説明

脳冷却装置及びこれに適した脳冷却用具

【課題】脳冷却用具の収容部内の流体の圧力を適切に保持しながら、当該収容部との間で流体を循環させることができる脳冷却装置及びこれに適した脳冷却用具を提供すること。
【解決手段】制御装置48は、カフ4側に生理食塩水が流れる方向に第一ポンプ41を駆動させるとともに前記貯留タンク32側に生理食塩水が流れる方向に第二ポンプ42を駆動させることにより貯留タンク32とカフ4との間で生理食塩水を循環させた状態で、カフ4内の生理食塩水の圧力が予め設定された目標圧力となるように、両ポンプ41、42のうち少なくとも第二ポンプ42の回転数を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の脳を冷却するための用具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体等の生体において、心停止のように呼吸機能や循環機能が不全な状態(以下、心停止状態と称す)になると、脳に対する酸素供給量が不足し、この酸素供給量の不足は、脳細胞を死滅させる、いわゆる虚血性神経細胞障害の要因となることが知られている。
【0003】
一方、心停止状態にある生体に対しては、人工呼吸等、心停止状態から蘇生するための処置が施されることになるが、この処置によって生体が心停止状態から蘇生した場合であっても、前記虚血性神経細胞障害により脳に後遺症が残ってしまうおそれがある。
【0004】
このような事情に鑑みて、近年では心停止状態にある生体の体温を低下させることにより、脳を冷却して、虚血性神経細胞障害の発生を抑制する治療法、すなわち低体温療法が提唱されている。
【0005】
低体温療法を行うための用具としては、例えば、特許文献1に開示された脳の冷却用具が知られている。この冷却用具は、経口又は経鼻挿入することにより生体の食道内に配置可能なカフと、このカフに接続されたチューブと、このチューブの前記カフと反対側に接続されたポートとを備えている。そして、前記カフを生体の食道に配置した状態で、前記チューブを介してカフ内に冷却された流体を注入してカフを膨張させることにより、当該カフを食道の内壁に密着させる。その結果、前記食道の内壁付近に位置し、脳へ血液を供給する血管(頚動脈)内の血液が冷却され、脳が冷却される。
【0006】
さらに、特許文献1の冷却用具は、前記カフ内に冷却された流体を供給するためのチューブ(以下、供給用チューブと称す)と、カフ内の流体を導出するためのチューブ(以下、導出用チューブと称す)とを個別に備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−75505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の冷却用具を用いて脳の冷却を行う場合、生体の体外まで導出された前記供給用チューブからカフ内へ冷却された流体を供給するとともに、当該カフから導出される流体を導出用チューブを介して生体の体外まで導き、これを冷却した上で再びカフに導入するという循環作業を行なうことが熱交換効率を高める上で好ましい。
【0009】
ここで、特許文献1の冷却用具では、脳を冷却するためにカフを生体の食道に密着させる必要がある反面、この密着が強くなってカフ内の流体の圧力が高くなり過ぎると食道の内壁やカフ自体に与える負担が大きくなるため、カフ内の流体を適当な圧力に保持する必要がある。しかしながら、従来では、前記循環作業を医療従事者の手作業によって行なっていたため、前記カフ内の流体の圧力を適切に保持するのが難しかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、脳冷却用具の収容部内の流体の圧力を適切に保持しながら、当該収容部との間で流体を循環させることができる脳冷却装置及びこれに適した脳冷却用具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、内部に流体が導入されることにより膨張して生体の口腔から胃に至るまでの領域の少なくとも一部に密着可能な収容部と、この収容部内に体外から流体を導入可能な導入部と、前記収容部内の流体を体外に導出可能な導出部とを有する脳冷却用具の前記収容部との間で流体を給排するための脳冷却装置であって、前記導入部と接続可能な導入側接続部と、前記導出部と接続可能な導出側接続部と、前記流体を貯留する貯留部と、前記貯留部と前記導入側接続部とを連通する供給流路と、前記貯留部と前記導出側接続部とを連通する回収流路と、前記供給流路に設けられ、当該供給流路に沿って流体を流すための第一ポンプと、前記回収流路に設けられ、当該回収流路に沿って流体を流すための第二ポンプと、前記第一ポンプ及び第二ポンプの駆動を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記貯留部から収容部に向けて流体が流れる方向に前記第一ポンプを駆動させるとともに前記収容部から貯留部に向けて流体が流れる方向に前記第二ポンプを駆動させることにより前記貯留部と前記収容部との間で流体を循環させた状態で、前記収容部内の圧力が予め設定された目標圧力となるように、前記両ポンプのうち少なくとも前記第二ポンプの駆動速度を調整することを特徴とする脳冷却装置を提供する。
【0012】
本発明によれば、脳冷却用具の収容部内の圧力が目標圧力となるように少なくとも第二ポンプの駆動速度が調整されるため、収容部内の流体の圧力を目標圧力付近で保持しつつ当該流体を収容部と貯留部との間で循環することができる。
【0013】
さらに、本発明では、流体の循環時において収容部から流体を吸引する方向に駆動する第二ポンプの駆動速度を調整することとしているため、収容部内の流体の圧力が必要以上に高くなった場合に、収容部やこれが密着する食道の壁部等に与える負担を小さくしつつ上述した圧力保持を図ることができる。具体的に、例えば、収容部内の流体の圧力を低下させるために第一ポンプの駆動速度を低くすることのみを行った場合、第二ポンプの駆動速度が維持されることにより収容部から導出される流体の流量も維持されることになるため、収容部内の流体の圧力は徐々に低下するにとどまるのに対し、本発明では、少なくとも第二ポンプの駆動速度を高くすることができるため、収容部内の流体を積極的に導出させることにより、収容部内の流体の圧力を迅速に低下させることができる。
【0014】
したがって、本発明によれば、脳冷却用具の収容部内の流体の圧力を適切に保持しながら、当該収容部との間で流体を循環させることができる。
【0015】
