5(a)参照)の近傍に密着し、結果として、気管H8の開口部の周縁部に沿って密着することになる。したがって、人工呼吸器からコネクタ22を介して導入された酸素等の気体は、チューブ本体21の内腔部21aを通って気管H8内へ案内される。これにより、患者Hの気道が確保されることになる。
【0098】
一方、前記冷却用具20は、前述した第二の実施形態の冷却用具5とほぼ同様の形態を有しているため、以下の説明では主にその相違点と、前記喉頭部マスク19に対する組み付け状態とについて説明する。
【0099】
図6〜図10を参照して、冷却用具20は、前記U字部9が喉頭部カフ23の上面に接合されている。すなわち、U字部9は、各脚部11で喉頭部マスク19のチューブ本体21を左右に挟んだ状態で、喉頭部カフ23に接合されている。
【0100】
したがって、前記股下部12にチューブ2が形成された第二の実施形態に係る冷却用具5とは異なり、冷却用具20のチューブ2は、チューブ本体21を避けるように一方の脚部11を貫いて俵状部8の先端部まで延びている。
【0101】
また、本実施形態のU字部9は、喉頭部カフ23と略同一の平面形状とされているため、患者Hへ挿入された際に当該患者Hの喉頭蓋H10の周辺、すなわち下咽頭T3に配置されることになる(前述した第二の実施形態よりも各脚部11が短く形成されている)。
【0102】
さらに、U字部9が喉頭部カフ23の上面に接合された状態において、前記俵状部8は、喉頭部カフ23の先端部からさらに先端部側の領域に延びるように配置される。これにより、前記喉頭部カフ23によって患者Hの気道を確保した場合に、俵状部8は、図10に示すように患者Hの食道H1内に配置されることになる。
【0103】
また、本実施形態では、各脚部11にそれぞれ設けられた前記排出用チューブ7が途中部で連結されて合流チューブ25とされている。したがって、2本の排出用チューブ7を患者Hの体外へ導く前記実施形態の冷却用具5と比較して患者Hに挿入される部分について嵩の低いものとすることができる。
【0104】
そして前記合流チューブ25及び前記チューブ2は、チューブ本体21の左右両側面にそれぞれ接合されている。これにより、チューブ本体21と合流チューブ25及びチューブ2とを同時に患者Hに挿入することができるので、各チューブ2、21、25を別々に挿入する場合よりも作業が容易になる。
【0105】
以下、冷却装置18の使用方法について説明する。
【0106】
まず、喉頭部カフ23及びカフ6を収縮させた状態で、チューブ本体21を患者Hに経口挿入して、前述したように喉頭部カフ23を膨張させることにより、患者Hの気道を確保する。この状態において、俵状部8が患者Hの食道H1内に配置されるとともに、U字部9が下咽頭T3に配置されることになる。
【0107】
次いで、チューブ2のポート4から冷却剤を注入することにより、カフ6を膨張させて、その俵状部8が食道H1の内壁H4に、U字部9が下咽頭T3に密着する。これにより、カフ6内に注入された冷却剤により食道H1の内壁H4及び咽頭部Tから熱を奪って、当該内壁H4及び咽頭部Tが冷却される。
【0108】
そして、所定の冷却時間が経過したら、チューブ25のポート4から冷却剤を排出してカフ6及び喉頭部カフ23を収縮させた上でチューブ本体21を引き抜くことによりカフ6及び喉頭部カフ23を患者Hから抜き出すことができる。
【0109】
以上説明したように、冷却装置18によれば、喉頭部マスク19により患者Hの気道を確保することができるので、人工呼吸等の心停止蘇生措置と、脳の冷却による低体温療法とを並行して行うことができる。
【0110】
また、冷却装置18では、喉頭部マスク19により患者Hの気道を確保しながら、俵状部8により患者Hの食道H1を閉塞することができるので、人工呼吸器による酸素等が誤って食道H2内に流入するのを抑止することができるとともに、患者Hの胃の内容物(例えば、消化管液)が逆流する(嘔吐する)のを防止することができる。
【0111】