前記脳冷却装置において、前記脳冷却用具内の流体の圧力を検出可能な検出部が当該脳冷却用具に設けられており、前記制御部は、前記検出部により検出された収容部内の圧力に基いて、当該収容部内の圧力が前記目標圧力となるように前記両ポンプのうち少なくとも第二ポンプの駆動速度を調整することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、脳冷却用具に検出部が設けられているため、脳冷却装置側に設ける場合よりも検出部の配設位置を収容部に近づけることができるため、収容部内の流体の圧力をより正確に検出することができ、この検出結果に基いて少なくとも第二ポンプの駆動速度を調整することにより、収容部内の流体の圧力を高い精度で目標圧力に近づけることができる。
【0017】
前記脳冷却装置において、前記制御部は、前記貯留部と前記収容部との間で流体が循環している状態において、前記第一ポンプの駆動速度を一定にし、かつ、前記収容部内の圧力が前記目標圧力となるように前記第二ポンプの駆動速度を調整することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、第一ポンプの駆動速度を一定にしているため、第二ポンプの駆動速度を調整することにより第一ポンプと第二ポンプとの相対的な速度差を設定する制御を容易に行うことができる。また、前記収容部に供給される流体の流量は第一ポンプの駆動速度により規定されるため、第一ポンプの駆動速度を一定にしつつ第二ポンプの駆動速度を調整することにより、収容部に対する流体の流量を一定に保持しながら、上述した圧力制御が可能となる。
【0019】
前記脳冷却装置において、前記貯留部内の流体を冷却するための冷却部をさらに備え、前記制御部は、前記貯留部内の流体の温度が予め設定された目標温度となるように、前記冷却部の冷却能力を調整することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、貯留部に設けられた冷却部によって当該貯留部内の流体を冷却することができるので、上述のように流体を圧力制御しながら循環させるための循環系統の中で当該流体を冷却することができ、この冷却された流体を収容部に供給することにより脳を効果的に冷却することが可能となる。
【0021】
前記脳冷却装置において、前記第一ポンプを挟んで前記貯留部と反対側の位置となる前記供給流路の途中部と、前記第二ポンプと前記貯留部との間の位置となる前記回収流路の途中部とを連通させるバイパス流路と、このバイパス流路よりも前記導入側接続部側となる位置で前記供給流路を遮断可能な弁とをさらに備え、前記第二ポンプは、その停止状態で前記回収流路を遮断するように構成され、前記制御部は、前記流体の循環を開始する前の段階において、前記弁により供給流路を遮断し、前記第二ポンプを停止し、前記第一ポンプを駆動させることにより、貯留部内の流体を回収流路、バイパス流路及び供給流路を通して貯留部内に戻すことが好ましい。
【0022】
この構成によれば、弁により供給流路を遮断するとともに第二ポンプにより回収流路を遮断した状態で第一ポンプを駆動させることにより、バイパス流路を介して貯留部内の流体を循環させる(攪拌する)ことができるため、前記冷却部による流体の冷却を促進することができる。
【0023】
前記脳冷却装置において、前記流体が液体であり、前記供給流路は、前記貯留部内の液体の水位よりも下となる位置で当該貯留部に接続されているとともに、前記回収流路は、前記貯留部内の液体の水位よりも上となる位置で当該貯留部に接続され、前記制御部は、前記液体の循環が終了した後の段階において、前記回収流路内の液体が前記収容部側に流れる方向に前記第二ポンプを駆動させるとともに、前記供給流路内の液体が前記貯留部側に流れる方向に前記第一ポンプを駆動させることが好ましい。
【0024】
この構成によれば、貯留部内の気体を供給流路を介して脳冷却用具内に導くとともに当該冷却用具内の流体を貯留部内に導くことができるため、脳冷却用具の使用後に、当該冷却用具内の液体を貯留部内に回収することができる。
【0025】
また、本発明は、前記脳冷却装置に接続して使用される脳冷却用具であって、生体に経口又は経鼻挿入された状態で内部に流体が導入されることにより膨張して生体の口腔から胃に至るまでの少なくとも一部に密着可能な収容部と、この収容部内に体外から流体を導入可能で、かつ、前記脳冷却装置の導入側接続部に接続可能な導入部と、前記収容部内の流体を体外に導出可能で、かつ、前記脳冷却装置の導出側接続部に接続可能な導出部と、前記導入部又は導出部内の流体の圧力を検出可能で、かつ、前記脳冷却装置の制御部に検出結果を出力可能な検出部とを備えていることを特徴とする脳冷却用具を提供する。
【0026】
本発明に係る脳冷却用具によれば、その導入部及び導出部が導入側接続部及び導出側接続部に接続可能で、かつ、検出部による検出結果を脳冷却装置の制御部に出力可能とされているため、収容部内の流体の圧力を適切に保持することができる前記脳冷却装置に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、脳冷却用具の収容部内の流体の圧力を適切に保持しながら、当該収容部との間で流体を循環させることができる脳冷却装置及びこれに適した脳冷却用具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る脳冷却用具の全体構成を示す側面図である。
【図2】図1の脳冷却用具の機能を説明するための平面概略図である。
【図3】図1の脳冷却用具を患者に適用した状態を示す側面概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係る脳冷却装置の全体構成を示す斜視図である。
【図5】図4の冷却装置の流体封入部の正面図である。
【図6】図5の流路部分を拡大して示す正面図である。
【図7】図4の第一ポンプ及び第二ポンプの機能を説明するための概略構成図である。
【図8】図4の装置本体の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図9】図8の制御装置により実行される基本となる処理を示すフローチャートである。
【図10】図8の冷却準備処理を示すフローチャートである。
【図11】図9の冷却処理を示すフローチャートである。
【図12】図11の圧力制御処理を示すフローチャートである。
【図13】図9の冷却水回収処理を示すフローチャートである。
【図14】冷却準備処理S及び冷却処理Tにおける各ポンプの回転数と圧力センサにより検出される圧力との推移を示すグラフである。
【図15】生理食塩水をバッグから貯留タンクへ充填している状態を示す正面図である。
【図16】貯留タンク内の生理食塩水を冷却装置の内部で循環させている状態を示す正面図である。
【図17】貯留タンクと冷却用具のカフとの間で生理食塩水を循環させている状態を示す正面図である。
【図18】貯留タンク内の生理食塩水をバッグに回収している状態を示す正面図である。
【図19】冷却用具内の生理食塩水を貯留タンク内に回収している状態を示す正面図である。
【図20】本発明の別の実施形態に係る制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【図21】図20のチューブ確認処理で実行される処理を示すフローチャートである。
【図22】本発明の実施形態に係る装置本体の動作を示す正面図であり、第一ポンプに対するチューブの取付状態を確認している状態を示すものである。
【図23】本発明の実施形態に係る装置本体の動作を示す正面図であり、第二ポンプに対するチューブの取付状態を確認している状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る脳冷却用具の全体構成を示す側面図である。図2は、図1の脳冷却用具の機能を説明するための平面概略図である。図3は、図1の脳冷却用具を患者に適用した状態を示す側面概略図である。
【0031】
図1〜図3を参照して、脳冷却用具1は、内部に流体を収容可能なカフ4と、このカフ4にそれぞれ接続された導入部2及び導出部3とを備えている。
【0032】
カフ4は、内部の流体を導出して萎ませた形態と、内部に流体を導入して膨張した形態とを採ることが可能となる伸縮性を有している。また、カフ4は、萎ませた状態で患者Pに経口又は経鼻挿入され、この状態で膨張することにより当該患者Pの口腔P1から胃(図示せず)に至るまでの領域E1の少なくとも一部に密着可能な形状を有している。具体的に、本実施形態に係るカフ4は、図3に示すように、患者Pの咽頭部の領域E1の下部、及び患者Pの食道の領域E2の上部に密着するようになっている。なお、咽頭部と食道とは患者の喉頭蓋(図示せず)を境界として区分されるものとして説明する。
【0033】
カフ4は、患者Pの食道内に配置される先端カフ4aと、患者Pの咽頭部に配置される基端カフ4bとを備えている。先端カフ4aは、図2に示すように、導入部2の後述する導入チューブ5の外側面との間に流体を収容可能な袋状の形状を有する。具体的に、先端カフ4aは、導入チューブ5の先端部を包むように設けられるとともに当該導入チューブ5の側面に対しその軸線方向の1箇所で接着されている。基端カフ4bは、前記先端カフ4aよりも基端側の位置で導入チューブ5の側面との間に流体を収容可能な袋状の形状を有する。具体的に、基端カフ4bは、導入チューブ5の周囲を取り囲むように配置されているとともに当該導入チューブ5の側面に対しその軸線方向の2箇所で接着されている。
【0034】
導入部2は、前記カフ4に接続された導入チューブ5と、この導入チューブ5のカフ4と反対側の端部に設けられた導入側コネクタ6と、導入チューブ5の途中部に設けられた圧力センサ7及び2方活栓8とを備えている。導入チューブ5は、図2に示すように、その軸線方向に平行する3つの内側通路5a、5b、5bを有する。内側通路5aは、導入チューブ5の先端側から基端側まで貫通する通路である。各内側通路5bは、それぞれ先端側及び基端側が閉塞された通路である。また、各内側通路5bは、導入チューブ5の側面を貫通する側孔5cを介して先端カフ4a内に連通しているとともに、導入チューブ5の側面を貫通する側孔5dを介して基端カフ4b内に連通している。導入側コネクタ6は、前記内側通路5a内に流体を導入することができるように前記導入チューブ5に接続されている。したがって、この導入側コネクタ6から内側通路5aに導入された流体は、前記先端カフ4a内に導かれ、側孔5cを通り各内側通路5b内に導かれるとともに、側孔5dを通って基端カフ4b内に導入される。圧力センサ7は、前記各内側通路5b内の流体の圧力を検出可能な歪センサである。この圧力センサ7は、その検出結果を電気信号としてコネクタK1(図1参照)を介して外部機器に出力可能とされている。2方活栓8は、各内側通路5bと導入チューブ5の外部とを繋ぐ連通路とこの連通路を開閉するための活栓とを有している。この2方活栓8により各内側通路5a、5b内の流体の圧力を大気圧に開放することによって、圧力センサ7の零点を調整することができる。
【0035】
導出部3は、前記基端カフ4bに接続された一対の導出チューブ9aと、これら導出チューブ9a同士を合流させるための合流チューブ9bと、この合流チューブ9bの導出チューブ9aと反対側の端部に設けられた導出側コネクタ11と、合流チューブ9bの途中部に設けられた圧力センサ10とを備えている。導出チューブ9aは、前記基端カフ4bの基端部に接続され、当該基端カフ4b内の流体をカフ合流チューブ9b側へ導くことが可能とされている。合流チューブ9bは、前記各導出チューブ9aに対して三方コネクタを介して接続され、当該各導出チューブ9aにより導かれた流体を合流させるようになっている。圧力センサ10は、合流チューブ9b内の流体の圧力を検出可能な歪センサである。この圧力センサ10は、その検出結果を電気信号としてコネクタK2(図1参照)を介して外部機器に出力可能とされている。導出側コネクタ11は、合流チューブ9bにより導かれた流体を排出可能となるように、当該合流チューブ9bに接続されている。
【0036】
以下、前記脳冷却用具1の使用方法について図3を参照して説明する。
【0037】
まず、先端カフ4aが患者Pの食道の領域E3の上部に配置されるとともに基端カフ4bが患者Pの咽頭部の領域E2の下部に配置される位置まで、カフ4を萎ませた状態で患者Pに経口挿入する。この状態で導入側コネクタ6から冷却された流体を導入することによりカフ4が膨張して、図3に示すように、カフ4が患者Pの咽頭部及び食道に密着する。冷却用具1内に流体が満たされると、その容量を超えた流体が導出部3の導出側コネクタ11から導出されるため、この流体を冷却して再び導入側コネクタ6に導入する。このような循環を継続することにより、患者Pの咽頭部及び食道付近に位置する頚動脈を流れる血液が冷却され、当該血液が運ばれる脳が冷却される。
【0038】
以下、前記冷却用具1に対する流体の循環を行うための脳冷却装置について説明する。
【0039】
図4は、本発明の実施形態に係る脳冷却装置の全体構成を示す斜視図である。図5は、図4の冷却装置の流体封入部の正面図である。図6は、図5の流路部分を拡大して示す正面図である。
【0040】
図4〜図6を参照して、脳冷却装置20は、前記冷却用具1に接続される流体封入部22と、この流体封入部22内に充填された流体を循環させるための装置本体21とを備えている。前記流体封入部22は、装置本体21に対して着脱可能に構成され、特定の患者について使用された後に装置本体21から取り外されて廃棄される。以下、具体的な構成について説明する。