さらに、冷却装置18では、喉頭部カフ23にU字部9が装着されているので、これら喉頭部カフ23及びU字部9(カフ6)を膨張させることにより、当該喉頭部カフ23及びU字部9の双方の圧力で気管H8の開口部を密閉することができるので、喉頭部カフ23単独で気管H8の開口部を閉塞する場合よりも気管H8の密閉度を高めて、人工呼吸器からの酸素等が気管H8の外側(咽頭部T側)へ漏れるのをより確実に防ぐことができる。
【0112】
なお、前記冷却装置18では、喉頭部マスク19と冷却用具20とを一体とした構成について説明しているが、これら喉頭部マスク19と冷却用具20とを別々に構成することもできる。この場合には、喉頭部マスク19により患者Hに挿入した状態で、冷却用具20を喉頭部マスク19のチューブ本体21に沿って患者Hに挿入することにより、当該患者Hの食道H1及び咽頭部Tを冷却することができる。この場合には喉頭部カフ23に空気を注入する前に冷却用具20のカフ6を挿入する必要がある。
【0113】
また、前記冷却装置18では、喉頭部マスク19に対し冷却用具20を組み付けた構成としているが、前記第一の実施形態の冷却用具1を喉頭部マスク19に組み付けることもできる。この場合には、喉頭部マスク19により患者Hの気道を確保しながら、冷却用具1によって患者Hの食道H1の内壁H4を冷却することができる。
【0114】
なお、前記第三の実施形態では、気道確保部材として喉頭部マスク19を例示したが、気道確保部材としては、経鼻挿入される経鼻エアウェイや、食道閉鎖式エアウェイ等を採用することも可能である。
【0115】
そして、前記冷却装置18では、気道確保用の喉頭部マスク19に対し冷却用具20を組み付けるようにしているが、冷却用具自体に気道を確保するための構成を付加することもできる。
【0116】
図11は、本発明の第四の実施形態に係る冷却用具の全体構成を示す側面図である。図12は、図11の(a)はXIIa−XIIa線断面図、(b)はXIIb−XIIb線断面図、(c)はXIIc−XIIc線断面図、(d)はXIId−XIId線断面図、(e)はXIIe−XIIe線断面図である。図13は、図11の冷却用具を患者に挿入した状態を示す側面断面図である。
【0117】
各図を参照して、脳の冷却用具26(以下、冷却用具26と称す)は、チューブ(注排出手段)27と、このチューブ27に設けられた冷却カフ(収容部)28、閉塞用カフ29及び咽頭部カフ30と、前記チューブ27の基端部に圧入された前記コネクタ22とを備えている。
【0118】
チューブ27は、その基端部側に接続された導入用チューブ31、排出用チューブ32及び気体用チューブ33と、これら各チューブ31〜33に連結された前記ポート4とを備えている。
【0119】
また、チューブ27には、冷却剤導入孔34、冷却剤排出孔35、気体用孔36及び気道確保用孔37の4つの内腔部がその軸線方向に沿ってそれぞれ形成されている。
【0120】
冷却剤導入孔34は、前記導入用チューブ31が接合される基端部と、前記冷却カフ28の配設位置に対応する先端部との間の範囲に形成されている。この冷却剤導入孔34は、図12の(e)に示すように、その先端部がチューブ27を貫く側孔34aによって当該チューブ27の側方に開放されているとともに、図12の(b)に示すように、その途中部がチューブ27を貫く側孔34bによって当該チューブ27の側方に開放されている。
【0121】
同様に、冷却剤排出孔35は、排出用チューブ32が接合される基端部と、冷却カフ28の配設位置に対応する先端部との間の範囲に形成されている。この冷却剤排出孔35は、図12の(e)に示すように、その先端部がチューブ27を貫く側孔35aによって当該チューブ27の側方に開放されているとともに、図12の(b)に示すように、その途中部がチューブ27を貫く側孔35bによって当該チューブ27の側方に開放されている。
【0122】
気体用孔36は、気体用チューブ33が接合される基端部と、閉塞用カフ29の配設位置に対応する先端部との間の範囲に形成されている。この気体用孔36は、図12の(c)に示すように、その先端部がチューブ27を貫く側孔36aによって当該チューブ27の側方に開放されている。