【0041】
流体封入部22は、前記冷却用具1に対する流体の循環経路を構成する流路部材23と、この流路部材23を所定の形態で保持するとともに、前記装置本体21に着脱されるフレーム部材24とを備えている。
【0042】
流路部材23は、前記冷却用具1の導入チューブ5(図1参照)に接続される供給チューブ(供給流路)26と、前記冷却用具1の合流チューブ9bに接続される回収チューブ(回収流路)25と、これら供給チューブ26及び回収チューブ25に接続された貯留タンク(貯留部)32と、前記供給チューブ26と回収チューブ25とを連通させるバイパスチューブ(バイパス流路)28と、前記貯留タンク32の上部と下部とを繋ぐ検出用チューブ34と、この検出用チューブ34に設けられたエアベントフィルタ35と、前記供給チューブ26の途中部に接続された充填用チューブ27と、供給チューブ26の途中部に設けられた温度・圧力センサ29とを備えている。供給チューブ26は、前記冷却用具1の導入側コネクタ6に着脱可能な導入側接続部26aを備えている。この供給チューブ26は、図6の矢印Y2で示すように、導入側接続部26aと貯留タンク32との間に配設されている。また、供給チューブ26は、貯留タンク32内に貯留される流体の水面よりも下となる位置で当該貯留タンク32に接続されている。回収チューブ25は、前記冷却用具1の導出側コネクタ11に着脱可能な導出側接続部25aを備えている。この回収チューブ25は、図6の矢印Y1に示すように、導出側接続部25aと貯留タンク32との間に配設されている。また、回収チューブ25は、貯留タンク32内に貯留される流体の水面よりも上となる位置で当該貯留タンク32に接続されている。バイパスチューブ28は、供給チューブ26の途中部と回収チューブ25の途中部とを連通させるように、両チューブ25、26に接続されている。貯留タンク32は、流体としての生理食塩水を500ml充填可能な合成樹脂性の容器である。この貯留タンク32に生理食塩水が充填されると、当該貯留タンク32内の生理食塩水の水位に対応して検出用チューブ34内にも生理食塩水が導入される。エアベントフィルタ35は、気体を通過させる一方、液体の流通を規制するものであり、貯留タンク32内を大気圧に開放するために設けられている。充填用チューブ27は、前記導入側接続部26aとバイパスチューブ28との間となる位置で供給チューブ26に接続されている。この充填用チューブ27の端部には、生理食塩水が収容された薬液バックのポート部に穿刺可能な穿刺部27aが設けられている。温度・圧力センサ29は、バイパスチューブ28と貯留タンク32との間に位置する供給チューブ26の途中部に設けられている。この温度・圧力センサ29は、供給チューブ26内の生理食塩水の圧力及び温度を検出するとともに、これを電気信号として前記装置本体21に出力可能とされている。
【0043】
フレーム部材24は、前記流路部材23を図6に示すような形態で保持するための合成樹脂からなる板状の部材である。このフレーム部材24には、図6に示すように、タンク用孔31、ポンプ用孔36、ポンプ用孔40、弁用孔37、弁用孔38及び弁用孔39が表裏に貫通して設けられている。タンク用孔31には前記貯留タンク32が嵌め込まれているため、当該貯留タンク32は、その表面及び裏面が露出した状態でフレーム部材24に保持されている。ポンプ用孔36は、前記回収チューブ25が上下に掛け渡される位置に設けられている。具体的に、前記バイパスチューブ28と導出側接続部25aとの間に位置する回収チューブ25の途中部がポンプ用孔36の表面側で掛け渡されている。ポンプ用孔40は、前記供給チューブ26が上下に掛け渡される位置に設けられている。具体的に、前記温度・圧力センサ29と貯留タンク32との間に位置する供給チューブ26の途中部がポンプ用孔40の表面側で掛け渡されている。弁用孔37は、前記充填用チューブ27が上下に掛け渡される位置に設けられている。弁用孔38は、前記供給チューブ26の途中部が上下に掛け渡される位置に設けられている。具体的に、前記バイパスチューブ28と導入側接続部26aとの間に位置する供給チューブ26の途中部が弁用孔38の表面側で掛け渡されている。弁用孔39は、前記バイパスチューブ28の途中部が上下に掛け渡される位置に設けられている。
【0044】
図4及び図5を参照して、装置本体21は、第一ポンプ41と、第二ポンプ42と、冷却部材43と、水位センサ44と、第一弁50と、第二弁51と、第三弁52と、操作部47と、制御装置(図8参照)48とを備えている。第一ポンプ41は、前記供給チューブ26内の流体を当該供給チューブ26に沿って流すためのものである。具体的に、第一ポンプ41は、前記流体封入部22を装置本体21に取り付けたときに、前記ポンプ用孔40内に配置される。第二ポンプ42は、前記回収チューブ25内の流体を当該回収チューブ26に沿って流すためのものである。具体的に、第二ポンプ42は、前記流体封入部22を装置本体21に取り付けたときに、前記ポンプ用孔36内に配置される。これら両ポンプ41、42の構成について、図7を参照して説明する。図7は、図4の第一ポンプ41及び第二ポンプ42の機能を説明するための概略構成図である。
【0045】
両ポンプ41、42は、図7に示すように、チューブ支持部材46と、このチューブ支持部材46との間でチューブを挟持して扱くための回転子45とを備えている。回転子45は、4本のアームを有する十字型の回転フレーム45aと、この回転フレーム45aの各アームの先端にそれぞれ設けられたローラ45bとを備えている。回転フレーム45aは、軸J1回りに回動可能とされている。ローラ45bは、前記回転フレーム45aのアームの先端部から一部を先端側に突出させた状態で、当該各アームに対し前記軸J1と平行する軸J2回りにそれぞれ回動可能とされている。チューブ支持部材46は、前記軸J1を中心とする円弧状の溝が形成されており、この溝の内側面に沿ってチューブが配索されている。そして、図外のモータによって軸J1回りに回転フレーム45aが回転駆動することにより、ローラ45bとチューブ支持部材46との間でチューブが挟持され、この挟持状態を維持しつつローラ45bが回転することにより、当該回転方向に向けたチューブ内の流体の流れが発生する。また、このようにチューブを挟持しつつローラ45bが回転するため、回転フレーム45aの回転が停止すると、チューブ内の流体の流れが規制されることになる。
【0046】
再び、図4及び図5を参照して、冷却部材43は、前記貯留タンク32に密着することにより当該貯留タンク32内の流体を冷却するためのものである。具体的に、冷却部材43は、印加された電圧に応じて冷却能力を発揮するものであり、例えば、ペルチェ素子を採用することができる。この冷却部材43は、前記流体封入部22を装置本体21に取り付けたときに前記貯留タンク32に密着する位置に設けられている。図4では省略しているが、装置本体21は、取り付けられた流体封入部22を挟むように閉じることができる蓋体を有しており、この蓋体にも冷却部材43が設けられている。水位センサ44は、前記貯留タンク32内の流体の水位を検出するためのものである。具体的に、水位センサ44は、前記流体封入部22を装置本体21に取り付けたときに、流体封入部22の検出用チューブ34を挟むように配置された赤外線センサからなる。第一弁50は、前記充填用チューブ27を遮断又は開放するためのものである。具体的に、第一弁50は、流体封入部22が装置本体21に取り付けられたときに、弁用孔37を通って充填用チューブ27を挟むように配置され、電圧が印加されることに応じて充填用チューブ27を狭窄し、電圧を印加していない状態で前記狭窄を停止するようになっている。第二弁51は、前記回収チューブ25を遮断又は開放するためのものである。第三弁52は、前記供給チューブ26を遮断又は開放するためのものである。これら第二弁51及び第三弁52は、前記第一弁50と同様の構成であるため、説明を省略する。
【0047】
前記操作部47は、作動状態等を表示するための表示部としての役割と、後述する制御装置48に対して各種設定項目を入力するための操作部として役割とを有する。具体的に、操作部47は、タッチパネルにより構成することができる。
【0048】
図8は、図4の装置本体21の制御装置48の電気的構成を示すブロック図である。
【0049】
制御装置48は、各前記操作部47、水位センサ44、温度・圧力センサ29及び圧力センサ7、10(図1参照)からの入力信号に基づいて、第一〜第三弁50〜52、第一及び第二ポンプ41、42及び冷却部材43の駆動を制御する。具体的に、制御装置48は、第一及び第二ポンプ41、42の駆動を制御するポンプ制御部48と、第一〜第三弁50〜52の駆動を制御する弁制御部54と、冷却部材43による冷却能力を調整する温度制御部55とを備えている。
【0050】
以下、前記制御装置48により実行される処理について、図9〜図13を参照して説明する。図9は、図8の制御装置48により実行される基本となる処理を示すフローチャートである。図10は、図8の冷却準備処理を示すフローチャートである。図11は、図9の冷却処理を示すフローチャートである。図12は、図11の圧力制御処理を示すフローチャートである。図13は、図9の冷却水回収処理を示すフローチャートである。
【0051】
まず、図9を参照して、原則的な流れとして、制御装置48は、冷却準備処理S、冷却処理T及び冷却水回収処理Uの順に処理を実行する。
【0052】
冷却準備処理Sが実行されるに先立ち、医療従事者は、図4に示すように、流体封入部22を装置本体21に取り付けるとともに、生理食塩水入りのバッグ(図示せず)のポートに流体封入部22の穿刺部27a(図5参照)を穿刺した上で、このバッグを装置本体の吊り下げ用フック21aに吊り下げる。
【0053】
図10を参照して、冷却準備処理Sでは、まず、医療従事者が操作部47に表示された操作準備ボタンを操作したか否かを判定し(ステップS1)、操作されていないと判定されると繰返しステップS1を実行する。
【0054】
一方、ステップS1において操作ボタンが操作されたと判定されると、ステップS2において貯留タンク32への生理食塩水の充填が開始される。つまり、図15に示すように、第一弁50により充填用チューブ27を開放し、第二弁51及び第三弁52により供給チューブ26及び回収チューブ25を遮断するとともに、生理食塩水が貯留タンク32へ向けて流れる方向に第一ポンプ41を駆動する。これにより、前記バッグ内の生理食塩水が充填用チューブ27及び供給チューブ26を通って貯留タンク32に導かれる。
【0055】
次いで、前記水位センサ44により貯留タンク32内の生理食塩水の水位が予め設定された満水時の水位か否かが判定され(ステップS3)、満水時の水位ではないと判定されると前記ステップS2を繰り返す。
【0056】
一方、ステップS3において貯留タンク32内の生理食塩水の水位が満水時の水位であると判定されると、ステップS4において貯留タンク32内の生理食塩水の冷却が開示される。つまり、図16に示すように、前記第一弁50及び第二弁51により充填用チューブ27及び供給チューブ26を遮断する一方、第三弁52によりバイパスチューブ28を開放し、この状態で、生理食塩水が貯留タンク32から吸引される方向に第一ポンプ41を駆動するとともに冷却部材43(図8参照)に対して電圧を印加する。
【0057】
次いで、温度・圧力センサ29により検出された生理食塩水の温度が目標温度であるか否かを判定し(ステップS5)、ここで目標温度ではないと判定されると、冷却部材43の温度制御を行う(ステップS6)。具体的に、ステップS6では、目標温度よりも生理食塩水の温度が高い場合には冷却部材43に印加する電圧を高くして当該冷却部材43の冷却能力を上げる一方、目標温度よりも低い場合には冷却部材43に印加する電圧を低くして当該冷却部材43の冷却能力を下げる。
【0058】
一方、ステップS6において目標温度であると判定されると、図9のメインルーチンに戻り、図11に示す冷却処理Tが実行されることになる。
【0059】
この冷却処理Tの実行に先立ち、医療従事者は、図1の冷却用具1の導入側コネクタ6を図5の流体封入部22の導入側接続部26aに接続するとともに、図1の冷却用具1の導出側コネクタ11を図5の流体封入部22の導出側接続部25aに接続する。なお、これらの接続は、冷却用具1と流体封入部22との間に所定の延長チューブを介して行ってもよい。
【0060】
図11を参照して、冷却処理Tでは、まず、医療従事者が操作部47に表示された冷却開始ボタンを操作したか否かを判定し(ステップT1)、操作されていないと判定されると繰返しステップT1を実行する。
【0061】
一方、ステップT1において冷却開始ボタンが操作されたと判定されると、ステップT2において冷却用具1への生理食塩水の充填が開始される。つまり、図17に示すように、第一弁50及び第三弁52により充填用チューブ27及びバイパスチューブ28を遮断し、第二弁51により供給チューブ26を開放し、生理食塩水を貯留タンク32から吸引する方向に第一ポンプ41を駆動するとともに、貯留タンク32側への流れが生じるように第二ポンプ42を駆動する。これにより、貯留タンク32内の生理食塩水は、供給チューブ26を介して冷却用具1に供給されるとともに、この冷却用具1内に入り切らない生理食塩水は、回収チューブ25を介して貯留タンク32に回収される。