【0123】
気道確保用孔37は、コネクタ22が圧入されるチューブ27の基端部と、冷却カフ28と閉塞用カフ29との間の先端部との間の範囲に形成されている。この気道確保用孔37は、図12の(d)に示すように、その先端部がチューブ27を貫く側孔37aによって当該チューブ27の側方に開放されている。
【0124】
冷却カフ28は、シリコーン樹脂等で円筒状に形成された部材が各側孔34a及び35aを覆うようにチューブ27に外装された上で、その両端部が各側孔34a及び35aの先端部側及び基端部側の接合位置M3及びM4でそれぞれチューブ27の外周面に対し全周にわたり接合されることにより袋状に形成されている。このように接合された冷却カフ28とチューブ27との間に前記導入用チューブ31から導入された冷却剤が収容される一方、冷却カフ28とチューブ27との間に導入された冷却剤が前記排出用チューブ32を介して排出されるようになっている。
【0125】
また、冷却カフ28は、患者Hの食道H1内に配置される食道配置部38と、患者Hの下咽頭T3に配置される咽頭配置部39と、これら両部38及び39よりも膨張時の断面積が小さくなるように当該両部38と39との間に形成された窪み部40とを一体に備えている。
【0126】
閉塞用カフ29は、シリコーン樹脂等で円筒状に形成された部材が側孔36aを覆うようにチューブ27に外装された上で、その両端部が側孔36aの先端部側及び基端部側の接合位置M5及びM6でそれぞれチューブ27の外周面に対し全周にわたり接合されることにより袋状に形成されている。このように接合された閉塞用カフ29とチューブ27との間に気体用チューブ33を介して流体が収容される一方、閉塞用カフ29とチューブ27との間に収容された流体を気体用チューブ33を介して排出することが可能とされている。
【0127】
この閉塞用カフ29は、図13に示すように、前記チューブ27を患者Hに対し経口挿入するとともに食道配置部38を患者Hの食道H1に配置した場合に、当該患者Hの下咽頭T3内に配置されるように食道配置部38に対しレイアウトされている。
【0128】
咽頭部カフ30は、シリコーン樹脂等で円筒状に形成された部材が各側孔34b及び35bを覆うようにチューブ27に外装された上で、その両端部が各側孔34b及び35bの先端部側及び基端部側の接合位置M7及びM8でそれぞれチューブ27の外周面に対し全周にわたり接合されることにより袋状に形成されている。このように接合された咽頭部カフ30とチューブ27との間に前記導入用チューブ31から導入された冷却剤が収容される一方、咽頭部カフ30とチューブ27との間に導入された冷却剤が前記排出用チューブ32を介して排出されるようになっている。
【0129】
また、咽頭部カフ30は、図13に示すように、前記チューブ27を患者Hに対し経口挿入するとともに食道配置部38を患者Hの食道H1に配置した場合に、当該患者Hの下咽頭T3から中咽頭T2を通って口腔H2までの範囲に配置されるように、食道配置部38に対しレイアウトされている。
【0130】
以下、前記冷却用具26の使用方法について説明する。
【0131】
まず、排出用チューブ32及び気体用チューブ33にそれぞれ接続されたポート4を利用して、閉塞用カフ29内の空気と冷却カフ28及び咽頭部カフ30内の冷却剤とを排出して、これらのカフ28〜30を収縮させる。
【0132】
この状態で、チューブ27をその先端部から患者Hに経口挿入するとともに、図13に示すように、冷却カフ28の食道配置部38を患者Hの食道H1内に配置する。これにより、冷却カフ28の窪み部40が患者Hの狭窄部H7に配置されるとともに、閉塞用カフ29が患者Hの喉頭蓋H10(図5(a)参照)の近傍に配置され、さらに、咽頭部カフ30が患者Hの中咽頭T2を通って下咽頭T3から口腔H2までの範囲に配置される。
【0133】