【0062】
次いで、冷却用具1の圧力センサ10により検出された圧力に基いて、冷却用具1内に生理食塩水が充填されたか否かが判定される(ステップT3)。この判定について図14を参照して説明する。図14は、冷却準備処理S及び冷却処理Tにおける各ポンプの回転数と圧力センサ10により検出される圧力との推移を示すグラフである。図14中、実線が第一ポンプ41の回転数であり、破線が第二ポンプ42の回転数であり、一点鎖線が圧力センサ10により検出された圧力である。図14の時間t1に示すように、冷却用具1内の空気が生理食塩水に置換されると、圧力センサ10の検出圧が1kPa程度低下することが実験上確認されている。そこで、ステップT2では、圧力センサ10の検出圧の低下の有無によって冷却用具1内に生理食塩水が充填された否かを判定する。このステップT2で充填されていないと判定されると、前記ステップT2を繰返し実行する。
【0063】
一方、ステップT2で冷却用具1内に生理食塩水が充填されたと判定されると、ステップT4において前記生理食塩水入りのバッグから貯留タンク32へ生理食塩水の補充が行われる。つまり、上述した図15に示すように、第一弁50を開の状態、第二弁51及び第三弁52を閉の状態とし、貯留タンク32側への流れが生じる方向に第一ポンプ41を駆動する。これにより、前記バッグから貯留タンク32へ生理食塩水が導かれる。
【0064】
次いで、貯留タンク32内の生理食塩水の水位が満水時の水位であるか否かを判定し(ステップT5)、ここで、満水時の水位ではないと判定されると前記ステップT4を繰返し実行する。
【0065】
一方、ステップT5において満水時の水位であると判定されると、図17に示すように、貯留タンク32と冷却用具1との間で生理食塩水の循環を開始する(ステップT6)。具体的に、ステップT6では、第一弁50及び第三弁52により充填用チューブ27及びバイパスチューブ28を遮断し、第二弁51により供給チューブ26を開放した状態で、貯留タンク32から生理食塩水を吸引する方向に第一ポンプ41を駆動するとともに、貯留タンク32に生理食塩水を回収する方向に第二ポンプ42を駆動する。
【0066】
次いで、圧力センサ10により検出された冷却用具1内の生理食塩水の圧力が予め設定された目標圧力(例えば、5kPa)であるか否かを判定し(ステップT7)、目標圧力ではないと判定されると、圧力制御処理T10が実行される。なお、目標圧力とは、特定の数値であってもよいが、所定の範囲として設定されていてもよい。図12は、図11の圧力制御処理T10の内容を示すフローチャートである。
【0067】
図12を参照して、圧力制御処理T10が開始されると、まず、圧力センサ10による検出圧力が予め設定された目標圧力よりも大きいか否かを判定する(ステップT11)。ここで、圧力センサ10による検出圧が目標圧力よりも大きい場合には第二ポンプ42の回転数を上げる(ステップT12)一方、圧力センサ10による検出圧が目標圧力よりも小さい場合には第二ポンプ42の回転数を下げる(ステップT13)。つまり、本実施形態の冷却処理では、図14に示すように、第一ポンプ41の回転数を略一定に維持したまま、圧力センサ10による検出圧が目標圧力を超えることに応じて第二ポンプ42の回転数を上げ、圧力センサ10による検出圧が目標圧力を下回ることに応じて第二ポンプ42の回転数を下げるようになっている。なお、本実施形態では、第一ポンプ41の回転数を略一定としているが、これに限定されることはなく、第二ポンプ42に加えて第一ポンプ41の回転する制御するようにしてもよい。ただし、第一ポンプ41の回転数により冷却用具1に対する生理食塩水の流量が定まるため、流量の均一化を図ることを要する場合には第一ポンプ41の回転数を固定することが好ましい。
【0068】
再び図11を参照して、前記ステップT7において圧力センサ10による検出圧が目標圧力であると判定されると、温度・圧力センサ29により検出された生理食塩水の温度が予め設定された目標温度であるか否かが判定される(ステップT8)。
【0069】
ここで、生理食塩水の温度が目標温度ではないと判定されると、上述したステップS6と同様に、冷却部材43の温度制御を行い、前記ステップT6を繰返し実行する。一方、ステップT8において生理食塩水の温度が目標温度であると判定されると、図9に示す処理に戻り、冷却水回収処理Uが実行される。図13は、図9の冷却水回収処理を示すフローチャートである。
【0070】
図13を参照して、冷却水回収処理Uでは、まず、医療従事者が操作部47に表示された冷却水回収ボタンを操作したか否かを判定し(ステップU1)、操作されていないと判定されると繰返しステップU1を実行する。
【0071】
一方、ステップU1において操作ボタンが操作されたと判定されると、ステップU2において貯留タンク32内の生理食塩水を回収する。具体的には、図18に示すように、第二弁51及び第三弁52により供給チューブ26及びバイパスチューブ28を遮断し、第一弁50により充填用チューブ27を開放し、貯留タンク32から生理食塩水を吸引する方向に第一ポンプ41を駆動する。これにより、貯留タンク32内の生理食塩水は、供給チューブ26及び充填用チューブ27を通じてこの充填用チューブ27に接続されたバッグ内に回収される。
【0072】
次いで、貯留タンク32内の生理食塩水が全て回収されたか否かが判定され(ステップU3)、回収されていないと判定されると前記ステップU2を繰返し実行する。なお、貯留タンク32内の生理食塩水が全て回収されたか否かは、温度・圧力センサ29による検出圧力の変動に基き判定することができる。
【0073】
一方、前記ステップU3において貯留タンク32内の全ての生理食塩水が回収されたと判定されると、ステップU4において冷却用具1内に残された生理食塩水を貯留タンク32に回収する。具体的に、図19に示すように、第一弁50及び第三弁52により充填用チューブ27及びバイパスチューブ28を遮断し、第二弁51により供給チューブ26を開放した状態で、貯留タンク32へ向けた流れが生じる方向に第一ポンプ41を駆動するとともに、貯留タンク32から吸引する方向に第二ポンプ42を駆動する。これにより、冷却用具1内の生理食塩水は、供給チューブ26を介して貯留タンク32に回収されるとともに、貯留タンク32内の空気が回収チューブ25を介して冷却用具1内に導かれる。
【0074】
そして、ステップU5により予め設定された規定時間が経過するまで前記ステップU3を実行した後、上述したステップU2及びU3と同様に、貯留タンク32内の生理食塩水が全て回収されるまで、貯留タンク32内の生理食塩水をバッグに回収し(ステップU5及びU6)、当該処理を終了する。
【0075】
以上説明したように、前記実施形態によれば、冷却用具1のカフ4内の圧力が目標圧力となるように第二ポンプ42の回転数が調整されるため、カフ4内の生理食塩水の圧力を目標圧力付近で保持しつつ当該生理食塩水をカフ4と貯留タンク32との間で循環させることができる。
【0076】
さらに、前記実施形態では、生理食塩水の循環時においてカフ4から生理食塩水を吸引する方向に駆動する第二ポンプ42の駆動速度を調整することとしているため、カフ4内の生理食塩水の圧力が必要以上に高くなった場合に、カフ4やこれが密着する食道の壁部等に与える負担を小さくしつつ上述した圧力保持を図ることができる。具体的に、例えば、カフ4内の生理食塩水の圧力を低下させるために第一ポンプ41の回転数を低くすることのみを行った場合、第二ポンプ42の駆動速度が維持されることによりカフ4から導出される生理食塩水の流量も維持されることになるため、カフ4内の生理食塩水の圧力は徐々に低下するに止まるのに対し、前記実施形態では、少なくとも第二ポンプ42の駆動速度を高くすることができるため、カフ4内の流体を積極的に導出させることにより、カフ4内の生理食塩水の圧力を迅速に低下させることができる。
【0077】
前記実施形態のように、圧力センサ10が冷却用具1側に設けられている構成とすれば、冷却装置20側に圧力センサを設ける場合よりも圧力センサとカフ4との距離を近づけることができるため、カフ4内の生理食塩水の圧力をより正確に検出することができ、この検出結果に基いて少なくとも第二ポンプ42の回転数を調整することにより、カフ4内の生理食塩水の圧力を高い精度で目標圧力に近づけることができる。ただし、冷却用具1に近い位置(例えば、図5の導出側接続部25a付近)に圧力センサを設けることによっても、カフ4内の生理食塩水の圧力をある程度正確に検出することができるため、圧力センサを冷却装置20側に設けた構成とすることも可能である。
【0078】
なお、前記実施形態では、圧力センサ10の検出圧に基いて第二ポンプ42の回転数を制御することとしているが、圧力センサ7の検出圧に基いて第二ポンプ42の回転数を制御することもできる。
【0079】
前記実施形態のように、第一ポンプ41の回転数を一定としつつ、第二ポンプ42の回転数を調整するようにした構成とすれば、第一ポンプ41と第二ポンプ42との回転数の差を容易に調整することが可能となる。また、カフ4に対する生理食塩水の流量を規定する第一ポンプ41の回転数が一定とされているため、カフ4に対する生理食塩水の流量を一定にしつつ、カフ4内の生理食塩水の圧力も略一定に保持することができる。
【0080】
以下、図20〜図23を参照して、本発明の別の実施形態について説明する。図20は、本発明の別の実施形態に係る制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。図21は、図20のチューブ確認処理で実行される処理を示すフローチャートである。図22及び図23は、本発明の実施形態に係る装置本体の動作を示す正面図である。なお、上述した構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0081】
図20〜図23を参照して、本実施形態では、前記実施形態で実行される処理に加えて第一ポンプ41及び第二ポンプ42に対して流路部材23の供給チューブ26及び回収チューブ25が確実に装着されているか否かを確認するチューブ確認処理Vを行うようになっている。
【0082】
具体的に、本実施形態の装置本体21は、図2に示すように、前記第一〜第三弁50〜52に加えて第四弁53を備えている。第四弁53は、前記回収チューブ25のうち、バイパスチューブ28の分岐点よりも貯留タンク32側の部分で当該回収チューブ25を遮断又は開放するためのものである。この第四弁53に対応して前記フレーム部材24には、第四弁53を通すための弁用孔(図示せず)が設けられている。そして、前記制御装置48は、第四弁53の駆動を制御するようになっている。
【0083】
図20を参照して、前記冷却準備処理Sにおいて操作ボタンが操作されたと判定されると(ステップS1でYES)、チューブ確認処理Vが実行される。なお、前記ステップS3において満水時の水位ではないと判定されたときは(ステップS3でNO)、チューブ確認処理Vではなく前記ステップS2にリターンする。
【0084】
図21を参照して、チューブ確認処理Vが実行されると、まず、図22に示すように、第一〜第四弁50〜53を閉鎖するとともに第一ポンプ41をタンク吸引側に駆動する(ステップV1)。つまり、このステップV1では、供給チューブ26内の空気の行き場を無くした状態で第一ポンプ41を駆動することにより、貯留タンク32内の空気を供給チューブ26に送り込む。
【0085】
次に、前記第一ポンプ41の駆動により圧力センサ29により検出される圧力が所定値まで上昇したか否かを判定する(ステップV2)。つまり、このステップV2では、第一ポンプ41を駆動したにもかかわらず供給チューブ26内の圧力が上がらない状態、すなわち、供給チューブ26が第一ポンプ41に正確に装着されていないことに起因して供給チューブ26内に空気が導入されていない状態が生じているか否かを判定する。
【0086】
ステップV2において圧力の上昇が検出されない場合(ステップV2でNO)には、第一ポンプ41に対して供給チューブ26が正確に装着されていないものとして、エラー処理V5を行った上で当該エラー処理V5の応答に従った処理に移行する。ここで、エラー処理V5としては、第一〜第四弁50〜53を開放するとともに第一ポンプ41の駆動を停止し、第一ポンプ41に対して供給チューブ26が正確に装着されていないことを操作部47に表示したり、その旨の報知を行った上で、使用者が確認のための入力操作を行うのを待機することが挙げられる。
【0087】
一方、ステップV2において圧力の上昇が検出されると(ステップV2でYES)、図23に示すように、第一弁50、第二弁51及び第四弁53を閉鎖し、第三弁を開放するとともに、第一ポンプ41を停止した上で、第二ポンプ42を回収側に駆動する(ステップV3)。つまり、ステップV3では、回収チューブ26及びバイパスチューブ28を介して供給チューブ26に導入された空気の行き場を無くした状態で第二ポンプ42を駆動することにより、回収チューブ25を介して導入される空気を供給チューブ26に送り込む。
【0088】
次に、第二ポンプ42の駆動により圧力センサ29により検出される圧力が所定値まで上昇したか否かを判定する(ステップV4)。つまり、このステップV4では、第二ポンプ42を駆動したにもかかわらず供給チューブ26内の圧力が上がらない状態、すなわち、回収チューブ25が第二ポンプ42に正確に装着されていないことに起因して、供給チューブ26内に空気が導入されない状態が生じているか否かを判定する。