次いで、導入用チューブ31に接続されたポート4から冷却剤を注入するとともに、気体用チューブ33に接続されたポート4から空気を注入することにより、冷却カフ28、閉塞用カフ29及び咽頭部カフ30を膨張させる。これにより、閉塞用カフ29が患者Hの下咽頭T3に、冷却カフ28が患者の食道H1の内壁H4にそれぞれ密着することになるが、これらカフ28と30との間には気道確保用孔37が側孔37aを介して開放されているため、コネクタ22に接続された人工呼吸器による酸素が患者Hの気管内に供給されることになる。
【0134】
これとともに、冷却剤が注入された冷却カフ28及び咽頭部カフ30によって、患者Hの中咽頭T2、下咽頭T3、さらには食道H1の内壁H4が冷却されることになる。
【0135】
そして、冷却カフ28、閉塞用カフ29及び咽頭部カフ30内の冷却剤や空気を排出して、これらのカフ28〜30を収縮させることによりチューブ27を体外へ引き抜くことができる。
【0136】
以上説明したように、前記冷却用具26によれば、チューブ27により患者Hの気道を確保することができるので、人工呼吸等の心停止蘇生措置と、脳の冷却による低体温療法とを並行して行うことができる。
【0137】
なお、前記実施形態では、閉塞用カフ29内に空気を注入する方法について説明したが、当該閉塞用カフ29に冷却剤を注入するようにしてもよい。
【0138】
また、前記実施形態では、チューブ27を経口挿入する場合について説明したが、チューブ27を経鼻挿入することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る脳の冷却用具の先端部形状を示す、(a)は側面図、(b)は側面断面図である。
【図2】図1の脳の冷却用具を患者へ挿入した状態を示す側面断面図である。
【図3】本発明の第二の実施形態に係る冷却用具の先端部形状を示す、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図4】図3(b)のIV−IV線断面図である。
【図5】図3の冷却用具を患者へ挿入する手順を示す側面断面図であり、(a)は患者へ気管内チューブを挿入した状態、(b)は冷却用具を挿入した状態をそれぞれ示している。
【図6】本発明の第三の実施形態に係る脳の冷却装置の全体構成を示す側面図である。
【図7】図6の脳の冷却装置の先端部を拡大して示す、(a)は平面図、(b)は底面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【図9】図7のIX−IX線断面図である。
【図10】図6の脳の冷却装置の使用状態を示す側面断面図である。
【図11】本発明の第四の実施形態に係る冷却用具の全体構成を示す側面図である。
【図12】図11の(a)はXIIa−XIIa線断面図、(b)はXIIb−XIIb線断面図、(c)はXIIc−XIIc線断面図、(d)はXIId−XIId線断面図、(e)はXIIe−XIIe線断面図である。
【図13】図11の冷却用具を患者に挿入した状態を示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0140】
1 冷却用具
2 チューブ(注排出手段)
2A チューブ(注排出手段)
3 カフ(収容部)
5 冷却用具
6 カフ
7 排出用チューブ(注排出手段)
8 俵状部(収容部)
9 U字部(第二収容部)
10 窪み部
18 冷却装置
19 喉頭部マスク(気道確保部材)
20 冷却用具
26 冷却用具
27 チューブ(注排出手段)
28 冷却カフ
30 咽頭部カフ(第二収容部)
38 食道配置部(収容部)
39 咽頭配置部(第二収容部)
40 窪み部
H1 食道
H2 口腔
H3 鼻腔
H4 内壁
H7 狭窄部
T 咽頭部
T1 上咽頭
T2 中咽頭
T3 下咽頭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷却された流体を収容可能で、かつ、経口又は経鼻挿入することにより生体の食道内に配置可能な収容部と、
前記食道内に配置された前記収容部に対し前記生体の体外から前記流体を注入及び排出可能となるように当該収容部から延設された注排出手段とを備え、
前記収容部は、流体の注入又は排出に応じて膨張又は収縮するように可撓性を有し、前記食道内に配置された状態で前記流体が注入された場合に、膨張した収容部が当該食道の内壁に密着するように構成されていることを特徴とする脳の冷却用具。
【請求項2】
前記注排出手段は、経口又は経鼻挿入された前記収容部を食道まで押し込み操作可能となるように少なくとも当該収容部よりも大きい剛性を有していることを特徴とする請求項1に記載の脳の冷却用具。
【請求項3】
前記注排出手段は、食道の深部に配置される収容部の先端部から反対側の基端部までを貫いて形成されていることを特徴とする請求項2に記載の脳の冷却用具。
【請求項4】
前記注排出手段は、前記収容部内に流体を注入する注入手段と、収容部内の流体を排出する排出手段とを個別に備え、前記注入手段は食道の深部に配置される収容部の先端部側に流体を注入する一方、前記排出手段は前記先端部と反対側の基端部側から前記収容部内の流体を排出することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の脳の冷却用具。
【請求項5】
前記収容部が生体の食道内に配置されている状態で当該生体の咽頭部に配置されるとともに内部に冷却された流体を収容可能な第二収容部をさらに備え、この第二収容部は、前記注排出手段からの流体の注入又は排出に応じて膨張又は収縮するように可撓性を有し、前記咽頭部に配置された状態で前記流体が注入された場合に、膨張した第二収容部が当該咽頭部に密着するように構成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の脳の冷却用具。
【請求項6】
前記収容部と第二収容部とを一体に形成するとともに、これら収容部と第二収容部との境界部分には、膨張状態における断面積が他の部分よりも小さくされた窪み部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の脳の冷却用具。
【請求項7】
前記注排出手段は、前記収容部内に流体を注入する注入手段と、収容部内の流体を排出する排出手段とを個別に備え、前記注入手段は食道の深部に配置される収容部の先端部側に流体を注入する一方、前記排出手段は前記先端部の反対側に位置する第二収容部の基端部側から前記収容部及び第二収容部内の流体を排出することを特徴とする請求項5又は6に記載の脳の冷却用具。
【請求項8】
前記注排出手段は、経口又は経鼻挿入されることにより生体の気道を確保する内腔部が形成された管状部材により構成され、この管状部材には前記収容部内に連通する連通孔が前記内腔部とは別に形成されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の脳の冷却用具。
【請求項9】
前記収容部は、管状部材に対してその長手方向に沿って外装された可撓性チューブが、長手方向の2箇所で前記管状部材の外周面に対し全周にわたり接合されることにより形成されている一方、前記管状部材には前記各接合部間において開口するとともに前記連通孔と連結された側孔が形成され、前記流体が前記連通孔及び側孔を通して前記可撓性チューブと管状部材との間に収容され、又は可撓性チューブと管状部材との間に収容された流体が前記連通孔及び側孔を通して排出されることを特徴とする請求項8に記載の脳の冷却用具。
【請求項10】
請求項1〜7の何れか1項に記載の脳の冷却用具と、この脳の冷却用具が装着されるものであって、経口又は経鼻挿入されることにより生体の気道を確保可能な気道確保部材とを備えた脳の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−75505(P2007−75505A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270359(P2005−270359)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000205007)大研医器株式会社 (28)
【Fターム(参考)】