【0089】
ステップV4において圧力の上昇が検出されない場合(ステップV4でNO)には、第二ポンプ42に対して回収チューブ25が正確に装着されていないものとして、前記エラー処理V5を行った上で当該エラー処理V5の応答に従った処理に移行する。
【0090】
一方、ステップV4において圧力の上昇が検出されると(ステップV4でYES)、図20に示すように前記ステップS2にリターンする。
【0091】
本実施形態によれば、供給チューブ26が第一ポンプ41に対して確実に装着されているか否か、及び、回収チューブ25が第二ポンプ42に対して確実に装着されているか否かを確認することができるので、各チューブ25、26の装着が不完全なままで処理が進行するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0092】
E1 口腔から胃に至るまでの領域
1 冷却用具
2 導入部
3 導出部
4 カフ
10 圧力センサ(検出部)
20 冷却装置
25 回収チューブ(回収流路)
25a 導出側接続部
26 供給チューブ(供給流路)
26a 導入側接続部
27 充填用チューブ(充填流路)
28 バイパスチューブ(バイパス流路)
32 貯留タンク(貯留部)
41 第一ポンプ
42 第二ポンプ
43 冷却部材
44 水位センサ
48 制御装置(制御部)
51 第二弁(弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流体が導入されることにより膨張して生体の口腔から胃に至るまでの領域の少なくとも一部に密着可能な収容部と、この収容部内に体外から流体を導入可能な導入部と、前記収容部内の流体を体外に導出可能な導出部とを有する脳冷却用具の前記収容部との間で流体を給排するための脳冷却装置であって、
前記導入部と接続可能な導入側接続部と、
前記導出部と接続可能な導出側接続部と、
前記流体を貯留する貯留部と、
前記貯留部と前記導入側接続部とを連通する供給流路と、
前記貯留部と前記導出側接続部とを連通する回収流路と、
前記供給流路に設けられ、当該供給流路に沿って流体を流すための第一ポンプと、
前記回収流路に設けられ、当該回収流路に沿って流体を流すための第二ポンプと、
前記第一ポンプ及び第二ポンプの駆動を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記貯留部から収容部に向けて流体が流れる方向に前記第一ポンプを駆動させるとともに前記収容部から貯留部に向けて流体が流れる方向に前記第二ポンプを駆動させることにより前記貯留部と前記収容部との間で流体を循環させた状態で、前記収容部内の圧力が予め設定された目標圧力となるように、前記両ポンプのうち少なくとも前記第二ポンプの駆動速度を調整することを特徴とする脳冷却装置。
【請求項2】
前記脳冷却用具内の流体の圧力を検出可能な検出部が当該脳冷却用具に設けられており、前記制御部は、前記検出部により検出された収容部内の圧力に基いて、当該収容部内の圧力が前記目標圧力となるように前記両ポンプのうち少なくとも第二ポンプの駆動速度を調整することを特徴とする請求項1に記載の脳冷却装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記貯留部と前記収容部との間で流体が循環している状態において、前記第一ポンプの駆動速度を一定にし、かつ、前記収容部内の圧力が前記目標圧力となるように前記第二ポンプの駆動速度を調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の脳冷却装置。
【請求項4】
前記貯留部内の流体を冷却するための冷却部をさらに備え、
前記制御部は、前記貯留部内の流体の温度が予め設定された目標温度となるように、前記冷却部の冷却能力を調整することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の脳冷却装置。
【請求項5】
前記第一ポンプを挟んで前記貯留部と反対側の位置となる前記供給流路の途中部と、前記第二ポンプと前記貯留部との間の位置となる前記回収流路の途中部とを連通させるバイパス流路と、
このバイパス流路よりも前記導入側接続部側となる位置で前記供給流路を遮断可能な弁とをさらに備え、
前記第二ポンプは、その停止状態で前記回収流路を遮断するように構成され、
前記制御部は、前記流体の循環を開始する前の段階において、前記弁により供給流路を遮断し、前記第二ポンプを停止し、前記第一ポンプを駆動させることにより、貯留部内の流体を回収流路、バイパス流路及び供給流路を通して貯留部内に戻すことを特徴とする請求項4に記載の脳冷却装置。
【請求項6】
前記流体が液体であり、
前記供給流路は、前記貯留部内の液体の水位よりも下となる位置で当該貯留部に接続されているとともに、前記回収流路は、前記貯留部内の液体の水位よりも上となる位置で当該貯留部に接続され、
前記制御部は、前記液体の循環が終了した後の段階において、前記回収流路内の液体が前記収容部側に流れる方向に前記第二ポンプを駆動させるとともに、前記供給流路内の液体が前記貯留部側に流れる方向に前記第一ポンプを駆動させることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の脳冷却装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の脳冷却装置に接続して使用される脳冷却用具であって、
生体に経口又は経鼻挿入された状態で内部に流体が導入されることにより膨張して生体の口腔から胃に至るまでの少なくとも一部に密着可能な収容部と、
この収容部内に体外から流体を導入可能で、かつ、前記脳冷却装置の導入側接続部に接続可能な導入部と、
前記収容部内の流体を体外に導出可能で、かつ、前記脳冷却装置の導出側接続部に接続可能な導出部と、
前記導入部又は導出部内の流体の圧力を検出可能で、かつ、前記脳冷却装置の制御部に検出結果を出力可能な検出部とを備えていることを特徴とする脳冷却用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−167461(P2011−167461A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36374(P2010−36374)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(000205007)大研医器株式会社 (28)
【Fターム(参考)】